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'''イレーヌ・ジョリオ＝キュリー'''（{{lang|fr|Irene Joliot-Curie}}、[[1897年]][[9月12日]] - [[1956年]][[3月17日]]）は、[[フランス]]の原子[[物理学者]]。父は[[ピエール・キュリー]]、母は[[マリ・キュリー|マリー・キュリー]]。妹は[[エーヴ・キュリー]]
[[ファイル:Marie Pierre Irene Curie.jpg|thumb|
[[パリ]]に生まれ、[[パリ大学]]で[[ポロニウム]]の[[アルファ線]]に関する研究で学位を取得。[[1926年]]、母マリーの助手だった[[フレデリック・ジョリオ＝キュリー|フレデリック・ジョリオ]]と結婚。[[1934年]]に[[リン30|<sup>30</sup>P]]を合成し、[[1935年]]、「人工放射性元素の研究」で、夫フレデリックと共に[[ノーベル化学賞]]を受賞
== 生涯 ==
=== 生い立ち ===
1897年、父[[ピエール・キュリー]]、母[[マリ・キュリー|マリー・キュリー]]の長女として、[[パリ]]で生まれた。当時、両親は放射性元素の発見に取り組んでいる最中であり、イレーヌが生まれたのは2人が[[ラジウム]]を発見する前年のことであった<ref>[[#コットン(1964)|コットン(1964)]] p.46</ref>。
イレーヌ誕生後、両親は夜になるとイレーヌにつきっきりとなり、マリーは娘の成長を日記につづった<ref>[[#マグレイン(1996)|マグレイン(1996)]] p.162</ref>。しかし日中はマリーもピエールも実験で忙しかったため、3人が一緒に過ごす時間は限られた。そのためイレーヌは、同居していたピエールの父親である医師のウジェーヌ・キュリーと過ごすことが多かった。
幼い頃のイレーヌは、父ピエールを「ペ(Pé)」、母マリーを「メ(Mé)」と呼び<ref group="注釈">PéはPére（父親）、MéはMére（母親）の意味（[[#キュリー,イレーヌ(1975)|キュリー,イレーヌ(1975)]] p.15）。なお、この呼び方はイレーヌが大人になってからも使用していた。</ref>、母親に対する独占欲が強かった<ref>[[#ロリオ(1994)|ロリオ(1994)]] p.8</ref><ref>[[#キュリー,エーヴ(2014)|キュリー,エーヴ(2014)]] p.253</ref>。その当時にキュリー家を訪れた知人は、マリーやピエールと話をしていると、イレーヌが、自分のこともかまって欲しいとたびたび主張してきたことを述懐している<ref>[[#コットン(1964)|コットン(1964)]] p.62</ref>。また警戒心が強く、他人とはあまり打ち解けない性格だった<ref>[[#ロリオ(1994)|ロリオ(1994)]] pp.16,22,24-25</ref>。
1903年、両親が[[ノーベル化学賞]]を受賞し、時の人となった。家には連日取材陣が押し寄せ、当時6歳だったイレーヌも取材の対象になることがあった<ref>[[#ロリオ(1994)|ロリオ(1994)]] p.13</ref>。1904年、妹の[[エーヴ・キュリー|エーヴ]]が生まれた<ref>[[#ロリオ(1994)|ロリオ(1994)]] p.21</ref>。
1906年4月19日、8歳の時、父ピエールは馬車に轢かれて死亡した。イレーヌはマリーから、父は頭にけがをしたから会うことはできない、と告げられた<ref name="loriot28">[[#ロリオ(1994)|ロリオ(1994)]] p.28</ref><ref>[[#キュリー,エーヴ(2014)|キュリー,エーヴ(2014)]] p.352</ref>。イレーヌははじめ、その意味することがのみこめなかったが、やがて理解し、泣きながら母親のもとへと駆け寄った<ref name="loriot28"/><ref>[[#コットン(1964)|コットン(1964)]] pp.81-82</ref>。
ピエールの死によってマリーは非常に大きなショックを受け、しばらく立ち直ることができなかった<ref>[[#キュリー,エーヴ(2014)|キュリー,エーヴ(2014)]] p.358</ref>。その年の秋、マリーは、ピエールの思い出が残る家に住み続けることはできないとして、娘2人と義父ウジェーヌと共に、ソーへと引っ越した<ref>[[#キュリー,エーヴ(2014)|キュリー,エーヴ(2014)]] p.366</ref>。なおイレーヌ自身は後年、幼い頃のことはよく覚えておらず、両親と一緒の生活についてもほとんど記憶に無いと述べている<ref>[[#キュリー,イレーヌ(1956)|キュリー,イレーヌ(1956)]] pp.8-9</ref>。
=== 教育 ===
1906年11月、マリーはピエールの後を継ぎ、ソルボンヌ大学の講師となった<ref>[[#キュリー,エーヴ(2014)|キュリー,エーヴ(2014)]] pp.360,366-367</ref>。初回の講義にはイレーヌも見学に訪れた<ref>[[#ゴールドスミス(2007)|ゴールドスミス(2007)]] p.125</ref>。
イレーヌは、[[パリ天文台]]近くにあるの私立学校に通っていた<ref>[[#ロリオ(1994)|ロリオ(1994)]] p.14</ref>。しかしマリーはフランスの中等教育に不満を持っていたため、イレーヌを中学に入学させなかった<ref>[[#キュリー,イレーヌ(1956)|キュリー,イレーヌ(1956)]] pp.22-23</ref>。そのためイレーヌは家で祖父ウジェーヌの教育を受け、特に[[ヴィクトル・ユーゴー]]などの文学について多くを学んだ<ref name="eve377">[[#キュリー,エーヴ(2014)|キュリー,エーヴ(2014)]] p.377</ref><ref name="irene23">[[#キュリー,イレーヌ(1956)|キュリー,イレーヌ(1956)]] p.23</ref>。ウジェーヌはその後のイレーヌが抱くことになる政治的な思想などの面で大きな影響を与えている<ref name="eve377"/>。また、一時期はポーランド人の家庭教師がつけられ、妹エーヴと一緒に[[ポーランド語]]を学んだ<ref>[[#キュリー,イレーヌ(1956)|キュリー,イレーヌ(1956)]] p.22</ref>。
さらにイレーヌは、10人ほどの生徒と一緒に、組合学校と呼ばれる授業に参加した。これはマリーが知り合いの学者と協力して作り上げた教育方法で、学者自身が先生となって、それぞれの好みに合わせた教科を教えるというものである。物理はマリー・キュリー、化学は[[ジャン・ペラン]]、数学は[[ポール・ランジュバン]]が担当し、生徒たちはそれぞれの家や研究所を移動しながら授業を受けた<ref>[[#コットン(1964)|コットン(1964)]] pp.99-100</ref><ref>[[#ロリオ(1994)|ロリオ(1994)]] p.37</ref>。この組合学校は2年ほど続いた<ref name="irene23"/>。
一方でマリーは、教育において体育を重視すべきだという考えを持ち、娘たちに水泳、自転車、乗馬、登山などを体験させ、当時珍しかったスキーも体験させた<ref>[[#コットン(1964)|コットン(1964)]] p.99</ref><ref>[[#ロリオ(1994)|ロリオ(1994)]] p.47</ref><ref>[[#キュリー,イレーヌ(1956)|キュリー,イレーヌ(1956)]] p.30</ref>。イレーヌは、私はフランスで一番古い女性スキーヤーだったと述べている<ref>[[#キュリー,イレーヌ(1956)|キュリー,イレーヌ(1956)]] p.31</ref>。
旅行などで母親と離れているときは、手紙によって交流した。1907年にイレーヌが出した手紙には、すでに数学の問題に関する記述があり、母と娘の数学への意識の高さがうかがえる<ref>[[#ロリオ(1994)|ロリオ(1994)]] pp.38-39</ref>。また、祖父ウジェーヌとも手紙をやりとりした。1909年に出した手紙で、イレーヌが「あなたの小さなつまらないイレーヌ」と署名すると、ウジェーヌは、お前はつまらない小さなイレーヌではない、私の大きなイレーヌだ、と返している<ref>[[#コットン(1964)|コットン(1964)]] p.97</ref>。ウジェーヌは1910年2月、闘病生活の末に82歳で亡くなった<ref>[[#コットン(1964)|コットン(1964)]] p.94</ref>。
組合学校を終えたイレーヌは、大学入学資格試験の2年前になって、セヴィーニ学院に入学した<ref name="irene24">[[#キュリー,イレーヌ(1956)|キュリー,イレーヌ(1956)]] p.24</ref>。この学校を選んだのは母マリーの意向で、講義が少なく自由が多いことと、近代的な教育がなされていたことが選んだ理由になっている<ref name="irene24"/><ref>[[#コットン(1964)|コットン(1964)]] p.100</ref>。学校では数学と物理で特に優れた成績を収めていたため、同級生に対して授業することが許されていた<ref>[[#ゴールドスミス(2007)|ゴールドスミス(2007)]] p.133</ref>。
1910年から1911年にかけて、マリーはフランス科学アカデミーの会員選挙にあたって、反対派から中傷記事を書かれるなどの被害を受けた<ref>[[#ロリオ(1994)|ロリオ(1994)]] p.51</ref>。さらに1911年、マリーとポール・ランジュバンとの男女関係が取りざたされ、週刊誌などでマリーを非難する記事が次々に書かれた<ref>[[#ロリオ(1994)|ロリオ(1994)]] p.60</ref>。こうした報道は、マリーはもとより、イレーヌの心をも苦しめた<ref name="magrain167">[[#マグレイン(1996)|マグレイン(1996)]] p.167</ref><ref>[[#ロリオ(1994)|ロリオ(1994)]] pp.51,65</ref>。一方、同じ1911年にマリーは2度目のノーベル賞を受賞した。スウェーデンで開かれた受賞講演にはイレーヌも同行した<ref name="magrain167"/>。ここでイレーヌは、他の科学者から敬意と称賛を受けるマリーの姿を見て、母の権威や知名度、科学の価値を知った<ref>[[#ロリオ(1994)|ロリオ(1994)]] pp.65-66</ref>。
=== 第一次大戦 ===
1914年夏、ヨーロッパの情勢が悪化してくると、マリーはイレーヌとエーヴを[[ブルターニュ]]北部のラルクウェストへと送った<ref>[[#マグレイン(1996)|マグレイン(1996)]] p.168</ref>。その後まもなく[[第一次世界大戦]]が開戦した。イレーヌはパリに残った母親と手紙でやり取りしていたが、数週間後、パリへの侵攻がなさそうだいうことが分かると、マリーは娘たちにパリに戻る許可を与えた<ref>[[#ロリオ(1994)|ロリオ(1994)]] pp.88-89</ref>。
大戦中、マリーは負傷者を治療するため、放射線治療車を用意して各地を回っていた<ref>[[#キュリー,エーヴ(2014)|キュリー,エーヴ(2014)]] pp.414-416</ref>。イレーヌもパリに戻ると放射線治療の方法を学び、1914年11月からマリーの助手として治療にあたった<ref>[[#キュリー,エーヴ(2014)|キュリー,エーヴ(2014)]] p.422</ref><ref>[[#キュリー,イレーヌ(1956)|キュリー,イレーヌ(1956)]] pp.43-44</ref>。このとき、イレーヌは17歳だった<ref>[[#ロリオ(1994)|ロリオ(1994)]] p.90</ref>。人材不足だったこともあって、イレーヌはやがて1人でX線検査の仕事を任されるようになった<ref>[[#キュリー,イレーヌ(1956)|キュリー,イレーヌ(1956)]] p.44</ref>。また、イレーヌはマリーとともに、X線撮影技師を養成するための任務にもついた<ref>[[#キュリー,イレーヌ(1956)|キュリー,イレーヌ(1956)]] p.45</ref><ref>[[#ロリオ(1994)|ロリオ(1994)]] p.95</ref>。さらにこれらの仕事の合間をぬって、学士号取得の準備をした<ref>[[#キュリー,イレーヌ(1956)|キュリー,イレーヌ(1956)]] p.46</ref><ref>[[#ロリオ(1994)|ロリオ(1994)]] p.93</ref>。
=== 研究所入所 ===
[[File:Irene and Marie Curie 1925.jpg|thumb|イレーヌとマリー。1925年。]]
1918年、第一次大戦が終わると、イレーヌはマリーの研究所に、マリーの助手として入った<ref>[[#マグレイン(1996)|マグレイン(1996)]] p.170</ref><ref>[[#ロリオ(1994)|ロリオ(1994)]] p.98</ref>。イレーヌはそこではじめに、鉱物中の塩素の原子量を求める実験に取り組んだ<ref name="cotton137">[[#コットン(1964)|コットン(1964)]] p.137</ref>。イレーヌは研究所の中でも数学や物理の知識については目立ったものがあり、その落ち着き払った性格や、つねに所長であるマリーのそばにいて優遇されていたこともあって、同僚からは王女と呼ばれたりもした<ref>[[#マグレイン(1996)|マグレイン(1996)]] p.172</ref><ref>[[#ロリオ(1994)|ロリオ(1994)]] p.99</ref>。
当時、研究所には放射性物質である[[ラジウム]]が1グラムしかなく、マリーはその不足に頭を抱えていた。しかしアメリカの人々による募金によって、ラジウムが無償提供されることになり、1921年、マリーはイレーヌとエーヴを連れて渡米した<ref>[[#ロリオ(1994)|ロリオ(1994)]] pp.108-110</ref>。そしてアメリカでマリーは大歓迎を受けた<ref>[[#キュリー,エーヴ(2014)|キュリー,エーヴ(2014)]] p.455</ref>が、連日の歓迎行事にマリーは疲れ、体調が悪化してしまった<ref>[[#キュリー,エーヴ(2014)|キュリー,エーヴ(2014)]] p.461</ref>。そのためイレーヌやエーヴがたびたび代理で出席してあいさつなどをした<ref name="loriot112113">[[#ロリオ(1994)|ロリオ(1994)]] pp.112-113</ref>。イレーヌはこのアメリカ旅行で、[[ニューヨーク]]の光景や[[グランド・キャニオン]]などを見て感銘を受けた<ref name="loriot112113"/><ref>[[#キュリー,エーヴ(2014)|キュリー,エーヴ(2014)]] pp.462-463</ref>。
帰国後、イレーヌはマリーとともに研究を続けながら学位取得のための準備をして、1925年3月に試験を受けて学位を得た<ref>[[#ロリオ(1994)|ロリオ(1994)]] pp.118,131</ref>。このとき発表した内容は[[ポロニウム]]の[[アルファ線]]についての研究で<ref name="cotton137"/>、会場となったソルボンヌ大学の講堂には1,000人もの聴衆が訪れた<ref>[[#マグレイン(1996)|マグレイン(1996)]] p.173</ref>。有名なマリー・キュリーの娘であるイレーヌの学位取得は大きな話題となり、フランスのメディアのほか、アメリカの[[ニューヨークタイムズ]]などでも報じられた<ref name="mag174">[[#マグレイン(1996)|マグレイン(1996)]] p.174</ref><ref>[[#ロリオ(1994)|ロリオ(1994)]] p.132-133</ref>。このとき、科学の道を進むことは女性にとって負担にならないかと記者に問われ、それに対して、自分は科学への適性について男女に差は無いと思っている、と答えている<ref name="mag174"/><ref>[[#ロリオ(1994)|ロリオ(1994)]] p.132</ref>。取材が相次いだため、マリーはイレーヌを連れて一時[[アルジェリア]]へと旅行に出かけた<ref name="mag174"/>。
=== 結婚と共同研究 ===
[[ファイル:Curie Joliot 1934 London.jpg|thumb|200px|イレーヌとフレデリック・ジョリオ＝キュリー（1934年）]]
1925年、マリーの研究所に助手として[[フレデリック・ジョリオ＝キュリー|フレデリック・ジョリオ]]が雇われた。これはポール・ランジュバンの推薦によるもので、当時フレデリックは25歳だった<ref>[[#コットン(1964)|コットン(1964)]] p.143</ref>。イレーヌとフレデリックはやがて親密になり、1926年10月に結婚した<ref name="loriot147">[[#ロリオ(1994)|ロリオ(1994)]] p.147</ref>。結婚の儀式はせず、2人とそれぞれの家族は証人と一緒に昼食を食べ、午後からは通常通り仕事に戻った<ref name="loriot147"/>。
イレーヌはやがて妊娠したため、診察を受けに行くと、医者から肺結核の症状が出ていると告げられた。これは母マリーがイレーヌを産むときに診断されたのと同じ病気だった<ref>[[#ロリオ(1994)|ロリオ(1994)]] pp.151-152</ref>。
イレーヌは1927年9月17日、長女のエレーヌを産んだ<ref>[[#ロリオ(1994)|ロリオ(1994)]] p.155</ref>。イレーヌは後にこの出来事について、「わたしにもこんな素晴らしい体験ができるのに、もしこの世に子供を送り出していなかったとしたら、こういう体験をしなかったことを一生悔やむでしょうね」と述べている<ref name="liriot155">[[#ロリオ(1994)|ロリオ(1994)]] p.155</ref>。医者はイレーヌに、肺の状態が悪いので、静養して、もう子供は産まないように、と告げたが、イレーヌは育児のかたわら仕事にも復帰し、1932年には長男のピエールを産んだ<ref name="liriot155"/><ref>[[#マグレイン(1996)|マグレイン(1996)]] p.178</ref>。
結婚後、イレーヌとフレデリックはジョリオ=キュリーという姓を用い、共同で研究成果を発表していった。2人の研究はフランス国内外から注目されるようになり、1933年には[[ソルベー会議]]に出席して発表した<ref>[[#ロリオ(1994)|ロリオ(1994)]] pp.161,163</ref>。
1934年1月、2人は[[アルミニウム]]の薄片に[[アルファ粒子]]を衝突させる実験において、アルファ粒子の発生源を取り去った後でも、引き続き[[ガイガー＝ミュラー計数管|ガイガーカウンター]]が反応することを発見した<ref name="loriot164165">[[#ロリオ(1994)|ロリオ(1994)]] pp.164-165</ref><ref>[[#マグレイン(1996)|マグレイン(1996)]] pp.182-183</ref>。すなわち2人は[[放射能]]初めて人工的に作りだしたことになる。2人は早速マリーに電話した。数時間後、マリーは証人役のランジュバンと共に実験室にやってきてこの現象を観察し、大いに喜んだ<ref name="loriot164165"/>。
翌1935年、この研究によってイレーヌはフレデリックと共に[[ノーベル化学賞]]を受賞した<ref>[[#ロリオ(1994)|ロリオ(1994)]] p.175</ref>。しかしマリーはこの受賞を見ることなく、前年の7月に亡くなっていた。また、イレーヌ自身も1934年から、肺結核の治療のため、毎年一定期間は山で静養することを強いられるようになった<ref>[[#ロリオ(1994)|ロリオ(1994)]] p.189,年表</ref>。
=== 政治との関わり ===
マリーは生前、自分用とジョリオ=キュリー家用の2軒の家を建てる目的で、アントニーに土地を取得していた。イレーヌとフレデリックはノーベル賞受賞後、その土地に家を建て、マリーが住むつもりだった土地はテニスコートとして使った<ref>[[#ロリオ(1994)|ロリオ(1994)]] pp.179-180</ref>。
1934年ごろ、イレーヌはフレデリックと同じく、反ファシズムのデモに参加した<ref>[[#ロリオ(1994)|ロリオ(1994)]] p.169</ref>。マリーの死後は、さらに政治活動に積極的になり<ref>[[#ロリオ(1994)|ロリオ(1994)]] p.175</ref>、1936年に[[レオン・ブルム]]内閣が誕生すると、ブルムからの依頼により、科学担当国務次官に就任した<ref>[[#ロリオ(1994)|ロリオ(1994)]] p.186</ref><ref name="f29">[[#フェールズィング(2012)|フェールズィング(2012)]] p.29</ref>。フランスにおいては初めての女性閣僚だった<ref name="f29"/>。ただしイレーヌは、この地位に就くことで研究に割く時間がほとんど無くなってしまうことを危惧して、当初から期間限定という条件でこの職を引き受けており、実際、就任から数か月後<ref group="注釈">[[#ロリオ(1994)|ロリオ(1994)]] p.189では2か月、[[#マグレイン(1996)|マグレイン(1996)]] p.187では3か月。</ref>に辞任した。
研究面においては、ノーベル賞受賞後にフレデリックとの共同研究は終了し、1936年、母の後任としてパリ大学ソルボンヌ校教授に就任した。イレーヌはそこで講義をするかたわら、引き続きラジウム研究所でも研究を続け、核分裂に関わる研究に取り組んだ<ref>[[#ロリオ(1994)|ロリオ(1994)]] p.189</ref>。一方でフレデリックは[[コレージュ・ド・フランス]]の教授になった<ref>[[#マグレイン(1996)|マグレイン(1996)]] p.186</ref>。
=== 第二次大戦 ===
1939年、[[第二次世界大戦]]が開戦し、1940年、パリはドイツ軍に占領された。イレーヌはフレデリックと共にフランスに留まり、レジスタンス運動に参加した<ref>[[#ロリオ(1994)|ロリオ(1994)]] p.225</ref>。フレデリックはさらに[[フランス共産党]]にも入り、一度は逮捕された<ref>[[#ロリオ(1994)|ロリオ(1994)]] p.226</ref>。戦争中は食糧不足などが響いてイレーヌの結核は悪化していった<ref>[[#マグレイン(1996)|マグレイン(1996)]] p.190</ref>。そのため、毎年の[[サナトリウム]]での生活も次第に長引くようになってきた<ref>[[#ロリオ(1994)|ロリオ(1994)]] p.232</ref>。政治状態が安定しない中で夫や子供と離れることになるサナトリウム生活はイレーヌを不安にさせた<ref>[[#ロリオ(1994)|ロリオ(1994)]] p.235</ref>。
1944年、フレデリックはレジスタンスグループである大学人国民戦線の責任者になった<ref>[[#ロリオ(1994)|ロリオ(1994)]] p.236</ref>。このことによって身の危険が大きくなったフレデリックは、イレーヌと子供2人をスイスに逃亡させることにした。イレーヌは、長女エレーヌのバカロレア二次試験があることを理由に反対した<ref>[[#ロリオ(1994)|ロリオ(1994)]] p.237</ref><ref name="mag191">[[#マグレイン(1996)|マグレイン(1996)]] p.191</ref>。そのため、イレーヌと子供2人はいったん[[モンベリアル]]まで行き、そこからエレーヌが国境近くの村まで行って試験を受け、その後国境を越えてスイスに入った<ref>[[#ロリオ(1994)|ロリオ(1994)]] pp.237-238</ref>。国境を越えた日はちょうど[[ノルマンディー上陸作戦]]が決行された6月6日であった<ref name="mag191"/><ref name="loriot238">[[#ロリオ(1994)|ロリオ(1994)]] p.238</ref>。スイスでは、事前にフレデリックの協力によって逃亡していたポール・ランジュバンと再会した<ref name="loriot238"/>。
=== 戦後 ===
戦後、イレーヌは子供たちとフランスに戻り、アントニーの家で再びフレデリックと暮らすようになった<ref>[[#ロリオ(1994)|ロリオ(1994)]] p.246</ref>。
イレーヌは研究を続け、宇宙から降り注ぐ高エネルギー粒子の問題に特に深い関心を示した<ref>[[#ロリオ(1994)|ロリオ(1994)]] pp.257-258</ref>。また、1946年にはアンドレ・ドゥビエルヌの後を継いで、ラジウム研究所の所長になった<ref>[[#ロリオ(1994)|ロリオ(1994)]] pp.274-275</ref>。一方で女性の権利拡大についても活動し、雑誌にコメントを寄せたり<ref>[[#ロリオ(1994)|ロリオ(1994)]] pp.247-248</ref>、集会で発表したりした<ref>[[#ロリオ(1994)|ロリオ(1994)]] p.272</ref>。さらに、1945年12月にはフランス原子力委員会の化学部門の責任者となった<ref>[[#ロリオ(1994)|ロリオ(1994)]] p.252</ref>。委員会では、委員長となったフレデリックと共に、核の平和利用を説き<ref>[[#ロリオ(1994)|ロリオ(1994)]] p.264</ref>、フランス初の[[原子炉]]となるZOEの開発にも携わった<ref>[[#ロリオ(1994)|ロリオ(1994)]] p.286</ref>。結核については、[[ストレプトマイシン]]の効果により改善し、健康状態は以前と比べると良くなった<ref name="mag192">[[#マグレイン(1996)|マグレイン(1996)]] p.192</ref>。
1948年、イレーヌはニューヨークに出かけた際、入国管理局に止められ、[[エリス島]]の拘留所に一晩拘留された<ref name="mag192"/>。夫のフレデリックが共産党員だからという理由である<ref>[[#ロリオ(1994)|ロリオ(1994)]] p.277</ref>。有名人であるイレーヌの拘留はフランス国内で大きな話題となり<ref>[[#ロリオ(1994)|ロリオ(1994)]] p.278</ref>、フランス当局は拘留に対して異議を申し立てた<ref name="mag192"/>。翌日解放されたイレーヌは、ユーモアを交えながら報道陣の質問に答え、自分は共産党員ではないと主張し、さらに、「ここでは共産党よりまだナチスやファシストの方がましだと思うらしいですからね」と言った<ref>[[#マグレイン(1996)|マグレイン(1996)]] p.194</ref>。
一方、共産党員であるフレデリックの立場は、フランス国内でも悪くなっていった。フレデリックは1950年、フランス原子力委員会の委員長を解任された<ref>[[#ロリオ(1994)|ロリオ(1994)]] p.279</ref>。イレーヌもその2か月後、契約が更改されず、委員から外された<ref>[[#ロリオ(1994)|ロリオ(1994)]] p.299</ref>。
1950年、ソ連はフレデリックに対して、第1回国際平和賞を与えた<ref>[[#ロリオ(1994)|ロリオ(1994)]] p.年表</ref>。そのためイレーヌはフレデリックと共にソ連へ行き、[[クレムリン]]での式に出席した<ref>[[#ロリオ(1994)|ロリオ(1994)]] pp.303-304</ref>。そしてこの旅行が原因で、イレーヌは数か月後にイギリスに行こうとしたときに、ビザを拒否された<ref>[[#ロリオ(1994)|ロリオ(1994)]] p.305</ref>。
=== 晩年 ===
イレーヌは1950年代、数度にわたり科学アカデミーの委員に立候補した。これは、かつて母のマリーが立候補し、そして落選した地位であった。イレーヌはあいさつ回りなどもしたが、結果的に落選し、委員になることはできなかった<ref>[[#ロリオ(1994)|ロリオ(1994)]] pp.300-301</ref>。さらに、アメリカ化学学会にも入会を申し込んだが拒否された<ref name="loriot315">[[#ロリオ(1994)|ロリオ(1994)]] p.315</ref>。
イレーヌは[[オルセー]]に新しい研究所を造ることに決めた<ref>[[#ロリオ(1994)|ロリオ(1994)]] pp.305,313</ref>。さらに、ソルボンヌとラジウム研究所での講義も続けた<ref>[[#ロリオ(1994)|ロリオ(1994)]] p.313</ref>。体調は、肺結核こそ改善したものの、長年の[[放射能]]研究により、つねに疲労を感じ<ref>[[#ロリオ(1994)|ロリオ(1994)]] p.308</ref>、見た目にも顔色の悪さが現れてきた<ref name="loriot315"/>。
1955年、イレーヌはフレデリックとの共同論文を書いた後、年末に[[クールシュヴェル]]へ出かけた<ref>[[#ロリオ(1994)|ロリオ(1994)]] p.326</ref>。クールシュヴェルでは娘のエレーヌとその夫、息子のピエールらと過ごしたが、やがて体調が悪くなり、自宅のあるアントニーに戻り、そのままラジウム研究所近くのキュリー病院に入院した<ref>[[#ロリオ(1994)|ロリオ(1994)]] pp.329-330</ref>。イレーヌは急性白血病と診断された。
入院後、イレーヌは徐々に衰弱していった。また夫のフレデリックもこのとき体調が悪化しており、病院に見舞いに来ても、長い時間とどまることはできなかった<ref>[[#ロリオ(1994)|ロリオ(1994)]] p.330</ref>。
イレーヌは病院で古くからの友人に、「死ぬことは怖くないわ。こんなに夢中で送った人生だもの！」と言った<ref name="loriot331">[[#ロリオ(1994)|ロリオ(1994)]] p.331</ref>。そして1956年3月17日、[[白血病]]により58歳の生涯を終えた<ref name="loriot331"/>。イレーヌは[[国葬]]により葬られた<ref>[[#ロリオ(1994)|ロリオ(1994)]] pp.331-332</ref>。また、イレーヌの死の2年後には、フレデリックも肝臓病により死亡した<ref>[[#ロリオ(1994)|ロリオ(1994)]] p.年表</ref>。
== 研究内容 ==
=== 中性子発見に関わる実験 ===
イレーヌと夫フレデリックは、マリー・キュリーが発見した元素である[[ポロニウム]]を抽出し、この試料を使って様々な実験に取り組んだ<ref>[[#ロリオ(1994)|ロリオ(1994)]] p.161</ref>。
1930年、[[ヴァルター・ボーテ]]とヘルベルト・ベッカーは、ポロニウムから放出されるアルファ粒子が[[ベリリウム]]と衝突すると、ベリリウムは非常に貫通度の高い放射線を出すと発表した<ref name="sime133">[[#サイム(2004)|サイム(2004)]] p.133</ref>。この論文を読んだイレーヌとフレデリックは、さっそくこの事実を実験により確かめ、そして、この放射線は水素を含む物体から[[陽子]]を追い出すと発表した<ref name="sime133"/><ref>[[#ロリオ(1994)|ロリオ(1994)]] p.162</ref>。
しかし[[ジェームズ・チャドウィック]]は2人の発表に疑問を抱き、追試して、追い出されるのは陽子ではなく[[中性子]]であると主張した。このチャドウィックの主張は他の物理学者によって確かめられ、チャドウィックは後に中性子の発見によって[[ノーベル物理学賞]]を受賞した<ref name="mag180">[[#マグレイン(1996)|マグレイン(1996)]] p.180</ref>。結果としてイレーヌとフレデリックはあと一歩のところで、大きな業績を逃すことになった<ref name="mag180"/>。
=== 人工放射能の発見 ===
イレーヌとフレデリックは1933年、ポロニウムをアルミ箔のそばに置くと、[[アルミニウム|アルミ]]から[[陽電子]]と中性子が飛び出してくることを発見した<ref name="mag182">[[#マグレイン(1996)|マグレイン(1996)]] p.182</ref>。2人は1933年のソルベー会議でこの実験を発表したところ、[[リーゼ・マイトナー]]から、自分は同じ実験をしたが中性子は見つからなかったと反論された<ref name="mag182"/><ref>[[#ゴールドスミス(2007)|ゴールドスミス(2007)]] p.187</ref>。当時から名の知られていたマイトナーからの反論は2人を落ち込ませたが、会議に参加していた[[ニールス・ボーア]]らの励ましもあって、2人は実験を続けることにした<ref name="mag182"/>
1934年、2人は実験によって、やはり中性子は発生していることを確かめた。さらにそのうえ、ポロニウムをアルミニウムから遠ざけると、中性子の発生は止まるが、陽電子は変わらず発生し続けることを発見した<ref name="mag182"/>。アルミニウムの安定した原子から陽子が出てくることはあり得ないので、これはアルミニウムが放射性原子に変化したことを意味する。2人は研究をさらに続け、この反応によってアルミニウムの一部が放射性の[[リン]]に変化したことを確かめた<ref>[[#ゴールドスミス(2007)|ゴールドスミス(2007)]] p.190</ref>。
すなわち、このときの反応は以下のようになる<ref name="sime169">[[#サイム(2004)|サイム(2004)]] p.169</ref>。
:<math>{}_2^4\mathrm{He}+{}_{13}^{27}\mathrm{Al}\to{}_{~15}^{~30}\mathrm{P}+{}_0^1\mathrm{n}</math>
さらに、このときに発生したリンは半減期約3分で陽電子を放出し、[[シリコン]]に変化する<ref name="sime169"/>。
:<math>{}_{15}^{30}\mathrm{P}\to{}_{~14}^{~30}\mathrm{Si}+{}_1^0\mathrm{e}</math>
=== 核分裂の研究 ===
1930年代後半、科学者の間では[[中性子]]を使って新たな元素を作り出す研究が始まっていた。きっかけとなったのはイタリアの[[エンリコ・フェルミ]]による実験であり<ref>[[#ロリオ(1994)|ロリオ(1994)]] p.201</ref>、その後、ドイツのリーゼ・マイトナーも、同僚の[[オットー・ハーン]]、[[フリッツ・シュトラスマン]]と共同でこの研究を始めた<ref>[[#ケルナー(1990)|ケルナー(1990)]] pp.123-124</ref>。イレーヌもこの研究に取り組み、1937年、[[ウラン]]から[[半減期]]3.5時間の新たな放射性物質を発見した。イレーヌと、共同研究者であるパヴェル・サヴィッチは、この物質は[[トリウム]]の[[同位体]]であると発表した<ref name="sime190">[[#サイム(2004)|サイム(2004)]] p.190</ref>。
マイトナーはこの結果に疑問を抱き、追試して、この放射性物質は存在しないことを確かめた<ref name="sime190"/>。マイトナーはこのことを手紙に記し、イレーヌに送った<ref name="sime191">[[#サイム(2004)|サイム(2004)]] p.191</ref>。またハーンもイレーヌの実験を評価せず、学会でフレデリックに会ったとき、君の妻を批判することは許されないのだが、しかし間違っている、彼女にそう言ってくれ、と伝えた<ref>[[#ロリオ(1994)|ロリオ(1994)]] p.203</ref>。
イレーヌはいったんこの説を取り下げたが<ref name="sime191"/>、1938年、この物質は[[ランタン]]に近い性質をもつとあらためて発表した<ref>[[#ロリオ(1994)|ロリオ(1994)]] p.202</ref>。このとき、マイトナーはナチスから逃れるために亡命していた。ドイツに残っていたハーンは、イレーヌの論文に興味を示さなかった。しかしシュトラスマンは論文を読み、イレーヌが新しい発見をしたことに気付いた<ref>[[#サイム(2004)|サイム(2004)]] p.235</ref>。こうしてマイトナー、ハーン、シュトラスマンの3人はこの件に関して研究することにして、その結果、ウランの[[核分裂]]についての理論を打ち立てることになる。またもあと一歩のところで栄誉を逃したイレーヌは、ハーンとシュトラスマンの論文を読んで、「私たちはなんて馬鹿だったの！」と言い、フレデリックと共同研究しなかったことを悔やんだという<ref>[[#ロリオ(1994)|ロリオ(1994)]] p.209</ref><ref>[[#マグレイン(1996)|マグレイン(1996)]] p.189</ref>。
== 人物 ==
子供のころから社交的ではなく、その点においては妹のエーヴと対照的であった<ref>[[#マグレイン(1996)|マグレイン(1996)]] p.164</ref>。服装や化粧に気を使わず<ref>[[#ロリオ(1994)|ロリオ(1994)]] p.193</ref>、ノーベル賞の式典でも、周りの女性が着飾っている中で、宝石や装飾品を一切つけずに参加した<ref>[[#ロリオ(1994)|ロリオ(1994)]] p.177</ref>。また、他人には笑顔を見せず、ぶっきらぼうな態度や言葉づかいで、人と話をしているときにスカートの中からハンカチを取り出して鼻をかむ、などといった行動は、研究所を訪れた人たちを驚かせた<ref>[[#フェールズィング(2012)|フェールズィング(2012)]] p.27</ref><ref>[[#マグレイン(1996)|マグレイン(1996)]] p.172</ref>。ただし家族や親しい友人のいるときにはくつろいだ表情をみせた<ref>[[#マグレイン(1996)|マグレイン(1996)]] pp.167-168</ref>。リーゼ・マイトナーは、「イレーヌは、一見したところ無愛想といってもいいくらいだったので、気持ちの暖かさを理解できた人はごくわずかでした」と語っている<ref>[[#サイム(2004)|サイム(2004)]] p.413</ref>。ラジウム研究所の研究員は、イレーヌに話があるときは、面会の約束をしなくても、いつでもどんなときでも会ってくれたと証言している<ref>[[#コットン(1964)|コットン(1964)]] pp.167-168</ref>。妹のエーヴも、姉は「落ち着いて、いつも機嫌が良い人でした」と述べている<ref name="mag171">[[#マグレイン(1996)|マグレイン(1996)]] p.171</ref>。
形式的な儀礼を嫌い、親しくない人と挨拶するのさえ嫌がった<ref>[[#山崎(2009)|山崎(2009)]] p.136</ref>。エーヴは、姉は一度も嘘をついたことが無いと証言している<ref name="mag171"/>。招待状に断りの返事を出すとき、秘書が「残念ながら応じることができません」と書くと、イレーヌは、「私は少しも残念に思っていない」といって書き直させたこともある<ref>[[#ロリオ(1994)|ロリオ(1994)]] p.187</ref>。
夫フレデリックと同様に、政治的には左翼的な思想に理解を示し<ref>[[#ロリオ(1994)|ロリオ(1994)]] p.205</ref>、フレデリックはフランス共産党員だったが、イレーヌは婦人同盟員だった。自身は、政治的な思想は祖父ウジェーヌの影響が大きいと述べている<ref name="mag162">[[#マグレイン(1996)|マグレイン(1996)]] p.162</ref>。なお、イレーヌは生涯、教会に行くことはなかったが、これもウジェーヌの影響によるものである<ref name="mag162"/>。
またイレーヌは、自分は母マリーよりも父ピエールに似ていて、だからこそ母と良い関係でいられたのだと述べている<ref name="mag171"/>。フレデリックは、ピエールについての話を人から聞いたり文章で読んだりした上で、イレーヌは純粋さ、良識、落ち着きなどの点で、「父親の生き写しである」と判断している<ref>[[#ビカール(1970)|ビカール(1970)]] pp.167-168</ref>。
母マリーの教育方針もあって、幼いころからスポーツとは身近だったが、その中でもハイキングや水泳を好み<ref>[[#湯浅(1973)|湯浅(1973)]] p.252</ref>、近所の子供たちに泳ぎ方を教えることもあった<ref>[[#コットン(1964)|コットン(1964)]] pp.162-163</ref>。
フレデリックのもとで研究していた物理学者の[[湯浅年子]]は、イレーヌについて、「感情を外にあらわすことを極端にきらわれ、一見冷たいように見えるが、うちには大変繊細で豊かな感情をもっておられる」と述べている<ref>[[#湯浅(1973)|湯浅(1973)]] p.199</ref>。
== 脚注 ==
=== 注釈 ===
{{Reflist|group="注釈"}}
=== 参照元 ===
{{脚注ヘルプ}}
{{Reflist|3}}
== 参考文献==
*{{Cite book|和書
|author=イレーヌ・キュリー
|date=1956-04
|title=わが母マリー・キュリーの思い出
|others=内山敏訳
|publisher=筑摩書房
|ref=キュリー,イレーヌ(1956)}}
*{{Cite book|和書
|author=イレーヌ・キュリー
|date=1975
|title=母と娘の手紙
|others=西川祐子訳
|publisher=人文書院
|ref=キュリー,イレーヌ(1975)}}
*{{Cite book|和書
|author=エーヴ・キュリー
|date=2014-07
|title=キュリー夫人伝
|others=河野万里子訳
|publisher=白水社
|isbn=978-4560083895
|ref=[[#キュリー,エーヴ(2014)|キュリー,エーヴ(2014)]]}}
*{{Cite book|和書
|author=シャルロッテ・ケルナー
|date=1990-08
|title=核分裂を発見した人―リーゼ・マイトナーの生涯
|others=平野卿子訳
|publisher=晶文社
|isbn=4794958870
|ref=ケルナー(1990)}}
*{{Cite book|和書
|author=バーバラ・ゴールドスミス
|date=2007-05
|title=マリー・キュリー―フラスコの中の闇と光
|others=小川真理子監修、竹内喜訳
|publisher=WAVE出版
|isbn=978-4872902891
|ref=ゴールドスミス(2007)}}
*{{Cite book|和書
|author=ウージェニィ・コットン
|date=1964-10
|title=キュリー家の人々
|others=杉捷夫訳
|publisher=岩波新書
|ref=コットン(1964)}}
*{{Cite book|和書
|author=R.L.サイム
|date=2004-03
|title=リーゼ・マイトナー 嵐の時代を生き抜いた女性科学者
|others=米沢富美子監修、鈴木淑美訳
|publisher=シュプリンガー・フェアラーク東京
|isbn=4-431-71077-9
|ref=サイム(2004)}}
*{{Cite book|和書
|author=ピエール・ビカール
|date=1970-07
|title=F・ジョリオ=キュリー 科学と平和の擁護者
|others=湯浅年子訳
|publisher=河出書房新社
|ref=ビカール(1970)}}
*{{Cite journal|和書
|author=ウラ・フェールズィング、大羅志保子訳・注・解説
|year=2012
|title=イレーヌ・ジョリオ=キュリー（1935年ノーベル化学賞受賞）
|journal=日本大学文理学部人文科学研究所研究紀要
|volume=83
|pages=pp. 23-35
|ref=フェールズィング(2012)}}
*{{Cite book|和書
|author=シャロン・バーチュ マグレイン
|date=1996-09
|title=お母さん、ノーベル賞をもらう―科学を愛した14人の素敵な生き方
|others=中村友子訳
|publisher=工作舎
|isbn=978-4875022701
|ref=マグレイン(1996)}}
*{{Cite book|和書
|author=山崎美和恵
|date=2009-05
|title=物理学者湯浅年子の肖像―Jusqu’au bout最後まで徹底的に
|publisher=梧桐書院
|isbn=978-4340401260
|ref=山崎(2009)}}
*{{Cite book|和書
|author=湯浅年子
|date=1973-06
|title=パリ随想―ら・みぜーる・ど・りゅっくす
|publisher=みすず書房
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*{{Cite book|和書
|author=ノエル・ロリオ
|date=1994-11
|title=イレーヌ・ジョリオ・キュリー
|others=伊藤力司、伊藤道子訳
|publisher=共同通信社
|isbn=978-4-7641-0328-1
|ref=ロリオ(1994)}}
{{ノーベル化学賞受賞者 (1926年-1950年)}}
{{Normdaten}}
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