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{{政党
|国名 = {{DEU1919}}
|党名 = バイエルン人民党
|公用語名 = {{lang|de|Bayerische Volkspartei}}
|色相 = #98F5FF
|画像 =Flag of Bavaria (lozengy).svg
|党首職名 =
|党首氏名 =
|成立年月日 = [[1918年]]12月
|解散年月日 = [[1933年]][[7月5日]]
|解散理由 =
|本部所在地 = [[バイエルン州]]・[[ミュンヘン]]
|前身政党 = [[中央党 (ドイツ)|中央党]]バイエルン支部
|後継政党 = [[キリスト教社会同盟]]<br>[[バイエルン民族党]]
|政治的思想・立場 = 保守主義<br>連邦主義{{sfn|プリダム|1975|p=78}}<br>バイエルン分邦主義{{sfn|プリダム|1975|p=87}}<br>[[カトリック]]政党{{sfn|プリダム|1975|p=77}}
|機関紙 = 「バイエルン速報(Bayerischer Kurier)」{{sfn|プリダム|1975|p=78/417}}
|シンボル =
|公式カラー = {{Color box|#98F5FF|border=darkgray}}{{Color box|#FFFFFF|border=darkgray}} [[青]], [[白]]
|国際組織 =
|その他 =
}}
'''バイエルン人民党'''（バイエルンじんみんとう、{{lang-de|Bayerische Volkspartei}}、略称BVP）は、[[ヴァイマル共和政]]期の[[ドイツ]]・[[バイエルン州]]の地域政党。[[保守]]的な[[カトリック教会|カトリック]][[政党]]だった。バイエルン人民党{{sfn|林健太郎|1963|p=214-215}}の他、'''バイエルン国民党'''<ref>{{harvnb|成瀬治|山田欣吾|木村靖二|1997|p=27(索引)}}、{{harvnb|モーレンツ|船戸満之|1978|p=134}}、{{harvnb|モムゼン|2001|p=52}}</ref>とも訳される。ヴァイマル共和政期を通じて{{仮リンク|バイエルン州議会 (ヴァイマル共和政)|label=バイエルン州議会|de|Bayerischer Landtag (Weimarer Republik)}}で第一党を維持し続け、[[1920年]]以降バイエルン州首相を輩出する与党となった。とりわけ[[ハインリヒ・ヘルト]]は[[1924年]]から[[1933年]]までの9年にわたってバイルン州首相を務めた。[[1930年]]以降は少数与党政権となり、[[1933年]]に[[国家社会主義ドイツ労働者党]](NSDAP、ナチス)が中央政権を獲得すると[[強制的同一化]]政策の中でバイエルン州政府は解体され、バイエルン人民党も自主解散に追い込まれた。
==
=== アイスナー政権下 (1918年-1919年) ===
[[第一次世界大戦]]末期の[[ドイツ革命]]の中で[[バイエルン王国]]と[[ヴィッテルスバッハ家|ヴィッテルスバッハ王室]]が廃され、[[ドイツ独立社会民主党|独立社会民主党]]の[[クルト・アイスナー]]率いるバイエルン共和国（バイエルン州）が樹立された。この革命の進展にバイエルンのブルジョワ勢力はなすすべもなかったが、勢力の立て直しを図るべく組織の改組を急いだ{{sfn|モーレンツ|船戸満之|1978|p=32-33}}。またヴァイマル共和政初期の中央集権的傾向に対するバイエルン人の危機感も強まっていた{{sfn|プリダム|1975|p=77}}。
[[file:Georg Heim 1906JS.jpg|thumb|バイエルン人民党創設者{{仮リンク|ゲオルク・ハイム (政治家)|label=ゲオルク・ハイム|de|Georg Heim}}]]
そうした流れの一つとして[[1918年]][[11月12日]]に[[中央党 (ドイツ)|中央党]]バイエルン支部とカトリック労働組合の人々が[[レーゲンスブルク]]に集まり{{sfn|モーレンツ|船戸満之|1978|p=134}}、中央党バイエルン支部指導者だった{{仮リンク|ゲオルク・ハイム (政治家)|label=ゲオルク・ハイム|de|Georg Heim}}の主導でバイエルン人民党を結成した{{sfn|プリダム|1975|p=77}}。キリスト教的社会綱領を掲げるとともにバイエルンの独立性を強調し{{sfn|モーレンツ|船戸満之|1978|p=32}}、中央党本部の[[マティアス・エルツベルガー]]の中央集権政策に反対した<ref name="LeMO">{{cite web |url=https://www.dhm.de/lemo/kapitel/weimarer-republik/innenpolitik/dhp.html|title=Deutsch-Hannoversche Partei (DHP)|website=LeMO - Lebendiges Museum Online|access-date=2018年7月12日}}</ref>。
アイスナーはバイエルン人民党をはじめとするブルジョワ諸政党をほとんど考慮に入れていなかったが、バイエルン人民党は[[ミュンヘン]]で高まる[[ボルシェヴィキ|ボルシェヴィズム]]的風潮を警戒して[[レーテ]]による不当な政治干渉を防止すべく、{{仮リンク|バイエルン州議会 (ヴァイマル共和政)|label=バイエルン州議会|de|Bayerischer Landtag (Weimarer Republik)}}の招集を求める運動を展開した{{sfn|モーレンツ|船戸満之|1978|p=33-34}}。[[ドイツ社会民主党]](SPD)も議会招集を求める運動を行ったため、レーテに偏っていたアイスナーもついに議会招集を認めた{{sfn|モーレンツ|船戸満之|1978|p=41}}。
1919年1月12日と2月2日に行われた{{仮リンク|1919年バイエルン州議会選挙|label=バイエルン州議会選挙|de|Landtagswahl in Bayern 1919}}でバイエルン人民党は35%の得票を得て66議席を獲得し、第一党となった。アイスナーの独立社民党はわずか2.5%の得票で3議席しか取れなかった。この選挙結果を受けてバイエルン人民党をはじめとするブルジョワ諸政党と社民党は議会召集に加えてアイスナーの退陣を求めた。逆にレーテ派はますます議会招集を嫌がるようになり、レーテ派と議会派の対立は先鋭化していった{{sfn|モーレンツ|船戸満之|1978|p=44-45}}。
しかし社民党の運動により、2月19日のバイエルンレーテ大会はレーテの全権能を2月21日に開会される議会に譲渡することを決議した。アイスナーは2月21日にバイエルン議会に登院し、そこで辞職を表明する予定だったが、その道中に右翼青年将校[[アントン・グラーフ・フォン・アルコ・アオフ・ファーライ]]伯爵(バイエルン人民党員)に暗殺された。同日の議会で極左{{仮リンク|アロイス・リンドナー|de|Alois Lindner}}が内相{{仮リンク|エアハルト・アウアー|de|Erhard Auer}}を暗殺の黒幕と信じて銃撃したことで議会内が混乱状態に陥り、傍聴席からも銃撃が起こってバイエルン人民党所属議員{{仮リンク|ハインリヒ・オーゼル|de|Heinrich Osel}}が殺害される事態になった{{sfn|モーレンツ|船戸満之|1978|p=188}}。
=== ホフマン政権 (1919年-1920年) ===
[[File:Plakat Bayerische Volkspartei 1919.jpg|thumb|1919年のバイエルン人民党のポスター]]
1919年2月21日以降、麻痺した議会に代わってバイエルンレーテ中央評議会が権力を掌握したが、社民党と独立社民党の交渉で[[ヨハネス・ホフマン]](社民党)を首相とする社民党・独立社民党連立政権が作られることになった。バイエルン人民党は選挙に勝利して第一党になっていたにも関わらず、全くの少数派である独立社民党が社民党と連立して政権を作るのを黙認した。今は自分たち自らが組閣することより議会政治への移行を円滑に進めねばならない時だと考えたためである{{sfn|モーレンツ|船戸満之|1978|p=56-57}}。
3月17日に議会が招集されたが、バイエルン人民党はじめブルジョワ諸政党が妥協する形で全会一致でホフマンが首相に選出された。しかし議会は議会派とレーテ派の危うい均衡の上に開催されただけだったのでホフマン政権選出後すぐに議会は閉会され、レーテとホフマン政権の合意によりしばらくは議会抜きで政治を行うことになった{{sfn|モーレンツ|船戸満之|1978|p=63}}。4月7日にレーテ派がミュンヘンで革命を起こして[[バイエルン・レーテ共和国|レーテ共和国]]が樹立され、ホフマン政権がバンベルクへ逃れる事態となるも中央政府からの援軍も得て、5月初旬にレーテ共和国を壊滅させた{{sfn|モーレンツ|船戸満之|1978|p=209-263}}。
ミュンヘンを奪還したホフマン政権は内閣改造を行い、バイエルン人民党所属の{{仮リンク|カール・フォン・フライベルク|de|Karl von Freyberg}}男爵が財相としてホフマン内閣に入閣した{{sfn|モーレンツ|船戸満之|1978|p=275}}。
=== バイエルン人民党政権 (1920年-1933年) ===
1920年3月に[[カップ一揆]]の余波でバイエルンでも右派の無血クーデタが起きてホフマン政権は打倒された。その後バイエルン人民党の政治家[[グスタフ・フォン・カール]]がバイエルン首相に就任。以降バイエルンでは「秩序細胞バイエルン（Ordnungszelle Bayern）」と呼ばれるバイエルン人民党員を首相とする保守政権が続き、バイエルン人民党が歴代政権を支えていくことになる<ref name="LeMO"/>。また中央政府においても1922年に社民党が政権から離脱した後の中央党を中心としたブルジョワ政党連立政権に参加することが多かった{{sfn|林健太郎|1963|p=214}}。
[[1923年]]秋に中央政府がルール地方でのフランス軍に対する消極的抵抗を停止したが、バイエルン人民党のバイエルン州首相[[オイゲン・フォン・クニリング]]はそれに反対して非常事態宣言を発令し、カールを州総督に任命して独裁権を与えた。しかし[[国家社会主義ドイツ労働者党]](ナチス)による[[ミュンヘン一揆]]が起き、カールは辞職、一揆の事後収拾をめぐって党内で不満が高まっていたクニリングも1924年に辞職することになった。バイエルン人民党は代わりに党の州議員団長である[[ハインリヒ・ヘルト]]を州首相に選出した。以降ヴァイマル共和政が終わるまでの9年間、ヘルトがバイエルン人民党を与党としながら州首相を務めることになる{{sfn|プリダム|1975|p=21/25}}。
[[File:Heinrich held 102 01176crop.png|thumb|バイエルン州首相[[ハインリヒ・ヘルト]]]]
1925年の[[1925年ドイツ大統領選挙|大統領選挙]]の第1次選挙にはヘルトが出馬したが、バイエルン外に支持が広がらず3.7%の得票しか得られなかった。第二次投票では中央党の候補で敬虔なカトリックだった[[ヴィルヘルム・マルクス]]を推さずにプロテスタントのプロイセン元帥[[パウル・フォン・ヒンデンブルク]]を推した。これは中央党が社民党と組んでいたことに対する嫌悪感だった。ただカトリック聖職者には党のこの決定に反発する者が多く、地方司祭にそそのかされてマルクスへ投票するバイエルン人民党員が多数出た。全体としてはバイエルン人民党員はヒンデンブルクに投票した者の方が多かったが、棄権率も高かった。これは聖職者と党の対立に困惑した者と思われる{{sfn|プリダム|1975|p=79-80}}。
バイエルン州議会ではバイエルン人民党が常に第一党を占めていたものの、単独過半数は取れず、そのため1930年7月に連立を組んでいた{{仮リンク|バイエルン農民同盟|label=バイエルン農民・中産階級同盟|de|Bayerischer Bauernbund}}が屠殺税に反対して政権から離脱するとヘルト内閣は州議会で過半数を有していない少数政権になった{{sfn|プリダム|1975|p=140}}。
[[1932年]]春の[[1932年ドイツ大統領選挙|大統領選挙]]の際にはバイエルン人民党党首{{仮リンク|フリッツ・シェッファー|de|Fritz Schäffer}}は、中央党の[[ハインリヒ・ブリューニング]]に出馬を求めたが、ブリューニングはヒンデンブルクに恩義を感じていたのでこの案は実現せず、結局バイエルン人民党はヒンデンブルクを支持することになった{{sfn|プリダム|1975|p=309-310}}。
その直後の1932年4月24日の{{仮リンク|1932年バイエルン州議会選挙|label=州議会選挙|de|Landtagswahl in Bayern 1932}}でバイエルン人民党は得票率32.6%を得て45議席を獲得して第一党を維持したが、ナチ党が32.5%の得票を得て43議席を獲得する躍進をした。バイエルン農民・中産階級同盟は9議席に減り、社民党も20議席に減った。1930年以降「事務管理」内閣（少数派政権）として続いていたヘルト内閣としてはナチ党と社民党どちらかと連立を組めば州議会内の多数派形成ができたが、ヘルトや党内多数派はどちらとも連立を組みたがらなかった。一方党首シェッファーは社民党との連立を希望したため、ヘルトとシェッファーの関係が緊張した。結局ヘルト政権は少数派政権を維持することになった{{sfn|プリダム|1975|p=320-321}}。
中央政府との関係ではバイエルン人民党は1930年以来ヒンデンブルク大統領とブリューニング首相の大統領内閣を支持してきたが、1932年5月末にブリューニングが罷免され、6月に[[フランツ・フォン・パーペン]]が首相に就任すると[[突撃隊]]禁止令解除や{{仮リンク|プロイセン・クーデタ|de|Preußenschlag}}などをめぐってパーペン政権と対立を深めた（バイエルン人民党は突撃隊禁止解除に反対し、またプロイセン・クーデタについては邦の独立性侵害と見做してバイエルン政府として{{仮リンク|ドイツ国事裁判所|label=国事裁判所|de|Staatsgerichtshof für das Deutsche Reich}}への提訴を行った）{{sfn|プリダム|1975|p=321-324}}。
=== バイエルン州政府の解体 ===
[[1933年]][[1月30日]]に中央政府でナチ党党首[[アドルフ・ヒトラー]]がヒンデンブルク大統領により首相に任命された。バイエルン人民党はパーペン時代のプロイセン・クーデタのようなことがバイエルンに対して行われることを恐れていたため,、2月17日にもバイエルン人民党党首シェッファーが大統領に謁見。大統領はバイエルン政府にいら立っていたものの、シェッファーがバイエルンに帰国した後、プロイセンのように国家全権委員をバイエルンに送り込むことはしないことを確約した{{sfn|プリダム|1975|p=346-347}}。
だがヒトラー内閣内務大臣[[ヴィルヘルム・フリック]]が「[[強制的同質化]]」計画を口にするようになったうえ、2月28日には「邦が治安維持のために必要な措置を講じない場合は当該邦の全面的支配権が中央政府にゆだねられる」という規定を含む「{{仮リンク|国民及び国家保護のための大統領緊急令|de|Verordnung des Reichspräsidenten zum Schutz von Volk und Staat}}」が発令された{{sfn|プリダム|1975|p=348}}。
警戒を強めたバイエルン人民党内では旧バイエルン王室の[[ヴィッテルスバッハ家]]の[[王政復古]]計画が進められた。シェッファーは[[ループレヒト (バイエルン王太子)|ループレヒト皇太子]]と接触し、皇太子から「バイエルン政府が全面的に支えてくれるなら復位の用意がある」との確約を取り付けた。この計画はナチスに対する復古主義保守派の挑戦的意思表示にはなったものの、バイエルン住民の熱烈な支持を受けることはなかった。ヴィッテルスバッハ王室がいまなおバイエルン住民の広範な指示を受けているというのは俗説にすぎず、もはやバイエルンに王党派など知識人層を除いてはほとんどいなかった。ヘルトも王政復古に慎重姿勢を崩さなかった{{sfn|プリダム|1975|p=349}}。
大統領緊急令の翌日にヘルトはベルリンに召集され、ヒトラーと会談した。ヘルトはヒトラーとの対決を回避すべく、これまでのバイエルン政府が歴代ドイツ首相に対してそうしてきたのと同様にヒトラーにも敬意を払うことを約束した。ヒトラーの方も[[ハンブルク]]や{{仮リンク|ヘッセン人民国|label=ヘッセン|de|Volksstaat Hessen}}などいくつかの邦に中央政府が介入したのはそれらの邦を社民党が牛耳っていたためであり、保守派が牛耳るバイエルンにはそうした行動をとるつもりはないと約束した。ただヒトラーは王政復古はいかなる形でも認めず、もしバイエルンが王政復古を強行した場合には軍が差し向けられることも示唆した。ヘルトはもとより王政復古を真面目に考えていたわけではなかったので、ひとまず安堵して帰国の途についた{{sfn|プリダム|1975|p=349}}。
ところが1933年3月5日の[[1933年3月ドイツ国会選挙|国会選挙]]にナチ党が大勝すると、ナチ党政権はこの最新の選挙結果をすべての邦政府に反映させるべきと主張して各邦に中央政府に自治権を譲渡するよう圧力をかけるようになった。[[ブレーメン]]とヘッセンは3月6日、{{仮リンク|バーデン共和国|label=バーデン|de|Republik Baden}}と{{仮リンク|ヴュルテンベルク自由人民国|label=ヴュルテンベルク|de|Volksstaat Württemberg}}、[[ザクセン]]は3月8日に自主権を中央政府に移譲した。危機感を抱いたバイエルンのヘルト政府は再度ヒンデンブルク大統領からバイエルンに国家全権委員が送られることはないとの確約を取ろうとしたが、3月9日にはナチスの突撃隊と[[親衛隊 (ナチス)|親衛隊]]がミュンヘンでクーデタを起こすとの噂が広まった。ヘルトはこの件についてミュンヘン警視総監と邦外務省で会議し、邦警察部隊やバイエルン人民党が保有する[[準軍事組織]]「{{仮リンク|バイエルン護衛団|de|Bayernwacht}}」の動員も検討したが、いずれも突撃隊に対抗できるような戦闘力をもっていなかったため、断念した。その日の夜にヘルトはナチ党代表団（ミュンヘン大管区指導者[[アドルフ・ワーグナー (政治家)|アドルフ・ヴァーグナー]]、突撃隊幕僚長[[エルンスト・レーム]]、親衛隊全国指導者[[ハインリヒ・ヒムラー]]、[[フランツ・フォン・エップ]]ら）と会談したが、彼らは中央政府内務大臣フリックが2月28日の大統領緊急令第2条に基づいてエップをバイエルンの国家全権委員に任命したことをヘルトに通告した。絶望したヘルトは国家全権委員任命に関する落胆の気持ちを大統領に打電した後、ミュンヘンを去ってスイスへ移住した{{sfn|プリダム|1975|p=355-358}}。
ヒトラーはバイエルンの反発を抑えるため、エップ政権に{{仮リンク|オイゲン・フォン・クヴァート・ツー・ヴィクラート・ウント・イズニ|de|Eugen von Quadt zu Wykradt und Isny}}伯爵(バイエルン経済相)などバイエルン人民党員の入閣を許した{{sfn|プリダム|1975|p=358}}。
=== 解党 ===
ミュンヘン警視総監となったハインリヒ・ヒムラーと総監補佐[[ラインハルト・ハイドリヒ]]の指揮のもと、親衛隊がミュンヘンで政敵の逮捕を行うようになった。共産党員と社民党員がその中心だったが、カトリックとナチ党政権の対立が深まってくるとバイエルン人民党員からも逮捕者が出るようになった。そのため晩春にはバイエルン人民党は集会を開くのを中止するようになった。6月にヒムラーからナチ党を除くすべての政治団体の集会を禁止する通達が出されたのを受けて、バイエルン人民党幹部は7月4日に党の解党を決定した{{sfn|プリダム|1975|p=365}}。
== 党の主張 ==
キリスト教の価値観を公的生活に適用することを唱えた。とりわけ家庭生活の伝統的美徳、結婚の神聖性と永遠性、児童の宗教教育を重視した{{sfn|プリダム|1975|p=78}}。
バイエルン人民党は[[第一共和国 (オーストリア)|オーストリア]]の{{仮リンク|キリスト教社会党 (オーストリア)|label=キリスト教社会党|de|Christlichsoziale Partei (Österreich)}}と連帯関係を持っており、オーストリアとの「ドイツ再統一」を訴えていた。カトリックが多いオーストリアを併合すればドイツのカトリック的要素が強化されるし、ドイツ人愛国感情にも訴えかけることができるので、当時幅広い支持が期待できる主張だった{{sfn|プリダム|1975|p=78}}。
== 党の基盤・支持層 ==
バイエルン人民党はバイエルン州議会では常に第一党を占め続けた。1932年4月の{{仮リンク|1932年バイエルン州議会選挙|label=州議会選挙|de|Landtagswahl in Bayern 1932}}では[[国家社会主義ドイツ労働者党]](NSDAP、ナチス)に肉薄されながらも僅差で第一党を維持した<ref>[http://www.gonschior.de/weimar/Bayern/LT5.html Gonschior.de]</ref>。[[国会 (ドイツ)|国会]]選挙でも1930年の[[1930年ドイツ国会選挙|総選挙]]まではバイエルンにおいてもっとも得票していた党だった（1932年7月以降の総選挙でナチ党に抜かれている）<ref>[http://www.gonschior.de/weimar/Bayern/Uebersicht_RTW.html Gonschior.de Der Freistaat Bayern Reichstagswahlen 1919–1933]</ref>。
バイエルン人民党がバイエルンに強固な地盤を持った背景は、バイエルンにおけるカトリックの多さ、および地方感情の強さである。バイエルン人民党はバイエルンのカトリック教会の支援を受けていたが、バイエルンではカトリック団が各地に張り巡らされ、町や村での生活は地方司祭が重要な役割を果たした。こうした社会構造がバイエルン人民党を強力に支えていたのである{{sfn|プリダム|1975|p=77}}。バイエルンであっても[[オーバーフランケン|上]]・[[ミッテルフランケン|中フランケン]]地方（[[アイヒシュテット]]や[[バンベルク]]のようなカトリックの「飛び地」は除く）はカトリックが少なく、プロテスタントが多かったため、ここはバイエルン人民党の弱点となる地域であった{{sfn|プリダム|1975|p=86-87}}。
ヴァイマル共和政末期にバイエルン人民党が州議会選挙でナチスに肉薄され、あるいは国会選挙のバイエルンの選挙区でナチスに追い抜かれたのは、ナチスがバイエルンの農村に食い込むことに成功したこと、およびバイエルン人民党の支持層であるカトリックにナチス支持層が増えたせいだった。カトリックは1870年代の[[オットー・フォン・ビスマルク|ビスマルク]]との[[文化闘争]]の時代には一致して中央党に投票したものだが、文化闘争が終息した後はカトリックが宗派政党へ投票する率は減少傾向が続いていた。バイエルンでは比較的宗派政党に投票する傾向が強く、それがバイエルン人民党の武器になってきたわけだが、憲法によって教会の権利が保障され、中央党が政界で確固たる役割を果たしているヴァイマル共和政の中にあってはカトリックが宗派政党に投票するメリットは少なく、いよいよバイエルンでも宗派政党に投票する人が減り始め、それ以外の政策の良し悪しで投票先を決める人が増えていたのである。そのためカトリックの間でも包括政党であるナチスの人気が高まっていったのである{{sfn|プリダム|1975|p=188-189}}。
== 著名な党員 ==
*[[アントン・グラーフ・フォン・アルコ・アオフ・ファーライ]]伯爵（アイスナー暗殺犯）
*[[フランツ・フォン・エップ]] - ナチ党へ移籍。バイエルン州国家全権委員
*{{仮リンク|ハインリヒ・オーゼル|de|Heinrich Osel}}（バイエルン州議会議員。アイスナー暗殺の日の議会で暗殺された）
*[[グスタフ・フォン・カール]]（バイエルン首相、バイエルン総督）
*{{仮リンク|オイゲン・フォン・クヴァート・ツー・ヴィクラート・ウント・イズニ|de|Eugen von Quadt zu Wykradt und Isny}}伯爵（バイエルン経済相。解党後ナチ党へ移籍）
*[[オイゲン・フォン・クニリング]]（バイエルン州首相）
*{{仮リンク|アルフォンス・ゴッペル|de|Alfons Goppel}}（解党後ナチ党へ移籍。戦後[[キリスト教社会同盟]]へ移籍しバイエルン首相）
*{{仮リンク|ハンス・ザイデル|de|Hanns Seidel}}（戦後[[キリスト教社会同盟]]へ入党しバイエルン首相）
*{{仮リンク|フリッツ・シェッファー|de|Fritz Schäffer}}（バイエルン人民党党首）
*[[ルートヴィヒ・ジーヴェルト]]（ナチ党へ移籍。バイエルン州首相）
*[[ハインリヒ・ヒムラー]]（ナチ党へ移籍。ナチス[[親衛隊全国指導者]]、ドイツ内相、全ドイツ警察長官）
*{{仮リンク|カール・フォン・フライベルク|de|Karl von Freyberg}}男爵（バイエルン財相）
*[[ハインリヒ・ヘルト]]（バイエルン州首相）
*{{仮リンク|ヨゼフ・ミュラー (1898-1979)|label=ヨゼフ・ミュラー|de|Josef Müller (Politiker, 1898)}}（戦後[[キリスト教社会同盟]]党首）
*{{仮リンク|ゲオルク・レーナー|de|Georg Lörner}}（ナチ党へ移籍。[[親衛隊経済管理本部]]高官、[[親衛隊中将]]）
*[[フーゴー・マックス・グラーフ・フォン・ウント・ツー・レルヒェンフェルト・アオフ・ケーフェリング・ウント・シェーンベルク]]伯爵（バイエルン首相）
== 選挙結果 ==
=== 国会 ===
{| class="wikitable"
!選挙日!!得票!!得票率!!
|-
|[[1920年ドイツ国会選挙|1920年6月6日]]||align="right"|1,173,344票||align="right"|4.2%||align="right"|20議席 (459議席)||第7党{{efn|[[ドイツ社会民主党]](SPD)、[[ドイツ独立社会民主党]](USPD)、[[ドイツ国家人民党]](DNVP)、[[ドイツ人民党]](DVP)、[[中央党 (ドイツ)|中央党]](Zentrum)、[[ドイツ民主党]](DDP)に次ぐ}}
|-
|[[1924年5月ドイツ国会選挙|1924年5月4日]]||align="right"|946,648票||align="right"|3.2%||align="right"|16議席 (472議席)||第8党{{efn|[[ドイツ社会民主党]](SPD)、[[ドイツ国家人民党]](DNVP)、[[中央党 (ドイツ)|中央党]](Zentrum)、[[ドイツ共産党]](KPD)、[[ドイツ人民党]](DVP)、[[国家社会主義自由運動|国家社会主義自由党]](NSFP)、[[ドイツ民主党]](DDP)に次ぐ}}
|-
|[[1924年12月ドイツ国会選挙|1924年12月7日]]||align="right"|1,134,035票||align="right"|3.7%||align="right"|19議席 (493議席)||第7党{{efn|[[ドイツ社会民主党]](SPD)、[[ドイツ国家人民党]](DNVP)、[[中央党 (ドイツ)|中央党]](Zentrum)、[[ドイツ人民党]](DVP)、[[ドイツ共産党]](KPD)、[[ドイツ民主党]](DDP)に次ぐ}}
|-
|[[1928年ドイツ国会選挙|1928年5月20日]]||align="right"|945,644票||align="right"|3.1%||align="right"|17議席 (491議席)||第8党{{efn|[[ドイツ社会民主党]](SPD)、[[ドイツ国家人民党]](DNVP)、[[中央党 (ドイツ)|中央党]](Zentrum)、[[ドイツ共産党]](KPD)、[[ドイツ人民党]](DVP)、[[ドイツ民主党]](DDP)、[[ドイツ中産階級帝国党]]("WP")に次ぐ}}
|-
|[[1930年ドイツ国会選挙|1930年9月14日]]||align="right"|1,058,637票||align="right"|3.0%||align="right"|19議席 (577議席)||第10党{{efn|[[ドイツ社会民主党]](SPD)、[[国家社会主義ドイツ労働者党]](NSDAP)、[[ドイツ共産党]](KPD)、[[中央党 (ドイツ)|中央党]](Zentrum)、[[ドイツ国家人民党]](DNVP)、[[ドイツ人民党]](DVP)、[[ドイツ民主党|ドイツ国家党]](DStP)、、[[ドイツ中産階級帝国党]]("WP")、[[キリスト教国家農民及び農村住民党]](CNBL)に次ぐ}}
|-
|[[1932年7月ドイツ国会選挙|1932年7月31日]]||align="right"|1,192,684票||align="right"|3.2%||align="right"|22議席 (608議席)||第6党{{efn|[[国家社会主義ドイツ労働者党]](NSDAP)、[[ドイツ社会民主党]](SPD)、[[ドイツ共産党]](KPD)、[[中央党 (ドイツ)|中央党]](Zentrum)、[[ドイツ国家人民党]](DNVP)に次ぐ|name=注釈1}}
|-
|[[1932年11月ドイツ国会選挙|1932年11月6日]]||
|-
|[[1933年3月ドイツ国会選挙|1933年3月5日]]||
|-
| align="center" colspan=5| 出典：[http://www.gonschior.de/weimar/Deutschland/Uebersicht_RTW.html Gonschior.de]
|}
=== バイエルン州議会 ===
{| class="wikitable"
!選挙日!!得票!!得票率!!議席数 (総議席数)!!議席順位
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|{{仮リンク|1919年バイエルン州議会選挙|label=1919年1月12日/2月2日|de|Landtagswahl in Bayern 1919}}||align="right"|1,193,101票||align="right"|35.0%||align="right"|66議席 (180議席)||第1党
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|{{仮リンク|1920年バイエルン州議会選挙|label=1920年6月6日|de|Landtagswahl in Bayern 1920}}||align="right"|1,193,101票||align="right"|39.4%||align="right"|65議席 (155議席)||第1党
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|{{仮リンク|1924年バイエルン州議会選挙|label=1924年4月6日/5月4日|de|Landtagswahl in Bayern 1924}}||align="right"|982,348票||align="right"|32.8%||align="right"|46議席 (129議席)||第1党
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|{{仮リンク|1928年バイエルン州議会選挙|label=1928年5月20日|de|Landtagswahl in Bayern 1928}}||align="right"|1,045,963票||align="right"|31.6%||align="right"|46議席 (128議席)||第1党
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|{{仮リンク|1932年バイエルン州議会選挙|label=1932年4月24日|de|Landtagswahl in Bayern 1932}}||align="right"|1,272,005票||align="right"|32.6%||align="right"|45議席 (128議席)||第1党
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| align="center" colspan=5| 出典：[http://www.gonschior.de/weimar/Bayern/Uebersicht_LTW.html Gonschior.de]
|}
== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
=== 注釈 ===
{{Reflist|group=注釈|1}}
=== 出典 ===
{{reflist|1}}
== 参考文献 ==
*{{Cite book|和書|author=[[林健太郎 (歴史学者)|林健太郎]]|year=1963|title=ワイマル共和国 ：ヒトラーを出現させたもの|publisher=[[中公新書]]|isbn=978-4121000279|ref=harv}}
*{{Cite book|和書|last=プリダム|first=G.|translator=[[垂水節子]]・[[豊永泰子]]|year=1975|title=ヒトラー・権力への道：ナチズムとバイエルン1923-1933年|publisher=[[時事通信社]]|asin=B000J9FNO0|ref=harv}}
*{{Cite book|和書|author=[[成瀬治]]|author2=[[山田欣吾]]|author3=[[木村靖二]]|year=1997|title=ドイツ史〈3〉1890年~現在|series=世界歴史大系|publisher=[[山川出版社]]|isbn=978-4634461406|ref=harv}}
*{{Cite book|和書|first=ハンス|last=モムゼン|translator=[[関口宏道]]|year=2001|title=ヴァイマール共和国史―民主主義の崩壊とナチスの台頭|publisher=[[水声社]]|isbn=978-4891764494|ref=harv}}
*{{Cite book|和書|author=モーレンツ||author2=[[船戸満之]]|translator=[[守山晃]]|year=1978|title=バイエルン1919年―革命と反革命|series=白水叢書27|publisher=白水社|ref=harv}}
== 関連項目 ==
*{{仮リンク|バイエルン護衛団|de|Bayernwacht}} - バイエルン人民党が保有していた準軍事組織
*[[キリスト教社会同盟]]（CSU） - バイエルン人民党の後継者を自認している。
== 外部リンク ==
*{{commonscat-inline|Bayerische Volkspartei|バイエルン人民党}}
{{ドイツの政党}}
{{Normdaten}}
{{DEFAULTSORT:はいえるんしんみんとう}}
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[[Category:保守政党]]
[[Category:キリスト教系政党]]
[[Category:ドイツのカトリック]]
[[Category:1918年設立]]
[[Category:1933年廃止]]
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