「ロケットストーブ」の版間の差分
削除された内容 追加された内容
m →使用方法 |
編集の要約なし |
||
(5人の利用者による、間の8版が非表示) | |||
1行目:
[[File:Rocket-Stove-Envirofit-G3300.JPG|thumb|調理コンロタイプのロケットストーブ]]
'''ロケットストーブ'''({{lang-en-short|Rocket Stove}})、'''ロケットマスストーブ'''({{lang-en-short|Rocket Mass Stove}})、'''エコストーブ'''{{sfn|里山資本主義|2015|pp=47}}、および暖房目的として使われる'''ロケットヒーター'''({{lang-en-short|Rocket Mass Heater}})は、断熱された排気管(ヒートライザー)と燃焼管(バーントンネル)を持ち、薪をくべて使用する燃焼機器のことである{{sfn|ロケットストーブ|2009|p=11}}。典型的なロケットストーブは、「J」字型に配置された燃焼管に断熱材を周囲に詰め込んだ簡易な構成で実現できる{{sfn|ロケットストーブ|2009|p=11}}。設計図や応用例が広く公開されており、製作は比較的簡単である。このため、[[DIY]]技術を習熟していない人でも製作できる{{sfn|ロケットストーブ|2009|p=10}}。海外では市販のロケットストーブも存在する{{sfn|囲炉裏と薪火暮らしの本|2013|p=139}}。また薪火の経験が少なくても比較的簡単に使用できることも特徴の一つである{{sfn|ロケットストーブ|2009|p=14}}。
1980年代、[[アメリカ合衆国]]の[[応用生態学]]の学者で{{仮リンク|イアント・エバンス|en|Ianto Evans}}らが、発展途上国で使用することを前提とした[[適正技術]]として、ロケットストーブを最初に開発した{{sfn|ロケットストーブ|2009|p=12}}。イアント・エバンスらの主張によれば、長年、途上国の農村で悩まされてきた室内での薪ストーブによる煙や粉塵の発生を解決できたとしている{{sfn|ロケットストーブ|2009|p=13}}。
日本にロケットストーブを紹介したのは、広島県三次市で「共生庵」を開き社会活動をおこなっている荒川純太郎である{{sfn|ロケットストーブ|2009|p=2}}{{sfn|石岡、ロケットストーブ 上|2011|p=327}}。2005年、アメリカ合衆国を旅行していた荒川が、[[オレゴン州]]で訪問した家庭にあったロケットストーブに興味を持ち、英語版の簡素なマニュアルを持ち帰ってストーブの自作を始めた{{sfn|石岡、ロケットストーブ 上|2011|p=327}}。荒川が作ったロケットストーブの話を聞いた石岡敬三が2011年に「現代農業」にロケットストーブの連載を始め{{sfn|石岡、ロケットストーブ 上|2011|p=324}}、これにより日本での認知度が高まった。
{{
==
=== 薪の燃焼過程 ===
[[File:Rocket Stove.png|thumb|ロケットストーブ(L字型)の概念図]]
以下に、薪の燃焼について温度と燃焼反応の関係を箇条書きで示す。
* 100度で薪に含まれる水分が蒸発する{{sfn|最高!薪&ロケットストーブ|2014|p=36}}。
* 200度程度で、薪の成分が分解され木ガスが発生する{{sfn|最高!薪&ロケットストーブ|2014|p=36}}。
* 260度以上で木ガスの一部と酸素が反応する(一次燃焼){{sfn|最高!薪&ロケットストーブ|2014|p=36}}。
* 600度程度で一次燃焼では燃えない木ガス成分と酸素が反応する(二次燃焼){{sfn|最高!薪&ロケットストーブ|2014|p=36}}。
=== ロケットストーブの燃焼過程 ===
ロケットストーブは、薪を二次燃焼まで引き起こすことで燃焼効率を高めたものであるが、以下に、ロケットストーブの燃焼過程を箇条書きで示す。
* ヒートライザー下部、水平方向にバーントンネル(燃焼路)があり、バーントンネルの入り口が焚口になっている{{sfn|ロケットストーブ|2009|p=11}}。
* バーントンネルにくべられた薪が燃焼すると木ガスが発生する{{sfn|ロケットストーブ|2009|p=11}}。
* 発生した木ガスがヒートライザーで二次燃焼を起こす
* ヒートライザーでの燃焼熱で内部の圧力が上がる
* ヒートライザーは煙突にもなっており、煙突効果と燃焼熱でヒートライザー内部に強い上昇気流が発生する([[煙突効果]])
* 上昇気流によりバーントンネルに負圧が生じ、外気がバーントンネルに引き込まれる
=== まとめ ===
上述の通り、ロケットストーブの燃焼効率の高さは、燃焼路への空気の吸い込みを増やす点にある。通常、ストーブは煙突が高いほど空気の吸い込みが増える{{sfn|日常の物理事典|1994|p=56}}。ストーブの経験則として「新しく作った煙突は吸い込みが悪い」というものがあるが{{sfn|日常の物理事典|1994|p=56}}、これは新しい煙突の場合、燃焼ガスが煙突内壁に触れて冷えてしまい圧力差が低下するためである{{sfn|日常の物理事典|1994|p=56}}。古い煙突は内壁がススで覆われてこれが保温効果を増すため吸い込みがよくなる{{sfn|日常の物理事典|1994|p=56}}。
すなわち、ロケットストーブとは「燃焼容器に断熱煙突を組み込んだ燃焼機器」であり{{sfn|最高!薪&ロケットストーブ|2014|p=37}}、煙突を断熱材で囲うことにより煙突の内外の圧力差を大きくして、燃焼効率を高めたものである。
{{clear}}
== 構造 ==
=== 構造概要 ===
[[File:Profil holzvergaserofen.pdf|thumb|典型的なロケットストーブ(J字型)の平面図]]
イアント・エバンスは、ロケットストーブの設計上の注意点として以下を挙げている。
* 焚き口の一番うえから、ヒートライザーの一番上までは、25〜40インチ(62.5〜100cm)の長さをとることが最も重要である{{sfn|ロケットストーブ|2009|p=31}}{{efn|ヒートライザーが短いと、煙突効果が弱まり、外気がバーントンネルに引き込まれる力が弱まる}}。
* ヒートライザー{{efn|図「典型的なロケットストーブ(J字型)の平面図」で3にあたる部分}}の断面積・煙突の断面積は、バーントンネルの断面積より{{efn|図「典型的なロケットストーブ(J字型)の平面図」で2にあたる部分}}、広くする{{sfn|ロケットストーブ|2009|p=30}}。これは、燃焼の遅滞や煙の逆流を避けるためである{{sfn|ロケットストーブ|2009|p=30}}。
* バーンチューブ(焚き口){{efn|図「典型的なロケットストーブ(J字型)の平面図」で1にあたる部分}}の高さはあまり高くとらない{{sfn|ロケットストーブ|2009|p=30}}。火が焚き口の上にまで燃え上がってくる状態は好ましくなく、燃焼がロケットストーブの底だけで起きている状態が好ましい{{sfn|ロケットストーブ|2009|p=30}}。
* バーントンネル{{efn|図「典型的なロケットストーブ(J字型)の平面図」で2にあたる部分}}は、ロケットストーブの管のなかで一番断面積を狭くする{{sfn|ロケットストーブ|2009|p=30}}。
* ヒートライザー{{efn|図「典型的なロケットストーブ(J字型)の平面図」で3にあたる部分}}とバーンチューブ(焚き口){{efn|図「典型的なロケットストーブ(J字型)の平面図」で1にあたる部分}}の高さの差は、燃焼プロセスで生じる気流が上がっていく高さになる{{sfn|ロケットストーブ|2009|p=31}}。[[煙突効果]]による吸引の具合はこの高さの差に比例する{{sfn|ロケットストーブ|2009|p=31}}。
* 排気ダクト{{efn|図「典型的なロケットストーブ(J字型)の平面図」で7にあたる部分}}の断面積は、ヒートライザーと同じかそれよりも大きい面積にする{{sfn|ロケットストーブ|2009|p=31}}。排気ダクトは複数あっても良い{{sfn|ロケットストーブ|2009|p=31}}。
=== 断熱 ===
ヒートライザーの周囲には、断熱材をまきつけて、「必ず断熱」する必要がある{{sfn|最高!薪&ロケットストーブ|2014|p=22}}。これによりヒートライザーを高温に保つことができ、薪の二次燃焼を促進する効果が得られる{{sfn|最高!薪&ロケットストーブ|2014|p=22}}。またバーントンネルも同様に断熱する{{sfn|最高!薪&ロケットストーブ|2014|p=22}}。断熱材には、軽石、[[パーライト (発泡体)|パーライト]]と粘土を混ぜたものを使用するとよい{{sfn|ロケットストーブ|2009|p=27}}。
== 製作 ==
ロケットストーブの原理を押さえてあれば、さまざまな材料を使って製作できる{{sfn|囲炉裏と薪火暮らしの本|2013|p=139}}。一般的な製法は、[[一斗缶]]や[[ペール缶]]などの金属の缶と、煙突用として市販されているステンレス製の[[鋼管]]を中に通してこれを燃焼路とするものである{{sfn|囲炉裏と薪火暮らしの本|2013|p=139}}。そして缶と燃焼炉の間のすき間を園芸の[[パーライト (発泡体)|パーライト]]や[[バーミキュライト]]を断熱材として詰める{{sfn|囲炉裏と薪火暮らしの本|2013|p=139}}。
ただしバーントンネルやヒートライザーに[[ステンレス]]などの[[鋼管]]を使用した場合、熱によって徐々に劣化する{{sfn|ロケットストーブ|2009|p=28}}{{sfn|最高!薪&ロケットストーブ|2014|p=20}}。この問題を回避するため、レンガや瓦、粘土を使ってロケットストーブを作る例もある{{sfn|囲炉裏と薪火暮らしの本|2013|p=139}}{{sfn|最高!薪&ロケットストーブ|2014|p=20}}。
== 特徴 ==
=== 長所と短所 ===
ロケットストーブの長所と短所は以下の通りである。
* 燃焼効率が良い{{sfn|ロケットストーブ|2009|p=14}}。
* 薪ストーブでは比較的向かないとされる針葉樹や竹も十分使用できる{{sfn|最高!薪&ロケットストーブ|2014|p=24}}。
* 焚口が比較的小さいため、太い薪は使えない。そのため薪割りの手間が余分にかかる。燃焼時は頻繁に薪を追加する必要がある{{sfn|囲炉裏と薪火暮らしの本|2013|p=139}}。
* 微妙な火力調整が難しい{{sfn|囲炉裏と薪火暮らしの本|2013|p=139}}。調理用途につかう場合には一気に火力が必要な煮炊きに向く(弱火やトロ火は不可能){{sfn|囲炉裏と薪火暮らしの本|2013|p=139}}。
* [[乾留液|タール]]やすす、煙の排出は少ない{{sfn|囲炉裏と薪火暮らしの本|2013|p=139}}。ただし全く出ないというわけではないため、室内で使用する場合は換気が必要となる{{sfn|囲炉裏と薪火暮らしの本|2013|p=139}}。
* バーントンネルやヒートライザーにステンレス管などの[[鋼管]]を用いると高温のため腐食が進みやすい{{sfn|ロケットストーブ|2009|p=28}}{{sfn|最高!薪&ロケットストーブ|2014|p=20}}。
== 応用 ==
=== 暖房ベンチ ===
[[File:Flexoven3.jpg|thumb|240px|ロケットストーブ粘土で作られた暖房ベンチ]]
ロケットストーブの大型化して暖房目的にした「ロケットヒーター」また応用例として「暖房ベンチ」がある。「暖房ベンチ」は一種の床暖房で、ドラム缶などを使ってロケットストーブを大型化し、排気路を水平に配置してその上を土で塗り固め、ここをベンチにしたもものである{{sfn|最高!薪&ロケットストーブ|2014|p=29}}。また土に砕石を混ぜると蓄熱効果が増す{{sfn|最高!薪&ロケットストーブ|2014|p=29}}。
欧米や途上国では、このロケットストーブを利用した暖房ベンチをコブハウス{{efn|[[アドベ]]で作ったDIYによる家のこと}}に組み込んだ例が多数報告されている{{sfn|囲炉裏と薪火暮らしの本|2013|p=140}}。
=== 加熱調理器 ===
レンガ22個を組み合わせて製作した簡易なロケットストーブで、0.8kgの薪で米5合を20分で炊いたという報告がある{{sfn|最高!薪&ロケットストーブ|2014|p=31}}{{efn|このロケットストーブの作り方は[[東日本大震災]]の被災地で紹介されている{{sfn|最高!薪&ロケットストーブ|2014|p=31}}。}}。
{{clear}}
== 脚注 ==
=== 注釈 ===
{{Reflist|group="注釈"}}
=== 出典 ===
{{Reflist|2}}
== 参考文献 ==
* {{Cite book|和書|author = 近角聡信|title = 日常の物理事典|date = 1994|publisher = 東京堂出版|isbn = 4-490-10372-7|ref = {{Harvid|日常の物理事典|1994}} }}
* {{Cite book|first1=Ianto|last1=Evans|first2=Leslie|last2=Jackson|date = 2006|title = Rocket Mass Heaters|publisher=Cob Cottage Company|isbn= 978-0-9663738-3-7|ref = {{Harvid|Rocket Mass Heaters|2006}} }}
* {{Cite book|和書|first1=イアント|last1=エバンス|first2=レスリー|last2=ジャクソン|translator = 服部淳子|date = 2009|title = ロケットストーブ|publisher=日本ロケットストーブ普及協会|ncid= BB04438795|ref = {{Harvid|ロケットストーブ|2009}} }}
* {{Cite book|和書|author = 大内正伸|date = 2013|title = 囲炉裏と薪火暮らしの本|publisher=農山漁村文化協会|isbn= 978-4-540-12162-3|ref = {{Harvid|囲炉裏と薪火暮らしの本|2013}} }}
* {{Cite book|和書|editor = 農山漁村文化協会|date = 2014|title = 最高!薪&ロケットストーブ|publisher = 農山漁村文化協会|isbn = 978-4-540-14170-6|ref = {{Harvid|最高!薪&ロケットストーブ|2014}} }}
* {{Cite journal|和書|author = 石岡敬三|date = 2011-01|title = ロケットストーブを楽しむ<上>|journal = 現代農業|volume = 90|issue = 1|pages = 324-327|publisher = 農山漁村文化協会|issn = 02893517|ncid = AN00078945|ref = {{Harvid|石岡、ロケットストーブ 上|2011}} }}
* {{Cite journal|和書|author = 石岡敬三|date = 2011-02|title = ロケットストーブ<中>ロケットストーブの作り方|journal = 現代農業|volume = 90|issue = 2|pages = 346-349|publisher = 農山漁村文化協会|issn = 02893517|ncid = AN00078945|ref = {{Harvid|石岡、ロケットストーブ<中>|2011}} }}
* {{Cite journal|和書|author = 石岡敬三|date = 2011-03|title = ロケットストーブ<下>私たちも作りました!|journal = 現代農業|volume = 90|issue = 3|pages = 328-331|publisher = 農山漁村文化協会|issn = 02893517|ncid = AN00078945|ref = {{Harvid|石岡、ロケットストーブ<下>|2011}} }}
* {{Cite book|和書|author = 藻谷浩介|author2 = NHK広島取材班|date = 2015|title = 里山資本主義|publisher = Kadokawa|series = 角川新書|isbn = 978-4-04110512-2|ref = {{Harvid|里山資本主義|2015}} }}
== 外部サイト ==
{{Commonscat}}
* [https://sites.google.com/site/rocketstovejapan/ 日本ロケットストーブ普及協会]
{{デフォルトソート:ろけつとすとおふ}}
[[Category:炉・燃焼機器]]
[[Category:適正技術]]
[[Category:調理器具]]
[[Category:暖房]]
[[Category:野外活動]]
|