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{{暴力的}}
{{Infobox 事件・事故
|名称=熊野一族7人殺害事件
|正式名称=
|画像={{Infobox mapframe|frame-width=300|zoom=13|type=point}}
|脚注=
|場所={{JPN}}・[[三重県]][[熊野市]][[二木島町]]251-3<ref group="新聞" name="中日新聞1980-02-01 朝刊1面"/>
|緯度度=33|緯度分=56|緯度秒=2.198|N(北緯)及びS(南緯)=N
|経度度=136|経度分=11|経度秒=13.916|E(東経)及びW(西経)=E
|標的=家族・親類<ref group="新聞" name="中日新聞1980-02-01 朝刊1面"/>
|日付=[[1980年]]（[[昭和]]55年）[[1月31日]]<ref group="新聞" name="中日新聞1980-02-01 朝刊1面"/>
|時間=
|開始時刻=午後6時ごろ（斧を持ち出して暴れる）<ref group="新聞" name="経緯"/>
|終了時刻=午後7時13分ごろ（犯人自殺）<ref group="新聞" name="中日新聞1980-02-01 朝刊1面"/>
|時間帯=[[UTC+9]]
|概要=農家の男が家族・親類を自宅に呼び集めて猟銃・斧で7人を殺害して3人に重軽傷を負わせ、自宅に籠城した末に凶器の猟銃で自殺した<ref group="新聞" name="中日新聞1980-02-01 朝刊1面"/>。
|懸賞金=
|原因=
|手段=散弾銃を乱射・斧で切りつける<ref group="新聞" name="中日新聞1980-02-01 朝刊1面"/>
|攻撃側人数=1人<ref group="新聞" name="中日新聞1980-02-01 朝刊1面"/>
|武器=猟銃（[[散弾銃]]）・[[斧]]<ref group="新聞" name="中日新聞1980-02-01 朝刊1面"/>
|兵器=
|死亡=計8人（被害者7人＋犯人1人）<ref group="新聞" name="中日新聞1980-02-01 朝刊1面"/>
|負傷=計3人<ref group="新聞" name="中日新聞1980-02-01 朝刊1面"/>
|犯人=農家の男（事件当時44歳、犯行後に自殺）<ref group="新聞" name="中日新聞1980-02-01 朝刊1面"/>
|動機=長男の病気を苦にした[[心中|無理心中]]？<ref group="新聞" name="中日新聞1980-02-01 朝刊1面"/>
|対処=被疑者死亡のため[[不起訴処分]]
|影響=熊野署がかつて経験したことのない「犯罪史上最大級の事件」であり<ref group="新聞" name="最大級事件"/>、『[[中日新聞]]』（[[中日新聞社]]）は本事件を「『[[八つ墓村]]』（[[横溝正史]]）を思わせる大事件」と報道した<ref group="新聞" name="中日新聞1980-02-01 朝刊23面"/>。<br>事件当時近隣集落に住んでいた[[中上健次]]は本事件を題材とした映画『[[火まつり (映画)|火まつり]]』（[[映画監督|監督]]：[[柳町光男]]、1985年）の脚本を執筆した<ref group="新聞" name="朝日新聞1992-08-12"/><ref group="新聞" name="朝日新聞2012-06-15"/>。
|管轄=[[三重県警察]]（県警本部[[刑事部|捜査一課]]・[[熊野警察署]]）<ref group="新聞" name="中日新聞1980-02-01 朝刊1面"/>
}}
'''熊野一族7人殺害事件'''（くまのいちぞくしちにんさつがいじけん）とは、[[1980年]]（[[昭和]]55年）[[1月31日]]夕方に[[三重県]][[熊野市]][[二木島町]]の集落で7人が殺害された[[大量殺人]]事件<ref group="新聞" name="中日新聞1980-02-01 朝刊1面">『[[中日新聞]]』1980年2月1日朝刊第23版1面「熊野 猟銃とオノで7人惨殺 家族、親類を次々 自宅へ呼び集め 犯人の男も自殺 長男の病気を苦に無理心中図る？」</ref><ref group="新聞" name="中日新聞1980-02-01 朝刊23面">『中日新聞』1980年2月1日朝刊第23版第一社会面23面「“八つ墓村” 地で行く惨劇 熊野の猟銃乱射 漁業とミカンの町、血まみれ 遺体 車に、部屋に オノと銃弾、容赦なく」</ref><ref group="新聞" name="中日新聞1980-02-01 朝刊22面">『中日新聞』1980年2月1日朝刊第23版第二社会面22面「熊野市の10人殺傷 なぜ一族集めた？ 犯人に“異常”の素地」</ref>。
農業を営んでいた男（事件当時44歳）が自宅に集まっていた親族10人を猟銃（[[散弾銃]]）・斧で次々と襲撃して7人を惨殺・3人に重軽傷を負わせ、自宅に籠城した末に凶器の猟銃で自殺した<ref group="新聞" name="中日新聞1980-02-01 朝刊1面"/>。「のどかで平和な漁村」で発生した未曽有の大惨事は地元住民に大きな衝撃を与え<ref group="新聞">『朝日新聞』1980年2月2日朝刊三重版地域面14面「熊野の7人惨殺 地元に深く心のキズ 教育への影響も心配 戸惑い・衝撃 尾を引きそう 兄弟の遺体悲しい帰宅」</ref>、『[[中日新聞]]』（[[中日新聞社]]）は本事件を「漁業・[[ミカン]]栽培で知られる静かな町が『[[八つ墓村]]』（[[横溝正史]]）を思わせる血塗られた惨劇の舞台となった」と報道した<ref group="新聞" name="中日新聞1980-02-01 朝刊23面"/>。
事件当時、現場にほど近い熊野市[[新鹿町]]の別荘で暮らしていた作家・[[中上健次]]は本事件を題材とした映画の脚本を執筆し、事件から5年後の[[1985年]]に『[[火まつり (映画)|火まつり]]』（[[映画監督|監督]]：[[柳町光男]]）として公開された<ref group="新聞" name="朝日新聞1992-08-12">『朝日新聞』1992年8月12日名古屋夕刊第一社会面9面「三重の各地も題材に 作家の中上健次さん死去」</ref><ref group="新聞" name="朝日新聞2012-06-15">『朝日新聞』2012年6月15日朝刊三重版三重全県・地域総合面26面「（名作を歩く みえ文学散歩：8）熊野集 中上健次 御浜 ／三重県」（記者：安田琢典）</ref>。
== 事件の背景 ==
事件現場：三重県熊野市二木島町251-3（事件当時の加害者宅）<ref group="新聞" name="中日新聞1980-02-01 朝刊1面"/>
* 事件現場となった加害者宅は[[日本国有鉄道]]（国鉄・現在は[[東海旅客鉄道|JR東海]]）[[紀勢本線]]・[[二木島駅]]から約1キロメートル（km）海寄りの山（通称「新田山」）中腹に位置し「乗用車がやっと通れるだけの狭い道路」に面した平屋建ての住宅（部屋8つ）だった<ref group="新聞" name="中日新聞1980-02-01 朝刊23面"/>。
事件現場となった熊野市二木島町は[[熊野灘]]に面した漁師町で<ref group="新聞" name="中日新聞1980-02-01 朝刊1面"/>、事件当時の加害者は集落でミカン農家を営んでいたほか、農閑期には石材会社でトラック運転手として働いていた<ref group="書籍" name="斎藤2014 p.160-161"/>。
加害者は地元の熊野市立荒坂小学校<ref group="新聞">『朝日新聞』1980年2月2日朝刊三重版地域面15面「熊野の一族殺し 恐怖さめぬ住民 原因へ残す“なぞ” 教育に影響心配の声も」</ref>・熊野市立荒坂中学校を経て[[1951年]]（昭和26年）4月に熊野市内の[[三重県立木本高等学校]]に進学したが、成績は非常に悪く遅刻癖も重なり翌[[1952年]]（昭和27年）8月31日付で退学し<ref group="新聞" name="酒飲む">『朝日新聞』1980年2月2日朝刊三重版地域面14面「熊野の7人惨殺 ×× 酒飲むと凶暴に」</ref>、高校中退後は家業の農業に加えて養豚業・農林業に携わっていた<ref group="新聞" name="中日新聞1980-02-01 朝刊23面 2">『中日新聞』1980年2月1日朝刊第23版第一社会面23面「【熊野】小心さと粗暴さ ××に二つの顔 カーッとなる性質」</ref>。加害者は[[1956年]]（昭和31年）10月に熊野市内で傷害事件を起こして翌月（1956年11月）に[[熊野簡易裁判所]]から罰金3,000円の判決を受けていたほか、[[1961年]]（昭和36年）に[[和歌山県]][[新宮市]]内で[[暴力行為等処罰ニ関スル法律|暴力行為]]・[[建造物等損壊罪|建造物等損壊]]の容疑で[[逮捕 (日本法)|逮捕]]され、同年7月には[[和歌山地方裁判所]]新宮支部から[[懲役]]10月・[[執行猶予]]付きの有罪判決を受けた<ref group="新聞" name="中日新聞1980-02-01 朝刊22面 2"/>。[[1959年]]（昭和34年）9月には[[伊勢湾台風]]で当時の実家が被災したためそこから500メートル（m）ほど西に離れた事件当時の家に移住したが、当時は紀勢本線も開通していなかった「陸の孤島」だった二木島では加害者の家は他の住民と縁が薄く、事件で犠牲となった義兄一家が数少ない縁者だった<ref group="新聞" name="酒飲む"/>。
これらの前歴からは「カッとなる性質」がうかがわれていたが、加害者はそれ以降は問題を起こしておらず<ref group="新聞" name="中日新聞1980-02-01 朝刊23面 2"/>[[1973年]]（昭和48年）10月29日付で三重県警から「有害鳥獣駆除」の目的で散弾銃の使用許可を得た<ref group="新聞" name="中日新聞1980-02-01 朝刊22面 2">『中日新聞』1980年2月1日朝刊第23版第二社会面22面「熊野市の10人殺傷 要注意人物に銃 甘い許可基準、また問題に」</ref>。猟銃を所持するようになってからも山へ[[イノシシ]]・[[ニホンザル]]を狩りに行くのは年に数回程度で「猟銃に強い執着を示したり、猟仲間に猟を自慢したりするような行為」はなく<ref group="新聞">『朝日新聞』1980年2月2日朝刊三重版地域面15面「熊野の一族殺し もの静かで仕事熱心 犯人の横顔 猟銃使用も数回程度」</ref>、銃によるトラブルは起こしていなかった<ref group="新聞" name="中日新聞1980-02-01 朝刊23面 2"/>。『中日新聞』1980年2月1日朝刊はこのように加害者に暴力事件の前歴があったにも拘わらず「前歴は銃刀法違反ではなく過去の犯罪から10年以上が経過している。薬物中毒・精神疾患・住所不定などの事情もない」として散弾銃の所持が許可されていた点を踏まえ「昨年（1979年）1月の[[三菱銀行人質事件]]の時もそうだが『散弾銃所持の許可基準が甘すぎる問題』が改めてクローズアップされそうだ」と報道した<ref group="新聞" name="中日新聞1980-02-01 朝刊22面 2"/>。
加害者は事件の約10年前に父親が死去して以降、本事件で重傷を負った妻とともに家業のミカン農家・稲作に従事して生計を立てるようになった<ref group="新聞" name="朝日新聞1980-02-01 朝刊22面">『朝日新聞』1980年2月1日東京朝刊第13版第二社会面22面「熊野の大量殺人 犯人×× 20代に傷害事件 結婚後は黙々と仕事 家族思い、突然の逆上」</ref>。その暮らしぶりは二木島地区では比較的裕福なもので、近隣住民は『[[朝日新聞]]』（[[朝日新聞社]]）の取材に対し「夫婦仲は良く自分で山・田んぼを持っていた。何一つ不自由な点はなさそうだった」と証言した<ref group="新聞" name="朝日新聞1980-02-01 朝刊22面"/>。この他に熊野市消防団二木島分団新田班長・二木島保育所役員・熊野交通安全協会二木島支部委員と公の仕事も積極的に務めていた<ref group="新聞">『毎日新聞』1980年2月1日東京朝刊第14版第一社会面23面「まじめに地域活動“跡取り息子”××」</ref>。
加害者は妻に加えて母親・息子3人（母親・息子2人は事件で死亡）の6人暮らしで農業・材木商を営んでいたが<ref group="新聞" name="中日新聞1980-02-01 朝刊23面"/>、熊野市立荒坂中学校の1年生だった長男（事件当時15歳）が[[腎臓病]]のために[[国立病院機構三重病院|国立療養所三重病院]]（三重県[[津市]]）に入院していたことが原因で事件前から[[ノイローゼ]]気味になっており、事件数日前からは「誰かが襲ってくる」などと発言していた<ref group="新聞" name="中日新聞1980-02-01 朝刊1面"/>。また加害者自身も事件前に石割職人として近所の土木建設業者の仕事を手伝っていたが<ref group="新聞" name="中日新聞1980-02-01 朝刊23面 2"/>、石切り場で削岩機を使い続けたことにより[[白蝋病]]（振動病）を罹患したため<ref group="新聞" name="中日新聞1980-02-01 夕刊9面"/>事件2年前の1978年（昭和53年）10月25日付で[[労働災害防止団体法]]に基づき<ref group="新聞" name="中日新聞1980-02-03 01"/>熊野[[労働基準監督署]]から[[労働災害|労災]]認定を受けた<ref group="新聞" name="朝日新聞1980-02-02"/>。加害者はそれ以降「療養のため石工業を休養する」名目で<ref group="新聞" name="朝日新聞1980-02-02"/>、休業特別支給金を1日当たり7840円の計算で毎月二十数万円（事件前月の1979年12月：28万8500円）受け取っており<ref group="新聞" name="朝日新聞1980-02-02"/>、[[1979年]]（昭和54年）の1年間では「330日間振動病で労働できなかった」として合計約260万円を受給していたが<ref group="新聞" name="中日新聞1980-02-03 01"/>、一方でその間も毎月20日前後は石工業で働いていたことから「賃金・支給金の二重取り状態」となっていた<ref group="新聞" name="朝日新聞1980-02-02"/>。実際、加害者は地元の土木建設業者に相当量の[[間知石]]（石垣用）を納入していたため、年間30日程度の働きと仮定すればあまりにも不自然な額の支給金を受け取っている計算だった<ref group="新聞" name="中日新聞1980-02-03 01"/>。やがて振動病の症状が中程度まで進行したことで加害者は手足の震えを訴えるとともに事件前年の1979年夏には「心身の不安」を訴えて熊野市内の外科病院に通院していた<ref group="新聞" name="中日新聞1980-02-01 夕刊9面"/>。これらに加え、事件前月（1979年12月）には犠牲になった次男が[[肺炎]]に罹患しており、これも加害者にとって心配事となっていた<ref group="新聞" name="朝日新聞1980-02-01 朝刊22面"/>。
『中日新聞』の取材に対し近隣住民は加害者の人柄を「物腰が柔らかい優しい人。酒はほとんど飲まない」と証言した<ref group="新聞" name="中日新聞1980-02-01 朝刊23面 2"/>。その一方で加害者が石割職人として仕事を手伝っていた土木建設業者は『中日新聞』の取材に対し「仕事は真面目だが小心な面があり、話し方1つとってもねちっこくて『こだわりやすい神経質な面』があった」と証言した<ref group="新聞" name="中日新聞1980-02-01 朝刊23面 2"/>。また、加害者の人柄を知る熊野市職員は『朝日新聞』（朝日新聞社）の取材に対し「加害者は日ごろは温厚な性格で気の小さい人だった。もともと[[下戸]]だったが、酒を飲むと凶暴な性格になることから飲酒を控えていたようだ」と証言した<ref group="新聞" name="酒飲む"/>。
== 被害者 ==
※以下、年齢はいずれも事件当時のものである。
;死亡（加害者を除く7人）
:* 事件当日午後6時51分、玄関先に駐車してあった軽ライトバンでは以下4人の遺体が発見された<ref group="新聞" name="経緯"/>。
:** 運転席 - 加害者の実弟（36歳・石工・熊野市木本新田1644-1）、猟銃で射殺<ref group="新聞" name="中日新聞1980-02-01 朝刊1面"/>
:** 助手席 - 加害者の実妹（41歳・熊野市有馬町1417-2）、斧で斬殺<ref group="新聞" name="中日新聞1980-02-01 朝刊1面"/>
:*** 加害者の弟妹2人の遺体はいずれも割れた車のフロントガラスから頭を出して前のめりになっていた<ref group="新聞" name="中日新聞1980-02-01 朝刊23面"/>。
:** 後部座席 - 加害者の次男（5歳）・三男（4歳）、ともに斧で斬殺<ref group="新聞" name="中日新聞1980-02-01 朝刊1面"/>。
:*** 2人は事件当時いずれも二木島保育所の園児で<ref group="新聞">『[[毎日新聞]]』1980年2月1日東京朝刊第14版第一社会面23面「七人殺し、過疎の町に戦りつ 老母も子も無差別に 犯人××、突然の凶行 血まみれ重症者『一体、何が』」</ref>、事件当日は保育所に元気に登園してほかの園児たちとともに節分の鬼を作っていた<ref group="新聞" name="遺体に手向け"/>。2人の遺体は車内で折り重なるようにして倒れていた<ref group="新聞" name="中日新聞1980-02-01 朝刊23面"/>。
:* 加害者宅の離れ玄関先で加害者の母親（80歳・加害者＝息子と同居）が斧で切りつけられ<ref group="新聞" name="中日新聞1980-02-01 朝刊1面"/>、うずくまるようにして死亡していた<ref group="新聞" name="中日新聞1980-02-01 朝刊23面"/>。遺体は斧で殴られつつも凶行から逃れようとしたためか2m近く這いずり回った跡があった<ref group="新聞" name="事件再現"/>。
:* さらに通路でも加害者の実姉（55歳・主婦・熊野市二木島里町80）が射殺遺体で発見された<ref group="新聞" name="中日新聞1980-02-01 朝刊1面"/>。実姉の遺体は弟が乱射した銃を逃れようとしたためか母屋東側の道路に倒れていた<ref group="新聞" name="中日新聞1980-02-01 朝刊23面"/>。
:* 玄関前に駐車してあった軽トラックの荷台で加害者の義兄（58歳・漁業・加害者の実姉の夫）が射殺遺体で発見された<ref group="新聞" name="中日新聞1980-02-01 朝刊1面"/>。
;重軽傷（3人）
:* 加害者の妻（38歳）は頭・胸に打撲・切り傷を負い意識不明の重体になり<ref group="新聞" name="中日新聞1980-02-01 朝刊1面"/>、その後は回復するも全治2か月の重傷を負った<ref group="新聞" name="中日新聞1980-02-02"/>。
:* 義兄の弟（29歳・漁業）は頭などに全治2週間の切り傷で軽傷を負った<ref group="新聞" name="中日新聞1980-02-01 朝刊1面"/>。また加害者の隣家に住んでいた鉄工所経営者男性も散弾で右太ももに全治10日間の軽傷を負った<ref group="新聞" name="中日新聞1980-02-01 朝刊1面"/>。
== 事件発生 ==
事件2日前の1980年1月29日夜、加害者は妻の実家を突然訪れたが、その際はふさぎ込んだ様子だったために家人から慰められていた<ref group="新聞" name="中日新聞1980-02-02"/>。
加害者は事件当日正午ごろに「体調が悪い」と言いながら<ref group="新聞" name="経緯">『中日新聞』1980年2月1日朝刊第23版第一社会面23面「ドキュメント 悪夢の一時間」</ref>町内の石切り場の仕事から帰宅し<ref group="新聞" name="事件再現">『中日新聞』1980年2月1日夕刊E版第二社会面8面「熊野・猟銃殺人事件 恐怖の事件を再現すると… 団らん中に突然 ××、血を見て逆上 至近距離から次々」</ref>、心配した母親が午後3時ごろに「息子の様子が変だから家に来てほしい」と親類を電話で自宅に呼び集めた<ref group="新聞" name="事件再現"/>。加害者宅には事件当日、加害者の弟夫婦やその子供など近所に住んでいた親類のほとんどが集まっており<ref group="新聞" name="中日新聞1980-02-01 朝刊23面"/>、親類らは母屋玄関脇の六畳間で家人が手作りした[[秋刀魚寿司]]を食べたりコーラを飲んでいた<ref group="新聞" name="事件再現"/>。
地元の駐在所に配属されていた巡査は事件当時、車で約30分の熊野署に行っており不在だった<ref group="新聞" name="朝日新聞1980-02-01 朝刊23面"/>。
事件で死亡した加害者の義兄は<ref group="新聞" name="事件再現"/>加害者の「体調不良」の申し出を受けて熊野市内のかかりつけの内科病院に相談し<ref group="新聞" name="朝日新聞1980-02-01 朝刊1面"/>、午後4時30分ごろに医師が診察に訪れた<ref group="新聞" name="妙にニヤついていた">『中日新聞』1980年2月1日夕刊E版第一社会面9面「【熊野】妙にニヤついていた ××を診察した医師の話」</ref>。しかし加害者は「体調は悪くない」と言い張り診察を頑なに拒否したため、とりあえず血圧を測定した上で精神安定剤の注射を試みたが取りやめた<ref group="新聞" name="妙にニヤついていた"/>。この間、加害者は「妙にニヤニヤと笑いを浮かべていた」状態で、医師は『中日新聞』の取材に対し「日ごろおとなしい人間が診察・注射に拒否反応を示したり、妙な笑みを浮かべるのは『精神分裂病の症状だ』と思った。『月曜日（1980年2月4日）まで様子を見てから正式に精神科医の診察を受けさせよう』と考えた」と証言した<ref group="新聞" name="妙にニヤついていた"/>。結局、加害者は既に興奮状態になっており「到底診察できない状態」だったため<ref group="新聞" name="朝日新聞1980-02-01 朝刊1面"/>、医師は義兄に精神安定剤・睡眠薬を<ref group="新聞" name="妙にニヤついていた"/>預けて帰った<ref group="新聞" name="朝日新聞1980-02-01 朝刊1面">『[[朝日新聞]]』1980年2月1日東京朝刊第13版1面「三重県・熊野 一族七人殺し自殺 猟銃・オノで次々 酒飲み、子の病を苦？ 3人負傷」</ref>。この時、加害者の妻は「猟銃のロッカーの鍵を隠しておいた」と医師に伝えたため、これに対し医師は「大変良いことだ」と答えた<ref group="新聞" name="妙にニヤついていた"/>。
加害者は実弟・義兄の弟、次男・三男とともに前述の六畳間から廊下を挟んで向かいに位置していた玄関脇の八畳間でテレビを見ており、その後実弟に「（集まった親族らに出すための）ジュースを買ってきてくれ」と頼んだ<ref group="新聞" name="事件再現"/>。加害者はしばらく家族・親類たちとともに話し合っていた<ref group="新聞" name="中日新聞1980-02-01 朝刊1面"/>。
しかし午後6時ごろ<ref group="書籍" name="斎藤2014 p.160-161">{{Harvtxt|斎藤充功|2014|p=160-161}}</ref>、加害者は実弟が次男・三男とともにジュースを買いに出かけた直後で<ref group="新聞" name="事件再現"/>一同がテレビを見ていた時に突然斧を持ち出して暴れ出し<ref group="新聞" name="経緯"/>、いきなり義兄の弟に鉈を2，3回振り下ろし<ref group="新聞" name="事件再現"/>、斧を取り上げられると散弾銃を持ち出して乱射した<ref group="新聞" name="中日新聞1980-02-01 朝刊1面"/>。加害者の心身が不安定になっていたことから妻は事件の2，3日前に散弾銃を保管していた金属製ロッカー（高さ・幅約1m、奥行き約50cm）の鍵を隠していたが、加害者は斧で被害者らを襲撃した後に散弾銃でとどめを刺そうとしたためか斧でロッカーの鍵を壊して銃を持ち出し<ref group="新聞" name="中日新聞1980-02-01 夕刊9面"/>、鉄工所経営者親子が駆け付けるまでの間に離れの玄関で実母を斧で斬殺・母屋玄関庭で実姉を散弾銃で射殺した<ref group="新聞" name="事件再現"/>。加害者の実弟は実妹・次男・三男とともに4人でライトバンに乗車してジュースを買いに出かけたが、運転手の実弟が加害者宅に戻って「到着の合図」としてクラクションを2回鳴らした直後、4人とも加害者から散弾銃で狙撃されて死亡した<ref group="新聞" name="事件再現"/>。
その直後の同日午後6時5分ごろ<ref group="新聞" name="経緯"/>、事件現場宅付近を通りかかった通行人が「加害者が[[散弾銃]]を持って暴れている」のを目撃して[[三重県警察]]（[[熊野警察署]]）へ[[110番]]通報し<ref group="新聞" name="中日新聞1980-02-01 朝刊1面"/><ref group="新聞" name="経緯"/>、熊野署員がパトロールカー2台に分乗して事件現場に急行した<ref group="書籍" name="斎藤2014 p.160-161"/>。この時、通報者は「加害者が酒に酔っている」と通報したが<ref group="新聞" name="朝日新聞1980-02-01 朝刊1面"/>、前述のように加害者には飲酒の習慣はなく、後の司法解剖でも加害者の遺体からアルコール分は検出されなかった<ref group="新聞" name="朝日新聞1980-02-02"/>。
午後6時30分ごろ、負傷した加害者の義兄の弟（当時29歳）が血まみれの状態で約150m西の隣家・鉄工所経営者男性（当時61歳）宅に「兄の義弟（加害者）が家で銃を乱射している」と助けを求めてきたため、鉄工所経営者は[[熊野市消防本部]]に[[119番]]通報するとともに長男を同伴して加害者宅に向かった<ref group="新聞" name="中日新聞1980-02-01 朝刊23面"/>。鉄工所経営者の長男は玄関近くで加害者が足で斧を踏みつけながら猟銃を組み立てている隙を見て斧を取り上げたが、加害者は玄関脇に駐車してあった軽トラックに乗り込んで逃げようとした義兄と自分の妻をそれぞれ約50cmの至近距離から狙撃して義兄を殺害し、妻にも重傷を負わせた<ref group="新聞" name="事件再現"/>。その直後<ref group="新聞" name="事件再現"/>、加害者は通りに面した部屋から鉄工所経営者に5，6発発砲して鉄工所経営者を負傷させた<ref group="新聞" name="中日新聞1980-02-01 朝刊23面"/>。
午後6時36分になって事件現場にパトカーが到着し<ref group="書籍" name="斎藤2014 p.160-161"/>、同38分ごろに警官隊が現場に到着して説得を開始したが<ref group="新聞" name="経緯"/>、加害者は午後6時51分ごろに屋内から警察官に向けて威嚇発砲して<ref group="新聞" name="事件再現"/>警官隊を退かせ<ref group="新聞" name="経緯"/>後に宅内に籠城した<ref group="新聞" name="中日新聞1980-02-01 朝刊1面"/>。警官隊は磨りガラスの扉越しに人影が動く様子を確認してはいたが室内の様子を把握できなかったため迂闊に室内へ突入できず<ref group="新聞" name="事件再現"/>、事態を重視した三重県警は<ref group="書籍" name="斎藤2014 p.160-161"/>熊野署に加えて隣接する[[尾鷲警察署|尾鷲]]・[[鵜殿警察署|鵜殿]]両警察署から警察官20人を応援出動させるとともに県警捜査一課長ら本部捜査員5人を事件現場に急行させた<ref group="新聞" name="中日新聞1980-02-01 朝刊1面"/>。午後6時51分、現場宅前の路上に駐車されていた軽ライトバン車内から4人の遺体が発見された（後述）<ref group="新聞" name="経緯"/>。
午後7時10分、警官隊は家の裏側を包囲した上で119番通報して救急車の出動を要請し<ref group="新聞" name="経緯"/>、熊野署員らは家の中に立てこもる加害者を「話をしよう」などと懸命に説得したが加害者は説得に応じることなく同日午後7時13分<ref group="新聞" name="中日新聞1980-02-01 朝刊1面"/>、母屋にあった子供たちの勉強部屋で<ref group="新聞" name="中日新聞1980-02-01 朝刊23面"/>持っていた散弾銃の銃口を自分の頭・腹に当てて銃弾2発を撃ち込み自殺した<ref group="新聞" name="経緯"/>。<!--<ref group="新聞" name="事件再現"/>の出典では「午後7時3分」-->午後7時15分<ref group="書籍" name="斎藤2014 p.160-161"/>、2発の銃声を聞いて警官隊が突入すると加害者は「左手に銃身を持ち胸に銃口を当て右手で引き金を引いた状態」で死亡していた<ref group="新聞" name="事件再現"/>。
その後、熊野署が事件現場を調べたところ<ref group="新聞" name="中日新聞1980-02-01 朝刊1面"/>室内・車内から3人の遺体が発見され<ref group="新聞" name="経緯"/>、加害者を含めて8人の死亡・ほか3人の負傷が確認された<ref group="新聞" name="中日新聞1980-02-01 朝刊1面"/>。死亡した8人の遺体はいずれも斧・銃弾により血まみれで<ref group="新聞" name="中日新聞1980-02-01 朝刊23面"/>、中には50cmの至近距離から腹部を銃撃されて即死した被害者もいた<ref group="書籍" name="斎藤2014 p.163"/>。一連の事件で発砲された散弾は14発に及び<ref group="書籍" name="斎藤2014 p.163">{{Harvtxt|斎藤充功|2014|p=163}}</ref>、『中日新聞』は1980年2月1日朝刊で「障子が倒れて血が飛び散っていた室内の様子」と併せて「事件現場はまさに凄惨としか言いようがない」と表現した<ref group="新聞" name="中日新聞1980-02-01 朝刊23面"/>。
『朝日新聞』1980年2月1日朝刊1面記事は本事件を「[[警察庁]]によれば銃器などで一度に7人を殺害した事件は戦後初だ」と報道したほか<ref group="新聞" name="朝日新聞1980-02-01 朝刊1面"/>、『中日新聞』1980年2月1日朝刊も本事件を「（戦後の大量殺人事件として）今回の事件は死者数で[[帝銀事件]]（12人死亡）に次ぐものだ」と報道した<ref group="新聞">『中日新聞』1980年2月1日朝刊第23版第二社会面22面「熊野市の10人殺傷 戦後の大量殺人事件」</ref>。
== 捜査 ==
加害者が自殺してからも死亡した8人の遺体は「現場保全」のためにしばらく放置されていたが<ref group="新聞" name="中日新聞1980-02-01 朝刊1面"/>、事件発生翌日（1980年2月1日）午前1時30分すぎになって検視のために事件現場付近の[[二木島町#海福山最明寺|海福山最明寺]]に移された<ref group="新聞" name="中日新聞1980-02-01 夕刊9面">『中日新聞』1980年2月1日夕刊E版第一社会面9面「熊野・猟銃殺人事件 一夜明けた惨劇の里 ××の発作的な凶行 現場検証 血ぬりのオノ発見」</ref>。約6時間の検視の結果、加害者含め死者8人の遺体はいずれもほとんど即死状態で頭・胸・腰などに相当数の散弾が撃ち込まれていた<ref group="新聞" name="中日新聞1980-02-01 夕刊9面"/>。加害者の実母・実姉・義兄の3人の遺体には斧による傷が認められたが、いずれも「斧で切りつけられて倒れたり逃げようとしたところにとどめを刺すような形で」散弾を浴びせられた痕跡が確認された<ref group="新聞" name="中日新聞1980-02-01 夕刊9面"/>。
その後、事件現場の現場検証を開始した熊野署は鉄工所経営者の息子による「玄関近くで加害者が足で押さえつけていた斧を奪って近くに捨てた」という証言に基づいて付近を捜索した結果、午前3時過ぎになって加害者宅から約30m離れた道路沿いの電柱脇で血液がこびりついた凶器の斧（木の枝払い用、刃渡り約8cm）を発見した<ref group="新聞" name="中日新聞1980-02-01 夕刊9面"/>。
1日午前7時過ぎから熊野署は署員20人を動員して本格的な現場検証を行い、薬莢の採取・血痕の確認作業などから「加害者が何発発砲したか、どのような順序で殺傷行為に及んだか」を検証した<ref group="新聞" name="中日新聞1980-02-01 夕刊9面"/>。
一時期意識不明の重体となっていた加害者の妻は1日までに回復の兆候が見え始めたため、捜査本部は2月2日以降に経過を見てから「加害者の事件直前の動向など」に関して妻から事情聴取することを決めた<ref group="新聞" name="中日新聞1980-02-02">『中日新聞』1980年2月2日朝刊第12版第一社会面19面「熊野の猟銃殺人 妻から事情聴取へ」</ref>。一方で死亡した加害者とその実母・実姉の[[司法解剖]]が2月1日午後1時から[[三重大学]][[医学部]]で行われ、3人の死因はいずれも「散弾の心臓貫通による失血死」と判明した一方<ref group="新聞" name="中日新聞1980-02-02"/>、前述の「加害者が酒に酔っている」という通報内容とは異なり<ref group="新聞" name="朝日新聞1980-02-01 朝刊1面"/>加害者の遺体からアルコールは検出されなかった<ref group="新聞" name="朝日新聞1980-02-02"/>。
1980年2月1日までに加害者と親しかった知人らの証言により<ref group="新聞" name="朝日新聞1980-02-02"/>「加害者は石工業の職業病・振動病に悩まされてから[[労働災害|労災]]認定を受け、その療養名目で労災保険金（休業補償給付金）を受給したが相変わらず石工業を続けており賃金収入・受給金の二重取り、すなわち不正受給状態を続けていた」ことが判明した<ref group="新聞" name="中日新聞1980-02-03 01">『中日新聞』1980年2月3日朝刊第12版第二社会面18面「【熊野】猟銃殺人の×× 休業補償金不正受給？」</ref><ref group="新聞" name="朝日新聞1980-02-02">『朝日新聞』1980年2月2日東京朝刊第13版第一社会面23面「三重の一族殺人犯人 労災不正受給気にしていた」</ref>。熊野労働基準監督署は1979年12月に熊野市内の各石切事業所から「一般的調査目的」で帳簿類を提出させたが、知人は『朝日新聞』の取材に対し「加害者はこれを『自分は労災保険金の不正受給を疑われており、その調査のためだ』と思い込み、明るみに出ることを恐れていた」と証言した<ref group="新聞" name="朝日新聞1980-02-02"/>。
1980年2月2日午後、殺害された加害者の実妹の告別式が[[極楽寺 (熊野市)|極楽寺]]（熊野市[[木本町]]）で営まれた<ref group="新聞" name="中日新聞1980-02-03 02">『中日新聞』1980年2月3日朝刊第12版第二社会面18面「【熊野】しめやかに○○（加害者の実妹の実名）さんの告別式」</ref><ref group="新聞">『朝日新聞』1980年2月3日朝刊三重版地域面17面「熊野の一族殺し ○○（加害者の実妹の実名）さん葬儀 痛ましい子の姿に涙」</ref>。自殺した加害者・殺害された被害者3家族6人の葬儀は1980年2月3日、惨劇の舞台となった加害者宅・熊野市内の2寺院でそれぞれ執り行われた<ref group="新聞" name="中日新聞1980-02-04">『中日新聞』1980年2月4日朝刊第12版第二社会面18面「【熊野】猟銃殺人の××宅で葬儀 涙さそう喪主の長男」</ref>。そのうち加害者宅では一度に家族4人を失った長男（入院中のため無事）が病気・ショックの中で喪主を務め、参列した近親者らの涙を誘った<ref group="新聞" name="中日新聞1980-02-04"/>。
しかし「日ごろは子煩悩で温和な性格」として知られ、[[精神科病院]]への通院治療歴もなかった加害者が突然このような凶行に走った詳しい背景・動機などは加害者本人の自殺もあって詳しく解明されなかった<ref group="書籍" name="斎藤2014 p.163-164">{{Harvtxt|斎藤充功|2014|p=163-164}}</ref>。
== 現場集落 ==
事件現場集落の最寄り駅・[[二木島駅]]駅員（同駅は事件後の1983年より[[無人駅|無人化]]）は[[熊野灘]]に面した現場集落の実情に関して『中日新聞』の取材に対し以下のように回答した<ref group="新聞" name="中日新聞1980-02-01 朝刊1面"/>。
* 集落は（当時）人口約1,200人の漁業・ミカン栽培が盛んな地で、住民全員が顔見知り・血縁者である<ref group="新聞" name="中日新聞1980-02-01 朝刊1面"/>。この季節（事件当時の2月）は熊野灘で[[サンマ]]がよく獲れる<ref group="新聞" name="中日新聞1980-02-01 朝刊1面"/>。
* 集落と外界を結ぶ交通手段は[[紀勢本線]]・[[国道311号]]のみで外部から来るのは[[釣り]]人程度だ{{Refnest|group="注釈"|二木島は磯釣りの名所として知られており、事件当日に[[大阪府]][[堺市]]から4人で現場付近の旅館に宿泊していた釣り客は『朝日新聞』の取材に対し「こんな静かな漁村で恐ろしい事件が起きたことが信じられない」と回答した<ref group="新聞" name="遺体に手向け">『朝日新聞』1980年2月2日朝刊三重版地域面15面「遺体に手向け どの顔も沈痛」</ref>。}}<ref group="新聞" name="中日新聞1980-02-01 朝刊1面"/>。釣り人のトラブルはともかく地元の人間同士のトラブルは少なくこれまでに目立った諍いは聞いたことがない<ref group="新聞" name="中日新聞1980-02-01 朝刊1面"/>。
また『朝日新聞』1980年2月1日朝刊は現場集落に関して以下のように報道した<ref group="新聞" name="朝日新聞1980-02-01 朝刊23面">『朝日新聞』1980年2月1日東京朝刊第13版第一社会面23面「熊野の大量殺人 身内へ見境もなく 押し黙り引き金 玄関先で、車の中で」</ref>。
* 約400戸の民家が入り江に沿った国道311号に面して立ち並ぶ集落<ref group="新聞" name="朝日新聞1980-02-01 朝刊23面"/>。
* 背後に広がる山の段々畑でミカンなどが栽培されているが生活の中心は漁業だった<ref group="新聞" name="朝日新聞1980-02-01 朝刊23面"/>。
* 集落で「事件」といえば裏山に生息する[[ニホンザル]]が農作物を荒らしたりする程度の「静かすぎるほど静かな集落」だ<ref group="新聞" name="朝日新聞1980-02-01 朝刊23面"/>。
この二木島の集落に限らず熊野市内では凶悪事件といえば「大正末期に喧嘩がもとで住民が猟銃を発砲、2，3人が死亡した」事件が起きていた程度で、むしろ[[1964年]]（昭和42年）の[[台風]]第34号・[[1968年]]（昭和46年）の[[集中豪雨]]で多数の死者が出るなど自然災害の方が多かったため、このかつて経験したことのない「犯罪史上最大級」の大事件を受けて熊野署は署長以下全署員39人が徹夜で事件処理に追われた<ref group="新聞" name="最大級事件">『朝日新聞』1980年2月2日朝刊三重版地域面14面「熊野の7人惨殺 最大級事件に全署員が徹夜 熊野署」</ref>。
[[斎藤充功]]が事件から34年後の[[2014年]]（[[平成]]26年）、事件現場の地番「二木島町251-3」を訪問する前に熊野市役所に問い合わせた際には「登記簿上はその地番は現在も存在する」と回答を受けたが、実際に現場集落を訪れ取材した際には地番が消えており<ref group="書籍" name="斎藤2014 p.157">{{Harvtxt|斎藤充功|2014|p=157}}</ref>、加害者宅はトタン葺きの道具小屋1棟を残して更地となりその跡地には雑草が生い茂っていた<ref group="書籍" name="斎藤2014 p.159">{{Harvtxt|斎藤充功|2014|p=159}}</ref>。加害者宅跡の隣の地番に住む住民は斎藤の取材に対し以下のように回答した<ref group="書籍" name="斎藤2014 p.158">{{Harvtxt|斎藤充功|2014|p=158}}</ref>。
* 地元の人間はあの事件のことを今でもよく覚えているが、温和な性格で子煩悩だった加害者があの事件を起こしたことが信じられなかった<ref group="書籍" name="斎藤2014 p.158"/>。加害者は休日になるとよく近所の二木島湾に面する防波堤まで子供を連れて釣りに行っていた<ref group="書籍" name="斎藤2014 p.158"/>。
* 事件で遺された加害者の妻は[[和歌山県]]に移住し、入院中で事なきを得た長男も熊野市内の別の場所に移住して3児の父親となった<ref group="書籍" name="斎藤2014 p.158"/>。
* 現場となった集落は事件後に過疎化・高齢化が進行してしまい、漁業の後継者不足に困るばかりか事件当時盛んだったミカン栽培も立ち行かなくなり、現在は自家用に稲・野菜を栽培する以外に農業はほとんど行われていない<ref group="書籍" name="斎藤2014 p.157"/>。現在の集落は戸数10戸<ref group="書籍" name="斎藤2014 p.157"/>・人口20人程度だ<ref group="書籍" name="斎藤2014 p.158"/>。
== 考察 ==
精神科医・[[野田正彰]]は事件2年後の1982年に二木島の集落を訪問して聞き取り調査を行い著書『犯罪と精神医療』（[[岩波現代文庫]]・2002年）にて本事件を以下のように評価した<ref group="書籍" name="斎藤2014 p.164">{{Harvtxt|斎藤充功|2014|p=164}}</ref>。
* 「加害者は『少し困難な問題』を抱えるとそれを受け止めて時間をかけて解決することができない性格」だったため、内心で最悪の事態ばかりを思い浮かべて自分を追い詰め、その末に心因反応を呈し錯乱状態に陥っただろう<ref group="書籍" name="斎藤2014 p.164"/>。
* （一族全員を呼び集めてこの凶行に及んだ事件に関して）自殺決断者が残される妻子を思って一家心中する場合はよくあるが、これは日本にかなり特異な現象だ<ref group="書籍" name="斎藤2014 p.164"/>。さらにその範囲を拡大して姉妹とその夫まで殺害した内心まではわからないが、殺害対象を一族の範囲にまで拡大するのはかなり日本に特異的だ<ref group="書籍" name="斎藤2014 p.164"/>。
前述の野田の考察を受けて同じく事件現場となった二木島の集落を訪問取材した[[斎藤充功]]は2014年に出版した著書『戦後日本の大量猟奇殺人』（[[ミリオン出版]]）にて本事件の背景を「加害者は過去に傷害・暴行事件を起こしてはいたが、これは誰しも起こりうるもので特に加害者の性格と結びついたものではないだろう。本事件と前科2件は全く無関係で、本事件の真相は『心因反応により精神錯乱状態に陥った』可能性が高く、かつ『閉鎖的な共同体』であるがゆえに起きた事件と言えるだろう」と考察した<ref group="書籍" name="斎藤2014 p.165">{{Harvtxt|斎藤充功|2014|p=165}}</ref>。
加害者が[[子殺し|2人の子供まで射殺した]]背景に関して、負傷した義兄の弟は「家に戻ると加害者が自分の実弟へ半ば強制的に『次男・三男を連れてジュースを買いに行け』と言っていた。『可愛がっていた弟と愛児2人だけは助けてやろう』と思い逃がしたのだろう」と述べた<ref group="論文" name="守安p.24">{{Harvtxt|守安敏久|2011|p=24}}</ref>。[[守安敏久]]は加害者のこの行動に関して「当初の加害者は義兄の弟が証言した通り『愛児を殺害現場から逃がそう』としたのかもしれないが、次々と一族を殺していった末に最後は『子供だけが生き残っても』と一族心中を図った」と推測している<ref group="論文" name="守安p.24"/>。
後に本事件を題材とした映画作品『[[火まつり (映画)|火まつり]]』の脚本を手掛けた作家・[[中上健次]]は事件を報道した[[新聞]]・[[週刊誌]]記事を追いかけ、短編連作集『熊野集』（[[講談社]]、1984年）において以下のように記している<ref group="論文" name="守安p.23">{{Harvtxt|守安敏久|2011|p=23}}</ref>。
{{Cquote|事件の渦中にいた二人の子供らの声が、桜の重なりの向こうから聴こえてきもする。実際、眼に見えるように想像できるのだった。体の具合が悪いからと一統の者に集まってもらった男には一統を強引に心中に引きずり込む気持ちはあったろうが、二人の子まで道づれにしようとは思わない。だが子供は男の心を知らず、大人らが家に集っている事に眼をうばわれている。それで男は「ジュースでも買うてこい」と言いつけてその場を離れさせようとするが、狭い村で、駄菓子屋はきまって眼と鼻の先にあるものだった。ジュースを飲みながらすぐに戻ってもきたのだろう。二人の子供が射ち殺された一統の中に入っていたのは言うまでもない。|4=守安敏久の論文「中上健次『火まつり』:映画から小説へ」（『宇都宮大学教育学部紀要 第1部』）より<ref group="論文" name="守安p.23"/>。}}
{{Cquote|その事件は自分がいままで書いて来た小説の顕現化だとも思ったし、私小説で何度も書いた主人公の暴発が成就したものだという思いもつもった。ノートを取り、ひりつく気持のうちに小説に仕立てようと何度も試みた。実際何もかも符丁が合い過ぎていた。|4=守安敏久の論文「中上健次『火まつり』:映画から小説へ」（『宇都宮大学教育学部紀要 第1部』）より<ref group="論文" name="守安p.23"/>。}}
== 脚注 ==
=== 注釈 ===
{{Reflist|group="注釈"}}
=== 出典 ===
'''新聞報道出典（※出典名において加害者・被害者の実名が使用されている箇所は伏字で表記する。）'''
{{Reflist|group="新聞"}}
'''書籍出典'''
{{Reflist|group="書籍"}}
'''論文出典'''
{{Reflist|group="論文"}}
== 参考文献 ==
=== 関連書籍 ===
* {{Cite book|和書|title=MILLION MOOK 41 戦後日本の大量猟奇殺人 教科書には載せられない悪魔の事件簿|publisher=[[ミリオン出版]]|author=[[斎藤充功]]|date=2014-12-10|edition=初版第1刷|pages=156-166|isbn=978-4813071419|ref={{SfnRef|斎藤充功|2014}}}}
** 『三重「熊野猟銃乱射10人殺傷事件」1980 まるで「八つ墓村」…特異性と謎に満ちた「一族殺害」の全貌』
=== 関連論文 ===
* {{Cite journal|和書|title=中上健次『火まつり』:映画から小説へ|journal=宇都宮大学教育学部紀要 第1部|publisher=[[宇都宮大学]]|author=[[守安敏久]]|date=2011-03-10|issue=61|pages=17-28|naid=110009005035|url=https://uuair.lib.utsunomiya-u.ac.jp/dspace/handle/10241/7604|ref={{SfnRef|守安敏久|2011}}}}
== 関連項目 ==
* [[心中]]
* [[大量殺人]]
* [[津山事件]]
* [[名張毒ぶどう酒事件]] - 同じく三重県内の集落で発生した大量殺人事件。
* [[加古川7人殺害事件]]・[[淡路島5人殺害事件]] - 本事件と同様、加害者への精神疾患の有無が指摘されている大量殺人事件。
* [[火まつり (映画)|火まつり]] - 本事件を題材にした映画。
{{DEFAULTSORT:くまのいちそく7にんさつかいしけん}}
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