「統合失調症の原因」の版間の差分

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統合失調症の発病について、[[遺伝]]と環境の両方が関係しており、遺伝の影響は約60%とされている{{Sfn|世界保健機関|1998|loc=Chapt.3.3}}。この値は[[高血圧]]や[[糖尿病]]に近いものであり、頻度の多い慢性的な病気に共通する値の様である<ref name="厚労統detail_into">[http://www.mhlw.go.jp/kokoro/speciality/detail_into.html 統合失調症](厚生労働省)</ref>。
 
脳に器質的な障害が発生することによるかどうかは両論ある。病因については、[[神経伝達物質]]の一つである[[ドーパミン]]作動性神経の不具合によるという仮説をはじめ、様々な仮説が提唱されている。しかし、明確な病因は未だに確定されておらず、'''発病メカニズムは不明'''である。仮説は何百という多岐な数に及ぶため、特定的な原因の究明が非常に煩わしく困難であるとされるが今日の精神医学の発達上の限界・壁であるとされる。
 
発病メカニズムは不明であるものの、特定の薬剤を投与することで統合失調症を再現することは可能であり、[[モデル生物|モデル動物]]の作成に用いられている。それら統合失調症を誘発する薬剤は、[[危険ドラッグ]]などとして規制されている。DSMなどの診断基準では、薬剤の濫用による精神障害は統合失調症と区別されているものの、診断する医師が誘発薬剤の使用を認識している場合に限られる。
 
[[一卵性双生児]]研究において一致率が高い (30 - 50%) が100%ではないことなどから、遺伝的要因と環境要因両方が発症に関与していると考えられている。遺伝形式も不明で、信頼できる原因遺伝子の同定もされていないが、約60%が遺伝によるとの報告<ref>Moldin SO, Gottesman II. At issue: genes, experience, and chance in schizophrenia ? positioning for the 21st century. Schizophr Bull. 1997;23(4):547-61.</ref>がある。
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=== ドーパミン仮説 ===
[[中脳辺縁系]]におけるドーパミンの過剰が、[[幻覚]]や[[妄想]]といった陽性症状に関与しているという仮説。実際に[[ドーパミン受容体|ドーパミンD<sub>2</sub>受容体]]遮断作用をもつ[[抗精神病薬]]の[[クロルプロマジン]]が、陽性症状に有効であるため提唱された。しかし、ドーパミン遮断剤投与後、効果が現れるのが長期修正を暗示させる7日から10日後であること、ドーパミン受容体は後方細胞だけでなく前方細胞にも存在すること、またドーパミンD2ファミリーに異型が発見されたこと等により[[臨床医]]や[[神経生物学者]]からは批判も多い。[[生物学]]研究では皮質下のDA受容体密度の増加による受容体感受性の高まり(ドーパミンの過剰ではない)を暗示する研究も存在するが、むしろ[[前頭葉]]や[[前部帯状回]]などで、ドーパミン受容体結合能の低下を示唆する研究の方が多い(研究者の中にはドーパミン仮説は許認可の為の[[製薬会社]]のマーケティングにすぎないし破綻しているという研究者もいる<ref>http://www.akita-u.ac.jp/hkc/eventa/item.cgi?pro2&10</ref>)。近年、ドーパミンをコントロールする抗精神病薬の副作用で、脳が萎縮するという研究結果が開示された<ref>{{cite journal |author=Ho BC, Andreasen NC, Ziebell S, Pierson R, Magnotta V |title=Long-term antipsychotic treatment and brain volumes: a longitudinal study of first-episode schizophrenia |journal=Arch. Gen. Psychiatry |volume=68 |issue=2 |pages=128–37 |year=2011 |pmid=21300943 |pmc=3476840 |doi=10.1001/archgenpsychiatry.2010.199 |url=}}</ref><ref>http://blog.livedoor.jp/beziehungswahn/archives/40604888.html 抗精神病薬による脳への負の影響。その1 灰白質への影響</ref><ref>http://blog.livedoor.jp/beziehungswahn/archives/40616823.html 抗精神病薬による脳への負の影響。その2 白質への影響</ref>。
 
統合失調症のモデル動物を作成する際に用いられる[[フェンサイクリジン]](PCP)はドーパミンD<sub>2</sub>受容体パーシャルアゴニストであり、非定型抗精神病薬の[[アリピプラゾール]]と同様の機序を有している。D<sub>2</sub>受容体パーシャルアゴニスト作用が統合失調症を誘発させないのであれば、PCPが統合失調症を誘発させているのはNMDA受容体アンタゴニスト作用によるものと考えられる。NMDA受容体アンタゴニストは薬効に応じて[[オルニーの病変]]を惹起することが分かっている。
 
ドーパミン作動性の薬剤は統合失調症の陽性症状を誘発することが分かっている。覚せい剤は統合失調症の陽性症状に類似した症状を誘発させる。
 
=== アドレノクロム仮説 ===
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統合失調症の[[モデル生物]]作成に[[MK-801|MK-801(ジゾシルピン)]]やフェンサイクリジンが使用される<ref name="pmid15916843">{{cite journal |author=Rung JP, Carlsson A, Rydén Markinhuhta K, Carlsson ML. |title=(+)-MK-801 induced social withdrawal in rats; a model for negative symptoms of schizophrenia. |journal=Prog. Neuropsychopharmacol. Biol. Psychiatry. |volume=29 |issue=5 |pages=827–32 |month=June |year=2005 |pmid=15916843 |doi=10.1016/j.pnpbp.2005.03.004 |url=http://linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/S0278-5846(05)00092-8}}</ref>。一時的な投与は精神病の模倣を、慢性投与は[[神経病理学]]的な変化をもたらす<ref name="pmid17601703">{{cite journal |author=Braun I, Genius J, Grunze H, Bender A, Möller HJ, Rujescu D. |title=Alterations of hippocampal and prefrontal GABAergic interneurons in an animal model of psychosis induced by NMDA receptor antagonism. |journal=Schizophr. Res. |volume=97 |issue=1–3 |pages=254–63 |month=December |year=2007 |pmid=17601703 |doi=10.1016/j.schres.2007.05.005 |url=http://linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/S0920-9964(07)00218-6}}</ref>。NMDA型グルタミン酸受容体拮抗薬は[[オルニーの病変]]をもたらす。反復投与により、概ね薬効の強さに関連して永続的な神経変性が生じる。MK-801はヒトにおいても長期間に渡って異常思考や健忘などの強い後遺症が残る。いくつかの研究では習慣性が見出されている。
 
ドーパミン作動性の薬剤が陽性症状のみを誘発させるのに対し、NMDA受容体拮抗剤は陽性症状と陰性症状の両方を誘発させることが分かっている。
 
=== PACAP遺伝子との関連 ===
[[神経伝達物質]]の一種である[[PACAP]]遺伝子の[[多型]]が[[統合失調症]]と有意に関連していることが示された。これはPACAP[[シグナル伝達]]の変化が統合失調症の病因に寄与している可能性があることを示唆している<ref name="pmid17387318">{{cite journal |author=R Hashimoto, et al. |title=Pituitary adenylate cyclase-activating polypeptide is associated with schizophrenia. |journal=[[:en:Molecular Psychiatry]]. |volume=12 |issue=11 |pages=1026-32 |date=2007-3-27 |url=http://www.nature.com/mp/journal/v12/n11/full/4001982a.html |doi=10.1038/sj.mp.4001982 |pmid=17387318}}</ref>。PAC<sub>1</sub>受容体の活性化を促進させる[[ミノサイクリン]]が統合失調症への有効性が実証された<ref name="pmid26700245">{{cite journal |author=Yu R, et al. |title=Doxycycline exerted neuroprotective activity by enhancing the activation of neuropeptide GPCR PAC1. |journal=[[:en:Neuropharmacology]]. |volume=103 |pages=1-15 |month=April |year=2016 |url=http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0028390815301969 |doi=10.1016/j.neuropharm.2015.11.032 |pmid=26700245}}</ref><ref name="pmid25087702">{{cite journal |author=Oya K, Kishi T, Iwata N |title=Efficacy and tolerability of minocycline augmentation therapy in schizophrenia: a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials |journal=[[:de:Human Psychopharmacology: Clinical and Experimental]] |volume=29 |issue=5 |pages=483-91 |date=2014-9-4 |url=https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/hup.2426/abstract |doi=10.1002/hup.2426 |pmid=25087702}}</ref>。
 
=== カルシニューリン系遺伝子の異常 ===
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=== 違法薬物仮説 ===
[[大麻]]や[[覚醒剤]]、[[脱法ドラッグ]]などの[[麻薬]]使用は、一時的な快楽が得られるが、[[禁断症状]]にみられる諸症状を誘起させる。本来、[[ICD-10 第5章:精神と行動の障害|精神作用物質使用による精神および行動の障害]][[ICD-10]] F1x.5グループに分類される為、統合失調症(F20)とは区別される。しかし、診断する医師が精神作用物質の使用を認識しているケースに限られるため、統合失調症と診断される可能性は否定できない。特に患者が精神作用物質の使用を否認し、証拠も見つからなければ統合失調症と診断される可能性が高い
 
フェンサイクリジン(通称 エンジェルダスト)などのNMDAアンタゴニストは[[オルニーの病変]]をもたらすことが知られている。より強力なMK-801(ジゾシルピン)は長期間に渡って異常思考や健忘などの強い後遺症が残るとされる。これらはモデル生物の作成に使用されている。