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所詮1言語圏内における議論を全世界的な論争であるかのような節の名称にしておくのは良くない。他、どうにもオーバーな表記が目立つので修正した。
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}}
[[ファイル:Cow and calf.jpg|thumb|right|250px|子供に乳を与える[[ウシ]]。授乳は哺乳類の特徴の一つであり、名前の由来である。]]
 
'''哺乳類'''(ほにゅうるい、{{sname|Mammalia}})は、[[動物|動物界]] [[脊索動物|脊索動物門]] [[脊椎動物|脊椎動物亜門]]に[[分類]]される生物群である。分類階級は'''哺乳綱'''(ほにゅうこう)とされる。
 
基本的に[[有性生殖]]を行い、現存する多くのもの[[種 (分類学)|種]]が[[胎生]]で、[[乳]]で子を育てるのが特徴である。[[ヒト]]は哺乳綱の中の[[サル目|霊長目]][[ヒト科]][[ヒト属]]に分類される。
 
哺乳類に属する動物の[[種 (分類学)|種]]の数は、研究者によって変動するが、おおむね4,300から4,600ほどであり、脊索動物門の約10%、広義の動物界の約0.4%にあたる。
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哺乳類の起源は古く、既に[[三畳紀]]後期の2億2500万年前には、最初の哺乳類といわれる[[アデロバシレウス]]が生息していた。そのルーツは、[[古生代]]に繁栄した[[単弓類]] (''Synapsida'') のうち、[[キノドン類]] (''Cynodontia'') である。単弓類は、[[爬虫類]]の[[双弓類]] (''Diapsida'') とは[[石炭紀]]中期に分岐し、独自の進化をしていた。単弓類は[[ペルム紀]]末の[[大量絶滅#ペルム紀末|大量絶滅]]において壊滅的なダメージを受け、キノドン類などごくわずかな系統のみが三畳紀まで生き延びている。一時期再び勢力を挽回するものの、既に主竜類などの勢力も伸長し単弓類は既に地上の覇者ではなくなっていた。そして、三畳紀後期初頭の大絶滅を哺乳類とともに生き延びたのは、[[トリティロドン科]]のみであった。しかし彼らも[[白亜紀]]前期には姿を消している。
 
[[恐竜]]の全盛時代である[[ジュラ紀]]、白亜紀の哺乳類は[[ネズミ]]ほどの大きさのものが多かった。しかし進化が停滞していたわけではない。白亜紀前期には、すでに[[有胎盤類]]が登場している。また、中国から発見された大型の哺乳類の化石(胃の辺り)から未消化の恐竜の子供が見つかっている。これは、哺乳類が恐竜を捕食していた例もあったこを意味してうことになる。
 
恐竜を含む[[主竜類]]が繁栄を極めた時代には、哺乳類は、夜の世界など主竜類の活動が及ばない時間・場所などの[[ニッチ]]に生活していた。[[魚類]]、[[両生類]]、[[爬虫類]]、[[鳥類]]には4タイプの錐体細胞を持つものが多い([[4色型色覚]])。現在、[[鳥類]]などに比して哺乳類の視覚(とりわけ色覚)が全般的に劣っているのも、この長い夜行生活を経て大部分の哺乳類の[[視覚]]が2色型色覚に[[退化]]したためであと考えられている(二次的に3色型色覚を獲得した[[霊長目]][[狭鼻下目]]などを除く)。約6400万年前、鳥類と[[ワニ]]類を除く主竜類が絶滅し、次の[[新生代]]では、その空白を埋めるように哺乳類は爆発的に放散進化し、多種多様な種が現れた。
 
現在では地中や水中などを含め、地球上のほとんどの環境に、哺乳類が生息している。
 
=== 分類体系 ===
* [[有羊膜類]] {{sname|Amniota}}
** [[竜弓類]] {{sname|Sauropsida}}
*** [[爬虫類]] {{sname|Reptilia}}
**** [[双弓類]] {{sname|Diapsida}} → 恐竜・翼竜等、及び現生の爬虫類・鳥類へ
** [[単弓類]] {{sname|Synapsida}}
*** [[盤竜類]] {{sname|Pelycosauria}}
**** [[真盤竜亜目]] {{sname|Eupelycosauria}}
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;乳房:[[授乳]]という哺乳類のメスが行う独特の行動に用いる器官で、[[乳房]]と[[乳頭]]内部にある[[乳腺]]と[[乳管]]で成り立つ。[[出産]]すると[[乳]]の分泌が開始されるが、[[イヌ]]などでは他の個体が産んだ子を相手に[[母性本能]]が刺激されて乳を分泌する場合もある。発生的には[[汗腺]]が分化したもので、胎生の段階では腹部に複数の対を成す乳腺堤から生じる。これがイノシシやネズミなど多産な種では多くが残る。逆にヒトやゾウのような少産種では1対のみが残り他は退化するが、稀に残存したものが過剰乳頭である<ref name=Ohaishi2-30>[[#大泰司②(1998)|大泰司②(1998)、p.30-32、第2章.体の表面 2.1皮膚・毛・皮膚腺 (4)乳房]]</ref>。
 
;体毛:体表を覆う[[体毛]]を持つ動物のうち、[[皮膚]]の[[角質]]層に由来するものを持つのは哺乳類のみである<ref name=Ohaishi2-22>[[#大泰司②(1998)|大泰司②(1998)、p.22-27、第2章.体の表面 2.1皮膚・毛・皮膚腺 (2)毛とトゲ]]</ref>。さらにこれが発達して厚くなると、[[角]]や[[爪]]、または[[ヤマアラシ]]・[[センザンコウ]]のトゲやウロコとなる<ref name=Ohaishi2-22 />。体毛は体温の発散を防ぐ他に、保護色や触覚の役割を持ったり、ディスプレイにも使われたりする<ref name=Ohaishi2-22 />。[[クジラ]]類では、ハクジラ類が、胎児期にのみ、頭部の一部にわずかな毛をもつ。参考までに、[[爬虫類]]は体毛をもたず、[[鳥類]]では[[羽毛]]が体表を覆う。
 
;横隔膜:[[肋骨]]と共同して[[肺呼吸]]を可能にする[[横隔膜]]をもち、これが[[胸腔]]と[[腹腔]]とを分けている。(他の動物群にない特徴)
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;[[骨盤|寛骨]]:[[腸骨]]・[[坐骨]]・[[恥骨]]の3つが癒合し、1つの寛骨になっている。ただし[[クジラ類]]は寛骨が消失(爬虫類は3つの骨が分離している)。
 
=== 色覚の特徴 ===
[[脊椎動物]]の[[色覚]]は、[[網膜]]の中にどのタイプの[[錐体細胞]]を持つかによって決まる。[[魚類]]、[[両生類]]、[[爬虫類]]、[[鳥類]]には4タイプの錐体細胞([[4色型色覚]])を持つものが多い。よってこれらの生物は長波長域から短波長域である近紫外線までを認識できるものと考えられている。一方ほとんどの哺乳類は錐体細胞を2タイプ([[2色型色覚]])しか持たない。哺乳類の祖先である爬虫類は4タイプ全ての錐体細胞を持っていたが、2億2500万年前には、最初の哺乳類と言われる[[アデロバシレウス]]が生息し始め、初期の哺乳類は主に[[夜行性]]であったため、[[色覚]]は生存に必須ではなかった。結果、4タイプのうち2タイプの錐体細胞を失い、青を中心に感知するS錐体と赤を中心に感知するL錐体の2錐体のみを保有するに至った。これは赤と緑を十分に区別できないいわゆる「赤緑色盲」の状態である。この色覚が哺乳類の子孫に遺伝的に受け継がれることとなった。
 
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== 分類 ==
=== 大分類 ===
* [[原獣亜綱]] {{sname|Prototheria}} (Australosphenida)
* [[獣形類]] {{sname|Theriiformes}}
** [[異獣亜綱]] {{sname|Allotheria}} †(†は絶滅)
*** [[多丘歯目]] {{sname|Multituberculata}} †
** [[三錐歯目]](三丘歯目) {{sname|Triconodonta}} (Eutriconodonta) †
** [[全獣類]] {{sname|Holotheria}}
*** [[上団|Superlegion]] {{sname|Trechnotheria}}
**** [[相称歯目]] {{sname|Symmetrodonta}} †
**** [[団|Legion]] {{sname|Cladotheria}}
***** [[亜団|Sublegion]] {{sname|Zatheria}}
****** [[獣亜綱]](真獣亜綱) {{sname|Theria}}
******* [[後獣下綱]] {{sname|Metatheria}}
******* [[真獣下綱]] {{sname|Eutheria}}
 
かつて哺乳類は原獣亜綱、異獣亜綱、獣亜綱の3つに分類され、原獣亜綱と異獣亜綱は雑多な原始的哺乳類を含んだ。しかしその後、別系統だと判明した多くのグループが外された。原獣亜綱はかつての分類群と共通点が少ないため、原獣亜綱という分類群は解体されたとして、新しい名称の ''Australosphenida'' で呼ぶことも多い。
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現生のものは1目のみ。
 
* [[単孔目]](カモノハシ目) {{sname|Monotremata}}
 
==== 後獣下綱 ====
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現生のものは6目前後に分けることが多い。詳細は→[[後獣下綱]]
 
* アメリカ有袋大目 {{sname|Ameridelphia}}
** [[オポッサム目]] {{sname|Didelphimorphia}}
* オーストラリア有袋大目 {{sname|Australidelphia}}
** [[ミクロビオテリウム目]] {{sname|Microbiotheria}}
** [[フクロネコ目]] {{sname|Dasyuromorphia}}
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現生のものは大きく4上目に分けられる。20目前後に分けることが多い。
 
* [[アフリカ獣上目]] {{sname|Afrotheria}}
** [[長脚目]](ハネジネズミ目) {{sname|Macroscelidea}}: [[ハネジネズミ]] (アフリカ).
** [[アフリカトガリネズミ目]](テンレック目) {{sname|Afrosoricida}}: [[テンレック]], {{仮リンク|キンモグラ|en|Golden mole}} (アフリカ)
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*** [[長鼻目]](ゾウ目) {{sname|Proboscidea}}: [[ゾウ]] (アフリカ, 東南アジア).
*** [[海牛目]](ジュゴン目) {{sname|Sirenia}}: [[ジュゴン]]
* [[異節上目]] {{sname|Xenarthra}}
** [[被甲目]] {{sname|Cingulata}}: [[アルマジロ]] ([[新熱帯区]]と[[新北区]])
** [[有毛目]] {{sname|Pilosa}}: [[ナマケモノ]], [[アリクイ]] (新熱帯区)
* [[北方真獣類]]([[ボレオユーテリア]]) {{sname|Boreoeutheria}}
** [[真主齧上目]](正主齧歯類上目) {{sname|Euarchontoglires}}
*** [[真主獣大目]] {{sname|Euarchonta}}
**** [[登木目]](登攀目、ツパイ目) {{sname|Scandentia}}: [[ツパイ]] (東南アジア)
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=== 伝統的な分類 ===
伝統的な分類は、現在の分類に比べ以下のような相違点がある。
* 下綱と目の間に分類群を置くことは少なかった。提案されたものはあったが、現在のものと共通点は少ない。
* トガリネズミ目・ハリネズミ目・アフリカトガリネズミ目は無盲腸目 (''Lipotyphla'') にまとめられていた。さらに古くは、無盲腸目・ハネジネズミ目・登木目(ツパイ目)・皮翼目(ヒヨケザル目)が[[食虫目]](モグラ目)(''Insectivora'') にまとめられていた。(無盲腸目と食虫目の関係については食虫目を参照)
* 鯨偶蹄目は[[クジラ目]] (''Cetacea'') と[[偶蹄目]](ウシ目) (''Artiodactyla'') に分けられていた。
* 現生有袋類は[[有袋目]](フクロネズミ目) (''Marsupialia'') の1目のみとされていた。
* 異節類は異節目(アリクイ目) (''Xenarthra'') の1目のみとされていた。さらに古くは、有鱗目(センザンコウ目)・管歯目(ツチブタ目)と共に貧歯目 (''Edentata'') にまとめられていた。
 
== 日本における目名の問題表記法に関する議論 ==
[[日本]]では[[明治維新]]以来、[[ (分類学)|目]]名には「齧歯目」「霊長目」等、原名のラテン語をおおむね忠実に漢訳した漢名が用いられてきた(一般にはしばしば、「齧歯類」「霊長類」のように「類」が慣用されてきた)。だが、1988年、[[文部省]]の『'''学術用語集 動物学編'''』において、目以下の名称をすべてカナ書きにし、目名は「ネズミ目」「サル目」のように、それぞれの動物群を代表する動物名(カナ書き)に変えるという改定がなされた。
 
しかし、たとえば「ネコ目」(食肉目)のネコ亜目とアシカ亜目、イヌ上科とネコ上科のように、亜目、上科のような比較的高い階層の分類階級による動物群は、それぞれ他のグループとは明らかに異なる特有の性質をもつものであり、1つの下位分類群の名前(「ネコ」)によって、目という大きなグループの全体(ネコ・イヌ・イタチ・クマ・アライグマ・パンダ・アシカ・アザラシ・セイウチなどからなる食肉目)を代表させることは、必ずしも直観的なわかりやすさにはつながらない。それゆえに、ラテン名においても、動物の名で代表させた分類単位の名前は、上科よりも下位の分類階級でしか用いられない。
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また、以前からの慣用として、どの分類階級であるかにかかわらず、「○○の仲間」を「○○類」と書くことがあるが、かつての漢名ならば、たとえば「齧歯類」と言えば、それが「目」の階層の「齧歯目」を指すことは明らかであり、他の階層との混同のおそれはなかった。それが、「齧歯目」が「ネズミ目」となることによって、「ネズミ類」という言葉が示す可能性のある階層の範囲が目のレベルにまで広がり、混乱が拡大されたという側面もある。つまり、旧来の用例ならば、たとえば「齧歯類」にネズミの類とリスの類、ヤマアラシの類が含まれることは容易に認識できるが、新しい用例で「ネズミ類」とした場合、これが狭義のネズミ類なのか、リスやヤマアラシの類をも含んだ概念なのかが把握しにくくなってしまっている。
 
この分類名の改定は、分類学の根本理念に対して分に配慮した上でのものではなく、また平易化にむしろ逆行する部分もあることから、学界内でも現在なお議論が多い。現状では、旧来の漢名をそのまま用いたり、新しいカナ名と併記したりする例も多い。
 
日本哺乳類学会・目名問題検討作業部会では、基本的に従来の漢字名で統一すべきという論文を発表し、事実上、用語集の再改定を求めている。
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真獣類の系統研究は、今まさに、大きな転換期のただ中にあるといえる。|date=2013年1月}}
 
== 脚注 ==
<references />