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→‎正書法について: アルファベットの種類がほぼ同じである上、FirstVoicesのサイトにてクイパーズが開発したと記されている為、FirstVoicesでの綴り方 ≒ 現行の正書法と見る事が可能です。
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}}
 
'''シュスワプ語'''(シュスワプご)または'''シュスワップ語'''(シュスワップご、{{Lang-en-short|Shuswap}}; 原語名: Secwepemctsín<ref name="mplf">Lewis ''et al.'' (2015f).</ref> {{Ipa|sxʷəpmxˈt͡sin}}<ref name="mo1989a">大島 (1989a).</ref>)とは、カナダ西部[[ブリティッシュコロンビア州]]の[[ファースト・ネーション]]{{Refnest|group=注|{{Lang-en-short|First Nation(s)}}。カナダの先住民({{Lang-en-short|Aboriginal peoples}})のうち、[[メティ (カナダ)|メティ]]と[[イヌイット]]を除く人々を指す。{{仮リンク|カナダ憲法|en|Constitution of Canada}}上は「[[インディアン]]」({{Lang-en-short|Indian(s)}})と呼称されていが、これを好まない人々もおり、「ファースト・ネーション」という言い方が広く用いられている。複数の先住民集団が「ファースト・ネーション」の呼称を、従来使用されていた「{{仮リンク|バンド (カナダ)|label=バンド|en|Band government}}」の言い換えとして用いてきている<ref>{{Cite web|url=http://www.aadnc-aandc.gc.ca/eng/1100100032291/1100100032292|title=Treaties with Aboriginal people in Canada|publisher=Indigenous and Northern Affairs Canada{{enlink|Indigenous and Northern Affairs Canada|a=on}}|date=2010-09-15|accessdate=2017-06-02}}</ref>。}}のうちの[[シュスワップ族]]の固有[[言語]]である。北米の[[太平洋岸北西部]]に分布する[[セイリッシュ語族]]の内陸語派に属する。原語名の ''Secwepemctsín'' は民族名 ''Secwepemc'' 〈シュスワップ族〉と ''-tsín'' 〈口〉の合成語である<ref name="mo1989a" />。
 
20世紀には、カナダ政府がシュスワップ族に対して、強制的かつ抑圧的な[[インディアン寄宿学校|寄宿学校]]制度を行い、親世代から子世代への言語の継承が阻害されてきた。その上、近年も話者の高齢化が進む一方で、若い世代の[[第一言語]]が[[英語]]に[[言語交替|切り替わる]]傾向にあるが、衰退するシュスワプ語を教育によって再興しようという取り組みも行われている(参照: [[#言語教育]])。一方同じ20世紀には、シュスワプ語学術的に研究されるように場で取、20上げられたのは19世紀末が初めてのことであるが、特に1970年代前文法記述が発表されてから研究の発展が見られた(参照: [[#研究史]])。
 
言語自体の特徴としては、[[音韻論|音韻]]的には子音の数が多く(参照: [[#子音]])、[[形態論|形態]]的には{{仮リンク|重複|en|Reduplication}}({{Lang-en-short|reduplication}})と[[接辞]]による語の変化が見られるほか、セイリッシュ語族の言語としては唯一[[一人称]]複数に包含({{Lang-en-short|inclusive}})と除外({{Lang-en-short|exclusive}})の区別が見られ(参照: [[#文法]]、[[#形態論]])、[[統語論|統語]]的には動詞が他の要素より先頭に来る語順の傾向(参照: [[#語順]])や2種類の格(参照: [[#格]])が見られ、また形態統語的には[[主要部#主要部標示と従属部標示|主要部標示]]({{Lang-en-short|head marking}})型言語である(参照: [[#統語論における代名詞]])といった点が挙げられる。
 
2000年から公開されているウェブサイト {{仮リンク|FirstVoices|en|FirstVoices}}では、他の様々なファースト・ネーションの言語と共にシュスワプ語の語彙や成句が音声つきで紹介されている。
 
都市[[カムループス]](Kamloops)の名は、シュスワプ語の ''T'kemlups''〈川の合流点〉に由来するものである<ref>Turner ''et al.'' (2008:3).</ref>。また、淡水に生息する魚である[[ヒメマス]]を表す英語の [[:en:Kokanee|''kokanee'']] は、同じ意味のシュスワプ語 {{Unicode|''kəknǽxʷ / [[wikt:keknécw|keknécw]]''}} を語源とする説が存在する<ref>小学館ランダムハウス英和大辞典第2版編集委員会 (1994).</ref>。なお、このように表記揺れが激しい場合も見られるが、これに関しては[[#正書法について]]を参照されたい。
 
== 分布 ==
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19世紀中頃から後期にかけて[[天然痘]]が流行し、これによりシュスワップ族の文化は弱体化したが、その時期にはカナダ政府による先住民「文明化」の目論見が進められていた<ref>{{Harvcoltxt|Michel|2005|p=1&ndash;2}}.</ref>。1876年の[[インディアン法 (カナダ)|インディアン法]]({{Lang-en-short|Indian Act}})により先住民問題は法制化され、先住民人口をイギリス系カナダ人社会へ同化しようという植民地的な動機から、イギリス系カナダ人の行政官らはそれまで地方にあった産業学校{{Refnest|group="注"|{{Lang-en-short|industrial school(s)}}。主に農業技術の向上が重視され、生徒たちは1学年のほぼ大半の時間を学校で過ごすこととなっていた<ref name="km2005_6">{{Harvcoltxt|Michel|2005|p=6}}.</ref>。}}を[[インディアン寄宿学校|アメリカ式の寄宿学校]]{{Refnest|group="注"|{{Lang-en-short|residential school(s)}}。教育と宗教が重視され、生徒たちは1学年につき10ヶ月を学校で過ごすこととなっていた<ref name="km2005_6" />。宗教に関しては、寄宿学校制の施行を促した1879年のデイヴィン・リポート({{Lang-en-short|Davin Report}})において、先住民集団との深いつながりを持つ[[キリスト教]]の宗派による学校運営はどうか、との提案が見える<ref name="km2005_3">{{Harvcoltxt|Michel|2005|p=3}}.</ref>。}}に置き換えることを考えた<ref>{{Harvcoltxt|Michel|2005|p=2&ndash;3}}.</ref>。寄宿学校を始め、産業学校、昼間学校{{Refnest|group="注"|{{Lang-en-short|day school(s)}}。ファースト・ネーションの子どもたちが最初に入る学校で、日中に出席するだけでよいこととなっていた<ref name="km2005_6" />。}}など様々な形態の学校の取り組みが行われたものの、学校を卒業した先住民たちはイギリス系カナダ人の社会に適応できておらず、政府から見ても成果が思わしくないことは明らかであった (Titley 1986: 81)<ref name="km2005_3" />。1920年になるとインディアン法に7歳から15歳の先住民にルーツを持つ子どもたちを学校に通わせることを義務とする規定が、また1930年には同法に従わなかった親に罰金刑や懲役刑を課す節が新たに設けられるなど、むしろ学校の先住民共同体への接近が悪影響をもたらしたと考えられる側面も存在する<ref name="km2005_3" />。こうした過程によりシュスワップ族の言語も文化も共に衰退の一途を辿ることとなる。学校でシュスワプ語を話そうとすると罰せられるため、親たちは子どもを守るためにシュスワプ語は教えず、英語だけで育てるようになった (Haig-Brown 1989: 109&ndash;110)<ref>{{Harvcoltxt|Michel|2005|p=3&ndash;4}}.</ref>。こうして寄宿学校生活を耐え抜いた者たちの孫世代にとって、シュスワプ語とは消滅の瀬戸際にある言語であった<ref name="km2005_3" />。
 
このような状況の中、1987年になるとシュスワプ語を消滅の危機から救う取り組みが始まった。それは生後まもなくから5歳にかけての子どもを対象とした取り組みで、[[ニュージーランド]]の[[マオリ族]]による{{仮リンク|言語の巣|en|Language nest}}([[マオリ語]]: {{仮リンク|テ・コーハンガ・レオ|label=Te Kōhanga Reo|en|Māori language revival}}; 英語: language nest)を模範としたものだった<ref name="km2005_4">{{Harvcoltxt|Michel|2005|p=4}}.</ref>。後には初等教育を[[イマージョン・プログラム|イマージョン]]方式で行ったり<ref group="注" name="cas">先住民向けのイマージョン・スクールとしては{{仮リンク|チェイス (ブリティッシュコロンビア州)|label=チェイス|en|Chase, British Columbia}}の Chief Atahm School{{enlink|Chief Atahm School|a=on}}(1991/92年設立)が存在する。[[#外部リンク]]も参照。</ref>、4年生から7年生を対象としたバイリンガル教育、成人を対象とした授業、ファースト・ネーション共同体のための教員養成課程も州内外で行われたりするようになった<ref name="km2005_4" />。
 
1991年の時点でシュスワップ族の成員7,597名のうち、シュスワプ語を話す者は全体の3.9パーセントにあたる308名のみであった<ref name="Secwepemctsin" />。その後流暢に話すことができる話者の多くが年輩者でこの世を去る一方、子どもたちが家庭でシュスワプ語を話して育てられることが事実上皆無で、流暢な話者も家ではシュスワプ語を話さず、また Chief Atahm School のイマージョン方式<ref group="注" name="cas" />の取り組みを除き学校や共同体の言語プログラムが言語の習熟についての成果を上げていない状況が言語の喪失に拍車をかけている<ref name="Secwepemctsin">{{Cite web|url=http://www.landoftheshuswap.com/lang.html|title=Secwepemctsin, Language of the Secwepemc|publisher=Land of the Shuswap|accessdate=2017-06-02}}</ref>。Ignace によると、2007年以前の段階で話者の大半は50歳以上であり、1983年に設立されたSecwepemc文化教育協会(Secwepemc Cultural Education Society{{enlink|Secwepemc Cultural Education Society|a=on}})はイマージョン・プログラムの実施を含め、シュスワプ語再興のための努力を払ってきている<ref name="vg2007" />。しかし、民族の[[第一言語]]は[[英語]]に取って代わられつつある<ref name="mplf" />。
 
=== 研究史 ===
シュスワップ族への[[人類学]]的調査が初めて行われたのは19世紀末のことであり(Tyler ''et al.'' (1891))、その後本格的な[[民族学]]的調査20世紀初頭に{{仮リンク|ジェサップ探検隊|en|Jesup North Pacific Expedition}}({{Lang-en-short|Jesup North Pacific Expedition}})の{{仮リンク|ジェームズ・テイト|label=ジェームズ・アレクサンダー・テイト|en|James Teit}}(James Alexander Teit)によって行われたものの({{Harvcoltxt|Teit|1909}})。しかし、その言語についての研究の発展は[[ライデン大学]]のオランダ人言語学者クイパーズ(Aert Hendrik Kuipers{{enlink|Aert H. Kuipers|a=on}}){{Refnest|group="注"|なお、クイパーズはシュスワプ語の本調査(1968年&ndash;70年)に取りかかる以前の段階で、同じセイリッシュ語族の{{仮リンク|スクォミッシ語|en|Squamish language}}(Squamish)についての記述も行い<ref name="mo1989a" />、1967年に刊行させている。}}による1953年以降の3度にわたる調査を待たねばならなかった。クイパーズによる1974年の[[モノグラフ]]は個別言語全体の記述が不足していたセイリッシュ語族に関して貴重な文献であった<ref name="mo1989a" /><ref group="注">なお他のセイリッシュ諸語に関しては、内陸語派ではトンプソン語についてローレンス・C・トンプソン(Laurence C. Thompson)とM・テリー・トンプソン(M. Terry Thompson)が1992年に ''The Thompson Language''、リルエット語についてヤン・ファン・アイク(Jan van Eijk)が1997年に ''The Lillooet Language: Phonology, Morphology, Syntax'' を、海岸語派({{Lang-en-short|Coast}})では、{{仮リンク|カリスペル語|en|Salish-Spokane-Kalispel language}}(Kalispel)について Hans Vogt が1940年に ''The Kalispel Language''、ブレンダ・J・スペック(Brenda J. Speck)が1980年に ''An editon of Father Post's Kalispel grammar'' を、{{仮リンク|コモックス語|label=コモックス語(Comox)またはコモックス・スライアモン語(Comox-Sliammon)|en|Comox language}}についてクロード・アジェージュ(Claude Hagège)が1981年に {{Lang|fr|''Le Comox Lhaamen de Colombie Britannique: présentation d’une langue amerindienne''}}、H・ハリス(H. Harris)が同年に ''A grammar of Comox''、[[渡邊己|渡辺己]]が2003年に ''A Morphological Description of Sliammon, Mainland Comox Salish with a Sketch of Syntax'' を、[[ハルコメレム語]](Halkomelem{{enlink|Halkomelem|a=on}})については {{Harvcoltxt|Galloway|1993}}、孤立したセイリッシュ語では{{仮リンク|ベラクーラ語|en|Nuxalk language}}(Bella Coola)についてフィリップ・W・デイヴィス(Philip W. Davis)と Ross Saunders が 1978年に "Bella Coola Syntax"(E. Cook and J. Kaye (eds.), ''Linguistic Studies of Native Canada'' 所収)、1997年に ''A Grammar of Bella Coola''、また H. F. Nater が1984年に ''The Bella Coola Language'' と、それぞれ個別言語の文法に関する著作を発表している。</ref>。その後学界においては、Gardiner (1998) がシュスワプ語の[[話題]]({{Lang-en-short|topic}})や[[焦点 (言語学)|焦点]]({{Lang-en-short|focus}})について研究し、また Lai (1998a, b) や Déchaine & Wiltschko (2003) がシュスワプ語の独立代名詞をDP仮説などを通して分析しているが、後者は他の複数の言語も跨いだものとなっている(参照: [[#統語論]])。
 
== 正書法について ==
Lewis ''et al.'' (2015) はシュスワプ語について独自の正書法が採用されているとしているが、本記事の主要な典拠となっている {{Harvcoltxt|Kuipers|1974}} において見られる綴り方と先述の FirstVoices などにおいて見られる現行の綴り方には差異が認められる。このうち FirstVoices における現行のものは Lai (1998a:131) に示されたものと部分的に共通するところが見られる。以下では Kuipers (1974) と Lai (1998a) とを比較し、特に差が顕著であるものを挙げる。
{| class="wikitable"
! Kuipers (1974)
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なお、クイパーズは Kuipers (1974) では〈蚊〉を表す語を {{Unicode|''q'''°ə'''ním'''ə'''q'''λ'''''}} と表記しているが、翌年の {{Harvcoltxt|Kuipers|1975}} ではLai (1998a) や FirstVoices 寄りの ''q'''we'''ním'''e'''q'''ll''''' と記すなど、同一著者においても表記の揺れが見られる。
 
現行の綴り方はクイパーズによって<!--出典のLand of the Shuswapによると「およそ20年前に」-->編み出されたものであるが、母音字がシュスワプ語の音を正確に表していないという問題点が指摘されている<ref name="Secwepemctsin" />。以下が現行の[[アルファベット]]42文字である<ref>{{Cite web|url=http://www.landoftheshuswap.com/alphabet.html|title=Secwepemc alphabet|publisher=Land of the Shuswap|accessdate=2017-06-02}}</ref>。
* {{Unicode|a, c, cw, e, g, gw, g̓w, h, i, k, kw, k̓, k̓w, l, l̓, ll, m, m̓, n, n̓, o, p, p̓, q, qw, q̓, q̓w, r, r̓, s, t, ts, ts̓, t̓, u, w, w̓, x, xw, y, y̓, 7}}
 
== 音韻論 ==
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== 文法 ==
シュスワプ語には[[一人称]][[単数]]・[[複数]]、[[二人称]]単数・複数、[[三人称]]の区別が見られるが、このうち一人称複数には更に聞き手を含める[[一人称#包括形と除外形|包含]]({{Lang-en-short|inclusive}})と聞き手を含めない[[一人称#包括形と除外形|除外]]({{Lang-en-short|exclusive}})の違いが存在する。この包含と除外の区別はセイリッシュ語族の言語の中ではシュスワプ語にしか見られないものである<ref name="mt2000_17">テート(2000 (2000:17)。17).</ref>。こうした[[人称]]や[[数 (文法)|数]]の区別は名詞の所有形や動詞の活用に現れる。
 
=== 形態論 ===
シュスワプ語の主な語構成の方法は、[[重複]]{{Refnest|group=注|{{Lang-en-short|reduplication}}。形式の全体または一部が繰り返される[[形態論]]的な現象。一部が繰り返される例としては、[[ラテン語]]の ''momordi''〈私は噛んだ〉が、[[語根]] '''''mo'''rdi-'' から派生した[[語幹]] '''''momo'''rd-'' によることなどが挙げられる<ref>Matthews (2009d).</ref>。なお、[[サンスクリット]]の語根 '''''dhā'''-'' 〈置く〉から '''''dadhā'''mi''〈私は置く〉が、'''''hu'''-''〈くべる〉から '''''juho'''mi'' 〈私はくべる〉が生ずる<ref>ゴンダ (1974:57&ndash;59).</ref>ように、繰り返される子音や母音が全く同一のものではない重複の例も存在する。}}によるものと[[接辞]]によるものの2つである<ref name="mo1989a" />。Dryer (2013a) は {{Harvcoltxt|Kuipers|1974|p=passim}} から、シュスワプ語の[[語形変化|屈折変化]]において[[接頭辞]]が関わる傾向と[[接尾辞]]が関わる傾向とは同じ程度であると判断している。
 
シュスワプ語に限らずセイリッシュ語族の言語は動詞と名詞の区別がつけにくいとされている<ref>大島 (1989b).</ref><ref name="mt2000_17" />が、その原因はある1つの語根が場合によって名詞を表したり、〈…である〉という状態を動詞を表したりすることにある。このうち後者を指して「叙述名詞」と呼称する例も見られる<ref name="mo1989a" />。
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==== 重複(法) ====
シュスワプ語には様々な種類の[[重複]]({{Lang-en-short|reduplication}})が見られる<ref>{{Harvcoltxt|Kuipers|1974|p=37&ndash;38}}.</ref>。たとえば動詞や名詞の複数性を表すための全体重複({{Lang-en-short|total reduplication}}; 例: '''''kic'''x'' 〈彼/彼女が着く〉 → {{Unicode|'''''kəc'''-'''kíc'''x''}} 〈彼らが着く〉)や[[指小辞|指小]]化を表す子音重複({{Lang-en-short|consonant reduplication}}; 例: {{Unicode|'''''p'''ésəλk°e''}} 〈湖〉 → {{Unicode|'''''p'''é'''p'''səλk°e''}} 〈小さな湖〉)などである。このうち子音重複はもともと一人称単数の謙遜を表すためのものと思われ、デッドマンズクリーク方言ではまれである一方、カニム湖方言やアルカリ湖方言では義務的ではないものの当たり前のように見られる<ref>{{Harvcoltxt|Kuipers|1974|p=39}}.</ref>。
 
==== 名詞 ====
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}}
 
さて、日本語の「彼」(や「彼女」)の場合は以下の通り、前に形容詞(3a)や[[所有代名詞]](3b)、[[指示代名詞]](3c)を取ることが可能で(Kuroda 1965: 105; Noguchi 1997: 777)、その統語的特徴は名詞のものであるといえる<ref>Déchaine & Wiltschko (2003:77).</ref>。
{{例文
|label=(3) 日本語
915 ⟶ 918行目:
}}
 
しかしシュスワプ語の場合、以下に挙げるように名詞を複合的な名詞的述語({{Lang-en-short|complex nominal predicate}})の一部とすることは可能である(4a)が、独立代名詞を複合的な名詞的述語の一部として用いることは不可能である(4b)と Lai (1998a) は見ており、したがってシュスワプ語独立代名詞の性質は名詞的なものでもないと結論づけることが可能である<ref name="rmdmw2003_75" /><ref group="注">なお、Déchaine & Wiltschko (2003) は日本語の「彼」の分布を項と述語の2択では述語の方であるとしている。</ref>。
{{例文
|label=(4) シュスワプ語(Lai 1998a: 41)
942 ⟶ 945行目:
}}
 
以上により、Déchaine & Wiltschko はシュスワプ語の独立代名詞は限定詞句的でも名詞句的でもないものと結論づけている。なお以下のように、シュスワプ語の独立代名詞は述語(5a.)(5a)と項(5b.)(5b)いずれの機能も果たし得る<ref>Déchaine & Wiltschko (2003:76).</ref>。
{{例文
|label=(5) シュスワプ語
966 ⟶ 969行目:
|translation=私は彼を見た。
}}
 
== 手話 ==
Tyler ''et al.'' (1891:639&ndash;640) や {{Harvcoltxt|Teit|1909|p=567&ndash;568}} にはシュスワップ族の用いる人や動物、物などを表す[[ジェスチャー]]が「[[手話]]」({{Lang-en-short|sign languages}})として記録されており、その両方に共通する〈魚〉と〈魚の大群〉を表す動作は以下のようなものである。
* 魚(Fish): 片方の手を胸の前で水平に伸ばし、掌は下方または体の方に向け、水平面上で素早くくねらせる。
* 魚の大群(Many fish): 〈魚〉とほぼ同様であるが両手を用い、指をわずかに広げる。
 
== 脚注 ==
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* Gardiner, Dwight G. (1998). "Topic and focus in Shuswap (Secwepemctsín)." In Ewa Czaykowska-Higgins and M. Dale Kinkade (eds.) [https://books.google.co.jp/books?id=VBvD52-QKcAC&dq=Czaykowska-Higgins&hl=ja&source=gbs_navlinks_s ''Salish Languages and Linguistics: Theoretical and Descriptive Perspectives''], pp. 275&ndash;304. Berlin / New York: Mouton de Gruyter.
* Golla, Victor (2007). "North America." In Christopher Moseley (ed.) [http://ci.nii.ac.jp/ncid/BA81161236 ''Encyclopedia of the world's endangered languages''], pp. 1&ndash;95. London: Routledge. ISBN 978-0-7007-1197-0 Rep. [https://books.google.co.jp/books?id=p-7ON7Rvx_AC&dq=encyclopedia+of+the+world%27s+endangered+languages&hl=ja&source=gbs_navlinks_s 2008]. London / New York: Routledge.
* ゴンダ, J.{{enlink|Jan Gonda|a=on}} (1974).『サンスクリット語初等文法』[[辻直四郎]] 校閲、鎧淳 訳、春秋社。(原書: ''Kurze Elementar-Grammatik der Sanskrit-Sprache. Mit Übungsbeispielen, Lesestücken und einem Glossar''. 3te verbesserte Aufl., Leiden 1948.)
* {{Glottolog|shus1248|Shuswap}}
* {{Cite book|last=Kuipers|first=Aert H.|year=1974|title=The Shuswap Language: Grammar, Texts, Dictionary|url=https://wine.wul.waseda.ac.jp/search~S12*jpn?/aKuipers/akuipers/1%2C14%2C28%2CB/frameset&FF=akuipers+aert+hendrik&2%2C%2C3|location=The Hague|publisher=Mouton|ref=harv}}
1,007 ⟶ 1,016行目:
* 「限定詞句」 Matthews, P. H. 著、中島平三・瀬田幸人 監訳 (2009b).『オックスフォード言語学辞典』朝倉書店。ISBN 978-4-254-51030-0 (原書: ''The Concise Oxford Dictionary of Linguistics'', 1997.)
* 「項」 Matthews, P. H. 著、中島平三・瀬田幸人 監訳 (2009c).『オックスフォード言語学辞典』朝倉書店。ISBN 978-4-254-51030-0 (原書: ''The Concise Oxford Dictionary of Linguistics'', 1997.)
* 「重複」 Matthews, P. H. 著、中島平三・瀬田幸人 監訳 (2009d).『オックスフォード言語学辞典』朝倉書店。ISBN 978-4-254-51030-0 (原書: ''The Concise Oxford Dictionary of Linguistics'', 1997.)
* {{Cite book|last=Michel|first=Kathryn|year=2005|url=http://summit.sfu.ca/item/5641|title=You can't kill Coyote: Stories of language healing from Chief Atahm School Secwepemc language immersion program|publisher=MA thesis, Simon Fraser University|ref=harv}}
* 大島稔 (1989a).「シュスワプ語」 [[亀井孝 (国語学者)|亀井孝]]、[[河野六郎]]、[[千野栄一]] 編『[[言語学大辞典]]』第2巻、三省堂、225-227頁。ISBN 4-385-15216-0
1,012 ⟶ 1,022行目:
* 小学館ランダムハウス英和大辞典第2版編集委員会 (1994).『[[小学館ランダムハウス英和大辞典]]第2版』。ISBN 4-09-510101-6
* テート, メアリー (2000).「北アメリカ」 R. E. アシャー、クリストファー・マーズレイ 編、土田滋、[[福井勝義]] 日本語版監修、福井正子 翻訳『世界民族言語地図』東洋書林、3-24頁。ISBN 4-88721-399-9 (原書: ''Atlas of the World's Languages'', 1994, London: Routledge.)
* {{Cite book|last=Teit|first=James Alexander|year=1909|title=The Shuswap|location=Leiden|publisher=Brill|ref=harv}} [http://ci.nii.ac.jp/ncid/BA00756689 Rep. 1975. New York: AMS Press]. ISBN 0-404-58123-4
* Turner, R.J.W, R.G. Anderson, R. Franklin, M. Cathro, B. Madu, C. Huscroft, E. Frey, K. Favrholdt (2008). [https://books.google.co.jp/books?id=9iz-nux8JqEC&dq=Tk%27emlups&hl=ja&source=gbs_navlinks_s ''Geological Survey of Canada, Open File 5810: GeoTour guide for Kamloops, British Columbia'']. Natural Resources Canada{{enlink|Natural Resources Canada|a=on}}.
* Tyler, E. B. and W. Bloxam and Daniel Wilson and G. M. Dawson and H. Lefroy and R. G. Haliburton (1891). "Sixth report of the committee appointed to investigate the physical characters, languages, and industrial and social conditions of the North-Western Tribes of the Dominion of Canada." [https://books.google.co.jp/books?id=c-c4AAAAMAAJ&dq=Sequapmuq&hl=ja&source=gbs_navlinks_s ''Report of the meeting of the British Association for the Advancement of Science 60'']. 553&ndash;715.
 
== 関連文献 ==