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{{基礎情報 過去の国
|略名 =
|日本語国名 = クルト朝
|公式国名 =
|建国時期 = [[1245年]]
|亡国時期 = [[1381年]]
|先代1 = ホラズム・シャー朝
|先旗1 = blank.png
|次代1 = ティムール朝
|次旗1 = Timurid.svg
|国旗画像 =
|国旗リンク = <!--「"略名"の国旗」以外を指定-->
|国旗説明 =
|国旗幅 = <!--初期値125px-->
|国旗縁 = <!--no と入力すると画像に縁が付かない-->
|位置画像 = Kartid-Kurtdynasty1244-1389.png
|位置画像説明 = クルト朝の支配領域
|公用語 =
|首都 = [[ヘラート]]
|元首等肩書 = マリク
|元首等年代始1 = [[1245年]]
|元首等年代終1 = [[1277年]]
|元首等氏名1 = [[マリク・シャムス・ウッディーン1世|シャムスッディーン・ムハンマド]]
|元首等年代始2 = [[1295年]]
|元首等年代終2 = [[1308年]]
|元首等氏名2 = ファフルッディーン・イブン・ルクヌッディーン
|元首等年代始3 = [[1332年]]
|元首等年代終3 = [[1370年]]
|元首等氏名3 = ムイズッディーン・フセイン・イブン・ギヤースッディーン
|元首等年代始4 = 1370年
|元首等年代終4 = [[1381年]]
|元首等氏名4 = ギヤースッディーン・ピール・アリー
|面積測定時期1 =
|面積値1 =
|人口測定時期1 =
|人口値1 =
|変遷1 = クルト家のモンゴル帝国への臣従
|変遷年月日1 = 13世紀前半
|変遷2 = [[モンケ]]・ハーンから[[アフガニスタン]]の支配権を認められる
|変遷年月日2 = [[1251年]]
|変遷3 = [[イルハン朝]]の[[アブー・サイード]]没
|変遷年月日3 = [[1335年]]
|変遷4 = ザーヴァの戦い
|変遷年月日4 = [[1342年]]
|変遷5 = 滅亡
|変遷年月日5 = [[1381年]]
|通貨 =
|注記 =
}}
'''クルト朝'''（Kurt dynasty）は、[[13世紀]]から[[14世紀]]にかけて[[イラン]]東部の[[ホラーサーン]]地方を支配した、
[[タジク人]]<ref name="CMD6-379">ドーソン『モンゴル帝国史』6巻、379頁</ref><ref>M.J. Gohari, ''Taliban: Ascent to Power'', (Oxford University Press, 2000), 4.</ref>の
[[スンナ派]]<ref>Farhad Daftary, ''The Ismāī̀līs: Their History and Doctrines'', (Cambridge University Press, 1999), 445.</ref>
<ref name="rus">ルスタン・ラフマナリエフ「チムールの帝国」『アイハヌム 2008』収録（加藤九祚訳, 東海大学出版会, 2008年10月）、60-62頁</ref>イスラム教徒の王朝。首都は[[ホラーサーン]]地方の都市[[ヘラート]]。
元々は[[ゴール朝]]の[[スルターン]]・[[ギヤースッディーン|ギヤースッディーン・ムハンマド]]の封臣であり、ゴール朝の王室とつながりを持っていた<ref>M.J. Gohari, ''Taliban: Ascent to Power'', 4.</ref>。'''カルト朝'''（Kart dynasty）とも表記されるが、いずれの表記が正確なのかは定説が無く、王朝の名前の由来となった「クルト」の意味も明確になっていない<ref>本田「ヘラートのクルト政権の成立」『東洋史研究』21巻2号、42-43頁</ref>。
13世紀半ばに、クルト朝は[[モンゴル帝国]]に臣従を誓う<ref>C.E. Bosworth, ''The New Islamic Dynasties'', (Columbia University Press, 1996), 263.</ref>。モンゴル帝国の王族[[フレグ]]が建国した[[イルハン朝|イルハン国]]が成立した後はその臣従国として[[アフガニスタン]]に相当する地域を支配し、クルト家はフレグ一門と婚姻関係を結んだ<ref name="itani146">井谷鋼造「トルコ民族の活動と西アジアのモンゴル支配時代」『西アジア史 2 イラン・トルコ』収録（永田雄三編, 新版世界各国史, 山川出版社, 2002年8月）、146頁</ref>。[[1335年]]にイルハン国が無政府状態に陥った後、クルト朝の君主ムイズッディーン・フセインは王朝の勢力の拡大に努めた。クルト朝の統治下でモンゴル帝国の破壊によって荒廃したホラーサーン地方が復興されるとともに同地のイラン文化が維持されたが<ref>本田「ヘラートのクルト政権の成立」『東洋史研究』21巻2号、42-43頁</ref>、[[1381年]]に[[ティムール朝]]の攻撃によって王朝は滅亡した<ref>C.E. Bosworth, ''The New Islamic Dynasties'', 263.</ref>。
== 歴史 ==
===
クルト朝の王統はゴール朝の貴族シャンサバーニー家に連なる<ref name="itani146"/>。クルト家を[[セルジューク朝]]の[[スルターン]]・[[マリク・シャー]]の末裔とする説も存在する<ref>本田「ヘラートのクルト政権の成立」『東洋史研究』21巻2号、71頁</ref>。
王朝の祖であるタージュッディーン・オスマーン・マルガーニーは、ギヤースッディーン・ムハンマドの宰相イズッディーン・オマル・マルガーニーの弟にあたる<ref name="CMD4-133">ドーソン『モンゴル帝国史』4巻、133頁</ref><ref>本田「ヘラートのクルト政権の成立」『東洋史研究』21巻2号、40頁</ref><ref>Edward G. Browne, ''A Literary History of Persia: Tartar Dominion 1265-1502'', (Ibex Publishers, 1997), 174.</ref><ref>The founder of the Kurt dynasty was Malik Rukn-uddin Abu Bakr, who was descended from the Shansabani family of Ghur.</ref>。タージュッディーンは、兄からヘラートの東に位置するハイサル城を領地として与えられた<ref>ドーソン『モンゴル帝国史』4巻、133-134頁</ref>。
タージュッディーンの死後、彼の子であるルクンッディーン・アブー・バクルが跡を継いだ。
ルクンッディーンはギヤースッディーン・ムハンマドの王女と結婚し、[[1245年]]に2人の子である[[マリク・シャムス・ウッディーン1世|シャムスッディーン・ムハンマド]]が父の跡を継いだ<ref name="CMD4-133"/>。シャムスッディーンはマリク（Malik、「王」の意）の称号を名乗り<ref name="honda-jiten">本田「カルト朝」『アジア歴史事典』2巻、244-245頁</ref>、モンゴル帝国がゴール地方に侵入した際にいちはやく[[チンギス・カン|チンギス・ハーン]]に臣従を誓った<ref>本田「ヘラートのクルト政権の成立」『東洋史研究』21巻2号、40-41頁</ref>。
=== モンゴル帝国の封臣時代 ===
[[1246年]]にシャムスッディーンはモンゴル帝国の将軍サリ・ノヤンが指揮する[[インド亜大陸|インド]]遠征に参加し、[[1247年]]/[[1248年|48年]]に[[ムルターン]]で[[スーフィー]]の聖者バハーウッディーン・ザカリーヤーと対面した。
1248年の[[グユク]]・ハーンの死後、シャムスッディーンは[[トゥルイ]]の長子[[モンケ]]の即位を支持し、グユクを支持する党派と戦った<ref>本田「ヘラートのクルト政権の成立」『東洋史研究』21巻2号、43-44頁</ref>。
[[1251年]]にシャムスッディーンはモンケ・ハーンの即位式に出席し、ヘラートと[[アフガニスタン]]に相当する範囲の地域の支配を認められる<ref>本田「ヘラートのクルト政権の成立」『東洋史研究』21巻2号、48頁</ref>。[[1253年]]ごろ、シャムスッディーンは任地のヘラートに入城した<ref>本田「ヘラートのクルト政権の成立」『東洋史研究』21巻2号、55頁</ref>。
モンケの弟[[フレグ]]が[[フレグの西征|西征]]を実施した時、[[1255年]]にシャムスッディーンは[[サマルカンド]]のフレグに謁見し、遠征の協力を約束した<ref>本田「ヘラートのクルト政権の成立」『東洋史研究』21巻2号、56-57頁</ref>。[[1256年]]から[[1257年]]にかけて、[[イラク]]に向かったフレグの本隊とは別に、シャムスッディーンはアフガニスタンから[[インダス川]]沿岸部にかけての地域で軍事活動を展開する<ref>本田「ヘラートのクルト政権の成立」『東洋史研究』21巻2号、57-60頁</ref>。クルト朝の遠征は同時期にサリ・ノヤンが行ったインド侵入に呼応したものと考えられており、フレグの本隊が攻撃の対象としていた{{仮リンク|アラムート|en|Alamut}}の[[ニザール派]]の暗殺教団、[[アッバース朝]]とインドの連絡を絶つことができた<ref>本田「ヘラートのクルト政権の成立」『東洋史研究』21巻2号、60頁</ref>。
=== イルハン国への従属 ===
[[1263年]]から[[1264年]]にかけて、シャムスッディーンは{{仮リンク|スィースターン (地域)|en|Sistan|label=スィースターン}}を征服し、西アジアでイルハン朝を創始したフレグの元に出頭する。[[1266年]]にクルト朝の軍隊はフレグの跡を継いだ[[アバカ]]・ハンの軍事遠征に従軍し、[[コーカサス]]地方の[[デルベント]]と[[バクー]]で[[ジョチ・ウルス]]の[[ベルケ]]・ハンと交戦した。
[[1270年]]にイルハン国に進軍する[[チャガタイ・ハン国]]の[[バラク (チャガタイ家)|バラク]]の使者がヘラートを訪れた時、シャムスッディーンはバラクへの協力を約束し、アバカとバラクのどちらが勝利するかを静観した<ref>ドーソン『モンゴル帝国史』5巻、30-31頁</ref>。シャムスッディーンがバラクに物資を供給したことを知ったアバカは激怒し、ヘラートの略奪を命令したが、周囲の人間のなだめによって略奪を中止する。アバカはバラクに協力したシャムスッディーンの態度に疑いを抱き<ref name="honda-jiten"/>、またシャムスッディーンの政敵から讒言を受けたため<ref>ドーソン『モンゴル帝国史』5巻、348頁</ref>、彼を[[タブリーズ]]の宮廷に召喚した。[[1278年]]にアバカの命令によってシャムスッディーンは毒殺され、シャムスッディーンの子ルクヌッディーン（シャムスッディーン2世）が新たなクルト朝の君主に据えられる<ref>ドーソン『モンゴル帝国史』5巻、349頁</ref>。
[[1283年]]にシャムスッディーン2世はハイサル城砦に移り、子のギヤースッディーンにヘラートの統治を委任した。また、シャムスッディーン2世は長子のファフルッディーンの行状が悪い点を考慮し、彼を城砦内の牢獄に監禁した。シャムスッディーン2世はイルハン国内の政敵の讒言から身を守るためにハイサル城砦に閉じこもり、やがてギヤースッディーンもハイサル城砦に逃げ込んだ<ref name="CMD5-350">ドーソン『モンゴル帝国史』5巻、350頁</ref>。統治者を失って不安に襲われたヘラートの住民は他の地に移住し、さらにニクーダリーヤーン部族が人口の減少したヘラートで略奪と住民の拉致を行ったため、ヘラートは無人に近い状態になった<ref name="CMD5-350"/>。
[[1291年]]にイルハン国の王子[[ガザン・ハン|ガザン]]は将軍{{仮リンク|ナウルーズ (イルハン朝)|en|Nawrūz (Mongol emir)|label=ナウルーズ}}をヘラートに派遣し、ナウルーズは荒廃したヘラートの復興を推進した。シャムスッディーン2世はナウルーズからヘラートへの帰還を求められたが、シャムスッディーン2世は政務への復帰を拒んだ<ref>ドーソン『モンゴル帝国史』5巻、351頁</ref>。結局、ナウルーズは脱獄したファフルッディーンを新たなヘラートの君主として迎え入れ、退位したシャムスッディーン2世はハイサル城砦で隠遁生活を送った<ref>ドーソン『モンゴル帝国史』5巻、351-352頁</ref>。ガザンの宮廷を訪問したファフルッディーンは破格の待遇を受け、金品、礼服、1,000人のモンゴル兵を下賜される<ref>ドーソン『モンゴル帝国史』5巻、353頁</ref>。
=== ガザン、オルジェイトゥ時代のクルト朝 ===
[[1296年]]ごろにナウルーズがハンに即位したガザンに対して反乱を起こしたとき、ファフルッディーンは反乱に失敗したナウルーズを匿った。しかし、ガザンの軍がヘラートに接近すると、ファフルッディーンはナウルーズをガザンの元に引き渡した。ナウルーズの処刑後、ファフルッディーンは改めてガザンから国の領有を認められ、イルハン国の[[オルド]]（宮廷）への出仕を免除される<ref>ドーソン『モンゴル帝国史』5巻、357頁</ref>。やがてファフルッディーンはイルハン国からの独立を図り、ヘラートの防備を固め、貢納と物資の徴発を拒否した<ref>ドーソン『モンゴル帝国史』5巻、357-358頁</ref>。
ファフルッディーンはイルハン国から敵対視されたために領内に逃げ込んできたニクーダリーヤーン部族に保護を与え、近接する地域に彼らを派遣し、破壊を行わせた<ref name="CMD5-358">ドーソン『モンゴル帝国史』5巻、358頁</ref>。ニクーダリーヤーンの被害を受けた地域の人間はガザンに保護を求め、彼らの訴えを聴きいれたガザンは弟のハルバンダ（[[オルジェイトゥ]]・ハン）にファフルッディーンの討伐を命じた。[[1299年]]にヘラートはハルバンダの攻撃を受け、両軍に数千人の死者を出した戦闘の末、ファフルッディーンが金を支払うことを条件に和約が成立した<ref>ドーソン『モンゴル帝国史』5巻、359-360頁</ref>。
[[1304年]]にオルジェイトゥがイルハン国のハンに即位した後、ファフルッディーンはオルジェイトゥからの報復を恐れ、祝賀のためにイルハン国の宮廷を訪問しようとしなかった<ref>ドーソン『モンゴル帝国史』6巻、181頁</ref>。[[1306年]]にオルジェイトゥは将軍ダーニシュマンドが率いる討伐隊をヘラートに派遣し、ヘラートは一時的にダーニシュマンドに占領され、ファフルッディーンはヘラート近郊のアマーン・クー城砦に避難した。ファフルッディーンがヘラートに残したクルト朝の将軍ムハンマド・サームが城内でダーニシュマンドを殺害し、ヘラートは解放される。ダーニシュマンドの殺害後、ヘラートは彼の子ブジャイ、タガイらの包囲を受け、包囲中にアマーン・クーのファフルッディーンが没する<ref>ドーソン『モンゴル帝国史』6巻、194-197頁</ref>。包囲を受けたヘラートは食料が欠乏して飢餓に陥り、ムハンマド・サームはブジャイに降伏を申し出た<ref>ドーソン『モンゴル帝国史』6巻、201-202頁</ref>。開城後にムハンマド・サームは処刑され、オルジェイトゥは人質として預かっていたファフルッディーンの弟ギヤースッディーンを新たなヘラートの領主に任命した<ref>ドーソン『モンゴル帝国史』6巻、204-205頁</ref>。
ブジャイをはじめとする一部のイルハン国の廷臣はギヤースッディーンを敵対視し、オルジェイトゥに讒言を行った。[[1311年]]にギヤースッディーンはオルジェイトゥの元に召喚され、3年にわたって拘留された末、所領の領有権を認められ、多量の財宝を下賜された<ref>ドーソン『モンゴル帝国史』6巻、240-241頁</ref>。[[1315年]]にギヤースッディーンはヘラートに帰国する<ref>ドーソン『モンゴル帝国史』6巻、241頁</ref>。
ギヤースッディーンの時代にヘラートはチャガタイ家の王子ヤサウルから攻撃を受け、またイスフィザールの領主クトゥブ・ウッディーンやスィースターンの住民と対立する。[[1318年]]にヤサウルがイルハン国に侵入した際、クルト朝の領土はヤサウルの略奪を受け、翌[[1319年]]にヘラートはヤサウルの包囲を受けた<ref>ドーソン『モンゴル帝国史』6巻、279-284頁</ref>。ギヤースッディーンはイルハン国の将軍フセインの援軍と共にヤサウルの包囲を解き、戦後[[アブー・サイード]]・ハンから新たな領地と領民を与えられた<ref>ドーソン『モンゴル帝国史』6巻、286-287頁</ref>。[[1320年]]8月にギヤースッディーンは[[ハッジ|メッカ巡礼]]に向かい、子のシャムスッディーン3世にヘラートの統治を委任した。
[[1327年]]にイルハン国の有力者[[チョバン]]がギヤースッディーンに助けを求め、ヘラートに亡命する。ギヤースッディーンはチョバンと旧交があったが、アブー・サイードの命令に従ってチョバンを殺害した<ref>ドーソン『モンゴル帝国史』6巻、327-329頁</ref>。
ギヤースッディーンの死後、彼の子たちが跡を継ぐが、シャムスッディーン3世とハーフィズはどちらも短期間で没する。友人であるチョバンを殺害したギヤースッディーンの背信行為のため、子供たちの治世が長く続かなかったのはチョバンの呪いと噂された<ref name="honda-jiten"/>。ハーフィズが暗殺された後に、ハーフィズの弟であるムイズッディーン・フセインが即位し、ムイズッディーン・フセインは兄を暗殺した貴族たちを討伐する。
=== 王朝の独立 ===
[[1335年]]にアブー・サイードが没した後にイルハン国は急速に崩壊し、ムイズッディーン・フセインはハン位の請求者の一人である[[ジョチ・カサル]]家の[[トガ・テムル]]と同盟し、彼に敬意を払った。そして、ホラーサーン地方の小勢力の領主たちの多くはクルト朝の保護下に入った<ref name="CMD6-379"/>。
イルハン国の崩壊後、ムイズッディーン・フセインは{{仮リンク|サブゼヴァール|en|Sabzevar}}を中心とする隣国の{{仮リンク|サルバダール政権|en|Sarbadars}}と争った<ref name="honda-jiten"/>。トガ・テムルと対立していたサルバダール政権は彼の同盟者であるクルト朝も敵とみなし、クルト朝の領土はサルバダール政権の侵入に晒される。[[1342年]]7月18日のザーヴァの戦いでクルト軍とサルバダール軍が衝突した時、当初はサルバダール軍が優勢だったが、サルバダール軍内部の不和のためにクルト軍が勝利を収める。戦勝を収めたムイズッディーン・フセインは{{仮リンク|フトバ|en|Khutbah}}の文に自分の名を刻み、独自の貨幣を鋳造し、王号を称して独立を宣言した<ref name="CMD6-379"/>。
ムイズッディーン・フセインは[[チャガタイ・ハン国|西チャガタイ・ハン国]]の影響下にあった[[トランスオクシアナ]]に侵入し、西チャガタイ・ハン国の有力者{{仮リンク|カザガン|en|Amir Qazaghan}}はクルト朝への報復を計画した。[[1351年]]にカザガンは[[バヤン・クリ]]・ハンを奉じてヘラートに遠征を行い、クルト朝の西チャガタイ・ハン国への臣従と貢納を条件に講和が成立した<ref>ドーソン『モンゴル帝国史』6巻、378-380頁</ref>。
[[1362年]]にサルバダール政権はクルト朝の攻撃を企てるが、サルバダール内部の不和のために遠征は行われなかった。政敵を殺害したアリー・ムアイヤドがサルバダール政権の指導者となった後、クルト朝はアリー・ムアイヤドの元から亡命した[[シーア派]]の[[ダルヴィーシュ]]たちを受け入れた。
クルト朝はトランスオクシアナに新たに成立した[[ティムール朝]]の領土に侵入するが、そのために[[ティムール]]との緊張が高まった。[[1370年]]にムイズッディーン・フセインは没し、彼の子である[[ギヤースッディーン・ピール・アリー]]が領土の大部分を継承し、{{仮リンク|サラフス|en|Sarakhs}}とホラーサーン南部のクーヒスタンの一部はギヤースッディーンの義兄弟であるマリク・ムハンマド・イブン・ムイズッディーンが継承した。
=== 滅亡 ===
ティムールの支配下に置かれたヘラートの市民には重税が課され、有名な住民たちはティムールの故郷であるケシュ（[[シャフリサブス]]）に移住させられる<ref name="rus"/>。約束を反故にされた住民の反発を危ぶんだティムールはヘラートの城壁と塔を破壊し、[[1383年]]にティムールの予測通りヘラートの住民は蜂起した<ref name="rus"/>。また、ギヤースッディーン・ピール・アリーは子のピール・ムハンマドとともにサマルカンドに移送された<ref name="honda-jiten"/>。反乱はティムールの王子[[ミーラーン・シャー]]によって鎮圧され<ref name="rus"/>、同年にギヤースッディーン・ピール・アリーと彼の家族は反乱の計画に関与した疑いをかけられて処刑された。[[1389年]]にギヤースッディーン・ピール・アリーの子と孫はサマルカンドで処刑され<ref>本田「ヘラートのクルト政権の成立」『東洋史研究』21巻2号、38頁</ref>、生き残ったクルト家の王族は[[1396年]]にミーラーン・シャーによって宴席の場で殺害された<ref>Vasiliĭ Vladimirovich Bartolʹd, ''Four Studies on the History of Central Asia'', Vol.II, (Brill, 1958), 33.</ref>。<!-- 北川誠一「クルト朝とニクーダリーヤーン」『内陸アジア・西アジアの社会と文化』、663頁では1383年滅亡 -->
== ヘラートの復興事業 ==
クルト家の本拠地であるハイサル城の西にあるヘラートは[[1221年]]にモンゴル帝国の攻撃を受けて徹底的に破壊されたが、[[オゴデイ]]・ハーンの治世から都市の再建が進められていた<ref>本田「ヘラートのクルト政権の成立」『東洋史研究』21巻2号、48-50頁</ref>。ヘラートはモンゴルの西方遠征におけるインド遠征の軍事・政治的拠点として重要な役割を持ち、父の時代からモンゴル帝国に協力していたシャムスッディーンにヘラートとその周辺の地域の統治が委ねられた<ref>本田「ヘラートのクルト政権の成立」『東洋史研究』21巻2号、53頁</ref>。
シャムスッディーンはヘラートの復興を望み、初めてヘラートに入城した時に市民の前で復興の推進を演説した<ref name="honda63">本田「ヘラートのクルト政権の成立」『東洋史研究』21巻2号、63頁</ref>。しかし、反抗の疑いを避けるために復興事業はヘラート郊外で行われており、市民たちは市内での建築事業は時期尚早であると押しとどめた<ref name="honda63"/>。
1264年/[[1265年|65年]]にアバカの命令を受け、ヘラート市の南に織物工場と市場が建てられた。[[1267年]]/[[1268年|68年]]にシャムスッディーンはキプチャク・ハン国との戦争から帰国した後、ヘラート市内に[[モスク]]、橋梁、駅舎、貯水池を建設する<ref name="honda63"/>。
シャムスッディーンの跡を継いだファフルッディーンは、文芸と宗教を手厚く保護した<ref name="honda-jiten"/>。
== 歴代君主 ==
{| width=100% class="wikitable"
! style="background-color:#B0DC88" width=14% | 称号
! style="background-color:#B0DC88" width=20% | 名前
! style="background-color:#B0DC88" width=8% | 在位期間
! style="background-color:#B0DC88" width=19% | 備考
|-
|- style="background:yellow"
|align="center"|
|align="center"| マリク・ルクンッディーン・アブー・バクル
|align="center"|? - 1245年
|align="center"|
|-
|- style="background:orange"
|align="center"|
|align="center"| [[マリク・シャムス・ウッディーン1世|シャムスッディーン・ムハンマド・イブン・アブー・バクル]]
|align="center"|1245年 - 1277年
|align="center"|
|-
|- style="background:orange"
|align="center"|マリク<br/><small>{{Nastaliq|ملک }}</small>
|align="center"| ルクヌッディーン・イブン・シャムスッディーン・ムハンマド<br/>（シャムスッディーン2世）
|align="center"|1277年 – 1295年
|align="center"|
|-
|- style="background:orange"
|align="center"|マリク<br/><small>{{Nastaliq|ملک }}</small>
|align="center"| ファフルッディーン・イブン・ルクヌッディーン
|align="center"|1295年 – 1308年
|align="center"|
|-
|- style="background:orange"
|align="center"|マリク<br/><small>{{Nastaliq|ملک }}</small>
|align="center"| ギヤースッディーン・イブン・ルクヌッディーン
|align="center"|1308年 – 1329年
|align="center"|
|-
|- style="background:orange"
|align="center"|マリク<br/><small>{{Nastaliq|ملک }}</small>
|align="center"| シャムスッディーン3世・ムハンマド・イブン・ギヤースッディーン
|align="center"|1329年 - 1330年
|align="center"|
|-
|- style="background:orange"
|align="center"|マリク<br/><small>{{Nastaliq|ملک }}</small>
|align="center"| ハーフィズ・イブン・ギヤースッディーン
|align="center"|1330年 – 1332年
|align="center"|<small>学者であり、シャムスッディーン3世に次ぐ王位の継承者だったが、<br/>即位から2年後に暗殺された。</small>
|-
|- style="background:pink"
|align="center"|マリク<br/><small>{{Nastaliq|ملک }}</small><br/>スルターン<br/><small>{{Nastaliq|سلطان}}</small>
|align="center"| ムイズッディーン・フセイン・イブン・ギヤースッディーン
|align="center"|1332年 – 1370年
|align="center"|
|-
|- style="background:pink"
|align="center"|マリク<br/><small>{{Nastaliq|ملک }}</small><br/>スルターン<br/><small>{{Nastaliq|سلطان}}</small>
|align="center"|ギヤースッディーン・ピール・アリー
|align="center"|1370年 – 1381年
|align="center"|<small>
|-
|colspan=4 align="middle"| [[ティムール]]による征服
|}
{|width=50% class="wikitable"
|+ 凡例
|-
! width=25% | 色
! width=75% | 解説
|-
! style="background:yellow"|
|align="center"|ゴール朝の臣従下
|-
! style="background:orange"|
|align="center"|モンゴル帝国、イルハン国の臣従下
|-
! style="background:pink"|
|align="center"|独立
|}
== 脚注 ==
{{イランの歴史}}
{{Reflist}}
== 参考文献 ==
* 本田実信「カルト朝」『アジア歴史
* 本田実信「ヘラートのクルト政権の成立」『東洋史研究』21巻2号収録（東洋史研究会編, 1962年）
* [[アブラハム・コンスタンティン・ムラジャ・ドーソン|C.M.ドーソン]]『モンゴル帝国史』4巻（[[佐口透]]訳注, [[東洋文庫 (平凡社)|東洋文庫]], [[平凡社]], 1973年6月）
* C.M.ドーソン『モンゴル帝国史』5巻（佐口透訳注, 東洋文庫, 平凡社, 1976年12月）
* C.M.ドーソン『モンゴル帝国史』6巻（佐口透訳注, 東洋文庫, 平凡社, 1979年11月）
* Peter Jackson (1986). The Cambridge History of Iran, Volume Six: The Timurid and Safavid Periods. ISBN 0-521-20094-6
* Edward G. Browne (1926). A Literary History of Persia: The Tartar Dominion. ISBN 0-936347-66-X
== 読書案内 ==
* 北川誠一「クルト朝とニクーダリーヤーン」『内陸アジア・西アジアの社会と文化』収録（護雅夫編, 山川出版社, 1983年6月）
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