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{{画像提供依頼|映画ポスターなど|date=2017年3月|cat=映画}}
{{Infobox Film|
| 作品名 =からっ風野郎
| 原題 =Afraid to Die
| 画像 =
| 画像サイズ =
| 画像解説 =
| 監督 =[[増村保造]]
| 製作主任 =[[大橋俊雄]]
| 製作 =[[永田雅一]]
| 脚本 =[[菊島隆三]]<br />[[安藤日出男]]
| 出演者 = [[三島由紀夫]]<br />[[若尾文子]]
| 音楽 =[[塚原哲夫]]
| 主題歌 =「からっ風野郎」<br />
| 撮影 =[[村井博]]
| 編集 =[[中静達治]]
| 配給 =[[大映]]
| 公開 ={{flagicon|JPN}} [[1960年]][[3月23日]]
| 上映時間 =96分（[[カラー映画|カラー]]・大映[[シネマスコープ|スコープ]]）
| 製作国 ={{JPN}}
| 言語 =[[日本語]]
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}}
{{Portal 映画}}
『'''からっ風野郎'''』（からっかぜやろう）は、[[1960年]]（昭和35年）[[3月23日]]公開の[[日本映画]]。[[映画監督|監督]]は[[増村保造]]。脚本は[[菊島隆三]]。製作は[[大映]]（[[角川大映スタジオ|大映東京撮影所]]）。作家の[[三島由紀夫]]が[[映画俳優]]として初主演した作品である<ref name="hatsu">「初出演の言葉」（[[大映]]映画プログラム 1960年3月）。{{Harvnb|映画論|1999|p=297}}、{{Harvnb|31巻|2003|p=401}}に所収</ref><ref name="kakomi">[[藤井浩明]]「原作から主演・監督まで――プロデューサー藤井浩明氏を囲んで（聞き手：[[松本徹 (学者)|松本徹]]・[[佐藤秀明 (学者)|佐藤秀明]]・[[井上隆史 (国文学者)|井上隆史]]・[[山中剛史]]）」（{{Harvnb|研究2|2006|pp=4-38}}）。「映画製作の現場から」として{{Harvnb|同時代|2011|pp=209-262}}に所収</ref><ref name="yama">「第十章 映画『からっ風野郎』と俳優宣言」（{{Harvnb|山内|2012|pp=264-293}}）</ref>。傾きかけた落ち目な組の二代目[[ヤクザ]]が敵対する組の[[殺し屋]]に命を狙われる中、惚れた女の一途な純情にうたれ[[堅気]]になろうとした矢先に殺されてしまうという異色の[[ヤクザ映画]]である<ref name="jofu">「『からつ風野郎』の情婦論」（[[講談倶楽部]] 1960年4月号）。{{Harvnb|映画論|1999|pp=300-306}}、{{Harvnb|31巻|2003|pp=404-410}}に所収</ref><ref name="yama"/>。公開当時は、[[映画倫理委員会|映画倫理管理委員会]]より[[成人映画]]（映倫番号11655）の指定を受けた<ref>[http://db.eiren.org/contents/04110090801.html 一般社団法人日本映画製作者連盟]（2017年3月20日閲覧）</ref><ref>{{Harvnb|DVD|2007}}冒頭タイトル表示の右下に付記</ref>。
当時、既に高名な作家となっていた三島が、ヤクザの跡取りながらどこか弱さや優しさを持ったしがない男を演じ、相手役の[[若尾文子]]は激しく[[愛]]に生きる[[ヒロイン]]を好演して不慣れな三島をカバーした<ref name="sato14">「第四章 著名人の時代」（{{Harvnb|佐藤|2006|pp=110-143}}）</ref><ref name="yama"/>。大映の専属俳優として正式契約し意気込んで華々しく映画デビューした三島だったが、その[[大根役者]]ぶりを酷評され、[[興行]]的にはヒット作となったものの俳優[[演技]]の難しさを痛感する経験となった<ref name="haiyu">「映画俳優オブジェ論」（[[京都新聞]]夕刊 1960年3月28日号）。{{Harvnb|映画論|1999|pp=298-299}}、{{Harvnb|31巻|2003|pp=402-403}}に所収</ref><ref name="yama"/><ref name="sato14"/>。
しかし三島にとってこの苦い経験は、その後の写真集『[[薔薇刑]]』の静止[[被写体]]に繋がり、『[[憂国]]』の自主製作映画化の成功や、準主役で出演した[[時代劇]]映画『[[人斬り (映画)|人斬り]]』での好演にも繋がっていくことになった<ref name="kakomi"/><ref name="sato14"/><ref name="yama"/><ref name="jiten">[[平山城児]]「映画出演」（{{Harvnb|事典|2000|pp=457-458}}）</ref>。
公開時の惹句は、「彼奴を殺ろせ！ 出獄を待つ殺し屋の群れに挑戦する白いやくざ！」、「殺されるのは俺か！ 恋人か！ 怖るべき非情を爆発させる殺し屋の世界！」である<ref name="yama"/>。併映は、[[田中重男]]監督の『東京の女性』（出演：[[山本富士子]]）<ref name="kakomi"/><ref name="yama"/>。
なお、映画公開から44年後の[[2004年]]（平成16年）の明治古典会[[七夕]]大[[競争入札|入札]]会において、『からっ風野郎』の未発表写真（撮影：[[田島正]]）20枚とそのネガが出品された<ref name="inuzu">[[犬塚潔]]「『からっ風野郎』未発表写真」（{{Harvnb|研究2|2006|pp=139-151}}）</ref>。
== 製作の経緯 ==
=== 企画から記者発表 ===
==== 三島主演の企画 ====
[[大映]][[プロデューサー]]の[[藤井浩明]]は、[[三島由紀夫]]の長編小説『[[鏡子の家]]』の冒頭部の章が雑誌『聲』に発表されて以来その映画化を企画し、完結した[[書き下ろし]]の『鏡子の家』が[[1959年]]（昭和34年）9月に刊行されると同時に、[[市川崑]]に[[映画監督|監督]]を依頼した<ref name="kakomi"/>。市川崑は以前に『[[炎上 (映画)|炎上]]』（[[1958年]]8月封切）で三島の『[[金閣寺 (小説)|金閣寺]]』の映画化に成功していた実績があり、市川はすぐに快く承諾した<ref name="kakomi"/>。大映の[[永田雅一]]社長も、三島の長編を市川崑でやる企画を報告すると、「乗った！」と会議にもかけずに即決した<ref name="kakomi"/>。
ところがそんな折、三島と付き合いの長い[[講談社]]の編集者・[[榎本昌治]]が藤井に、「三島の映画をやらないか」と、三島の主演映画を作る話を持ちかけてきた<ref name="kakomi"/>。榎本と藤井は親しい間柄であった<ref name="kakomi"/>{{refnest|group="注釈"|[[藤井浩明]]と、[[講談社]]の[[榎本昌治]]や[[川島勝 (編集者)|川島勝]]、[[新潮社]]の[[新田敞]]とは普段から親しい仲間だった<ref name="kakomi"/>。}}。三島はその同年、自作エッセイの翻案映画『[[不道徳教育講座]]』（1959年1月封切）で[[ナビゲーター]]役としてほんの少し特別出演していたが、それ以前から自分が映画に出ることに興味を持っていた<ref name="hatsu"/><ref name="kakomi"/>。
榎本昌治は三島の直接の編集担当者ではなかったが、女性誌の『若い女性』の書籍出版部に在籍していた経歴があり、その渉外能力の高さで「[[冠婚葬祭]]係」の異名を持つ名物編集者として知られる豪放磊落なイメージの人物であった<ref name="sankei">「映画スター・三島由紀夫――銀幕に賭けた作家の意欲」「芸能づいた文士」（[[週刊サンケイ]] 1959年12月6日号）。{{Harvnb|山内|2012|p=267}}</ref><ref name="yama"/><ref name="bijo1">「第一章 映画女優 若尾文子」（{{Harvnb|岡山|2016|pp=15-54}}）</ref>。榎本は最初、この企画を[[日活]]に持ちこみ、三島と[[石原裕次郎]]の共演にしようとするが実現されなかった<ref name="sankei"/><ref name="yama"/>。そこで榎本は大映に持ちこみ、三島が大好きな永田社長の大歓迎を受けた<ref name="kakomi"/><ref name="sankei"/><ref name="yama"/>。
三島原作映画化と三島主演映画という企画が[[競合状態|バッティング]]してしまったため、とりあえず『鏡子の家』の映画化の方は後回しにし（結局実現しなかった）、不調ぎみの大映を盛り返すために三島主演映画を製作することが決定となった<ref name="kakomi"/><ref name="yama"/>。1959年（昭和34年）秋に永田社長は正式に三島に映画主演を依頼し合意に至った<ref name="kawas7">「『からっ風野郎』」（{{Harvnb|川島|1996|pp=149-170}}）</ref><ref name="objet">「ぼくはオブジェになりたい――ヒロインの名は言へない」（[[週刊公論]] 1959年12月1日号）。{{Harvnb|映画論|1999|pp=286-292}}、{{Harvnb|31巻|2003|pp=294-300}}に所収</ref>。この頃の三島は、渾身で発表した書き下ろし長編『鏡子の家』に対する[[文壇]]の不評に失望し意気消沈し始めていた時期で、気分を変えたいという心持ちを秘めていた<ref>「[[川端康成]]宛ての書簡」（昭和34年12月18日付）。{{Harvnb|川端書簡|2000|pp=142-143}}、{{Harvnb|38巻|2004|pp=291-292}}</ref><ref name="inoue">井上隆史「『三島映画』の世界」（{{Harvnb|研究2|2006|pp=44-54}}）</ref><ref name="yama"/>。
永田社長が、相手役の[[女優]]は誰でも好きなのを自由に選べと、[[京マチ子]]、[[山本富士子]]、[[若尾文子]]などの名前を挙げると、三島はすぐに若尾文子を選んだ<ref name="kakomi"/>。三島は若尾のファンで、その「ポチャポチャとした」顔が好みであった<ref name="ayako">「若尾文子さん――表紙の女性」（[[週刊コウロン]] 1960年5月10日号）。{{Harvnb|映画論|1999|p=397}}、{{Harvnb|31巻|2003|p=421}}に所収</ref><ref name="wasan">「若尾文子讃」（[[主婦の友]] 1962年4月号）。{{Harvnb|映画論|1999|pp=398-402}}、{{Harvnb|32巻|2003|pp=54-58}}に所収</ref><ref name="bijo1"/>。
最初、永田社長は「三島由紀夫」という役でどうだと提案した<ref name="objet"/>。しかし三島は「[[小説家]]」という固定観念を外したらどう見えるか聞き、永田社長は「[[二枚目]]の敵役で、崩れた役がよろしい。[[ヤクザ]]っぽい役の方がいい」と言った<ref name="objet"/>。三島は、「限りなく無教養な男」の役を希望し、「インテリの役というのは絶対勘弁してくれ」と依頼した<ref name="kakomi"/>。
藤井は三島の了解を得て、監督を[[増村保造]]にすることにした<ref name="kakomi"/>。当時日本映画界の期待の星であった増村は三島主演作の監督をすぐに引き受けた<ref name="kakomi"/>。三島と増村は[[東京帝国大学]][[法学部]]時代の同級生の間柄で顔見知りであった<ref name="masu">[[増村保造]]「三島由紀夫さんのこと」（[[ユリイカ (雑誌)|ユリイカ]] 1986年5月号）。{{Harvnb|佐藤|2006|p=113}}、{{Harvnb|山内|2012|pp=275,288}}</ref>。三島は増村に、「自信のあるのは[[胸毛]]だから、よろしくお願いします」と挨拶し、[[脚本]]を担当することになった[[白坂依志夫]]には、濃厚な[[濡れ場|ラヴ・シーン]]を注文した<ref name="objet"/>。
==== 「俳優宣言」 ====
「[[ラッパ]]の永田」という異名を持つ[[永田雅一]]社長は、さっそく[[芸能]][[記者]]らを[[帝国ホテル]]新館に集め、[[サプライズ]]記者会見を1959年（昭和34年）11月14日に開いた<ref name="yama"/><ref name="gai7">「七 西にコクトー、東に三島『からっ風野郎』」（{{Harvnb|岡山|2014|pp=46-51}}）</ref>。記者会見の時間は、ちょうど[[松竹]]が『[[銀嶺の王者]]』の撮影で招いた[[トニー・ザイラー]]が来日する数時間前にぶつけた<ref name="sato14"/>。社長が「ラッパ」だけに芸能記者らはあまり期待していなかったが、[[山本富士子]]の結婚発表かもしれないと集結していた<ref name="yama"/>。
ところが、作家の三島由紀夫（34歳）が[[大映]]と[[俳優]]の専属契約を結んだと発表され、三島本人が「新人の三島でございます」と登場したので、ドッと会場が笑いに包まれた<ref name="yama"/><ref name="sato14"/><ref name="gai7"/>。永田社長は、「西にコクトー、東に三島、東西軌を一にしてだな…」と語り出した<ref name="objet"/><ref name="gai7"/>。三島主演の俳優デビュー作は、三島のオリジナル作を[[白坂依志夫]]が脚色し、[[増村保造]]監督で来春公開予定、撮影は2月からと告知された<ref name="keiyaku">「名乗り出た“和製コクトー”――自作自演の“俳優三島由紀夫”大映と契約」（[[スポーツニッポン]] 1959年11月15日号）。{{Harvnb|山内|2012|p=265}}</ref><ref name="sengen">「俳優宣言をした三島由紀夫」（[[朝日新聞]] 1959年11月15日号）。{{Harvnb|山内|2012|pp=265-266}}</ref><ref name="yama"/>。この時はまだ相手役は発表されなかった<ref name="objet"/>。
記者会見上で三島は、「[[文学者|文士]]とか[[インテリ|インテリゲンチャー]]ということは捨てて、”くずれた”ような役がやりたい。そして内容のある[[アクション映画|アクション]]などですね」と抱負を語り、[[平岡瑤子|瑤子夫人]]の反対は「亭主の権力で押さえつけました」と[[ジョーク]]を交えながら会場を沸かせた<ref name="keiyaku"/><ref name="yama"/><ref name="sato14"/>。瑤子夫人は夫の映画出演に猛反対したが、永田社長が彼女の実父の[[杉山寧]]を動かして説得した<ref name="gai7"/>。
三島の映画主演のニュースは、「俳優宣言をした三島由紀夫」、「不敵に笑うタフガイ文士」などの見出しで大々的に各[[スポーツ新聞]]や[[週刊誌]]、[[一般紙]]で報じられた<ref name="sengen"/><ref name="yama"/><ref name="sato14"/>。わざわざ三島宛てに、「お前が映画俳優になれる顔かどうか、[[鏡]]をのぞいて見るがいい」といった中傷の手紙を出す輩もいた<ref name="gai7"/>。
{{Quotation|[[犬]]が[[人間]]にかみつくのでは[[ニュース]]にならない。人間が犬にかみつけばニュースになる。ぼくら小説家は、いつも犬が人間にかみつくことに、かみついてゐるわけだが、たまたま今度の場合、ぼくが俳優になるのは、人間が犬にかみつくやうなものだから、それでニュース・ヴァリューがあつたのかもしれない。|三島由紀夫「ぼくは[[オブジェ]]になりたい――[[ヒロイン]]の名は言へない」<ref name="objet"/>}}
新聞や週刊誌などでは、三島の主演映画は何になるかに関心が集まり、当初は『[[カルメン]]』の翻案映画にするという企画もあった<ref name="gai7"/><ref name="yama"/>。三島は[[自衛隊]]くずれのドン・ホセ的な主人公で、エスカミリオには[[プロ野球選手]]役の[[川口浩 (俳優)|川口浩]]を配し、三島は[[娼婦]]のカルメンに裏切られて死ぬという筋書きで、脚本担当者の白坂依志夫の談話付きの記事もあった<ref>「ドン・ホセになる新人・三島由紀夫」（[[週刊新潮]] 1959年11月30日号）。{{Harvnb|岡山|2014|p=47}}</ref><ref name="yama"/><ref name="gai7"/>。しかし、[[オットー・プレミンジャー]]監督の映画『[[カルメン (1954年の映画)|カルメン]]』が日本で公開される話があり、この企画は没となった<ref name="gai7"/>。
三島の「俳優宣言」のニュースは[[文壇]]でも注目された<ref name="gai7"/><ref name="yama"/>。三島は記者会見の数日後に[[フランキー堺]]と対談していたが<ref>[[フランキー堺]]との対談「ニュー・フェイス三島由紀夫“センパイ”フランキー堺と大いに語る」（[[週刊明星]] 1959年12月6日号。実施日11月19日）</ref>、[[大岡昇平]]はそれを読んで、「フランキー堺が、映画俳優三島由紀夫に猛烈な[[ライバル]]意識を燃やしている。これでお前が[[三枚目]]だってことが確認できた」、「[[性格俳優]]的なことをやれば、三島君はうまくやるだろう」と談話を寄せた<ref name="sankei"/><ref name="gai7"/><ref name="yama"/>。
[[十返肇]]は、「あんな長い顔で[[クローズアップ]]したらどうなるだろう？ ドン・ホセじゃなくて[[ドン・キホーテ]]じゃないのか」と皮肉的にコメントし<ref name="gai7"/>、[[五味康祐]]は、「文壇のためには繁栄でまことに結構」と激励した<ref name="sankei"/><ref name="yama"/>。[[大宅壮一]]は、「追いつめられた大映の救いの神になるかどうか」、「とにかく作家としても第一人者である三島氏にとっては積極的な経験となるだろう」と応援しながらも、「彼はスターとしてあるいは失敗するかもしれない」とも懸念していた<ref name="sankei"/><ref name="yama"/>。
=== 脚本作り ===
==== 競馬の騎手役「肉体の旗」 ====
最初、[[藤井浩明]]プロデューサーが脚本を[[白坂依志夫]]に起用したのは、三島由紀夫原作の映画『[[永すぎた春]]』でも脚本を担当していた経験があったからだった<ref name="kakomi"/>。多忙な藤井は白坂と三島の2人で打ち合わせをしてもらった<ref name="kakomi"/>{{refnest|group="注釈"|三島は白坂との打ち合わせ中に藤井に電話を入れ、「あいつは、のらりくらりと何言ってるかわけがわからない」、「からかってばかりいるんで、早く来てくれ」と頼んだが、あいにくその日は[[台風]]が凄いこともあって、藤井は行かれなかった<ref name="kakomi"/>。}}。
案に難航しながらも「[[インテリ]]をやりたくないんだったら、じゃあ[[競馬]]の[[騎手]]をやろう」と話が進み、白坂は「凄い名馬に乗る競馬の騎手が、[[八百長]]やる話」という『'''肉体の旗'''』というタイトルの脚本を作り、三島も乗り気で喜んでいた<ref name="kakomi"/>。三島は[[乗馬]]をやっていたことがあり、体型も割と小柄であったため適役と思われた<ref name="kawas7"/><ref name="kakomi"/>。
三島の主演映画ということもあってか、本読みには[[永田雅一]]社長をはじめ[[重役]]も参加するという異例の環境で行なわれた<ref name="kakomi"/>。白坂の脚本は、腕の良い競馬騎手が弾みで落馬し、[[大穴]]のレースになったために競馬ファンから八百長として吊るしあがられ、[[愛人]]の女[[馬主]]からも棄てられてしまい、[[サンドイッチマン]]として落ちぶれていくという展開で、目を悪くしたその八百長騎手がカムバックした後、ビッグレースで一旗揚げることを賭け[[英雄]]的勝利を目指すがゴールと同時に死んでしまうという結末で、よく出来ていたストーリーだった<ref name="kakomi"/><ref name="kawas7"/><ref name="gai7"/><ref name="inuzu"/>。
ところがその本読みの時、突然永田社長が、「お前何考えているんだ！ 俺を誰だと思ってるんだ、俺は[[日本中央競馬会|中央競馬会]]の馬主会会長だ」と怒鳴り始め、「[[中央競馬]]が八百長だって、そんなの絶対できない！」と一喝されてしまった<ref name="kakomi"/>。藤井らは社長に平謝りし、その脚本は没となった<ref name="kakomi"/><ref name="inuzu"/>。
==== 新たな脚本「からっ風野郎」 ====
映画出演のために三島由紀夫が2か月もスケジュールを空けていたため、藤井浩明は早く新しい脚本を手配しなければならず思案していたが、ふと[[菊島隆三]]が[[石原裕次郎]]を想定して書いていた脚本があったことを思い出した<ref name="kakomi"/>。その脚本の結末は石原裕次郎のイメージを崩すとの理由と、[[日活]]のスター裕ちゃんを殺すことはできないということで[[お蔵入り]]になっていた<ref name="yama"/><ref name="gai7"/>。
藤井はすぐさま菊島に電話を入れ、その脚本をどこにも売っていないことを確認すると、三島と共に菊島の元に飛んで行った<ref name="kakomi"/><ref name="yama"/>。その菊島の脚本は、もの凄く強い[[ヤクザ]]の二代目が最後に[[殺し屋]]に殺されてしまうというストーリーで、三島はそれを読んだとたんに惚れ込み、「やる！ これでいきましょう」と大喜びしてその場で即決となった<ref name="kakomi"/><ref name="yama"/><ref name="noki">「映画初出演の記」（[[読売新聞]]大阪夕刊 1960年2月24日号）。{{Harvnb|映画論|1999|pp=}}、{{Harvnb|31巻|2003|pp=395-397}}に所収</ref>。
それが原型の『からっ風野郎』の脚本であった<ref name="kakomi"/>。1月26日付の[[日刊スポーツ]]に、三島主演映画の脚本が[[白坂依志夫]]の『肉体の旗』から、菊島隆三の『からっ風野郎』に変更になったことと、共演者が[[若尾文子]]のほか、[[船越英二]]、[[野添ひとみ]]（のちに[[水谷良重]]に変更）になったことが報じられた<ref>「三島の主演『からっ風野郎』に変更――大映、来月上旬に開始」（[[日刊スポーツ]] 1960年1月26日号）。{{Harvnb|山内|2012|p=270}}</ref><ref name="yama"/><ref name="nenpu35">「年譜――昭和35年」（{{Harvnb|42巻|2005|pp=237-243}}）</ref>。
=== 撮影 ===
==== 脚本手直し ====
『からっ風野郎』の撮影のため、三島由紀夫は1960年（昭和35年）2月1日に[[角川大映スタジオ|大映多摩川撮影所]]に入り、[[増村保造]]監督やスタッフとの打合せや、[[記者会見]]が行なわれた<ref name="yama"/><ref name="nenpu35"/>。2月4日には[[スチル写真|スチール撮影]]が行なわれ、1週間の準備期間の後の2月8日に映画本編の撮影が[[クランクイン]]した<ref name="yama"/><ref name="nenpu35"/>。昼夜逆転の文筆生活と異なり、[[調布市]]の撮影所に向うため朝7時に起床し、夜10時に就寝というのが三島の基本生活となった<ref name="noki"/>。撮影期間中は[[禁酒]]もした<ref name="noki"/>。
[[劇作家]]でもある三島は、[[文学座]]や[[俳優座]]で何度も俳優たちの稽古に立ち会い、自身もちょっとした端役で舞台に立ち、[[文士劇]]にも何度も出たりしていたため、[[素人]]ながらも多少は演技の経験や自信もあった<ref name="sato14"/><ref name="yama"/>。しかし撮影に入ると、勝手が違う映画撮影で上手くいかない三島の演技は何度もテストが繰り返され、OKがなかなか出されず、初日から「三島さん、あんた、まるで[[猿]]のようだね！」と増村監督の檄が飛んだ<ref name="kawas7"/><ref name="gai7"/><ref name="sato14"/>。
{{Quotation|私は何か病気なのではないか？ [[カチンコ]]が鳴つても一向ドキドキしないのである。これは何か[[心臓]]に欠陥があるのではないか？ もつとも今のところは、演技なんてものではなく、監督さんが「頭をかけ」といふところで頭をかき、「[[ウィンク]]をしろ」といふところでウィンクをする[[人形]]にすぎない。人形といつてもあんまり可愛い人形ではないが。今自分が[[誘拐]]しようといふ子供にウィンクするところでは、内心困つた。私は昔からウィンクができないのである。ウィンクしようと思ふと、両目をつぶつてしまふのだ。これも何かの病気だらう。|三島由紀夫「出演の弁」<ref>「出演の弁」（[[週刊現代]] 1960年2月28日号）。{{Harvnb|映画論|1999|p=296}}、{{Harvnb|31巻|2003|p=394}}に所収</ref>}}
[[菊島隆三]]のオリジナル脚本では、主人公は[[石原裕次郎]]のようなタフな人物像であったが、増村監督はその役柄を不器用な三島の演技に合わせ、「二代目だけど、気が弱くて、腕力がなくて、組の存続も危ぶまれる、気がいい男」という性格に変えることにし、脚本を手直しすることになった<ref name="kakomi"/><ref name="yama"/><ref name="haiyu"/>。
{{Quotation|[[シナリオ]]ではヤクザの二代目朝比奈は剛健で利発な男になつてゐたのだが、間のびしたぼくの仕草やセリフではどうしてもその味が出せないのだ。そこで困り抜いた監督はさつそくぼくを間が抜けて、[[喧嘩|ケンクヮ]]も気も弱いヤクザに作り変へてしまつた。作り変へてはじめてなんとか見られるやうになつた。これなど監督の前では、完全に[[オブジェ]]に過ぎないぼくだつたわけだ。|三島由紀夫「映画俳優オブジェ論」<ref name="haiyu"/>}}
[[芸術家]]肌で[[職人]]気質の増村監督は、一つの作品としての『からっ風野郎』を自分の納得できるものにしたかった<ref name="yama"/><ref name="kakomi"/>。三島のキャラクターに合わせた脚本に作り変えたことは、結果的に映画としてそれなりに良いものが出来上がることになっていく<ref name="haiyu"/><ref name="kakomi"/>。それは増村監督だからこそ出来た技であり、「限りなく無教養な男」という三島の希望に沿いつつ、作品と三島の素材を生かした選択であった<ref name="kakomi"/>。
撮影が進むにつれ三島は、「とにかく映画俳優というものは大変な商売で、単なる素材では、やり通せるものではない」ことが分かっていき、「[[演劇]]と映画の演出の違ひ」を実感として理解していった<ref name="haiyu"/>。撮影に入る前の三島は、「映画俳優は極度にオブジェである」として、俳優の演技は「いちばん[[行動]]から遠いもの」であり、意思を持たない完全な[[客体]]だと思っていたが<ref name="objet"/>、実際に映画俳優というものを体験してみると、そんな単純なものでもなかった<ref name="haiyu"/>。
しかしながら、主役の三島の素材に合わせて脚本が作り変えられたことなど、自分自身に限って言えば、増村監督の前では「完全にオブジェに過ぎないぼく」を味わった三島だった<ref name="haiyu"/>。
{{Quotation|映画スターは単なるオブジェに過ぎないなどと広言して[[舞台機構|セット]]入りしたぼくだが、この考へは間違つてゐたやうでもあるし、間違つてゐなかつたやうでもある。間違つてゐたといふことからいへば、とにかく映画俳優といふものは大変な商売で、単なる素材では、やり通せるものではないといふことだ。共演した[[船越英二]]さんや[[若尾文子]]さんの演技を見てくれれば、それはわかるといふものだ。<br />そしてぼくの場合に限つていへば、間違つてゐなかつたといふことの方が本当だし重要だ。（中略）ともかく今度の映画出演で、ぼくはぼくのもつてゐる[[性格]]とか[[気質]]の側面をはしたなくもさらけ出したことになつた。これはふだん[[私小説]]を軽視してゐるぼくが、とんでもないところで私小説的なものを露呈した格好になつたわけで、まづは苦笑といつたところだ。|三島由紀夫「映画俳優オブジェ論」<ref name="haiyu"/>}}
撮影は、調布市の多摩川大映撮影所のセットのほか、[[中野区|中野]]の[[宝仙寺]]（雲取大親分が招待した[[法事]]のシーン）、[[渋谷区|渋谷]][[桜丘町 (渋谷区)|桜丘]]の[[リキ・スポーツパレス|リキパレス]]（[[力道山]]が経営）の横の[[産婦人科医]]院、[[京王遊園|多摩川京王遊園地]]などでロケが行われた<ref name="kawas7"/><ref name="ichiran">[http://www3.tky.3web.ne.jp/~taqueshi/mishimafilmlist.htm 三島由紀夫原作・出演映画一覧]</ref>。
撮影所やロケ現場には三島を激励するために、[[川端康成]]や[[岸田今日子]]<ref>[[岸田今日子]]「三島さんの思い出」（ユリイカ 1986年5月号）。{{Harvnb|岡山|2016|p=39}}</ref><ref name="inuzu"/><ref name="bijo1"/><ref>[[川端康成]]が見学に来た写真は{{Harvnb|アルバム|1983|p=68}}に掲載</ref>、[[背広]]姿の[[市川雷蔵 (8代目)|市川雷蔵]]なども見学に来た<ref name="suki">[[志津野要子]]「わたしの好きな[[市川雷蔵 (8代目)|雷蔵]]映画――『[[剣 (小説)|剣]]』」（{{Harvnb|石川|2008|pp=247-249}}）</ref><ref name="oonishi">[[大西望 (学者)|大西望]]「市川雷蔵の『微笑』――三島原作映画の市川雷蔵」（{{Harvnb|研究2|2006|pp=85-93}}）</ref>。川端康成は予告篇の撮影にも参加した（実際には使用されず）<ref name="gai7"/>。
==== 増村監督のしごき ====
[[増村保造]]は元々俳優に厳しく[[毒舌]]家の監督であったが、三島に対するしごきはさらに苛烈で、容赦なくズバズバと下手な演技を貶した<ref name="kawas7"/><ref name="kakomi"/><ref name="yama"/>。そのしごき方は全く手加減などなく、三島が有名作家だからといってお客様扱いや旦那芸として見逃すという甘い考えは増村にはなかった<ref name="masu"/><ref name="kakomi"/>。監督を引受けたからには、同級生の三島が世間から笑われないような芝居にしなければ駄目だと、増村監督は見かねた藤井浩明にも言っていた<ref name="masu"/><ref name="kakomi"/>。
しかしながら、その演技指導のやり方はスタッフの予想をはるかに上回り、「[[いじめ]]」や「いびり」にも見えた<ref name="kawas7"/><ref name="gai7"/><ref name="sato14"/>。新人として丁寧に挨拶をし、撮影現場でも腰を低くしている三島に対し、演技が下手だからといって、生活能力や身体能力を否定するかのような[[パワハラ]]の酷い暴言を増村監督は浴びせていた<ref name="kawas7"/><ref name="gai7"/><ref name="sato14"/>。
{{Quotation|「俺はあいつと同級生だからあれくらいやったんだ」って言うけど、そうじゃなくても増村はかなりうるさいですからね。「三島さん、何ですか！ その芝居は！」って感じで。「三島さん、あなたのその目はなんですか？ [[魚]]の腐ったような目をしないでください！」って酷いことを言う。[[花形|スター]]に言っちゃいけないようなことを、バンバン言う。皆、ハラハラするんですよ。|[[藤井浩明]]「映画製作の現場から」<ref name="kakomi"/>}}
しかし三島は増村監督の口汚い罵倒に耐えながら黙って従い、弱音を吐くことなく1人の俳優に徹していた<ref name="kawas7"/><ref name="wakao">[[若尾文子]]（[[白井佳夫]]との対談）「わが非凡なる監督たち」（別冊[[文藝春秋 (雑誌)|文藝春秋]] 1996年春号）。{{Harvnb|山内|2012|p=277-280}}、{{Harvnb|岡山|2014|p=49}}、{{Harvnb|岡山|2016|pp=38-39}}</ref>。監督として俳優の自分に真剣勝負を挑んでいることを感じていた三島は、どんな屈辱的な言葉でボロクソに貶されても、途中で投げ出すことはなかった<ref name="kakomi"/><ref name="yama"/>。藤井浩明は、「三島さんは偉かった。あれ、普通だったら喧嘩しますよ」と振り返っている<ref name="kakomi"/>。
共演者の[[水谷良重]]は三島と古くからの友人でもあったため、「先生、何故いわれっぱなしにしてるのよ。先生がやんなきゃ、私が代わりに喧嘩しようか？」と耳打ちするが、三島は、「いいんだよ、これで。増村はぼくと同級生だったから、威張りたいんだよ」と制して、良重との[[濡れ場]]を撮り終えた<ref>[[水谷良重]]『あしおと 人生半分史』（[[読売新聞社]]、1991年10月）。{{Harvnb|岡山|2014|p=40}}</ref><ref name="gai7"/>。
相手役の[[若尾文子]]は、増村監督から暴言を言われている時の三島が気の毒で、その顔も見られなかった<ref name="wakao"/><ref name="wakao2">若尾文子（[[中村伸郎]]・[[松浦竹夫]]・藤井浩明・[[葛井欣二郎]]・[[丸山明宏]]との座談会）「あの人はもういない」（週刊現代 1970年12月12日・増刊 三島由紀夫緊急特集号）。{{Harvnb|川島|1996|pp=151-153}}、{{Harvnb|岡山|2014|p=49}}、{{Harvnb|岡山|2016|p=42}}</ref><ref name="bijo1"/>。自分の出番がない時にはセットの隅で三島さんのシーンが無事にいきますようにと若尾は祈っていた<ref name="wakao"/><ref name="wakao2"/><ref name="kawas7"/><ref name="gai7"/>。
{{Quotation|増村さんてそういう人ですけど、私の見た範囲ではあんなのはちょっとないですね。私はほんとに、もう嫌でしたね。陰で祈っていたわ。普通の人だったら、並みの俳優だったら、もう辞めてますね。だけど、私はあのときの三島さん、ああえらいなあと思ったわ。|[[若尾文子]]（[[中村伸郎]]・[[松浦竹夫]]・藤井浩明・[[葛井欣二郎]]・[[丸山明宏]]との座談会）「あの人はもういない」 <ref name="gai7"/><ref name="kawas7"/>}}
撮影風景を取材した[[週刊誌]]の取材記者も、ワンカットに15回も三島にNGを出す増村監督の「罵詈雑言」を具体的に書き連ね、「[[文壇]]の寵児として、一段と高い流行作家の地位にあった三島氏には、ついぞ見られなかった光景である」と報じたりした<ref name="yomi">「怒られてばっかり／新人・三島由紀夫」（[[週刊読売]] 3月13日号）。{{Harvnb|山内|2012|pp=277-278}}</ref><ref>「その後の三島由紀夫――ボクはマナイタの鯉だ」（[[週刊平凡]] 1960年3月9日号）。{{Harvnb|山内|2012|p=277}}</ref>。その記者が三島に、「あんなヒドい言い方をされてなんでもないんですか」と訊ねると、「当り前ですよ。だってボクは俳優としてはまったくシロウト」と三島は答えて、監督の言いなりになることを当然と受け止めていた<ref name="yomi"/><ref name="yama"/>。
[[ベストセラー]]の『[[永すぎた春]]』を担当した[[講談社]]の三島担当編集者・[[川島勝 (編集者)|川島勝]]も、『永すぎた春』の映画がヒットしたことから、縁起担ぎのためか[[エキストラ]]の端役（雲取一家の大親分の三下やくざ役）に駆り出されていて{{refnest|group="注釈"|その後に川島は、自分の[[エキストラ]]出演の理由が、知った顔の友人がそこいらにチラホラいた方がいいだろうという藤井浩明の、主役の三島の緊張を和らげるための細やかな配慮だったことを知ったという<ref name="kawas7"/>。}}、三島と若尾が[[産婦人科]]のシーンを演じているのを直接見学していた<ref name="kawas7"/>。増村監督から「タイミングが合わない」と何十回もダメ出しされ面罵される三島を見かねたスタッフらが、「いいかげんにしてくれ」と増村を制する一幕を川島は目撃した<ref name="kawas7"/>。だんだんスタッフたちは三島に同情を寄せるようになっていた<ref name="kawas7"/><ref name="kakomi"/>。
三島と同じ[[文学座]]にいた俳優の[[中村伸郎]]は、その頃の三島が演技を向上させようと一生懸命だったことを、「三島さんは、何とかしなくちゃいけないってんでね。あした撮影という場面をうちへ来て稽古してくれっていうんですよ。[[果物]]なんか持ってきてね」と回想している<ref name="wakao2"/><ref name="kawas7"/>。[[村松英子]]も、「演技っていうことが得意でないってことを自分でご存知でね。でも敢えてそれに挑んでいらっしゃった」と振り返っている<ref name="kawas7"/>。
==== ラストシーンでの事故 ====
大詰めを迎えたラストシーンの撮影では、[[数寄屋橋]]の[[西銀座デパート]]の[[三愛]]洋品店前でロケが行われた<ref name="yama"/><ref name="ichiran"/>。3月1日の深夜ロケでは、[[エスカレーター]]の上で殺し屋に撃たれる朝比奈役の三島が、仰向けに倒れたまま逆様の状態で[[死体]]となってエスカレーターで運ばれていくというクライマックスのシーンの撮影だった<ref name="yama"/><ref name="kakomi"/>。
三島はいつものように20回以上もテストを繰り返しやらされていた<ref name="kawas7"/>。増村監督と三島の両者とも「鬼気迫る」ほどの熱心ぶりで、三島は疲労困憊の状態でもあった<ref>「三島由紀夫が負傷」（スポーツニッポン 1960年3月2日号）。{{Harvnb|山内|2012|p=280}}</ref><ref name="kawas7"/>。しかし、当時としては斬新なこのシーンの脚本を三島はとても気に入っていた<ref>「三島インタビュー」（[[東京新聞]]夕刊 1960年2月2日号）。{{Harvnb|山内|2012|p=279}}</ref><ref name="yama"/>。
殺し屋役の[[神山繁]]は、「三島さんね、もっとパーンと派手に倒れなきゃ駄目だよ」とアドバイスした<ref name="kakomi"/><ref name="yama"/>{{refnest|group="注釈"|藤井浩明が後に[[神山繁]]に、「あんたが余計なことを言うから」と注意をすると、「いや、俺はあそこまでやるとは思わなかったから」と弁解したという<ref name="kakomi"/>。}}。三島はそれを素直に聞き入れ、本当に思いっきり倒れて足を踏み外してしまい、もろに右後頭部をエスカレーターの段の角に強打し大怪我をした<ref name="kakomi"/><ref name="yama"/>。[[脳震盪]]を起こした三島はすぐさま[[虎の門病院]]に救急搬送されていった<ref name="yama"/>。びっくりした[[若尾文子]]は、「何かあったらどうしよう」と震えてしまった<ref name="wakao"/>。
{{Quotation|ゴツンも何も、とにかく仰向けに、ほんとに倒れちゃったんですから。三島さんは、それまでセットでどんなことがあろうと、さすがやっぱり大作家、笑ってらしたのね。けっして嫌な顔をしたり、増村さんと口論したり、なんてことはなかった。（中略）だけど、その倒れた瞬間、やっぱりご自分でしまったと思ったんでしょうね。顔色が変わったんですよ。それで初めてご自分のいままでの積もり積もったものが、パーッと出て。|[[若尾文子]]（[[白井佳夫]]との対談）「わが非凡なる監督たち」<ref name="wakao"/>}}
事故の知らせを聞いて病院に駆けつけた三島の父・[[平岡梓|梓]]は、「君たち、息子の頭をどうしてくれるんだ！」と激怒して怒鳴っていた<ref name="kawas7"/>。藤井浩明が「三島さんすみませんでした」と謝ると、三島は[[脳]]に支障が出るか不安だったのか「ムスッと」黙ったままだったという<ref name="kakomi"/>。以前、三島に[[ボクシング]]練習をやめた理由を聞いた時、「頭殴られたらね、頭がおかしくなっちゃうから。本業が出来なくなるから」と答えていたことを藤井は思い出した<ref name="kakomi"/>。翌日3月2日には増村監督も三島を見舞った<ref name="nenpu35"/>。
三島は[[レントゲン]]で精密検査を受け、10日間ほど入院することになった<ref name="kakomi"/>。検査結果が出るまで不安だったが、不幸中の幸いで特に問題はなかった<ref name="kakomi"/>。事故を見ていた藤井は、「よくあれで済んだものです」と回想している<ref name="kakomi"/>。一般見舞いの面会禁止が解かれた3月8日には、以前からファンだったという女優の[[宮川和子]]が見舞にやって来た<ref name="yama"/>。その様子を取材した[[報知新聞]]に、「頭を打ったとたんに“映画的[[腫瘍]]”みたいなものがとれちゃったんだな。もう映画はコリゴリ」と三島は談話を寄せた<ref name="yama"/>。
友人の[[ロイ・ジェームス]]が見舞に来ると三島は、「増村を殴ってきてくれよ、ロイ！」と駄々っ子のように喚いたという<ref name="yuasa">「三島由紀夫と『[[鏡子の家]]』秘話」（{{Harvnb|湯浅|1984|pp=105-128}}</ref><ref name="kakomi"/>。そんな陽気な冗談半分の軽口も飛ばせるほど、三島は元気に回復していた<ref name="kakomi"/>。怪我が落ちつき3月10日に退院すると、三島は早速11日に撮影所に戻って[[アフレコ]]をし、12日から残りのシーンの撮影に再び入った<ref>「三島、元気に撮影所」（スポーツニッポン 1960年3月12日号）。{{Harvnb|山内|2012|p=281}}</ref><ref name="yama"/><ref name="nenpu35"/>。
3月14日の午後9時半から行われた夜間ロケのラストシーンの撮り直しの際には、[[永田雅一]]社長や脚本の[[菊島隆三]]も監視役で立ち会い、万全体制であった<ref name="last">「社長立ち会いで無事に死ぬ――『からっ風野郎』銀座ロケ／ホッとした三島由紀夫」（東京新聞夕刊 1960年3月15日号）。{{Harvnb|山内|2012|p=281}}</ref><ref name="yama"/><ref name="kakomi"/>。2度と事故を起こしてはならないというピリピリした雰囲気がスタッフの間に漂い、神山繁ももう三島に何も言わなかった<ref name="kakomi"/>。三島が演技をする前には、増村監督や助監督が危なくないか試してみるほど慎重に行われた<ref name="last"/><ref name="yama"/>。
この夜間ロケは午前0時過ぎまでかかり、無事にラストシーン撮影が終わった。これで『からっ風野郎』の撮影が[[クランクアップ]]となった<ref name="last"/><ref name="yama"/><ref name="nenpu35"/>。35日間にわたる全ての演技を終えた三島は、「“やくざ[[ぼんち]]”みたいな役柄」が自分の個性に合っていたのは幸いだったが、ラッシュを見ると自分のみじめさが目立ち、もう映画出演はもうコリゴリで「ブルブルですよ」とコメントした<ref name="last"/><ref name="yama"/><ref name="gomen">「俳優はもうゴメン？“三島由紀夫の演技”自己批判」（週刊読売 1960年3月27日号）。{{Harvnb|山内|2012|pp=283-285}}</ref>。
{{Quotation|それが、ぜんぜん新しい三島由紀夫がないんだ。やはり、これもオレなんだなと思う。ただフィルムの上の三島由紀夫は実にかわいいな。一生懸命やってやがるな、せまいワクの中でムキになってやがるな。……ちょうど、息を切らして走っている[[マラソン]]走者を見る感じて、かわいそうになったくらいだ。|三島由紀夫「俳優はもうゴメン？“三島由紀夫の演技”自己批判」<ref name="gomen"/>}}
==== 幻の予告篇 ====
『からっ風野郎』の予告篇の撮影には、三島の敬愛する[[川端康成]]までもが駆り出されていた<ref name="gai7"/>。この出来上がったフィルムは三島の申し入れにより[[お蔵入り]]になったが、以下のような台詞のやり取りであった<ref name="gai7"/>。
{{Quotation|川端康成：お前さんは、[[永田雅一|永田社長]]の「[[網]]にかかった[[魚]]」だよ。<br />
三島由紀夫：魚は魚でも、「腐っても[[鯛]]」になりたいですね。今の私は、「[[まな板]]の上の[[鯉]]」に似ています。<br />
川端康成：「まな板の上」でも、[[若尾文子|若尾さん]]みたいに綺麗な魚と一緒に料理されるんなら、幸福じゃないか。|「『からっ風野郎』予告篇」<ref name="gai7"/>}}
なお、1960年（昭和35年）2月19日には、[[TBSラジオ|ラジオ東京]]の放送番組「ラジオ・スケッチ」で『からっ風野郎』の撮影の模様が放送された<ref name="nenpu35"/>。
==== スチール写真 ====
三島由紀夫の「俳優宣言」の[[記者会見]]の後、その会見の模様を写真入りでまとめた『[[大映グラフ]] 新春特大号』（1960年1月号）と、映画パンフレットなどに使用された[[スチル写真|スチール写真]]や[[ロビーカード]]、撮影現場に来た[[川端康成]]の写真などが多数掲載された『大映グラフ 陽春特大号』（1960年4月号）が刊行された<ref name="inuzu"/>。他にも『[[毎日グラフ]]』2月号には、撮影風景の写真が収められた<ref name="inuzu"/>。
三島の[[ブロマイド]]写真も3種類、東京[[浅草]]の[[マルベル堂]]で販売された<ref name="inuzu"/>{{refnest|group="注釈"|[[2006年]]（平成18年）時点でも[[マルベル堂]]では当時と同じ[[ブロマイド]]写真が1枚350円で売られていた<ref name="inuzu"/>。}}。三島は当時このブロマイド写真を[[絵葉書]]として知人の[[西久保三夫]]に送り、撮影が終わったことの報告と共に「ぜひ御覧の上御批評賜はり度」と記している<ref>「[[西久保三夫]]宛ての葉書」（昭和35年3月14日付）。{{Harvnb|38巻|2004|p=752}}に所収。葉書の現物写真は{{Harvnb|研究2|2006|p=140}}に掲載</ref><ref name="inuzu"/>{{refnest|group="注釈"|[[西久保三夫]]（[[1917年]]-[[1993年]]）は、当時[[東宝]]に勤務していた人物で、[[岩波ホール]]や[[博品館劇場]]勤務を経て[[1983年]]（昭和58年）に雑誌『ミュージカル』を創刊し、「三浦時彦」の筆名で劇評を書いた<ref>井上隆史「解題――西久保三夫」（{{Harvnb|38巻|2004|p=997}}）</ref>。}}。他には、ロケ現場で女子高生たちに囲まれてサインをしている自然体の三島を捉えたプライベート写真（撮影：講談社の[[川島勝 (編集者)|川島勝]]）などもある<ref name="inuzu"/><ref>女子高生に囲まれサインに応じている写真は{{Harvnb|研究2|2006|p=143}}に掲載</ref>{{refnest|group="注釈"|川島勝が撮影した三島がファンにサインしている写真は、『三島由紀夫大鑑』（[[評論社]]、1971年1月）や『三島由紀夫展図録』（[[神奈川近代文学館]]、2005年）に掲載されている<ref name="inuzu"/>。}}。
新聞広告には、素肌に黒[[ジャンパー (衣服)|革ジャン]]を着て右手に[[拳銃]]を持ち、銃弾に撃たれた脇腹を左手で押さえながら前を睨んでいる三島の決めポーズの写真が掲載され<ref name="yama"/>、街には、[[若尾文子]]を抱擁する黒革ジャンの三島の映画ポスターが張り出された<ref name="bijo1"/>。
なお、雑誌『[[講談倶楽部]]』4月号では、三島が主人公の朝比奈武夫になりきって「オレ」という[[一人称]]で映画のストーリーを語っていく「『からっ風野郎』の情婦論」という文章も掲載され、「オレはなんだか、このメチャクチャな女のバカバカしい純情の中で、[[流行歌]]や[[純愛]]小説の主人公のやうな最後を遂げさうな気がする」と武夫の末路を綴っている<ref name="jofu"/><ref name="yama"/>。映画上演記念として、蓋が赤で本体が黒の[[ライター]]も宣伝用に配られたという<ref name="kawas7"/>。
映画公開から44年後の[[2004年]]（平成16年）には、未発表写真20枚分とその[[ネガ]]20枚（全[[モノクロ]]・[[35ミリ]]）が明治古典会[[七夕]]大[[競争入札|入札]]会において出品され、[[コレクション|コレクター]]の[[犬塚潔]]が手に入れた<ref name="inuzu"/><ref>現物写真やネガフィルムの写真は{{Harvnb|研究2|2006|pp=139,147-151}}に掲載</ref>。
その箱には「三島由紀夫」と書かれ、撮影者の[[田島正]]の経歴書や連絡先が添えられてあった<ref name="inuzu"/>。田島の話では、撮影日は1960年（昭和35年）2月の快晴の日で、雑誌『映画と演劇』（[[時事世界社]]、1960年4月号）に載せるため撮影されたものであった<ref name="inuzu"/>。三島が[[ピストル]]を持っているシーン、[[ビール]]を飲むシーン、椅子に座っているシーン、階段を下りてくるところ、春の日射しを受けて笑顔の写真である<ref name="inuzu"/>。
発売された雑誌『映画と演劇』には8枚の写真が掲載されているが、その中の3枚が未発表写真の内のものと同じため、厳密にいえば17枚分が未発表写真となる<ref name="inuzu"/>。田島は当時、時事世界社に頼んで使用されたネガフィルムを返却してもらい、保存していた<ref name="inuzu"/>。黒革ジャン姿の三島は、田島のカメラの注文に素直に応じて、自らポーズをとることはなかったという<ref name="inuzu"/>。
=== 主題歌 ===
主役の三島由紀夫が歌唱した主題歌「からっ風野郎」の[[レコード]]は、1960年（昭和35年）3月20日に[[キングレコード]]から発売された<ref name="nikusei">山中剛史「音声・映像資料――肉声資料」（{{Harvnb|42巻|2005|pp=891-899}}）</ref><ref>ジャケット写真は{{Harvnb|研究2|2006|p=143}}、{{Harvnb|41巻|2004}}ブックレットp.13に掲載</ref>。[[文学者]]の歌唱レコードが前代未聞だったため、新聞や週刊誌などで話題となった<ref name="sato14"/>。三島は、「[[毒]]を喰わば皿までもでネ、まア皆さんに[[悪口]]をいってもらうネタを一つ多く提供しようという私の親心です」とコメントしている<ref name="inuzu"/>。しかし主題歌は、映画の中では使用されておらず、いくつかのシーンでかすかに流れるのみとなっている<ref name="yama"/>。
[[作詞]]も三島で、作曲と[[ギター]]演奏は[[深沢七郎]]が担当した<ref name="nikusei"/><ref name="gai9">「九 『風流夢譚』事件の余波」（{{Harvnb|岡山|2014|pp=59-65}}）</ref><ref>「からつ風野郎」（原題は[[旧仮名遣い]]）の歌詞は{{Harvnb|映画論|1999|pp=307-308}}、{{Harvnb|37巻|2004|p=773}}に所収</ref>。深沢の方から作曲したいと三島に頼み込んだ経緯があった<ref name="fuka">[[深沢七郎]]「三島由紀夫論」（若い女性 1960年4月号）。{{Harvnb|岡山|2014|pp=60-61}}</ref>{{refnest|group="注釈"|三島由紀夫と[[深沢七郎]]は、三島が深沢のデビュー作『[[楢山節考]]』を高評価して新人賞に推薦したのを機に知り合い、深沢は三島のことを、「三島由紀夫先生」と呼び、「雲の上の人のような高貴な」存在と崇めていた<ref name="fuka"/><ref name="gai9"/>。2人は1959年（昭和34年）12月4日に行われた深沢の『[[東京のプリンスたち]]』の出版記念会の檀上で一緒に歌うなど、当時親しく交流していた<ref name="gai9"/><ref>『[[東京のプリンスたち]]』の出版記念会の檀上で一緒に歌う深沢七郎と三島の写真は{{Harvnb|アルバム|1983|p=47}}、{{Harvnb|年表|1990|p=136}}に掲載</ref>。}}。曲が完成したのは[[クランクイン]]の2月8日で、16日に[[文京区]][[音羽]]のキングレコードで吹き込まれた<ref name="nenpu35"/>。そのレコードを三島は知人にサイン入りで配っていた<ref name="kawas7"/>。
== あらすじ ==
昭和30年代の東京。
東京刑務所内の庭で111番の出所祝いの[[バレーボール]]大会
命を狙われた朝比奈一家の二代目の武夫は、なんとかその日に予定どおり出所した。殺し屋を仕向けたのは朝比奈一家と反目する新興[[ヤクザ]]「相良商事」の社長・相良雄作であった。そもそも武夫が2年7か月間も服役したのも、父の復讐で相良の足を刺したためだった。大怪我し後遺症を負った相良は武夫のことを個人的に恨んでいた。
出所した武夫は先ず、情婦の[[キャバレー]]歌手・香取昌子と[[映画館]]の2階にある部屋で落ち合った。昌子を抱き終わると武夫は非情にも、手切れ金代わりだと昌子の[[ネックレス]]を奪い取り、さっさと彼女と手を切った。命を狙われている武夫に女はお荷物だったからだった。この映画館「コンパル」は朝比奈一家が支配人となっていて、2階は武夫の隠れ家だった。
映画館「コンパル」には武夫が初めて見るもぎり（切符係）の女・小泉芳江が働いていた。武夫は芳江から、「[[親分]]なのにちっとも怖くないもん」と言われた。ある日、芳江は町工場に勤める兄・正一に弁当を届けにいき、[[ストライキ]]にまきこまれ、そのまま[[留置所]]に拘束された。
武夫の[[叔父]]・吾平は、相良を殺して来いとハジキ（拳銃）を武夫に渡した。そして相良との対決の機会が訪れた。大親分雲取大三郎からの[[法事]]の招待状が両者に届いたのだ。ところが当日、寺には相良はいなかった。それを知り武夫が帰ろうとしたところを、跡をつけた殺し屋・[[喘息|ゼンソク]]の政の銃弾が襲った。しかし、政がゼンソクの発作を起し弾丸が外れたため、武夫はなんとか左腕を射たれただけで済んだ。
留置所から出てきた芳江が、武夫がいる隠れ家「コンパル」の2階にやって来た。もぎり職を解雇されていた芳江は、再び映画館で雇ってくれと頼みこんだ。武夫がダメだと断り退職金を渡そうとすると、雇ってくれないと居場所をバラすと脅した。怒った武夫は無理やり芳江を[[強姦|手籠め]]にし、事の後「こうなったのもお前が好きだったからさ」と言い、それを機に2人は付き合うようになった。
ある日、2人が[[遊園地]]から出たとき、武夫は相良の幼い娘・みゆきを偶然見つけて[[誘拐]]した。そして相良一家が[[製薬|薬品会社]]から金をゆすろうとして手に入れたブツ（[[治験]]で死人が出て問題のある[[新薬]]）をよこせと相良に要求した。しかしその取引の待ち合わせ場所の東京駅[[八重洲]]口の構内には、朝比奈一家と相良と繋がりのある大親分雲取が仲介で登場し、薬の儲けは折半して両者手打ちにしろと命令した。武夫と相良はそれで一旦収めた。しかし相良は半分になった儲けのさらに半分を、雲取に仲介料として取られるはめになった。
芳江が[[妊娠]]した。武夫は、命を狙われている自分に子供ができると面倒なことになるから堕ろせと命じるが芳江はきかなかった。[[産婦人科]]に連れて行ったが抵抗され、帰り際、2人は昌子と鉢合わせした。自分と芳江との仲を昌子が相良に密告することを察知した武夫は、芳江を安全なところへ匿った。どうしても産むと言って聞かない芳江に根負けした武夫は、彼女と[[世帯]]を持つ決意をする。
そんな折、相良が芳江の兄を監禁して、朝比奈一家が取引で儲けた金で経営を始めた[[トルコ風呂 (性風俗)|トルコ風呂]]の権利をよこせと脅してきた。芳江の身にも危険を感じた武夫は、[[九州]]の芳江の田舎へ身をかくすように命じた。武夫は[[舎弟]]で親友の愛川に、トルコ風呂の権利をくれと相談するが揉め、相良一家にピストル一丁で単身乗り込もうとする。愛川は無謀な武夫を諌め、トルコ風呂の権利書を相良に渡し、芳江の兄を救った。
一件落着し、愛川の勧めで彼と一緒に[[大阪]]で[[堅気]]になることに決めた武夫は、出産のため里帰りする芳江を[[東京駅]]まで送りに来た。発車まで30分しかなかったが、武夫は「オレのガキに野暮なものは着せられねえ」と、生まれてくる[[赤ん坊]]の[[産着]]を買いに、構内の[[デパート]]に走った。
しかし、売り場で待ち伏せしていたゼンソクの政に武夫は捕まり、その場で後ろから撃たれた。武夫はデパートの[[エスカレーター]]の上に転げ倒れた。武夫は必死にもがいて上りエスカレーターを下りようとするが絶命し、人垣の中、エスカレーターは武夫の死体を乗せ静かに上昇していった。
== キャスト ==
出典は<ref name="filmo">「三島由紀夫関連作品フィルモグラフィー 『からっ風野郎』」（{{Harvnb|映画論|1999|p=664}}）</ref><ref name="staff">{{Harvnb|DVD|2007}}キャスト・スタッフロール</ref>
{{Columns-list|2|
*朝比奈武夫：[[三島由紀夫]]
**主人公。つぶれかけている[[ヤクザ]]の朝比奈一家の二代目。
*小泉芳江：[[若尾文子]]
**武夫の隠れ家の[[映画館]]「コンパル」で働いていた娘。武夫を一途に愛し、妊娠する。
*愛川進：[[船越英二]]
**朝比奈一家の[[舎弟]]。武夫の兄弟分で親友。先代の親方に[[大学]]まで出させてもらい恩義を感じ、武夫の面倒を何かと見ている。実は[[堅気]]になろうとしている。
*平山吾平：[[志村喬]]
**武夫の叔父貴。先代の武夫の父亡き後、朝比奈一家を取り仕切っていた。相良を殺してこいと武夫に発破をかけハジキ（[[ピストル]]）を渡す。その武夫の身代わりには自分が[[刑務所]]に入ると意気込んでいたが、病身のため間もなく死去。
*小泉正一：[[川崎敬三]]
**芳江の兄。町工場で働いている。[[赤旗]]を振り[[労働争議]]の活動している。
*高津綾子：[[小野道子]]
**愛川進の恋人。朝比奈一家の向かいで高津[[薬局]]を営む[[薬剤師]]。親戚の誘いで[[大阪]]に転地しようとしているが、そこで愛川と[[世帯]]を持ちたいと考えている。
*香取昌子：[[水谷良重]]
**武夫の[[情婦]]だった[[ナイトクラブ]]「カナリア」の歌手。バナナの歌を歌う。
*相良雄作：[[根上淳]]
**新興ヤクザ相良商事の社長。朝比奈一家と反目している。武夫に足を刺され後遺症が残り、それを根に持っている。
*雲取大三郎：[[山本礼三郎|山本禮三郎]]
**雲取一家の大親分。朝比奈一家とも相良とも繋がりがある。2人の間の取引仲介で漁夫の利を得る。
*川瀬：[[三津田健]]
**刑務所の所長。武夫から出所の延期を頼まれ断るが、隠密に出所させる計らいをしてやる。
*ゼンソクの政：[[神山繁]]
**相良に雇われた殺し屋。[[喘息]]の持病がある。
*金沢：[[潮万太郎]]
**朝比奈一家に出入りしている酔っ払いおやじ。
*淀川：[[浜村純]]
**もぐりの[[医者]]（闇医者）。[[薬物中毒]]。怪我をした武夫の治療をする。
*錦貫：[[杉田康]]
**相良の舎弟。
*赤間：[[高村栄一]]
**相良の舎弟（年長者）。ゼンソクの政とは[[網走刑務所]]で知り合った。
*相良みゆき：[[矢萩ふく子]]
**相良の娘。小学1年生。武夫に誘拐される。
*村田：[[倉田マユミ]]
**[[産婦人科学|産婦人科]]・村田医院の医者。
*半田三郎：[[小山内淳]]
**殺す相手の顔も知らない殺し屋。武夫と間違えて別の囚人112番を射殺し逮捕される。
*「カナリヤ」のマスター：[[守田学]]
**武夫が刑務所にいる間にできた昌子の新しい情夫。
*益子：[[伊東光一]]
*岩崎：[[花布辰男]]
*健次：[[飛田喜佐夫]]
*稲宮：[[杉森麟]]
*野沢：[[此木透]]
*五郎：[[土方孝哉]]
*山下：[[小杉光史]]
*法事の受付A：[[山口健 (俳優)|山口健]]
*法事の受付B：[[大塚弘 (俳優)|大塚弘]]
*相良のばあや：[[須藤恒子]]
*相良の運転手：[[津田駿二]]
*商店街の肉屋のおやじ：[[佐々木正時]]
ほか、[[三角八郎]]、[[南方伸夫]]、[[原田詃]]、[[中田勉]]、[[湊秀一]]、[[谷健一]]、[[大川修]]、[[黒川清司]]
}}
== スタッフ ==
出典は<ref name="filmo"/><ref name="staff"/>
{{Columns-list|2|
*監督：[[増村保造]]
*脚本：[[菊島隆三]]、[[安藤日出男]]
*撮影：[[村井博]]
*音楽：[[塚原哲夫]]
*美術：[[渡辺竹三郎]]
*色彩技術：[[西田充]]
*助監督：[[石田潔]]
*照明：[[米山勇]]
*録音：[[渡辺利一]]
*編集：[[中静達治]]
*装置：[[岡田角太郎]]
*スチール：[[薫森良民]]、[[野上透]]
*現像：[[東京現像所]]
*製作主任：[[大橋俊雄 (映画スタッフ)|大橋俊雄]]
*企画：[[藤井浩明]]、[[榎本昌治]]
*製作：[[永田雅一]]
}}
== 評価 ==
『からっ風野郎』は[[娯楽]]映画としてヒットし[[興行]]的には成功したが、[[三島由紀夫]]の[[素人]][[演技]]が浮き立っていたために、その演技力に対する酷評が集中し、[[増村保造]]監督の[[演出]]の腕の高さや他の共演者たちの好演が、三島の下手さをカバーしていたと評価された<ref name="sato14"/><ref name="yama"/>。初主演発表の[[記者会見]]から撮影風景、事故の[[入院]]騒ぎなど、お祭り騒ぎのように三島に好意的だった[[芸能]][[マスコミ]]だったが、映画が公開されると、期待とは裏腹な主人公役の演技には厳しかった<ref name="sato14"/><ref name="yama"/>。
[[日刊スポーツ]]は、「やっぱりシロウト」と評し<ref>「三島を生かした演出の計算」（日刊スポーツ 1960年3月23日号）。{{Harvnb|佐藤|2006|p=115}}</ref>、[[内外タイムス]]では「俳優三島は台詞は堅いし目も死んでいる」<ref>「やくざ稼業のむなしさ」（[[内外タイムス]] 1960年3月21日号）。{{Harvnb|佐藤|2006|p=115}}</ref>、[[東京中日新聞]]では、「作家三島のやくざぶりをたのしむほうがよい」とされ<ref>「三島由紀夫のやくざぶり」（[[東京中日新聞]] 1960年3月23日号）。{{Harvnb|佐藤|2006|p=115}}</ref>、[[デイリースポーツ]]では、「セリフが遅く、ヤクザらしい気迫の裏付けがない」<ref>「気迫ない三島」（[[デイリースポーツ]] 1960年3月25日号）。{{Harvnb|佐藤|2006|p=115}}</ref>、[[神戸新聞]]では、「まあ三島だからという点で、愛敬でみておれる程度」と評され<ref>「三島のご愛敬」（[[神戸新聞]] 1960年3月25日号）。{{Harvnb|佐藤|2006|p=115}}</ref>、総じて冷めた反応であった<ref name="sato14"/><ref name="yama"/>。
三島本人も、[[九段会館]]で行われた[[試写会]]において、「映画は不思議な[[芸術]]で、私の場合、[[文学]]の中では決して人前に出すことのない、私の中にある滑稽さ、哀れさ、臆病さなどの秘密を白日の下に曝らしてしまいました」と自身の「弱み」を見せてしまったことを自嘲しながら、「この映画が、いわばフィルムによって書かれた私自身の[[私小説]]」だと自評している<ref name="ogura">[[小倉真美]]「日本映画批評」（[[キネマ旬報]] 1960年4月号）。{{Harvnb|山内|2012|pp=290-291}}</ref><ref name="yama"/>。
[[小倉真美]]は、三島が自身と正反対の役と世界を醸し出すことを望んだにもかかわらず失敗したことについて、「映画の本質に対する三島の誤解と誤算にもとづく結果」だと解説し、三島の「不敵な[[顔|マスク]]の面白さ」と、その「マスクの魅力が動く映画では更に発揮されるかと予想」していたが、映画の進むにつれて期待が裏切られていったとしている<ref name="ogura"/><ref name="yama"/>。
そして、[[劇作家]]として[[直観]]力もあり、脚本を書き演出もする三島が、俳優となると、アクションと台詞の間に「なにか一ポイントの誤差が伴う」演技をし、「画面を支えられないほどのカンの悪さ」を見せてしまうことは皮肉だと小倉は評して、[[若尾文子]]の演技力の高さと三島の[[大根役者]]ぶりを比較し、「りきんで崩れる三島の稚技はまことに対照的で、[[玄人]]と素人の差を図式的に解説される思い」がしたとしている<ref name="ogura"/><ref name="yama"/>。
しかし好意的な評価もいくつかあり、三島が知的な作家とは正反対の思慮のないヤクザを、ある意味では好演し、意外な優しさを合わせ持つ乱暴者という複雑な[[キャラクター]]が醸し出されているという意見もあり<ref name="sato14"/><ref name="kusa">[[草壁久四郎]]「三島文学流の演技」（[[毎日新聞]] 1960年3月）。</ref>、[[草壁久四郎]]は、そんな三島の演技力を「三島文学流の演技」と褒めた<ref name="kusa"/><ref name="inuzu"/><ref name="gai7"/>。
{{Quotation|いわゆる[[名士]]の[[特別出演]]とちがって、これは[[作家]]という肩書をとりさって、三島のもつキャラクターを生かそうというねらい。三島が演ずるのは朝比奈武夫というヤクザ一家の若い二代目、お人好しで気が弱い、およそこの世界には不向きな男だが、ヤクザの家に生れたばかりに足がぬけないし、またそうしたことに疑問さえもたない。そんな男を三島がわりとうまく演じている。セリフもまずくしろうとっぽいが三島の[[文体]]をおもわせる演技だ。|[[草壁久四郎]]「三島文学流の演技」<ref name="kusa"/>}}
[[山内由紀人]]は、作品全体の映画評として、「シャープでテンポのいい演出で最後までだれることなく一気にみせた」ストーリー展開を褒め、「パワフルで緊迫感のある映像によって、やくざの二代目親分になった男の悲喜劇を、[[シニカル]]に、時に[[ユーモア]]をまじえて描いた」と、増村の手腕を高評している<ref name="yama"/>。そして、映画の中で動く「オブジェ」になるのを望みながらも、なりきれなかった三島が最も輝いていたシーンが、ラストの[[死体]]だったのは皮肉なことだとし、そこがまさに三島が「静止した〈オブジェ〉になった瞬間だった」と解説している<ref name="yama"/>。
[[井上隆史 (国文学者)|井上隆史]]は、三島が俳優になってみたい根拠として「自分の意志を他人にとられてしまつたやうな、ニセモノの行動」に非常に魅力を感じると語っていたにもかかわらず<ref name="objet"/>、実際の俳優体験では考えていたようにはスムーズに演技が出来ずに様々な誤算を実感していたことに触れながら、それでもその三島の苦闘ぶりと増村監督の演出が不思議に融合的な味を醸し出していることを、ある意味で評価している<ref name="inoue"/>。
{{Quotation|実際、「からっ風野郎」を鑑賞する人は、「自分の意志を他人にとられてしまつたやうな、ニセモノの行動」<ref name="objet"/>をする者としての[[オブジェ]]を見るわけではないのであって、下手ながら監督の命ずるままに必死で演技をしようとする三島、あるいは必死で演技をしてもやはり下手な三島の仕草や振る舞いが、否応なく眼に飛び込んでくるのである。<br />面白いのは、そういう三島の姿によって、弱気で知恵も足りないヤクザの生き様が思いがけなくリアルに表現されているようにも見えることだ。実のところそれは増村監督の計算の内だったかもしれず、この意味では「からっ風野郎」は増村映画の中でも異色の傑作と言いうるが、たとえ観客の何割かがそのように考えたとしても、三島本人にとって映画初主演の体験が深い傷になったことは拭い去りがたい。|[[井上隆史 (国文学者)|井上隆史]]「『三島映画』の世界」<ref name="inoue"/>}}
== 増村保造と三島由紀夫 ==
[[増村保造]]と[[三島由紀夫]]は、[[東京帝国大学]][[法学部]]の同期生で、[[1944年]]（昭和19年）に法学部25番教室で初めて出会った<ref name="masu"/><ref name="sato14"/>。特に親しい交友関係はないが、顔見知りであった<ref name="masu"/><ref name="yama"/>。増村と三島が初めて言葉を交わしたのは、戦争末期の[[1945年]]（昭和20年）5月から[[勤労動員]]された[[神奈川県]][[高座郡]]大和の[[海軍]]高座[[工廠]]の寮においてだった<ref name="masu"/><ref name="yama"/>。
{{Quotation|私が三島さんと初めて会ったのは昭和十九年十月、東大法学部二十五番教室の中であった。[[太平洋戦争]]が終る前の年で、二人とも一年生だったが、三島さんはいつも教室の最前列に坐り、熱心に講義のノートを取る勤勉で明るい大学生だった。彼と初めて話したのは、勤労動員で[[大日本帝国陸軍|陸軍]]のために毎日土堀りをやらされた翌年の五月、[[神奈川県|神奈川]]の堀立ての丸太小屋の中だった。既に小説家として知られていた三島さんは、明るく熱心に[[英国]]の[[詩人]][[ジョン・キーツ|キーツ]]などを話題にして私たちと快活に真剣に話し合った。その丸太小屋から出征した私は、終戦後再び大学に戻ったが、選んだ課目やコースが違ったためか、三島さんと会うことも話すこともなかった。|[[増村保造]]「三島由紀夫さんのこと」<ref name="masu"/>}}
三島と疎遠になってしまった戦後は、増村は大学卒業後に[[大映]]に[[助監督 (映画スタッフ)|助監督]]として入社し、再び東大の[[哲学科]]に入学した<ref name="yama"/><ref name="gai7"/>。また、[[イタリア国立映画実験センター]]に留学するなど、勉強熱心で、[[理論]]派系、[[芸術家]]肌、[[職人]]気質でもあり、[[溝口健二]]や[[市川崑]]に師事した後、1957年（昭和32年）に監督に昇進となった<ref name="sato14"/><ref name="yama"/><ref name="gai7"/>。
増村と三島は約15年ぶりに『からっ風野郎』の撮影前に[[角川大映スタジオ|大映多摩川撮影所]]で再会した<ref name="yama"/>。顔見知りの2人が映画の打合せをし、三島が[[スチル写真|スチール]]の撮影に応じている時は、増村の三島への厳しいしごきが始まるとはスタッフも予想できなかった<ref name="kakomi"/><ref name="yama"/>。撮影現場での過剰な三島へのしごきは、会社の企画に対する不満の表れか、あるいは三島への対抗意識か、等々という噂が流れた<ref name="nagata">[[永田雅一]]「俳優三島由紀夫論」（[[婦人公論]] 1960年5月号）。{{Harvnb|岡山|2014|p=50}}</ref><ref name="gai7"/><ref name="sato14"/>。
{{Quotation|増村監督があんまりきびしくビシビシやるので、三島さんとの間にいろいろまずい感情の衝突やトラブルがあったのではないか、というような噂だが、私をして言わしめれば、増村が、どこか無意識のうちに自分は監督だぞ、という意識をもってエキサイトしておったのではなかろうか。普通の単なる[[学生]]とか、どこかの[[サラリーマン]]を引っぱってきたということなら、彼もエキサイトしないのだが、相手が大学の同級の三島由紀夫、しかも今をときめく[[文壇]]の[[鬼才]]だということが、彼自身の頭から抜けなかったのだろう。それが言動の上にも現われた。|[[永田雅一]]「俳優三島由紀夫論」<ref name="nagata"/>}}
[[市川崑]]は、「[[脇役|ワキ役]]に使うならともかく、三島さんの主役作品を引き受けるなんて、ずいぶんソソっかしい」と増村に言ったが、「ほかの人がやるよりは、僕の方が三島さんを生かせると思った。その意味で僕がいちばん三島さんを大切にしているといえるんじゃないか」と増村は自負していた<ref name="yama"/>。
映画が完成し、増村が[[大田区]]馬込東（現・[[南馬込]]）の三島邸に招待された際、三島の父・[[平岡梓|梓]]から、「下手な役者をあそこまできちんと使って頂いて」と礼を言われた<ref name="kakomi"/>。三島に怪我をさせて申し訳ないと思っていたのに逆に礼を言われた増村は、[[藤井浩明]]との帰り道で、「明治生まれの男は偉い」と、梓を褒めていたという<ref name="kakomi"/>。
三島の死後、増村は『からっ風野郎』での三島の奮闘ぶりを振り返り、「どんなにしごかれても、半日テストを繰り返されても、三島さんは不平一つ言わず、何の反抗も示さず、黙々と[[羊]]のように従順にテストをやりつづけた」と敬服し、「大部屋の端役俳優ならともかく、一流の流行作家が私に何度も怒鳴られながら、一心になって一月間芝居をやり抜いたのである」と三島の根性を讃えた<ref name="masu"/><ref name="yama"/><ref name="kawas7"/>。
{{Quotation|その三島さんを見ていて、私は何と誠実で、真剣で、明るい人だろうと思った。『からっ風野郎』を撮り終って、三島さんの家に招かれて話したときも、[[バー (酒場)|バア]]に飲みに行ったときも、この三島さんの態度は全く変わらなかった。若い[[大学生]]のように快活で、素直で、真面目だった。|増村保造「三島由紀夫さんのこと」<ref name="masu"/>}}
増村は三島の死の2年後に、『[[音楽 (小説)|音楽]]』を映画化し、三島の描いた難しいテーマを映像化することに挑んだ<ref name="masu2">増村保造「『音楽』と愛とセックスと」（キネマ旬報 1972年9月下旬号）。{{Harvnb|山内|2012|pp=184-185}}</ref>。
== 若尾文子と三島由紀夫 ==
[[若尾文子]]と三島由紀夫の初めての接点は、三島原作の映画『[[永すぎた春]]』で若尾がヒロインの百子役になった時であった<ref name="bijo1"/>。三島は個人的に若尾のような「可愛いポチャポチャとした顔」の愛くるしいタイプが好みであった<ref name="wasan"/><ref name="bijo1"/>。[[1957年]]（昭和32年）4月に初めて『永すぎた春』の撮影が行われている[[角川大映スタジオ|大映多摩川撮影所]]を訪れ<ref>「若尾、川口と意気投合――三島由紀夫氏『永すぎた春』のセット」（東京新聞夕刊 1957年4月12日号）。{{Harvnb|山内|2012|p=159}}</ref>、若尾らの演技を見学した三島は、脚本担当の[[白坂依志夫]]に、「何だかドキドキして、昨夜は眠れなかったよ」と言っていたという<ref>[[原田雅昭]]・[[青木眞弥]]『女優 若尾文子』（[[キネマ旬報社]]、2012年12月）。{{Harvnb|岡山|2016|p=32}}</ref><ref name="bijo1"/>。百子を演じた若尾について三島は、「正に小説の要求する[[ヒロイン]]の姿そのものズパリだつた」と喜んだ<ref name="wasan"/><ref name="bijo1"/>。
『永すぎた春』の撮影が[[クランクアップ]]した後、三島と若尾を中心にした座談会が開かれた<ref>三島由紀夫・若尾文子らの座談会「『永すぎた春』をめぐって」（[[婦人倶楽部]] 1957年6月）。{{Harvnb|岡山|2016|p=33}}</ref><ref name="bijo1"/>。三島は当時まだ独身で、[[正田美智子]]とお[[見合い]]をしていたという噂もあり、花嫁を探していた時期であった<ref name="gai4">「四 美智子様の御成婚を祝するカンタータ」（{{Harvnb|岡山|2014|pp=30-38}}）</ref>。座談会の中で三島はなにげなく若尾に、「若尾さんはどうだい、ぜんぜん生活のかけはなれた人が好きになるということはないだろうね」と訊ねて探りを入れていた<ref name="bijo1"/>。
『からっ風野郎』の主演をすることになった三島は、[[永田雅一]]社長の提示した大映の看板女優らから、迷うことなくすぐさま若尾文子を選んだ<ref name="kakomi"/><ref name="bijo1"/>。三島にとっては、「好きな女優と恋人同士になるのだから、こんな有難いことはない」ことであった<ref name="wasan"/><ref name="bijo1"/>。
撮影に入り、増村監督にいびられながらも三島は[[水谷良重]]との[[濡れ場]]を撮り終えると、翌日には若尾を襲うシーンが待っていた<ref name="shira">[[白坂依志夫]]「寺山修司」（『脚本家・白坂依志夫の世界』シナリオ作家協会、2008年6月）。{{Harvnb|岡山|2016|p=40}}</ref><ref name="bijo1"/>。「明日は若尾とベッドシーンだぞ！」と三島は妙にテンション高く興奮していたという<ref name="shira"/><ref name="bijo1"/>。
そんな[[ミーハー]]的な[[ファン]]意識や、自分の演技で手一杯だった三島も、少し余裕ができると共演者の演技を鑑賞するようになり、「[[かき氷|氷]][[イチゴ|いちご]]みたいな味覚」のような甘い居心地よさの可愛らしい若尾が見せる思わぬ演技力の本領を目の当たりにして、[[女優]]としての若尾の技量に感服した<ref name="ayako"/><ref name="wasan"/>。
{{Quotation|私はこの撮影中、はじめて、（まことに遅い発見だが）「若尾文子といふ女優はタダモノではない」といふ発見をしたのである。（中略）今でも忘れられないのは、この映画のクライマックスで、強がりの弱虫ヤクザの私に、さんざん打擲されたあとの彼女が、それでもお腹の子はおろさないと頑張り、女の一念を見せるところの演技であつた。（中略）役柄の要求するすべての感情を投げ込み充実させて、しかも、その間の三段階の様式的変化を、リアルに融け込ませて、ちやんとした山場を盛り上げてゆく演技の、カンのよさ、自然さ、力強さは全く見事なもので、私はこれを見てゐるうちに、私の役柄において、百パーセント、彼女に惚れ込むのを感じたのである。|三島由紀夫「若尾文子讃」<ref name="wasan"/>}}
撮影の合間、三島は若尾に自分の次の小説『[[お嬢さん (三島由紀夫の小説)|お嬢さん]]』の構想を話した<ref name="ojosan">「若い娘のあたし新しい考え方『お嬢さん』」（[[帝都日日新聞]] 1961年2月16日号）。{{Harvnb|研究2|2006|p=40}}</ref><ref name="bijo1"/>。『お嬢さん』は『永すぎた春』と同様にヒロインの結婚をテーマにしたエンタメ作品で、『永すぎた春』の後日譚的な様相もあった<ref name="bijo1"/>。若尾が、「私、かすみの役をやりたいわ」と言うと、「それでは、若尾ちゃんに映画化権をあげましょう」と三島は決めた<ref name="ojosan"/><ref name="bijo1"/>{{refnest|group="注釈"|若尾はこの『[[お嬢さん (三島由紀夫の小説)|お嬢さん]]』の映画で自分の衣裳22点をデザインした<ref>「若尾ちゃんの“お嬢さん”モード」（[[週刊女性]] 1961年2月26日号）。{{Harvnb|研究2|2006|p=40}}</ref><ref name="bijo1"/>。この衣裳は「若尾ちゃんの『お嬢さん』モード」と大人気となり、某デパートから「お嬢さんコーナー特売」の申し込みがあった<ref>「若尾の入浴場面から――『お嬢さん』[[湯河原]]新婚旅行ロケ」（東京新聞夕刊 1961年2月3日号）。{{Harvnb|研究2|2006|p=40}}</ref><ref name="bijo1"/>。}}。
『からっ風野郎』が公開されてヒットした後、若尾は三島から「共演の記念に」として、高価な[[ロココ調]]の[[椅子]]と[[テーブル]]、[[銀]]の[[燭台]]を贈られた<ref name="wakao3">「女優の若尾文子が三島と共演した「からっ風野郎」を回想」（[[日本経済新聞]]夕刊 2009年11月11日号）。{{Harvnb|西法メル|2009}}</ref><ref name="bijo1"/>。その年1960年（昭和35年）の11月から三島は[[平岡瑤子|瑤子夫人]]と共に、[[アメリカ]]や[[ヨーロッパ]]、[[中東]]や[[香港]]を巡る周遊旅行に旅立ったが、その出発の直前に若尾に電話をかけ、「アメリカに行くんだけど、その前に若尾ちゃんと御飯が食べたい」と誘った<ref name="wakao3"/><ref name="bijo1"/>。
若尾は三島と一緒に[[港区 (東京都)|港区]][[芝公園]]の[[増上寺]]の前にある[[フランス料理]]レストラン「[[レストランクレッセント|ラ・クレッセント]]」で夕食を食べ、[[赤坂 (東京都港区)|赤坂]]の[[ナイトクラブ]]で[[ダンス]]を踊った<ref name="wakao2"/><ref name="bijo1"/>。三島のダンスはあまり上手ではなく強引にリードし、若尾も固くなっていたせいか、少し踊りにくかったと若尾は回想している<ref name="wakao2"/><ref name="bijo1"/>。
そして三島は、「若尾ちゃんとダンス踊って、御飯食べたから、これでぼくも心おきなくアメリカへ行けるよ」と、じっと若尾を見つめながら言った後に、例のごとく「わっはっは」と、いつもの哄笑をした<ref name="wakao2"/><ref name="bijo1"/>。若尾はその後1964年（昭和39年）に三島原作の映画『[[獣の戯れ]]』でヒロインを演じたものの、直に三島と顔を合わせる機会はなく、赤坂のナイトクラブでの三島の哄笑が若尾にとっての三島と会った最後の姿であった<ref name="wakao2"/>。
[[1970年]]（昭和45年）11月25日の[[三島事件]]での三島[[自決]]のニュースを知った若尾は、昼食どころでなくなり、ショックで寝込んでしまった<ref name="wakao2"/>。そして若尾は、三島がかつて自分に捧げたオマージュの文章を読み返した<ref name="wakao2"/><ref name="bijo1"/>。
{{Quotation|人はどうしても、その氷いちごみたいな味覚に勝てないのである。このために彼女の人気は継続したが、同時に演技をみとめられるためには、ずいぶんマイナスになつたと思ふ。（中略）俳優は自分の顔と戦はなければならない。その顔が世間から愛されば愛されるほど、その顔と戦はなければならない。若尾文子はそれと戦つて、立派に勝つた。（中略）映画界といふきびしい世界で、[[雑草]]のやうな生活力をもつことは、生きるための最初の条件だが、これからの彼女には、豊かな、潤ひのある、おほらかな世界がひらけて来なければならぬ。人間同士の醜い競争などに心を煩はされない世界が。|三島由紀夫「若尾文子讃」<ref name="wasan"/>}}
三島の死後、若尾は[[1988年]]（昭和63年）10月に[[日生劇場]]の舞台で、三島の戯曲『[[鹿鳴館 (戯曲)|鹿鳴館]]』のヒロイン朝子を演じた<ref name="bijo1"/>。三島没後35年の[[2005年]]（平成17年）には映画『[[春の雪 (映画)|春の雪]]』で月修寺門跡を演じた<ref name="bijo1"/>。若尾にとって18年ぶりの映画出演だった<ref name="bijo1"/>。この映画を企画した[[藤井浩明]]は、この役は若尾しかないと決めていた<ref>[[黒田邦雄]]「インタビュー若尾文子」（キネマ旬報 2005年11月号）。{{Harvnb|岡山|2016|pP=51-52}}</ref><ref name="bijo1"/>。
== エピソードなど ==
映画が公開されると、三島は[[浅草]]の映画館に出向き、[[もぎり]]係の女の子に愛想を言ってさりげなく客の反応を聞き出したり<ref name="kawas7"/>、[[新宿]]の映画館では、メーター（観客数のカウント）をやっていたが、三島はそれを信用できず自分でやらないと気が済まなくなり、入口で自から客の入りを勘定したりしていた<ref name="kawas7"/>。
さらに[[五反田]]の映画館には、家族一党をぞろぞろと引き連れて行ったため、三島に気づいた支配人が特別待遇で招き入れようとしたが、自前で人数分の切符をわざわざ買って入場していた<ref name="kawas7"/>。周囲の友人らはしまいには「何回見れば気が済むのだろう」と呆れていた<ref name="kawas7"/>。
評論家たちから下手な演技だと酷評される嵐の中、三島は[[草壁久四郎]]の高評価をとても喜び、それ以来、「映画評論家のなかでは、草壁が最高だ」と、友人の[[講談社]]の編集者・川島勝など周囲にふれ回り、大変な気の入れようだったという<ref name="kawas7"/><ref name="gai7"/><ref name="inuzu"/>。
草壁久四郎と三島はそれまで一面識もなかったが、とある会でその後三島と出会って紹介された時、「いやあなたには感謝してますよ。なにしろぼくの演技を評価してくださったのはあなた一人でしたからね」と言われて恐縮し、照れてしまったという<ref>草壁久四郎「三島由紀夫さんと映画のこと」（[[日本アート・シアター・ギルド|アートシアター]] 1966年4月・40号）。{{Harvnb|研究2|2006|pp=144-145}}</ref><ref name="inuzu"/>。それをきっかけに草壁は三島と親しくなり、草壁がプロデュースした映画の上映会を三島は知人の[[石川六郎]]邸で私的に開いている<ref>「草壁久四郎宛ての葉書」（昭和35年7月4日付）。{{Harvnb|補巻|2005|p=213}}に所収。葉書の現物写真は{{Harvnb|研究2|2006|p=145}}</ref><ref name="kusasho">井上隆史「解題――【書簡】草壁久四郎」（{{Harvnb|補巻|2005|p=658}}）</ref><ref name="inuzu"/>{{refnest|group="注釈"|[[草壁久四郎]]は、[[1920年]]（大正9年）生まれの映画評論家で映画プロデューサーでもある<ref name="kusasho"/>。[[2001年]]（平成13年）に亡くなった<ref name="kusasho"/>。}}。
初めての映画主演の経験により、三島は同年の11月に短編小説「[[スタア]]」を雑誌『[[群像]]』に発表している<ref name="star">「あとがき」（『スタア』新潮社、1961年1月）。{{Harvnb|31巻|2003|pp=515-516}}に所収</ref><ref name="kawas7"/>。この小説は現場で感じた「映画撮影の逆説的技術の面白さ」から着想されたもので、実際の映画現場を具体的に描いたものではなく、映画スターという存在についての「一種の観念小説」となっている<ref>「あとがき」（『三島由紀夫短篇全集6』[[講談社]]、1965年8月）。{{Harvnb|33巻|2003|pp=414-416}}に所収</ref><ref name="star"/>。
== 音声資料 ==
*「からっ風野郎」（[[キングレコード]] 1960年3月20日）
**作詞・歌唱：[[三島由紀夫]]。作曲・ギター演奏：[[深沢七郎]]。編曲：[[江口浩司]]。演奏：キングオーケストラ
**※ [[EPレコード]]。[[A面/B面|B面]]は[[春日八郎]]「東京モナリザ」
*『若さでムンムン 幻の名盤解放歌集 キング編』（[[Pヴァイン]]、1993年8月）
**CD1枚。[[ブックレット]]
**※ [[アンソロジー]]で「からっ風野郎」の主題歌が収録。
*『決定版 三島由紀夫全集41巻 音声(CD)』（[[新潮社]]、2004年9月10日）
**CD7枚。内函装幀：新潮社装幀室。装画は[[柄澤齊]]。ブックレット：「解題」収録。
**収録内容：〔1〕[[わが友ヒットラー]]（第一幕）〔2〕わが友ヒットラー（第二幕、第三幕）〔3〕[[椿説弓張月 (歌舞伎)|椿説弓張月]]〔4〕我が国の自主防衛について〔5〕悪の華――歌舞伎、[[英霊の聲]]、起て! 紅の若き獅子たち、からっ風野郎〔6〕青春を語る（対談：[[徳大寺家|徳大寺公英]]）〔7〕私はいかにして日本の作家になつたか
== 脚注 ==
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=== 注釈 ===
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=== 出典 ===
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== 参考文献 ==
*{{cite DVD-notes |title=からっ風野郎|titleyear=1960|director=[[増村保造]] |format=|publisher=[[角川映画]]|location=DABA-0433|publisherid= |year=2007|language=日本語|ref={{Harvid|DVD|2007}}}}
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*{{Citation|和書|date=2003-07|title=決定版 三島由紀夫全集32巻 評論7|publisher=新潮社|isbn=978-4106425721|ref={{Harvid|32巻|2003}}}}
*{{Citation|和書|date=2003-08|title=決定版 三島由紀夫全集33巻 評論8|publisher=新潮社|isbn=978-4106425738|ref={{Harvid|33巻|2003}}}}
*{{Citation|和書|date=2004-01|title=決定版 三島由紀夫全集37巻 詩歌|publisher=新潮社|isbn=978-4106425776|ref={{Harvid|37巻|2004}}}}
*{{Citation|和書|date=2004-03|title=決定版 三島由紀夫全集38巻 書簡|publisher=新潮社|isbn=978-4106425783|ref={{Harvid|38巻|2004}}}}
*{{Citation|和書|date=2004-09|title=決定版 三島由紀夫全集41巻 音声(CD)|publisher=新潮社|isbn=978-4106425813|ref={{Harvid|41巻|2004}}}}
*{{Citation|和書|date=2005-08|title=決定版 三島由紀夫全集42巻 年譜・書誌|publisher=新潮社|isbn=978-4106425820|ref={{Harvid|42巻|2005}}}}
*{{Citation|和書|date=2005-12|title=決定版 三島由紀夫全集補巻 補遺・索引|publisher=新潮社|isbn=978-4106425837|ref={{Harvid|補巻|2005}}}}
*{{Citation|和書|author1=三島由紀夫|author2=[[川端康成]]|date=2000-11|title=川端康成・三島由紀夫往復書簡|publisher=[[新潮文庫]]|isbn=978-4101001265|ref={{Harvid|川端書簡|2000}}}}
*{{Citation|和書|editor=[[石川よし子]]|date=2008-07|title=わたしの[[市川雷蔵 (8代目)|雷蔵]]|publisher=[[国書刊行会]]|isbn=978-4336050564|ref={{Harvid|石川|2008}}}}
*{{Citation|和書|editor=[[磯田光一]]|date=1983-12|title=新潮日本文学アルバム20 三島由紀夫|publisher=新潮社|isbn=978-4106206207|ref={{Harvid|アルバム|1983}}}}
*{{Citation|和書|editor1=[[井上隆史 (国文学者)|井上隆史]]|editor2=[[佐藤秀明 (学者)|佐藤秀明]]|editor3=[[松本徹 (学者)|松本徹]]|date=2000-11|title=三島由紀夫事典|publisher=[[勉誠出版]]|isbn=978-4585060185|ref={{Harvid|事典|2000}}}}
*{{Citation|和書|editor1=井上隆史|editor2=佐藤秀明|editor3=松本徹|date=2001-05|title=三島由紀夫の表現|series=三島由紀夫論集II|publisher=勉誠出版|isbn=978-4585040422|ref={{Harvid|論集II|2001}}}}
*{{Citation|和書|editor1=井上隆史|editor2=佐藤秀明|editor3=松本徹|date=2006-06|title=三島由紀夫と映画|series=三島由紀夫研究2|publisher=鼎書房|isbn=978-4907846435|ref={{Harvid|研究2|2006}}}}
*{{Citation|和書|editor1=井上隆史|editor2=佐藤秀明|editor3=松本徹|date=2011-05|title=同時代の証言 三島由紀夫|publisher=鼎書房|isbn=978-4907846770|ref={{Harvid|同時代|2011}}}}
*{{Citation|和書|author=[[岡山典弘]]|date=2014-11|title=三島由紀夫外伝|publisher=[[彩流社]]|isbn=978-4779170225|ref={{Harvid|岡山|2014}}}}
*{{Citation|和書|author=岡山典弘|date=2016-10|title=三島由紀夫が愛した美女たち|publisher=[[啓文社]]書房|isbn=978-4899920205|ref={{Harvid|岡山|2016}}}}
*{{Citation|和書|author=[[川島勝 (編集者)|川島勝]]|date=1996-02|title=三島由紀夫|publisher=文藝春秋|isbn=978-4163512808|ref={{Harvid|川島|1996}}}} - 著者は[[講談社]]での三島担当編集者。
*{{Citation|和書|author=[[西法太郎]]|date=2009-11-23|title=女優の若尾文子が三島と共演した「からっ風野郎」を回想|journal=三島由紀夫の総合研究・メルマガ会報|issue=362|volume=|pages=|publisher=三島由紀夫研究会|url=http://melma.com/backnumber_149567_4680228/ |ref={{Harvid|西法メル|2009}}}}
*{{Citation|和書|author=佐藤秀明|date=2006-02|title=三島由紀夫――人と文学|series=日本の作家100人|publisher=勉誠出版|isbn=978-4585051848|ref={{Harvid|佐藤|2006}}}}
*{{Citation|和書|editor1=[[長谷川泉]]|editor2=[[武田勝彦]]|date=1976-01|title=三島由紀夫事典|publisher=[[明治書院]]|id={{NCID|BN01686605}}|ref={{Harvid|旧事典|1976}}}}
*{{Citation|和書|author=松本徹|date=1990-04|title=三島由紀夫――年表作家読本 |publisher=[[河出書房新社]]|isbn=978-4309700526|ref={{Harvid|年表|1990}}}}
*{{Citation|和書|editor=松本徹監修|date=2010-10|title=別冊太陽 日本のこころ175――三島由紀夫|publisher=[[平凡社]]|isbn=978-4582921755|ref={{Harvid|太陽|2010}}}}
*{{Citation|和書|editor=[[平岡瑤子|三島瑤子]]・[[藤田三男]]|date=2000-11|title=写真集 三島由紀夫'25〜'70|publisher=新潮文庫|isbn=978-4101050911|ref={{Harvid|写真集|2000}}}}
*{{Citation|和書|editor1=[[山内由紀人]]|editor2=[[平岡威一郎]]監修|editor3=[[藤井浩明]]監修|date=1999-12|title=三島由紀夫映画論集成|publisher=[[ワイズ出版]]|isbn=978-4898300138|ref={{Harvid|映画論|1999}}}}
*{{Citation|和書|author=山内由紀人|date=2012-11|title=三島由紀夫 左手に映画|publisher=[[河出書房新社]]|isbn=978-4309021447|ref={{Harvid|山内|2012}}}}
*{{Citation|和書|author=湯浅あつ子|date=1984-03|title=ロイと鏡子|publisher=[[中央公論社]]|isbn=978-4120012761|ref={{Harvid|湯浅|1984}}}} - 著者は幼馴染で、[[ロイ・ジェームス]]夫人。
== 外部リンク ==
* {{Allcinema title|139291|からっ風野郎}}
* {{Kinejun title|22944 |からっ風野郎}}
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