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{{出典の明記|date=2015年12月}}
[[ファイル:Smalltalk
{{プログラミング・パラダイム}}
'''プロトタイプベース''' ({{lang-en-short|''prototype-based''}}) は、[[オブジェクト指向プログラミング]]の
[[The Art of the Metaobject Protocol|メタオブジェクトプロトコル]](''metaobject protocol'')は「[[LISP]]」由来のプログラム概念であり、
== 特徴 ==
{{Quotation|''You make prototype objects, and then … make new instances. Objects are mutable in JavaScript, so we can augment the new instances, giving them new fields and methods. These can then act as prototypes for even newer objects. We don't need classes to make lots of similar objects… Objects inherit from objects. What could be more object oriented than that?''<br/>(あなたはプロトタイプを作りそして新しいインスタンスを作る。オブジェクトは可変であり新しいフィールドとメソッドを付け足して拡充できる。丁度プロトタイプで為されるように。類似オブジェクトを作るためのクラスは必要ない‥オブジェクトも継承できる。これ以上のオブジェクト指向があるだろうか?)|Douglas Crockford(JavaScript developer)}}プロトタイプベースの土台である{{仮リンク|メタオブジェクトプロトコル|en|Metaobject|label=}}の採用方法は言語ごとに異なっているためにその実装方式も様々であるが、本稿ではなるべく共通仕様に沿うように説明する。
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上述のメカニズムから、変数はdefaultスロットにデータ束縛シンボルが入ったフレーム
=== デリゲーションとメッセージパッシング ===
オブジェクトのメンバ関係の連鎖メカニズムは、デリゲーション([[委譲]])によるオブジェクトのコミュニケーションを活性化させる。
メソッドは、関数型言語で用いられる関数適用<code>func object</code>の書式を反対にしたものと解釈できる。<code>func</code>は関数式であり<code>object</code>は値である。値(=オブジェクト)を先にしてそれを軸にするメソッド様式では、値にそれ専用の式内容も含ませており、セレクタはそれを引き出すための式名になっている。式内容を引き出された値はそのまま演算に移るか、後続の引数を送られての演算に移る。演算後は状態変化した自分自身か、導出された他の結果値となりそれにまたセレクタが送られる。セレクタに応じる式内容を値が持ってない場合のミッシング発生時は、値が保有しているメンバ値たちにそのセレクタを送るという委譲が積極的に行われてミッシング発生は極力回避される。セレクタの効用はこの委譲を容易にするための書式という意味が強い。ミッシングエラー回避だけでなく、セレクタを受け取った時点で委譲先オブジェクトに変えたり、後続引数で対応できなかったらそこで委譲するという処理の多様性も表現できる。
セレクタを用いない言語では、<code>object.method()</code>のようにメソッドコールする一般的なプログラムになる。オブジェクトのメソッドが引数付きでコールされてそこで指定処理に対応できない場合は、そのメンバオブジェクトに引数を渡してそちらに委譲する。その委譲先でも不可だった場合はそのまたメンバオブジェクトにたらい回しできる。オブジェクトはそのたらい回しの結果返ってきた値を自身の返り値にできる。
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プロトタイプベースは動的な[[関数型プログラミング]]由来のパラダイムである。故にプロトタイプベースでは、メンバ(変数/関数)はオブジェクトに所属しているのと同時に、そのオブジェクトに結び付けられた[[写像]]のミニモジュールであると考えたほうが仕組み的には分かりやすくなる。メンバ変数はプロセス無しの写像である。メンバ変数アクセスは<code>instance.property</code>と書式されるが、これは仕組み的には<code>property instance</code>となっていて写像シンボル<code>property</code>をオブジェクト<code>instance</code>に適用してメンバ変数値を導出している。メンバ関数はプロセス付きの写像である。メンバ関数アクセスは<code>instance.method()</code>と書式されるが、これは仕組み的には<code>method instance</code>となっていて写像シンボル<code>method</code>をオブジェクト<code>instance</code>に適用してメンバ関数をコールしている。引数がある場合は<code>instance.method(a,b)</code>と書式されて仕組み的には<code>method instance a b</code>となっている。セレクタを用いる言語では、オブジェクトに写像シンボルのメッセージを送る書式になり<code>instance property:</code>や<code>instance method: #(a,b)</code>のようになる。写像シンボルをオブジェクトに適用できるどうかの判別は、適用時のオブジェクトスロットに写像シンボルが入ってるかどうかで実行時に決められる。<code>ガー</code>が<code>instance</code>に適用できればそれはアヒルオブジェクトという意味から、これが[[ダックタイピング]]と呼ばれる。
上述の[[写像]](メンバ変数/関数)を単体で識別する[[ダックタイピング]]に対して、写像のまとまりをセットで識別するのは構造的型付けと呼ばれる。一つの目的を表現するための写像のミニモジュールは[[トレイト]]などと呼ばれる。[[トレイト]]をオブジェクトに多重実装させるのは[[ミックスイン]]と呼ばれる。ミックスインは一つの目的に沿ったメンバ変数/関数のミニモジュールをワンタッチでオブジェクトに実装して、そのミニモジュールの特性(''trait'')でオブジェクトを分類できるようにする。オブジェクトのトレイト実装判別は、そのトレイトの変数/関数をオブジェクトも全て保有しているかどうかが基準にされてトレイト名自体は顧みられない。[[インタフェース (抽象型)|インターフェース]]と[[ミックスイン]]は共に実装継承の対象であるが、前者は抽象性重視の性質から[[クラスベース]]で扱われる事が多く、後者は構造性重視の性質からプロトタイプベースや[[関数型言語|関数型スタイル]]OOPで扱われることが多い。
=== メタクラスとプロトタイプ ===
[[クラスベース]]とプロトタイプベースでは、[[メタクラス]]と名指しする対象が異なるので注意が必要である。クラスベースのクラスはシステムが保持する特殊なデータなので直接の閲覧/操作はできず、システムが提供するインターフェースを通してのみクラス構成情報の閲覧/操作ができるので、そのインターフェース機構がメタクラスとされる。それに対してプロトタイプはプログラマが自由に扱えるデータ構造体であり、直接その構成情報を閲覧/操作できるのでプロトタイプ自体がメタクラス機能を備えているが、プロトタイプベースではプロトタイプ=メタクラスとはしておらず、プロトタイプのtypeスロット(これはprotoスロットやclassスロットとも称される)に入るオブジェクトをメタクラスとしている。プロトタイプベースにおけるメタクラスとは、アドホック多相の[[アノテーション|型アノテーション]]の働きをするシンボルになっている。他言語の属性付き[[アノテーション]]と同様にシンボルにもメンバを付け足して多様な型情報を表わせる。オブジェクトのtypeスロットは原型元オブジェクトを指し、parentスロットは継承元オブジェクトを指している。
よく使われる定型的なプロトタイプはそのメンバ変数/関数を、[[クラスベース|クラスベースOOP]]の[[クラス (コンピュータ)|クラス]]と同様にあらかじめ静的定義するかされているのが普通である。この静的な事前定義の側面が強調されたプロトタイプを「クラス」と呼んでいるプロトタイプベースOOP言語も多いが、[[クラスベース|クラスベースOOP]]のそれとは性質的に異なる。プロトタイプは継承可能であり派生プロトタイプを定義できる。派生プロトタイプのparentスロットに入るオブジェクトが基底プロトタイプになる。多重継承可能な言語では複数の基底プロトタイプをparentスロットに入れることができる。
プロトタイプを複製(clone/copy)する方式でインスタンスが生成される。この複製では、複製元プロトタイプとそのparentスロットからの基底連鎖チェーン上の全プロトタイプのメンバを積み重ねて、同名メンバ重複を一定の手順で解決したひとかたまりがインスタンスになる。同名メンバ重複の解決はもっぱら派生側から最初にサーチされたものが最優先される方法で行われ、多重継承時の関数ではC3線形化などのメソッド解決順序(''MRO'')が用いられる。プロトタイプベースのこの一つのインスタンスにまとめる生成方式は連結(''concatenation'')と呼ばれる。クラスベースでは基底クラスごとのインスタンスを数珠繋ぎしたものを一つのインスタンスにするという連鎖(''linkage'')の生成方式を採用しているのでここが決定的に異なっている。クラスベースのインスタンスはsuper参照を持つが、プロトタイプベースのインスタンスのparentスロットは空欄になる。typeスロットには複製元プロトタイプが入れられる。上述のメカニズムから、typeスロットにプロトタイプが入ってるフレームがインスタンス、typeスロットにシンボルが入ってるフレームがプロトタイプとも判別できる。
=== 原型関係と継承関係 ===
クラスベースと異なりプロトタイプベースでは原型関係(typeスロット)の存在感が高く、継承関係(parentスロット)の存在感は低いものになっている。継承関係は前節で説明した複製方式(clone/copy)のインスタンス生成時に意味を成しており、基底プロトタイプのメンバ変数/関数を持ってきて合成するための機能になっている。前節で説明したミックスインの作法通りである。従ってparentスロットは合成ミニモジュール候補とも読み替えられる。またparentスロットがない言語では、指定インスタンスをself(これはthisやmeとも称される)にして該当メンバにアクセスできる特殊関数の用法を継承と定義しており、この場合の継承は特殊なデリゲーションと同義になっている。原型関係は言語によっては、インスタンスのスロットに指定メンバ(関数や定数)が見つからなかった際の次のサーチ先(プロトタイプ)になっている事もあり、この場合はクラスベースの継承関係と同じ働きをする。
オブジェクトは、原型関係(typeスロット)と継承関係(parentスロット)の二系統から体系化されている。継承関係の最上位は専ら<code>Object</code>オブジェクトであり、原型関係の最上位は専ら<code>Type</code>オブジェクトである。やや分かり難くなるが、この<code>Object</code>と<code>Type</code>も継承関係で結ばれており<code>Object</code>は基底で<code>Type</code>は派生である。同時に<code>Type</code>と<code>Object</code>は原型関係でも結ばれており<code>Type</code>は原型元で<code>Object</code>は実例先である。<code>Object</code>はフレーム&スロットであり、<code>Type</code>はシンボルである。前述の通りシンボルはdefaultスロットにシンボルが入ったフレームであり、この場合のフレームをeigenclass(ownclass)などと定義している言語もある。この系統ラインの相互再帰ループがメタオブジェクトプロトコルの特徴でもある。
=== 動的関数型プログラミング ===
プロトタイプベースは、関数オブジェクトが変数オブジェクト(値オブジェクト)を引数にしてまた返り値にするといった様式に集約されるものである。値オブジェクトは[[ダックタイピング]]で動的に型判別される。引数の動的な型判別は動的な[[多重定義|関数オーバーロード]]を自然表現し、これは従来の静的な[[関数型言語]]に対するアドバンテージになった。[[型推論]]を用いる静的な関数型言語で関数オーバーロードを実装するには、記名的型付けによる”文脈”といった追加仕様が必要になるからである。関数と変数は双方ともにプロパティとメソッドを自由に付け足し付け替えできるので、関数のプロパティは[[二階述語論理]]の表現手法になり、変数のメソッドは[[高階述語論理]]の表現手法になった。プロパティとメソッドの保持構成による型判別は構造的型付けでも行われる。[[ミックスイン]]は一定の目的に基づくプロパティとメソッドのアタッチを形式化した型付けのための仕組みである。これらの特徴からプロトタイプベースOOPは、関数型プログラミングの動的拡張版と見なしてもよいものになっている。
== 来歴 ==
{{Quotation|''Lisp is the greatest single programming language ever designed.''<br/>(Lispは今まで設計された中で、最も偉大で孤高のプログラミング言語だよ)|Alan Kay}}プロトタイプベースのルーツは、1972年に[[アラン・ケイ]]が開発した言語「[[Smalltalk]]」が採用していたメタオブジェクトの仕様に求めることができる。オブジェクト指向は元々Smalltlkの設計を説明する中で初めて発信された用語である。故にプロトタイプベースは元祖[[オブジェクト指向]]と同時に誕生したスタイルと言ってよいが、Smalltalkでのメタオブジェクトはアラン・ケイが最重視していたメッセージングの仕組みを実現するためのインフラストラクチャであったので、そのスタイル自体が取り沙汰されることは無かった。それはLISP風プログラミングの拡張と見なせるものでもあった。Smalltalkのメタオブジェクト仕様は「[[LISP]]」のアトム/シンボル型/リストといった情報要素を参考にしていた。
1980年代になって知名度を得た「[[Smalltalk]]」本来の要点であるメッセージングは、その実装が途上段階でもあった理由からさほど認知される事はなく、代わりにその下部構造であるメタオブジェクト仕様の方が「[[Simula|Simula 67]]」由来の[[クラス (コンピュータ)|クラス]]と[[インスタンス]]という視点から技術的関心を集めて、[[オブジェクト指向プログラミング|オブジェクト指向]]を表舞台に立たせる原動力になっている。しかしこれは、オブジェクトに<code>subclass:</code>セレクタをメッセージングして派生クラスをクローンするという仕組みの糖衣構文的な事前定義が、そのまま額面通りにSimula風のクラス定義になぞらえられた曲解的解釈でもあった。そこでは動的な[[メタクラス|メタオブジェクト]]と静的な[[抽象データ型|ユーザー定義型]]という性質の違いは無視されていた。1980年代を通して、元祖オブジェクト指向のプロトタイプ性質はクラス機構に覆い隠される事になり、オブジェクト指向もまた元祖とは異なる[[クラス (コンピュータ)|クラス]]重視の仕様で世間に広まっている。その一方でSmalltalkや[[LISP]]コミュニティでは本来のメタオブジェクトを中心にしたパラダイムが追求されていた。
こうした流れの中で1979年から、[[LISP]]のオブジェクト指向拡張版と標榜された「{{仮リンク|Flavors|en|Flavors (programming language)|label=}}」が制作され、そのデザインをLISP本来の[[関数型言語|関数型]]思想に回帰させる方向性で「[[Common Lisp]]」に融合した「[[Common Lisp Object System]] (CLOS)」が1988年に発表された。CLOSが備えていた[[動的型付け]]、[[メタクラス]]、動的ジェネリック関数、[[多重ディスパッチ]]、[[ミックスイン]]、メソッドコンビネーションといった機能は、関数をメタオブジェクトとして扱う動的な[[関数型言語|関数型スタイル]]を確立した。CLOSの設計思想は『[[The Art of the Metaobject Protocol|メタオブジェクトプロトコル]]』という名でまとめられて1991年に発表されており、アラン・ケイはこれを自身のOOP構想に最も忠実なものと評している。1990年に[[Smalltalk]]の方言として公開された「[[Self]]」はプロトタイプベースと定義された初のOOP言語として知られている。ただしこれは後付けの解釈であり「[[JavaScript]]」こそがプロトタイプベースの立役者とする見方もある。1990年代のプログラム言語の大衆化が重視されるようになった風潮の中で「[[Common Lisp]]」「[[Self]]」が示したメタオブジェクトないし[[メタクラス]]の考え方は、[[スクリプト言語]]や[[Webプログラミング|Webプログラミング言語]]に適した手軽で柔軟なパラダイムとして注目を集めた。1994年に「[[Python]]」のver 1.0がリリースされ、1996年に「[[JavaScript]]」「[[Ruby]]」が公開された。その公開当初から人気を集めたJavaScriptの存在感が、従来のクラス中心のオブジェクト指向とは異なることを示すための新しいスタイル定義を必要にしている。
== 脚注 ==
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== 関連項目 ==
*[[
*[[Smalltalk]]
*{{仮リンク|Metaobject|en|Metaobject|label=}}
*{{仮リンク|Metaclass|en|Metaclass|label=}}
*[[The Art of the Metaobject Protocol|The art of the metaobject protocol]]
*[[Common Lisp]]
*[[Common Lisp Object System]]
*[[Self]]
*[[JavaScript]]
{{プログラミング言語の関連項目}}
{{DEFAULTSORT:ふろとたいふへえす}}
[[Category:オブジェクト指向]]
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