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夢の酒(ゆめのさけ)古典落語の演目の一つ。別題は『夢の悋気』。原話は、安永3年に出版された笑話本・「仕方咄」の一遍である『夢』。

主な演者には、8代目桂文楽などがいる。

あらすじ編集

冬の寒い日…。

店の奥にあるコタツで、若旦那の徳三郎がウトウトとを見ている。
そこに女房のお花が通りかかり、「風邪をひくから」と若旦那を揺り起こした。

「何か、『ご馳走様』とか言ってらっしゃいましたわね。何の夢を見ていたんです?」
「え? その…つまらない夢さ」
「つまらない。ますます気になりますわ、教えてくださいな」
「あ、アァ…」

『絶対に怒らないね?』と念を押し、若旦那が話し始める。

若旦那の夢編集

向島のほうへ用足しに行ったものの、突然雨が降ってきて、身動きが取れなくなってしまった。
慌てて近くの軒下に逃げ込むと、そこの女中さんに声をかけられる。

「雨がやむまで、雨宿りをしていってくださいな」

女中は徳三郎のことを知っているらしい。彼女が奥に声をかけると、やって来たのは絶世の美女。

「御新造さん、かねてより噂をしていた、大黒屋の若旦那がお見えになりましたよ」

女中の言葉に御新造さんは喜び。徳三郎を奥の座敷に案内し、女中にお酒とご馳走を運ばせる。
もとより徳三郎は酒に弱く、少しも飲むことが出来ないのだが、勧め上手の御新造さんに釣られて一口、二口…。

案の定、悪酔いしてしまい、布団を敷いてもらって休む事に。

それからしばらく経って…。
やっと徳三郎が落ち着いたと思ったら、今度は御新造さんの具合が悪くなった。

「それならば、私がどきましょうか」
「いいえ若旦那、どかなくても結構ですわ。私が、若旦那のお隣に…」

緋縮緬の長襦袢一枚になって、二・三本ビンの後れ毛が下がっているのを前歯でキッとかんで若旦那の隣にソロソロと…。

夢への嫉妬編集

「と、言う所で、目が覚めたんだが…」
「キーッ!! 悔しい!!」

物凄い騒ぎになってしまい、びっくり仰天した大旦那が仲裁しに飛び込んでくる。

「なに、倅が向島に行って、女の人と布団で寝た!?」

『夢』の話だと知らない大旦那は、お花の話に大激怒。
聞いていた若旦那は馬鹿馬鹿しくなり、思わずクスクスと笑ってしまった。

「不行跡な事をしておいて、笑い出すとは何事だ!!」
「いや、今のは夢の話なんですよ」
「夢!? お花、本当に夢の話なのか?」

大旦那の質問に、お花はまじめな顔で「はい」。

「徳三郎め、ずいぶん手間のかかる夢を見おって…」

馬鹿馬鹿しくなった大旦那は徳三郎を店の方へ行かせ、お花に「許してやりなさい」と説得する。

「だけど私は嬉しいよ。たとえ夢でも、旦那のことを心配して説教をするのだから」
「お父様にお願いがあります」
「何だね?」
「さっきの女の所へ行って、『二度と若旦那に手を出すな!』とお小言をおっしゃっていただきたいんです」
「え?」

お花の話によれば、【淡島様の上の句を詠んで、「誰それの見た夢の中へ誘いくだされば、きっと下の句も読みます」と言えば、そこに行ける】という言い伝えがあるという。
『老いては子に従え』という訳ではないが、承知した大旦那は枕を持ってきて横になる。若旦那と違い、働いて昼寝をしたことがなかった大旦那だが、なんとか夢の中へと入っていった。

大旦那の夢編集

夢の中に行った大旦那は、先方でお酒を進められる。

はじめは拒んでいたが大旦那だが、この人は息子と違っていたって酒好き。お燗酒を頼んだが、あいにくお湯が切れていた。
「お湯が沸くまで冷やで」と進められたが、やはりお燗の方がいい…と言ったところで、お花に揺り起こされた。

「おかしな事もあるものだ…」
「で、行けましたか?」
「行けた…が、惜しい事をしたものだ」
「惜しい? もしかして、ご意見するときに起こしてしまいましたか?」

「いいや…冷でもよかった」

淡島様の上の句編集

われたのむ 人の悩みの なごめずば 世にあはしまの 神といはれじ

と、言うのが、『淡島様の上の句』である。

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夢金」や「浮世床」など、夢と現実が入り混じる話が落語には多い。

しかし、この噺のように叙情的な落語は珍しく、また、二人の人間が『同じ夢の世界』に行く…という荒唐無稽な点が特徴的である。

元々は『夢の瀬川』と言う話の一部だったものが、独立して一つの噺となった。