「オブジェクト指向プログラミング」の版間の差分

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用語と解説
m い抜き言葉「やってる」「してる」の使用を回避(2回目)
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== 特徴 ==
現行のオブジェクト指向プログラミングは、1974年に計算機科学者[[バーバラ・リスコフ]]らが提唱した[[抽象データ型]]を基礎的な考え方にする方向性で定着している。[[抽象データ型]]のプログラム実装スタイルを具体的に規定したものが1~31 - 3であり、日本では一般に三大要素と呼ばれている。これに沿った言語仕様を備えたプログラミング言語がオブジェクト指向準拠と判別されている。4は[[アラン・ケイ]]が重視する元祖的なコンセプトであり、オブジェクト指向の源流思想として蛇足ながら紹介を加える。
 
#[[カプセル化]](''encapsulation'')
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1954年に初の[[高水準言語]]・[[FORTRAN]]が登場すると、開発効率の劇的な向上と共にソフトウェア要求度も自然と高まりを見せてプログラム規模の急速な拡大が始まった。それに対応するために肥大化したメインルーチンを[[サブルーチン]]に分割する手法と、[[スパゲティプログラム|スパゲティ化]]した[[Goto文|goto命令]]を[[制御構造|制御構造文]]に置き換える手法が編み出され、これらは1960年に公開された言語「[[ALGOL|ALGOL60]]」で形式化された。当時のALGOLは[[アルゴリズム]]記述の一つの模範形と見なされたが、それと並行して北欧を中心にした計算機科学者たちはより大局的な観点によるプログラム開発技法の研究を進めていた。
 
=== Simulaの開発(1962~72)(1962 - 72) ===
1962年、ノルウェー計算センターで[[モンテカルロ法]]シミュレーションを運用していた計算機科学者[[クリステン・ニゴール]]は、[[ALGOL|ALGOL60]]を土台にしてProcessと呼ばれる[[コルーチン]]機構を加えたプログラミング言語「[[Simula]]」を公開し、続けてその拡張にも取り組んだ。ニゴールの同僚で、1963年にSimulaを[[メインフレーム|汎用機]][[UNIVAC I|UNIVAC]]系統上で運用できるように実装した計算機科学者[[オルヨハン・ダール]]は、Processにローカル変数構造を共有する複数の手続き(サブルーチン)を加えてパッケージ化する言語仕様を考案した。程なくしてALGOL60コンパイラに準拠していての限界を悟ったニゴールとダールは、1965年からSimulaを一から再設計するように方針転換した。その過程で彼らは、計算機科学者[[アントニー・ホーア]]が考案して1962年のSIMSCRIPT([[FORTRAN]]用のスクリプト)に実装していたRecord Classを参考にしている。Record Classはソースコード水準の抽象表現を、各[[メインフレーム|汎用機]]に準拠した[[マシンコード]]水準の実装符号に落とし込む段階的データ構造のプログラム概念であった。これをモデルにした[[継承 (プログラミング)|継承]]とその構造上に成り立つ仮想手続き(仮想関数)の仕組みも考案され、この両機能を備えたProcessのパッケージ化を「[[クラス (コンピュータ)|クラス]]」とし、クラスをメモリに展開したものを「[[オブジェクト (プログラミング)|オブジェクト]]」とする言語仕様がまとまり、1967年に「[[Simula|Simula67]]」が初公開された。オブジェクトという用語は、[[MIT]]の計算機科学者[[アイバン・サザランド]]が1963年に開発した[[Sketchpad]]([[CAD]]と[[GUI]]の元祖)の設計内にあるObjectが先例であった。Simula67コンパイラはまず[[UNIVAC I|UNIVAC]]上で運用され、翌年から汎用機[[バロース B5000|バロースB5500]]などでも稼働されて北欧、ドイツ、ソ連の各研究機関へと広まり、1972年には[[IBMメインフレーム|IBM汎用機]][[System/360]]などにも導入されて北米全土にも広まった。その主な用途は物理シミュレーションであった。
 
=== 構造化プログラミングの提唱(1969~75)(1969 - 75) ===
[[Simula]]の普及と前後して1960年代半ばになると、プログラム規模の際限ない肥大化に伴う開発現場の負担増大が顕著になり、いわゆる[[ソフトウェア危機]]問題が計算機科学分野全般で取り沙汰されるようになった。その解決に取り組んだ計算機科学者[[エドガー・ダイクストラ]]は、1969年のNATOソフトウェア工学会議で「[[構造化プログラミング]]」という論文を発表し[[トップダウン設計とボトムアップ設計|トップダウン設計]]、段階的な[[抽象化 (計算機科学)|抽象化]]、階層的な[[モジュール化]]、共同詳細化といった構造化手法を提唱した。ダイクストラの言う構造化とは開発効率を高めるための[[分割統治法]]を意味していた。なおこの構造化プログラミングは後に曲解されて[[制御構造|制御構造文]]を中心にした解釈の方で世間に広まり定着している。共同詳細化は抽象データ構造を専用サブルーチンを通して扱うという概念である。これはSimulaの手続きを通してクラス内の変数にアクセスするという仕組みをモチーフにしていた。段階的な抽象化と階層的なモジュール化は時系列的にも、SIMSCRIPTの段階的データ構造と、Simura67の継承による階層的クラス構造を模倣したものであった。[[エドガー・ダイクストラ|ダイクストラ]]、[[アントニー・ホーア|ホーア]]、[[オルヨハン・ダール|ダール]]の三名は1972年に『構造化プログラミング』と題した共著を上梓していることから互いの研鑽関係が証明されている。その階層的プログラム構造という章の中でダールは、Simulaの目指した設計を更に明らかにした。{{Quotation|''influenced by Sketchpad, Simula, the design for the ARPAnet, the Burroughs B5000, and my background in Biology and Mathematics, I thought of an architecture for programming.''
<br>([[Sketchpad]]、[[Simula]]、[[アーパネット]]、[[バロース B5000|バロースB5000]]、それと専攻していた生物学と数学に影響されて僕はプログラミングアーキテクチャを思索していた)|Alan Kay}}1974年に[[MIT]]の計算機科学者[[バーバラ・リスコフ]]とステファン・ジルは「[[抽象データ型]]」というプログラム概念を提唱した。彼女らの理論は、ダイクストラが提示したモジュールの共同詳細化を、[[セマンティクス|振る舞い意味]]によって定義される抽象データという考え方でより明解に形式化し、データ階層ないしモジュール階層の連結関係を、[[上位概念、下位概念、同位概念および同一概念|上位概念と下位概念]]の[[リスコフの置換原則|置き換え原則]]で明確に標準化した。一方、1970年に構造化言語[[Pascal]]を開発していた計算機科学者[[ニクラウス・ヴィルト]]は、ダイクストラによる共著出版後の1975年にモジュール化言語[[Modula-2|Modula]]を提示してモジューラプログラミングというパラダイムを生み出している。このようにいささか奇妙ではあるが、Simulaのクラスとオブジェクトというプログラム概念は、巷で言われる構造化からモジュール化へといった進化の流れとは関係なく、しかもその前段階においてさながら彗星のように生まれたパラダイムであった。
 
=== Smalltalkとオブジェクト指向の誕生(1972~81)(1972 - 81) ===
 
初代SimulaからのProcessの仕様は、[[パロアルト研究所]]の計算機科学者[[アラン・ケイ]]によるオブジェクトと「メッセージ」というプログラム概念のヒントになった。ケイはプログラム内のあらゆる要素をオブジェクトとして扱い、オブジェクトはメッセージの送受信でコミュニケーションするという独特のプログラム理論を提唱した。メッセージとはプログラムコードとしても解釈できるデータ列のことであり、そのデータ列を評価(''eval'')することで新たなデータを導出できるという仕組みを意味していた。抽象データを扱うサブルーチンを更に抽象データ化したようなスタイルである。オブジェクトが受け取ったメッセージは任意のタイミングで評価できるので非同期通信、単方向通信(送りっぱなし処理)をも可能にしていた。この発想の背景には[[LISP]]の影響があった。オブジェクトとメッセージの構想に基づいて開発された「[[Smalltalk]]」はプログラミング言語と[[GUI]]運用環境を併せたものとなり、1972年に[[Alto|ゼロックスAlto]]上で初稼働された。Smalltalkの設計を説明するためにケイが考案した「[[オブジェクト指向]]」という用語はここで初めて発信された。またメッセージの構想は[[MIT]]の計算機科学者[[カール・ヒューイット]]に能動的な[[プロセス代数]]を意識させて、1973年発表の[[アクターモデル]]のヒントにもなっている。しかし、データ列が常にコード候補として扱われる処理系は、当時のコンピュータには負荷が大きく実用的な速度を得られないという問題にすぐ直面した。Smalltalk-74とSmalltalk-76の過程で、やむなくメッセージはセレクタ仕様の追加と共に構想通りの評価ができないほどシステム向けに最適化され、レシーバーは動的ディスパッチとメソッド仕様が中心になり、オブジェクトはクラス定義の存在感が大きくなった。{{Quotation|''Smalltalk is not only NOT its syntax or the class library, it is not even about classes. I'm sorry that I long ago coined the term "objects" for this topic because it gets many people to focus on the lesser idea.The big idea is "messaging".''
<br>(Smalltalkはその構文やライブラリやクラスをも関心にしていないという事だけではない。多くの人の関心を小さなアイディアに向かせたことから、僕はオブジェクトという用語を昔作り出したことを残念に思っている。大切なのはメッセージングなんだ。)|Alan Kay}}1980年のSmalltalk-80は、元々はメッセージを重視していたケイを自嘲させるほど同期的で双方向的で手続き的なオブジェクト指向へと変貌していた。それでも動的ディスパッチと[[委譲]]でオブジェクトを連携させるスタイルは画期的であり、1994年に発表される[[デザインパターン (ソフトウェア)|デザインパターン]]の模範にもされている。1981年に大手専門誌[[Byte (magazine)|BYTE Magazine]]がSmalltalkとケイ提唱のオブジェクト指向を紹介して世間の注目を集める契機になったが、ケイの思惑に反して技術的関心を集めたのはクラス機構の方であった。オブジェクト指向は知名度を得るのと同時に、Simula発の[[クラス (コンピュータ)|クラス]]とそれを理論面から形式化した[[抽象データ型]]を中心に解釈されるようになり、それらの考案者がケイの構想とは無関係であったことから、オブジェクト指向の定義はケイの手を離れて独り歩きするようになった。
 
=== C++の開発(1979~86)(1979 - 86) ===
[[Simula]]を研究対象にしていた[[ベル研究所|AT&Tベル研究所]]の計算機科学者[[ビャーネ・ストロヴストルップ]]は、1979年からクラス付きC言語の開発に取り組み、1983年に「[[C++]]」を公開した。C++で実装された[[クラス (コンピュータ)|クラス]]は、Simula譲りの[[継承 (プログラミング)|継承]]と仮想関数に加えて、モジューラプログラミングのデータ隠蔽をモデルにしたアクセスコントロールを備えていた。C++で確立されたアクセスコントロールはカプセル化の元になったがコードスタイル上ほとんどザル化されており、その理由からストロヴストルップ自身もC++は正しくない(''not just'')オブジェクト指向言語であると明言している。1986年にソフトウェア技術者[[バートランド・メイヤー]]が開発した「[[Eiffel]]」の方は、正しいオブジェクト指向を標榜してクラスのカプセル化を遵守させるコードスタイルが導入されていた。クラスメンバは属性、手続き、関数の三種構成で、手続きで属性を変更し関数で属性を加工参照するという形式に限定されており、これは抽象データ型の[[セマンティクス|振る舞い意味論]]に沿った実装であった。アクセスコントロールはC++のアクセス修飾子による段階的スコープ定義に対して自身のクライアントクラスを定義する書式になり、また[[契約による設計]]に沿ったきめ細かなアサーション機能が備えられていた。前者は結合度、後者は凝集度の面からカプセル化を補強した。C++の仮想関数は延期関数の名で実装された。{{Quotation|''I made up the term ‘object-oriented’, and I can tell you I didn’t have C++ in mind.''
<br />(僕はオブジェクト指向という言葉を作った、それとC++に関心がなかったことも分かっている)|Alan Kay}}1986年から[[Association for Computing Machinery|ACM]]は[[OOPSLA|オブジェクト指向会議]](OOPSLA)を開催し、そのプログラミング言語セクションではクラス・パラダイムのオブジェクト指向の意見交換が中心になされ、Eiffelを現行の模範形とする声が多く上がった。しかし世間のプログラマの間では厳格なEiffelよりも、柔軟で融通の利くC++の人気の方が高まっていた。この頃に専用サブルーチンを通したデータ抽象とアクセスコントロールの概念はカプセル化という用語に一般化され、仮想関数ないし延期関数は多態性という用語に包括された。こうして元からの継承と合わせていわゆるオブジェクト指向の三大要素が確立された。同時に多重継承の問題も指摘され始め[[インタフェース (抽象型)|インターフェース]]という設計が取り上げられることになる。また、Smalltalkが標榜するメッセージ・メタファも単にオブジェクト指向の発案元であるという理由から一目置かれており、クラスのメソッドの呼び出しにこれを当てはめようとする考え方が一般化した。他方でSmalltalkの仕様に忠実であろうとする動きもあり、1984年に計算機科学者ブラッド・コックスが開発した「[[Objective-C]]」はSmalltalkをモデルにしてそれを平易化した言語であった。そのメッセージレシーバーはメソッドリストにないセレクタを受け取った場合のみに動的ディスパッチ機構に移るというスタイルで形式化された。程なくしてこのメッセージレシーバー実装の必要性には疑問符が付けられるようになったが、[[遠隔手続き呼出し]]のスタイルにはマッチしていたのでメッセージにある種の理想を抱く風潮はいつまでも残った。
 
=== プロトタイプベースの考案(1985~90)(1985 - 90) ===
[[Smalltalk]]のオブジェクト指向は、[[アラン・ケイ]]がその影響を言及していた[[LISP]]コミュニティを逆に感化して、Smalltalkが改めて提示したメタオブジェクトの概念を通したオブジェクト指向とLISP風プログラミングの連携に向けた構想が練られるようになった。LISPにはアトムとシンボル型というキーファクターが存在していたので、それと同様にオブジェクトのメンバ変数名とメンバ関数名自体をその都度評価(''eval'')して実行時の内容を導出し、実際の変数参照や関数呼出につなげるというアイディアが生まれた。これは実装面では単に、フレームと呼ばれる動的配列のスロットに変数や関数のポインタを付け替えするという機構にまとめられた。識別子(変数名と関数名)がマッピングされたスロットも増設削減可能であり、原型クラスと継承クラスのポインタも加えられた。このメタオブジェクト設計を導入して1985年に[[MIT人工知能研究所]]の[[LISPマシン]]上で「Flavors」が実装された。LISPの視点から保有スロット識別子の構成による[[動的型付け]]が盛り込まれ、それと多重継承を合わせた[[ミックスイン]]という設計が考案され、更にそれを平易化した[[ダックタイピング]]の概念も自然発生した。1988年にFlavorsのデザインを[[Common Lisp]]に融合させた「[[CLOS]]」が公開されたが、こちらは関数を中心にした一風変わったスタイルになった。Flavorsのデザインは[[パロアルト研究所]]にも回帰され、計算機科学者デビッド・アンガーがSmalltalkの方言として制作する「[[Self]]」を1987年に初回リリースした。LISPコミュニティから逆輸入されてSelfに導入されたメタオブジェクト設計は、後に[[プロトタイプベース]]またはインスタンスベースと呼ばれるパラダイムに発展し、[[Webプログラミング|WEBプログラム]]時代を迎えて大幅にプログラマ人口を増やしたオブジェクト指向[[スクリプト言語]]に大きな影響を与える事になった。同時にそれと、従来の[[クラス (コンピュータ)|クラス]]の仕組みを用いるオブジェクト指向言語を区別するための[[クラスベース]]という言葉も生まれた。
 
== 代表的なオブジェクト指向言語 ==
オブジェクト指向言語は、[[抽象データ型]]の仕組みに沿った[[クラスベース]]、フレームとスロットの仕組みに沿った[[プロトタイプベース]]、[[Smalltalk]]をルーツにした[[メッセージパッシング|メッセージ]]構文ベースの三タイプに分類されるのが一般的である。[[クラスベース]]では「C++」「Java」「C#」が代表的である。[[プロトタイプベース]]では「Python」「JavaScript」「Ruby」が有名である。[[メッセージパッシング|メッセージ]]構文ベースでは「Smalltalk」「Objective-C」「Self」などがある。言語仕様の中でオブジェクト指向の存在感が比較的高い代表的なプログラミング言語は以下の通りである。
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:1962年に公開された[[Simula]]の後継版であり、[[クラス (コンピュータ)|クラス]]のプログラム概念を導入した最初の言語である。物理モデルを解析するシミュレーション制作用に開発されたもので、クラスをメモリに展開したオブジェクトはその観測対象要素になった。Simulaのクラスは、一つのローカル変数構造と複数のプロシージャをまとめたミニモジュールと言えるものであったが、継承と仮想関数という先進的な設計を備えていた事でオブジェクト指向言語の草分けと見なされるようになった。[[クラスベース]]の源流である。
;[[Smalltalk]] 1972年
:[[メッセージパッシング]]のプログラム概念を導入した最初の言語。数値、真偽値、文字列から変数、コードブロック、メタデータまでのあらゆる要素をオブジェクトとするアイディアを編み出した最初の言語でもある。オブジェクト指向という言葉はSmalltalkの言語設計を説明する中で生み出された。オブジェクトにメッセージを送るという書式であらゆるプロセスを表現することが目標にされている。[[メッセージ転送|メッセージレシーバー]]と[[委譲]]の仕組みは、形式化されてない動的ディスパッチと[[ダイナミックバインディング|動的バインディング]]相当のものであり[[プロトタイプベース]]の源流にもなった。専用のランタイム環境上で動作させる設計も模範にされ、これは後に[[仮想マシン]]や[[仮想実行システム]]と呼ばれるものになる。
;[[C++]] 1983年
:[[C言語]]に[[クラスベース]]のオブジェクト指向を追加したもの。Simulaの影響を受けている。[[静的型付け]]の[[クラス (コンピュータ)|クラス]]が備えられて、カプセル化、継承、多態性の三仕様を実装している。カプセル化はアクセス修飾子とフレンド指定子の双方を定義できる。継承は多重継承、オーバーライド制約用の継承可視性、[[菱形継承問題]]解決用の[[仮想継承]]も導入されている。多態性は[[仮想関数]]によるサブタイプ多相、[[テンプレート (プログラミング)|テンプレートクラス&関数]]によるパラメトリック多相、[[多重定義|関数&演算子オーバーロード]]によるアドホック多相が導入されている。元がC言語であるため、オブジェクト指向から逸脱したコーディングも多用できる点が物議を醸したが、その是非はプログラマ次第であるという結論に落ち着いた。
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;[[クラス (コンピュータ)|クラス]]
:クラス(''class'')の仕組みを中心にしたオブジェクト指向を[[クラスベース]]と言う。クラスはデータメンバとメソッドをまとめたものであり、[[プログラム意味論|セマンティクス]]を付加された静的[[構造体|レコード]]とも解釈される。ここでのセマンティクスとはデータの用法を表わすメソッドを指す。クラスはインスタンスのひな型になる。クラスはカプセル化、継承、多態性の三機能を備えていることが求められている。カプセル化はデータメンバとメソッドの可視性を指定する機能である。継承は自身のスーパークラスを指定する機能である。多態性はオーバーライドと[[仮想関数テーブル]]を処理する機能である。コンストラクタとデストラクタの実装も必要とされている。前者はインスタンス生成時に、後者はインスタンス破棄時に呼び出されるメソッドである。
 
;プロトタイプオブジェクト
:プロトタイプ(''prototype'')の仕組みを中心にしたオブジェクト指向を[[プロトタイプベース]]と言う。プロトタイプベースで言われるオブジェクトとは、中間参照ポインタの動的配列を指す。この動的配列は一般にフレームと呼ばれる。中間参照ポインタは一般にスロットと呼ばれる。スロットにはデータメンバとメソッドの参照が代入されるので、オブジェクトはクラスと同様にデータメンバとメソッドをまとめたものになる。オブジェクトはプロトタイプオブジェクトとオブジェクトに分かれる。前者はクラス、後者はインスタンスに当たるものである。前者はシステム提供プロトタイプとユーザー定義プロトタイプに分かれる。プログラマはシステム提供プロトタイプを派生させてユーザー定義プロトタイプを作成する。プロトタイプには、規定の設計に基づいたデータメンバ参照とメソッド参照が代入されており、オブジェクトのひな型になる。プロトタイプは親プロトタイプ参照用スロットを保持しており、これは継承と類似の機能になる。プロトタイプを複製する形式でオブジェクトは生成される。オブジェクトは複製元プロトタイプと同じデータメンバとメソッドを保持しているが、生成後は任意のデータメンバとメソッドを自由に付け替えできる。オブジェクトは複製元プロトタイプ参照用スロットを保持している。複製元プロトタイプからその親プロトタイプを辿れる参照のリンクによってオブジェクトは一定の体系化がなされている。
 
;[[メッセージ (コンピュータ)|メッセージ]]
:オブジェクト指向で言われるメッセージ(''message'')は、複数の方面の考え方が混同されている曖昧な用語になっている。元々はSmalltalkから始まったメッセージ構文ベースのオブジェクト指向の中心機構である。以前はクラスベースの方でもメソッドの呼び出しをメッセージを送るという風に考えることが推奨されていた。メッセージはオブジェクトのコミュニケーション手段と標榜されているが、その忠実な実装内容はそれほど知られていないのが実情である。最も混同されているものに[[アクターモデル]]があるが、そこで言われる非同期性とオブジェクト指向で言われる評価の遅延性は現行の実装スタイルではそれほど共通していない。コンポーネント準拠ソフトウェア工学と[[Object Request Broker|オブジェクトリクエストブローカー]]で言われる[[ソフトウェアコンポーネント]]同士の通信もメッセージパッシングと呼ばれることが多いが、その仕様と機能は動的ディスパッチに該当するものである。メッセージのオブジェクト指向的運用はメッセージングと名付けられている。具体的な機能例としてはSmalltalk、Objective-C、Selfの[[メッセージ転送|メッセージレシーバー]]と、Rubyのメソッドミッシングなどがあるが、いずれもメッセージングの本質ではないとも言われている。
 
;[[インスタンス]]
:(''instance'')はクラスベースではクラスを実体化したものであり、実装レベルで言うとデータメンバと仮想関数テーブルをメモリ上に展開したものになる。プロトタイプベースではプロトタイプオブジェクトのクローンで生成されたオブジェクトを指す。実装レベルで言うとメモリ上に展開された中間参照ポインタの動的配列になる。
 
;[[フィールド (計算機科学)|データメンバ]]
:(''data member'')はクラスまたはオブジェクトに属する変数。言語によってフィールド、プロパティ、メンバ変数、属性と呼ばれる。データメンバは、クラスデータメンバとインスタンスデータメンバに分かれる。クラスデータメンバは静的データメンバとも呼ばれる。その中で定数化されたものはクラス[[定数 (プログラミング)|定数]]と呼ばれる。クラスデータメンバはクラス名の名前空間でスコープされたグローバル変数と同じものであり、プログラム開始時から終了時まで確保される。インスタンスデータメンバはインスタンス生成時にメモリ上に確保されるものであり、その破棄時に消滅する。プロトタイプベースではプロトタイプオブジェクトが保持する特定のデータメンバが静的データメンバに該当するものになる。
 
;[[メソッド (計算機科学)|メソッド]]
:(''method'')はクラスまたはオブジェクトに属する関数。言語によってはメンバ関数とも呼ばれる。データメンバの参照に特化したものはゲッター(''getter'')アクセッサ(''accessor'')と呼ばれる。データメンバの変更に特化したものはセッター(''setter'')ミューテイタ(''mutator'')と呼ばれる。メソッドは、クラスメソッドとインスタンスメソッドに分かれる。クラスメソッドは静的メソッドとも呼ばれる。クラスメソッドはクラス名の名前空間でスコープされたグローバル関数と同じものである。インスタンスメソッドを呼び出すには、そのメソッドが属するインスタンス参照が必要になる。これはthisインスタンスと呼ばれる。プロトタイプベースではプロトタイプオブジェクトが保持する特定のメソッドが静的メソッドに該当するものになる。
 
;[[コンストラクタ]]
:(''constructor'')はインスタンス生成時に呼び出されるそのクラスのメソッドである。インスタンスデータメンバを任意の値で初期化するためのものであるが、その他の初期化コードも記述できる。プロトタイプベースではプロトタイプオブジェクトと同名のグローバル関数として存在している。
 
;[[デストラクタ]]
:(''destructor'')はインスタンス破棄時に呼び出されるそのクラスのメソッドである。インスタンス破棄の影響を解決する任意の後始末コードを記述できる。インスタンスの破棄は占有メモリの解放を意味する。なお、ガーベジコレクタ実装言語ではファイナライザになっている事がある。プログラマが呼び出すデストラクタの方はその終了がメモリ解放に直結してるのに対し、ガーベジコレクタが呼び出すファイナライザの方はそうではない。
 
;アクセスコントロール
:(''access control'')はカプセル化に基づくデータメンバとメソッドの可視性を決定するものである。これはスコープ基準とクライアント基準の二通りがある。スコープ基準の可視性はプライベート、プロテクト、パブリックの三種が基本である。プライベートは同クラス内のみ、プロテクトは同クラス内と派生クラス内のみ、パブリックはどこからでもアクセス可能である。クライアント基準の可視性は自クラス内のメンバへのアクセスを許可するクライアントクラスないしフレンドクラスを定義する方法で決められる。クライアントクラス指定はそのサブクラスを含むこともあり継承関係で一括定義できる。
 
;[[インタフェース (抽象型)|インターフェース]]
:(''interface'')はプログラム概念と機能名の双方を指す用語である。言語によってはプロトコルと言われる。抽象メソッドと具象メソッド(実装内容付き)で構成される純粋抽象半抽象クラスを意味する。クラスの振る舞い局面を抽出したものであり、[[統一モデリング言語|UML]]では実現と言われる。クラスによるインターフェースの継承は実装と呼ばれる。多重実装可が普通である。ミックスインとの違いは、抽象階層に焦点が当てられている事であり、直下の実装オブジェクトを共通の振る舞い局面でまとめることがその役割である。インターフェースは自身の実装オブジェクトをグループ化できる。{{仮リンク|記名的型付け|en|Nominal type system|label=}}に準拠しているのでインターフェースの実装の明記が振る舞い局面の識別基準になる。インターフェースは抽象メソッド主体なので多重継承時のメンバ名の重複はあまり問題にならない。共通の実装メソッドに集約されるからである。インターフェースは非インスタンス対象である。
 
;[[ミックスイン]]
:(''mixin'')はインターフェースに似たプログラム概念を指す用語である。機能名は言語によって[[トレイト]]またはプロトコルと言われる。抽象&具象メソッドとデータメンバで構成される継承専用クラスを意味する。クラスを特徴付けるための装飾部品である。クラスによるトレイトの継承は実装と呼ばれる。多重実装可が普通である。インターフェースとの違いは、トレイトの実装階層に焦点が当てられている事であり、オブジェクトを所有メンバで特定してまとめることがその役割である。トレイトは自身の[[上位集合]]であるオブジェクトをグループ化できる。{{仮リンク|構造的型付け|en|Structural type system|label=}}に準拠しているので所属メンバ構成自体がトレイト等価性の識別基準になる。これはトレイト実装を明記してなくても、そのトレイトが内包する全メンバを所持していれば同じトレイトと見なされることを意味する。トレイトは合成や交差が可能である。トレイトは多重継承時のメンバ名重複の際にその参照の優先順位に注意する必要がある。トレイトは非インスタンス対象である。
 
;[[ダックタイピング]]
:''(duck typing'')は特定のデータメンバ名またはメソッド名(メソッドシグニチャ)を持っているかどうかでインスタンスを分類すること。または選り分けること。実行時に判別する仕組みであり、動的型付けに分類される。選り分けられたインスタンスはその指名データメンバないし指名メソッドでのアクセス対象になる。
 
;[[メタクラス]]
:(''metaclass'')とはクラスを定義しているクラスであるが、その実態はシステム側が用意している特別なシングルトンオブジェクトと考えた方が分かりやすい。システム内のクラス定義情報をクラスに見立てて、それをインスタンス化したものである。慣例的にこれをメタクラスと呼ぶ。メタクラスはクラスのデータメンバとメソッドの定義情報を指し、それを操作する機能はリフレクションと呼ばれる。クラスベースで用いられるものである。
 
;[[リフレクション (情報工学)|リフレクション]]
:(''reflection'')はクラスの定義情報を変更する機能であるが、言語ごとに変更できる定義情報の範囲は異なっている。データメンバではデータ型、識別子、可視性が変更対象になる。メソッドではリターン型、識別子、パラメータリスト、可視性、仮想指定が変更対象になる。双方の追加定義と削除もできる事がある。スーパークラスも変更できる事がある。また、実行時の文字列(char配列やString)をデータメンバとメソッドの内部識別子として解釈できる機能もリフレクションに当たる。これは実行時の文字列によるデータメンバの参照とメソッドの呼び出しを可能にする。
 
;遅延バインディング
:(''late binding'')は、識別子が参照するオブジェクトをコンパイル時に決める事前バインディング(''early binding'')の対義語であり、この場合は識別子の参照先を実行時に決める動的バインディングとほぼ同じ意味で用いられる。一方で、特にリフレクション機能を通して実装される方を遅延バインディングとする考え方もある。抽象化された型に対して、実行時の文字列(char配列やString)を内部識別子に解釈し、コンパイル時には認識されていなかったオブジェクトをローディングして代入する仕組みなどである。オブジェクトの呼び出しが、[[ダイナミックリンクライブラリ|DLL]]やクラスライブラリの動的ローディングに繋がることが遅延バインディングと呼ばれる基準になる。また、プログラム内でデータとして扱われている[[コードブロック]]を関数の型に代入して呼び出すという仕組みがある。そのコードブロックは文字値と数値の混合配列であり、リフレクション機能を利用して実行する。
 
;動的ディスパッチ
:(''dynamic dispatch'')はメソッドの呼び出しを受けるオブジェクトの側に焦点を当てたプログラム概念である。一般的なローカルメソッドでは、メソッド識別子にマッピングされている参照が指すメソッド実体を呼び出す仕組みを意味する。参照が指す先はプログラム実行中に随時変更されるのでコンパイル時ではなく実行時のその都度に確定されることになる。リモートメソッドでは、受け取ったバイトデータ列を解釈しリフレクション機能でメソッドを呼び出す仕組みを意味する。受信側の実行時状態による選択が加えられる事もある。始めのアクセスで所有メソッドリストを呼び出し側に送り、無駄なエラーリクエストを無くす仕組みと併用される事が多い。
 
;[[動的束縛|動的バインディング]]
:(''dynamic binding'')は特定の識別子から呼び出されるメソッドないし参照されるデータメンバが、コンパイル時ではなく実行時に決められる仕組み全般を指す用語である。プロトタイプベースのオブジェクトからメソッドとデータメンバが参照される機構、仮想関数メソッドから派生クラスのメソッドが呼び出されるシングルディスパッチ機構、メソッドに渡された実引数を実行時型チェックしてその結果に従いプロセスを分岐させるシングルディスパッチ多重ディスパッチ機構などが例である。
 
;[[オーバーロード]]
:(''overloading'')は一つのメソッド名に複数の異なるパラメータリスト(引数欄)を付けたものを列挙してメソッド名を多重定義すること。[[演算子]]もオーバーロード対象であり、[[単項演算子]]なら一つの引数の型、[[二項演算子]]なら二つの引数の型を多重定義することで演算対象の値の型ごとに計算内容をカスタマイズできる。特筆的なものに[[クロージャ]]=[[関数オブジェクト]]を表現する ( )演算子がありこれは任意個数の引数を多重定義できる。インスタンス自体を任意構成の引数とともに関数のように使える仕組みである。
 
;[[オーバーライド]]
:(''method overriding'')は継承による階層的クラス構造のインスタンスにおいて、サブクラスのメソッドシグニチャの処理内容でそのスーパークラス側の同じメソッドシグニチャの処理内容を置き換える仕組みを指す。メソッドシグニチャとは「返り値+メソッド名+引数欄」で構成される識別単位である。この指定は親側のメソッドが上書きされるのをデフォルトにするのと、子側のメソッドで上書きするのをデフォルトにする二通りがある。前者なら子側のメソッドを''override''や''redefine''で修飾しそれで親側メソッドを上書きする。後者なら親側のメソッドを''virtual''や''deferred''や''abstract''で修飾しそれは子側メソッドで上書きされる。それとは別にただメソッドを上書き不可にする場合は''final''などで修飾する。
 
;[[ジェネリクス]]
:(''generics'')はクラス内のデータメンバの型、メソッドの引数の型、返り値の型を総称化して型変数とし、任意の具体的な型を型引数にしてコンストラクタを呼び出して、型変数に型引数を当てはめて(適用)インスタンスを生成する仕組みを指す。クラス内の型の決定をコンストラクタまで先送りする手法である。このジェネリッククラスに対して、引数の型と返り値の型を総称化したジェネリック関数もある。型変数をバリアンスにすることで適用クラスの派生クラスも当てはめることができる。型変数のバリアンスを用いないジェネリクスの方は特にテンプレートと呼ばれる。
 
;[[テンプレート (プログラミング)|テンプレート]]
:(''template'')は型変数のバリアンスを用いない方のジェネリクスを指す。コンパイル時にそれぞれのテンプレートクラスおよびテンプレート関数の型変数(仮型引数)部分に、それぞれの生成箇所の型引数(実型引数)を当てはめたソースコードがそのまま複製される仕組みである。
 
;[[共変性と反変性 (計算機科学)|バリアンス]]
:(''variance'')は、あるクラスで型注釈された箇所にそれと継承関係があるクラスも適用できるようにする仕組みである。注釈クラスとその派生クラスを適用できるようにしたのは共変性と呼ばれる。注釈クラスとその基底クラスを適用できるようにしたのは反変性と呼ばれる。オブジェクト指向下のバリアンスは、もっぱらジェネリクスのカテゴリで用いられジェネリッククラスの型変数が対象になる。バリアンスはジェネリッククラスの継承構造上のオーバーライドで様々に応用される。
 
;型制約
:(''type constraint'')はジェネリッククラスの型引数ないし型変数、または代入値の型が実行時に決められる動的束縛型に用いられるものである。それぞれを指定クラスで記号修飾して、型引数と型変数では指定クラスの派生クラスのみを適用できるようにし、動的束縛型では指定クラスの派生クラス値のみが代入できるようにする仕組みである。これは型境界(''type bound'')とも呼ばれる。
 
;コンポジション
:合成(''composition'')は強い[[has-a]]関係。AクラスがBクラスをデータメンバにし、Aのコンストラクタと同時にBインスタンスが生成され、Aのデストラクタと同時にBインスタンスが破棄される場合、AはBの合成となる。Bが自身のサブクラスで交換される場合は分離とともに破棄される。
 
;アグリゲーション
:集約(''aggregation'')は弱い[[has-a]]関係。AクラスがBクラスをデータメンバにし、Aクラスのコンストラクタとは関係なくBインスタンスが生成され、AクラスのデストラクタでBインスタンスが破棄されず、また分離時も破棄されない場合、AはBの集約となる。Aクラスがコレクション(配列、List、Set、Map)の仕組みでBインスタンスを持つ場合も、AはBの集約となる。コレクション性を強調する場合は収容(''containment'')とすることもある。
 
;アソシエーション
:関連(''association'')。AクラスがBクラスのメソッドを呼び出す場合、AはBに関連しているとなる。AはBへの誘導可能性を持つとされる(A→B)。has-a関係で保有しているインスタンスのメソッドを呼び出すという意味で関連線は合成線または集約線と重ねて引かれることが多い。
;ディペンデンシー
:依存(''dependency'')。AクラスのメソッドがBクラスのインスタンスを引数または返り値にしてる場合、AはBに依存しているとなる。返り値の例として、Aのメソッドがその返り値としてBインスタンスを生成する場合も、AはBに依存しているとなる。
 
;[[委譲|デリゲーション]]
:委譲(''delegation'')は基本例としては、呼び出されたあるクラスのメソッドが自分への引数を他のクラスの同名メソッドにそのまま渡して、その同名メソッドの返り値をそのまま呼び出し元に返すという仕組みを指す。委譲先となる他のクラスはhas-a関係で保有されているものが使われる。委譲先メソッドは必ずしも同名ではなくマッピング名の場合もあり、引数も構成を変えて渡される場合もある。