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流水型ダム
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'''治水ダム'''(ちすいダム)とは、[[ダム]]の目的の中で'''[[治水]]'''([[洪水調節]]・[[農地]][[防災]]、[[放流 (ダム)#不特定利水|不特定利水]])に特化した目的を有するダムのことである。
 
概ね小規模のものが多いが、近年では大規模な治水ダムも計画されている。治水に限定して建設されるので、[[水道]]([[上水道]]・[[工業用水道]])の供給や[[水力発電]]は行わない。治水ダムには[[人造湖|ダム湖]]に貯水をするものと、全く貯水を行わないものとがあり、後者は特に'''穴あき「流水型ダム'''」<ref>[https://www.mlit.go.jp/river/dam/main/dam/water-c-dam.pdf 流水型ダムについて] 国土交通省</ref>と呼ばれる。
 
ダムの型式については、[[重力式コンクリートダム]]の採用が大半を占めるが、[[ロックフィルダム]]や[[アースダム]]、さらにはそれらの複合型である[[コンバインダム]]を採用した例もある。
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|}
 
== 穴あき流水型ダム ==
[[Image:Masudagawa-1754-2-r1.JPG|220px|thumb|穴あき流水型ダムを上流から見た姿<br />一番下の穴から河水が流れる。<br />手前にあるのが流木よけ<br />([[益田川ダム]]。[[益田川]]・島根県)]]
[[Image:Masudagawa-1754-4-r1.JPG|220px|thumb|流木よけ(益田川ダム)]]
[[Image:Masudagawa-1754-3-r1.JPG|220px|thumb|ダムの直下流部<br />魚類が通過できる工夫がされている。<br />(益田川ダム)]]
[[Image:Lake hidamariko.JPG|220px|thumb|穴あき流水型ダムのダム湖<br />通常時は全く貯水していない<br />(益田川ダム・ひだまり湖)]]
 
流水型ダム(別名は'''穴あきダム'''は、その名が示すとおり、ダム下腹部に常用洪水吐きに相当する穴が開いているダムの通称である。治水ダムの中でも洪水調節のみに目的を特化した'''治水専用ダム'''で盛んに採用される工法である。平常時は全く貯水を行わず、河水はダムが無い場合と同様に普通に流下していく。このため、通常時のダム湖は水が貯まっておらず、ただ川が流れている状態である([[:画像:Masudagawa-1754-2-r1.JPG|写真]])。この穴から放流できる水量の上限は決まっており、それを上回る大量の水がダムに押し寄せる洪水時には、流入量の一部が放流され、残りがダムに貯水され、ダム湖の水位は上昇する。洪水の沈静化とともにダム流入量は低下、それに伴い貯水量は減少し水位は低下、やがて元の通常の状態に戻っていく。
 
穴の大きさは計画された洪水カット量を基準に算出し、[[設計]]される。従ってゲートが無くても一定量が放流される構造となる。また、ゲートレスであり、河床(川の底)の高さもダムの上流と下流とでほぼ同じあるため[[魚類]]の往来に支障が少なく、通常のダムで見られるような[[魚道]]などは必要ない。また、常用洪水吐きである穴が[[流木]]など上流からの[[漂流・漂着ごみ]]でふさがれないように、ダムのすぐ上流部に[[柵]](さく)などを設ける。
 
穴あき流水型ダムでは貯水容量の全てを洪水調節容量に使用できるため、水量調節の必要性が全くない。このためゲートが不要であり工費削減に貢献が可能である。また通常は自然な河水の流下を妨げず、魚類の往来に支障がないほか、ダムの宿命ともいえる堆砂(ダム湖に堆積した土砂)の除去が極めて簡便であるため、維持管理がし易いといった利点がある。ただし貯水を全く行わないので、利水には不適当である。
 
日本では[[1950年代]]より採用されており、農地防災ため池を中心に小規模なものが多く建設されている。「戦後最大の多目的ダム計画」である[[沼田ダム計画]]([[利根川]])の原点は、穴あき流水型ダム方式の治水ダムであった。なお、元[[長野県知事]]で[[中止したダム事業#脱ダム宣言によるもの|脱ダム宣言]]を発表した[[田中康夫]]が発案した「'''河道内遊水地'''」というものは、「河道内に高さ30メートルから40メートルの堰堤(えんてい)を建設し、洪水時に貯水を行う」という趣旨のものであったが、これは穴あき流水型ダムの構造そのものであり、特に目新しいものではない。
 
[[ダム建設の是非#ダムに対する反対運動|ダム反対派]]の中には、「[[流木]]によるゲートの閉塞によってダムの機能が喪失する」、または、「急激な貯水によって[[地すべり]]などを誘発する」、として穴あき流水型ダムに対しても否定的な意見がある。[[静岡県]]の大代川農地防災ダム(大代川)や原野谷川ダム([[原野谷川]])、[[和歌山県]]の小匠防災ダム(小匠川)などでは完成以後40年近く経過しているが、大きな問題もなく稼働しており、現状としては反対派が主張するような懸念は発生していない。しかし、既設の穴あき流水型ダムはいずれも小規模なものであり、[[足羽川ダム]]など大規模な穴あき流水型ダムについては周辺の影響が未知数であるため、完成後も注意深い観察が必要であるとも考えられている。
{| class="wikitable" style="text-align:center; font-size:small;"
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| align=right|1,100
|長野県
|{{operational|運用中}}
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|[[滋賀県]]
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| align=right|6,750
|島根県
|{{operational|運用中}}
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|[[山形県]]
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| align=right|2,600
|山形県
|{{pendingoperational|建設運用中}}
|}
 
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これを受け、当初は治水ダムとして計画されていたダムが多目的ダムに計画変更される例が続出した。例えば[[宮城県]]の[[鳴瀬川]]本流に建設が進められていた[[漆沢ダム]]であるが、当初の[[1970年]](昭和45年)には洪水調節専用であったものが、[[大崎市]](当時は[[古川市]])など鳴瀬川下流部の宅地化進行や[[工業団地]]進出によって水需要が逼迫(ひっぱく)したことにより上水道と工業用水道の目的が加わり、さらに電源開発([[発電所]])の緊急性が高まったことで[[水力発電]]も目的に加わり、[[1980年]](昭和55年)には五つの目的を持つ多目的ダムに事業は大幅に拡大した。
 
また治水ダムの初期例で穴あき流水型ダムでもあった[[茨城県]]の[[藤井川ダム]]は、[[水戸市]]の水道需要拡大と沿岸農地の耕地面積拡大で水需要が逼迫し、ダムを管理する茨城県は[[1977年]](昭和52年)より[[ダム再開発事業]]として多目的ダム化を行い、穴あき流水型ダムにゲートを設置して貯水を行うこととした。こうした治水ダムの多目的ダム化は全国各地で見られ、特に下流地域への上水道供給目的を付加する例が多かった。[[1980年代]]後半以降は、ダム管理に必要となる電力をまかなえる程度の小規模発電所や[[マイクロ水力発電]]相当の水力発電所が設置される例もみられた。
 
=== 多目的ダムから治水ダムへ ===
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特に顕著なのが[[国土交通省直轄ダム]]である。従来は[[多目的ダム#特定多目的ダム|特定多目的ダム事業]]に特化していた[[国土交通省]]であるが、水需要の減少と集中豪雨の増加によっていくつかの多目的ダムについて治水ダムとして事業変更を行った。前者(利水目的の消滅)の理由により治水ダムとなった例として[[中予分水]]事業が中止になったことで治水ダムへ変更した[[愛媛県]]の'''山鳥坂ダム'''(河辺川)、[[1966年]](昭和41年)の計画発表以来40年以上着工できていない[[熊本県]]の'''[[川辺川ダム]]'''([[川辺川]])などが挙げられる。一方後者(豪雨被害対策)による変更で代表的なものが[[福井県]]の'''[[足羽川ダム]]'''であり、当初多目的ダムであったが住民の反対で事業凍結していたものの、[[2004年]](平成16年)の[[平成16年7月福井豪雨]]による[[足羽川]]流域の深刻な被害を機に、多目的ダムから治水ダムへの変更を行って事業再開を[[2006年]](平成18年)より開始した。だがこうした動きに対してダム建設に反対する[[日本共産党]]や[[市民団体]]は「[[税金]]のムダ使い」であるとして連携した反対運動を繰り広げている。
 
また、従来は建設を行わなかった新規の治水ダム事業にも国土交通省は着手、穴あき流水型ダムとして[[熊本市]]を流れる[[白川]]上流に現在立野ダムを建設しているほか、[[荒川 (関東)|荒川]]ダム再編事業として[[埼玉県]]に計画している新大洞ダム([[大洞川 (埼玉県)|大洞川]])は高さ155メートルと、完成すれば日本で最も高い治水ダムとなる。
 
各[[地方自治体]]においても同様の傾向が見られ、代表的なものとして[[石川県]]の[[犀川 (石川県)|犀川]]に建設が予定されている[[辰巳ダム]]は多目的ダムから穴あき流水型ダム方式の治水ダムに計画が変更されている。また長野県に次いで脱ダム施策を発表した[[滋賀県]]も、[[嘉田由紀子]]知事がダムは治水に有効であると容認に方針を転換。芹谷ダム([[芹川 (滋賀県)|芹川]])や北川第一ダム(北川)を穴あき流水型ダムとして建設を検討していた。一方で、国土交通省が事業を一時凍結していた[[大戸川ダム]]([[大戸川]])や[[丹生ダム]]([[高時川]])について再開するという河川整備計画原案を示した時期からはダムに対して嘉田知事は再度慎重な姿勢を貫いている。ただ、芹谷ダムについては最終的な結論には至っておらず、さらに検討を進める必要があるとしている<ref>{{Cite web|url=http://www.pref.shiga.jp/h/chisui/faq2.html#q3_1 |title=河川の治水に対する考え方 |publisher=滋賀県 |accessdate=2008-12-22 |deadlinkdate=2020-05-23 |archiveurl=https://warp.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/284878/www.pref.shiga.jp/h/chisui/faq2.html#q3_1 |archivedate=2009-03-011}}</ref>。しかしこうした動きにも賛否両論が絶えない。さらに[[福岡県]]が建設する藤波ダム(巨瀬川)は計画発表から完成まで39年を要したなど、いくつかの治水ダムは[[日本の長期化ダム事業]]に名を連ねている。
 
40年以上も経過して完成していないダムについては必要性への疑問が[[日本共産党]]などダム反対派や一部の流域市民などから呈されている、また大河川では治水事業の整備により洪水被害が減少した一方で、中小河川については都市部を中心に[[集中豪雨]]による被害が多発している。このためダムに頼る治水だけではなく堤防補強や河道掘削の実施、また減災対策などソフト面での対策を含めた総合的治水対策の必要性を重視する意見もある。