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|語源=[[アンリ・ベクレル]]
}}
'''ベクレル'''([[英語]]:becquerel、記号: '''Bq'''<ref>1992年(平成4年)11月30日通商産業省令第80号「計量単位規則」</ref>)とは、[[放射能]]の量を表す[[単位]]で<ref name="seirei357">1992年(平成4年)11月18日政令第357号「計量単位令」</ref>、[[SI組立単位]]の1つである。1秒間に[[放射性同位体|放射性核種]]が1個[[放射性崩壊|崩壊]]すると1 Bqである<ref name="seirei357"/>。
== [[File:Plot-exponential-decay.svg|thumb|right|300px|はじめに1ベクレルあった放射性物質がどれだけの速さで減衰するのか表したグラフ。放射能(単位はベクレルなど)も指数関数的に減衰する。[[崩壊定数]]は半減期に反比例するため、崩壊定数が大きい(=半減期が短い)ほど早く減衰していることがわかるだろう。グラフで上の線ほど崩壊定数が小さいため減衰していないが一番下では凄まじい速さで減衰しているのがわかる。ここでy軸が放射能(単位:ベクレル)、x軸は時間の単位を秒ととった場合半減期は有効数字3桁で上から17.3秒、3.47秒、0.693秒、0.139秒、0.0277秒である。]]
例えば、毎秒370個の放射性核種([[原子核]])が崩壊して[[放射線]]を発している場合、その[[放射能]]は370 Bqとなる。時間経過により変化するため[[半減期]]の極めて短い放射性核種や半減期は十分長いものの半減期よりも十分長い時間が経過した場合の詳細な計算法は後述する。ここでは概要のみ述べる。
ベクレルは時間が経過するとともに減少するのだというと、とくに[[半減期]]が1秒にすら満たない[[核種]]や[[素粒子]]ではBqで表せるのか疑う読者もいるかもしれないが、物理的には放射能(単位はベクレルなど)はλNと[[微分法|微分]]で表す[[物理量]]であるため[[崩壊定数]]さえ分かれば理論値は計算できるため問題は起こらない。また実測値は1秒間の崩壊数というのは整数になるではないかと言われるかもしれないが、このような事情のためベクレルの数値は小数で表すことは普通であり、整数条件を満足する必要性はない。
更には[[半減期]]が経過すると原子数は半分になるわけであるが、放射能は微分で定義され原子数と崩壊定数の積で表せるため同様に半減期が経過すればベクレルもまたちょうど半分になるというのもただちにわかる。すなわち原子数のみならず放射能に対しても同一の半減期で減衰すると理解でき、同様に計算できるわけである。
例えば1万ベクレルの(出入りのない)放射性物質があり、半減期が経過すれば5000ベクレルに減衰するというわけである。1ベクレルの場合半減期が経過すれば0.5ベクレルと減衰していく。[[指数関数的減衰]]のためゼロにはならないが、原子数は有限であり原子数が少なくなれば[[ポアソン過程]]で表現されるうえ、最終的にはゼロまたは化学分析や放射線測定が困難なレベルにまで減衰する。太陽系創世時の半減期の短い(とはいえ短いというのは、地球の年齢46億年に対してだが)、核種の放射能はこのような運命を辿ったとされている。
実験的に放射能を測定する場合、対象の物質や性質がわかっているなら、放射能が時間変化で急激変化しない場合はカウント数と放射能の強さをあらかじめ測定しておいて、相対的な差で放射能を測定するなどの手法が用いられる。半減期が極めて短い原子核・素粒子の放射能の測定手法の詳細はここでは論じないが、相当高感度・高性能の測定器が求められる。
逆に半減期が極めて長い場合や放射能が極めて低い場合もめったに放出しない放射線を確実に検出せねばならないため、これも高い技術力が要求される。[[高木仁三郎]]は大学教員時代、超微量の放射能測定器を開発していたが、[[放射性降下物|核実験フォールアウト]]による遮蔽材として使われる[[鉄]]の汚染が問題となっていた。
これら測定技術は[[素粒子物理学]]や[[超ウラン元素]]の実験的研究、[[宇宙線]]の観測等でとくに重要となる。[[粒子検出器]]も参照せよ。
== 名称と表現 ==
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かつては、1gの[[ラジウム]]の放射能を表す[[キュリー (単位)|キュリー]](記号Ci)という単位が用いられていた。
* 1Ci=3.7{{E|10}}Bq=37GBq<ref name="atomica1">[http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_Key=18-04-02-01 Atomica「放射能と放射線の単位」]</ref>
* 1Bq=2.7{{E|-11}}Ci<ref name="atomica1"/>=27pCi
== 放射能の量[Bq] と 放射線の強さ[Gy]、[Sv] ==
[[File:Types_of_radiation.svg|thumb|right|250px|ベクレルなどの放射能の単位は、放射性物質から放射線がどのぐらいでてくるのかという事を表す物理量であり、出てきた後の放射線が物質や人体とどのように相互作用するのかはベクレルだけわかっても一切わからない。それらを評価するにはこの節で書いたような情報が必要だということである。この図は[[アルファ線]]、[[ベータ線]]、[[ガンマ線]]、[[中性子線]]と物質との[[相互作用]]を簡単に表したものである。アルファ線やベータ線は電荷を持っており電離作用が強い。アルファ線は電離作用は凄まじいが飛距離は少ない。短い距離で多くの分子を電離し破壊する。ベータ線は軽いので弾き飛ばされやすく、空気中など密度の低い物質内ではジグザグに動き、水中など密度の高い物質内ではアルファ線同様ほとんど飛ばずに近くの分子を電離する。電離させた電子も電離作用をもっていて、これをデルタ線とよぶ。ガンマ線はエネルギーによってエネルギーが低い順に[[光電効果]]・[[コンプトン効果]]・[[対生成]]・[[光核反応]]を引き起こす。中性子線については下図の解説を参照。]]
冒頭で前述したようにベクレルは放射能の量を現す単位である。一方、放射線の吸収線量を表す単位は[[グレイ (単位)|グレイ]](単位記号:[Gy] ) であり、被曝による生物学的影響の大きさ(線量当量)の単位が[[シーベルト]](単位記号:[Sv] ) である。▼
[[File:Alfa_beta_gamma_neutron_radiation.svg|thumb|right|250px|出てきた放射線は物質と[[相互作用]]して速さが遅くなっていき、やがて停止する。この図はアルファ線、ベータ線、ガンマ線を遮蔽するには何が必要かをあらわしている。アルファ線は紙一枚で停止させられるが、ガンマ線はたくさんの水でも全て止めるとができない(ガンマ線自体[[指数関数的減衰]]であるからどのみちゼロにはできないのだが)。特に人体の影響を計算する時も人体の大半が水であると計算するため、ガンマ線は人体も貫通するということである。一番下が中性子線であり、とくに水素の原子核である陽子のような軽い原子核と衝突することによって停止する。その過程で原子核を弾き飛ばしたり(これが電離作用をもつ)、ガンマ線を放出したりする。中性子自体も10分の半減期で陽子へと[[放射性崩壊|壊変]]する。人体の大半は水や有機化合物といった水素原子や軽元素を大量に含むため、中性子線の影響を受けやすいといえるのである。]]
▲冒頭で前述したようにベクレルは放射能の量を現す単位である。一方、放射線の吸収線量を表す単位は[[グレイ (単位)|グレイ]](単位記号:[Gy] ) であり、被曝による生物学的影響の大きさ(線量当量)の単位が[[シーベルト]](単位記号:[Sv] ) である。人体への影響を評価するにはこれらの単位を用いねばならない。
同ベクレルの[[放射能]]が存在しても人体への影響を評価するには、[[放射線源|線源]]の形状・遮蔽の評価、吸収線量や線量当量の強さは条件によって異な
すなわち、放射性物質が異なれば例え[[放射能]]が同量であっても、放出する[[放射線]]の種類やエネルギーは異なるであろうし、どのような状態で放射性物質が存在するのか、測定位置までの距離はどのぐらいあるか、測定者と線源との間にある物質の遮蔽によりどのぐらい放射線が遮られるかなどによっても影響が変わってくるため、その他の情報を一切伏せてただ放射能が合計何ベクレルある、というだけでは判断のしようがないのである。またシーベルトからベクレルに換算することもそういった条件がわからない限り難しいといえる。
== ベクレルと原子核の個数 ==▼
冒頭でキュリーとベクレルを換算しているが、これがなぜできるのかといえば、放射性物質が何回崩壊したかという同じ量だから簡単に換算できるわけである。例えば長さ同士であればセンチとインチなどの単位が違っても換算できるが、長さと重さなどのそもそも単位そのものが違うならば換算が不可能だということである。放射能単位であるベクレルから人体影響を評価するシーベルトへの換算は長さと重さほど全く違う量ではないものの、様々な条件が重要となってくるためそれがわからないなら簡単に換算は不可能である。例えば同一のロープの長さと重さということであれば相互に換算ができるだろうが、種類の違うものの長さと重さとなるとその違いがわからないと換算ができないことからもわかるだろう。
もちろんベクレルからシーベルトへの換算が絶対に不可能というのではなく、さまざまな条件がわからない限り単純計算では難しいというわけである。
▲== ベクレルと原子核の個数との関係 ==
{{main|比放射能}}
{{main|半減期}}
単位時間あたりにN個の放射性の原子核(以下原子数という)が[[放射性崩壊|崩壊]]する確率は、[[崩壊定数]]に比例し、その[[半減期]]T<sub>1/2</sub>に反比例する。これは
:<math>\lambda=\frac{\ln(2)}{T_{1/2}}</math>
単位時間あたりに崩壊する量を表すという[[崩壊定数]]の定義および、上記式より半減期が長くなると崩壊定数が小さくなる(=反比例する)ということよりただちにわかる。[[放射性崩壊|放射壊変]]の微分方程式
:<math>-\frac{dN(t)}{dt}=\lambda{N}</math>
より、放射能は右辺で定義されるから、放射能の単位であるベクレルはその核種の崩壊定数λまたは半減期T<sub>1/2</sub>(いずれも時間の単位は秒を取らねばならない)と原子数Nとで一意に定まる。
この微分方程式を[[初期値問題|初期条件]] t=0のときの原子数を<math>N_0</math>個とすると、時刻tにおける原子数は
<math>N(t)=N_{0}e^{-\lambda{t}}</math>
となる。定義によりこれを微分したときに両辺に-1を掛けた量が放射能であるから、任意の時刻tにおける放射能Bq(t)は
:<math>Bq(t)=\lambda{N}_{0}e^{-\lambda{t}}</math>
であることがわかる。t=0とおくとe<sup>-λ0</sup>=1であるから、時間変化を考えない場合は原子数と崩壊定数の二つが定まればその放射性物質の放射能が求められるということがわかる。つまり二変数函数であるといえる。
ベクレルから質量や原子数や半減期を計算したりする方法は[[比放射能]]を参照せよ。またこの式は一次反応を仮定しており、娘核種も放射能を持っていて、時間変化により親・娘量核種の総放射能を求めるといった場合連立微分方程式を解かねばならない。簡単なものは[[半減期]]に計算例がある。これらの半減期の長さによって任意の時間が経過したときの放射能の強さは[[放射平衡]]によって論じられる。
== 1グラムのラジウムの放射能 ==
ここでは具体例として、1グラムのラジウムに何個のラジウム原子核が含まれていて、それが何ベクレルの放射能を持っているのか実際に計算する。そのためには上述したように、原子数に単位を秒で取った崩壊定数をかければよい。
純粋な(ほかの物質が混じっていない)1gの[[ラジウムの同位体|ラジウム226]]にはアボガドロ定数をA=6.02x10<sup>23</sup>としたとき、A割る質量数=原子数であるから、
:<math>N=\frac{A}{226}\approx{2.66\times{10}^{21}}</math>
すなわち約2.66×10<sup>21</sup>個(2兆6600億の10億倍個)の原子核が含まれることがわかる。
ラジウム226の半減期T<sub>1/2</sub>は1600年であり、これを秒に換算すれば
1600 [年] = 1600x365x24x60<sup>2</sup>≒5.05x<sup>10</sup>[秒]
すなわちラジウム226の半減期は5.05x10<sup>10</sup>秒(505億秒)である。次に崩壊定数を求めよう。崩壊定数λはln(2)/T<sub>1/2</sub>であったから求めた半減期を代入し、
:<math>\lambda=\frac{\ln(2)}{5.05\times10^{10}}\approx\frac{0.693}{5.05\times10^{10}}\approx1.37\times10^{-11}</math>
となる。放射能を計算するためλNを求めれば、
:<math>1.37\times10^{-11}\times2.66\times10^{21}\approx3.64\times10^{10}</math>
約3.64x10<sup>10</sup>ベクレルであるといえる。当初のキュリーCiの定義はラジウム1グラムの放射能で3.7x10<sup>10</sup>であったから、[[有効数字]]3桁で計算した上の計算例は小数点第二位を繰り上げれば一致することがわかる。<!--元の著者が有効数字を理解しないで計算したのかは知らないが、精度が保証されている数式処理システムで検算してもこうなる。もともと有効数字を無視して強引計算し、3.65x...という結果であり、これだと小数点第一位だけ四捨五入するとキュリーの定義である370億ベクレルと一致する。時間の単位を秒にするとき閏年を考慮に入れて1年365.25日としても有効数字3桁では誤差は生じないことを確認している。同様に質量数をもともとの原子量に置換したりアボガドロ定数の精度を上げても変化しない。この計算は有効数字3桁で行った。-->
この場合のラジウム226は時間と共に崩壊によって減少していくので、計算するにあたっては経過時間を考慮する必要がある。また時刻t>0における放射能は、崩壊後の核種が放射性である場合、その核種と親核種との放射能の総和はによる放射能の分が増えるのでλN[Bq]より大きくなる。
{{Reflist}}
== 関連項目 ==
* [[
* [[ラザフォード (単位)|ラザフォード]] - Rd▼
** [[
▲** [[ラザフォード (単位)|ラザフォード]] - Rd
** [[
* [[吸収線量]]・放射線量の単位
* [[グレイ (単位)|グレイ]] - Gy▼
** [[
** [[ラド]] - rad
* [[レントゲン (単位)|レントゲン]] - R▼
▲** [[グレイ (単位)|グレイ]] - Gy
* [[比放射能]]▼
** [[
▲** [[レントゲン (単位)|レントゲン]] - R
▲* [[崩壊定数]]
* [[
** [[放射能]]
▲** [[比放射能]]
** [[半減期]]
** [[崩壊定数]]
** [[指数関数的減衰]]
* [[SI接頭辞]] - キロ・メガやミリ・マイクロなどの単位の前につけて倍数を表す記号。3ケタずつ変化する。日本語では4ケタずつ位取りが変化するので換算時に注意。
* [[柴崎力栄]] - 大阪工業大学の准教授で「弁当にベクレルが入っている」とツイッターに書き込み話題となった[http://news.livedoor.com/article/detail/6005181/]。放射性物質は味覚で感じ取ることはできない。
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{{DEFAULTSORT:へくれる}}
[[Category:原子物理学]]
[[Category:放射線]]
[[Category:放射能の単位]]
[[Category:SI組立単位]]
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