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{{出典の明記|date=2011年8月}}
{{生物分類表
|名称 = 箒虫動物門
|色 = pink
|画像 = [[ファイル:Nur03506Phoronis hippocrepia 1 Wright, 1856 .jpg|250px]]
|画像キャプション =
|ドメイン = [[真核生物]] {{Sname||Eukaryote|Eukaryota}}
|界 = [[動物界]] {{Sname||Animal|Animalia}}
|亜界= [[真正後生動物亜界]] {{Sname||Eumetazoa}}
|上門= [[冠輪動物上門]] {{Sname||Lophotrochozoa}}
|門 = '''箒虫動物門''' {{Sname||Phoronid|Phoronida}}
|学名 = Phoronid '''{{Taxonomistsname||HatschekPhoronida}},''' {{AUY|Hatschek|1888}}
|和名 = 箒虫動物
|英名 = phoronid
|下位分類名 = 綱
|下位分類 =
* [[フォロニス属]] {{Snamei||Phoronis}}
* [[フォロノプシス属]] {{Snamei||Phoronopsis}}
}}
[[ファイル:PhoronidaPhoronis hippocrepia 2 Wright, 1856 .gifjpg|20pxthumb|frame250px|箒虫動物体の構造ような触手冠を持つ。]]
'''箒虫動物'''(ほうきむしどうぶつ、{{sname||Phoronida}})は、[[キチン質]]の[[棲管]]にすむ海産の[[底生生物|底生]][[無脊椎動物]]。独立の動物[[門 (分類学)|門]]を構成するが種数は少なく、現生種は2[[属 (分類学)|属]]10数[[種 (分類学)|種]]のみが知られる<ref name=bd/>。
'''箒虫動物'''(ほうきむしどうぶつ、[[学名]]:Phoronid)は、比較的小さな[[動物]]の門で、フォロニス属とフォロノプシス属の2つの属に20種弱が知られている。ホウキムシは[[ミミズ]]に似ているが、多くの[[環形動物]]や[[脊椎動物]]のように体に沿った[[消化管]]ではなく、途中でUターンして口の近くから排出する消化管を持っている。極地方を除き全ての海域で見られる。400mまでの深さに住むが、多くは0から70mの間に住む。寿命は約1年だと考えられている。成体は[[キチン]]質の管を分泌し、その中で暮らす。この管は海底の土や砂の中に埋められるか、岩に固定される。岩に固定される場合は群体を作り、互いにねじれ合って離れ難くする。[[石灰岩]]や[[貝殻]]を溶かして穴を開け、その中で生活する種もある。
 
和名は{{仮リンク|触手冠|en|Lophophore}}が[[箒]]のように見えることから<ref name=bd/>。学名の{{sname|Phoronida}}は、[[ギリシア神話]]の女神フォロニス([[イーオー]]の別名)に由来する<ref name=bru/>。
口の周りの[[触手]]にある[[繊毛]]で餌を集める。[[外肛動物]]や[[腕足動物]]とともに、箒虫動物も[[触手冠動物]]に含まれ、1つの門とされる。北アメリカ西岸で見られる30cmほどでオレンジ色の {{Snamei||Phoronopsis californica}}、北アメリカ沿岸で見られる12cmほどの {{Snamei||Phoronis psammophila}}、ヨーロッパの多くの海岸で見られる {{Snamei||Phoronis hippocrepia}} など、10種程度が知られている。
 
== 特徴 ==
50cmほどの長さに達するものもいるが、ほとんどは細い体を持つ。例えば {{Snamei||Phoronopsis harmeri}} は20cmの長さだが直径は3mmしかない。しかし多くの種はこれより短く、{{Snamei||Phoronis hippocrepia}} は3-5cmの長さである。最も小さい種の {{Snamei||Phoronis ovalis}} は、たった6mmしかなく、[[カキ (貝)|カキ]]の殻上で1cm2あたり150匹も集まって群体で生活している。
体は[[蠕虫]]状で、胴部の一方の端に触手冠、他方に端球と呼ばれる膨らみを持つ。小さいものでは体長5[[センチメートル]]程度、大きいものでは25センチメートルに達する。体表は薄いクチクラに覆われる<ref name=bd/>。体色はふつう[[肌色]]で、[[黒]]や[[茶色]]のこともある<ref name=emig/>。
 
触手冠は繊毛の生えた触手が環状に並んだ構造で、スリット状の[[口]]はそれに囲まれている。口は口上突起に覆われている。[[消化管]]は口から伸び、端球のなかで膨らんで[[胃]]になる。胃から触手冠側に折り返すように[[腸]]が伸び、触手冠の外側に開く[[肛門]]につながる<ref name=bd/><ref name=bru/>。そのため、消化管は全体としてU字型になる。
箒虫動物は[[体腔]]を持つ動物である。消化管は短い食道が胃につながり、湾曲しながら腸を通って口付近の肛門まで続く構造をしている。[[循環器系]]は、1本の[[動脈]]と[[静脈]]が[[毛細血管]]で繋がった単純な構造をしている。触手の1本1本にも血管がめぐっている。血液はほぼ無色であるが、[[ヘモグロビン]]に似た色素が含まれ、酸素の運搬を助けている。
 
真[[体腔]]を持つ。体は前体(口上突起)、中体(触手冠の基部)、後体(胴部)の3体節性で、[[体腔]]もそれに対応して3つに分かれている<ref name=bru/>。すなわち、口上突起内の前腔、触手冠の基部にあって触手内部にも伸びる中腔、胴部の体腔を成す後腔の3つの体腔を持つ。体腔液中には数種類の[[細胞]]がある<ref name=bru/>。
[[神経系]]は口から肛門まで続く[[神経節]]、触手の基部にある神経環、神経節から体表に沿って伸びる1本か2本の巨大神経繊維からなっている。2つの管状の排出器を持つ。腎管の形状は種を分類する手がかりになる。
[[ファイル:Phoronida.gif|150px|left|thumb|箒虫動物の体の構造。]]
発達した[[閉鎖血管系]]を持つ<ref name=bd/>。主な[[血管]]は、端球側から触手冠側に血液を流す導入性血管と、その逆の導出性血管である。血液中には、[[ヘモグロビン]]を含む[[赤血球]]があり、触手冠で取り込まれた酸素は導出性血管から体中に運ばれる。血管は胃と接触しており、栄養分を胃から血液中に取り込んでいると考えられる<ref name=bru/>。胴部に1対の[[腎管]]があり、老廃物の排出のほか、[[配偶子]]の放出経路にもなる<ref name=bru/>。
 
固着生活に伴って頭部が縮小しているため、明瞭な[[脳]][[神経節]]は持たない。[[中枢神経系]]は触手冠基部の表皮内にある神経環で、そこから触手冠や[[筋肉]]に[[神経]]が伸びる。表皮と、その下にある環筋層の間に神経の張り巡らされた層がある<ref name=bru/>。
箒虫動物は[[雌雄同体]]または[[雌雄異体]]で、[[無性生殖]]をする。[[配偶子]]は腎管を通って放出され、受精は体内で行われることが多い。繁殖には2つの異なった戦略がとられる。 {{Snamei||Phoronis ovalis}} などの種は卵黄の多い大きな卵を12-25個と少量生む。これらの卵は親の管の中で育てられ、孵化するまで外に出ない。もう1つの戦略は、小さな卵を500個以上生み、すぐに外に放出するものである。卵は2,3日後に孵化しアクチノトロカ幼生となる。幼生は[[プランクトン]]を食べながら成長し、2-3週間で成体となる。変態は30分以内に完了する。
{{See also|触手冠動物#特徴}}
== 繁殖と発生 ==
横[[分裂]]や[[出芽]]による[[無性生殖]]のほかに、[[有性生殖]]も行う。[[雌雄同体]]の種と[[雌雄異体]]の種をともに含む。
[[ファイル:Phoronid ASlotwinski.jpg|thumb|アクチノトロカ幼生。]]
繁殖様式は保育型、放任型、保護型の3つに分類できる<ref name=bd/>。保護型は{{snamei||Phoronis ovalis}}1種のみで知られるもので、受精卵は母親の棲管内で発生し、[[ナメクジ]]様の[[幼生]]になって、短期間の浮遊生活を送る(アクチノトロカ幼生期はない)。[[ホウキムシ]]や[[ヒメホウキムシ]]など保育型の種では、[[精子]]は凝集して精包になり、配偶相手に受け渡される。精子は相手の体内に入り込んで[[受精]]し、受精卵は体外に放出されて、しばらく母親の体表に付着して発生する。その後、アクチノトロカ幼生として孵化し、浮遊生活を始める。放任型では、受精卵が親の体表に付着する時期がなく、はじめから海水中で生活する<ref name=bd/>。いずれの場合も、[[卵割]]は[[卵割#割球の配置|放射性]]の[[卵割#全割|全等割]]。
 
アクチノトロカという幼生の名は、まだ成体との関係がわからなかったころに、幼生のみが新種として[[記載]]され、{{snamei|Actinotrocha}}という属名を名付けられたことに由来する<ref name=bd/>。この幼生も、成体と同じく体は3つの部位に分かれる<ref name=bru/>。
箒虫動物は触手が傷つくと再生することができ、特に {{Snamei||Phoronis ovalis}} などの種は、卵を育てるために自らわざと切り落とすことがある。卵が孵化すると、触手は再生される。
 
== 分布と生態 ==
箒虫動物は水ごと食べ物を吸い込む。水流に向かって触手を動かし、やってきた食物の破片を口に運ぶ。表皮から直接アミノ酸を取り込むこともできる。
[[ファイル:Phoronis Maria Grazia Montanucci2.jpg|thumb|群生するフォロニス属の一種。]]
南極海を除く世界中の海域で見られる。多くの種は[[汎存種|広域分布種]]である<ref name=emig/>。[[潮間帯]]の泥底から、水深400[[メートル]]の海底まで、垂直的にも広い範囲に生息する<ref name=bru/>。
[[ファイル:Nur03506.jpg|thumb]]
寿命は約1年と考えられている<ref name=emig/>。成体は[[キチン]]質の棲管を分泌し、その中で暮らす。この管は海底の土や砂の中に埋められるか、岩や貝殻に固定される<ref name=emig/>。岩に固定される場合は、多数の個体の棲管同士が癒合し、群生する場合が多い<ref name=bru/><ref name=bd/>。埋在性の場合は単独である<ref name=emig/>。ホウキムシは、砂の中に作られる[[ムラサキハナギンチャク]]の棲管に[[共生]]することがある<ref name=bd/>。
 
膨らんだ端球によって体を棲管内に固定していて、[[魚類]]や[[腹足類]]、[[線虫]]類などの[[捕食者]]が接近すると、素早く管の奥に身を隠す<ref name=bru/><ref name=emig/>。体壁に環筋と縦筋の[[筋肉]]層を持つもののその力は弱く、棲管に出てしまうとほとんど動けない<ref name=bru/>。触手冠は食われたり[[自切]]したりして失われても、[[再生]]することができる<ref name=bru/><ref name=emig/>。
箒虫動物は固い構造を持たないため、[[化石]]はほとんど残っていないが、巣穴と思われるものが[[デボン紀]]以降の地層で見つかっている。また[[カンブリア紀]]の {{Snamei||Iotuba chengjiangensis}} の化石は、U字型の消化管と触手を持つため、箒虫動物の1種であると見られている。さらに、hederellidsと言われる管状の謎の化石も箒虫動物と関係がある可能性がある。
 
触手冠を使って[[繊毛粘液摂食]]を行い<ref name=bru/>、水中の[[藻類]]や無脊椎動物の幼生、[[デトリタス]]などを食べる<ref name=emig/>。触手に生えた繊毛が水流を起こし、流れてきた餌の粒子は粘液に付着し、繊毛によって口に運ばれる<ref name=bru/>。
{{デフォルトソート:ほうきむしとうふつ}}
 
== 系統 ==
{{See also|触手冠動物#系統進化|腕足動物#系統}}
箒虫動物・[[腕足動物]]・[[外肛動物]]の3群は伝統的に[[触手冠動物]]としてまとめられ、発生様式や形態形質から[[新口動物]]に含まれると考えられていた。しかし、[[分子系統学]]によってこれらの動物は[[旧口動物]]、そのなかでも[[冠輪動物]]の[[系統]]に属すると考えられるようになった。
 
冠輪動物に含まれる各門の系統関係は不明確である。箒虫動物は腕足動物と近縁であると考えられることが多く、腕足動物と箒虫動物を併せた{{仮リンク|腕動物|en|Brachiozoa}}という分類群も提唱されている<ref name=bd/>。箒虫動物は腕足動物の一部から進化したと考える研究者は、箒虫動物を腕足動物門の亜門とする体系を提唱している<ref name=cohen/>が、確たる結論はない<ref name=saito/>。
 
== 化石 ==
[[ファイル:HederelloidSEM.jpg|thumb|Hederelloidea化石の[[電子顕微鏡]]写真。]]
箒虫動物は固い構造を持たないため、明確な[[化石]]はほとんど残っ発見されていないが、巣穴と思われる<ref name=cohen2/>ものの、[[デボン紀]]以降の[[地層]]巣穴と思われる[[生痕化石]]が見つかっている<ref name=emig/>。また[[カンブリア紀]]の {{Snamei||Iotuba chengjiangensis}} の化石は、U字型の消化管と触手を持つため、箒虫動物の1種であると見ら主張されている<ref name=emig2/>ほかに、[[シルル紀]]かデボン紀の地層見つかりhederellids{{sname||Hederellid|Hederelloidea}}言わ呼ばている管状の謎の化石は、[[コケムシ]]類と考えられていたのの、箒虫動物と関係がある可能性こと示唆されてい<ref name=tw/>
 
== 分類 ==
以下の2属に分類されている。前者は触手冠と胴部の間に襟襞と呼ばれる部位を持つが、後者は襟襞を持たない<ref name=bd/>。
*[[フォロノプシス属]] {{snamei||Phoronopsis}}
*[[フォロニス属]] {{snamei||Phoronis}} - [[ホウキムシ]]、[[ヒメホウキムシ]]など
 
== 参考文献 ==
{{reflist|refs=
<ref name=bru>{{cite book |last=Brusca |first=RC |coauthors=Brusca, GJ
|title=Invertebrates |edition= 2nd ed |year=2003 |publisher=Sinauer Associates, Inc. |isbn=9780878930975 |pages=773-778}}</ref>
<ref name=bd>{{cite book|和書|author=馬渡峻輔|chapter=箒虫動物門|title=無脊椎動物の多様性と系統(節足動物を除く)|editor=白山義久(編集)|others=岩槻邦男・馬渡峻輔(監修)|year=2000|publisher=[[裳華房]]|isbn=4785358289|pages=227-229}}</ref>
<ref name=emig>{{cite book |last=Emig |first=CC |title=Grzimek’s Animal Life Encyclopedia |year=2003 |publisher=Thompson Gale |isbn=0787653624 |url=http://paleopolis.rediris.es/Phoronida/EMIG/REPRINTS/232.pdf |edition=2 |editor=B Grzimek, D G Kleiman, M Hutchins |pages=491–495 |chapter=Phylum: Phoronida|volume=2: Protostomes}}</ref>
<ref name=cohen>{{cite journal |last=Cohen |first=BL |title=Monophyly of brachiopods and phoronids: reconciliation of molecular evidence with Linnaean classification (the subphylum Phoroniformea nov.) |journal=Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences |year=2000 |volume=267 |issue=1440 |pages=225-231 |doi=10.1098/rspb.2000.0991}}</ref>
<ref name=saito>{{cite book |和書 |author=斎藤道子 |chapter=触手冠動物の起源と腕足動物の進化 |title=海洋の生命史 |editor=西田睦(編集) |series=海洋生命系のダイナミクス |publisher=[[学校法人東海大学出版会|東海大学出版会]] |isbn=9784486016854 |pages=63-81}}</ref>
<ref name=cohen2>{{cite journal |last=Cohen |first=BL et al. |title=Molecular phylogeny of brachiopods and phoronids based on nuclear-encoded small subunit ribosomal RNA gene sequences |journal=Philosophical Transactions of the Royal Society B: Biological Sciences |year=1998 |volume=353 |issue=1378 |pages=2039-2061 |doi=10.1098/rstb.1998.0351 |url=http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1692429/pdf/WBXWFK1XG0RE68JE_353_2039.pdf |format=PDF}}</ref>
<ref name=emig2>{{cite journal |last=Emig |first=CC |title=Fossil Phoronida and their inferred ichnotaxa |journal=Carnets de Géologie / Notebooks on Geology - Letter / Note brève |year=2010 |url=http://paleopolis.rediris.es/Phoronida/EMIG/REPRINTS/300.pdf |format=PDF |volume=CG2010_L03}}</ref>
<ref name=tw>{{cite book |last=Taylor |first=PD |coauthors=Wilson, MA |year=2008 |chapter=Morphology and affinities of hederelloid "bryozoans" |pages=301-309 |editor=Hageman, SJ, Key, MM, Jr., and Winston, JE (eds.) |title=Bryozoan Studies 2007: Proceedings of the 14th International Bryozoology Conference, Boone, North Carolina, July 1-8, 2007 |series=Virginia Museum of Natural History Special Publication 15 |url=http://www3.wooster.edu/geology/taylorwilson08.pdf |format=PDF}}</ref>
}}
 
== 外部リンク ==
{{Wikispecies|Phoronida}}
{{Commonscat|Phoronida}}
*{{cite web |author=加藤哲哉 |title=ホウキムシの全形 |work=動物行動の映像データベース |date=2005-03-15 |accessdate=2011-09-27 |url=http://zoo2.zool.kyoto-u.ac.jp/ethol/showdetail.php?movieid=momo050312ps02b}}
*{{cite web |author=加藤哲哉 |title=ホウキムシの頭部 |work=動物行動の映像データベース |date=2005-03-16 |accessdate=2011-09-27 |url=http://zoo2.zool.kyoto-u.ac.jp/ethol/showdetail.php?movieid=momo050312ps03b}}
:[[変態]]直後のフォロニス属の一種の動画。
 
{{デフォルトソート:ほうきむしとうふつ}}
[[Category:無脊椎動物]]