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有害な生物による危険性一般を'''バイオハザード'''（英：biohazard、biological hazard、'''生物学的危害'''<ref>日本薬局方解説書編集委員会、2008年2月『第十五改正日本薬局方第一追補解説書』廣川書店、ISBN 978-4-567-01514-1</ref>）という<ref>「'''生物災害'''」と訳して危険性による災害そのものをいうこともある（[[#bmsa2008|バイオメディカルサイエンス研究会2008年]]1ページ目。小松俊彦、2001年「[http://www.jstage.jst.go.jp/article/pda/3/1/3_8/_article/-char/ja 生物学的製剤等の製造所におけるバイオセーフティの取扱いに関する指針]」『日本PDA学術誌 GMPとバリデーション』（日本PDA製薬学会）3巻1号8ページ、{{issn|1344-4891}}、2008年11月20日閲覧。）。</ref>。古典的には[[病院]]や[[研究所]]の試料や[[廃棄物]]など、[[病原体]]を含有する[[危険物]]を指してきたが（病毒をうつしやすい物質<ref>航空危険物規則において規定されている表現に合わせた呼称。厚生労働省、発行日不明『[http://search.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000028120 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律施行規則の規定に基づく運搬の基準・規格等・一部適用除外に関する告示に関する意見募集の結果について]』2011年1月4日閲覧。</ref>）、20世紀末からは[[雑草]]や[[害虫]]を強化しかねない[[農薬耐性]]遺伝子や[[農薬]]内生遺伝子を有する[[遺伝子組み換え作物]]等もこの概念に含まれてきている（[[遺伝子組換え生物]]等）<ref>佐藤隆広、2002年9月14日「[http://wwwsoc.nii.ac.jp/jsie/WTO%20by%20Sato.pdf WTOの貿易関連知的所有権（TRIPS）協定と南北問題 インドを事例として]」関西支部定例研究会（日本国際経済学会）11ページ、2009年11月3日閲覧。また、[[#who2008|世界保健機関（2008年]]5ページ目）は「病毒をうつしやすい物質」の定義と分類において「遺伝子組換え微生物および遺伝子組換え生物」を挙げている。</ref>。
[[ファイル:Syringe Needle.jpg | thumb | 医療従事者の労災「針刺し事故」による肝炎等感染の原因となる使用済み注射針は、バイオハザードの典型]]
== 病毒をうつしやすい物質 ==
[[肝炎ウイルス]]や[[結核菌]]、[[エキノコックス]]、[[プリオン]]タンパク質といった病原体の[[培養]]物やその廃棄物、[[注射針]]等の[[医療廃棄物]]、[[生物兵器]]といった、病原体等を含有する物質を総称して'''病毒をうつしやすい物質'''（英：infectious substances）という。病原体とは[[感染症]]の原因物質のことであり、[[ウイルス]]や[[細菌]]、[[リケッチア]]、[[寄生虫]]、[[真菌]]、[[プリオン]]タンパク質等のうち、人畜に感染性を有し、その伝播により市民の生命や健康、畜産業に影響を与えるおそれがあるものを指す<ref>[[#un2007|国際連合2007年第1巻113ページ]]、感染症法（[[#diet2008|国会2008年]]第六条8項）</ref>。
[[ファイル:M-tuberculosis-on-Lowenstein-Jensen.jpg|thumb|left|病院の[[臨床検査]]室における典型的なバイオハザード物質、結核菌の培養物]]
バイオハザードの歴史は、1876年、[[ロベルト・コッホ]]が[[炭疽菌]]の純粋培養に成功したことに始まる<ref name="yamauchi2002">山内一也、2002年「[http://www.nih.go.jp/niid/meetings/jbsa/meeting/point.html バイオセーフティの歴史的背景]」『[http://www.nih.go.jp/niid/meetings/jbsa/meeting/index.html 日本バイオセーフティシンポジウム]』（[http://www.nih.go.jp/niid/meetings/jbsa/gakkaiannai03.html 日本バイオセーフティ学会]）第1回、2008年11月3日閲覧。</ref><ref>[[ロベルト・コッホ|Koch, Robert]]、1876年「Die Aetiologie der Milzbrand- Krankheit, begruendent auf die Entwicklungsgeschichte des ''Bacillus anthracis''」『Beitra"ge zur Biologie der Pflanzen』2巻2号277～310ページ、{{issn|00058041}}。英訳：Brock, Thomas、1999年「The etiology of anthrax, based on the life history of ''Bacillas anthacis''」『Milestones in Microbiology 1556 to 1940』（ASM）89-95ページ、ISBN 9781555811426</ref>。これ以降、注射針（[[針刺し事故]]）や[[ピペット]]（菌液を吸い上げる際の誤飲）を介して[[チフス]]菌、[[ブルセラ菌]]、[[破傷風菌]]、[[コレラ菌]]、[[ジフテリア菌]]と、実験室感染が毎年のように相次ぐこととなる<ref>Kruse, Richard、1991年「[http://cmr.asm.org/cgi/reprint/4/2/207.pdf Biological Safety Cabinetry]」『[http://cmr.asm.org/ Clinical Microbiology Reviews]』（[http://estore.asm.org/browse/index.asp?PLID=2 ASM]）4巻2号208ページ、{{issn|0893-8512}}、2010年12月30日閲覧。</ref>。
20世紀半ばに至ると、米ソ[[冷戦]]により生物兵器研究が活発化し生物兵器研究者をバイオハザードから守るべく、軍事研究においてバイオセーフティが発達することとなった<ref name="yamauchi2002" />。民間においては1967年8月、西ドイツのマールブルグにおいてウガンダのアフリカミドリザルを解剖中、[[マールブルグ病]]に感染、7名の死者が出る惨事があり、これを契機に、民間にもバイオセーフティの必要性が認知されることとなった<ref>倉田毅、2002年「[http://idsc.nih.go.jp/idwr/kansen/k02_g2/k02_36/k02_36.html マールブルグ病]」『[http://idsc.nih.go.jp/idwr/kansen/index.html 感染症の話]』（国立感染症研究所）第36週、2008年11月3日閲覧。</ref>。しかしこの後もバイオハザードによる感染事故は相次いだ。1978年、英国[[バーミンガム大学]]において、[[天然痘]]ウイルスが[[エアロゾル]]となって空調に漏洩して棟内感染、2名の死傷者を出した<ref>英国政府印刷局、1980年7月22日『[http://www.official-documents.gov.uk/document/hc7980/hc06/0668/0668.pdf Report of the investigation into the cause of the 1978 Birmingham smallpox occurrence]』2010年12月30日閲覧。</ref>。そして1979年には、炭疽菌が旧ソ連[[スヴェルドロフスク]]の生物兵器研究所から市街に漏洩し、96名が感染<ref>山内一也、1999「[http://wwwsoc.nii.ac.jp/jsvs/05_byouki/prion/pf79.html ソ連の生物兵器開発の実態：新刊書「バイオハザード」]」『[http://wwwsoc.nii.ac.jp/jsvs/05_byouki/ProfYamauchi.html 人獣共通感染症]』（[http://wwwsoc.nii.ac.jp/jsvs/index.html 日本獣医学会]）79巻、2008年11月13日閲覧。</ref>、66名が死亡するという大惨事が発生した<ref>世界保健機関、2004年『[http://www.who.int/csr/delibepidemics/biochemguide/en/ Public health response to biological and chemical weapons : WHO guidance, 2nd edition]』218ページ、ISBN 92-4-154615-8。和訳：山下俊一、発行日不明『[http://whqlibdoc.who.int/publications/2004/9241546158_jpn.pdf 生物・化学兵器への公衆衛生対策WHOガイダンス 第2版]』2008年11月13日閲覧。</ref>。
[[ファイル:E120 biological bomblet cutaway.jpg|thumb|米国の生物兵器「[[E120爆弾]]」]]
過失による事故が多発する一方、20世紀末には、故意による事件が発生し始める。日本では[[オウム真理教]]が1990年に[[ボツリヌス菌]]の大量散布を試み<ref>太田文雄、2007年「[http://www.isad.or.jp/cgi-bin/hp/index.cgi?ac1=IB17&ac3=5018&Page=hpd_view 情報と防災 これからの安全保障環境と省庁間協力]」『消防科学と情報』（[[消防科学総合センター]]）89号、{{issn|0911-6451}}、2008年11月22日閲覧。</ref>、1993年には炭疽菌の大量散布を試みたが（[[亀戸異臭事件]]）いずれも失敗に終わった。米国では2001年、炭疽菌の入った手紙が米国の報道機関や議員宛てに送りつけられ、22名が感染、うち5名が死亡した（[[アメリカ炭疽菌事件]]）。
{{seealso|感染症の歴史}}
このように、病毒をうつしやすい物質は過去に幾多の事故や事件を引き起こしており、これがバイオセーフティの呼びかけやバイオセキュリティ上の規制に繋がっている。[[#who2004|世界保健機関（2004年）]]は『WHO実験室バイオセーフティ指針』を示すなどして、感染防止、漏洩防止（バイオセーフティ）を呼びかけている。輸送にあっては、国際連合が[[国際連合危険物輸送勧告]]により、[[感染性廃棄物]]を含めて第6.2類危険物「病毒をうつしやすい物質」（Infectious substances; UN2814, 2900, 3373, 3291）としてバイオセキュリティに配慮するよう勧告している。 これらを受け、日本では、[[特定病原体等]]などを含有する物質は[[感染症法]]・[[家畜伝染病予防法]]、感染性廃棄物は[[廃棄物処理法]]等、輸送にあっては、[[危険物船舶運送及び貯蔵規則]]および[[航空法施行規則]]による規制がなされるに至っている。
== 遺伝子組換え生物等 ==
[[ファイル:Btcornafrica.jpg | thumb | left | 殺虫剤内生トウモロコシ「BTコーン」]]
遺伝子組換え生物の危険性は、1974年、[[ポール・バーグ]]による「Berg書簡」等で指摘され、『サイエンス』誌等でその検討が呼びかけられた<ref>Berg, Paul、Baltimore, David、Boyer, Herbert W.、Cohen, Stanley N.、Davis, Ronald W.、Hogness, David S.、Nathans, Daniel、Roblin, Richard、Watson, James D.、Weissman, Sherman、Zinder, Norton D.、1974年7月26日「[http://beck2.med.harvard.edu/week13/The%20Science%20Letter.pdf Potential Biohazards of Recombinant DNA Molecules]」『Science』185巻4148号303ページ、{{doi|10.1126/science.185.4148.303}}、2011年1月5日閲覧。</ref>。発[[がん遺伝子]]が[[大腸菌]]に入ると危険かもしれないという指摘であった<ref>内田『[http://diam-jba.jp/diam/servlet_fulltextsource?doc=061&file=061-f001.html 第1回 モラトリアムからOECDまで]』バイオインダストリー協会、2010年12月31日閲覧。</ref>。遺伝子組換えは[[原子力事故]]と同じような危険性を孕んでおり、[[アシロマ会議]]ではどのようにすれば研究を安全に行えるかが話し合われた<ref>橳島次郎、2010年6月18日「[http://www.aesj.or.jp/atomos/tachiyomi/2010-08mokuji.pdf 憲法の学問の自由と原子力・生命科学研究]」『日本原子力学会誌』52巻8号445ページ、2010年12月31日閲覧。</ref>。この結果を受け、日本では『[[組換えDNA実験指針]]』が取りまとめられた。
以来、[[遺伝子組換え]]生物等のバイオハザードについてはこの[[組換えDNA実験指針]]を以て安全管理が呼びかけられていたが、2004年に[[遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律]]（通称「カルタヘナ法」）が施行されてからは、罰則のついた法的な規制が敷かれている。
<br style="clear:both;" />
== 封じ込め ==
[[ファイル:Influenza virus research.jpg|thumb|封じ込めの要となる設備、[[安全キャビネット]]]]
前述のとおり、[[実験室]]や輸送容器等からバイオハザード物質が漏洩すると、甚大な被害に至ることがある。これを防ぐために施される拡散防止措置を'''封じ込め'''と呼ぶ。取扱い生物を列挙し、感染症法や世界保健機関等の示す指針に従って等級（リスクグループ）を割り出し、必要な管理等級（x種病原体等取扱施設、BSLx、Px等）を決定、推奨事項の履行を検討し、[[実験室]]を設計、従業員に作業・運営に関する教育を施す。実験室の設計等にあっては、感染症法の特定病原体等取扱施設要件<ref name="mhlwsp">厚生労働省、発行日不明『[http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou17/03.html 感染症法に基づく特定病原体等の管理規制について]』2010年12月31日閲覧。</ref>やカルタヘナ法の規程の定める防犯（[[#バイオセキュリティ]]）にも配慮が必要である。
=== 物理的封じ込め ===
バイオハザード物質の漏洩を物理的に防ぐことを'''物理的封じ込め'''という。具体的には、[[差圧]]の確保や[[滅菌]]器の設置、[[更衣]]、[[手洗い]]、[[マスク]]の着用などである。バイオハザード物質を危険度により分類し、それぞれに必要な拡散防止措置を定める。より危険なバイオハザード物質を扱う部屋ほど、多くの対策が必要となる。
==== 取扱生物等の等級付け（リスクグループの設定） ====
[[#who2004|世界保健機関（2004年）]]はリスクグループの設定基準は示しているが、具体的にどの生物がどの等級に属するかは示していない。感染症法の特定病原体等の指定や[[家畜伝染病予防法]]の法定伝染病・届出伝染病、[[植物防疫法]]の指定有害動植物、[[危険物船舶運送及び貯蔵規則]]・[[航空法施行規則]]が準拠する[[国際連合危険物輸送勧告]]の指定感染性物質、[[#nih2010|国立感染症研究所（2010年）]]や[[#jsbac2008|日本細菌学会（2008年）]]の規程・指針などを参考に、各自で策定する必要がある。
{|class=wikitable | style="text-align:center;"
|+ 国際連合危険物輸送勧告によるバイオハザード関連物質の分類
! !! 培養物 !! 患者検体 !! 生物学的<br />製剤・製品 !! 医療廃棄物<br />または<br />臨床廃棄物 !! 遺伝子組換え<br />生物等
|-
! 人体に<br />A種病毒<ref name="catab">A種病毒は危害が大きい病毒、B種病毒はA種基準に該当しない病毒をいう。危害の大小基準は、[[#un2007|国際連合（2007年]]120～122ページ）による。</ref>を<br />うつしやすい
| colspan=4 | UN2814 || UN2814<br />・UN3245
|-
! 人体以外の動物に<br />A種病毒を<br />うつしやすい
| colspan=4 | UN2900 || UN2900<br />・UN3245
|-
! B種病毒<ref name="catab" />を<br />うつしやすい<br />
| colspan=3 | UN3373 || UN3291 || UN3373<br />(UN3291)<br />・UN3245
|-
! A・B種非該当<br />病毒または不含
| colspan=4 | || UN3245
|}
日本において法的要件として準拠しなければならないのは、[[感染症法]]の特定病原体等取扱施設の'''施設要件'''と、国際連合危険物輸送勧告に準拠した[[危険物船舶運送及び貯蔵規則]]・[[航空法施行規則]]の'''包装要件'''、遺伝子組換えにあっては加えて[[カルタヘナ法]]の'''拡散防止措置要件'''の3要件となる。施設要件と包装要件の決定に必要な病原体等の分類は下表にまとめた。カルタヘナ法の拡散防止措置要件の決定に必要な微生物等の分類表は、研究二種省令に基づき認定宿主ベクター系等を定める告示<ref>文部科学省、2010年1月15日『[http://www.bch.biodic.go.jp/download/law/domestic_regulations/GILSP_list_mext_ver3.pdf 研究開発等に係る遺伝子組換え生物等の第二種使用等に当たって執るべき拡散防止措置等を定める省令の規定に基づき認定宿主ベクター系等を定める件]』平成16年文部科学省告示第7号、2011年1月4日閲覧。</ref>を参照されたい。
{{Collapse top|日本における病原体等の法定分類表（感染症法、危険物船舶運送及び貯蔵規則・航空法施行規則）<ref>感染症法（[[#diet2008|国会2008年]]）第六条および法施行令（[[#cabin2008|内閣2008年]]）の定める特定病原体等と、危険物船舶運送及び貯蔵規則・航空法施行規則が準拠する国連危険物輸送規則のCategory Aとして[[#who2008|世界保健機関（2008年22・23ページ）]]が例示したものを全て抽出・列挙し、その分類を示した（2011年1月3日時点）</ref>}}
{|class="sortable wikitable"
! 和名<ref>家畜伝染病原体の和名は、次の文献を参考にした。動物衛生研究所、2008年3月17日『[http://www.niah.affrc.go.jp/disease/fact/kansi.html 家畜の監視伝染病]』2011年1月3日閲覧。</ref> !! 洋名 !! 特定病原体等<ref>感染症法第六条、法施行令、2011年1月3日閲覧。</ref> !! 輸送時分類
|-
! [[アレナウイルス]]属[[ガナリトウイルス]] !! Guanarito virus
| 1種 || A種ヒト
|-
! アレナウイルス属[[サビアウイルス]] !! Sabia virus
| 1種 || A種ヒト
|-
! アレナウイルス属[[フニンウイルス]] !! Junin virus
| 1種 || A種ヒト
|-
! アレナウイルス属[[マチュポウイルス]] !! Machupo virus
| 1種 || A種ヒト
|-
! アレナウイルス属[[ラッサウイルス]] !! Lassa virus
| 1種 || A種ヒト
|-
! [[エボラウイルス]]属アイボリーコーストエボラウイルス、ザイールウイルス、スーダンエボラウイルス、レストンエボラウイルス、 !! Ebola virus
| 1種 || A種ヒト
|-
! [[オルソポックスウイルス]]属[[バリオラウイルス]]（別名[[痘そう]]ウイルス） !! Variola virus
| 1種 || A種ヒト
|-
! [[ナイロウイルス]]属[[クリミア・コンゴヘモラジックフィーバーウイルス]]（別名[[クリミア・コンゴ出血熱]]ウイルス） !! Crimean-Congo haemorrhagic fever virus
| 1種 || A種ヒト
|-
! [[マールブルグウイルス]]属レイクビクトリアマールブルグウイルス !! Marburg virus
| 1種 || A種ヒト
|-
! エルシニア属ペスティス（別名[[ペスト]]菌） !! ''[[Yersinia pestis]]''
| 2種 || A種ヒト<ref name="cultonly">培養物に限る</ref>
|-
! クロストリジウム属ボツリヌム（別名[[ボツリヌス]]菌） !! ''[[Clostridium botulinum]]''
| 2種 || A種ヒト<ref name="cultonly" />
|-
! [[コロナウイルス]]属[[SARSコロナウイルス]] !! [[SARS]] coronavirus
| 2種 || 未指定
|-
! バシラス属アントラシス（別名[[炭疽]]菌） !! ''[[Bacillus anthracis]]''
| 2種<ref name="strainexcept">除外株あり。厚生労働大臣、2007年5月31日『[http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou17/pdf/03-53.pdf 人を発病させるおそれがほとんどないものとして厚生労働大臣が指定する病原体等]』平成19年厚生労働省告示第200号、2011年1月4日閲覧。厚生労働大臣、2010年4月15日『[http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou17/pdf/03-67.pdf 人を発病させるおそれがほとんどないものとして厚生労働大臣が指定する病原体等の一部を改正する件]』平成22年厚生労働省告示第191号、2011年1月4日閲覧。</ref> || A種ヒト<ref name="cultonly" />
|-
! フランシセラ属ツラレンシス種（別名[[野兎病]]菌）亜種ツラレンシス及びホルアークティカ !! ''[[Francisella tularensis]]''
| 2種<ref name="strainexcept" /> || A種ヒト<ref name="cultonly" />
|-
! [[ボツリヌス毒素]]（人工合成毒素であって、その構造式がボツリヌス毒素の構造式と同一であるものを含む。） !! Botulinum toxin
| 2種<ref name="strainexcept" /> || 第6.1類危険物
|-
! コクシエラ属バーネッティイ !! ''[[Coxiella burnetii]]''
| 3種 || A種ヒト<ref name="cultonly" />
|-
! マイコバクテリウム属ツベルクローシス（別名[[結核]]菌）（イソニコチン酸ヒドラジド及びリファンピシンに対し耐性を有するものに限る。） !! ''[[Mycobacterium tuberculosis]]''
| 3種 || A種ヒト<ref name="cultonly" /><ref name="adrcatb">陸上輸送時のみB種扱い可</ref>
|-
! [[リッサウイルス]]属レイビーズウイルス（別名[[狂犬病]]ウイルス） !! Rabies virus
| 3種<ref name="strainlimit">株限定あり。厚生労働大臣、2007年5月31日『厚生労働大臣が定める三種病原体等及び四種病原体等』平成19年厚生労働省告示第202号</ref><ref name="strainexcept" /> || A種ヒト<ref name="cultonly" />
|-
! [[アルファウイルス]]属イースタンエクインエンセファリティスウイルス（別名[[東部ウマ脳炎]]ウイルス） !! Eastern equine encephalitis virus
| 3種 || A種ヒト<ref name="cultonly" />
|-
! アルファウイルス属ウエスタンエクインエンセファリティスウイルス（別名[[西部ウマ脳炎]]ウイルス） !! western equine encephalitis virus
| 3種 || 未指定
|-
! アルファウイルス属ベネズエラエクインエンセファリティスウイルス（別名[[ベネズエラウマ脳炎]]ウイルス） !! Venezuelan equine encephalitis virus
| 3種 || A種ヒト<ref name="cultonly" />
|-
! オルソポックスウイルス属モンキーポックスウイルス（別名[[サル痘]]ウイルス） !! Monkeypox virus
| 3種 || A種ヒト
|-
! コクシディオイデス属イミチス !! ''[[Coccidioides immitis]]''
| 3種 || A種ヒト<ref name="cultonly" />
|-
! [[シンプレックスウイルス]]属Bウイルス !! [[Herpes]] B virus
| 3種 || A種ヒト<ref name="cultonly" />
|-
! バークホルデリア属シュードマレイ（別名[[類鼻疽]]菌） !! ''[[Burkholderia pseudomallei]] . Pseudomonas pseudomallei''
| 3種 || A種ヒト<ref name="cultonly" />
|-
! バークホルデリア属マレイ（別名[[鼻疽]]菌） !! ''[[Burkholderia mallei]] . Pseudomonas mallei'' . glanders
| 3種 || A種ヒト<ref name="cultonly" />
|-
! [[ハンタウイルス]]属アンデスウイルス、シンノンブレウイルス、ソウルウイルス、ドブラバーベルグレドウイルス、ニューヨークウイルス、バヨウウイルス、ハンタンウイルス、プーマラウイルス、ブラッククリークカナルウイルス及びラグナネグラウイルス !! Hantaan virus; Hantaviruses causing haemorrhagic fever with renal syndrome
| 3種 || A種ヒト
|-
! [[フラビウイルス]]属オムスクヘモラジックフィーバーウイルス（別名[[オムスク出血熱]]ウイルス） !! Omsk haemorrhagic fever virus
| 3種 || A種ヒト
|-
! フラビウイルス属キャサヌルフォレストディジーズウイルス（別名[[キャサヌル森林病]]ウイルス） !! Kyasanur Forest disease virus
| 3種 || A種ヒト
|-
! フラビウイルス属ティックボーンエンセファリティスウイルス（別名ダニ媒介脳炎ウイルス） !! Tick-borne encephalitis virus
| 3種 || A種ヒト<ref name="cultonly" />
|-
! ブルセラ属アボルタス（別名[[ウシ流産]]菌） !! ''[[Brucella abortus]]''
| 3種 || A種ヒト<ref name="cultonly" />
|-
! ブルセラ属カニス（別名[[イヌ流産]]菌） !! ''[[Brucella canis]]''
| 3種 || 未指定
|-
! ブルセラ属スイス（別名[[ブタ流産]]菌） !! ''[[Brucella suis]]''
| 3種 || A種ヒト<ref name="cultonly" />
|-
! ブルセラ属メリテンシス（別名[[マルタ熱]]菌） !! ''[[Brucella melitensis]]''
| 3種 || A種ヒト<ref name="cultonly" />
|-
! [[フレボウイルス]]属リフトバレーフィーバーウイルス（別名[[リフトバレー熱]]ウイルス） !! Rift Valley fever virus
| 3種 || A種ヒト<ref name="cultonly" />
|-
! [[ヘニパウイルス]]属[[ニパウイルス]] !! Nipah virus
| 3種 || A種ヒト
|-
! ヘニパウイルス属[[ヘンドラウイルス]] !! Hendra virus
| 3種 || A種ヒト
|-
! [[リケッチア]]属ジャポニカ（別名[[日本紅斑熱]]リケッチア） !! ''[[Rickettsia japonica]]''
| 3種 || 未指定
|-
! リケッチア属ロワゼキイ（別名[[発しんチフス]]リケッチア） !! ''[[Rickettsia prowazekii]]''
| 3種 || A種ヒト<ref name="cultonly" />
|-
! リケッチア属リケッチイ（別名[[ロッキー山紅斑熱]]リケッチア） !! ''[[Rickettsia rickettsii]]''
| 3種 || A種ヒト<ref name="cultonly" />
|-
! [[インフルエンザウイルス]]A属[[インフルエンザAウイルス]]（血清亜型がH2N2、H5N1若しくはH7N7であるもの（新型インフルエンザ等感染症の病原体を除く。）又は[[新型インフルエンザ]]等感染症の病原体に限る。） !! influenza A virus, pandemic flu or H2N2/H5N1/H7N7 without pandemic flu
| 4種<ref name="strainlimit" /><ref name="strainexcept" /> || A種ヒト<ref>高病原性鳥インフルエンザ（Highly pathogenic avian influenza virus）のみ</ref><ref name="cultonly" />
|-
! エシェリヒア属コリー（別名[[大腸菌]]）（[[腸管出血性大腸菌]]に限る。） !! ''Escherichia coli'', verotoxigenic
| 4種 || A種ヒト<ref name="cultonly" /><ref name="adrcatb" />
|-
! [[エンテロウイルス]]属[[ポリオウイルス]] !! Poliovirus
| 4種<ref name="strainexcept" /> || A種ヒト<ref name="cultonly" />
|-
! クリプトスポリジウム属パルバム（遺伝子型が一型又は二型であるものに限る。） !! ''[[Cryptosporidium parvum]]''
| 4種 || 未指定
|-
! [[サルモネラ]]属エンテリカ（血清亜型がタイフィ又はパラタイフィAであるものに限る。） !! ''[[Salmonella enterica]]''
| 4種 || 未指定
|-
! [[志賀毒素]]（人工合成毒素であって、その構造式が志賀毒素の構造式と同一であるものを含む。） !! verotoxin
| 4種<ref name="strainexcept" /> || 第6.1類危険物
|-
! シゲラ属（別名[[赤痢]]菌）ソンネイ、デイゼンテリエ、フレキシネリー及びボイデイ !! ''[[Shigella]]''
| 4種 || A種ヒト<ref>''S. dysenteriae'' type 1に限る</ref><ref name="cultonly" /><ref name="adrcatb" />
|-
! ビブリオ属[[コレラ]]（別名[[コレラ菌]]）（血清型が01又は0139であるものに限る。） !! ''Vibrio cholerae''
| 4種 || 未指定
|-
! フラビウイルス属[[イエローフィーバーウイルス]]（別名[[黄熱]]ウイルス） !! Yellow fever virus
| 4種<ref name="strainexcept" /> || A種ヒト<ref name="cultonly" />
|-
! マイコバクテリウム属ツベルクローシス（イソニコチン酸ヒドラジド及びリファンピシンに対し耐性を有する病原体を除く。） !! ''Mycobacterium tuberculosis''
| 4種 || A種ヒト<ref name="cultonly" /><ref name="adrcatb" />
|-
! クラミドフィラ属シッタシ（別名[[オウム病]][[クラミジア]]） !! ''[[Chlamydia psittaci]]'' . avian strains
| 4種 || A種ヒト<ref name="cultonly" />
|-
! フラビウイルス属[[ウエストナイルウイルス]] !! West Nile virus
| 4種 || A種ヒト<ref name="cultonly" />
|-
! フラビウイルス属ジャパニーズエンセファリティスウイルス（別名[[日本脳炎]]ウイルス） !! Japanese Encephalitis virus
| 4種<ref name="strainexcept" /> || A種ヒト<ref name="cultonly" />
|-
! フラビウイルス属[[デングウイルス]] !! Dengue virus
| 4種 || A種ヒト<ref name="cultonly" />
|-
! [[フレキサルウイルス]] !! Flexal virus
| 未指定 || A種ヒト
|-
! [[B型肝炎]]ウイルス !! Hepatitis B virus
| 未指定 || A種ヒト<ref name="cultonly" />
|-
! [[ヒト免疫不全ウイルス]] !! Human immunodeficiency virus
| 未指定 || A種ヒト<ref name="cultonly" />
|-
! [[ロシア春夏脳炎]]ウイルス !! Russian spring-summer encephalitis virus
| 未指定 || A種ヒト<ref name="cultonly" />
|-
! [[アフリカ豚コレラ]]ウイルス !! African swine fever virus
| 未指定 || A種動物<ref name="cultonly" />
|-
! [[ニューカッスル病]]ウイルス !! Avian paramyxovirus Type 1 . Velogenic Newcastle disease virus
| 未指定 || A種動物<ref name="cultonly" />
|-
! [[豚コレラ]]ウイルス !! Classical swine fever virus
| 未指定 || A種動物<ref name="cultonly" />
|-
! [[口蹄疫]]ウイルス !! Foot and mouth disease virus
| 未指定 || A種動物<ref name="cultonly" />
|-
! [[ランピースキン病]]ウイルス !! Lumpy skin disease virus
| 未指定 || A種動物<ref name="cultonly" />
|-
! [[牛肺疫]]病原性マイコプラズマ属ミコイデス !! ''[[Mycoplasma mycoides]]'' . contagious bovine pleuropneumonia
| 未指定 || A種動物<ref name="cultonly" />
|-
! [[小反芻獣疫]]ウイルス !! Peste des petits ruminants virus
| 未指定 || A種動物<ref name="cultonly" />
|-
! [[牛疫]]ウイルス !! Rinderpest virus
| 未指定 || A種動物<ref name="cultonly" />
|-
! [[羊痘]]ウイルス !! Sheep-pox virus
| 未指定 || A種動物<ref name="cultonly" />
|-
! [[山羊痘]]ウイルス !! Goatpox virus
| 未指定 || A種動物<ref name="cultonly" />
|-
! [[豚水胞病]]ウイルス !! Swine vesicular disease virus
| 未指定 || A種動物<ref name="cultonly" />
|-
! [[水胞性口炎]]ウイルス !! Vesicular stomatitis virus
| 未指定 || A種動物<ref name="cultonly" />
|}
{{Collapse bottom}}
以上の法的分類に該当する病原体等を含有する病毒をうつしやすい物質は、法律に基づく施設要件等を満たさなければならない。その他の病原体等にあっては、従来通り[[バイオセーフティレベル]]に基づく管理を行えば良い。日本の[[#nih2010|国立感染症研究所（2010年）]]『病原体等安全管理規定』に病原体等のBSLリスクグループ分類表があり、その分類基準はつぎの通りである。
; レベル1 - 個体および地域社会に対する低危険度
: 人に[[疾病]]を起こし、或いは動物に獣医学的に重要な疾患を起こす可能性のないもの。
19 ⟶ 279行目:
: [[エボラ出血熱|エボラ]]ウイルス、[[マールブルグ熱|マールブルグ]]ウイルス、[[天然痘]]ウイルス、[[黄熱]]ウイルスなど
==== 試料の採取から廃棄までの流れ ====
[[ファイル:Sharps Container.jpg|thumb|使用済み注射針はフタをせず（リキャップせず）直接専用のゴミ箱へ]]
事前に教育訓練が必要である。[[白金耳]]や[[コンラージ棒]]、[[ガラスビーズ]]、[[ピペット]]等の実験操作時に病毒をうつしやすい物質の[[エアロゾル]]を吸い込んだり、口に飛び込んだりしての経口感染や、針刺し事故、動物による咬傷や掻傷、血液など病理学的試料からの感染、[[除染]][[滅菌]]廃棄時の感染といったことがよくある事故であり、特に教育すべき事項とされる。また、万が一の感染に備えて、[[予防接種]]が推奨される。（[[#who2004|世界保健機関2004年]]17・139ページ目）
試料採取は、[[採血]]や[[解剖]]等となる。針刺し事故等、外傷に注意が必要であり、使用済み注射針を廃棄する際に蓋をする「リキャップ」と呼ばれる行為などは、過去の針刺し事故の大半を占めていたため、多くの施設が禁止するところである（[[#who2004|世界保健機関2004年]]18ページ目）。
輸送にあっては、[[危険物船舶運送及び貯蔵規則]]<ref>[http://wwwkt.mlit.go.jp/notice/pdf/200603/00004848.pdf 船舶による危険物の運送基準等を定める告示（ 昭和五十四年九月二十七日運輸省告示第五百四十九号）]で国連番号を指定して危険物船舶運送及び貯蔵規則の「病毒をうつしやすい物質」に指定している。</ref>・[[航空法施行規則]]<ref>[http://wwwkt.mlit.go.jp/notice/pdf/200901/00005002.pdf 航空機による爆発物等の輸送基準等を定める告示（昭和五十八年十一月十五日運輸省告示第五百七十二号）]で国連番号を指定して航空法施行規則の「病毒を移しやすい物質」に指定している。</ref>・[[国際連合危険物輸送勧告]]に基づき、3重包装やバイオハザードマークの貼付が求められる。また、授受にあっては、[[公安委員会]]への届出や許可が必要である（[[#diet2008|国会2008年]]第五十六条の二十七）。
バイオハザード物質の開封・操作は、専用の実験室が必要となる。二種病原体等であれば二種病原体等取扱施設でクラス3の遺伝子組み換え動物であればP3A[[飼育]]区画で等、扱う生物の危険度に対応する管理等級の実験室で開封・操作する。病毒をうつしやすい物質は特定病原体等取扱施設（四種病原体等取扱施設～一種病原体等取扱施設）・[[バイオセーフティレベル]]（BSL1～BSL4）、遺伝子組換え生物はP1～P4（微生物）、LSC・LS1・LS2（微生物[[大量培養]]）、特定飼育区画・P1A～P3A（動物）、特定[[網室]]・P1P～P3P（植物）といった管理等級である。
{|class=wikitable
|+物理的封じ込め等級の一覧
! rowspan=2|取扱生物等 !! colspan=3|病毒をうつしやすい物質 !! colspan=5|遺伝子組換え生物等
|-
! !! 特定病原体等 !! 輸送時<ref name="who2008gt">[[#who2008|世界保健機関2008年]]7・14ページ</ref> !! 微生物 !! 微生物大量培養 !! 動物 !! 植物 !! 輸送時<ref name="who2008gt" />
|-
! 危険
| BSL4 || 一種病原体等取扱施設 || rowspan=5|P620<br /><br />P650<br /><br />P621 || || || || ||rowspan=5|P904<br /><ref>取扱生物が国連危険物輸送勧告のA・B種病毒に該当する場合は、P620・P650・P621にも準拠しなければならない。</ref>
|-
! ↑
| BSL3 || 二種病原体等取扱施設 || P3 || || P3A || P3P
|-
! │
| BSL2 || 三種病原体等取扱施設 || P2 || LS2 || P2A || P2P
|-
! ↓
| BSL1 || 四種病原体等取扱施設 || P1 || LS1 || P1A || P1P
|-
! 安全
| || || ||LSC ||特定飼育区画 || 特定網室
|}
なお、上表において、横の列は同等ではない。たとえば、BSL2と三種病原体等取扱施設では要件が異なるし、対象とする生物の基準も異なる。病毒をうつしやすい物質については[[#who2004|世界保健機関（2004年）]]の『実験室バイオセーフティ指針』、特定病原体等については厚生労働省の『感染症法に基づく特定病原体等の管理規制について』、遺伝子組換え生物については環境省の『日本版バイオセーフティクリアリングハウス (J-BCH)』が参考になる（[[#補足資料]]）。また、バイオセーフティレベルは法的要件ではないが、特定病原体等の取扱施設要件は[[感染症法]]の定める義務であり、Px等遺伝子組換え生物の拡散防止措置は[[カルタヘナ法]]の定める義務であり、輸送容器指定はいずれも[[航空法]]と[[危険物船舶運送及び貯蔵規則]]の定める義務である。
感染性廃棄物の処理にあっては、実験施設内での除染（[[滅菌]]）を行ってから排出すること、針刺し事故のないよう表示・分別を行うこと（固体、液体、鋭利物、非感染性廃棄物の4種等）等に注意が必要である。日本における処理にあっては、[[#env2004|環境省（2004年）]]のマニュアルが参考になる。
==== 設備による封じ込め ====
病毒をうつしやすい物質を扱う上で、設備において万全を期すのが前提となる。中でも封じ込めの要となる設備が[[安全キャビネット]]であり、ほぼ全ての特定病原体等の取扱時に使用が義務付けられる。同様に部屋全体を陽圧に保つ[[差圧]]構造が特定病原体等取扱施設には求められる。感染性廃棄物の処理には高圧蒸気滅菌器（[[オートクレーブ]]）が必須であるし、[[更衣]]には前室が必要となる。[[手洗い]]を行った後に再汚染を防ぐため、[[自動ドア]]や肘で開閉できるドアなどが要求される。取り扱う病毒をうつしやすい物質の危険度によっては、退室時に[[防護服]]ごと[[シャワー]]を浴びる必要がある。どれだけの設備が必要となるかは、取り扱う病原体等とそれに対応する管理等級（x種病原体等取扱施設、BSL3、P3P等）による。（[[#who2004|世界保健機関2004年]]和訳版12～66ページ参照）
==== 手技による封じ込め ====
適切な箇所に[[表示]]を行い、出入り時は更衣を行い、室内では[[マスク]]を着用し、汚染廃棄物は121℃15分高圧蒸気滅菌等の除染してから搬出する。汚染資料の搬出時は三重包装等、国連危険物輸送勧告に従った包装・表示を施してから搬出する。菌液をこぼす等、汚染が発生した場合は、[[次亜塩素酸ナトリウム]]や[[石炭酸]]によって除染を行う。退室時は手洗いを行う。これら手技による封じ込めのうちどれが必要となるかは、取り扱う特定病原体等の種別や、管理等級（バイオセーフティレベル）による。（[[#who2004|世界保健機関2004年]]和訳版第IV部参照）
<!-- 表示 -->
特定病原体等取扱施設においては、出入口にバイオハザードマーク（標識）を表示しなければならず、特定病原体等の輸送容器にも同様の表示が必要とされる（[[#mhlw2010|厚生労働省2010年]]感染症法施行規則）。特定病原体等でなくとも、国連危険物輸送勧告の対象であれば表示が必要となる<ref name="packspecpath">厚生労働大臣、2007年6月1日『[http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou17/pdf/03-59.pdf 特定病原体等の運搬に係る容器等に関する基準]』平成19年厚生労働省告示第209号</ref>。感染性廃棄物には、感染性廃棄物である旨と取り扱う際に注意すべき事項を表示することがとされており（[[#env2004|環境省2004年]]17ページ目）、下図に示す標識が推奨されている。形状により色分けを行うことが推奨されており、[[血液]]等液状物は赤色、[[ガーゼ]]等固形物は橙色、注射針等鋭利なものは黄色となる。黒のみで色分けしない場合は、文字で形状を表示することとされる。
<gallery caption="表示">
ファイル:BiohazardSymbolJapanArea.jpg|特定病原体等取扱施設の実験室と[[保管]]室の出入口、特定病原体等の[[輸送]][[容器]]に表示が義務付けられる法定標識<ref>厚生労働大臣、2007年5月31日『[http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou17/pdf/03-58.pdf 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律施行規則第31条の31第2項第9号等の規定に基づく厚生労働大臣が定める標識]』平成19年厚生労働省告示第203号、2011年1月4日閲覧</ref>
ファイル:BiohazardSymbolTransportJapanUn.jpg|輸送用表示。[[国連]][[標識]]。この標識の右に続けて「4G/CLASS6.2/10<br />CAN/8-2 SAF-T-Pak」等の表示をする<ref name="packspecpath" /><ref>「4G」は容器及び包装の種類、材質並びに細分類の記号で、告示の別表に掲げられている。「10」は製造西暦年の下2桁である。「CAN」は容器を認可した国の国名又はその略号である。「8-2 SAF-T-Pak」は[[製造者]]の名称又はその略号である。</ref>
ファイル:BiohazardSymbolTransportJapanDia6.jpg|輸送用表示。包装物の表面に貼るべき国連バイオハザード標識。
ファイル:BiohazardSymbolTransportJapanUp.jpg|輸送用表示。液状物の場合は、外装容器の相対する二側面に見やすいように付さなければならない。
ファイル:BiohazardSymbolJapanWaste.PNG|感染性廃棄物処理マニュアル（[[#env2004|環境省2004年]]17ページ）が推奨する標識。
ファイル:BiohazardSymbolJapanWasteLiquid.PNG|赤色：液状又は泥状のもの（血液等）
ファイル:BiohazardSymbolJapanWasteSolid.PNG|橙色：固形状のもの（血液等が付着したガーゼ等）
ファイル:BiohazardSymbolJapanWasteNeedle.PNG|黄色：鋭利なもの（注射針等）
ファイル:BiohazardSymbolJapanWasteNotInfectious.PNG|非感染性廃棄物ラベル：感染性廃棄物を出す事業所から出る非感染性廃棄物に貼ることが望ましいとされる
</gallery>
<!-- 輸送 -->
輸送にあっては、前述の表示に併せて、容器は堅固でなければならない。国連の規格容器は5,000～15,000円ほどで購入できる<ref>[[積水化成品工業]]、2007年5月31日「[http://www.sekisuiplastics.co.jp/rss/pdf/2007_5_31pressrelease.pdf ＜プレスリリース＞国内初、感染性物質の国連規格輸送容器の発売について]」『積水化成品工業株式会社新着情報』2011年1月4日閲覧。</ref>。
==== 未同定種の取扱い ====
含有される生物等の種が不明である場合は、推定される種のリスクグループを準用し、最低でもBSL2の物理的封じ込めを施す（[[#who2004|世界保健機関2004年]]8ページ目）。
==== 細菌学会の指針 ====
特定病原体等取扱施設の施設要件に関しては、感染症法・令・規則・告示等を参照されたい。ここでは、特定病原体等以外の取扱施設のため、[[日本細菌学会]]による取扱指針を示す（[[バイオセーフティーレベル]]、BSLも参照）。
* レベル1の病原体
** 通常の微生物学実験室を用い、特別の隔離は必要ない。
37 ⟶ 356行目:
** 実験は生物学用安全キャビネットの中で行う。動物実験は生物学用安全キャビネット又は[[陰圧アイソレーター]]の中で行う。
** 作業職員名簿に記載された者以外の立ち入りは禁止する。
=== 生物学的封じ込め ===
[[遺伝子組換え生物]]等においては、'''生物学的封じ込め'''によっても封じ込めを施すことができる。生物学的封じ込めとは、実験施設の外では生存（拡散）できない[[宿主]]と[[ベクター]]のみを使用するようにして、万一物理的に漏洩しても危害を生じにくくする予防措置である。認定宿主ベクター系（B1）は非認定宿主ベクター系に比べて安全な組み合わせ、特定認定宿主ベクター系（B2）はB1よりも安全な組み合わせとされる。B2の生物学的封じ込めの元では必要とされる物理的封じ込めが1等級緩和され、逆に非認定宿主ベクター系を用いる場合は1水準厳しい物理的封じ込め等級下で実験を行わなければならなくなる。<ref>文部科学省、環境省、2004年1月29日『[http://www.bch.biodic.go.jp/download/law/domestic_regulations/contained_research.pdf 研究開発等に係る遺伝子組換え生物等の第二種使用等に当たって執るべき拡散防止措置等を定める省令]』（平成十六年文部科学省・環境省令第一号）第五条一項</ref>
{|class=wikitable
|+ より安全な宿主とベクターの組み合わせ
! 種別 !! 一例 !! 一例の内容
|-
! 認定宿主ベクター系<br />（B1）
| ''Streptmyces''属細菌 || ''Streptmyces''属細菌（''S. coelicolor''、''S. lividans''、''S. parvulus''、''S. griseus''及び''S. kasugaensis''をいう。）を宿主とし、SCP2、SLP1.2、pIJ101、アクチノファージφC31又はこれらの誘導体をベクターとするもの
|-
! 特定認定宿主ベクター系<br />（B2）
| BS2 ||''Bacillus subtilis''のASB298株を宿主とし、pUB110、pC194、pS194、pSA2100、pE194、pT127、pUB112、pC221又はpAB124をベクターとするもの
|}
=== バイオセキュリティ ===
[[ファイル:US Navy 030323-N-9403F-045 Hull Technician Fireman Michael L. McLain assists Damage Controlman 3rd Class Joseph Pierce during a Chemical, Biological, and Radiological (CBR) drill aboard USS Abraham Lincoln (CVN 72).jpg|thumb|生物兵器テロ訓練での試料採取]]
バイオセーフティが過失による[[公害]]を対象とするのに対して、バイオセキュリティは故意による[[暴力]]を対象とする。バイオハザード物質は[[危険物]]であり、医薬用外[[毒物]]や爆発性危険物と同様、兵器・武器としての悪用が可能である<ref>戦後も土地を不毛にする生物兵器の使用は、[[ジュネーヴ議定書 (1925年)|ジュネーヴ議定書]]等により国際的に厳に禁じられるところである。</ref>。菌株の[[盗難]]や[[横流し]]を防止するための防犯対策を'''バイオセキュリティ'''と呼ぶ。日本においては感染症法の特定病原体等に関する条文をもって、[[施錠]]管理や授受時の届出等が義務付けられている。およそ、特定病原体等は医薬用外毒物相当、それ以外のリスクグループ2～3<ref>[[#nih2010|国立感染症研究所（2010年）]]や[[#jsbac2008|日本細菌学会（2008年）]]の規程・指針に病原体等のリスク分類表があるので、参考にできる。</ref>にあたる病原体等は医薬用外[[劇物]]に相当する管理が求められる。法的な詳細は感染症法の特定病原体等を、推奨事項や背景知識等の詳細は世界保健機関の『実験施設バイオセキュリティガイダンス』<ref>世界保健機関、国立感染症研究所、2006年9月『[http://whqlibdoc.who.int/hq/2006/WHO_CDS_EPR_2006.6_jpn.pdf バイオリスクマネジメント 実験施設バイオセキュリティガイダンス]』2011年1月4日閲覧。</ref>に詳しいので、こちらを参照されたい。
== 脚注 ==
{{Reflist}}
== 参照文献 ==
* {{Anchor|env2004|}}環境省、2004年3月16日「廃棄物処理法に基づく感染性廃棄物処理マニュアル」『[http://www.env.go.jp/press/file_view.php?serial=5741&hou_id=4791 感染性廃棄物の適正処理について]』環廃産発 第040316001号、2008年11月3日閲覧。
* {{Anchor|mhlw2010|}}厚生労働省、2010年1月28日『[http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H10/H10F03601000099.html 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律施行規則]』平成十年厚生省令第九十九号、2011年1月4日閲覧。
* {{Anchor|un2007|}}国際連合、2007年『[http://www.unece.org/trans/danger/publi/unrec/rev15/15files_e.html United Nations Recommendations on the Transport of Dangerous Goods - Model Regulations. Fifteenth revised edition]』2011年1月4日閲覧。和訳：城内博、発行日不明「[http://jonai.medwel.cst.nihon-u.ac.jp/index.php?cid=000000000009 国連危険物輸送勧告 オレンジブック TDG]」『城内研究室 GHS関連サイト』日本大学大学院理工学研究科 医療・福祉工学専攻、2011年1月4日閲覧。
* {{Anchor|nih2010|}}[[国立感染症研究所]]、2010年6月1日『[http://www.nih.go.jp/niid/Biosafety/kanrikitei3/ 病原体等安全管理規程（改訂第三版）]』2011年1月4日閲覧。
* {{Anchor|diet2008|}}国会、2008年6月18日『[http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H10/H10HO114.html 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律]』平成十年法律第百十四号、2011年1月3日閲覧。
* {{Anchor|who2008|}}[[世界保健機関]]、2008年10月『[http://www.who.int/csr/resources/publications/biosafety/WHO_HSE_EPR_2008_10/en/ Guidance on regulations for the Transport of Infectious Substances 2009-2010]』2011年1月4日閲覧。和訳：国立感染症研究所、発行日不明『[http://whqlibdoc.who.int/hq/2008/WHO_HSE_EPR_2008.10_jpn.pdf 感染性物質の輸送規則に関するガイダンス 2009-2010]』2010年12月31日閲覧。
* {{Anchor|who2004|}}世界保健機関、2004年11月『[http://www.who.int/csr/resources/publications/biosafety/WHO_CDS_CSR_LYO_2004_11/en/index.html Laboratory Biosafety Manual - Third Edition]』ISBN 92 4 154650 6、2011年1月4日閲覧。和訳：北村敬、小松俊彦、杉山和良、森川茂、篠原克明、発行日不明『[http://www.who.int/csr/resources/publications/biosafety/Biosafety3_j.pdf 実験室バイオセーフティ指針 WHO第3版]』バイオメディカルサイエンス研究会、2011年1月3日閲覧。
* {{Anchor|cabin2008|}}内閣、2008年5月2日『[http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H10/H10SE420.html 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律施行令]』平成十年政令第四百二十号、2011年1月3日閲覧。
* {{Anchor|jsbac2008|}}[[日本細菌学会]]、2008年『[http://www.nacos.com/jsbac/04-5bio.html 病原体等安全取扱・管理指針]』2010年12月31日閲覧。
* {{Anchor|bmsa2008|}}[[バイオメディカルサイエンス研究会]]、2008年12月10日『バイオセーフティの事典』みみずく舎、ISBN 978-4-87211-903-9
== 関連項目 ==
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* [[ケミカルハザード]]
* [[バイオセーフティーレベル]]
* [[感染症]]
* [[感染管理]]（感染制御）
* [[感染制御学]]
* [[生物兵器]]
==
* 『[http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou17/03.html 感染症法に基づく特定病原体等の管理規制について]』特定病原体等の法規制に関する詳細（厚生労働省）
* 『[http://www.bch.biodic.go.jp/ 日本版バイオセーフティクリアリングハウス (J-BCH)]』遺伝子組換え生物等の法規制に関する詳細（環境省）
* 光岡知足ほか編集 『獣医実験動物学』 川島書店 1990年 ISBN 4761004282
{{DEFAULTSORT:はいおはさと}}
[[Category:環境問題]]
[[Category:危険物]]
[[Category:人的災害]]
[[Category:生物学]]
[[Category:生物災害|*]]
[[Category:労働災害]]
[[ca:Risc biològic]]
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