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{{馬齢混}}
{{出典の明記|date=2015年6月}}
{{競走馬
|画 = [[ファイル:Grass_Wonder_19991226.jpg|240px250px]]
|説 = 1999年12月26日、[[中山競馬場]]
|名 = グラスワンダー
||性 = [[牡馬|牡]]<ref name="yushun0011" />
|英 = Grass Wonder
|色 = [[栗毛]]<ref name="yushun0011" />
|漢 = 草上飛
|性 = [[牡馬|牡]]
|色 = [[栗毛]]
|種 = [[サラブレッド]]
|生 = {{生年月日と馬齢|p=0|1995|2|18}}<ref name="yushun0011" />
|死 = （現役種牡馬）
|登 = 1997年4月17日
|抹 = 2000年12月24日
|父 = [[シルヴァーホーク|Silver Hawk]]<ref name="yushun0011" />
|母 = Ameriflora<ref name="yushun0011" />
|母父 = [[ダンジグ (競走馬)|Danzig]]<ref name="yushun0011" />
|産 = Phillips Racing Partnership<br />& John Phillips<ref name="yushun0011" />
|産 = フィリップ スレーシング<br /> パートナーシップ<br />&amp;ジョンフィリップス
|国 = {{USA}}<ref name="yushun0011" />
|主 = 半沢（有限会社）<ref name="yushun0011" />
|調 = [[尾形充弘]]（[[美浦トレーニングセンター|美浦]]）<ref name="yushun0011" />
|厩 = 大西美昭<br />→佐々木力<ref name="yushun0009" />
|績 = 15戦9勝<ref name="yushun0011" />
|金 = 6億9164万6000円<ref name="yushun0011" />
|鞍 = {{color|#f00|GI}}：GI：[[朝日杯フューチュリティステークス|朝日杯3歳ステークス]]（1997年）<br />[[有馬記念]]（1998年・1999年）<br />[[宝塚記念]]（1999年）<br />{{color|#00f|GII}}：GII：[[京王杯2歳ステークス|京成杯3歳ステークス]]（1997年）<br />[[京王杯スプリングカップ]]（1999年）<br />[[毎日王冠]]（1999年）
}}
'''グラスワンダー'''（{{Lang-en-short|''Grass Wonder''}}、[[中国語|香1995年]]：{{Lang|zh|草上飛}}[[2月18日]] - ）は、[[アメリカ合衆国]]で生産され、[[日本]]で調教された[[競走馬]]（[[外国産馬]]）である。[[朝日杯フューチュリティステークス|朝日杯3歳ステークス]]を無敗のままレコードで圧勝した後、[[有馬記念]]連覇、[[宝塚記念]]とグランプリレースを3連覇して、[[中央競馬]]の[[競馬の競走格付け|GI]]を4勝するなどして活躍した。
 
1997年に[[中央競馬]]（JRA）でデビュー。同年[[朝日杯フューチュリティステークス|朝日杯3歳ステークス]]をレコードタイムで制し、最優秀3歳牡馬に選出。[[レイティング#競馬|レーティング]]ではJRA所属の2歳馬として史上最高の評価を受けた。翌1998年春は骨折で棒に振ったものの、秋には復帰し、年末には有馬記念を制覇。1999年にも複数回の怪我に見舞われながら[[宝塚記念]]と有馬記念を制し、史上2頭目の「[[グランプリ (中央競馬)|グランプリ]]三連覇」を達成。同年、[[JRA賞特別賞]]を受賞した。2000年の宝塚記念を最後に引退。通算15戦9勝。うち14戦で[[的場均]]が騎乗した。
[[主戦騎手]]は[[的場均]]（現[[調教師]]）。最後のレースとなった[[2000年]]の宝塚記念のみ、[[蛯名正義]]が手綱をとった。競走馬引退後は[[種牡馬]]生活を送っている。
 
2001年より種牡馬。産駒には[[ジャパンカップ]]優勝馬[[スクリーンヒーロー]]、宝塚記念優勝馬[[アーネストリー]]、[[朝日杯フューチュリティステークス]]優勝馬[[セイウンワンダー]]など、5頭のGI・JpnI競走優勝馬を輩出している。
※現役中に[[馬齢]]の表記が変更されたため、競走名をのぞき馬齢は全て新表記を用いる。
 
== 出自経歴 ==
=== デビューまで ===
[[1996年]]9月、[[キーンランド競馬場|キーンランド]]で行われた[[セリ市 (競馬)|セリ市]]（セプテンバーセール）で馬体のバランスの良さが日本の調教師[[尾形充弘]]の目に止り、尾形と同行していた伊東純一（半沢有限会社<ref group="注">半沢有限会社の会長は1970年代の名馬[[グリーングラス]]の馬主である半沢吉四郎の双子の弟にあたり、[[勝負服 (競馬)|勝負服]]も同じである。</ref>の社長）が25万[[アメリカ合衆国ドル|ドル]]で落札した<ref>『競馬名馬&名人読本』p21-22</ref>。その後、半沢有限会社の名義で所有され、日本で競走馬としてデビューすることとなった。
1995年、アメリカ合衆国のフィリップス・レーシングによる生産馬。父[[シルヴァーホーク]]は競走馬時代にイギリスとアイルランドで走り、クレイヴンステークス（G3）での勝利や、[[アイリッシュダービー]]（G1）2着などを含む8戦3勝<ref name="yushun9802138">『優駿』1998年2月号、pp.138-139</ref>。当時、種牡馬として[[ホークスター]]を出していたが、それほど高く評価されていたわけではなかった<ref name="100meiba">『週刊100名馬vol.89 グラスワンダー』pp.4-10</ref>。[[ベニーザディップ]]が[[ダービーステークス]]を制し、一躍脚光を浴びるのが1997年のことである<ref name="100meiba" />。ただし、祖父[[ロベルト (競走馬)|ロベルト]]から連なる「[[ロベルト系]]」の血統は、当時すでに[[ブライアンズタイム]]や[[リアルシャダイ]]といった種牡馬により日本で優れた成績を挙げていた<ref name="100meiba" />。母アメリフローラは不出走だが、伯母にはそれぞれアメリカで複数の重賞を勝ったグレイスフルダービーやトリビュレーションがいた<ref name="yushun9802138" />。また、1999年に生まれる本馬の全妹（父母ともに同じ妹）ワンダーアゲインは、アメリカで[[ベルモントオークスインビテーショナルステークス|ガーデンシティブリーダーズカップハンデキャップ]]、[[ダイアナハンデキャップ]]と2つのG1競走を勝つことになる<ref name="hiraide">平出（2014）pp.204-205</ref>。
 
{{Double image aside|right|Mitsuhiro-Ogata20120324.jpg|150|Matoba_hitoshi_on_rice_shower.jpg|150|尾形充弘（2012年）|的場均（1993年）}}
== 競走馬時代 ==
1996年9月、[[キーンランド競馬場|キーンランド]]で行われた[[セリ市 (競馬)|セリ市]]（セプテンバーセール）に上場され、日本から参加していた調教師・[[尾形充弘]]の目にとまり、同行していた伊東純一（半沢有限会社社長）が25万[[アメリカ合衆国ドル|ドル]]で落札した<ref name="meibameijin">『競馬名馬&名人読本』p21-22</ref>。尾形は本馬を選んだ理由について「具体的には飛節の位置が高い馬だったこと、肩が非常によく寝ていること、全体のバランスがいいこと。それから後躯の発達が非常によかった」と述べている<ref name="yushun980246">『優駿』1998年2月号、pp.46-51</ref>。記者の[[水戸正晴]]によれば、尾形は「いい買い物だった。走る馬だから見ていてくれ」と得意気であったという<ref>『優駿』2004年3月号、p.29</ref>。なお、競っていた相手は[[アラブ首長国連邦]][[ドバイ]]の大馬主・[[ゴドルフィン]]であった<ref name="meiba">『名馬物語 vol.3』pp.37-44</ref>。
=== 1997年 ===
9月13日、[[中山競馬場]]の[[新馬|新馬戦]]（芝1800[[メートル|m]]）でデビュー、ほとんど馬なりのまま2着馬に3馬身差をつけ初勝利を挙げた。続くアイビーステークスも5馬身差で勝利すると、さらに3戦目の[[京王杯2歳ステークス|京成杯3歳ステークス]]も6馬身差で優勝、重賞初制覇を飾った。
 
同年11月、日本へ輸送され北海道苫小牧市の[[ノーザンファーム空港牧場]]に到着<ref name="meiba2">『週刊100名馬vol.89 グラスワンダー』p.11</ref>。育成調教が行われた同場では、その動きの良さが評判となった<ref name="kimura">木村（2000）pp.44-45</ref>。なお、後にもう1頭「アメリフローラの子に匹敵する」と評判をとるのが、後年ライバルの1頭と目されるようになる[[スペシャルウィーク]]であった<ref name="kimura" />。
勝つ度に着差を広げる底知れない強さから圧倒的1番人気に支持されたGI[[朝日杯フューチュリティステークス|朝日杯3歳ステークス]]でも、レース史上初めて1分34秒の壁を破る1分33秒6のレースレコードで優勝した。実況した[[フジテレビジョン|フジテレビ]]の[[三宅正治]]アナウンサーが'''「[[マルゼンスキー]]の再来です!」'''と叫ぶほどの走りであった。三宅の他にも[[大川慶次郎]]が[[杉本清]]との対談において、「ついに出てきたね、マルゼンスキー級が」と語り、この馬に対する並々ならぬ期待感を表していた。同年のJRA賞では[[JRA賞最優秀2歳牡馬|JRA賞最優秀3歳牡馬]]を受賞したほか、JRAクラシフィケーションでは2歳馬の歴代1位となる116ポンドの評価を受けた<ref>[http://www.jra.go.jp/topics/column/g_files2010/10_1219.html JRAホームページ 名馬の蹄跡 グラスワンダー]</ref>。この頃には陣営は翌年秋のアメリカ遠征の青写真を想い描いていた。
 
翌1997年4月、[[茨城県]]・[[美浦トレーニングセンター]]の尾形厩舎へ入る<ref name="meiba2" />。競走馬名の「グラスワンダー」は、[[冠名]]の「グラス」に、伊藤がセリ市で見たときに「ワンダフルな印象を受けた」ことから「ワンダー」を加えたものである<ref name="meibameijin" />。なお、馬主の半沢信彌（名義は「半沢（有）」）は、かつて[[グリーングラス]]を所有した半沢吉四郎の双子の弟であり、「グラス」という冠名は同馬の名に由来する<ref name="yushun990286">『優駿』1999年2月号、pp.86-89</ref>。
=== 1998年 ===
当時外国産馬に[[クラシック (競馬)|クラシック]]レースへの出走権はなかったため、陣営は[[NHKマイルカップ]]を前半シーズンの最大目標とした。しかし前哨戦の[[ニュージーランドトロフィー|ニュージーランドトロフィー4歳ステークス]]を目前に控えた3月に右第3中足骨の骨折が判明し、前半シーズンの全休を余儀なくされた<ref>[http://www.neic.ne.jp/keibabook/980323/itwnp.html#01 競馬ブックの記事]</ref>。以後、グラスワンダーは常に脚部不安と戦い続けることとなった。
 
グラスワンダーは極めて落ち着いた性格の持ち主であり、ある日の調教で、乗り役を落とした馬が突っ込んできても全く動じない様子を見て、尾形は「かなり賢くて走る馬か、相当なバカ馬かどっちかだ」と笑ったという<ref name="meiba" />。同年9月にデビューを控え、主戦騎手となる[[的場均]]が初騎乗。キャンター（[[歩法 (馬術)|駈歩]]）に入ってからの乗り味の良さ、さらに終いに軽くスパートを促してからの反応の良さに的場は大いに驚き、「間違いなく将来は超一流馬になるだろう。今までにも色々な2歳馬に乗ってきたが、これはそのなかでもまぎれもなくトップクラスといえる1頭だ<ref name="matoba162">的場（2001）pp.162-170</ref>」と強い印象を残した。
復帰戦は秋の[[第49回毎日王冠|毎日王冠]]。グラスワンダー不在のNHKマイルカップを同馬の主戦騎手でもあった[[的場均]]を背に快勝した[[エルコンドルパサー]]、1歳年上の稀代の快速馬[[サイレンススズカ]]との対戦となった。的場はエルコンドルパサーもお手馬にしていたが、グラスワンダーに騎乗した。これは当初からエルコンドルパサーの騎乗はグラスワンダーが復帰するまでという約束があったためである<ref name="yumemugen">的場均『夢無限』（流星社） ISBN 9784947770035 </ref>。このレースはGIIとしては異例の盛り上がりを見せた。レースではやや出遅れたものの、すぐに持ち直し、予想通りハイペースで飛ばすサイレンススズカをエルコンドルパサー同様徹底的にマークする形で進んだ。グラスワンダーは第4コーナーあたりからまくりをうち、サイレンススズカを負かしに行こうとするも、出遅れ、ハイペース、東京の長い直線の影響もあって5着に敗れた。結局、最も重い斤量を背負いながら快調に飛ばしたサイレンススズカに1.5秒、自らのレースに徹したエルコンドルパサーにも1.1秒も離される結果になった。
 
=== 競走馬時代 ===
続く[[アルゼンチン共和国杯]]では、勝ち馬から0.6秒差の6着に敗れた。陣営にはこの敗戦が非常にショックだったという。夏負け<ref group="注">夏の暑さに馬が参ってしまうこと。</ref>の影響があったとも報道されているが、前走からのあまりに不甲斐ない敗戦が続いたため限界説や早熟説も飛び出した。
==== 2（3）歳（1997年） ====
===== JRA史上最強の2歳馬 =====
9月13日、[[中山競馬場]]の[[新馬|新馬戦]]でデビュー。スタートが得意ではないことから、余裕をもってレースを運べる1800m戦が選ばれた<ref name="100meiba3">『週刊100名馬vol.89 グラスワンダー』pp.12-19</ref>。単勝1.5倍の1番人気に推されたグラスワンダーは、スタートでやや立ち後れたものの、すぐに先団にとりつき2番手を追走<ref name="100meiba3" />。的場が鞭を使うことなく直線で抜け出し、2着に3馬身差をつけ初勝利を挙げた<ref name="100meiba3" />。続くアイビーステークスでは、レコードタイムに0秒2差の1分21秒9、上がり3ハロン（最後の600m）で全馬に1秒以上の差をつける34秒0を計時し、2着に5馬身差をつけて連勝<ref name="100meiba3" />。さらに3戦目の[[京王杯2歳ステークス|京成杯3歳ステークス]]は、クリールサイクロン、タケイチケントウという2頭の[[重賞]]勝利馬を差し置いて単勝1.1倍の1番人気となり、レースでは2番手追走から直線で独走状態となり、2着に6馬身差で重賞初勝利を挙げた<ref name="100meiba3" />。
 
12月6日、2歳王者戦・朝日杯3歳ステークスを迎える。当日の単勝オッズは1.3倍。尾形は「調教師となって初めて、負けないだろうと確信した。もし他の馬にアクシデントがあって、それに巻き込まれたら嫌だ。そこまで考えた」といい<ref name="100meiba" />、的場もまた「アクシデントだけを恐れた」という<ref name="matoba162" />。レースでは中団からやや後方を追走すると、第3コーナー過ぎからスパートをかけ、ゴールでは2着[[マイネルラヴ]]に2馬身半差をつけての優勝を果たした<ref name="100meiba3" />。この中山開催は馬場が荒れ気味であり、引き上げてきた騎手のひとりは「脚をとられちゃって、これじゃ重馬場だ」と漏らしたほどであったが<ref name="yushun980246" />、グラスワンダーの走破タイムは従来のレコードタイムを0秒4更新、同日・同距離で行われた古馬（4歳以上馬）の準オープン競走を0秒7上回る驚異的なものであった<ref name="yushun9801">『優駿』1998年1月号、pp.20-22</ref>。
しかし、暮れの[[グランプリ (中央競馬)|グランプリ]]・[[有馬記念]]にファン投票14位で出走。尾形調教師は「単勝オッズもファン投票の順位くらいだろう」と考えていたが、その通りに14.5倍で4番人気に支持されていた。レースでは同期の[[二冠馬]][[セイウンスカイ]]、女傑[[エアグルーヴ]]、[[天皇賞#天皇賞（春）|天皇賞（春）]]優勝馬[[メジロブライト]]らを退け優勝、2度目のGI勝利となった。これは外国産馬としては初の勝利であり、また史上最短キャリアでの有馬記念制覇であった。尾形調教師は、骨折でこの一年間をほぼ棒に振ったことを理由に翌年の国内専念を宣言した。
 
的場は「のんびり走っていても、ゴーサインを出してからの反応が素晴らしい。とにかく"強い"の一言。まだまだ良くなりそうな部分を秘めているし、僕が描いているとおりに成長すれば、本当にどのくらいになるのか」などと感想を述べた<ref name="100meiba3" />。また、これがGI初制覇<ref name="yushun9802138" />となった尾形は「正直、人気にされてしんどかったが、期待に応えたいという気持ちも強かったので、ほっとしている」と語り、さらに翌年の予定を[[NHKマイルカップ]]に据えるとしたうえで、「個人的な意見だが、夏を無事に過ごすことができたら海外に挑戦するつもりでいる。外国で生まれた馬だし、世界は近くなってきている。殴り込みをかけるつもりで行く」と語った<ref name="100meiba3" />。
=== 1999年 ===
[[大阪杯|産経大阪杯]]での始動を目指したが、直前になって馬房で暴れたのが原因で左眼瞼部[[創傷#創傷の種類|裂創]]を負い回避した<ref>[http://www.neic.ne.jp/keibabook/990412/itwnp.html#01 競馬ブックの記事]</ref>。尾形調教師は血を流すグラスワンダーを見たとき、「またやったか」と肩を落としたという。
 
当年はこれで出走を終え、翌1998年1月に発表された年度表彰・JRA賞では最優秀3歳牡馬に選出された<ref>『優駿』1998年2月号、p.9</ref>。仮定の[[負担重量|斤量]]数値で各馬の序列化を図るJPNクラシフィケーションの作成に当たっては、選考を務めるハンデキャッパーから「次元が違う」「超大物」と賛辞が相次ぎ、数値の決定に際しては、かつて2歳馬として最高評価を与えられた[[マルゼンスキー]]（1976年度）との直接比較が行われた。マルゼンスキーの当時の数値は「57[[キログラム|kg]]」であったが、当世的に「115[[ポンド]]」とされたうえで、グラスワンダーはマルゼンスキーよりも相手の層が厚いと考えられること、またマルゼンスキーには一度だけハナ差の辛勝があったことが考慮され、グラスワンダーには1ポンド上積みされた116ポンドが与えられ、事実上「JRA史上最強の2歳馬」という評価となった<ref name="yushun9802124">『優駿』1998年2月号、pp.124-125</ref>。なお、マルゼンスキーは当年死亡しており、この内容を伝えた競馬会の広報誌『[[優駿]]』は「これも何かの巡り合わせであろう」と評した<ref name="yushun9802124" />。
仕切り直しの一戦となった[[京王杯スプリングカップ]]では直線一気の豪脚で[[エアジハード]]を差し切り優勝。続くGI[[安田記念]]では単勝1.3倍の圧倒的な1番人気に推されたが、道中ムータティールに接触するアクシデントもあって<ref name="yumemugen"/>前走下したエアジハードの強襲を許し、ハナ差の2着に敗れた。[[DREAM競馬|ドリーム競馬]]内において、最後の直線で手前を替えることができなかったことも指摘され、骨折の影響も残っているのではないかと分析された。
 
==== 3（4）歳（1998年） ====
そんな不安が残る中、続いて春のグランプリ[[第40回宝塚記念|宝塚記念]]に出走した。このレースでは、前走天皇賞（春）を勝った同期の[[東京優駿|ダービー]]馬[[スペシャルウィーク]]との初顔合わせであった。人気面ではスペシャルウィークに続く2番人気であった。しかしレースが始まると終始スペシャルウィークをマークする形から同馬に0.5秒、3馬身差の差をつけ優勝し、前年の有馬記念に続くグランプリ連覇を達成した。さらにスペシャルウィークと3着の[[ステイゴールド]]の差が7馬身ということもあってグラスワンダーの強さが際立つ結果となった。スペシャルウィークを管理する[[白井寿昭]]調教師も、｢瞬発力が違いすぎる｣と完敗を認めるほどの内容であった。なお、スペシャルウィークには同レース後、[[凱旋門賞]]遠征プランがあったが、この敗戦により白紙撤回した。
===== 骨折 - 復帰後の不振 =====
[[ファイル:El_Condor_Pasa_19991128I1.jpg|thumb|エルコンドルパサー。グラスワンダーと同じくアメリカ産馬であった|250px]]
一時休養後、1月末より調教を再開したが、間もなく歩様に乱れが生じたことから検査が行われた。このときは原因が判明せず<ref name="yushun0102">『優駿』2001年2月号、pp.92-95</ref>、そのままNHKマイルカップの前哨戦・[[ニュージーランドトロフィー|ニュージーランドトロフィー4歳ステークス]]を目標に調整されていた。しかし3月15日、右後脚の第3中手骨を骨折しているが判明、春の出走は絶望的となり、22日にはノーザンファーム空港牧場へ放牧に出された<ref name="meiba2" />。ただし症状としてはごく小さな亀裂であった<ref name="yushun0102" />。なお、ニュージーランドトロフィーは当年1月よりデビューし、的場が別に騎手を務めていた[[エルコンドルパサー]]が勝利、同馬がそのままNHKマイルカップにも優勝した<ref name="elcon"> 『週刊100名馬vol.83 エルコンドルパサー』pp.11-13</ref>。的場はエルコンドルパサーについても「グラスワンダーと甲乙つけがたいほど素晴らしい馬」と公言していた<ref name="elcon" />。
 
8月22日に美浦トレーニングセンターへ帰厩<ref name="meiba2" />。復帰戦は10月11日の[[毎日王冠]]と決まった。ここにはエルコンドルパサーも出走を予定しており、的場は二者択一を迫られる。当時のグラスワンダーは夏負けの症状を呈し、また骨折した右後脚をかばって走ることで左前脚に[[骨膜炎]]も出ており、尾形は「エルコンドルパサーに乗ったらどうか」と促していた<ref name="100meiba" />。的場もこの時点での両馬の調整度の差は認識していたものの、先々を考えると結論が出せず、家族に「絶対的な能力はどちらが上なのか」と尋ねられ「どっちとも言えないくらい、どっちも走る。どっちって分かれば、答えは簡単なんだ。どちらが凄いか分からないから辛いんだ」と答えていたという<ref name="matoba2">的場（2001）pp.197-208</ref>。そして最終的に、的場はグラスワンダーへの騎乗を選択。エルコンドルパサーには[[蛯名正義]]が騎乗することになった。なお、的場がエルコンドルパサーを選んだ場合に備え、尾形が後任として打診していたのは蛯名であった<ref name="100meiba" />。
秋シーズン初戦の毎日王冠は後続を引き付けてから突き放す作戦であったが、逆に格下馬である[[メイショウオウドウ]]に詰め寄られるという予想を裏切る辛勝となった。このあたりから「グラスワンダー左回り不安説」が浮上した。これについて的場は安田記念の接触事故が原因になって左回りを苦手とするようになってしまったとしている<ref name="yumemugen"/>。
 
毎日王冠では、春のグランプリ・宝塚記念を含め5連勝中の4歳馬・[[サイレンススズカ]]が単勝オッズ1.4倍の1番人気となった。グラスワンダーは「的場が選んだ」という事実、また獲得賞金の関係でサイレンススズカからは4kg、エルコンドルパサーからは2kg軽い55kgという負担重量も影響してか、それに次ぐ2番人気に推される<ref name="yushun0102" />。エルコンドルパサーがそれに次ぐ3番人気であった<ref name="yushun0102" />。状態の悪さもあり、尾形は敗戦を覚悟していたが、「同じ負けるにしても納得のいく負け方であってほしい」として、強力な[[脚質#逃げ|逃げ馬]]であるサイレンススズカを自分から捉えに動くよう的場に指示を出した<ref name="yushun0102" />。レースでは、サイレンススズカが単騎での逃げを打ち、グラスワンダーは中団から後方を進んだが、第3コーナー過ぎからサイレンススズカを捉えに先団へ進出<ref name="yushun0102" />。最終コーナーから最後の直線では一時サイレンススズカに並びかけたが、そこから失速して5着と敗れた<ref name="yushun0102" />。エルコンドルパサーはサイレンススズカから2馬身半差の2着で、同馬とグラスワンダーの差は約6馬身あった<ref name="matoba2" />。
次走に予定していた[[ジャパンカップ]]は左肩の[[故障|跛行]]<ref group="注">脚を引きずるなどの歩行異常のことで、骨、腱、関節、筋肉、神経などの異常が原因とされる。</ref>を理由として回避し<ref>[http://www.neic.ne.jp/keibabook/991115/itwnp.html#01 競馬ブックの記事]</ref>、[[第44回有馬記念|有馬記念]]に出走した。宝塚記念で見せたパフォーマンスからか、前走が不甲斐ない内容だったにも関わらず、秋GI連勝中のスペシャルウィークを抑え1番人気に推された。臨戦過程の問題や12kgの馬体重増に加えコズミ（筋肉痛）が抜けないなどの不安要素も多かった中のぞんだレースは、宝塚記念とは逆にグラスワンダーをスペシャルウィークが徹底的にマークするという展開になり、最後の直線では引退の花道を飾ろうとするスペシャルウィークにゴール前で差し切られたように見え、ウイニングランをする武とスペシャルウィークを尻目に負けたことを確信し引き上げていこうとしていたが<ref group="注">もともと的場は勝っていたとしても、まず先に騎乗した馬を気遣い、無事に止めて休ませることを優先していたため、ウイニングランもガッツポーズもしない騎手として知られていた。[[ライスシャワー]]が天皇賞（春）を制した時も同様であった。</ref>、写真判定の結果わずか4cm差でスペシャルウィークとのレース史上に残る接戦を制していたことがわかり、グランプリ競走3連覇・有馬記念2連覇を達成した。
 
的場は「スタート後、外の馬に接触したり、3コーナーで物見するアクシデントもあったけど、久々のレースとしては内容は悪くなかった」と感想を述べた<ref name="100meiba3" />。後に「結果論になるが、直線までもうちょっと待っていたら、着順はもっと違った結果になっていただろう」とも述べているが<ref name="matoba2" />、尾形は「競馬の常識から言えば、1800mレースで5ハロン（1000m）の手前から追いかけるのは無謀。でも、捕まえにいった的場の心意気を褒めてやりたい。5着に負けはしたが、グラスワンダーの力の片鱗は見せた。ファンも納得してくれたと思う」と語っている<ref name="yushun0102" />。
同年の年度代表馬こそ海外で活躍したエルコンドルパサーに譲ったが、[[JRA賞特別賞]]をスペシャルウィークとともに受賞した（詳細については[[1999年度JRA賞年度代表馬選考]]を参照）。
 
その後は国際招待競走・[[ジャパンカップ]]を視野に、[[アルゼンチン共和国杯]]へ出走<ref name="matoba2" />。毎日王冠から700m延びる2500mと、初めての長距離競走への出走となったが、格下とみられた相手関係もあり、当日は1番人気の支持を受けた<ref name="100meiba3" />。レースでは3番手追走から、最後の直線で余裕をもっての抜け出しにかかった<ref name="100meiba3" />。しかしそこから失速し、6着に終わる<ref name="100meiba3" />。的場は「最後はバテたが、距離は長いとは思わなかった。まだ本当の状態じゃない」と述べるにとどめたが<ref name="100meiba3" />、尾形は「もしかして早熟馬だったのか」と大きなショックを受けたという<ref name="100meiba" />。
=== 2000年 ===
1999年の競馬界をともに牽引したスペシャルウィークやエルコンドルパサーは引退し、グラスワンダーは世代を代表する現役馬となった。
 
この結果、ジャパンカップは回避が決定し、目標は年末の有馬記念に切り替えられた<ref name="matoba2" />。ジャパンカップはエルコンドルパサーが優勝し、「的場は選択を誤った」との世評も生まれた<ref name="meiba" />。
陣営は年初から凱旋門賞への挑戦プランを表明<ref>[http://www.keiba.net/gallop/k_mag/backno/2000/k306.html 競馬ネットmagazine第306号]</ref>。またグランプリ4連覇や（この年から条件付きながら外国産馬に開放された）天皇賞（春）制覇も視野に入れていた<ref>[http://www.keibado.ne.jp/keibabook/000321/itwnp_m.html#01 競馬ブックの記事]</ref>。
 
===== 1年ぶりの勝利 =====
年明け初戦の[[日経賞]]へは馬体重増が指摘された有馬記念よりさらに18kg増の状態で出走、勝ち馬から0.9秒差の6着に敗れ、尾形調教師は調整失敗を認めている<ref>『競馬雑誌馬劇場』</ref>。この敗戦により天皇賞（春）への出走は断念することとなった。続く京王杯スプリングカップでは一気に20kg減で挑んだが勝った[[スティンガー (競走馬)|スティンガー]]からは0.6秒差の9着とまたも大敗。デビュー以来グラスワンダーを担当していたベテラン[[厩務員]]の大西が前年の有馬記念を最後に引退（定年退職）し、若い佐々木に変わったことで調整がうまくいかなかったともいわれる<ref name="yumemugen"/>。
有馬記念前の調教では的場が鞭を連打してグラスワンダーを鼓舞したが、その様子はかえって「あの馬は終わった」と他陣営の冷笑を誘った<ref name="100meiba" />。しかし最終調教を経てグラスワンダーの状態は著しく向上<ref name="100meiba" />。スポーツ新聞で「馬体診断」を行っていた元調教師・[[境勝太郎]]は、出走馬中でグラスワンダーに唯一の「10点満点」を与え、「張りがなく頼りなげに見えた秋の2戦とは全く違う。デビュー以来これほどよく見えたことは一度もないと断言していいだろう。<small>''（中略）''</small>これだけの体つきをしていて、体調に問題があるはずがない。完全復活を確信している」と評価した<ref name="yushun99028">『優駿』1999年2月号、pp.8-13</ref>。尾形は「馬って1日、2日でこれほど変わるものなのかと思った」と振り返っている<ref name="100meiba" />。ただし勝利までは考えておらず、「どこかで見せ場は作ってくれるのではないか、直線半ばぐらいまでは」という程度の見通しであったという<ref name="yushun990214">『優駿』1999年2月号、pp.14-15</ref>。
 
当年の有馬記念は、ファン投票上位のうち同期の[[東京優駿|東京優駿（日本ダービー）]]優勝馬スペシャルウィーク、エルコンドルパサー、1600m路線で国際的に活躍した[[タイキシャトル]]が出走しなかったものの、グラスワンダーを含む8頭のGI優勝馬が顔を揃えた<ref name="yushun99028" />。グラスワンダーは14位での選出となり、馬主の半沢は「当日の人気もそれぐらいだろう」と見込んでいたが<ref name="yushun990286" />、実際にはスペシャルウィークを破り[[皐月賞]]と[[菊花賞]]を制した[[セイウンスカイ]]、前年の[[天皇賞]]（秋）優勝馬[[エアグルーヴ]]、当年の天皇賞（春）優勝馬[[メジロブライト]]に次ぐ4番人気であった。ただしオッズはメジロブライトの5.3倍に対し、グラスワンダーは14.5倍<ref name="yushun99028" />と、上位3頭とは大きな開きがあった。
その後安田記念も回避し、海外遠征を賭けて宝塚記念に臨むこととなった。レースではデビューから一貫して手綱をとってきた的場から[[蛯名正義]]へと乗り替り再起をかけたが、レース中に左第3[[中手骨]]骨折を発症し<ref>[http://www.keibado.ne.jp/keibabook/000703/itwnp.html#05 『競馬ブック』の記事]</ref>、1着の[[テイエムオペラオー]]から0.9秒も離された6着と惨敗した。この故障が原因となって競走馬を引退した<ref>[http://www.keibado.ne.jp/keibabook/000710/itwnp.html#01 『競馬ブック』の記事]</ref>。
 
スタートが切られるとセイウンスカイが単騎での逃げを打ち、グラスワンダーは道中7～8番手を追走<ref name="yushun9902140">『優駿』1999年2月号、pp.140-141</ref>。第3コーナーから先団に進出していき、最後の直線残り200m地点でセイウンスカイを捉えて先頭に立つ<ref name="yushun99028" />。そのまま抜け出すと、最後は追い込んできたメジロブライトを半馬身退けて優勝<ref name="yushun99028" />。朝日杯以来、約1年ぶりの勝利を挙げた。なお、外国産馬による有馬記念優勝は史上初、7戦目での優勝は史上最短キャリアの記録であった<ref name="yushun9902140" />。
引退式は12月24日、中山競馬場で行われた<ref>[http://www.keibado.ne.jp/keibabook/010109/itwnp.html#05 『競馬ブック』の記事]</ref>。
 
的場は「坂を上がってからはさすがに長く感じたが、なんとか我慢してくれた。2戦使ってこの秋の中では一番の状態。それでもまだいい頃の出来と比べたら物足りないと思っていたが、よく復活してくれた」と語り、尾形は競走内容について「パーフェクトと言っていい」と的場を称えた<ref name="yushun9902140" />。また戦前には尾形に「あの馬はマイラー<small>''（注：1600m前後を得意とする馬）''</small>なのだから、長い距離を使うのは間違っている」と進言する者が多かったといい、「私はプロの調教師として、絶対に距離はもつと思っていた。的場にも、能力で沈むことはあっても距離で沈むことはないと話していた」とも語った<ref name="yushun990214" />。半沢は「正直言って、まさかこの有馬記念で復活するとは夢にも思わなかった。的場騎手がこの馬を選んでくれたし、もう1頭のエルコンドルパサーがジャパンカップを勝ったときは、申し訳ない気持ちで重圧になった。4連勝で朝日杯を制したときがこの馬の人生のパート1であるならば、有馬記念を勝ったこれからがパート2。頑張ってこれから切り開いていってほしい」などと語った<ref name="yushun9902140" />。
=== 引退後 ===
 
2010年12月19日に中山競馬場第12競走の[[JRAプレミアムレース]]として開催された「中山ウインタープレミアム」において、当馬が最多得票を獲得し「グラスワンダーメモリアル」の副名称を付与して施行された。
当年のレーティングにおいては、3歳馬ではエルコンドルパサー（126）、スペシャルウィーク（121）に次ぐ3位（4歳以上馬を含めると5位<ref group="注">サイレンススズカ、タイキシャトルがそれぞれ122ポンド。</ref>）の評価となる120ポンドを付された<ref>『優駿』1999年2月号、p.33</ref>。
 
==== 4（5）歳（1999年） ====
===== 順調さを欠く春 =====
有馬記念優勝時に国外遠征について水を向けられた尾形は、興味があるという旨を述べていたが<ref name="yushun990214" />、年明けに行われた半沢へのインタビューにおいて、尾形が「1年を棒に振ったので、この1年は脇目もふらずに国内に集中」、「馬の状態が戻りつつあるなかで、浮ついたことを考えていても仕方がない」と、国内専念の方針をもっていることが明かされた<ref name="yushun990286" />。
 
当初は3月の[[中山記念]]から始動する予定となっていたが、右肩に筋肉痛を生じて回避<ref name="100meiba" />。目標を切り替えた[[大阪杯]]は、競走前の最終調教を済ませてから、馬房内で左眼の下部に裂傷を負っているのが発見され、やはり回避することになった<ref name="100meiba" />。グラスワンダーは暴れるような性格ではないことから、スタッフ総出で馬房内の点検が行われたが、その原因は判然としなかった<ref name="100meiba" />。
[[ファイル:Air_Jihad_19991031C1.jpg|thumb|エアジハード。グラスワンダーの同期馬であり、秋には[[マイルチャンピオンシップ]]も制した|250px]]
最終的に復帰戦は5月の[[京王杯スプリングカップ]]まで延びた。有馬記念（2500m）からは1100mもの距離短縮となる、2歳時以来の1400m戦という条件、臨戦過程に順調さを欠いていたこともあり、的場は「勝てないのではないか」と弱気になっていたという<ref name="matoba3">的場（2001）pp.209-219</ref>。当日はオッズ2.1倍の1番人気となる。レースではスローペースのなか中団に待機すると、最後の直線では大外に持ちだしてから、一団となった先行勢をゴール前で一気に差しきり、復帰戦を勝利で飾った<ref name="yushun9907">『優駿』1999年7月号、p.69</ref>。グラスワンダーの上がりタイムは33秒3という当時としては驚異的なものであり<ref name="100meiba20">『週刊100名馬vol.89 グラスワンダー』pp.20-29</ref>、的場は先団馬群をみて「なんだ、みんな止まってるじゃないか」と思ったほどだったという<ref name="matoba3" />。2着[[エアジハード]]との着差は4分の3馬身だったが、『優駿』は「別次元の走り」とこれを評した<ref name="yushun9907" />。
 
6月13日に迎えた[[安田記念]]では、突出した前走の内容に加え、関係者がみな自信を覗かせていたこともあり、単勝オッズ1.3倍の1番人気となった。レースでは後方から徐々に進出していき、最後の直線で先頭に立ったが、グラスワンダーをマークしていたエアジハードにゴール目前でかわされ、ハナ差の2着に終わった<ref name="yushun990731">『優駿』1999年7月号、pp.31-33</ref>。的場は「状態は良かったし、4コーナーの手応えでは大丈夫と思ったのだが。エアジハードも余力十分だった」と述べ、尾形は「1馬身もハナ差も同じ。負けは負け。こういうこともある。これが競馬。非常に残念だ」と述べた<ref name="100meiba20" />。また的場は記者に対し「僕が下手で、下手で」と漏らしたともいう<ref name="yushun990731" />。
 
的場が後に語ったところによれば、スタートから400mほどの地点で香港からの出走馬・ホーリーグレイルに騎乗するK.ユーが落馬寸前の態となり、的場がこれを避けようとした際に、スパートの合図と勘違いしたグラスワンダーに力みが生じ、最後の直線で苦しくなる結果に繋がったという<ref name="matoba3" />。またこの競走は、以降のグラスワンダーが左回りの競走を苦手とする契機となった可能性があるともしている（後述）<ref name="matoba3" />。
 
当年は6月としては異常な暑さが続いており、グラスワンダーは夏負けの兆候を示していた。敗因のひとつにこの影響があるとみた尾形は、次走に考えていた春のグランプリ・宝塚記念への出否について慎重な姿勢を示していたが、のちに症状が治まったことから、競走2週間前になって出走が正式に決まった<ref name="100meiba" />。
 
===== スペシャルウィークとの初対戦 =====
[[ファイル: Special Week 19991031.jpg|thumb|スペシャルウィーク|250px]]
宝塚記念のファン投票では、5月に天皇賞（春）を制したスペシャルウィークに次ぐ第2位で選出<ref name="99zukatouhyou">『優駿』1999年8月号、p.149</ref>。4月から長期ヨーロッパ遠征に赴いたエルコンドルパサーや、天皇賞2着のメジロブライト（ファン投票3位<ref name="99zukatouhyou" />）、同3着のセイウンスカイ（同4位<ref name="99zukatouhyou" />）といったメンバーを欠いたものの、グラスワンダーとスペシャルウィークの初対戦は大きな注目を集め<ref name="yushun9908">『優駿』1999年8月号、pp.52-55</ref>、スポーツ紙は「二強対決」、「GS対決」などと書き立てた<ref>『優駿』1999年7月号、p.7</ref>。当日の人気はスペシャルウィーク1.5倍、グラスワンダー2.8倍の順となり、3番人気[[オースミブライト]]は15.9倍と大きく離れていた<ref name="yushun9908" />。
 
スタートが切られるとスペシャルウィークが4～5番手、グラスワンダーはそれを見る形で進んだ<ref name="yushun9908" />。第3コーナーから最終コーナーにかけてスペシャルウィークは先に進出を開始し、一時グラスワンダーは引き離されたが、最後の直線に入って残り200m付近でこれを捉える<ref name="yushun9908" />。それまで後ろから差された経験のなかったスペシャルウィークに対して、最後は3馬身差をつけ優勝<ref name="yushun9908" />。3着[[ステイゴールド]]はさらに7馬身後方であった<ref name="yushun9908" />。
 
的場は「今日は他馬の動きは気にせずに、自分のペースを守ろうと思っていたが、少し前にスペシャルウィークがいたのでレースを組み立てやすかった。ただ、4コーナーでスペシャルウィークに手応えよく離されてしまったときは『どうかな』と思ったが、直線を向くと伸びあぐねていたから『勝てる』と思った。あそこからは手応え通りの内容。強い勝ち方だったと思う」などと感想を述べた<ref>『優駿』1999年9月号、p.133</ref>。3馬身という差をつけられたスペシャルウィーク陣営からも「マークされたのは確かでも、反対に相手にマークして進んだとしても、今日は勝てなかっただろう。こんなボコボコした馬場は合わないが、あの馬の瞬発力が上だった」（[[白井寿昭]]<ref name="yushun9908" />）、「並ばれたときにもう手応えが違った。完敗だ」（武豊<ref>『優駿』1999年9月号、p.21</ref>）という言葉が聞かれた。なお、スペシャルウィークは宝塚記念の内容次第で、エルコンドルパサーも目標としていたフランス・[[凱旋門賞]]への遠征を計画していたが、この敗戦を受けて立ち消えとなった<ref name="yushun9908" />。
 
===== 辛勝の毎日王冠 - ジャパンカップ回避 =====
夏の休養を経て、秋は前年5着と敗れた10月の毎日王冠から復帰。当日は単勝1.2倍の1番人気に支持された<ref name="yushun991263">『優駿』1999年12月号、p.63</ref>。レースでは5番手追走から最後の直線で先頭に立ったが、そこから突き抜けることができず、出走馬中で唯一の重賞未勝利馬・[[メイショウオウドウ]]に詰め寄られた<ref name="yushun991263" />。最後は両馬が馬体を並べて入線、写真判定の末にハナ差、数字にして3cmという僅差でグラスワンダーが勝利した<ref name="yushun991263" />。
 
的場は「もう少し良い勝ち方ができると思っていただけに、自分のイメージとはずいぶん違ったが、それでもよく凌いでくれた」と労ったが、尾形は「勝つには勝って嬉しいが、何とも消化不良のレースだった」などと述べた<ref name="yushun991263" />。グラスワンダーは次走にジャパンカップを予定していたが、それまでの敗戦が、全て同競走を施行する左回りコースの[[東京競馬場]]で喫しており、この競走も東京競馬場で格下相手の辛勝だったことで「左回りが苦手なのではないか」との疑念がもたれることになった<ref name="100meiba20" />。
 
その後もジャパンカップに向けての調整が続けられたが、この最中、左脇腹に筋肉痛を生じ、同競走の回避を余儀なくされた<ref name="100meiba" />。的場と尾形が相談の上で、左回りコースでの調教が試みられていた矢先の出来事であった<ref name="matoba4">的場（2001）pp.220-233</ref>。なお、ジャパンカップはスペシャルウィークが優勝<ref name="yushun0001">『優駿』2000年1月号、pp.6-10</ref>。また同日の昼休みには、ヨーロッパ遠征を4戦2勝、凱旋門賞を含む2着2回の成績で終えたエルコンドルパサーが引退式を行った<ref name="yushun0001" />。同馬についてはグラスワンダーとの再戦を望む声も多かったが<ref name="yushun9908" />、これにより前年の雪辱を果たす機会は失われた。
 
針治療により筋肉痛は治まったものの<ref name="100meiba" />、目標を切り替えた年末の有馬記念に向けてグラスワンダーの調子は上がらず、的場が「違う馬に乗っているのでは」と感じるほどその動きは悪かった<ref name="matoba4" />。最終調教を経て尾形は「夏負けから立ち直れず暗中模索だった1年前を思えば随分良い」と語ったが、的場は「先週に比べれば良くなったが、この馬の本当の力を思えばまだまだ」と渋い表情であった<ref name="yushun000214">『優駿』2000年2月号、pp.14-15</ref>。
 
===== 「グランプリ」三連覇 =====
有馬記念のファン投票では、宝塚記念に続きスペシャルウィークに次ぐ2位となった<ref>『優駿』2000年2月号、p.157</ref>。当日は7頭のGI優勝馬が顔を揃えたが、人気は最終的にグラスワンダー2.8倍、スペシャルウィーク3.0倍<ref name="yushun00029">『優駿』2000年2月号、pp.9-13</ref>と両馬が上位で拮抗した。返し馬では、動きに硬さが残るグラスワンダーに的場が入念に速歩を踏ませ、身体をほぐそうとする様子がみられた<ref name="yushun00029" />。
 
スタートが切られると、追い込み馬とみられたゴーイングスズカが先頭を切るという展開となり、グラスワンダーは11番手、スペシャルウィークは最後方の14番手を進んだ<ref name="yushun00029" />。最初の1000m通過が65秒2という「超スローペース」で推移するなか、グラスワンダーは第3コーナーから進出を開始、それに次いでスペシャルウィークも追走をはじめる<ref name="yushun00029" />。的場は当初「スペシャルウィークがやってくるのを限界まで待つ」という作戦を思い描いていたが、前をゆく[[ツルマルツヨシ]]の手応えが良かったことから、これを捉えるため予定よりも早くスパートをかけた<ref name="matoba4" />。最後の直線半ばを過ぎ、グラスワンダーとスペシャルウィークは競り合う形になりながら、前をゆく[[テイエムオペラオー]]とツルマルツヨシを交わし、そのまま馬体を並べて入線<ref name="yushun00029" />。的場をはじめ、尾形らグラスワンダーの関係者は「負けた」とみており<ref name="yushun000214" /><ref name="matoba4" />、その一方でスペシャルウィーク騎乗の武豊は勝ったとみてウイニングランを行い、正面スタンド前に戻ってきてからは2、3度ガッツポーズを繰り返した<ref name="yushun00029" />。しかしスペシャルウィークが検量室前の枠場に戻ってきた瞬間、着順掲示板の1着欄にグラスワンダーの「7」が表示され、ハナ差でグラスワンダーの勝利が確定した<ref name="yushun00029" />。
 
検量室内でグラスワンダーの先着が公示された瞬間、尾形は「やった」と叫んで両腕を突き上げ、そのままスペシャルウィーク調教師の白井寿昭と握手を交わした<ref name="yushun000214" />。的場は「よく残ってくれたなあ」と口にしながら、尾形厩舎調教助手の[[臼井武]]と握手を交わした<ref name="yushun000214" />。インタビューにおいては「負けた、と思った。ゴンドラ席から降りるエレベーターにも、暗い気持ちで乗った。よく差し返してくれたものだ。あれがこの馬の底力なんだろう」（尾形）、「ゴールに入った瞬間は差されたと思っていたから、掲示板に馬番が上がった瞬間は、正直おどろいた。ハナ差だけでも前に出られたことに感謝している」（的場）などと語った。有馬記念の連覇は[[スピードシンボリ]]（1969～70年）、[[シンボリルドルフ]]（1984～85年）に続く史上3頭目、間に宝塚記念をはさんだ「グランプリ三連覇」は、スピードシンボリに続く史上2頭目の記録であった<ref>『優駿』2000年2月号、p.147</ref>。
 
当年の年度代表馬争いは、春秋グランプリ連覇のグラスワンダー、フランスで優れた実績を残したエルコンドルパサー、春秋天皇賞とジャパンカップを制したスペシャルウィークの3頭が鼎立し、「年度代表馬が3頭いてもおかしくない」といわれた混戦となった<ref name="99jra">『優駿』2000年2月号、pp.30-36</ref>。記者投票では決まらず、選考委員会の審議にかけられた末にエルコンドルパサーが年度代表馬と最優秀5歳以上牡馬に選ばれ、グラスワンダーとスペシャルウィークには「[[JRA賞特別賞|特別賞]]」が授与された<ref name="99jra" />。また、レーティングではエルコンドルパサーに日本調教馬として史上最高値の134ポンドが与えられ、グラスワンダーはスペシャルウィークと並び、当年の日本調教馬で2位タイの123ポンドという評価となった<ref>『優駿』2000年2月号、pp.42-45</ref>。
 
==== 5（6）歳（1999年） ====
===== 再びの低迷期 =====
5歳となった2000年は、当年より外国産馬に門戸が開かれた天皇賞（春）制覇と、秋の凱旋門賞出走を目指して現役を続行することになった。尾形は有馬記念で引退しても良いと考えていたが、種牡馬入りを見越したとき、前年限りで引退したエルコンドルパサー、スペシャルウィークとの繁殖牝馬の奪い合いを避けたいという思惑もあった<ref name="100meiba" />。
 
有馬記念後のグラスワンダーは極めて状態が悪く、尾形が骨折を疑ったほどの歩様の乱れが、2月の中ほどまで治まらなかった<ref name="yushun0009">『優駿』2000年9月号、pp.107-110</ref>。デビューから厩務員を務めていたベテラン・大西美昭が定年引退したことから、当年より他厩舎から移籍してきた当時24歳の佐々木力が新たな担当者となっていたが、佐々木は自責の念から不眠に陥り<ref name="yushun0009" />、的場が後年「グラスワンダーの状態も心配だが、佐々木厩務員の心身の状態も心配だった<ref name="matoba4" />」と振り返るほど追い詰められた状態となった。
 
復帰戦は3月の日経賞と決まったが、その最終調教においても動きは重かった<ref name="matoba4" />。日経賞当日は、的場が「絞れていない」と感じ、馬体重発表で観客からどよめきが起きた有馬記念の512kg<ref name="yushun00029" />から、さらに18kg増えた530kgという体重で、日ごろ馬体重をあまり気にしない的場も驚いたという<ref name="matoba4" />。それでも当日は単勝オッズ1.2倍の1番人気に支持されたが、レースでは中団追走から要所で的場が激しく手綱を押してスパートを促すも、伸びがみられず6着に終わった<ref name="yushun0005">『優駿』2000年5月号、p.59</ref>。この内容に、続く天皇賞（春）への出走、そして凱旋門賞出走の計画も、いったん白紙に戻されることになった<ref name="yushun0005" />。
 
その後は春の目標を宝塚記念に一本化し、前哨戦として5月の京王杯スプリングカップに臨んだ<ref name="100meiba20" />。当日は前走から20kg減の馬体重で、[[ブラックホーク (競走馬)|ブラックホーク]]、[[キングヘイロー]]、[[ディクタット]]といった短距離のGI優勝馬も揃うなかで、単勝オッズ2.4倍の1番人気となった<ref>『優駿』2000年7月号、p.64</ref>。しかしスタートで出遅れると、後方を追走したまま直線で伸びてくることもなく、過去最低の9着という結果に終わった<ref name="100meiba20" />。
 
不甲斐ない内容に、このあと的場は妻に「グラスワンダーから降ろされるかもしれない」と話したという<ref name="matoba4" />。そしてその予想通り、尾形は的場に宝塚記念での騎手変更を通告<ref name="matoba4" />。宝塚記念では蛯名正義が騎乗することになった。
 
===== 骨折 - 引退 =====
[[File:TM_Opera_O.jpg|thumb|テイエムオペラオー|150px]]
宝塚記念は春の天皇賞を制したテイエムオペラオー、GI競走での善戦が多かったステイゴールドに次ぐ第3位での選出となった。当年はテイエムオペラオーとグラスワンダーの一騎討ちとの下馬評で、当日の人気はテイエムオペラオー1.9倍、グラスワンダー2.8倍の順となった<ref name="yushun0008">『優駿』2000年8月号、pp.40-43</ref>。スタートが切られると、先行集団に入ったテイエムオペラオーに対し、グラスワンダーは中団後方を追走。第3コーナーから最終コーナーにかけて、グラスワンダーはテイエムオペラオーを含む先団を一気に呑み込む勢いで進出していったが、しかし最後の直線に入ると伸びを欠き、テイエムオペラオー優勝の後方で6着に終わった<ref name="yushun0008" />。さらに競走後の向正面で蛯名が下馬<ref name="100meiba20" />。馬運車でコースを後にし、レントゲン撮影の結果「左第三中手骨骨折」と診断された<ref name="100meiba20" />。
 
競走後、尾形はグラスワンダーの引退を表明<ref name="yushun0008" />。蛯名は「第3コーナーでは楽勝かと思ったが、いきなり突っ張るような走り方になってしまった」と回顧し、尾形は「故障していなければ、良い勝負ができたというところまで持ってこられたと思う」と述べた<ref name="100meiba20" />。また尾形は後に、佐々木の仕上げについて「本当によく馬を作ってくれた。レース前はこの状態ならと思ったし、競馬に『たら、れば』はないが、故障がなければ勝っていただろうと思う。騎手も同じことを言っていたが、お世辞ではないだろう」と労った<ref name="yushun0009" />。当の佐々木は「僕が結果を出せずに、尾形先生にも厩舎スタッフにも、馬にも申し訳なかった。担当になってからは日経賞と京王杯に負けたが、宝塚で勝てばいいと思っていた。厩務員なのだから何よりも馬の無事を願わなければならないのに、僕は宝塚では勝ってほしいとばかり考えていた。その罰が当たったのだと思う」と反省の弁を述べている<ref name="yushun0009" />。
 
宝塚記念の終了後も経過観察のため阪神競馬場に2週間残り、7月3日に美浦トレーニングセンターへ帰厩<ref>『週刊100名馬vol.83 エルコンドルパサー』p.48</ref>。同23日には本格的な治療のためノーザンファーム空港牧場へ輸送された<ref>『優駿』2000年9月号、p.74</ref>。のちに症状が改善したことから、当年の有馬記念当日の12月24日、中山競馬場において引退式が行われた<ref name="yushu0102">『優駿』2001年2月号、p.7</ref>。グラスワンダーは前年の有馬記念優勝時のゼッケン「7」を着けて登場したが、骨折が完治していないことから参列した的場の騎乗はなく、ファンの前を歩くのみで式を終えた<ref name="yushu0102" />。その後は種牡馬としての繋養場所となる北海道早来町の[[社台スタリオンステーション]]へ向かった<ref name="yushu0102" />。
 
=== 種牡馬時代 ===
[[ファイル:Grass Wonder 001.jpg|thumb|種牡馬時代のグラスワンダー|250px]]
2001年より種牡馬としての供用を開始<ref name="yushun0903">『優駿』2009年3月号、p.162</ref>。交配頭数は初年度189頭、2年目178頭と推移し<ref>『優駿』2004年6月号、p.39</ref>、3年目の2003年から2006年にかけては[[シャトル種牡馬]]として[[南半球]]でも種付けを行った<ref name="yushun0903" />。2007年からは繋養場所を日高町のブリーダーズ・スタリオン・ステーションに移している<ref name="yushun0903" />。
 
初年度産駒は2004年にデビュー。同年12月にフェリシアが[[フェアリーステークス]]を制し、産駒の重賞初勝利を挙げた<ref name="yushun0903" />。2006年、[[マルカラスカル]]が[[中山大障害]]を制し、産駒がGI競走（障害）を初制覇。2008年に躍進し、4月にはマルカラスカルが中山[[グランドジャンプ]]で障害GI2勝目を挙げ、11月には[[スクリーンヒーロー]]がジャパンカップを制して産駒の平地GI初制覇。12月には[[セイウンワンダー]]が朝日杯フューチュリティステークス（旧称・朝日杯3歳ステークス）でグラスワンダーとの親子制覇を達成した。同競走における親子制覇は、かつてグラスワンダーが比較されたマルゼンスキーと2頭の仔に続く、史上3例目であった<ref>『優駿』2009年2月号、p.93</ref>。同年、グラスワンダーはJRA種牡馬ランキングで10位となり、初のベスト10入りを果たす<ref name="yushun0903" />。また、2011年には[[アーネストリー]]が宝塚記念を制し、同競走において史上2例目の親子制覇を達成した<ref>『優駿』2011年8月号、p.109</ref>。
 
[[ブルードメアサイアー]]（母の父）としても[[メイショウマンボ]]がGI競走を制している<ref name="yushun1308">『優駿』2013年8月号、p.27</ref>ほか、2015年にはスクリーンヒーローの仔・[[モーリス]]が安田記念を制し、父系孫世代からもGI優勝馬が出ている<ref>『優駿』2015年8月号、p.105</ref>。
 
2014年7月12日には、[[函館競馬場]]で行われたイベントにスペシャルウィークと共に参加し、最終レース終了後にパドックでその姿が披露された。スペシャルウィークが栗毛の馬を見ると興奮することから、2頭は離れてパドックを周回したが、互いに嘶きあって存在を確認する姿もみられた<ref>『優駿』2014年9月号、p.156</ref>。
 
== 評価・特徴 ==
1995年生まれの世代は多士済々の顔ぶれが揃い、中央競馬史における「最強世代」にも挙げられる<ref name="yushun0011">『優駿』2000年11月号、pp.29-30</ref>。グラスワンダーはその世代の中心の1頭としてGI競走4勝の実績を挙げたが、的場は「もしずっと満足な調子で出走できたなら、もっと凄い成績を残していたと思う。僕の騎手人生の中で巡り会った、最高の馬だと断言できる。それだけもの凄い馬だった」としている<ref>『週刊100名馬vol.89 グラスワンダー』p.32-33</ref>。3歳以降は怪我に悩まされ続けたが、尾形は「頑張り屋ゆえに痛さをも超えて走ってしまうのだろう。3歳以降はずっと怪我との戦いだったが、それでもきっちり結果を出してきたのには、この素直さ、真っ直ぐさ、ストレートな性格があったと思う」と述べている<ref name="meiba" />。グラスワンダーに寄せられたファンレターには、身体に障害を抱える人物や、余命の宣告を受けた人物からの「グラスワンダーが頑張っているうちは頑張る」という内容のものが何通もあったという<ref name="100meiba" />。
 
「左回りコースが苦手」という説があったが、的場は、そうなった可能性があるのは4歳時に出走した安田記念だとしている。的場によれば、道中を力んで走り、直線で苦しくなった同競走において、グラスワンダーは的場が合図をしないにもかかわらず三度も手前を替えており<ref group="注">手前を替える＝走行中に回転する四肢の送りを左右で入れ替えること。地面を蹴る軸足が左右入れ替わるため、疲労が軽減される。</ref>、このことで「左手前で走った方が楽」、「左手前で直線を走れる走れる右回りの方が得意だ」という意識が馬に芽生えてしまった可能性があるという<ref name="matoba3" />。
 
日常的には非常に大人しい馬であった。競走前にも闘志を表に出さない馬であったが、茫洋として映るときの方が気合がのっているのだともされた<ref name="yushun990214" />。また、常に食欲旺盛であり<ref name="100meiba" />、厩務員の大西、佐々木ともに体重管理には苦心した<ref name="yushun0009" />。後年、種馬場の職員からも「性格は落ち着いているというより落ち着きすぎで、また、食べたものが全て身になっているのではと思えるほど、馬体の充実ぶりも目立つ」と評されている<ref name="yushun1308" />。
 
=== 投票企画などの結果 ===
{| class="wikitable"
!年度!!企画者!!企画!!順位||出典
|-
|rowspan="2"|2000年||日本中央競馬会||20世紀の名馬大投票||第13位||<ref>『優駿』2000年10月号、p.22</ref>
|-
||優駿（日本中央競馬会）||プロの目で厳選した20世紀のベストホース100||選出||<ref>『優駿』2000年11月号、p.29</ref>
|-
|rowspan="2"|2001年||rowspan="2"|[[日本馬主協会連合会]]||アンケート「一番の名馬と思う競走馬は？」||第17位||rowspan="2"|<ref>『日本馬主協会連合会40年史』pp.198-199</ref>
|-
||アンケート「一番好きな競走馬は？」||第25位
|-
||2004年||rowspan="5"|優駿（日本中央競馬会）||年代別代表馬BEST10（1990年代）||第10位||<ref>『優駿』2004年3月号、p.26</ref>
|-
||2010年||未来に語り継ぎたい不滅の名馬たち||第18位||<ref>『優駿』2010年8月号、p.39</ref>
|-
|rowspan="2"|2012年||距離別「最強馬」はこの馬だ！（1600メートル部門）||第15位||rowspan="2"|<ref>『優駿』2012年9月号、p.5</ref>
|-
||距離別「最強馬」はこの馬だ！（2400メートル部門）||第17位
|-
||2015年||未来に語り継ぎたい名馬BEST100||第25位||<ref>『優駿』2015年3月号、p.6</ref>
|}
 
== 競走成績 ==
89 ⟶ 192行目:
|9
|1.5（1人）
|{{color|reddarkred|1着}}
|[[的場均]]
|53
105 ⟶ 208行目:
|8
|1.4（1人）
|{{color|reddarkred|1着}}
|的場均
|53
116 ⟶ 219行目:
|東京
|[[京王杯2歳ステークス|京成杯3歳S]]
|{{color|blue|GII}}
|9
|2
|2
|1.1（1人）
|{{color|reddarkred|1着}}
|的場均
|54
132 ⟶ 235行目:
|中山
|[[朝日杯フューチュリティステークス|朝日杯3歳S]]
|GI
|{{color|red|GI}}
|15
|6
|11
|1.3（1人）
|{{color|reddarkred|1着}}
|的場均
|54
|芝1600m（良）
|{{color|reddarkred|R1:33.6}} (35.4)
| -0.4
|（[[マイネルラヴ]]）
148 ⟶ 251行目:
|東京
|[[毎日王冠]]
|{{color|blue|GII}}
|9
|6
164 ⟶ 267行目:
|東京
|[[アルゼンチン共和国杯]]
|{{color|blue|GII}}
|18
|7
180 ⟶ 283行目:
|中山
|[[有馬記念]]
|GI
|{{color|red|GI}}
|16
|1
|2
|14.5（4人）
|{{color|reddarkred|1着}}
|的場均
|55
196 ⟶ 299行目:
|東京
|[[京王杯スプリングカップ|京王杯SC]]
|{{color|blue|GII}}
|18
|3
|5
|2.1（1人）
|{{color|reddarkred|1着}}
|的場均
|58
212 ⟶ 315行目:
|東京
|[[安田記念]]
|GI
|{{color|red|GI}}
|14
|5
228 ⟶ 331行目:
|[[阪神競馬場|阪神]]
|[[宝塚記念]]
|GI
|{{color|red|GI}}
|12
|5
|5
|2.8（2人）
|{{color|reddarkred|1着}}
|的場均
|58
244 ⟶ 347行目:
|東京
|毎日王冠
|{{color|blue|GII}}
|10
|7
|8
|1.2（1人）
|{{color|reddarkred|1着}}
|的場均
|59
260 ⟶ 363行目:
|中山
|有馬記念
|GI
|{{color|red|GI}}
|14
|4
|7
|2.8（1人）
|{{color|reddarkred|1着}}
|的場均
|57
276 ⟶ 379行目:
|中山
|[[日経賞]]
|{{color|blue|GII}}
|10
|7
292 ⟶ 395行目:
|東京
|京王杯SC
|{{color|blue|GII}}
|18
|4
308 ⟶ 411行目:
|阪神
|宝塚記念
|GI
|{{color|red|GI}}
|11
|8
321 ⟶ 424行目:
|[[テイエムオペラオー]]
|}
※タイム欄の{{color|reddarkred|R}}はレコード勝ちを示す。
* {{競走馬成績|netkeiba=1995108676}}
 
== 種牡馬時代成績 ==
=== 年度別成績 ===
[[ファイル:Grass Wonder 001.jpg|thumb|種牡馬時代のグラスワンダー]]
出典：JBISサーチ「グラスワンダー」種牡馬情報（種牡馬成績、世代・年次別）
2000年に引退が決まると、すぐに13億8000万円の種牡馬シンジケートが組まれた<ref>[http://www.keibado.ne.jp/keibabook/000710/itwnp.html#01 『競馬ブック』の記事]</ref>。翌年の2001年から[[北海道]][[早来町]]の[[社台スタリオンステーション]]にて種牡馬として供用される。2003年から2006年までの4シーズンは、日本がシーズンオフになる夏から秋にかけてシャトル種牡馬として[[オーストラリア]]でも種牡馬生活を送った。2007年より[[北海道]][[日高町_(北海道)|日高町]]の[[ブリーダーズ・スタリオン・ステーション]]に移動して種牡馬として繋養されている。
;年度別種牡馬成績（総合）
 
初年度産駒にあたる[[フェリシア (競走馬)|フェリシア]]が[[フェアリーステークス]]で初の重賞を獲得すると、翌年以降もコンスタントに重賞勝馬を輩出し、[[2006年]]に[[マルカラスカル]]が[[中山大障害]]で産駒初のGI（J･GI）制覇を成し遂げた。その後も毎年産駒が重賞を勝ち上がり、[[2008年]]には[[スクリーンヒーロー]]が[[ジャパンカップ]]を制したことで産駒初の平地GIタイトルを獲得した。同年12月には[[セイウンワンダー]]が[[朝日杯フューチュリティステークス]]、[[2011年]]には[[アーネストリー]]が[[宝塚記念]]を制し、いずれも親子二代制覇となっている。
 
=== 種牡馬成績 ===
;年度別種牡馬成績（中央のみ）
{|class="wikitable" style="text-align:right"
!rowspan="2"|年!!colspan="2"|出走!!colspan="2"|勝利!!rowspan="2"|順位!!rowspan="2"|[[アーニングインデックス|AEI]]!!rowspan="2"|収得賞金!!rowspan="2"|備考
|-
!頭数!!回数!!頭数!!回数
|-
||2004||6480||165251||1115||1320||82104||0.4267||1億85179839万90004000円||style="text-align:left"|フェリシアがフェアリーSを勝ち産駒初の重賞制覇。
新種牡馬ランキング4位、2歳リーディング7位。
|-
||2005||148179||672987||3757||4675||2231||0.6192||56億95570170万80007000円||style="text-align:center"|-
|-
||2006||221||1579||75||144||21||1.03||8億7038万1000円
||2006||170||781||34||46||17||0.85||9億4417万3000円||style="text-align:left"|マルカラスカルが中山大障害を勝ち産駒初のGI級競走制覇。
|-
||2007||162235||7591648||3994||49162||1315||1.0323||1011億90252497万90006000円||style="text-align:center"|-
|-
||2008||162230||6941730||4494||58190||10||1.5571||15億82323599万20007500円||style="text-align:left"|スクリーンヒーローがジャパンCを勝ち産駒初の平地GI制覇。
総合リーディング10位で初のトップ10入り。
|-
||2009||249||1899||93||193||21||1.26||12億3167万5000円
||2009||161||675||31||44||20||1.13||11億4002万8000円||style="text-align:left"|本年度までの通算で9頭の中央重賞勝馬、3頭のGI級競走（[[障害競走]]を含む）勝馬を輩出。
|-
||2010||265||1958||105||172||18||1.27||13億1432万2000円
||2010||164||737||40||57||15||1.15||11億6864万4000円||style="text-align:left"|ビッグロマンスが全日本2歳優駿を勝ち産駒初のダートGI級競走制覇。
|-
||2011||136234||6221992||2486||31177||2425||10.0396||8億57806037万80006000円||style="text-align:left"|
|-
||2012||123241||4682064||1486||16148||3235||0.6958||5億05262685万00006500円||style="text-align:left"|
|-
||2013||135231||5661951||2391||29154||3234||0.5956||4億78739086万20007000円||style="text-align:left"|
|-
||2014||205||1865||78||147||44||0.49||3億9894万3500円
|-
||2015||179||1599||69||143||53||0.63||4億3413万1000円
|}
 
=== GI級競走優重賞勝馬利産駒 ===
==== GI・JpnI競走優勝馬 ====
'''太字'''はGI級競走
[[ファイル:Maruka Rascal.jpg|thumb|180px|マルカラスカル（2002年産）]]
367 ⟶ 470行目:
 
* 2002年産
** [[マルカラスカル]]（（2006年'''[[中山グランドジャンプ大障害]]'''、 2008年'''[[中山大障害グランドジャンプ]]'''<ref>{{Cite web |url=http://www.jbis.or.jp/horse/0000750268/ |title=マルカラスカル |author= |publisher=JBISサーチ |accessdate=2015年12月6日 |date=}}</ref>）
* 2004年産
** [[スクリーンヒーロー]]（（2008年[[アルゼンチン共和国杯]]、'''[[ジャパンカップ]]'''、[[アルゼ<ref>{{Cite web |url=http://www.jbis.or.jp/horse/0000801447/ |title=スクリーンヒーロー |author= |publisher=JBISサーチン共和国杯]] |accessdate=2015年12月6日 |date=}}</ref>）
* 2005年産
** [[アーネストリー]]（'''（2009年[[宝塚記念中日新聞杯]]'''、 2010年[[オールカマー金鯱賞]]、[[札幌記念]]、 2011年'''[[金鯱賞宝塚記念]]'''、[[中日新聞杯オールカマー]]<ref>{{Cite web |url=http://www.jbis.or.jp/horse/0000885246/ |title=アーネストリー |author= |publisher=JBISサーチ |accessdate=2015年12月6日 |date=}}</ref>）
* 2006年産
** [[セイウンワンダー]]（（2008年[[新潟2歳ステークス]]、'''[[朝日杯フューチュリティステークス]]'''、 2010年[[エプソムカップ]]、[[新潟2歳ステ<ref>{{Cite web |url=http://www.jbis.or.jp/horse/0000992914/ |title=セイウンワンダークス]] |author= |publisher=JBISサーチ |accessdate=2015年12月6日 |date=}}</ref>）
* 2008年産
** ビッグロマンス（'''[[全日本2歳優駿]]'''<ref>{{Cite web |url=http://www.jbis.or.jp/horse/0001092788/ |title=ビッグロマンス |author= |publisher=JBISサーチ |accessdate=2015年12月6日 |date=}}</ref>）
 
==== 中央・ダートグレード制重賞競走優勝馬 ====
* 2002年産
** [[フェリシア (競走馬)|フェリシア]]（2004年[[フェアリーステークス]]<ref>{{Cite web |url=http://www.jbis.or.jp/horse/0000742606/ |title=フェリシア |author= |publisher=JBISサーチ |accessdate=2015年12月6日 |date=}}</ref>）
** [[オースミグラスワン]]（[[新潟大賞典]]（2006年、2008年））
** [[オースミグラスワン]]（2006年[[新潟大賞典]] 2008年新潟大賞典<ref>{{Cite web |url=http://www.jbis.or.jp/horse/0000733861/ |title=オースミグラスワン |author= |publisher=JBISサーチ |accessdate=2015年12月6日 |date=}}</ref>）
** [[フェリシア (競走馬)|フェリシア]]（[[フェアリーステークス]]）
* 2003年産
** [[サクラメガワンダー]]（金鯱賞、[[鳴尾記念]]（2006（2005年、2008年）、[[ホープフルステークス (中央競馬)|ラジオたんぱ杯2歳ステークス]] 2006年[[鳴尾記念]] 2008年鳴尾記念 2009年金鯱賞<ref>{{Cite web |url=http://www.jbis.or.jp/horse/0000761087/ |title=サクラメガワンダー |author= |publisher=JBISサーチ |accessdate=2015年12月6日 |date=}}</ref>）
** [[マイネルスケルツィ]]（[[京都金杯]]、（2006年[[ニュージーランドトロフィー]] 2007年[[京都金杯]]<ref>{{Cite web |url=http://www.jbis.or.jp/horse/0000763065/ |title=マイネルスケルツィ |author= |publisher=JBISサーチ |accessdate=2015年12月6日 |date=}}</ref>）
* 2004年産
** [[マイネルレーニア]]（（2006年[[スワン京王杯2歳ステークス]]、 2008年[[京王杯2歳スワンステークス]]<ref>{{Cite web |url=http://www.jbis.or.jp/horse/0000802314/ |title=マイネルレーニア |author= |publisher=JBISサーチ |accessdate=2015年12月6日 |date=}}</ref>）
* 2007年産
** コスモヘレノス（（2010年[[ステイヤーズステークス]]<ref>{{Cite web |url=http://www.jbis.or.jp/horse/0001046601/ |title=コスモヘレノス |author= |publisher=JBISサーチ |accessdate=2015年12月6日 |date=}}</ref>）
** メイショウカンパク（（2012年[[京都大賞典]]<ref>{{Cite web |url=http://www.jbis.or.jp/horse/0001046777/ |title=メイショウカンパク |author= |publisher=JBISサーチ |accessdate=2015年12月6日 |date=}}</ref>）
* 2008年産
** [[シゲルジュウヤク]]（（2012年[[新潟ジャンプステークス]]、 2013年[[阪神スプリングジャンプ]]<ref>{{Cite web |url=http://www.jbis.or.jp/horse/0001089810/ |title=シゲルジュウヤク |author= |publisher=JBISサーチ |accessdate=2015年12月6日 |date=}}</ref>）
* 2010年産
** スマートオリオン（（2014年[[オーシャンステークス]] 2015年[[中京記念]]<ref>{{Cite web |url=http://www.jbis.or.jp/horse/0001118981/ |title=スマートオリオン |author= |publisher=JBISサーチ |accessdate=2015年12月6日 |date=}}</ref>）
 
==== 地方重賞優勝馬 ====
* 2003年産
** ラインフォーク（2006年[[高知優駿]]・[[高知競馬場|高知]]<ref>{{Cite web |url=http://www.jbis.or.jp/horse/0000755799/ |title=ラインフォーク |author= |publisher=JBISサーチ |accessdate=2015年12月6日 |date=}}</ref>）
** ラインフォーク（[[高知優駿]]）
* 2005年産
** ヒロアンジェロ（（2010年[[トゥインクルレディー賞]]・[[大井競馬場|大井]]<ref>{{Cite web |url=http://www.jbis.or.jp/horse/0000889151/ |title=ヒロアンジェロ |author= |publisher=JBISサーチ |accessdate=2015年12月6日 |date=}}</ref>）
** エーシングレーソロ（（2012年[[オータムカップ (笠松競馬)|オータムカップ]]・[[笠松競馬場|笠松]]<ref>{{Cite web |url=http://www.jbis.or.jp/horse/0000891730/ |title=エーシングレーソロ |author= |publisher=JBISサーチ |accessdate=2015年12月6日 |date=}}</ref>）
* 2006年産
** リバティーフロー（（2011年[[黒潮マイルチャンピオンシップ]]・高知<ref>{{Cite web |url=http://www.jbis.or.jp/horse/0000988192/ |title=リバティーフロー |author= |publisher=JBISサーチ |accessdate=2015年12月6日 |date=}}</ref>）
* 2007年産
** シルクアーネスト（（2014年[[OROカップ]]、・[[盛岡競馬場|盛岡]]、秋嶺賞]]・盛岡<ref>{{Cite web |url=http://www.jbis.or.jp/horse/0001044286/ |title=シルクアーネスト |author= |publisher=JBISサーチ |accessdate=2015年12月6日 |date=}}</ref>）
 
=== ブルードメアサイアーとしての主な産駒 ===
*[[メイショウマンボ]]（[[フィリーズレビュー]]、'''[[優駿牝馬]]'''、'''[[秋華賞]]'''、'''[[エリザベス女王杯]]'''）
*[[マイネルフロスト]]（[[毎日杯]]）
 
=== 産駒の傾向 ===
全体としてはやや晩成傾向で、新馬戦からいきなり勝ちあがる産駒は少なく、年を越して3歳になってから勝ちあがるものも多い。ところが一方で2歳時から活躍する産駒も目立ち、それらはグラスワンダー自身がそうであったように、成長力に富み、古馬となってからも活躍する場合が多い。[[サクラメガワンダー]]、[[マイネルレーニア]]、[[セイウンワンダー]]は2歳時に重賞を勝ち、古馬になってからも重賞を制した例である。また、[[オースミグラスワン]]、[[スクリーンヒーロー]]などのように若駒のときに故障で戦線離脱し古馬になってから重賞を制する産駒もいる。
 
産駒は[[ダート]]よりも[[芝]]向きであることが多く、産駒の平地グレード制重賞勝利は全日本2歳優駿（ビッグロマンス）以外すべて芝コースでのものである。産駒の距離適性は短距離から長距離まで多岐にわたっているが、基本的にゆったりと走れる中長距離に向く。
 
グラスワンダー自身も現役時代に骨折などの故障を経験しているが、[[2009年]]にはサクラメガワンダーやマルカラスカル、スクリーンヒーローといった主力産駒が相次いで故障（共に[[屈腱炎]]）を発生し、特にスクリーンヒーローはこの故障が原因で引退を余儀なくされた。
 
牡馬に比べると[[牝馬]]の競走成績は著しく劣る。牝馬で重賞を制覇した産駒は[[フェリシア (競走馬)|フェリシア]]とヒロアンジェロのみで、[[2010年]]にヤマカツマリリンが1600万下条件を勝つまで古馬になってから中央オープンまで出世した産駒はいなかったが、[[2012年]]にはシースナイプがオープン入りしている。
[[2013年]]には[[メイショウマンボ]]が[[フィリーズレビュー]]を制すと同年の[[優駿牝馬]]に優勝し、母の父として初めて[[G1]]馬を出した。
 
[[2015年]]現在、後継種牡馬としてスクリーンヒーローとアーネストリーが繋養されており、その内スクリーンヒーローは[[2015年]]の安田記念優勝馬、[[モーリス (競走馬)|モーリス]]や同年の[[毎日杯]]優勝馬、ミュゼエイリアンなどG1競走勝利を含む重賞勝ち馬を出している。<ref>{{Cite web|date=|url=http://www.jbis.or.jp/sp/horse/0000801447/|title=スクリーンヒーロー|publisher=JBBA|accessdate=2015-11-24}}</ref>
 
== 特徴 ==
=== 競走馬としての特徴 ===
*一般的に[[サラブレッド]]の[[蹄]]は前脚のものよりも後脚のもののほうが小さいが、グラスワンダーの後脚の蹄の大きさは前脚と同じような大きさをしていた<ref>『競馬名馬&名人読本』p22</ref>。
*左回りの競馬場でのレースは不得意であったとも言われているが、2歳時の重賞や、異例のローテーションで迎えた京王杯スプリングカップ（いずれも東京）でも豪快な勝ち方をしており、元から不得意であったとは考えにくい。ちなみに、DVD『グラスワンダー 夢色の蹄跡』では「左周りで苦しい競馬を強いられたことで、嫌がるようになってしまった。」と左回りが不得意になった原因について語られている。鞍上の的場は安田記念での接触を原因に挙げている。
*骨折休養後や引退前の惨敗のせいで成績にムラがあるように思われがちだが、惨敗した理由はハッキリしており、その時期もごく短期間に限定されており、無敗でGIを制覇したように本質的には高い勝率、連対率を誇る馬である。また、とりわけGIの勝率が高い。
*馬体重は2歳時で480kg台、古馬になってからは500kg前後で出走することが多かった。
 
=== 走法 ===
*前脚をかなり高く上げ、大きく掻き込むようにして走る。
*グラスワンダーの走法は右手前の場合、「（右）前足を地面に叩きつけるようにする」（[[井崎脩五郎]]）ため、坂のある競馬場にめっぽう強かったと言われる（ただし同馬は平坦コースで一度も走ったことがない）。また、左手前（左回りの競馬場）の映像ではその特徴があまり見られない点が左回りで苦戦した要因のひとつであるとする向きもあるが、2歳時（旧3歳時）は左回り（左手前）でもこの派手な走法は顕著であった。
 
=== ブルードメアサイアー産駒 ===
=== 競走馬名および愛称・呼称 ===
==== GI・JpnI競走優勝馬 ====
競走馬名の「グラスワンダー」は[[冠名]]の「グラス」に、伊藤がセリ市で見たときにワンダフルな印象を受けたことから「ワンダー」を加えたものである<ref>『競馬名馬&名人読本』p22</ref>。現役時代の愛称は「栗毛の怪物」。
*[[メイショウマンボ]]（2013年[[フィリーズレビュー]]、'''[[優駿牝馬]]'''、'''[[秋華賞]]'''、'''[[エリザベス女王杯]]'''。父[[スズカマンボ]]、母メイショウモモカ<ref>{{Cite web |url=http://www.jbis.or.jp/horse/0001123893/ |title=メイショウマンボ |author= |publisher=JBISサーチ |accessdate=2015年12月6日 |date=}}</ref>）
 
==== エピソ中央・ダートグレード競走優勝馬 ====
*[[マイネルフロスト]]（2014年[[毎日杯]]。父[[ブラックタイド]]、母スリースノーグラス<ref>{{Cite web |url=http://www.jbis.or.jp/horse/0001140469/ |title=マイネルフロスト |author= |publisher=JBISサーチ |accessdate=2015年12月6日 |date=}}</ref>）
*上記の通りキーンランドで行われたセールで競り落とされた当馬だが、その際に競り合いとなった相手は世界的に有名な馬主の[[アラブ首長国連邦]] (UAE) の[[ムハンマド・ビン＝ラーシド・アール＝マクトゥーム|シェイク・モハメド]]である。高額での競り合いが予想されたものの、価格が25万[[アメリカ合衆国ドル|ドル]]に上乗せされたところでモハメドが[[競売|セリ]]を降りた（当時の[[為替レート|レート]]で2500万円前後）。潤沢な資金を持つはずのモハメド陣営が、キーンランドセールではそれほど高額でもないこの価格で降りた理由は今もって不明。
*ヤマカツエース（2015年ニュージーランドトロフィー、福島記念 2016年中山金杯。父[[キングカメハメハ]]、母ヤマカツマリリン<ref>{{Cite web |url=http://www.jbis.or.jp/horse/0001154998/ |title=ヤマカツエース |author= |publisher=JBISサーチ |accessdate=2015年12月6日 |date=}}</ref>）
*前述の通り[[マルゼンスキー]]としばしば比較されていた。ただし、マルゼンスキーは先天的な脚部不安から生涯通して目一杯追われたことがなかったという関係者の証言や、[[1990年代]]と[[1970年代]]とでは馬場の質が異なることもあり、単純に走破タイムなどからグラスワンダーの方が上と位置づけることが可能かどうかは解釈の分かれる所である。
*同期には[[エルコンドルパサー]]や[[スペシャルウィーク]]、[[セイウンスカイ]]、[[アグネスワールド]]、[[エアジハード]]、[[マイネルラヴ]]、[[キングヘイロー]]、[[ウイングアロー]]等のGI馬がおり、近年稀にみるレベルが高い世代の一頭といわれている。
*引退時、長く主戦騎手を務めた[[的場均]]は、「グラスワンダーの本当の強さを皆さんにお見せすることができなかったのが残念でなりません」と悔しさを滲ませた言葉を残した。GI馬に対するコメントとしては極めて異例なもので、いかにグラスワンダー関係者の評価と期待が高かったかを物語っている。
*尾形調教師は牧場で他馬に向かってこられたものの動じなかったグラスワンダーの様子を見て、「この馬は相当なバカか、賢くて走る馬だ」と思ったという。
 
== 血統表 ==
1990年代に日本へ輸入された外国産馬は、総じて早熟、短距離得意という傾向をもっていた<ref name="silver">『優駿』1999年2月号、p.84</ref>。そうしたなかで父・シルヴァーホークは万能型という評もあったものの、全体としては晩成型で中・長距離を得意とする仔を出す種牡馬として知られた<ref name="silver" />。ためにグラスワンダーの早熟性とスピード能力は、そうした特徴で知られた母の父・[[ダンジグ]]の影響を受けたものだという見解がある<ref name="yushun99028" /><ref name="meiba" />。
 
4代母・ソーリングの系統はアメリカで発展し、[[デヴィルズバッグ]]、[[セイントバラード]]、[[グローリアスソング]]、[[ラーイ]]、[[シングスピール]]などの国際的な名競走馬・繁殖馬が数多く輩出されている<ref name="hiraide" />。ピフィギャルから分かれグラスワンダーに至る系統は、そのうちでは比較的傍流にあたる<ref name="hiraide" />。
{{競走馬血統表
|name = グラスワンダー
|inf = （[[ロベルト系]] / Nearco4×5=9.38%）
|f = [[シルヴァーホーク|Silver Hawk]] 1979<br />[[鹿毛]] [[アメリカ合衆国|アメリカ]]
|ff = [[ロベルト_(競走馬)|Roberto]] 1969<br />鹿毛 アメリカ
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|mmfm = Flower Bowl
|mmmf = [[レイズアネイティヴ|Raise a Native]]
|mmmm = Soaring [[ファミリーナンバー|F-No.12-c]]
|ref1 = [http://www.jbis.or.jp/horse/0000299089/pedigree/ JBISサーチ グラスワンダー 5代血統表]2015年12月6日閲覧。
|mlin = [[ロベルト系]]
|ref2 = [http://db.netkeiba.com/horse/ped/1995108676/ netkeiba.com グラスワンダー 5代血統表]2015年12月6日閲覧。
|flin = [[12号族]]
|FN = 12-c
|ref3 = [http://www.jbis.or.jp/horse/0000299089/pedigree/ JBISサーチ グラスワンダー 5代血統表]2015年12月6日閲覧。
|inbr = [[ネアルコ|Nearco]]4×5、[[ネイティヴダンサー|Native Dancer]]5×5（母内）
|ref4 = [http://www.jbis.or.jp/horse/0000299089/pedigree/ JBISサーチ グラスワンダー 5代血統表]2015年12月6日閲覧。
|}}
 
=== 近親 ===
#Pi Phi Galの子孫の重賞勝利馬を記述する。括弧内は当該馬が勝った重賞競走、太字はGI競走。
*全妹のワンダーアゲイン (Wonder Again) はアメリカでGIを2勝している。
*全妹 - Wonder Again（'''ガーデンシティブリーダーズカップハンデキャップ'''、'''ダイアナハンデキャップ'''、レークプラシッドステークス、ノーブルダムゼルハンデキャップ<ref name="hiraide" />）
*母の全妹Tribulationの孫に[[ディサイファ]]（[[エプソムカップ]]）がいる。
*伯母 - Graceful Derby（[[クイーンエリザベス2世チャレンジカップステークス|クイーンエリザベス2世チャレンジカップ]]、クイーンシャーロットハンデキャップ、ニジャナステークス、ヴァイオレットハンデキャップ<ref name="yushun9902140" />）
*4代母Soaringから続く牝系には、1980年のソヴリン賞年度代表馬で[[ラーイ]]や[[シングスピール]]の母である[[グローリアスソング]]、1983年のエクリプス賞最優秀2歳牡馬[[デヴィルズバッグ]]、2005年度北米リーディングサイアー・[[セイントバラード]]がいる。
*伯母 - Triburation（'''クイーンエリザベス2世チャレンジカップ'''、ボイリングスプリングハンデキャップ、ギャロレットハンデキャップ<ref name="yushun9902140" />）
*従姉 - Stalcreek（ラカナダステークス、リンダヴィスタブリーダーズカップ<ref name="yushun9902140" />）
*大叔父 - Pi Phi Prince（'''パナマ共和国大統領賞'''<ref name="yushun9902140" />）
*従甥 - [[ディサイファ]]<ref name="hiraide" />（札幌記念、中日新聞杯、エプソムカップ<ref>{{Cite web |url=http://www.jbis.or.jp/horse/0001110648/ |title=ディサイファ |author= |publisher=JBISサーチ |accessdate=2015年12月6日 |date=}}</ref>）
 
== 脚注 ==
=== 注釈 ===
{{Reflist|group=注}}
 
=== 出典 ===
{{Reflist|3}}
 
== 参考文献 ==
*『競馬名馬&名人読本』（[[宝島社]]、1998年）ISBN 978-4796693752
* 的場均『夢無限』 流星社、2001年
*木村俊太『スペシャルウィーク - 最強馬の証明』（ザ・マサダ、2000年）ISBN 978-4883970643
* 『競馬名馬&名人読本』 [[宝島社]]、1998年
*的場均『夢無限』（流星社、2001年）ISBN 978-4947770035
*日本馬主協会連合会（編）『日本馬主協会連合会40年史』（日本馬主協会連合会、2001年）
*『名馬物語 - The best selection（3）』（エンターブレイン、2004年）ISBN 978-4757720794
*平出貴昭『覚えておきたい日本の牝系100』（スタンダードマガジン、2014年）ISBN 978-4938280642
*『週刊100名馬Vol.83 エルコンドルパサー』（産経新聞社、2000年）
*『週刊100名馬vol.89 グラスワンダー』（産経新聞社、2000年）
*『優駿』（日本中央競馬会）各号
 
== 外部リンク ==
* [http://www.breeders.co.jp/ サラブレッド・ブリーダーズ・クラブ]
* [http://www.elizapark.com.au/ イライザパークスタッド] {{En icon}}
* {{競走馬成績|netkeiba=1995108676|yahoo=1995108676|jbis=0000299089|racingpost=479759}}
* {{競走馬のふるさと案内所|0000299089|グラスワンダー(USA)}}
 
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