柿山伏(かきやまぶし) は日本の古典芸能である狂言のうちのひとつ。『本狂言』のうちの『鬼山伏狂言』に分類される。

登場人物編集

あらすじ編集

山伏が修行を終えて故郷に帰る場面より始まる。山伏は途中でのどが乾いてしまい、ふと見あげると見事な柿があることに気づく。

木の下から落とそうと試みるも、中々巧くいかなかったので、木に登って柿を食っていた。だが、誤って口にしてしまった渋柿を投げ捨てたところ、見廻りに来ていた柿主に渋柿が当たってしまい、無断で柿を食っていたことに気づかれてしまう。

柿の木に登っているのは猿だ、烏だ、鳶だと言われる度に、それらの動物の鳴き真似でその場を凌ぐものの、しまいに鳶は飛ぶものだ、と言われてしまう。結局飛んでは見るものの、大怪我をしてしまい悪事が露呈してしまう。

怪我をしたのはお前に原因があるのだから、治療をしろと山伏は柿の木の持ち主に迫るが、持ち主は一切とり合うことなく、謝罪を要求し立ち去ろうとする。そんな持ち主の行動を見て山伏は呪文をかけ、持ち主の行動を封じるが、さらに怒りを買うことになり、治療はしてもらえない。逃げる持ち主を追って、山伏は何処までもついていく。[1]

自分の罪を覆い隠そうとする姿を、面白おかしく描いており、[2]山伏という権威のあるものに対する風刺が込められた作品である。[3]

原文編集

狂言記 第三巻・五より。演者や公演によって若干内容が変わる。

山伏「大峯葛城踏み分けて、我が本山に帰らん…罷出たるは、大峯葛城参詣致し、唯今下向道で御ざる。よきついでなれば、檀那回りを致そうと存ずる。まづ、そろ参らふ。やれさて、何とやら物欲しう存ずるが、まだ先の在所は程遠さうに御ざる。何と致そうぞ。いゑ、こゝに見事な柿が御ざるほどに、一つ取つて食びやうと存ずる。」
柿主「罷出たるは此辺りの者で御ざる。今日も行て、又柿を見舞ふと存ずる。何と致してやら、鳥が突いて迷惑致す。いゑこゝな、鳥が食うかして、へたが落ちたが、わゝ、さねも落つるが、上に鳥がおるか、いゑ、山伏が上がつておるが、何と致そうぞ。いや、きやつをなぶりませうぞ。はあ、上に猿めが上がつておる。」
山伏「はあ、柿主めが見つけおつた。何と致そうぞ。」
柿主「はあ、あれは猿ぢやが、身ぜせりをせぬ。異な事ぢや。」
山伏「わ、それがしを猿ぢやと言ふが。はあ、こりや、身ぜせりしませうず。」
柿主「ふん、猿にまがう所はない。猿なら、鳴かうぞゑ。」
山伏「はあ、こりや、鳴かざなるまひ。きや。」
柿主「はあ、猿にまがう所はない。猿かと思へば、犬ぢやげなわいやい。」
山伏「はあ、又こりや、犬ぢやと言ふ。」
柿主「犬なら、鳴かうぞよ。」
山伏「はあ、又こりや、鳴かざなるまひ。びよ。」
柿主「はあ、犬ぢや。犬かと思へば、鳶ぢやげなわいやい。」
山伏「はあ、又こりや、鳶ぢやと言ふ。」
柿主「鳶なら、飛ぼぞよ。」
山伏「飛ばざなるまひ。」
柿主「鳶なら、飛ぼぞよ…ありや飛んだは。」
山伏「あ痛、痛、やい、そこな者、それがしが木のそらにいれば、尊い山伏を『いや犬で候の、猿で候の』と言ふて、なぜに腰をぬかしたぞ。急いでくすろうでかやせ。」
柿主「やい、そこな者、柿を食て恥かしくは、『御免なれ』と言ふて、おつとせで往ね。」
山伏「やい、そこな者、山伏の手柄には、目に物を見せうぞよ。」
柿主「柿盗みながら、小言を言わずとも、急いで往ね。」
山伏「定言ぢやういふか。物に狂わせうが。」
柿主「山伏おけ、なるまいぞ」
山伏「定言ふか。それ山伏といつぱ、役の行者の跡を継ぎ、難行苦行、虚仮の行をする。今此行力かなわぬかとて、一祈りぞ祈つたり。橋の下の菖蒲は誰が植へた菖蒲ぞ。」
柿主「やい山伏、おかしい事をせずとも、往ね。」
山伏「やい、定言ふか。も一祈りぞ祈つたり。ぼうろぼん、そりや見たか。山伏の手柄には、物に狂ふは手柄ではないか。」


脚注編集

  1. ^ 『柿山伏』解説茂山千五郎家 曲目解説『柿山伏』
  2. ^ 光村図書出版 6年生・国語 『4 伝統文化を楽しもう ‐ 柿山伏について』 山本東次郎 より
  3. ^ 大蔵流狂言 山本三兄弟「柿山伏」「二人袴」「首引」公演のお知らせ

参考文献編集