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[[画像:Baseball catcher.jpg|thumb
[[画像:Baseball_Position.png|thumb|250px|野手のうち、捕手だけが投手に正対する。]]
'''捕手'''（ほしゅ）または、'''キャッチャー''' (英:''catcher'') とは、[[野球]]や[[ソフトボール]]において[[投手]]の投球を受ける役割の選手である<ref>[[公認野球規則]]2.16</ref>。[[守備番号]]は'''2'''。英略字は'''C'''（catcherから）。チームで主に出場する捕手は'''正捕手'''（せいほしゅ）と呼ばれる。慣用句的に投手を支えるという意味から「女房役」、または守備位置から「[[扇]]の要」と表現される事もある。なお捕手が[[野手]]に含まれるのは広義の場合に限られている。[[クリケット]]ではウィケットの前を陣取ることから'''ウィケットキーパー'''または'''キーパー'''と呼ばれる。
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捕手以外の野手は投手が投げるまでは[[フェアボール|フェア]]グラウンド上に守備位置を取ることと定められているが、捕手は野手の中で唯一[[ファウルボール|ファウル]]グラウンドに守備位置が定められており、投手や[[野手]]とは逆の方向を向いて守備する。投手が投球動作を始め、その手からボールが離れるまで、捕手はファウルグラウンドに設けられたキャッチャーボックスに位置している必要がある。
捕手が他の野手と比較して大きく異なる点の1つに、[[マスク]]や[[チェストプロテクター]]、[[レガース]]などの防具を身に付け、投球を受けるために専用の[[ミット]]を着用する点が挙げられる。これは、投球（ときとして投手の[[暴投]]）や[[ストライク (野球)#ストライクが宣告される条件|ファウルチップ]]などが身体に当たった際の怪我を防ぐためである。また慣用句的に「捕手として[[試合]]に出場すること」を「マスクを被る」、ないしは単に「マスク」と呼ぶこともある。防具を装備しているとはいえ、ファウルチップやクロスプレーで[[怪我|故障]]する可能性が高いポジションである<ref>織田
[[File:Softball catcher.jpg|thumb|upright|ソフトボールにおける左投げの捕手]]
通常は右投げの選手が起用されるポジションであり、左投げの捕手は非常に稀である<ref>プロ野球に在籍した左投げの捕手には、
ベンチ入りする捕手の数は少なく、一般に2人から3人である。ただし、どの試合でもベンチ入り捕手を全て使うようなことは稀である。前述の通り、専門的な技術を要するために他の野手にはなかなか務まるものではなく、負傷退場などの最悪の事態に備えて最低1人は交代要員を残しておくためである。一方で、控え捕手までもが負傷退場するなどして守備につける捕手がいなくなった場合に備えて、本来は捕手ではないが過去に捕手の経験のある選手が、試合前などに捕手としての練習をするケースもある<ref>実際に捕手経験があった[[木村拓也]]は、[[2009年]][[9月4日]]の試合において、控え捕手がいなくなったため延長12回に捕手を務めた。木村は捕手としての出場の可能性があると感じて試合中にブルペンで捕球練習をしていた。</ref>。
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== 役割 ==
{{Notice|例が増えすぎる傾向があるので、列挙するのは'''3人以下'''にして下さい|style=stop|section=1}}
捕手は投手の投球を捕球する以外にも、リード、送球、牽制、ブロックおよびチームの守備全体を指揮する役割など、多岐にわたる様々な役割を要求されるポジションである。<br />
以下分野ごとに詳述する。
=== 捕球 ===
[[File:Strike, Atlanta Braves.jpg|thumb|ワンバウンドした投球を身体で止める捕手。]]
捕手にとって最も重要な役割は投手の投球を捕球することである<ref>織田 (2002, pp.173 - 174)</ref><ref>赤松 pp.19,21,41. </ref><ref>梨田『フィールドの指揮官』 pp.216,226,230.</ref><ref name="Furuta1">古田 p.148.</ref>。プロの投手の高速のボールや変化球をミスなく捕球するためには各種の捕球技術が必要とされている<ref>梨田『フィールドの指揮官』 「第1章」 pp.16-39,216,227. </ref><ref>大矢 pp.167-171,156-158. </ref><ref>古田 pp.38-49,145.</ref><ref>山倉 pp.62-66. </ref>。投手の投じる[[速球]]や[[変化球]]、時にはワンバウンドするものや暴投を正確に捕球できず、後逸<ref>野球のルール用語の「捕逸」と「暴投」は、塁上に走者がいるケースで後逸によって走者が進塁した場合にしか記録されないが、ここでいう「後逸」は、走者がいない場合も含むすべての後逸を指す。</ref>することが多いと投手や監督から信頼されにくく<ref>赤松 pp.19,21,41-59,162-164. </ref><ref name="Furuta1"/><ref>森 pp.30-32.</ref><ref>大矢 p.166. </ref>、走者がいる場合には、[[捕逸]]してしまうと相手に進塁や得点の機会を容易に与えてしまうからである。ワンバウンドなどの難しい球を捕球できない時にも、捕手は自分の体にボールを当ててでもボールを止め、後方へそらさないことが求められる<ref>カンパニス p.68</ref><ref>梨田『フィールドの指揮官』 pp.32-33.</ref><ref>大矢 pp.115,167-168,170. </ref><ref>古田 pp.46-49. </ref><ref>山倉 pp.35,64-65. </ref>。
このため特に捕球が難しい[[ナックルボール]]投手が在籍するチームではこれを捕球する能力に長けた専属捕手が存在する場合もある。例えば[[ボストン・レッドソックス]]では[[ティム・ウェイクフィールド]]の先発登板する試合では、打撃に優れる正捕手の[[ジェイソン・バリテック]]ではなく、捕球に優れる控え捕手（[[ダグ・ミラベリ]]、[[ケビン・キャッシュ]]、[[ジョージ・コッタラス]]）が必ず先発出場している。
また、投球をミットで捕球した時の音（捕球音）を大きく響かせた方が投手は気分が良くなり、また捕球音が大きく響くと打者へ与える心理効果もあるため、できるだけ大きな「いい音」を立てて捕球することも、捕手に必要な捕球技術の一つとされている<ref>赤松p.25.</ref><ref>大矢 pp.21,147,152. </ref><ref>梨田『フィールドの指揮官』 pp.25-26,83,85,88.</ref><ref>梨田『戦術眼』 p.162. </ref>。
捕手の捕球に必要とされている身体的条件は、俊敏性と下半身の柔らかさなどである<ref name="Akamatsu1">赤松 pp.9,43,158-159,210. </ref><ref>梨田『フィールドの指揮官』 p.216. </ref><ref name="Matsushita2">松下 p.140. </ref><ref>大矢 pp.33,147. </ref>。低い投球を後逸しないように低く構えるためには下半身の柔らかさが必要であり<ref name="Akamatsu1"/><ref name="Matsushita2"/>、投手の投球がそれても捕手が構えた姿勢から左右や上下に動いて捕球したり、打者が[[ファウルチップ]]した打球を後方へ逸らさず直接捕球するには、俊敏なフットワークが必要である。プロ野球の捕手に求められる「下半身の柔らかさ」とは、身体的には、筋力、筋肉の伸縮性、および、腰・膝・足首の関節の柔軟性（関節の可動範囲の広さ）を指している。
梨田昌孝は、「うまいキャッチングは投手の力を引き出し、球審も味方につけられると」と自著に記している。<ref>梨田『フィールドの指揮官』p.31,「第1章」pp.16-39.</ref><br>捕手に最も必要とされる能力はこれらの捕球の能力・技術とされており、その他の能力（リード、肩、打撃など）が良くても、捕球に難がある捕手は、正捕手としては起用されないことが多い<ref name="NomuraRole">野村『野村ノート』(2009) p.58.</ref><ref name="AkamatsuRole">赤松 pp.21,209.</ref><ref name="NashidaRole">梨田『フィールドの指揮官』(2006) pp.193,216,230.</ref><ref name="MatsushitaRole">松下 p.139.</ref><ref name="OyaRole">大矢 pp.115,166-168.</ref><ref name="FurutaRole">古田 pp.31-35,148.</ref>。
=== リード ===
{{Seealso|ウエストボール}}
[[File:
リードとは、捕手が一球ごとに投手にサインを送り、打者が打ちにくいコースと球種を指示し、投手の力を引き出すことである。<br />
どんな球を投げても打者に打たれないような優れた投手は少ない。[[日本プロ野球]] (NPB) の場合は、チームの年間試合数144試合の半数以上はエース級ではなくチームの4番目以下の多数の投手が登板しているため、力量の比較的劣る投手が投げる試合（全試合数の半数以上）<ref>梨田『フィールドの指揮官』 pp.114,120,128,163.</ref><ref>大矢 pp.118-119. </ref><ref>古田 pp.96-102. </ref><ref>森 p.57</ref>や投手が調子の悪い日<ref>野村『野村ノート』 p.91. </ref><ref>梨田『フィールドの指揮官』「第6-9章」 pp.115-116,121,128,151-153,163-164,180-181,199,203,208-210. </ref><ref>大矢pp.14,21,59-60,95-98. </ref><ref>古田 pp.29-31. </ref><ref>森 pp.56-57,74,132. </ref><ref>山倉 p.60,130. </ref>に試合に勝つためには、捕手が投手の力量・調子や試合の状況等を判断して投手をリードすることが重要とされている<ref>織田 pp.35,53,54,98-103,106-107. </ref><ref>野村『野村ノート』(2009) pp.55,58,61,65,168-175. </ref><ref>赤松 pp.171,193,222. </ref><ref>梨田『フィールドの指揮官』 pp.94,160,168,180-181 . </ref><ref>牧野 p.264. </ref><ref>森pp.12-13, 56,77-84,105,124-125,130-132,163,193,196,224-226,235.</ref><ref>大矢 pp.30,95-98,119,130-141. </ref><ref>古田 pp.14, 29-35, 97.</ref>。
これは投手との共同作業であるため、捕手は投手から信頼されることが重要であり<ref>織田 p.46. </ref><ref>赤松 pp.74-91,225. </ref><ref>梨田『フィールドの指揮官』 pp.95,190,212,227,229. </ref><ref>大矢 pp.13-38. </ref><ref>古田 pp.34-35, 148.</ref><ref>森 p.133.</ref><ref>山倉 p.20. </ref>、捕手と投手（[[バッテリー]]）は互いに信頼関係を構築することが必要とされる<ref>織田 (2002, pp.105 - p124)</ref><ref>梨田『フィールドの指揮官』 pp.212,217. </ref><ref>森 pp.132-133. </ref><ref>古田 pp.139-143, 148.</ref><ref>山倉 p.140. </ref>。なおNPBでは最も息の合ったバッテリーを表彰する賞として[[最優秀バッテリー賞]]が制定されている。
複数の捕手を併用するということが少ないのはこの点が関わっている。逆にこの信頼関係の面から、特定の投手が先発するときに限り専属捕手として正捕手以外の捕手を先発出場させたり、[[リリーフ|投手交代]]の際に捕手をも交代する場合がある。そのように試合途中から出場する捕手を「リリーフキャッチャー」、「抑え捕手」と呼ぶこともある。
捕手の頭脳的な投手リードが日本で初めてファンから認識されたのは、日本初の外国人プロ野球選手である[[バッキー・ハリス (捕手)|バッキー・ハリス]]捕手（1936年[[名古屋軍]]、37年[[後楽園イーグルス]]）が始まりである。また、ハワイ出身の[[カイザー田中]]（1937-44年の[[大阪タイガース]]の正捕手）は、日本よりも野球のレベルが高かったハワイで身に着けた頭脳的なインサイドワークで高く評価された。
1950年代には、同じくハワイ出身の[[広田順]]（1952-56年の[[読売巨人軍]]の正捕手）も巧みなリードが評価された。
対戦チームのデータを生かして捕手が投手の配球をリードする現在の形が確立されたのは、[[鶴岡一人]]が監督を務めた時代の[[南海ホークス]]（現・ソフトバンクホークス）である。鶴岡（当時の姓名は山本一人）は1954年、プロ野球で初の[[先乗りスカウト#先乗りスコアラー |先乗りスコアラー]]として[[尾張久次]]を採用し、当時はメジャーリーグにも無かった世界初の「データ野球」を導入したことで知られている<ref>野村『あぁ、監督』 pp.79-80.</ref>。1956年から南海ホークスの正捕手となった[[野村克也]]および1960年からヘッドコーチとなった[[蔭山和夫]]らが、尾張スコアラーが持ち帰った対戦相手のデータを、投手のリード、野手の守備および攻撃（打撃）に活用して大きな効果を上げた<ref>[http://www2.plala.or.jp/ippeifuji/old/old008.htm The Old Timer’s Day 日本が生んだデータ野球]</ref><ref>「当時の鶴岡監督率いる南海は他球団に先駆けてデータを集め、活用する体制を取り入れており、データの収集に当たっていた尾張久次は日本プロ野球のスコアラー第1号とも言われている。野村は蔭山和夫コーチらとともに、こうしたデータを試合展開や相手選手の観察結果とあわせて分析し、打撃にも配球にも生かした。」 出典：[http://scomu.jp/minourakei1/archives/1668436.html 野村克也の踊り]</ref>。
この当時、[[読売巨人軍]]の[[藤尾茂]]（1955～1959年の正捕手）も、そのリードが当時の巨人の投手の多くから高く評価されていたが、捕手がチーム全体の守備を指揮・統率する現在の捕手の形を日本に導入し浸透させたのは、1961年に巨人の監督に就任した[[川上哲治]]および1973年まで巨人の正捕手であった[[森祇晶|森昌彦]]（現・森祇晶）である。（[[捕手#監督の分身として|後述]]）
南海ホークスと読売巨人軍が先駆となってプロ野球チームの作戦・戦法および捕手の機能と役割が確立され、1960年代以降、これらの方式が他のプロ球団へも広まり、定着していった。
捕手のリードの役割や具体的な内容が一般のファンにも広く知られるようになったきっかけは、1970年代の人気野球漫画『[[ドカベン]]』（連載1972-1981年、作・水島新司）の影響が大きいとされている。当時の野球漫画としては珍しく捕手を主人公とした同作品は、1973年から、捕手が投手を巧みにリードするシーンを作品中に多数描き、主として少年ファンに捕手の役割やリードの重要性を紹介し、捕手のリードに対して一般の野球ファンの関心が広がるきっかけとなった。
日本で初めて捕手のリードの重要性を一般に報道したのは[[報知新聞]]記者の[[宇佐美徹也]]である<ref name="lead">織田 pp.96 - 97.</ref>とされている。宇佐美は1979～80年に野村克也のリードに着目して過去の記録を調べなおし、[[王貞治]]が[[オールスターゲーム (日本プロ野球)|オールスターゲーム]]で[[野村克也]]が捕手を務めているときに限り、30打席連続無安打であったことに気付いて捕手のリードの重要性を再認識し、これを紙上で発表した<ref name="lead"/>。
==== リードの根拠 ====
NPBでは、捕手による投手リードにおいて、通常、以下の3つの要素<ref>野村『野村ノート』 p.61. </ref><ref>梨田『フィールドの指揮官』「第5章 投手に信頼されるインサイドワークとは」 p.94. </ref><ref>梨田『戦術眼』 p.165. </ref><ref>大矢 pp.41-42. </ref><ref>古田 p.66.</ref>が重視されている<ref>野村『野村ノート』(2009) pp.32-68,84-100,125. </ref><ref>梨田『フィールドの指揮官』(2006)「第5章 投手に信頼されるインサイドワークとは」 pp.94-109,「第6-9章 カウント別配球論」 pp.112 -230. </ref><ref>大矢 pp.11-100,113-141. </ref><ref>松下 p.68. </ref><ref>古田「第5章 配球論、カウント別配球論」 pp.66-102, 132-139. </ref><ref>森 pp.56,75-84,105,193,208-214,235.</ref><ref>山倉 pp.35-36,56-60,65,67-68,84-86,91-96,109-119,179-183. </ref>。
:1. 投げている投手に関すること：
:*投手の力量の高低<ref>野村『野村ノート』 pp.62,67. </ref><ref>梨田『フィールドの指揮官』 p.94.</ref><ref>大矢 pp.77-78. </ref><ref>古田 pp.32,66. </ref><ref>山倉 p.181. </ref>
:*投げられる変化球の種類や得手不得手<ref>野村『野村ノート』 p.63. </ref><ref>梨田『フィールドの指揮官』「第5章 投手に信頼されるインサイドワークとは」 p.94. </ref><ref>大矢 pp.19,22,26,158. </ref><ref>山倉 p.56. </ref><ref>松下 p.21.</ref>
:*コントロールの良し悪し<ref>森 pp.207-209. </ref><ref>梨田『フィールドの指揮官』 pp.120,150-153,181.</ref><ref>大矢 p.22. </ref><ref>山倉 p.113. </ref>
:*投手の性格（常に冷静なタイプか、打たれるとカッとしやすい性格か、ピンチでも強気な投手か、弱気になりやすい投手か、おだてて気分を乗せた方がよい投手か、叱責して気を引き締めた方がよい投手か、テンポよくペースの乗って投げたい投手か、じっくり落ち着いて投げることを好む投手かなど）<ref>梨田『フィールドの指揮官』 pp.94,128,212. </ref><ref>大矢 pp.16,20,21,25,149-150. </ref><ref>古田 pp.139-143. </ref><ref>森 pp.32-34,72,205-210,214. </ref><ref>山倉 p.67,98,145. </ref>
:*投手のその日の調子<ref>野村『野村ノート』 pp.65,68. </ref><ref>梨田『フィールドの指揮官』「第6-9章」 pp.115-116,121,203,208-209. </ref><ref>大矢 pp.19,22,44,65. </ref><ref>古田 p.32. </ref><ref>森 pp.163-164. </ref><ref>山倉 p.115,185. </ref>
:*投手の疲労度<ref>森 p.86. </ref><ref>大矢 pp.22,28,44. </ref><ref>山倉 p.58,180. </ref><ref>松下 p.60. </ref>
:*その局面での投手の心理状態<ref>梨田『フィールドの指揮官』「第6-9章」pp.109,122,135,144-145,149,163-164,191-192,207. </ref><ref>大矢 pp.21,27,54,66. </ref><ref>古田 pp.83-94. </ref><ref>森 pp.79,83. </ref><ref>松下 p.21. </ref><ref>山倉 p.67-68,182. </ref>
:*投手がある程度の割合でコントロールミスや失投をすることを想定した上で、たとえ打たれたとしても本塁打や長打になる確率が低く失点を最小限に抑える配球<ref>野村『野村ノート』 pp.61,92-93. </ref><ref>梨田『フィールドの指揮官』「第6章」 pp.135,138,199. </ref><ref>大矢 pp.94-95,158. </ref><ref>古田 p.35. </ref><ref>森pp.225,229-230,235,237. </ref><ref>山倉 p.110,113. </ref>など
:2. 相手の打者に関すること：
:*相手の個々の打者の能力や特徴・傾向<ref>野村『野村ノート』 pp.65,85-88. </ref><ref>梨田『フィールドの指揮官』 pp.99-100,128,150,155,212. </ref><ref>大矢 pp.17,44,68-69. </ref><ref>古田pp.66,91,133-137. </ref><ref>森 p.84. </ref><ref>松下 pp.121-123. </ref><ref>山倉 pp.56,157-158. </ref><ref>赤松 p.249. </ref>
:*打撃での癖<ref>野村『野村ノート』 p.47. </ref><ref>梨田『フィールドの指揮官』「第5章 投手に信頼されるインサイドワークとは」 pp.99,100. </ref><ref>大矢 pp.44,46,52. </ref><ref>山倉 p.57. </ref><ref>松下 pp.121-123. </ref>
:*打者の性格<ref>野村『野村ノート』 p.64. </ref><ref>梨田『フィールドの指揮官』「第6章」 p.120. </ref><ref>古田 p.74. </ref><ref>森 pp.210-212. </ref><ref>松下 pp.121-123. </ref><ref>山倉 p.93. </ref>
:*最近の打ち方の傾向<ref>大矢 pp.17,53-55. </ref><ref>山倉 p.56. </ref>
: （これらの諸データは主に自チームの[[スコアラー]]から提供される）
:*打者の心理<ref>野村『野村ノート』 pp.32,35-40,45-49,53-55,62,64-65,84,125. </ref><ref>梨田『フィールドの指揮官』pp.100,101,116-118,128,135-138,144-145,157,170-175,210-211. </ref><ref>大矢 pp.61,63-67. </ref><ref>山倉 pp.58-59,94,109-114,116,158,174-175,191. </ref><ref>古田 pp.66,73-75,77,82-90,100,129-131,138-139. </ref><ref>森 pp.79,83. </ref>
:*打者のその日の調子<ref>野村『野村ノート』 p.62. </ref><ref>梨田『フィールドの指揮官』「第5章」 p100. </ref><ref>大矢 pp.17,22,65. </ref><ref>山倉 p.56. </ref>、など
:3. 試合の状況に関すること：
:*点差やその時の走者の状況<ref>野村『野村ノート』 pp.63,65. </ref><ref>梨田『フィールドの指揮官』 pp.102,105-106,126. </ref><ref>大矢 pp.31,81-94. </ref><ref>古田 p.66. </ref><ref>森 p.83. </ref><ref>山倉 p.179. </ref><ref>赤松 p.249. </ref>
::・同点または僅差で競っており1点もやれない状況か、勝っており1点～2点は取られてもよい状況か
::・内野ゴロを打たせるべき状況<ref>野村『野村ノート』 p.63. </ref><ref>梨田『フィールドの指揮官』「第7-8章」 pp.159,161-164. </ref><ref>大矢 p.44. </ref>
::・ファールを打たせたい状況<ref>梨田『フィールドの指揮官』 pp.118-119,121,129,160-161. </ref><ref>山倉 p.112. </ref><ref>古田 pp.77-82. </ref>
::・外野フライを打たれてはいけない状況<ref>大矢 pp.89-90. </ref><ref>山倉 p.111. </ref>
::・三振を取りたい状況<ref>野村『野村ノート』 p.63. </ref><ref>大矢 p.44. </ref><ref>古田 p.126. </ref><ref>森 pp.232-233,247-248. </ref><ref>山倉 pp.85-86,111-113,182. </ref>など
:*その打席での相手打者や相手ベンチの狙い
::・相手が狙っている球種やコース<ref>野村『野村ノート』 p.84. </ref><ref>梨田『フィールドの指揮官』 pp.100-101,118,126-127,132. </ref><ref>大矢 pp.22,42,46-50,65-66. </ref><ref>古田 pp.129-132. </ref><ref>森 pp.208-209. </ref><ref>山倉 pp.91,93-94. </ref>
::・初球狙いかじっくり球を待ってくるか<ref>野村『野村ノート』 p.47. </ref><ref>大矢 pp.22,44,49-50,58-59,68-69. </ref><ref>古田 pp.72,74. </ref><ref>森 p.211. </ref><ref>山倉 pp.56-57,111-112. </ref>
::・打者が打とうと狙っている方向<ref>野村『野村ノート』 pp.37-40. </ref><ref>大矢 pp.22,42,46-48,137. </ref>
::・[[バント]]<ref>森 p.84. </ref><ref>大矢 pp.82-83,85-86. </ref>・盗塁・[[ヒットエンドラン]]<ref>森 p.84. </ref><ref>大矢 pp.47-48. </ref><ref>山倉 pp.147-149. </ref>・[[スクイズプレイ]]等の可能性の有無<ref>大矢 pp.84-85,87-88,90-94. </ref><ref>古田 p.128. </ref>など
:*守っている味方の野手陣の守備力、足、肩 （どこへ打たせたいか、どこへ打たれたくないか）
:*球場の条件
::・球場の形状や特徴<ref>大矢 p.18. </ref><ref>赤松 p.249. </ref>
::・屋外球場の場合は、天候・風向きと風の強さ<ref>森 p.83. </ref><ref>大矢 p.18. </ref><ref>赤松 p.249. </ref>
::・[[デーゲーム]]の場合は外野手の視線に入る太陽の位置<ref>大矢 p.18. </ref>など
:*自チームのサインやリードの癖を相手チームに読まれないこと<ref>カンパニス pp.59-65.</ref><ref>野村『野村ノート』 pp.32,36,64,93-94,195,198.</ref><ref>梨田『フィールドの指揮官』 p.20. </ref><ref>梨田『戦術眼』 p.169. </ref><ref>牧野 pp.188-192. </ref><ref>大矢 pp.68,70-71,73-74,98-100,123,126-127,161. </ref><ref>古田 pp.19,40. </ref><ref>森p.212. </ref><ref>山倉 pp.77-79,157,180. </ref><ref>織田 p.37. </ref><ref>赤松 pp.125-126. </ref>。投手が次に投げる球がストレートか変化球かわかっていれば、プロの一軍レベルの打者は打てる<ref name="NomuraProD">野村『野村ノート』 pp.32,36,64.</ref><ref name=" MakinoProD ">牧野 p.191. </ref><ref name=" OyaProD ">大矢 pp.70-71,73-74,129-130,161. </ref><ref name=" YamakuraProD ">山倉 pp.79,157,169-172. </ref><ref name=" HashigamiProD ">橋上 p.170.</ref><ref name=" AkamatsuProD ">赤松 p.249. </ref>からである。投手が良い投球をしているにもかかわらず連続して安打を打たれた場合には、捕手の配球（捕手が出すサイン）が相手チームに読まれている可能性を捕手が疑い、サインの出し方を捕手が変更することも少なくない<ref>カンパニス pp.61-62.</ref><ref>大矢 pp.69-71,73-74.</ref><ref>山倉 pp.76-77. </ref>。
捕手は、これらの諸要素を総合的に判断して打者への攻め方（投球）を組み立て、一球ごとの配球を考え、その配球を投手へ指示すると共に、味方の野手に守備位置やサインプレー等を指示する。
捕手はこれらの役割を負っているため、プロレベルの捕手は、
# 冷静さ：いかなる状況でも慌てたり短気にならない冷静さ・慎重さ<ref>野村『野村ノート』 pp.61,90-94., </ref><ref>梨田『フィールドの指揮官』「第6-9章」pp.120-121,139,143,153,157,203. </ref><ref>大矢 p.24, </ref><ref>山倉 p.118. </ref><ref>古田pp.20-21,24,29.32. </ref><ref>森 pp.45,84,230. </ref>
# 記憶力：スコアラーから提供されたデータや過去の対戦での配球とその結果などを記憶しておく記憶力<ref>大矢 p.54. </ref><ref>古田 pp.76,129. </ref><ref>森 pp.77,213. </ref><ref>山倉 pp.56,191. </ref><ref>赤松 pp.75-76. </ref><ref>松下 p.21. </ref>
# 観察力：相手の打者・走者・ベンチの些細な動作などから相手チームの狙いやサインを見抜き<ref>野村『野村ノート』 p.47. </ref><ref>梨田『フィールドの指揮官』 pp.100-101,127,132-133,156,182-184. </ref><ref>大矢 pp.44,46-50,55-57,98-99. </ref><ref>古田 pp.130-132. </ref><ref>森 p.209. </ref>、投手の表情や動作などから投手の調子や疲労度<ref>野村『野村ノート』 pp.49,67. </ref><ref>大矢 pp.23-24. </ref>・心理状態などを察知する観察力<ref>野村『野村ノート』 p.49,50,62-63,65,83-84,93. </ref><ref>梨田『フィールドの指揮官』「第6-9章」 pp.123,185,200,203. </ref><ref>山倉 pp.84-96,176. </ref><ref>赤松 p.76</ref>
などが重要とされている<ref>赤松 pp.24-25,75-76,160,185-287. </ref><ref>野村『野村ノート』(2009) pp.39-40,49,63,93-94. </ref><ref>梨田『フィールドの指揮官』 (2006) pp.98, 224. </ref><ref>森 pp.43-50.</ref><ref>大矢 pp.49-50,55-56,145,149-150,165. </ref><ref>古田 pp.18-21,24,29-34, 75, 129-132, 148.</ref>。
捕手によるリードは、中学校野球部の捕手が共通して監督から指導されるようなセオリーがあり、プロにおいてもリードのセオリーと考えられているものがある<ref name="Nashidar"/><ref>織田 pp.15-16</ref><ref>野村『野村ノート』 pp.32,46-48,99-100. </ref><ref>梨田『フィールドの指揮官』 pp.98-99,116-117,125,196. </ref><ref>森 p.235. </ref><ref>大矢 pp.42-43,159. </ref><ref>山倉 pp.65,75,84-85,113-116,119,156. </ref><ref>古田 pp.75,129. </ref><ref>赤松 p.221. </ref>。捕手は、そのセオリーに個々の状況に応じて上記の様々な要素を加味して投手の投げる球種やコースを決めて投手に指示する。プロにおいては、名捕手と呼ばれる捕手のリードは必ずしもセオリー通りではない場合もあり個々の捕手によって独自のノウハウや個性もあるため「リードに絶対はない」とも言われているが、梨田昌孝は、「リードに絶対はないが、絶対に限りなく近いものはある」とし、それを追及していくためには、捕手は上記の様々な要素を常に観察して見抜く観察眼が重要であると自著に記している<ref name="Nashidar">梨田『戦術眼』(2008) pp.164-165</ref>。
このように、捕手は野球の守備において投手および守備陣をリードしチームの失点を防ぐ重要な役割を担っているが、捕手に必要な能力の第一はキャッチングの能力・技術とされ、日本のプロ野球チームにおいては、まず第一に投手のどんな投球でも捕球でき後逸しないことが捕手の必須の条件とされ、それに次いでリードの能力が重要であるとされている<ref name="NomuraRole"/><ref name="AkamatsuRole"/><ref name="NashidaRole"/><ref name="MatsushitaRole"/><ref name="MoriRole">森 pp.25,30-32.127.</ref><ref name="OyaRole"/><ref name="FurutaRole"/>。
==== CERA ====
捕手のリードの良否を客観的な数値で判定するのは簡単ではない。指標としては、その捕手がマスクをかぶっている時の防御率、特に自軍のチーム防御率と比較することでリードの良し悪しを判定する「CERA」（捕手[[防御率]]、Catcher's ERA: Catcher's Earned Run Average ）がある。
投手が同じでも、捕手
|author=出野哲也 「2008捕手ランキング リードの客観的評価は可能なのか」
|title=『月刊スラッガー』 No.122 , 2008年6月号
38 ⟶ 117行目:
|pages=68頁
|id=ISBN 978-4861913983
}}</ref>
捕手のリードの良し悪しを数値で示す客観的な指標はまだ確立されていないため、前述のCERAがある程度の目安として用いられており、チームの正捕手のリードを評価する場合には、チーム防御率などで代用される場合もある。
CERAおよびチーム防御率は、チームの投手陣の良否に左右されるが、一方、前述のように投手陣の防御成績も、捕手のリードの良否によって左右される<ref>織田 pp.52,98-103,133. </ref><ref name="Nashidacera">梨田 (2006) p.227. </ref><ref name="Oyac">大矢 p.116. </ref><ref>古田 pp.14, 31-35</ref>。野球チームは、失点をできるだけ少なく抑えて試合に勝つことがチームの目的であり、投手陣が弱体であるため失点が多くても許されるとは言えないため、投手陣の良否や守備力の良否がどうであれ、現有の投手陣を用いて結果的に失点を抑えることがバッテリーの役割とされている。失点を抑えたか否かの防御成績であるCERA（またはチーム防御率）の数値は、[[バッテリー]]の「能力」を示すものではなく、バッテリーを組む捕手のリードと投手の投球の共同作業の「結果」（成績）を示している。
CERAは主に以下の用途の目安として用いられる。
#自軍のチーム防御率と比較してリードの良し悪しを評価する場合
#個々の投手の防御率と比較することによって捕手と投手の相性を見る場合
#同じチーム内の複数の捕手のリードの結果を比較する場合
#各年度の防御成績を比較する場合
#チームの正捕手が代わった場合に、前年までの正捕手と新しい正捕手のリードの結果を比較する場合、など
=== フィールディング ===
[[File:Kevin Cash.jpg|thumb|upright|飛球を追う[[ケビン・キャッシュ]]。]]
捕手の守備は、ただ座っているだけではなく、[[バント]]の処理やキャッチャーフライの捕球の他に、走者がいない状況で相手打者が打った時は、味方の野手がエラーした場合に備えて一塁へ[[ベースカバー]]（バックアップ）に走らなければならない<ref>梨田『フィールドの指揮官』 pp.68-71, </ref><ref>大矢 pp.177-178. </ref><ref>山倉 pp.33-35. </ref><ref>織田 p.188. </ref><ref>古田 pp.111-112</ref>。相手打者が打った時に味方野手のバックアップに走る回数は捕手が最も多い<ref>山倉 pp. 33. </ref>。1試合に10本前後から多い場合には15本以上の内野ゴロがあり、その度に捕手は一塁へバックアップに走る<ref>山倉 pp. 33-35. </ref>。
また、状況に応じて三塁のベースカバーもあり、特に、打者がバントしたゴロを三塁手が処理する場合は、空いた三塁のベースカバーに捕手が走ることが多い<ref>カンパニスp.74.</ref><ref>梨田『フィールドの指揮官』 p.69.</ref><ref>古田 p.68. </ref><ref>山倉 p.33. </ref>。これらの他に、走者を挟んで挟殺する[[ランダウンプレイ]]にも捕手は参加する<ref>梨田『フィールドの指揮官』 p.69-71.</ref><ref>古田 pp.115-116. </ref>。このため捕手は、1試合に走る総距離が内野手を上回ることも多い。
捕手は、投手の全ての投球をリードして捕球するなど、チームの全選手の中でプレイへの関与数が最も多く、俊敏な動きを要求される頻度が選手の中で最も多いため、肉体面でもヘッドワークでも負担と責任の重い重労働のポジションと呼ばれている。
=== 送球 ===
[[File:Dusty Brown throws out Coco Crisp at Red Sox at A's 2010-07-21.JPG|thumb|盗塁阻止のため送球する捕手。]]
走者が出た状況では、捕手は[[盗塁]]の阻止や[[走者]]の[[牽制]]などで素早い[[送球]]と送球技術が必要である。
捕手の盗塁阻止の成績を示す指標として[[盗塁阻止率]]があるが、盗塁の阻止には捕手の肩の強さよりも、投手の球を捕球してから二塁などへ送球する動作の素早さの方が重要であり<ref>梨田『フィールドの指揮官』 pp.42,54-57. </ref><ref>大矢 p.171. </ref><ref>山倉 pp.136-138. </ref><ref>古田 pp.52,56-60.</ref>、またプロ野球チームでは、盗塁の阻止には捕手よりも投手が投球動作を素早くする[[クイックモーション]]の方が重要視されている。
盗塁阻止の送球が内野手へ届く所要タイムの短縮には、捕手の送球そのものの球速（捕手の肩の強さ）や捕手の送球動作の素早さよりも、投手の投球動作を素早くする方がタイム短縮に効果があるためである<ref>赤松 pp.13,113-128. </ref><ref>大矢 pp.104-105,147 </ref><ref name="Odas">織田 pp.180-184. </ref><ref>山倉 pp.135-136,139,151,153. </ref>。
「投手 '''→''' 捕手 '''→''' 二塁」への送球に要する時間は通常3.2秒～3.4秒であるのに対し、走者が一・二塁間27.43mを走るタイムは通常3.6秒～3.8秒前後かかるため、投手・捕手・内野手が動作のタイムロスを無くせば、通常は、捕手の肩が平均レベルでも盗塁は阻止される<ref name="Odas"/><ref>牧野 p.185. </ref><ref>赤松p.118</ref>。また、盗塁時に、走者は投手の投球動作の癖を盗んでスタートを切る<ref>野村『野村ノート』(2009) pp.24-25. </ref><ref>牧野 pp.185-186. </ref><ref>梨田『フィールドの指揮官』 p.69.</ref><ref>山倉 p.147. </ref><ref> [http://souruisyubicom.web.fc2.com/tourui.html 盗塁（スチール）の基本 走塁/守備.com]</ref><ref>[http://www.chunichi.co.jp/chuspo/article/column/eto/CK2009032102000137.html 中日スポーツ新野球教室 : 「盗塁のコツを教えてください」 2009年3月21日]</ref><ref> [http://www.npb-jubf2009.jp/sourui/entry12.html 盗塁のコツ・テクニック]</ref><ref> [http://www.yakyujuku.net/2009/02/post_1.html 盗塁テクニック＝盗塁のコツ]</ref>ため、投手が癖を盗まれないようにすることが極めて重要である<ref>大矢 pp.104-105,108. </ref>。
このように、盗塁阻止は投手と捕手の共同作業であり、盗塁された場合には捕手よりも投手の責任の方が大きいとされている<ref name="Odas"/><ref>大矢 pp.104-105. </ref>。
盗塁阻止での捕手の役割は、
# 投手陣が[[クイックモーション]]を身につけるよう指導すること。これは監督・コーチとも共同で行なう必要がある<ref>赤松 pp.111,117-118,121. </ref><ref>織田 p.175. </ref>。
# 相手チームの盗塁の意図やサインを見抜くこと。
# 投手に[[牽制球]]を投げさせ、内野手も走者を牽制する動作をするよう捕手からサインを出し、捕手自身も走者を牽制すること<ref name="Odas"/><ref>大矢 pp.106-111. </ref><ref>山倉 pp.81,135,138,151,153. </ref>。
# 狙ったベース上の位置へ正確に送球するために、正確性を高める練習を重ねること。盗塁は、許しても直ちに失点には直結しない（盗塁されても後続の打者をアウトにすれば失点はしない）が、捕手が悪送球をすると相手走者に進塁され、失点を招くため、捕手の送球は肩の強さよりも正確性が重要視されている<ref>梨田『フィールドの指揮官』「第2章」 pp.42-53, 224.</ref><ref>大矢 p.179. </ref><ref>古田 pp.52-54.</ref><ref>山倉 pp.139,151. </ref>。
# 送球そのものの球速（捕手の肩の強さ）よりも、捕球から送球への動作を素早くする練習を重ねること。<br />
などである<ref name="Odas"/><ref>梨田『フィールドの指揮官』 「第2章」 pp.42-53,225-227. </ref><ref>大矢 pp.171-173. </ref><ref>古田 pp.55-60.</ref><ref>山倉 pp.136-138. </ref>。
バッテリーが盗塁を阻止する能力が高い場合は、相手走者が警戒するため、盗塁を企画される回数が減少する傾向がある。
但し、以下のように、野球においては盗塁されることによる失点数よりも、リードの拙さによって打者に打たれる失点数の方が多いため、チームの失点を防ぐためには、盗塁阻止を過度に意識するよりも、打者をアウトにすることに集中する方が失点の防止には効果が高い傾向がある。
:::例1： 許盗塁数 [[得点圏打率]] 失点 （年間144試合）
::: 80 × 約3割前後 ≒ 24点前後
::: <u> 20 × 約3割前後 ≒ 6点前後 .</u>
::: 差 60 なし 18
上記の例1は、盗塁されることによる平均的な失点数である。プロ野球の正捕手の場合、許盗塁80は極めて多い水準であり、許盗塁20は極めて少ない水準である。
仮に80盗塁されても、走者が二塁（得点圏）にいる状況で打者が安打を打つ確率は平均3割前後であるため、失点は多くとも年間24点程度にとどまり、少ないケースで20盗塁された場合は10点未満（6点前後）であることがわかる。従って、許盗塁を80から20へ減らしても、失点を減らす効果は年間18点未満にとどまることがわかる<ref>得点圏打率（各チーム）の例：[http://baseball.yahoo.co.jp/npb/teams/5/memberlist?type=b&ord=23&srt=1 Yahoo! Japan/スポーツ/プロ野球/チーム/捕手･野手]</ref><ref>[http://kamakura.cool.ne.jp/kojikiro/index.htm こじきろ（プロ野球個人記録 2000-2004）]</ref><ref>「得点圏打率は僅かながら通常の打率よりは高めで推移するものである。」出典：[http://www.baseball-lab.jp/column_detail/&blog_id=10&id=40 SMR Baseball Lab]の最下段</ref><ref>[http://espn.go.com/mlb/stats/team/_/stat/batting/year/2007/split/39/sort/avg/order/true メジャーリーグのチーム得点圏打率の例（Scoring Position でのチーム別のBA: Batting Average） ESPN.com]</ref><ref>得点圏打率は、個々の状況やチームや年度によって異なり打者によっては4割以上や2割未満もあるが、平均値が3割5分以上の高率や2割程度の低率になることは無く、平均水準は3割弱もしくは3割前後にある。</ref>。
:::{|class="wikitable" style="text-align: right;"
|+ 例2： 盗塁数の違いによる失点の差 （年間144試合）
! 許盗塁 .<br /> 失点 !! 20 <br /> 6 !! 30 <br /> 9 !! 40 <br /> 12 !! 50 <br /> 15 !! 60 <br /> 18 !! 70 <br /> 21 !! 80 <br /> 24
|-
! 80 24
| 18 || 15 || 12 || 9 || 6 || 3
|-
! 70 21
| 15 || 12 || 9 || 6 || 3
|-
! 60 18
| 12 || 9 || 6 || 3
|-
! 50 15
| 9 || 6 || 3
|-
! 40 12
| 6 || 3
|-
! 30 9
| 3
|-
! 20 6
|} <small>（縦軸の失点数）－（横軸の失点数）＝ 失点の差</small>
上記の例2は、許盗塁を減らすことによる失点の差を表にしたものである。縦軸の失点数から横軸の失点数を引いた差が「失点の差（減らせた失点数）」である。24失点（縦軸1行目）－6失点（横軸）＝18点 であり、18失点（縦軸3行目）－12失点（横軸）＝6点 である。
上記のように、許盗塁を減らすことによって失点を減らす効果は多くとも年間20点未満であり、平均的にはおよそ年間10点前後にとどまることがわかる。
これに対して、捕手のリードの拙さによって打者に打たれることの方が、チームの失点は増加する傾向がある。
前述のようにチームの投手陣は捕手のリードに従って投球するため、捕手からの指示によってチームの投手陣の投げる球種・コースが変わる （[[#リード]] を参照）。このため、捕手のリードが拙い場合は、打者に打たれる安打や本塁打が増加し、打たれる安打や本塁打が1試合当たり1～2本増えるとチームの失点数や勝敗へ影響を与える。一例として1試合当たりの失点が0.5点（2試合に1点）増えた場合は年間144試合で失点数は72点増加することになり、許盗塁による失点数（年間20点未満）を大幅に上回る。捕手のリードの拙さによって打者に打たれる場合では、チームの年間失点が数十点～100点前後増加してチーム防御率が0.50～0.80以上悪化し、プロ野球の平均値である1試合平均4点<ref>1試合平均失点＝年間総失点÷試合数（2006-2010の5年間）： 2006年 セ 4.05 パ 4.00、2007年 セ 4.16 パ 3.90、2008年 セ 4.03 パ 4.25、2009年 セ 3.94 パ 4.32、2010年 セ 4.49 パ 4.29 （データ：[http://bis.npb.or.jp/yearly/pacificleague_2006.html 日本プロ野球機構オフィシャルサイト「年度別成績」]）</ref>を超えてしまう場合がある。<br/>プロ野球は年間144試合での勝率を競うリーグ戦方式であるため、プロ野球チームが勝率を上げてリーグ上位を狙い優勝を目指すためには、守りの面では、1試合の平均失点をリーグの平均以下（4点未満：3点台）へ抑えることが重要な要素となる。
これらの数字により、盗塁阻止は、失点を防止する効果は低く、失点を少なく抑えるためには、盗塁阻止を過度に意識するよりも、打者をアウトにすることに集中する方がチームの失点を防止する効果が高いことがわかる。
また、[[アメリカ野球学会]]（SABR）による[[セイバーメトリクス]]（統計分析手法）は、盗塁は失敗するリスクが高く成功しても得点できる確率が低いため、得点期待値を下げる行為と定義しており、統計上、盗塁の成功確率が7割以上（失敗の確率3割未満）でなければ盗塁は試みない方がよく、打者に打たせた方が得点期待値が上がると結論付けている<ref>ルイス pp.106, 108, 169.</ref><ref>データスタジアム pp.22, 38.</ref><ref>アルバート pp.49-55.</ref><ref>スポーツナビ, [http://www.plus-blog.sportsnavi.com/student/article/10 「盗塁の効用について」 2010年7月15日] </ref>。
日本においても、プロ野球の実際の試合データを検証した調査（2005年）で、無死走者一塁のケースにおいて、盗塁を試みたケースよりも盗塁を試みなかったケースの方が得点確率および獲得した平均得点ともに高いという統計結果が出ており、アメリカのセイバーメトリクス手法の結論と同様に、盗塁は成功確率が7割を超える高い確率のとき以外はしてはならないと結論されている<ref>加藤、山崎 pp.92-95</ref>。
日本のプロ野球の盗塁阻止率（盗塁失敗の確率）は平均3割を上回る<ref>日本のプロ野球（2006年～2010年の5年間）においては、盗塁企画数 6,965回に対して、盗塁成功 4,779回、失敗 2,186回、盗塁阻止率 3割1分4厘、成功率 6割8分6厘。（データ： [http://bis.npb.or.jp/2010/stats/tmb_p.html 日本野球機構オフィシャルサイト「年度別チーム成績」]）</ref>ため、上記の統計分析に基づくと、攻撃側は、盗塁は成功する確率が極めて高くない限り、試みない方が得点の可能性は上がることとなる。
この統計結果を守備側にあてはめると、走者の盗塁をアウトにすることは有益であるが、盗塁阻止能力が上がり相手チームが盗塁を試みなくなると、むしろ相手チームの得点期待値は上がることになるため、相手走者が盗塁を試みなくなることが失点の防止に有効とは言い切れないこととなり、統計上は、盗塁阻止を過度に意識するよりも、打者を打ち取ることに集中する方が失点を防ぐ効果が高いことになる。
但し、上記のセイバーメトリクス手法の分析結果は、野球の従来の戦法・戦術を真っ向から否定している形であるためメジャーリーグ関係者からの反発もあり、盗塁および盗塁阻止の有効性については見方が分かれている。
盗塁について、日本とアメリカの双方で[[盗塁王]]の経験を持つ[[イチロー]]は、盗塁は成功率を重視し、盗塁数を増やすことはそれほど重視していないとコメントしており、特に2006年頃からはクイックモーションや警戒の不充分な相手投手を選んで盗塁するスタイルをとっている。また、「打撃は成功率が良くて3割強だが、走塁は成功率が10割に近くないといけない」と述べている{{要出典|date=2011年2月}}。
プロ野球では、走者が、盗塁の意志が無いが盗塁を狙っている振りを演じ、バッテリーの注意を走者へそらして打者を有利にするプレイ（偽装盗塁）もしばしば行われている<ref>野村『野村ノート』(2009)p.23.</ref><ref>牧野 p.146. </ref><ref>山倉 p.153. </ref><ref>アルバート p.49.</ref><ref>加藤、山崎 p.95</ref><ref> [http://souruisyubicom.web.fc2.com/tourui.html 「偽装走塁」：盗塁（スチール）の基本 走塁/守備.com]</ref>。バッテリーが走者の盗塁阻止を意識すると、打者の内角への投球は捕手が二塁へ送球しにくいため外角球が多くなったり、球速の遅い変化球を避けてストレートを多くしたり、捕手が後逸する恐れのある低めの球や落ちる変化球は使いづらくなるなど、バッテリーの配球の選択肢が減るため打者が配球を読みやすくなり、長打の確率が増す可能性もあるためである<ref>大矢 pp.105-106</ref><ref>小林 pp.15,199-200.</ref><ref>山倉 pp.149-151,154. </ref>。
稀なケースとしては、バッテリーがわざと油断している振りをし、走者に盗塁を試みさせて二塁でアウトにするというトリックプレイもある<ref>牧野p.188. </ref>。
なお、野球の守備における送球は、捕手よりも外野手の方が強肩の必要度が高い傾向がある。盗塁は許しても直ちに失点に直結するわけではないのに対して、外野手はバックホームや内野への返球で相手走者のホームインや進塁を直接防ぐ必要があり、プロ野球では年間144試合を行うなかに、外野から好送球を必要とする場面が多いためである<ref>送球の必要回数：野球の安打は、本塁打と内野安打を除くすべての安打は、外野へ直接または内野手の間を抜けて外野へ到達するため外野手が処理し、外野手は走者のホームインや進塁を防ぐために直ちに内野または本塁へ送球しなければならない。また、二死以外で走者がいる場合は、外野手はフライを捕球後直ちに内野または本塁へ送球する。
2006-2010年の5年間における被本塁打を除く被安打数は1チーム平均 1,152本／年であり、外野手が送球する回数は1ポジション当たり年間300～500回前後となる。
それに対して捕手の送球は、盗塁を企画される回数は同5年間で1チーム平均116回／年（正捕手だけでなくチームの全捕手の計。このうち平均阻止率 3割1分4厘）であり、捕手が走者を牽制する送球の回数を含めても、送球の必要回数は捕手よりも外野手の方が多い。このため外野手は肩の良さが必要とされる。（データ： [http://bis.npb.or.jp/2010/stats/tmb_p.html 日本野球機構オフィシャルサイト「年度別チーム成績」]）</ref>。
=== ブロック ===
[[File:Huff and Navarro.jpg|thumb|本塁上で走者をブロックする捕手]]
相手走者が三塁からホームインしようとする時は、捕手は本塁をブロックする技術が要求される<ref>梨田『フィールドの指揮官』 pp.78-79. </ref><ref name="Oyab">大矢 pp.174-175.</ref><ref>織田 pp.167-172. </ref><ref>古田 pp.116-120.</ref>。この時、走者が捕手へ激しく体当たりすることも多く、捕手が負傷する原因の多くがこの本塁上の[[クロスプレイ]]である。本塁のブロックでは、捕手には俊敏性と体の柔らかさが必要とされている。クロスプレイでは、走者に素早くタッチする俊敏性、走者との衝突による怪我を防ぐために、激しい衝突を素早く避ける俊敏性、衝突の衝撃を和らげる身体的柔らかさが重要である。
時に行われるトリックプレーの一種として、三塁走者が本塁へ疾走して来る時に捕手が本塁上で構えず、立ち上がって外野からまだ返球が来ないような振りをして走者を油断させ、返球が来たと同時に[[タッグアウト]]<ref name="tag">「タッグアウト」とは、タッチアウトのこと。野球用語で一般的に呼ばれている「タッチ」は、『公認野球規則』では「タッグ（tag）」と記されており、「タッチアウト」は公認野球規則では「タッグアウト」、「タッチする」は「タッグする」という。出典： 梨田『フィールドの指揮官』 pp.78-79.</ref>にするプレーがある<ref name="Oyab"/>。これは、走者には外野からの返球が見えないレフト側から返球が来るケースなどに行われる。
逆に、ライト側からの返球を受けるケースでは、捕手には本塁へ走ってくる走者が見えにくく、捕手が体を左へひねり無理な姿勢でタッグ<ref name="tag"/>しにいった所へ走者が突入して来るため大きな怪我が起きることもある<ref>梨田77-79.</ref>。
[[大矢明彦]]は、怪我やミスは想定外のことが生じたケースで起きるため、本塁上のクロスプレーでは「いい返球は来ないと思え」と自著に記し、捕手は、俊敏なフットワーク、俊敏に走者にタッグする技術と共に、1点を争う切迫した状況でも、冷静な判断により想定外のことが起きても対応できるようにしておくことが必要であるとしている<ref name="Oyab"/>。
=== 監督の分身として ===
[[File:Joe and Yogi.JPG|thumb|[[ヨギ・ベラ]]（左）と[[ジョー・トーリ]]（右）は共に捕手出身であり、[[ワールドシリーズ]]を制した監督である。]]
捕手は野球の守備位置の中で唯一投手に正対し、グラウンド全体を見渡すことが出来る場所に居る。そのため[[ボールカウント]]や[[アウト (野球)|アウトカウント]]、[[得点]]差などを考慮し、[[打者]]の意図を見抜き、味方野手へ[[シフト (野球)|シフト]]や送球先を指示する役割を担っている<ref>赤松 pp.234-235. </ref><ref>梨田『フィールドの指揮官』 pp.220,227. </ref><ref>森 pp.40-41,43,125.</ref><ref>古田 pp.120-128</ref><ref>山倉 pp.20,81-83,194. </ref>。守備陣を指揮しチームの守りに責任を持つ捕手のこの役割は、アメリカでは、「フィールドのキャプテン」 “a captain of the field” や「フィールド上のリーダー」 “a leader on the field” とも呼ばれ<ref>アメリカで捕手が "a captain of the field" とも呼ばれる例 : [http://www.ehow.com/list_6711029_drills-baseball-catchers.html [例1]]、 [http://www.ehow.co.uk/new-in-1167240.html [例2]]、 [http://www.livestrong.com/article/160397-importance-of-catchers-gear/ [例3]]、 [http://www.livestrong.com/article/171607-baseball-mental-fundamentals/ [例4]]、 [http://www.webball.com/cms/page1157.cfm [例5]]、 [http://hubpages.com/hub/The-5-Best-Catchers-in-Baseball-Today [例6]]、 [http://en.wikipedia.org/wiki/Catcher#Calling_the_game [例7]]、同 "a leader on the field" とも呼ばれる例 : [http://learningbaseball.com/catcher.htm [例8]]、[http://www.eteamz.com/baseball/instruction/artofcatching/clinic.cfm/The%20Role%20of%20a%20Catcher/ [例9]]</ref>、日本では、「守りの要」、「グラウンド上の監督」とも呼ばれる<ref>野村『野村ノート』 p.91. </ref><ref>大矢 pp.116,145. </ref><ref>捕手が「グラウンド上の監督」とも呼ばれる例 : [http://mainichi.jp/enta/sports/archive/news/2011/02/02/20110202ddm035050109000c.html [例1: 2011年2月2日 毎日新聞]]、 [http://amakuchisisi.blog129.fc2.com/blog-entry-1159.html [例2: 2011年1月 J-COM LIONS TVより]]、[http://www.giants.jp/G/lecture/lecture1/report_931.html [例3]]、 [http://sportsnavi.yahoo.co.jp/baseball/npb/text/200812110007-spnavi.html [例4]] [http://maekawa.com/director-is-catcher/ [例5: 一般の例]]</ref>。野村克也は捕手の役割と機能を評して「キャッチャーは監督の分身」と語っており<ref name="nomura">野村『あぁ監督』 (2009), pp.41 - 47</ref>、さらに捕手は監督の分身としての役割を担うことと、投手をリードすることを通して他者を動かす術を学ぶために、捕手出身者は野球監督に向くとしている<ref name="nomura"/>。
実際に[[プロ野球監督|プロ野球の監督]]には捕手出身者が多い。
MLBでは、[[コニー・マック]]、[[ヨギ・ベラ]]、[[ジョー・トーリ]]など<ref>年代順に表記。以下同じ。 </ref>捕手出身者が極めて多く、2010年のシーズンにおいては、メジャーリーグ30球団の監督のうち12人が元捕手である<ref> [http://sportsnavi.yahoo.co.jp/baseball/mlb/2010/text/201004210001-spnavi.html スポーツナビ「元捕手の監督が最近の“トレンド”」 2010年4月22日] </ref>。NPBでも、野村、[[上田利治]]、[[森祇晶]]、などの監督が捕手出身であり、[[日本選手権シリーズ]]の優勝監督（1950～2010年）は、捕手出身の監督の優勝回数が最も多い<ref>日本選手権シリーズでの捕手出身の監督の優勝は14回（1950～2010年）。[[天知俊一]]、[[野村克也]]、[[上田利治]]、[[森祇晶]]、[[伊東勤]]。（[[日本選手権シリーズ#各年の日本シリーズ]]を参照）</ref>。
捕手がチーム全体の守備を指揮し統率する現在の捕手の役割を日本に初めて導入し浸透させたのは、[[読売巨人軍]]の監督を務めた[[川上哲治]]である。川上は、1961年に巨人の監督に就任するに当たり、メジャーリーグの[[ロサンゼルス・ドジャース]]の戦法を導入することを決意し、アル・カンパニス著『ドジャースの戦法』（”The Dodgers’ Way to Play Baseball” 1954, 邦訳は内村裕之, 1955～1957年ベースボールマガジン連載、1957年出版）をチームの教科書に使用し、サインプレーや守備の連係プレイを日本に初めて導入した<ref>松下 pp.73-74.</ref><ref>牧野 pp.16-17,83, 92-96, 167.</ref><ref>森 p.106-110,253.</ref>。1959年から巨人の正捕手を務めていた[[森祇晶|森昌彦]]（森祇晶）も、川上の指示により同書を読まされ、同書にある、「捕手として絶対に必要な条件は、守備陣を指揮する能力」であり「捕手は全守備陣を引き締める重要なネジである<ref>カンパニスp.59.</ref>」とする記述に、森は、「目からうろこ」の思いであり、「頭の中で音が鳴るほどの発想の大逆転が起こった」と後年述べている<ref name="Matsushita1">松下 p.74. </ref><ref>森 pp.107-110.</ref>。同書を教科書として、巨人はドジャース戦法の練習を何年間も積み重ねて身に着けた<ref>牧野 p.167.</ref><ref>森 pp.110-120,130.</ref>。その後、川上監督・[[牧野茂 (野球)|牧野茂]]ヘッドコーチを中心に正捕手・森を「司令塔」<ref name="Matsushita1"/>とする巨人は優勝を重ねて常勝チームとなり、巨人の圧倒的な強さの秘訣はドジャース戦法にあるとするスポーツ記事が増加したことにより、1960年代後半から他の各チームも巨人の戦法を参考にするようになったため、日本のプロ野球の捕手は、投手を含む守備陣全体の指揮官・司令塔の役割を担当するポジションとなっていった<ref>森 p.124-125.</ref><ref>梨田『フィールドの指揮官』 pp.8-9,97,226</ref><ref name="Matsushita1"/><ref>大矢 pp.116,145-146,219. </ref><ref>古田 pp.14-16</ref>。
1960年代以降、NPBでは監督・コーチによるコーチ・ミーティングに、選手の中で捕手だけが参加し、対戦チームのデータの分析や、相手打者の攻略法と自チームの守備のフォーメーションなどの作戦の打合せに参画することが多い<ref>牧野 p.262. </ref>。「近代野球を考察すると、捕手とは、スピードへの欲求から頭脳的なプレーを余儀なくされ、必然的に進化を遂げたポジションだったことがわかる」と森は述べている<ref>森 p.124. </ref>。
=== 打撃 ===
捕手は前述のとおり他の野手とは異なる守備技術が要求され、怪我の危険性も高いポジションであるため、比較的打撃力は重視されず、捕手は打撃よりも守りの役割および機能が重視され、攻撃時の捕手の[[打順]]は[[指名打者]]制なしでは8番打者か7番打者であるケースが多く、指名打者制ありでは8番打者か9番打者か7番打者であるケースが多い。そのため、プロの野球にお
プロの野球において打撃3部門（[[首位打者]]・[[本塁打王]]・[[打点王]]）のタイトルを獲得する捕手は少ない。MLBでは打撃タイトルを獲得した捕手は、[[アーニー・ロンバルディ]]、[[ジョニー・ベンチ]]、[[ジョー・マウアー]]など数人であり、NPBにおいても、1936年のプロ誕生以降、[[バッキー・ハリス (捕手)|バッキー・ハリス]]、[[服部受弘]]、[[野村克也]]、[[田淵幸一]]、[[古田敦也]]のわずか5人のみである。
捕手が1番打者をつとめることは極めて異例である<ref>1970年、南海ホークス選手兼任監督の野村克也は最終戦だけ打席数を稼ぐため1番を打っているが、他の129試合は4番を打っている。MLBでは[[ジェイソン・ケンドール]]は1番を打つことが多かった。</ref>。理由は俊足の捕手<ref>一般に1番打者は俊足の選手が起用されることが多い。「[[打順]]」を参照。</ref>が少ないためである。捕手の守備で俊足を要求される場面はほとんどなく、俊足である捕手はむしろ、その足や捕手で培った強肩を生かして外野手に[[コンバート (野球)|コンバート]]することが少なくない。[[関川浩一]]や[[飯田哲也]]がその例である。
打撃の良い（または守備力の低い）捕手はしばしばその能力を生かすために[[内野手]]・[[外野手]]を兼任したり、捕手以外のポジションへコンバートされる。捕球技術に長けた者や足が遅い者は[[一塁手]]を、足が速い者や遠投能力に長けた者は外野手をプレーすることが少なくない。田淵幸一、[[小笠原道大]]、[[和田一浩]]などは打撃力を買われ、プロ入り後に内野手・外野手に転向した。また、チームに守備に秀でた控え捕手が居る場合や、投手交代の際バッテリーごと交代する場合、故障明けの出場など、一塁手など他の守備位置を兼任する捕手もいる。[[城島健司]]、[[阿部慎之助]]、[[高橋信二]]などがその例である。
=== 正捕手の役割 ===
このように、捕手は他の野手と異なり、試合における役割・機能が極めて多岐に渡る。
前述のように、メジャーリーグでは、投手の配球を投手自身または監督・コーチが判断して決めることが多く捕手のリードはそれほど重要視されない傾向があるため、メジャーリーグの捕手は、キャッチング技術の他に、打撃力や肩の良さが重視される傾向がある<ref name="KobayashiCmajor"/><ref name="DoiCmajor "/><ref>森 pp.128-130.</ref>のに対し、日本のプロ野球では、捕手が打者に対する配球を判断して投手と守備陣をリードし、チームの失点を防止するグラウンド上の守りの指揮者・責任者の役割を捕手が担当することが通常であり<ref name="AkamatsuCjp"/><ref name="NomuraCjp"/><ref name="NashidaCjp"/><ref name="MatsushitaCjp"/><ref name="MoriCjp"/><ref name="OyaCjp"/><ref name="YamakuraCjp"/><ref name="FurutaCjp"/><ref name="OdaCjp"/><ref name="MakinoCjp"/>、打たれる責任は投手ではなく捕手の配球の責任としている監督やコーチが多い<ref name="OdaCRes"/><ref name="AkamatsuCRes"/><ref name="NomuraCRes"/><ref name="NashidaCRes"/><ref name="MatsushitaCRes"/><ref name="MoriCRes"/><ref name="MakinoCRes"/><ref name="OyaCRes"/><ref name="YamakuraCRes"/><ref name="FurutaCRes"/>ため、日本のプロ野球の捕手は、打撃や肩よりも、キャッチングおよびリードの良い捕手が正捕手に起用されることが多い<ref name="NomuraRole"/><ref name="AkamatsuRole"/><ref name="NashidaRole"/><ref name="MatsushitaRole"/><ref name="MoriRole"/><ref name="OyaRole"/><ref name="FurutaRole"/>。
== 用具 ==
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:打者のバットや暴投の危険を回避するため、帽子ではなく専用のヘルメットを使用する選手が多い。ヘルメットのタイプは選手やメーカーにより様々なものがあるが、おおむね守備の際のマスクの脱着の邪魔にならないような仕様になっている。また頭部全体を保護する[[アイスホッケー]]の[[ゴールテンダー]]のヘルメットのようなマスク一体型のものもあり、着脱の手間が解消され装着安定性も向上している。日本では[[村田真一]]や[[相川亮二]]、[[阿部慎之助]]が使用している。
;ニーパッド
:
== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
{{Reflist|2}}
== 参考文献 ==
*[[織田淳太郎]]『捕手論』 [[光文社]]新書、2002年、ISBN 978-4334031329
*[[野村克也]]『野村ノート』 小学館文庫、2009年、ISBN 4094084479
*野村克也『あぁ監督―名将、奇将、珍将』角川書店、2009年、ISBN 9784047101838
*[[赤松英一]]『キャッチャーという人生』 講談社、2009年、ISBN 4062157357
*[[梨田昌孝]]『超野球学：フィールドの指揮官』 ベースボールマガジン社、2006年、ISBN 4583039034
*梨田昌孝『戦術眼』ベースボール･マガジン社新書、2008、ISBN 4583100833
*[[松下茂典]]『捕手ほど素敵な商売はない 野村克也 vs 森祇晶』 朝日新聞出版、2009年、ISBN 4022506059
*[[森祇晶]]『捕手的人間の時代』ザ・マサダ、2000年、ISBN 4883970108
*[[アル・カンパニス]]『ドジャースの戦法』内村裕之訳、ベースボールマガジン社、1957年、ISBN B000JAY4RG
*[[牧野茂]]『巨人軍かく勝てり』 文春文庫、1983年、ISBN 416731701X
*[[大矢明彦]]『大矢明彦的捕手論』 二見書房、2002年、ISBN 4576020684
*[[山倉和博]]『捕手型人間は出世する』海鳥社、2006年、ISBN 4874155952
*[[古田敦也]]『フルタの方程式』 朝日新聞出版、2009年、ISBN 4022506318
*[[橋上秀樹]]『野村の監督ミーティング』 日本文芸社、2010年、ISBN 4537257644
*マイケル・ルイス 『マネー・ボール』 中山宥訳、ランダムハウス講談社、2004年、ISBN 4270000120
*データスタジアム編『野球の見方が180度変わるセイバーメトリクス』宝島社、2008年、ISBN 4796662685
*J.アルバート・J.ベネット『メジャーリーグの数理科学〈下〉』後藤寿彦監修、加藤貴昭訳、シュプリンガー・フェアラーク東京, 2005年、ISBN 4431710175
*小林信也『データで読む常識をくつがえす野球』データスタジアム協力、草思社、2006年、ISBN 4794214944
*[http://www.soec.nagoya-u.ac.jp/htm/staff/kato/kato.html 加藤英明]、[http://jglobal.jst.go.jp/public/20090422/200901031259375909 山崎尚志]『野球人の錯覚』データスタジアム協力、東洋経済新報社、2008年、ISBN 4492043047
== 関連項目 ==
*[[Template:ベストナイン (日本プロ野球1リーグ時代) |ベストナインに選ばれた捕手（1リーグ時代）]]
*[[Template:パシフィック・リーグ ベストナイン (捕手) ]]
*[[Template:セントラル・リーグ ベストナイン (捕手) ]]
*[[Template:アメリカ野球殿堂表彰者 (捕手)]]
== 外部リンク ==
*[http://espn.go.com/mlb/stats/fielding/_/position/c/sort/catcherERA 捕手防御率 Catcher's ERA, ESPN （英語）]
*[http://sportsillustrated.cnn.com/baseball/mlb/stats/glossary.html CERA, Statistics Glossary, ＣＮＮ / Sports Illustrated （英語）]
*[http://msn.foxsports.com/mlb/statsGlossary#fielding CERA, MLB Stats Glossary, ＭＳＮ （マイクロソフト）（英語）]
*[http://scores.nbcsports.msnbc.com/mlb/stats.asp?file=glossary Catcher's ERA, Baseball Glossary,ＮＢＣ（英語）]
*[http://www.baseball-reference.com/players/m/mauerjo01-field.shtml Catcher's Fielding Stats, Baseball Reference.com （英語）] : <small>Baseball Reference.comが公表している個人守備成績の捕手の例。“Advanced Fielding -- C*” の表にある“ERA”は、[[捕手#CRA|CERA]]（Catcher's ERA : 捕手防御率）である。“RAvg” は、捕手としての1試合（9イニング）当たりの平均失点である。用語・略語の解説は各表のタイトル（赤色の枠）の右の“Glossary”にある。</small>
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