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|全長=550mm([[銃床|ストック]]展開時700mm)
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'''H&K MP5'''は、[[ドイツ]]の[[ヘッケラー&コッホ]](H&K)社が設計した[[短機関銃]](SMG)。現代を代表する近代的第2次世界大戦後に設計された短機関銃としては最も成功した製品の一つであり{{Sfn|トンプソン|2019|pp=2-10}}、命中精度の高さから[[対テロ作戦]]部隊などでは標準的な装備となっている<ref name="床井2000">{{Cite bookSfn|和書|author=床井雅美|year=2000|title=最新サブ・マシンガン図鑑|publisher=[[徳間書店]]|isbn=978-4198913427|pagespp=18-25}}</ref><ref name="床井2005">{{Cite bookSfn|和書|author=床井雅美|year=2005|title=オールカラー軍用銃事典|publisher=[[並木書房]]|isbn=978-4890631872|pagespp=200-202}}</ref>
 
== 来歴 ==
{{main|H&K G3#来歴}}
[[1950年代]]、[[ヘッケラー&コッホ]](H&K)社は、[[ルートヴィヒ・フォルグリムラー]]が[[スペイン]]で設計した[[セトメ・ライフル]]をもとに、[[ドイツ連邦軍]](西ドイツ軍)向けに[[7.62x51mm NATO弾]]仕様の[[自動小銃]]を開発していた。1959年、これは[[H&K G3|G3]]として制式化された<ref name="床井1998">{{Cite book|和書|author=床井雅美|year=1998|title=最新軍用ライフル図鑑|publisher=徳間書店|isbn=978-4198909031|pages=42-49}}</ref>。
技術的には、MP5の起源は、[[第二次世界大戦]]末期に[[モーゼル]]社が設計した「機材06」({{Lang|de|Gerät 06}})まで遡りうる。ガスピストンを省いて反動利用式とした改良型は[[StG45]](M)として[[ドイツ国防軍]]に採用されたものの、量産前に[[欧州戦線における終戦 (第二次世界大戦)|終戦]]を迎えた。その後、[[ルートヴィヒ・フォルグリムラー]]を含む同社の技術者陣は、まず[[フランス]]の{{仮リンク|ミュルーズ兵器研究所|en|Atelier Mécanique de Mulhouse|label=CEAM}}、ついで[[スペイン]]の{{仮リンク|特殊素材技術研究センター|de|Centro de Estudios Técnicos de Materiales Especiales|label=CETME}}に転職して、StG45(M)を元にした小銃の開発を継続していた。当初は[[中間弾薬]]を使用するように設計されていたが、後に、やはりモーゼル社出身者によって[[西ドイツ]]で設立された[[ヘッケラー&コッホ]](H&K)社の協力のもと、[[7.62x51mm NATO弾]]を使用するように設計変更され、[[1958年]]、スペインはこの[[セトメ・ライフル]]を制式採用した。また西ドイツも早くからセトメ・ライフルに着目しており、[[1959年]]1月、[[ドイツ連邦軍]]は、H&K社がセトメを元に開発したMD3をG3として制式化した{{Sfn|トンプソン|2019|pp=14-29}}。
 
これと並行して、連邦軍では短機関銃の選定も行なっていたが、この時点では政治的な思惑もあり、[[イスラエル]]製の[[UZI (SMG)|UZI]]が採択された{{Sfn|床井|2000|pp=18-25}}。その後、[[1960年代]]になると、[[連邦国境警備隊]](BGS)や[[州警察 (ドイツ)|州警察]]といった[[ドイツの警察]]組織において、大量の短機関銃の需要が生じた。これに応えて、H&K社では1964年より「プロジェクト64」として、G3小銃の短機関銃版の開発に着手した。開発にあたっては、主任設計士はティロ・モーラー、助手をマンフレッド・ガーリング、ゲオルグ・サイドル、ヘルムート・バウロイターが務めていた。彼らによって開発された短機関銃は、当時の同社の命名規則{{Efn2|一桁めが銃器の種別を表しており、「1」は[[軽機関銃]]、「2」は[[汎用機関銃]]、「3」は[[突撃銃]]、「4」は半[[自動小銃]]、「5」は短機関銃を意味していた。続く二桁めが使用する弾薬を表しており、「1」が7.62x51mm NATO弾、「2」が[[7.62x39mm弾]]、「3」が[[5.56x45mm NATO弾|5.56x45mm M193弾]]、「4」が[[9x19mmパラベラム弾]]を意味していた。ただしこれはあくまで社内での便宜的な呼称であり、セールスにあたってはしばしば変更された{{Sfn|トンプソン|2019|pp=14-29}}。}}に基づいて'''HK54'''と称されていた。そして1966年に、これを元にした量産型として開発されたのが本銃である{{Sfn|トンプソン|2019|pp=14-29}}。
一方、同時期に、西ドイツ軍では短機関銃のトライアルも行っていたことから、並行して、G3をもとにした短機関銃も開発された。これによって開発されたのがHK54である。しかしこのトライアルでは、自動小銃譲りの複雑な内部構造に起因する耐久性の低さとコストの高さが嫌われたほか、政治的な配慮もあり、HK54は落選して、[[イスラエル]]製の[[UZI (SMG)|UZI]]が採択された<ref name="床井2000"/><ref name="床井2005"/>。
 
[[1960年代]]初頭、H&K社は方針転換し、HK54をもとにサイトやバレルを改良し、輸出および警察向けの短機関銃に発展させることとした。これによって開発されたのが本銃である<ref name="床井2000"/><ref name="床井2005"/>。
 
== 設計 ==
=== 各構成要素 ===
[[ファイル:US_Patent_3283435_8-Nov-1966_BREECH_CLOSURE_Theodor_Koch.png|thumb|250px|ローラー遅延式ブローバック機構の断面図]]
{{see also|H&K G3#特徴}}
==== 動作機構 ====
上記の経緯より、基本的にはG3自動小銃を元に、[[9x19mmパラベラム弾]]仕様に縮小した設計となっている。G3では、[[モーゼル]]社が開発し、[[StG45|StG.45]][[アサルトライフル]]に組み込んだのと同様の[[ブローバック#ローラー遅延式|ローラー遅延式ブローバック(ローラーロッキング)]]機構が採用されており<ref name="床井1998"/>、これは本銃でも踏襲された。この方式では、圧力が低下してから閉鎖が解除されてボルトが開くことから、反動がマイルドで、軽量のボルトでも9x19mmパラベラム弾を安全に射撃できるようになったほか、[[ボルト (銃)|ボルト]]を閉鎖した状態から撃発サイクルがスタートする、いわゆる[[クローズドボルト]]撃発となったこともあり、当時一般的だった[[ブローバック#シンプルブローバック方式|シンプルブローバック方式]]・[[オープンボルト]]撃発の短機関銃と比して、命中精度が高いというメリットがあった<ref name="床井2000"/><ref name="床井2005"/>。命中精度については、100m以内の近距離射撃であれば[[狙撃銃]]にも匹敵するとされており<ref name="Maoka2007">{{Cite web|author=Satoshi Maoka|date=2007年12月18日|url=http://www.shootingtips.com/newfiles/article/HK%20UMP/HK%20UMP.html|title=HK Universal Machine Pistol|accessdate=2016/02/09}}</ref>、[[建物]]の角から[[目]]と[[銃口]]だけを覗かせる[[テロリズム|テロリスト]]の[[眼球]]を撃ち抜くことが可能とも称される<ref>{{Cite book|和書|author=[[小峯隆生]]|coauthors=[[坂本新一]]|year=2005|title=海上保安庁特殊部隊SST|page=87|publisher=並木書房|isbn=4-89063-193-3}}</ref>。
[[ファイル:US_Patent_3283435_8-Nov-1966_BREECH_CLOSURE_Theodor_Koch.png|thumb|250px|ローラー遅延式ブローバック機構の断面図]]
上記の経緯より、基本的にはG3自動小銃を元に、[[9x19mmパラベラム弾]]仕様に縮小した設計となっている。G3では、[[StG45|StG.45]][[アサルトライフル]]に組み込んだのと同様の[[ブローバック#ローラー遅延式|ローラー遅延式ブローバック(ローラーロッキング)]]機構が採用されており、これは本銃でも踏襲された。この方式では、圧力が低下してから閉鎖が解除されてボルトが開くことから、反動がマイルドで、軽量のボルトでも9mmパラベラム弾を安全に射撃できるようになったほか、[[ボルト (銃)|ボルト]]を閉鎖した状態から撃発サイクルがスタートする、いわゆる[[クローズドボルト]]撃発となったこともあり、当時一般的だった[[ブローバック#シンプルブローバック方式|シンプルブローバック方式]]・[[オープンボルト]]撃発の短機関銃と比して、命中精度が高いというメリットがあった{{Sfn|床井|2000|pp=18-25}}{{Sfn|床井|2005|pp=200-202}}{{Efn2|クローズドボルト方式のフルオート射撃火器には、[[コックオフ#クローズドボルト|コックオフ現象(加熱による暴発)]]が起きやすいという欠点があるが、9mmパラベラム弾の実用的な連射ではコックオフを生じるほどの高温は生じないことが実証されており、訓練や通常の試験での連続発射で、MP5がコックオフを起こした記録はない{{Sfn|トンプソン|2019|pp=76-89}}。}}。命中精度については、100m以内の近距離射撃であれば[[狙撃銃]]にも匹敵するとされており<ref name="Maoka2007">{{Cite web|author=Satoshi Maoka|date=2007年12月18日|url=http://www.shootingtips.com/newfiles/article/HK%20UMP/HK%20UMP.html|title=HK Universal Machine Pistol|accessdate=2016/02/09}}</ref>、[[建物]]の角から[[目]]と[[銃口]]だけを覗かせる[[テロリズム|テロリスト]]の[[眼球]]を撃ち抜くことが可能とも称される{{Sfn|小峯|坂本|2005|p=87}}。
 
しかし一方で、この機構によってボルトの構造が複雑になり、単価の上昇にも繋がった{{Sfn|床井|2000|pp=18-25}}{{Sfn|床井|2005|pp=200-202}}。また繊細な整備を必要とし、多弾数発射後にはヘッドスペース(包底面から[[薬莢]]位置決め部までの間隔)の点検をしなければ銃が作動不良を起こすこともある。点検方法は[[ボルト (銃)|ボルト]]を閉じてハンマーを落とした状態で[[弾倉|マガジン]]の挿入口から中にあるボルトヘッドとボルトキャリアの隙間にシックネスゲージを差込み、隙間がどのくらい開いているか調べる。隙間はメーカーで指定している範囲内である0.25mmから0.45mmの間に収まっていなければならない。隙間が許容範囲を超えるとローラーを大きいものに交換する必要がある。そして、交換可能範囲(最大でも0.25mmから0.5mm)を超えた銃はそのまま使用するとローラー遅延の効果が十分に発揮される前にボルトが開放される早期開放による[[暴発]]などの危険があるため、H&K社に送って修理するか破棄される<ref>{{Cite journal|和書|first=Etsuo|last=Morohoshi|year=2007|month=11|title=アメリカ・マシンガン事情17・MP5雑学ノート|journal=[[Gun (雑誌)|月刊Gun]]|publisher=国際出版}}</ref>。
 
1992年発売のMP5/10など[[#大口径化モデル|大口径化モデル]]では、ボルトキャリアやボルトヘッドなどは標準的なMP5と互換性がなく、リコイル・スプリングは[[H&K HK53]]のものが流用されている。また9mmパラベラム弾モデルでも、1998年発売のMP5Fでは強装弾の使用に対応して内部構造を強化しており、同じリコイル・スプリングを導入したほか、ボルト・グループを強化した。この改良は、後に全ての生産型に導入された{{Sfn|トンプソン|2019|pp=30-75}}。
 
==== マガジン ====
元々は、ダブルカラム式でストレート型の[[弾倉#ボックスマガジン|ボックスマガジン]]を使用していた。その後、1977年以降は、やや湾曲したバナナ型マガジンに変更されたが、これはBAT({{Lang|en|Blitz Action Trauma}})などの特殊弾薬の送弾に対応した設計変更だったと言われている{{Sfn|トンプソン|2019|pp=76-89}}。
 
一般的には30発入りの弾倉が用いられる。またMP5Kでは、本体の小型化に併せて、装弾数15発として短縮した弾倉が好まれる傾向がある。一方、大容量マガジンも開発されており、アメリカ海軍は一時期、MP5のための50連発のドラムマガジンに関心を寄せていたと言われている。また1980年代後半には、100連発のダブル・ドラムマガジン{{Enlink|Beta C-Mag}}が開発された{{Sfn|トンプソン|2019|pp=30-75}}。
 
MP5/10とMP5/40では、ストレート・ボックス型マガジンが採用されており、残弾確認ができるように半透明の[[合成樹脂]]製とされている。大口径化に伴い弾薬の重量が増加したのを補うため、マガジンの重量は、従来の金属製マガジンと比べて30パーセント軽量化されている{{Sfn|トンプソン|2019|pp=30-75}}。
 
==== ストック ====
[[File:MP5 GEI.jpg|thumb|250px|バイザー・ストックとフラッシュライト装着型ハンドガードを装着したMP5]]
ストックには、MP5/MP5A2で用いられる固定式と、MP5A1/3/5で用いられる伸縮式(テレスコピックストック)があり、クロス・スプリング・ピンでレシーバに固定される。伸縮式ストックには、元々は金属製のバット・プレート(床尾板)が装着されていたが、MP5NやMP5F(MP5E2)ではゴム製の床尾板が装着され、後にこれは標準装備となった{{Sfn|トンプソン|2019|pp=30-75}}。またヘルメットにバイザーを装着する場合に備えて、[[:en:Brügger & Thomet|ブリュガー・アンド・トーメ(B&T)]]社などでは、バイザーを避けるように湾曲したストックも製造している。
 
もともとMP5Kはストックを装備しておらず、スリング・スイベル付きキャップ(底板)を装着していた。その後、1991年には、右側に折畳むポリマー製のストックがオプションで追加された。当初はこちらもB&T社製だったが、後にH&K社自身が生産するようになった。アメリカ陸軍の[[第160特殊作戦航空連隊]]では、MP5K-Nをもとにこのストックを装備したモデルを'''MP5K-PDW'''として装備しており、後には同様のモデルが一般市場にも投入された{{Sfn|トンプソン|2019|pp=30-75}}。
 
==== レシーバ ====
当初、射撃モードのセレクタは、S-E-F([[ドイツ語]]の"安全"('''S'''icher)、"単射"('''E'''inzelfeuer)、"全自動射撃"(unbegrenzter '''F'''euerstoß)の頭文字)と表示されており、「S」は白、「E」「F」は赤く塗装されていた。またアメリカ軍向けなどの輸出モデルは、言語を選ばないビジュアル表示に改められた{{Sfn|トンプソン|2019|pp=30-75}}{{Efn2|[[弾丸]]のアイコンによって示されるもので、安全位置が白の弾丸にX、単射が赤の弾丸1つ、点射が赤の弾丸2つもしくは3つ、連射が赤の弾丸7つ、という絵表示となっている{{Sfn|トンプソン|2019|pp=30-75}}。}}。
 
なお、MP5A2/3以降、警察用の派生型として、セミオート射撃に限定したモデル(MP5SF{{Efn2|具体的なモデル名としてはMP5-SFA2/3と称される{{Sfn|トンプソン|2019|pp=30-75}}。}})がラインナップされるようになった。またA4/5では、オプションとして、3点バースト機能を備えた製品もある{{Sfn|トンプソン|2019|pp=30-75}}。
 
リアサイトは、HK54では跳ね上げ式だったが、MP5ではピープサイト(円孔照門)を設けた回転式に変更された。4つのピープサイトは光の条件によって使い分けられる。またMP5Kでは、迅速に照準できるように、回転式リアサイトの照門部分は、丸穴の円孔照門からV字型の切れ込み照門に変更された。更にMP5KA1では、隠匿携行{{Enlink|Concealed carry}}に対応して、服などに引っかかりにくいように固定式のリアサイトを採用した{{Sfn|トンプソン|2019|pp=30-75}}。
 
==== ハンドガード ====
バレルをカバーして、熱から手を守る部品であり、当初は細身で握りやすいスリムライン型が用いられていたが、後に、幅広でバレルの冷却効果が高いトロピカル型に変更された。[[ガラス繊維]][[繊維強化プラスチック|強化プラスチック]]製とされている{{Sfn|トンプソン|2019|pp=30-75}}。オプションとして、先端に[[懐中電灯|フラッシュライト]]を装着した[[シュアファイア]]社製のハンドガードを使用する部隊も多い{{Sfn|トンプソン|2019|pp=30-75}}。
 
またMP5Kでは、バレルにあわせて短縮したほか、下部には前部ピストルグリップが付されている。また下方先端には、前部ピストルグリップを握った手が銃口の前に出ないようにする突起が設けられている{{Sfn|トンプソン|2019|pp=30-75}}。
 
==== バレル ====
第一期改良型であるMP5A2/3では、銃身をフローティング・バレルに改良して、命中精度を向上させており{{Sfn|床井|2000|pp=18-25}}、バレル・エクステンションに圧入されてクロス・ピン止めされる。MP5A2では225ミリ長、またMP5Kでは114ミリ長、MP5K-Nでは140ミリ長とされている{{Sfn|トンプソン|2019|pp=30-75}}。
 
銃口外側には3つの突起が付されており、ブランク・アダプターやマズル・コンペンセイター、サプレッサーなどの付属品をバイヨネット式に取り付けることができる。アメリカ海軍モデルでは、更にバレル先端にもサウンド・サプレッサーを装着するねじ山が切られている{{Sfn|トンプソン|2019|pp=30-75}}。
 
またMP5SDのバレルには、直径2.5ミリの穴が30個空けられている。その外側をケーシングが覆っており、後部にガス拡散室、前方に漏斗状のバッフルが内蔵されており、[[サプレッサー#インテグラルタイプ|インテグラルタイプのサウンド・サプレッサー]]として機能する。通常の超音速弾薬の使用を想定して設計されたが、弾頭147グレインの亜音速弾薬でも問題なく動作する。ただしこの場合、[[マンストッピングパワー]]が不足する懸念があり、通常弾薬の使用が推奨されている{{Sfn|トンプソン|2019|pp=30-75}}。
しかし一方で、この機構によってボルトの構造が複雑になり、単価の上昇にも繋がった<ref name="床井2000"/><ref name="床井2005"/>。また繊細な整備を必要とし、多弾数発射後にはヘッドスペース(包底面から[[薬莢]]位置決め部までの間隔)の点検をしなければ銃が作動不良を起こすこともある。点検方法は[[ボルト (銃)|ボルト]]を閉じてハンマーを落とした状態で[[弾倉|マガジン]]の挿入口から中にあるボルトヘッドとボルトキャリアの隙間にシックネスゲージを差込み、隙間がどのくらい開いているか調べる。隙間はメーカーで指定している範囲内である0.25mmから0.45mmの間に収まっていなければならない。隙間が許容範囲を超えるとローラーを大きいものに交換する必要がある。そして、交換可能範囲(最大でも0.25mmから0.5mm)を超えた銃はそのまま使用するとローラー遅延の効果が十分に発揮される前にボルトが開放される早期開放による[[暴発]]などの危険があるため、[[ヘッケラー&コッホ|H&K]]社に送って修理するか破棄される<ref>『[[Gun (雑誌)|月刊Gun]]』2007年11月号 Etsuo Morohoshi「アメリカ・マシンガン事情17・MP5雑学ノート」国際出版</ref>。
 
ただしこのサプレッサーは密閉固定式であるため、分解掃除が難しいという問題がある。バッフルが漏斗状であることで、火薬の燃焼ガスから生じるカーボンはある程度自動的に排出されるものの、やはり内部は汚れやすく、サプレッサーを外して後端部を木材で軽く叩く方法や、非油性溶剤に浸す方法がある。またH&K社からはクリーニングキットも供給されている{{Sfn|トンプソン|2019|pp=30-75}}。
== バリエーション ==
MP5は、主に[[軍隊|軍]]や[[警察]]組織の[[特殊部隊]]で運用されていることもあり、使用者の任務と用途に合わせた非常に多くのバリエーションを持つ。
 
=== 9×19mm弾モデル各型の概要 ===
{{Double image stack|right|MP5 in U.S. Ordnance Museum.jpg|HK MP5 of PASKAL.JPG|250|MP5A2|MP5A5}}
==== 9mmパラベラム弾モデル ====
; HK54
: [[プロトタイプ]]。
: 原型となったモデル。ストレートタイプの[[弾倉]]を持つ。小改良が施されA1に発展した。
; MP5
: 最初の量産型のうち固定式ストック装備のもの{{Sfn|トンプソン|2019|pp=30-75}}。
; MP5A1
: 最初の量産型のうち伸縮式ストック装備のもの{{Sfn|トンプソン|2019|pp=30-75}}。
: 伸縮[[銃床]]型。弾倉に湾曲形状([[弾倉#ボックスマガジン|バナナマガジン]])の新形状のものが導入される。ロアレシーバーは側面にリブ上のモールドのある形状となっており、セレクターの表示はそれぞれS, E, F([[ドイツ語]]の"安全"('''S'''icher)、"単射"('''E'''inzelfeuer)、"全自動射撃"(unbegrenzter '''F'''euerstoß)の頭文字)となっており、この型のロアレシーバーを持つモデルは「SEFトリガーグループ」と通称される。
: なお、初期の生産型はセレクターの表示が0(安全位置)1(単射)A(連射)となっている。
; MP5A2
: 第一期改良型のうち固定式ストック装備のもの{{Sfn|トンプソン|2019|pp=30-75}}。
: A1の固定銃床型。SEFトリガーグループ。
;; MP5-SFA2
:; MP5SFA2
:: セミオート射撃に限定したモデル。1986年に発売された{{Sfn|トンプソン|2019|pp=30-75}}。
:: A2から連射機能を廃した単射のみのモデル。"SF"とは'''S'''ingle'''F'''ireの略号を示す。SEFトリガーグループのモデルだが、セレクターに「F」の位置はなく、このタイプのモデルは「シングルファイアートリガーグループ」「FBIトリガーグループ」と通称される。
:: 全[[自動火器]]の装備を認められない[[法執行機関]]向けに開発されたモデルであるが、民間向けとしても少数が輸出・販売された。その後世界的に自動火器への規制が厳しくなったことから、民間向けの輸出・販売は後述のHK94のみとされている。
:
; MP5A3
: 第一期改良型のうち伸縮式ストック装備のもの{{Sfn|トンプソン|2019|pp=30-75}}。
: A1の改良型。[[銃砲身|銃身]]を「フローティング・バレル」化して命中精度を向上させたモデル。SEFトリガーグループのモデルだが、後期生産型はA4と同じデザイン(点射機能はない)のロアフレームに変更されており、このタイプは「ネイビートリガー」と通称される。
;; MP5-SFA3
:; MP5SFA3
:: セミオート射撃に限定したモデル{{Sfn|トンプソン|2019|pp=30-75}}。
:: A3のシングルファイアトリガーグループモデル。
:; MP5N
:: A3の[[アメリカ海軍]]向けモデル。Nは"NAVY"(海軍)の頭文字。アメリカ海軍[[特殊部隊]]([[Navy SEALs|SEALs]])の発注により生産された。MP5K PDWと同じ大型の[[フラッシュサプレッサー|フラッシュハイダー]]を装備する。現行の仕様/発注分はA4仕様に変更されている。
:
; MP5A4
: 第二期改良型のうち固定式ストック装備のもの{{Sfn|トンプソン|2019|pp=30-75}}。
: A3の改良型。点射モードが追加され、各射撃モードの位置を示す表示がそれまでのSEFの英字から、[[弾丸]]のアイコンによって示される<ref group="注釈">安全位置が白の弾丸にX、単射が赤の弾丸1つ、点射が赤の弾丸2つもしくは3つ、連射が赤の弾丸7つ、という絵表示となっている</ref>新型ロアフレームが導入されたモデル。なお、点射機能は2点(2発)および3点(3発)を発注者の要望によって選択可能。ロアフレームの変更に伴いグリップの形状が変更され、ハンドガードが大型化された。また、A1/A2をロアフレームのみ交換することによってA4/A5仕様に準拠させることも可能であり、ハンドガードを交換したA1/A2も存在する。
; MP5A5
: 第二期改良型のうち伸縮式ストック装備のもの{{Sfn|トンプソン|2019|pp=30-75}}。
: A4の伸縮銃床型。
:; MP5FMP5N
: アメリカ海軍向けモデル。銃口はサウンド・サプレッサーの装着に対応してねじ山が切られているほか、フロントサイトには放射性夜光塗料を塗布し、トリガーグループは左右両側からの操作に対応、伸縮式ストックにはゴム製床尾板を装着している{{Sfn|トンプソン|2019|pp=30-75}}。
:: A5の[[フランス]]向けモデル。Fは"FRANCE"の頭文字から。床尾板が大型化された、反動吸収性の高い新型の伸縮銃床が導入されている。[[日本の警察]]に導入されたモデルはこのFとほぼ同仕様だが、大型のフラッシュハイダーを装備し、[[実包#+P弾|強装弾]]に対応する。また、日本警察では「警察官等特殊銃使用及び取扱い規範」第二条により、この銃を「特殊銃」と規定している。<!--もとい警察官等特殊銃使用及び取扱い規範では特殊銃と規定され、特殊銃Ⅲ型で検索するとMP5Fが出て来ますが(Ⅰ型が豊和M1500、Ⅱ型が89式と書いてあったところも)、公的な資料が見つからない為、法律上表記に則り特殊銃のみの表記と致します-->
; MP5F
: [[フランス]][[国家憲兵隊 (フランス)|国家憲兵隊]]向けモデル。強装弾(+P弾)に対応して内部構造を強化、伸縮式ストックにはゴム製床尾板を装着している。「過去25年間で最も大きな設計変更」として1998年に発売されたが、MP5Fはセールス上の呼称であり、社内での識別呼称は'''MP5E2'''とされる。同様の設計変更は、後に製造されたモデル全てに適用された{{Sfn|トンプソン|2019|pp=30-75}}。
 
==== MP5Kシリーズ ====
{{Double image stack|right|Hkmp5k.jpg|MP3K_ImgID1.jpg|250|MP5K<br/>「ネイビートリガー」型のロアフレームを持つ後期型モデル|MP5K PDWに銃床および30発弾倉を装着したモデル (MP5K PDWとは異なる)}}
; MP5K{{Efn2|Kは"kurz"の略号であり、[[ドイツ語]]で"短い"の意味。}}
秘匿携行に特化されたコンパクトモデル。Kは"kurz"の略号であり、[[ドイツ語]]で"短い"の意味。[[銃砲身|銃身]]部を短縮化して[[銃床]]を装着せず、保持安定用にバーティカル・フォアグリップを装備する。本体の小型化に併せ、15発装弾の短縮化[[弾倉]]が用意されている(通常の30発弾倉の使用も可能である)。
: コンパクトモデル{{Sfn|トンプソン|2019|pp=30-75}}。
; MP5K
: 基本モデル。全長325mm、重量2,000g
: 銃床の替わりにスリングスイベルの付いた底板が装着されている。SEFトリガーグループ。
; MP5KA1
: [[照準器]]固定式リアサイト単純な門星型にして極限まで備えたコンパクト化したモデル。SEF{{Sfn|リガーグルーソン|2019|pp=30-75}}
; MP5KA4
: 3点バースト機能を備えたコンパクトモデル{{Sfn|トンプソン|2019|pp=30-75}}。
: A4を基体にしたモデル。点射機構を追加した4モードのセレクターを装備した新型ロアフレームモデル。
:; MP5KA5
: MP5KA1の固定式リアサイトとMP5KA4の3点バースト機能を備えたコンパクトモデル{{Sfn|トンプソン|2019|pp=30-75}}。
:: KA4の簡易照準器モデル。KA1のA4準拠型。
; MP5K-N
:
: アメリカ海軍向けコンパクトモデル。銃口やトリガーグループはMP5Nと同仕様とされている{{Sfn|トンプソン|2019|pp=30-75}}。
; MP5K PDW
; MP5K-PDW
: Kに折り畳み銃床を装備した[[PDW]](個人防衛用装備)として開発されたモデル。Kの欠点とされた「銃身が短いために銃口炎が激しく、全自動射撃にすると照準が困難」という点に対応するために大型の[[フラッシュサプレッサー|フラッシュハイダー]]が装着されている。PDWとしては、後に専用弾を使用する[[H&K MP7]]が開発された。
: MP5K-Nを元に折畳式ストックを装備した[[PDW|個人防衛火器]]モデル{{Sfn|トンプソン|2019|pp=30-75}}。
; MP5RAS
: [[ナイツアーマメント]]社とH&K USAによる共同開発。ナイツ社のRAS(レイル・アタッチメント・システム)を搭載し、アクセサリーによる発展性を持たせたモデル。MP5K PDWに搭載されている折り畳み銃床を装備。
; MP5K コッファー
: Kを[[ブリーフケース|アタッシュケース]]に入れ、そのまま発砲できるようになっている偽装モデル。平時の[[ボディーガード|要人護衛]]など、露骨に[[銃火器]]を携行している事を示さない用途向けに開発された物で、見た目は[[鞄]](アタッシュケース)そのものでしかない。取っ手の左側にトリガーがあり、左側面に[[銃口]]穴がある(初弾を発砲するまでは偽装のために閉塞されている)。また、そのまま使用すると銃口炎で鞄部分を焼いてしまうため、フラッシュハイダーが装備され、鞄の銃口部は[[金属]]板で保護されている。鞄に格納した状態で[[射撃]]を行うために、照準器を使わなくとも狙いをつけられるよう、[[曳光弾]]を使用する。コッファー(Koffer)は、ドイツ語でスーツケースや運搬用ハードケースの意味。
 
==== MP5SDシリーズ ====
{{Double image stack|right|Heckler_Koch_MP5.jpg|Maschinenpistole.jpg|250|MP5SD3|MP5SD3(サプレッサーを外した状態)}}
[[特殊部隊]]向けに内装式[[サプレッサー]]を装備したモデル。"SD"とは"Schalldämpfer"の略号で、[[ドイツ語]]でサプレッサーを意味する。
; MP5SD1
: A1のSD型。[[銃床]]ストック装着せずの代わりに、MP5Kと同じスリングスイベル付きキャップ(底板)を装着されていた{{Sfn|トンプソン|2019|pp=30-75}}
; MP5SD2
: A2のSD型。固定銃床モデル式ストック装備のもの{{Sfn|トンプソン|2019|pp=30-75}}
; MP5SD3
: A1のSD型。伸縮銃床モデル式ストック装備のもの{{Sfn|トンプソン|2019|pp=30-75}}
; MP5SD4
: SD1のモデルチェンジ型。A4を基体としたモデル。3射(バースト)モードが追加された新型ロアフレーム機能え、ストックを装着しないモデル{{Sfn|トンプソン|2019|pp=30-75}}
; MP5SD5
: SD2のモデルチェンジ型。3射モドが追加されたスト機能を備え、固定銃床モデル式ストック装備のもの{{Sfn|トンプソン|2019|pp=30-75}}
; MP5SD6
: SD3のモデルチェンジ型。3射モドが追加されたスト機能を備え、伸縮銃床モデル式ストック装備のもの{{Sfn|トンプソン|2019|pp=30-75}}
 
{{-}}
==== 大口径化モデル ====
[[1980年代]]後半、[[アメリカ合衆国の警察]]では9x19mmパラベラム弾の[[ストッピングパワー]]に不足を感じていたことから、より強力な実包を使用した拳銃が市場に投入されつつあった。これに対応して、MP5でも、これらの実包を使用する派生型が開発された{{Sfn|トンプソン|2019|pp=30-75}}。
; MP5/10(MP10)
: [[:en:10mm Auto|10mmオート弾]]を使用するモデル。大口径化に伴って内部構造を強化したほか、ボルトストップを装備した。またマガジンは、弾薬重量の増加を補うため[[合成樹脂]]製として軽量化したほか、残弾確認できるように半透明になっている。1992年に発売され、FBIが5,000挺を調達したものの、需要の低迷のために生産終了となり、予備部品の供給も終了している{{Sfn|トンプソン|2019|pp=30-75}}。
; MP5/40
: [[.40S&W弾]]を使用するモデル。設計はMP5/10と同様で、やはり同時に1992年に発売された{{Sfn|トンプソン|2019|pp=30-75}}。
; MP5/357
: [[.357SIG弾]]を使用するモデル。基本的にはMP5/40のバレルを交換したのみのものである{{Sfn|トンプソン|2019|pp=30-75}}。
 
==== HK94シリーズ民間向けモデル ====
[[ファイル:HK94k_on_Finnish_camo.jpg|thumb|250px|HK94K]]
アメリカ合衆国などの民間市場向けに、セミオート限定のモデルが開発された。
; HK94
: [[カービン]]・モデル。バレルが420ミリに伸ばされているが、この長過ぎるバレルが不格好であり不評だったため、円筒形のバレルジャケットを装着して見た目だけ[[#MP5SDシリーズ|MP5SDシリーズ]]に似せる方法と、[[アルコール・タバコ・火器及び爆発物取締局]](ATF)に特に申請して「短銃身ライフル」として登録し、合法的にバレルを切り詰める方法とが考えられた。また多くのHK94は、ATFへの登録を経て[[:en:Sear (firearm)|オートマチック・シア]]を組み込むことで、合法的にフルオート射撃が可能なように改造された{{Sfn|トンプソン|2019|pp=30-75}}。
: MP5の民間向けモデル。フルオート機能がなく、法的に「[[拳銃|ピストル]][[カービン]]」([[銃砲身|銃身]]を延長して[[銃床]]を装着した拳銃)扱いとするため、銃身が伸ばされている。ロアフレームは[[H&K G3#HKシリーズ|HK91]]に似た独自のものを採用している。
; HK94K
: 銃規制の緩い国向けに銃身長をオリジナルと同じものとしたモデル。
; SP89
: ピストル・モデル。法的にピストルとして販売するため、ストックやバーティカル・フォアグリップは装着できず、代わりに、誤って手が銃口の前に出ないように小さな突起がハンドガードに付されている。5年間だけアメリカに輸入・販売されていたが、その多くは、HK94と同様にオートマチック・シアを組み込んで、フルオート射撃が可能なように改造された{{Sfn|トンプソン|2019|pp=30-75}}。
: MP5Kの民間向けモデル。フルオート機能がなく、法的に拳銃扱いとするためバーティカル・フォアグリップが無い。こちらのロアフレームも、HK94同様のデザインをしている。
 
==== 訓練用モデル ====
MP5シリーズはロアフレームを個人レベルの作業で交換できるため、フルオート機能のないHK94でもフルオート機能のあるロアフレームさえ入手できれば[[軍]]/公的機関用と同じフルオート型に容易に改造できる。そのため、現在では民間向けモデルにはロアフレームが交換できないように設計を変更されたものが供給されている。
1970年、H&K社は、訓練用として[[.22ロングライフル弾|.22LR弾]]への転換キットを発売したが、使用感が異なる上に信頼性に問題があり、400セットも生産されずに販売終了となった。かわりに1984年には、模擬戦用として、プラスチック弾専用のMP5Tが発売された。実包は射撃できず、レシーバーの左右側面に青色で「プラスチック弾のみ」と書かれており、コッキングハンドルも青色になっている{{Sfn|トンプソン|2019|pp=30-75}}。
 
多くの警察組織では、訓練にしか使えないMP5Tではなく、既存のMP5をもとに[[ペイント弾]]を発射できるようにしたシミュニッション転換キットが用いられている{{Sfn|トンプソン|2019|pp=30-75}}。
旧型のロアフレームを持つHK94は、[[アメリカ合衆国|米国]]の銃器規制下では[[民間人]]は所持できない。また、HK94、SP89をMP5、MP5Kに改造し民間に販売する行為も、専門の資格を持ったガンスミスによる改造であっても[[1986年]]の規制強化(FOPA86)により禁止となっている。
 
=== 10mmAuto弾モデル ===
; MP5/10(MP10)
: [[9x19mmパラベラム弾]]よりも威力の高い[[:en:10mm Auto|10mmオート弾]]を使用するモデル。オリジナルの9mm型とは違い、ボルトストップを装備する。[[合成樹脂]]製の半透明[[弾倉]]が外見上の大きな特徴。固定[[銃床]]型と伸縮銃床型があり、それぞれMP5A2/A4およびMP5A3/A5を基体にしている。10mmオート弾がセールス的に成功しなかった事を受けて、[[2000年]]には生産・供給は中止された。
 
=== .40S&W弾モデル ===
; MP5/40
: MP5/10を[[.40S&W弾]](10x22mm Smith & Wesson)が使用できるように改設計した[[口径|大口径]]モデル。MP5/10と同じく大型の[[合成樹脂]]製半透明[[弾倉]]を持つ。.40S&W弾の使用を前提に設計された[[H&K UMP|H&K UMP40]]が開発されたために[[2000年]]には生産・供給は中止された。その後[[アメリカ合衆国|アメリカ]]のSpecial Weapons社が[[ライセンス生産]]し、本家にないKタイプとSDタイプもある。
 
=== .22LR弾モデル ===
[[ヘッケラー&コッホ|H&K]]社がオフィシャルに製作したものではないが、個人のホビーユーザー向けに幾つかの[[.22ロングライフル弾|.22LR弾]]コンバージョンキットが存在した。
 
[[画像:GSG-5_rifle.jpg|thumb|240px|[[照準器#オプティカルサイト(Optical sight)|ドットサイト]]を搭載したGSG-5(固定銃床モデル)]]
なお、[[ドイツ]]の[[ジャーマン・スポーツ・ガンズ]]社が、外見がMP5そっくりで.22LR弾を使用する[[GSG-5]]というセミオートマチック銃を製作販売している。GSG-5は、外見こそMP5そっくりではあるものの、部品は全てGSG社が独自の図面で製造しており、MP5との共通部分は皆無である。ただし、MP5の遊戯銃のアクセサリーを流用できるという。
 
さらに、[[2010年]]のIWA2010にて、ウマレックス(UMARE))社もMP5A5をモデルにしたMP5セミオートマチック・[[カービン]]の発売を発表した。こちらはH&K社より[[ライセンス]]を取得しているため、GSG-5と異なり、H&KのロゴとMP5の名称を正式に使用している。
{{-}}
 
==== MP5 PIPH&K以外での生産型 ====
[[ヘッケラー&コッホ|H&K]]社がMP5をベースに開発した[[プロトタイプ|試作]][[短機関銃]]である。レシーバーの形状は[[H&K G3|G3]]より[[H&K G36|G36]]に近い。
 
=== SW-10 (MP10) ===
[[アメリカ合衆国|アメリカ]]のSpecial Weapons社が開発したMP5の派生品。トリガーグループはMP5のものだが、レシーバーは[[H&K UMP|UMP]]タイプのオリジナルになっている。[[懐中電灯|ライト]]が内蔵されている。[[銃床]]は、B&T社製の折り畳み銃床を使用している。
 
バリエーションとして、[[サプレッサー]]内蔵のMP10SDや民間向け16インチのSP10が存在する。
 
=== H&K以外での生産型 ===
[[H&K G3]]と同じ機構ということもあり、G3を[[ライセンス生産]]している国ではMP5もライセンス生産していることが多い。
; EBO MP5{{Efn2|ギリシャのEU加盟にあわせて、EBOはヘレニック・ディフェンス・システムズ(EAS)に改称した{{Sfn|トンプソン|2019|pp=156-174}}。}}
; EBO MP5
: [[ギリシャ]]のヘラニック・アームズ・インダストリー(EBO)社がライセンス生産したもの。MP5A3、MP5A4、MP5Kが製造されている。セレクタースイッチの記号が[[ギリシャ文字]]になっているのが識別点{{Sfn|床井|2000|p=190}}
; トンダール 9mm SMG
: [[イラン]]でライセンス生産されたもの。[[パフラヴィー朝]]時代に王立モサルサシ造兵廠で製造が始まったが、[[イラン革命]]後に解体され、新たに設立されたD.I.Oサンガフザルサジ・インダストリーズで製造されている。D.I.Oの識別点と、セレクタースイッチの[[ペルシア文字]]が識別点{{Sfn|床井|2000|p=200}}
; POF MP5
: [[パキスタン]]の国立パキスタン・オーディナンス・ファクトリーズ(POF)がライセンス生産するもの。刻印以パキスタン軍・警察に制式採用され、1980年代より生産が開始された。また海の外見は、特に原型との違いは無い。[[アフリカ]]への輸出も行っている{{Sfn|床井|2000|p=235}}
; PK3
: POFが、MP5KにMP5A3と同じ伸縮[[銃床]]を付けたモデル。主に[[PDW]]として使用される。MP5K PDWよりかさばらず、コンパクトである。
; Tihraga
: [[スーダン]]のミリタリー・インダストリー・コーポレーション(MIC)社が、イランのトンダール 9mmをライセンス生産したタイプ。
; MIC MP5
: サウジアラビアの国営軍需産業会社であるMIC社のライセンス生産モデル{{Sfn|トンプソン|2019|pp=156-174}}。
; MKEK シラーサン MP5
: [[トルコ]]のマキナ・ベ・キミヤー・エンデュストリシ・クルム(MKEK)が[[1983年]]から生産を始めたMP5。MP5A2、MP5A3、MP5Kが製造されている。MKEKのロゴが刻印されているのが識別点。
; NR-08
: [[中華人民共和国|中国]]の[[中国北方工業公司]](NORINCO)がコピーしたタイプ{{Sfn|トンプソン|2019|pp=156-174}}
 
=== 諸元・性能 ===
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== 運用史 ==
{{Triple image stack|right|SEAL MP5N.JPEG|AntiSAT Firearmsoperator squadholding of the Japanese policeMP5.pngjpg|GIGN4 Domenjod 160316.jpg|250|MP5Nを装備した[[Navy SEALs]]隊員。マガジンを[[ジャングルスタイル]]に改造している|MP5シュアファイアM628ウェポンライトを装した[[銃器対策部MP5を構えるSAT]]員。|MP5を持つ[[国家憲兵隊治安介入部隊|GIGN]]隊員(右側)。バイザーストックを装着している}}
{{Main2|[[フィクション]]への登場については「[[H&K MP5に関連する作品の一覧]]」を}}
まず[[1966年]]、西ドイツの[[連邦国境警備隊]]に採用されたほか、同国の[[地方警察 (ドイツ)|地方警察]]でも多くが採用された。しかし単価の高さから、西ドイツ国外への普及は進まなかった<ref name="床井2000"/>。
まず[[1966年]]、西ドイツの[[連邦国境警備隊]]に採用されたほか、同国の[[地方警察 (ドイツ)|地方警察]]でも多くが採用された。単価の高さから、西ドイツ国外への普及は進まなかったが{{Sfn|床井|2000|pp=18-25}}、[[イギリス陸軍]]の[[特殊空挺部隊]](SAS)は、連邦国境警備隊の[[GSG-9]]との共同訓練の経験から、1970年代後半ごろよりMP5を導入した{{Sfn|トンプソン|2019|pp=120-155}}。
 
この状況そしてMP5を一変させ躍有名にしたのが[[1977年]]の[[ルフトハンザ航空181便ハイジャック事件]]である。この事件では[[西ドイツ]]政府がテロリストの要求に応じず、高い制圧力と命中率を誇る本銃を装備した連邦国境警備隊の[[対テロ作戦]]部隊([[GSG-9]])フラッシュグレネードを用いた世界初の[[人質救出作戦]]を敢行当時としては非常に珍しい人質・突入隊員の被害をゼロで成功せたことが世界ずに5分間大きく注目されテロリストを全員無力化して解決した。これ以降狭い機内での戦闘に臨むに当たり各国GSG-9隊員の多く[[S&W M19]]・M66回転式拳銃や[[H&K P9S]]自動拳銃を正式採用携行てい警察・軍隊の対が、瞬間制圧力が低い拳銃ではテロ作戦部隊リスト相次いで整備無力化するのにやや手間がかかったのに対し、MP5の短連射を受けたテロリストと交渉しない方針はその場で行動不能り、フラッシュグレネードを併用した武装勢力MP5無効化と人質救出という潮流威力確定する強く印象付けられた。ととなりのため本銃も特殊部隊GSG-9は、そ標準装備と呼ばれ後の作戦でMP5を愛用するようになっていった<ref name{{Sfn|トンプソン|2019|pp="床井2000"/>90-119}}
 
そしてまた、作戦後の記者会見のさいに、GSG-9隊長ウェグナー大佐がMP5SDを手にしており、この写真が全世界の紙面を飾ったことで、その知名度は飛躍的に向上し、世界中の[[対テロ作戦]]部隊が競ってMP5を導入することになった{{Sfn|トンプソン|2019|loc=監訳者のことば}}。これらの対テロ特殊部隊は、短連射で複数弾を正確に撃ち込む精度と、9mmパラベラム弾の貫通力の低さによる付随的損害の抑制を両立できることに目をつけて、MP5を重用していた。近年では、[[ボディアーマー]]の普及もあって、より貫通力が高く射程距離が長い[[アサルトライフル|アサルト]]・[[カービン]]を使用する機関も増えているが{{Sfn|トンプソン|2019|pp=90-119}}、この場合は過剰貫通や跳弾による付随的損害の問題があるため、着弾時に粉砕する特殊弾丸{{Enlink|Frangible bullet}}なども使用される{{Sfn|トンプソン|2019|pp=120-155}}。
現在では、[[ヘッケラー&コッホ|H&K]]社の地元である[[ドイツ]]のみならず、[[アメリカ合衆国|アメリカ]]の[[Navy SEALs]]、[[デルタフォース]]、[[SWAT]]をはじめ、[[イギリス]]の[[特殊空挺部隊|SAS]]、[[日本の警察|日本警察]]の[[特殊急襲部隊|特殊部隊(SAT)]]、[[銃器対策部隊]]、[[千葉県警察成田国際空港警備隊|成田国際空港警備隊]]、[[原子力関連施設警戒隊]]、[[特殊捜査班|特殊犯捜査係]]、[[海上保安庁]]の[[特殊警備隊|特殊警備隊(SST)]]、[[海上自衛隊]]の[[特別警備隊 (海上自衛隊)|特別警備隊(SBU)]]、[[香港]]の[[SDU]]、[[大韓民国|韓国]]の[[KNP-SWAT]]など、世界中の[[軍隊]]や[[警察]]に配備されており、[[1977年]]のルフトハンザ航空181便ハイジャック事件や[[1980年]]の[[駐英イラン大使館占拠事件]]では実戦で使用された。
 
これに対し、高精度のセミオートマチック・カービンとして導入した法執行機関もあった。例えば[[ロンドン警視庁]]は、突入作戦を担当する[[SWAT]]にあたる[[SCO19#専門射手|専門射手(SFO)]]にはフルオート射撃対応モデルを配備する一方、普段から街頭を警邏する[[SCO19#武装応召車|武装応召車(ARV)]]にはセミオート射撃に限定したMP5-SFを配備した{{Sfn|トンプソン|2019|pp=90-119}}。[[日本の警察]]でも、[[警備部]]の[[銃器対策部隊]]にはMP5Fに準じたフルオート射撃対応モデルを配備する一方{{Sfn|ストライクアンドタクティカルマガジン|2017|pp=60-63}}、[[刑事部]]の[[特殊事件捜査係|特殊犯捜査係(SIT)]]にはMP5K PDWに準じたセミオート限定モデルを配備しており、MP5SFKと称される{{Sfn|ストライクアンドタクティカルマガジン|2017|pp=46-51}}。
しかし、21世紀のアメリカにおいては[[ノースハリウッド銀行強盗事件]]や中東での[[対テロ戦争]]といった経験から、対テロ作戦や近接戦においても[[M4カービン]]など短銃身のライフル銃を中心に使用する傾向がある。
 
==== 運用国 ====
旧西ドイツの[[極左]]テロ組織「[[ドイツ赤軍]]」は、赤い星にMP5をあしらったデザインの標章を使用していた。
 
=== 運用国 ===
*{{AUS}}
*{{BGD}}
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{{節スタブ}}
 
== 登場作品 ==
{{main|H&K MP5に関連する作品の一覧}}
 
== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
=== 注釈 ===
{{Notelistnotelist2}}
=== 出典 ===
{{Reflist|2}}
 
== 参考文献 ==
* {{Cite book|和書|last1=柿谷|first1=哲也|last2=菊池|first2=雅之|year=2008|title=最新 日本の対テロ特殊部隊|publisher=三修社|isbn=978-4384042252|ref=harv}}
* {{Cite book|和書|editor=ストライクアンドタクティカルマガジン|year=2017|month=3|title=日本の特殊部隊|ncid=BB01834038|ref=harv}}
* {{Cite book|和書|last=床井|first=雅美|year=2000|title=最新サブ・マシンガン図鑑|publisher=[[徳間書店]]|isbn=978-4198913427|ref=harv}}
* {{Cite book|和書|last=床井|first=雅美|year=2005|title=オールカラー軍用銃事典|publisher=[[並木書房]]|isbn=978-4890631872|ref=harv}}
* {{Cite book|和書|first=リーロイ|last=トンプソン|year=2019|title=MP5サブマシンガン|others=床井 雅美 (監修), 加藤喬 (翻訳)|series=[[:en:Osprey_Publishing#Series|Osprey Weapon Series]]|publisher=[[並木書房]]|isbn=978-4890633821|ref=harv}}
 
== 関連項目 ==