「デジタルミレニアム著作権法」の版間の差分

削除された内容 追加された内容
タグ: 取り消し
GA選考ご指摘反映。白鳥 (2004) を出典追加。
147行目:
これらの改正の背景には、DMCA成立の2年前に署名された[[WIPO著作権条約]] (WCT) と[[WIPO実演・レコード条約]] (WPPT) がある{{R|USCO-ExecSummary|WCT-WIPO-Summary|WPPT-WIPO-Summary}}。しかしながら、当時既に米国著作権法はWCTとWPPTで定められた権利保護水準の一部は満たしていた。したがって条約履行はDMCAの一目的でしかなく、Eコマースやデジタル著作物のネットワーク流通を促進しつつ、著作物の保護を強化するというより多角的な意図を以って連邦議会はDMCAを成立させた{{R|USCO-ExecSummary}}。その結果、DMCA 第5章 ([[船型デザイン保護法]]) のように、デジタル社会対応や著作権と直結しない改正も含まれている{{R|Cornell-Summary}}。
 
DMCA改正のうち、特に技術的保護手段の回避禁止 (第1章) とノーティスアンドテイクダウン手続 (第2章) が知られていることから{{R|Cornell-Summary}}、これら2点について以下詳述する。
 
=== 技術的保護手段 (TPM) の回避禁止 ===
234行目:
 
== 判例 ==
表現の自由 ([[権利章典 (アメリカ)#修正第1条|憲法修正第1条]]) を根拠としたDMCAの違法性に関する訴訟は複数あるものの、2000年代の判決の多くは合憲となっている{{R|FSC}}。一方、フェアユースの文脈では、ノーティスアンドテイクダウン手続の濫用が指摘された判例も存在する。以下、専門家や法律専門メディアなどが言及したDMCA関連判例の一部を紹介する (訴訟名の右に特筆性を示す出典を付記)
{{See also|著作権法の判例一覧 (アメリカ合衆国)}}
 
=== 表現の自由関連 ===
; {{仮リンク|ユニバーサル・シティ・スタジオ他対ライマーズ他裁判|en|Universal City Studios, Inc. v. Reimerdes}} ({{Lang|en|Universal City Studios v. Reimerdes}} (111 F. Supp. 2d 348 (S.D.N.Y. 2000)){{Sfn|白鳥|2004|pp=261–265}}{{R|FSC|Duke-DMCA}}{{Efn2|同じ[[DeCSS]]を巡って争われた {{Lang|en|Universal City Studios, Inc. v. Corley}}, 273 F.3d 429 (2nd Cir. 2001) が参照される場合もある。Reimerdesと同様、Corleyも法廷でDeCSS使用の正当性を主張したが退けられている{{Sfn|白鳥|2004|pp=261–265}}。}}
: DVDの暗号化を解除してウェブサイト上で動画をシェアしたとして、映画製作会社が著作権侵害の集団訴訟を起こした事件である{{R|DeCSS-CaseText|DeCSS-Wired|FSC|Duke-DMCA}}。動画ウェブサイトに使用されたのは[[DeCSS]]と呼ばれる解除プログラム (CSS ([[Content Scramble System]]) をデコードするプログラム) であり、ノルウェー出身の[[ヨン・レック・ヨハンセン]] ({{Lang|nr|Jon Lech Johansen}}、通称: DVD-Jon) が10代半ばにして開発したものである{{R|NYT-DVDJon}}。被告はショーン・C・ライマーズ ({{Lang|en|Shawn C. Reimerdes}}{{Efn2|苗字のReimerdesには複数の発音が存在し、「ライマーズ」{{R|Reimerdes-YouTube}}の他、「リマディーズ」{{R|Reimerdes-HTP}}とするものもある。}}) など複数人である{{R|DeCSS-CaseText|DeCSS-Wired|FSC|Duke-DMCA}}。ライマーズは「dvd-copy.com」のサイト運営者であり、またこれに類似する「ackdown.com」や「ct2600.com」なども同様に、業界団体である[[アメリカ映画協会 (業界団体)|アメリカ映画協会]]から批判を受けていた{{R|DeCSS-Wired}}。被告らは「DeCSSは[[Linux]]を搭載したパソコンなどの端末上でDVDを閲覧するために開発された」として、暗号解読による著作権侵害の意図を否定する抗弁を展開した{{R|Duke-DMCA}}{{Efn2|さらに被告の一人であるCorleyは、プログラムのコードも「スピーチ」の一種であることから、表現の自由が保障され、DeCSSの普及を阻むDMCAは表現の自由を保障した憲法に違反するとも主張した{{Sfn|白鳥|2004|p=262}}。加えて、フェアユースの観点からも暗号解読は認められるべきと主張するも、退けられている{{Sfn|白鳥|2004|p=263}}。}}。しかしながら米国連邦裁はこれを認めず、2000年に著作権侵害であると判示した{{R|DeCSS-CaseText|DeCSS-Wired|FSC|Duke-DMCA}}。
 
: ところが2000年の米国判決から3年後、DeCSS開発者のDVDヨンはノルウェーの裁判で無罪判決を受けている。当時のノルウェーは米国DMCAのようにハッキングやデジタル海賊版流通に対する法的規制を行っていたものの、米国ほど合法・違法の線引きが明確でなかったことから、ノルウェーひいては欧州でどのような判決となるか注目を集めた。DVDヨンは自身のLinuxコンピュータ上でDVD視聴する目的でDeCSSを使用したと主張し、オスロ地方裁も「DVDの映画を合法的に購入した者は、それを閲覧する権利を有する」としてDVDヨン無罪と判示した{{R|NYT-DVDJon}}。
 
; {{仮リンク|アメリカ合衆国政府対エルコム裁判|en|United States v. Elcom Ltd.}} ({{Lang|en|United States v. Elcom Ltd.}} (203 F. Supp. 2d 1111 (N.D. Cal. 2002)){{R|FSC}}
: 米国企業[[アドビシステムズ]]の電子書籍サービス「Acrobat eBook Reader」は著作権保護対象であるが、これに対してロシア企業{{仮リンク|エルコムソフト|en|ElcomSoft}}の従業員、Dmitry Sklyarovが技術的保護手段の回避を可能とするソフトウェアを開発したことから、DMCAに基づいて刑事罰が科された事件である。Acrobat eBook Readerでは、電子書籍を読者に自由な複製を許すか否かの判断を、個々の電子書籍出版者に委ねていた。ここでの「複製」には紙媒体での印刷出力のほか、コンピュータを介してデジタル配布する行為や、音声読み上げソフトを使う行為も含まれている。Acrobat eBook Reader経由で電子書籍を購入したユーザに対しては、顧客管理用の「バウチャー」が発行されて識別されていた。したがって、通常はユーザがダウンロードしたパソコン端末のみで閲覧することを想定しており、他のパソコンへのシェアは行われないであろうと考えられていた{{R|Elcom-CL}}。
 
: エルコム社はアドビ社のシステム制限を解除するソフトウェア「{{Lang|en|The Advanced eBook Processor}}」(略称: AEBPR) を開発したことから刑事罰に至ったが、連邦地方裁はこの行為に対する刑事罰はDMCAに基づいて合法と判示した{{R|FSC|Elcom-CL}}。
 
; {{仮リンク|321スタジオ対MGMスタジオ裁判|en|321 Studios v. Metro Goldwyn Mayer Studios, Inc.}} ({{Lang|en|321 Studios v. Metro Goldwyn Mayer Studios, Inc.}} (307 F. Supp. 2d 1085 (N.D. Cal. 2004)){{R|FSC}}
: {{仮リンク|321スタジオ|en|321 Studios}}社は「{{仮リンク|DVD X Copy|en|DVD X Copy}}」(2002年発売開始) と呼ばれる[[Content Scramble System|コンテンツ・スクランブル]] (CSS) 回避ソフトウェアの一種を提供しており、DVD-Videoを複製してバックアップをとる目的で市販されていた。当製品は米国内だけでなく、日本などでも代理店販売を通じて流通していた{{R|XCopy-Impress}}。DVD X Copyは、技術的にはCSSの暗号を解読しているわけではなく、CSSの「プレイヤーキー」({{Lang|en|player key}}) と呼ばれるデータアクセスキーを用いていた。また、DVD X Copyの1年前に発売された「DVD Copy Plus」もバックアップツールであり、一部機能は無償提供されていたほか、ドイツ企業からライセンス供与された「PowerCDR」と呼ばれるCD複製アプリケーションも含むパッケージであった。つまりDVD Copy PlusはDVD映像を純粋に複製しているわけではなく、CDに焼き直す仕組みであった{{R|321-CaseText}}。
 
: 321スタジオ社は2002年、17 U.S.C. 第107条の[[フェアユース]]に基づき、同社ソフトウェアの{{仮リンク|宣言判決|en|Declaratory judgment}}を申し立てた{{R|321-CaseText|FSC}}。米国の宣言判決 (確認訴訟) とは、合法性などを巡って司法に確認を求める裁判である{{R|Declaratory-Kantei}}。連邦地裁は、321スタジオ社製品がフェアユースの要件を満たさず、DMCAの定めたTPM回避に該当すると判示した{{R|321-CaseText|FSC}}。
 
; {{Visible anchor|電子フロンティア財団対米国政府裁判}} ({{Lang|en|Green, et al. v. U.S. Department of Justice, et al.}} ([https://www.courtlistener.com/docket/4214943/green-v-us-department-of-justice/ 判例集未掲載]、D. D.C. 2016)){{R|EFFvDOJ-CA|EFFvDOJ-Bloomberg}}
: インターネット上の[[自由権]]を擁護する非営利組織の[[電子フロンティア財団]] (EFF) は、科学者グリーンらの利益を代弁する形で、DMCAが[[権利章典 (アメリカ)#修正第1条|憲法修正第1条]]で定められた表現の自由に違反すると主張している。EFFは2016年、[[アメリカ合衆国司法省|司法省]]、[[アメリカ議会図書館]]および{{仮リンク|アメリカ合衆国著作権局|en|United States Copyright Office}} (略称: USCO) を提訴した。DMCA 第1章 (17 U.S.C. 1201条) によって、海賊版などを取り締まる目的で[[コピーガード]]や[[アクセス制御|アクセスコントロール]]の解除が禁じられた。しかし電子機器や工業用品の多くがソフトウェアを内蔵する時代にあって、これらメーカーから独立した第三者機関が修理や不具合の原因究明 ([[リバースエンジニアリング]]) を行おうとしても、第1201条に抵触してしまうためである{{R|CL-EFF|EFFcase-CNET|EFFcase-PR2016|Gurdian-EFF}}。USCOは2018年、EFFからの嘆願書の一部を受け入れ、[[Amazon Echo]]や車載ソフトウェア、個人用デジタル端末などに限定して、内蔵ソフトウェアの修繕や除去 (いわゆる[[Jailbreak|脱獄]]) などを認めた{{R|EFFcase-PR2018}}。
 
=== DMCA通告関連 ===
; {{仮リンク|バイアコム対YouTube裁判|en|Viacom International Inc. v. YouTube, Inc.}} ({{Lang|en|Viacom International Inc. v. YouTube, Inc.}} (676 F.3d 19, 30–35 (2d Cir. 2012)){{Sfn|Pallante|2014|pp=44, 55}}
: [[ケーブルテレビ]]局[[MTV]]や[[パラマウント映画]]を傘下に持つメディア企業[[バイアコム]]が、ユーザ投稿型動画サイト[[YouTube]]を運営する[[Google]]を提訴した事件であり、17 U.S.C. 第512条 (DMCA通告) を巡って争われた{{Sfn|Pallante|2014|pp=44, 55}}。バイアコムによると、同社を含む原告団が著作権を有する動画クリップが約79,000点、YouTubeに無断投稿された。YouTube側は、これらのユーザ投稿が著作権侵害だと知りつつ、過去3年間に渡って黙認していたことから、DMCA通告のセーフハーバー条項 (特に第512(c)条) による免責を受ける資格がないとして、損害賠償を求めてバイアコムはYouTubeを糾弾した。また、[[コモンロー]]上の「[[故意の盲目|故意の無知の原理]]」({{Lang|en|willful blindness}}){{Efn2|法学におけるwillful blindnessとは、違法行為が発生した可能性が高いと疑われるにもかかわらず、その調査を意図的に怠ることを指す{{R|WB-Webster}}。}}も当事例に適用できるかが争点となった{{R|CaseBrief-Viacom|LexisNexis-Viacom}}。
 
: 一審の連邦地方裁判所は、どの動画クリップが著作権侵害を起こしているのか明確なDMCA通告がなかったことを主な理由として、YouTube側が違法投稿を把握していなかったと判断し、第512条の免責条件をYouTubeは満たしていると判示した。しかしながら二審の第2巡回区控訴裁判所 (ニューヨーク) では、ごく一部ではあるもののYouTubeが違法投稿の存在を認識していたと事実認定し、一審の判決を覆している。その上で、一審で示された免責条件の解釈そのものは二審でも支持されている (つまり判断基準は間違っていないものの、判断材料となる事実認識が一部間違っていた)。また、故意の無知の原理については、サービスプロバイダーに能動的な[[注意義務|善管注意義務]]までは課していないとして、17 U.S.C. 第512条への無差別的な適用に限界があるとしつつも、一定の条件を満たせば故意の無知の原理も適用可能との解釈が二審で示された{{R|CaseBrief-Viacom|LexisNexis-Viacom}}。
 
; {{仮リンク|コロンビア映画他対ファン裁判|en|Columbia Pictures Industries, Inc. v. Fung}} ({{Lang|en|Columbia Pictures Industries, Inc. v. Fung}} (Docket Number : 10-55946 (9th Cir. 2013)){{Sfn|Pallante|2014|pp=44, 55}}
: 映画製作・配給会社[[コロンビア映画]]に加え、[[ディズニー]]、[[パラマウント映画]]、[[20世紀フォックス]]、[[ユニバーサル・シティ・スタジオ]]および[[ワーナー・ブラザース]]で構成された集団訴訟である。被告のゲイリー・ファン ({{Lang|en|Gary Fung}}) は[[Peer to peer]]ソフトウェアの一種[[BitTorrent]]を使ったサイト「[[isoHunt]]」を運営しており、同サイトがファイルの違法ダウンロード環境を提供しているとして、著作権法上の{{仮リンク|寄与侵害 (著作権法)|label=寄与侵害|en|Contributory copyright infringement}} (二次的侵害責任の一つ) が問われた{{R|Justia-Fung}}。そしてこのような侵害の「誘引」({{Lang|en|inducing}}) 行為に関し、ファンは第512条のセーフハーバーに該当するとして抗弁したことから、第512条の解釈が争点となった{{Sfn|Pallante|2014|pp=44, 55}}{{R|Justia-Fung}}。
 
: 一審では先例となる2005年の最高裁判決「[[著作権法の判例一覧 (アメリカ合衆国)#MGMスタジオ対グロクスター裁判|MGMスタジオ対グロクスター裁判]]」を参照した上で、ファンの運営するサイトの寄与侵害を認めて原告勝訴とした。二審の第9巡回区控訴裁判所 (サンフランシスコ) も一審の寄与侵害の判断を支持しつつも、終局的差止命令 ([https://uscode.house.gov/view.xhtml?req=granuleid:USC-prelim-title17-section502&num=0&edition=prelim 第502条]) は不当に過度であるとして、一審の差止命令の一部を二審で修正している{{R|Justia-Fung}}。
 
; イコールズ・スリー対ジューキン・メディア裁判 ({{Lang|en|Equals Three, LLC v. Jukin Media, Inc.}} (判例集未掲載、Case No. 2: 14-cv-09041-SVW-MAN, C.D. Cal. 2015)){{R|SU-FairUse}}
: [[マッシュアップ]]型のデジタル[[二次的著作物]]に関する判例であり、DMCA通告の濫用が問題視された事件である。{{仮リンク|ジューキン・メディア|en|Jukin Media}}は一般ユーザ作成動画を収集し、その動画の利用者に対して著作者の代わりに利用ライセンス料を徴収するオンライン・メディア。また、一般ユーザ動画以外に、自社製作の動画も[[YouTube]]等に公開するビジネスモデルである。人気YouTuber[[レイ・ウィリアム・ジョンソン]]率いるイコールズ・スリー社がYouTubeにアップロードした動画の一部を、ジューキンがノーティスアンドテイクダウンの手続に則ってYouTubeに削除要請し、代わりにジューキン公式のYouTubeチャネルにリンク誘導した。これを受けてイコールズ・スリーは、YouTubeからの広告収入減とDMCA濫用でジューキンを提訴した。イコールズ・スリーの削除動画は複数にのぼったが、動画1点を除きイコールズ・スリーは全て著作権侵害がないと判定された{{R|EqualsThree-Jolt|SU-FairUse}}。これは、17 U.S.C. 第107条のフェアユースの法理に基づき、「{{仮リンク|変形的利用|en|Transformativeness}}」(transformative use、transformativeness) に該当すれば、著作権者に無断で著作物を利用・二次加工しても著作権侵害に該当しないとされるためである。特に[[パロディ]]作品の場合、変形的利用の要件を満たすと考えられている{{Sfn|山本|2008|pp=113–114}}。
 
272 ⟶ 273行目:
DMCA成立に影響を与えた過去判例のうち、専門家による言及があったものを以下に紹介する。
 
; {{仮リンク|ボニート・ボーツ対サンダー・クラフト・ボーツ裁判|en|Bonito Boats, Inc. v. Thunder Craft Boats, Inc.}} ({{Lang|en|Bonito Boats, Inc. v. Thunder Craft Boats, Inc.}} ({{ussc|489|141}} (1989)){{Sfn|山本|2008|pp=157–158}}{{Sfn|白鳥|2004|pp=7, 266}}{{R|SuiGeneris-Cornell|VHDPA-Cornell}}
: DMCA第502条 (17 U.S.C. [https://uscode.house.gov/view.xhtml?path=/prelim@title17/chapter13&edition=prelim 第13章]「創作性を有するデザインの保護」新設) の契機となった1989年最高裁判決である{{Sfn|山本|2008|pp=157–158}}{{R|SuiGeneris-Cornell|VHDPA-Cornell}}。原告ボニート・ボーツ社は1976年、[[ガラス繊維]] (繊維ガラス) 製の遊興用ボート「Bonito Boat Model 5VBR」を開発した。堅木の船体に上からガラス繊維を吹き付けて型を作る製法であるが、この製法プロセスも型を使って生産された完成品も、特許申請は行っていなかった。その後1983年に[[フロリダ州]]政府は、特許で保護されていない船体デザインであっても、型を使って他者デザインを複製生産する行為を禁じ、またそのような船体の販売行為も違法とする立法を成立させた。これに基づき、ボニート社のボートを複製して意図的に販売したサンダー・クラフト・ボーツ社を提訴した事件である{{R|Bonito-Justia|Bonito-CaseBrief}}。
 
278 ⟶ 279行目:
 
[[File:Stiffel.jpg|thumb|スティフル社製ランプのイラスト]]
: 本件に関連する先例としては、1964年最高裁判決「{{仮リンク|シアーズ・ローバック対スティフル裁判|en|Sears, Roebuck & Co. v. Stiffel Co.}}」({{ussc|376|225}} (1964)) などがある{{Efn2|同様の判決例としては{{仮リンク|コンプコ対デイブライト・ライトニング裁判|en|Compco Corp. v. Day-Brite Lighting, Inc.}} ({{Lang|en|Compco Corp. v. Day-Brite Lighting, Inc.}}, {{ussc|376|234}} (1964)) がある{{R|Bonito-Justia}}{{Sfn|白鳥|2004|pp=6–7}}。}}。シアーズ対スティフルでは、スティフル社製ランプの類似品をシアーズ社が販売したことから、訴訟に至っている。下級裁では、たとえ特許法で保護されていない商品であっても、不正競争防止法の観点で違反であると認めて、シアーズ社はスティフル社に対して部分的に賠償責任を負うこととなった。しかしこれを最高裁は否定している{{R|Sears-Justia|Bonito-Justia|Sears-CaseBrief}}。この最終判決の先例に倣い、ボニート対サンダー裁判でも最高裁が[[アメリカ合衆国憲法#第6条_(Article_VI)|合衆国憲法]]の「{{仮リンク|連邦優位条項|en|Supremacy Clause}}」({{Lang|en|Supremacy Clause}}) に基づき、ボニート社の船体を他者が複製しても合法であると判示した{{R|Bonito-Justia|Bonito-CaseBrief|Bonito-NYT}}{{Efn2|アメリカ合衆国憲法第6条第2項は「連邦優位条項」と呼ばれており、連邦法と州法が矛盾する場合には、連邦法が優先されると規定されている{{R|Imai1957|page1=103}}。}}。また、フロリダ州法が施行される6年も前から、特許保護なしで販売されている船体デザインである点も加味された{{R|Bonito-NYT}}。
 
: この判決から9年後、特許法と著作権法の隙間を埋めるため、[[船型デザイン保護法]] ({{Lang|en|Vessel Hull Design Protection Act}}) {{Efn2|name=VHDPA}}をDMCAの一部として成立させて状況改善している。特許法 (意匠特許) は保護要件として「新規性」(過去にない斬新な発明・手法など) を要求しており、船体デザインの中にはボニート社のように新規性が認められないケースもあるためである。一方著作権法は、特許法のような新規性は要求されず、デザインの表現にある一定の「創作性」({{Lang|en|originality}}) さえあれば、自動的に法的保護が認められる。そこで、ボニート社のようなケースを著作権法で救うために、17 U.S.C. 第13章を新設して船体デザインの著作権保護に関する要件を明文化した{{Sfn|山本|2008|pp=157–158}}。
285 ⟶ 286行目:
{{See also|アイディア・表現二分論#各国の相違点まとめ}}
 
; サービスプロバイダーの直接責任関連{{Sfn|山本|2008|p=133}}
: DMCA 第202条 (17 U.S.C. 第512条) のノーティスアンドテイクダウン手続 (DMCA通告) が制定される以前は、オンラインユーザが著作権侵害コンテンツをウェブサイトなどにアップロードした際、そのサイト運営者 (サービスプロバイダー) がどこまで責任を負うべきか、司法判断が分かれていた{{Sfn|山本|2008|p=133}}。例えば{{仮リンク|プレイボーイ対フレーナ裁判|en|Playboy Enterprises, Inc. v. Frena}} ({{Lang|en|Playboy Enterprises, Inc. v. Frena}}, 839 F.Supp. 1552 ({{仮リンク|フロリダ中部地区連邦地方裁判所|label=M.D. Fla.|en|United States District Court for the Middle District of Florida}} 1993)) では直接責任をサービスプロバイダーが負うと解釈されており、つまりユーザの違法行為があればサービスプロバイダーが常に賠償責任を負うことを意味している。しかし{{仮リンク|RTC対ネットコム裁判|en|Religious Technology Center v. Netcom On-Line Communication Services, Inc.}} ({{Lang|en|Religious Technology Center v. Netcom On-Line Communication Services, Inc.}}, 907 F. Supp. 1361 ({{仮リンク|カリフォルニア北部地区連邦地方裁判所|label=N.D. Cal.|en|United States District Court for the Northern District of California}} 1995) では、サービスプロバイダーは間接的にしか関与していないことから、{{仮リンク|寄与侵害 (著作権法)|label=寄与侵害|en|Contributory copyright infringement}} (二次的侵害責任の一つ) のみ問われるとされた。米国著作権法における寄与侵害は、故意・過失が認められる場合のみ成立するため、ユーザの不正アップロードをサービスプロバイダーが認識していない場合、寄与侵害による賠償責任は負わない。このように判例は分かれていたが、DMCAでは後者の寄与侵害の立場を採用した{{Sfn|山本|2008|p=133}}。
 
354 ⟶ 355行目:
<ref name=Soumu-WG05-Top>{{Cite web |url=http://www.soumu.go.jp/menu_sosiki/kenkyu/provider05siryo.html |title=会合議題・配布資料・議事要旨など |work=プロバイダ責任制限法検証WG(第5回会合) |publisher=総務省 |date=2011-02-03 |accessdate=2019-03-31}}</ref>
 
<ref name=FSC>{{Cite web |url=https://www.mtsu.edu/first-amendment/article/1074/digital-millennium-copyright-act-of-1998 |title=Digital Millennium Copyright Act of 1998 (1998) |work=The First Amendment Encyclopedia |first=Kevin R. (Associate General Counsel at Vanderbilt University) |last=Davis |website=The Free Speech Center |publisher=Middle Tennessee State University |accessdate=2020-07-20}}</ref>
 
<ref name=LF2006-DADVSI>{{Légifrance|base=CPI|url=https://www.legifrance.gouv.fr/affichTexte.do?cidTexte=JORFTEXT000000266350&dateTexte=vig |texte=Loi {{numéro|2006-96}} du 1er août 2006 relative au droit d'auteur et aux droits voisins dans la société de l'information (情報社会における著作権および著作隣接権に関する2006年8月1日法 (法令番号No. 2006-96))}}</ref>
449 ⟶ 450行目:
 
<ref name=Bonito-NYT>{{Cite web |url=https://www.nytimes.com/1989/02/22/business/court-says-patent-law-limits-action-by-states.html |title=Court Says Patent Law Limits Action by States |trans-title=連邦特許法は州法の効力を制限すると裁判所が判示 |first=Linda |last=Greenhouse |date=1989-02-22 |publisher=[[New York Times]] |accessdate=2020-08-19 |language=en}}</ref>
 
<ref name=EFFvDOJ-CA>{{Cite web |url=https://copyrightalliance.org/copyright-law/copyright-cases/green-v-u-s-dept-of-justice/ |title=Green (EFF) v. DOJ |trans-title=グリーン (EFF) 対司法省 |publisher={{仮リンク|米国著作権連盟|en|Copyright Alliance}} |accessdate=2020-10-27 |language=en}}</ref>
 
<ref name=EFFvDOJ-Bloomberg>{{Cite web |url=https://news.bloomberglaw.com/us-law-week/eff-lawsuit-challenges-dmca-on-free-speech-grounds |title=EFF Lawsuit Challenges DMCA On Free Speech Grounds |trans-title=EFFが表現の理由を根拠にDMCAの違法性を問う訴訟へ |publisher=[[Bloomberg]] |website=Bloomberg Law |date=2016-07-29 |accessdate=2020-10-27 |language=en}}</ref>
}}
 
; 引用文献
* {{Cite report|author=欧州連合 |authorlink=欧州連合 |title=DIRECTIVE 2001/29/EC OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL of 22 May 2001 on the harmonisation of certain aspects of copyright and related rights in the information society |trans_title=情報化社会における著作権ならびに著作隣接権の調和に関する指令 |series=Official Journal of the European Union |url=https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/PDF/?uri=CELEX:32001L0029&from=EN |date=2016-04-04 |format=PDF |id=L167/10 (Document 32001L0029) |language=en |ref={{SfnRef|情報社会指令公式|2001}}}}
 
* {{Cite book|和書|title=アメリカ著作権法入門 |author=[[白鳥綱重]] |publisher=[[信山社]] |year=2004 |isbn=978-4-535-51678-6 |url=https://www.nippyo.co.jp/shop/book/4482.html |ref={{SfnRef|白鳥|2004}}}} - [[文部科学省]]高等教育局私学部私学行政課所属 (執筆当時)、[[ワシントン大学]]ロースクール 知的財産法専攻 (IP LL.M.) 修了。同大学 {{Lang|en|Center for Advanced Study and Research on Intellectual Property}} の研究に依拠した執筆<!-- 後に横浜国立大学大学院准教授 ([https://er-web.ynu.ac.jp/html/SHIROTORI_Tsunashige/ja.html 経歴リンク]) -->
 
* {{Cite report |url=https://www.soumu.go.jp/main_content/000105846.pdf |title=資料5 ノーティスアンドテイクダウン手続について |publisher=[[総務省]] |format=PDF |chapter=プロバイダ責任制限法検証WG(第5回会合)|date=2011-02-03 |ref={{SfnRef|総務省WG|2011}}}}