「タスマニアデビル」の版間の差分
削除された内容 追加された内容
Template:出典の明記。出典追加に伴い、ひとまず生物分類表・出典のなかった分布は全面改訂。 |
|||
1行目:
{{出典の明記|date=2021年7月}}
{{生物分類表
|省略 = 哺乳綱
|名称 = タスマニアデビル
|画像
|画像キャプション = '''タスマニアデビル''' ''Sarcophilus harrisii''
|status = EN
|status_ref = <ref name="iucn">Hawkins, C.E., McCallum, H., Mooney, N., Jones, M. & Holdsworth, M. 2008. ''Sarcophilus harrisii''. The IUCN Red List of Threatened Species 2008: e.T40540A10331066. https://dx.doi.org/10.2305/IUCN.UK.2008.RLTS.T40540A10331066.en. Downloaded on 16 July 2021.</ref>
|
|
|亜科 = [[フクロネコ亜科]] [[w:
|属 = '''タスマニアデビル属'''<br />''Sarcophilus'' [[フレデリック・キュヴィエ|F. Cuvier]], [[1837年|1837]]<ref name="rose_et_al">Robert K. Rose ''et al''., "[https://doi.org/10.1093/mspecies/sex001 ''Sarcophilus harrisii'' (Dasyuromorphia: Dasyuridae)]," ''Mammalian Species'', Volume 49, Issue 942, American Society of Mammalogists, 2017, Pages 1 - 9. </ref>
|種 = '''タスマニアデビル''' ''S. harrisii''
|学名 = ''Sarcophilus harrisii''
|シノニム = ''Ursinus Harrisii'' Boitard, 1842
|シノニム_ref = <ref name="rose_et_al" />
|和名 = タスマニアデビル<ref name="egawa">江川正幸 「どこか愛嬌のある"悪魔" タスマニアデビル」『動物たちの地球 哺乳類I 1 カモノハシ・オポッサムほか』第8巻 37号、朝日新聞社、1992年、14 - 15頁。</ref>
|英名 = [[:en:Tasmanian devil|Tasmanian devil]]<ref name="rose_et_al" />
}}
'''タスマニアデビル'''
==
[[オーストラリア]]（[[タスマニア州]]）<ref name="rose_et_al" />
以前はオーストラリア南部広域に分布していた<ref name="rose_et_al" />。
== 形態 ==
{{出典の明記|date=2021年7月|section=1}}
{{Double image aside|right|Tasmanian devil head on.jpg|180|Tasdevil large.jpg|158}}
; 体高 : 30cm程度
59 ⟶ 38行目:
上顎部の2本の鋭い牙は、一生伸び続ける。尻尾には脂肪がためられるようになっており、栄養状態の悪い個体の尻尾は細い。
走るときには後ろ足を揃えて出すため、後ろ足よりも前足の方がやや長いことと相まって、ユーモラスな動きになる。四肢に鋭い爪を備えているが、攻撃用ではなく、巣穴の土掘りに活躍する。子供の頃は身が軽く、低木によじ登ることもできる。若い個体が木登りできるのは、母親の背中によじ登る習性の故である<ref>[http://www.tbs.co.jp/doubutsu/ehon_17.html どうぶつ奇想天外！（母親の背中に揺られる子デビルのムービーあり）]{{出典無効|date=2021年7月}}</ref>。
[[有袋類]]の特徴である[[育児嚢]]は、[[カンガルー]]と異なり、後ろ向きについている。これは四足歩行で土を掘り返す習性のためで、袋の中に土が入らないようになっている。本種よりも穴掘りがずっと得意な[[ウォンバット]]や木登りをする[[コアラ]]の育児嚢も同じく後ろ向きである。
通常あまり臭わないが、ストレスを感じたり興奮したりすると強い体臭を発する。視力は弱いが、優れた嗅覚と聴覚を持っている。
=== DFTD ===
{{右|[[:ファイル:Tasmanian Devil Facial Tumour Disease.png|画像ファイル：重篤なDFTDに罹患したデビル<ref name="image_dftd">{{cite journal|author= McCallum H, Jones M |title= To lose both would look like carelessness: Tasmanian devil facial tumour disease |journal= PLoS Biol |year= 2006 |volume= 4 |issue= 10 |pages= 1671-1674 |id = PMID 17048985}}</ref>]]}}
DFTD（英：Devil Facial Tumour Disease、米：Devil Facial Tumor Disease）は、タスマニアデビルの顔面や頚部に発生する致死性の[[悪性腫瘍]]（癌）である。単にデビル病（デビル癌）とも呼ばれる。繁殖や餌の争奪時における咬傷を通じて癌細胞自体が[[臓器移植]]のように他のデビルに直接伝染するとみられている。[[1996年]]に初めて発生が報告されてから被害は急速に拡大しており、2009年時点で個体数は70%減少し生息域の60%に疾患の発生が見られるなど、何らかの策を講じない限り今後50年間で野生のタスマニアデビルは絶滅する恐れがある。
多くは口の周囲に発生し、徐々に頭部・頚部など周辺組織に浸潤して病変部は拡大してゆく。[[転移 (医学)|転移]]する頻度は高く、主に[[リンパ節]]・[[肺]]・[[脾臓]]などが侵される<ref>{{cite journal|author= Loh R, Bergfeld J, Hayes D, O'hara A, Pyecroft S, Raidal S, Sharpe R |title= The pathology of devil facial tumor disease (DFTD) in Tasmanian Devils (Sarcophilus harrisii) |journal= Vet Pathol |year= 2006 |volume= 43 |issue= 6 |pages= 890-895 |id = PMID 17099145}}</ref>。腫瘍の[[肥大]]化により口や目が塞がれ、餌を取れなくなることで[[餓死]]に至る。多くは発症から6か月以内に死亡するが、1年に及ぶ生存例も少数ながら報告されている<ref>{{cite journal|author= Dennis C |title= Time to raise the devil |journal= Nature |year= 2006 |volume= 439 |issue= 7076 |pages= 530 |id = PMID 16452951}}</ref>。長期生存個体の免疫学的・遺伝学的解析が期待されるものの、[[2009年]]末の時点で有効な治療法は確立されていない。2008年7月26日のタスマニア地元紙マーキュリーにて、変異した病原体が、少なくとも9体発見されたという報告が発表された。
DFTDは腫瘍であるにもかかわらず、野生の個体間で伝染性に広がってゆく特徴を持つ。発生以後、DFTDの原因、治療法などの研究が多くの大学機関・病理学者によって行われ、その病態が徐々に明らかにされつつある。当初は環境汚染物質の影響<ref name="Owen_Pemberton_TasmanianDevil_2005">Owen, David and Pemberton, David. 2005. Tasmanian Devil: A unique and threatened animal. Crows Nest, Australia: Allen & Unwin. ISBN 1-74114-368-3</ref>や[[腫瘍ウイルス]]の[[感染症]]が疑われたが、2010年、DFTD腫瘍25株の大規模遺伝子解析から、腫瘍は身体接触を介して個体から個体へ伝播すること、[[末梢神経]]を保護する[[シュワン細胞]]に由来する腫瘍であることが確認された<ref name=scihigh010101>[http://www.sciencemag.jp/highlight/index.jsp?pno=191 タスマニアデビルにとっての悪魔の正体], サイエンスハイライト, 2010年1月1日.{{出典無効|date=2021年7月}}{{リンク切れ|date=2021年7月}}</ref><ref name=scipod100101>{{en icon}} [http://www.sciencemag.org/cgi/content/full/327/5961/100-b Science Magazine Podcast, 1 January 2010], サイエンス, 2010年1月1日.{{出典無効|date=2021年7月}}{{リンク切れ|date=2021年7月}}</ref><ref name=Murchison2010>{{cite journal|author= Elizabeth P. Murchison, Cesar Tovar, Arthur Hsu, Hannah S. Bender, Pouya Kheradpour, Clare A. Rebbeck, David Obendorf, Carly Conlan, Melanie Bahlo, Catherine A. Blizzard, Stephen Pyecroft, Alexandre Kreiss, Manolis Kellis, Alexander Stark, Timothy T. Harkins, Jennifer A. Marshall Graves, Gregory M. Woods, Gregory J. Hannon, and Anthony T. Papenfuss |title= The Tasmanian Devil Transcriptome Reveals Schwann Cell Origins of a Clonally Transmissible Cancer|journal= Science |year= 2010 |volume= 327|issue= 5961|pages= 84 |url=http://www.sciencemag.org/cgi/content/abstract/sci;327/5961/84}}</ref>。また、シュワン細胞で特異的に発現される[[ペリアキシン]]（periaxin）というタンパク質が存在していることから、ペリアキシンはDFTDの診断マーカーや治療法開発に利用できる可能性がある。
一方、[[染色体]]の[[核型]]研究により、DFTD癌細胞の際立った特徴が明らかにされている。タスマニアデビルの染色体は通常7対14本だが、DFTDの癌細胞には13本しかなく、しかも[[性染色体]]を含む5本の欠失に加え4本の異常染色体が出現するなど、複雑な再構成が生じている<ref name="Pearse2006" />。この[[染色体異常]]は異なる個体から採取された全ての癌細胞で共通しており、同一起源の癌細胞が接触等により他個体に伝染してきたことの強い証拠と捉えられている。
同じような核型異常を示す腫瘍として、[[イヌ]]に発生する[[可移植性性器腫瘍]]（英：Canine transmissible venereal tumor、CTVT）との類似点が指摘されている<ref name="Pearse2006">{{cite journal | author= Pearse A-M, Swift K | title= Allograft theory: Transmission of devil facial-tumour disease | journal= Nature | year= 2006 | volume=439 | issue=7076 | pages= 549 | id= PMID 16452970}}</ref>。正常なイヌの体細胞が持つ染色体数は78本であるのに対し、CTVTの腫瘍細胞には58-59本しかない<ref>{{cite journal|author= Das U, Das AK |title= Review of canine transmissible venereal sarcoma |journal= Vet Res Commun |year= 2000 |volume= 24 |issue= 8 |pages= 545-556 |id = PMID 11305746}}</ref>。CTVTは日本を含む世界各地で発生しているが、核型異常の特徴はほぼ共通しており、DFTD同様に単一起源と見られている。転移はまれで自然に退縮にする場合もあるなどDFTDとは相違点もみられるが、感染性腫瘍はヒト・動物を通じてこの2疾患しか知られていないことから関連が注目されている。
感染に対する[[免疫]]反応や治癒例は現在のところ確認されていない。タスマニアデビルの[[遺伝子プール]]は非常に小さく、免疫反応に重要な役割を果たす[[遺伝子]]の集合領域である[[主要組織適合遺伝子複合体]]（[[MHC]]）には、[[遺伝的多様性]]がほとんどない<ref>{{cite news |title=Tasmanian devil epidemic: cause isolated? |url=http://www.cosmosmagazine.com/node/1412 |work=Cosmos Magazine |date=2007-06-27 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20070906100129/http://www.cosmosmagazine.com/node/1412 |archivedate=2007年9月6日 |deadurldate=2017年9月 }}</ref>。最初の1匹に生じた癌細胞にMHCの異常が含まれていたために、他の個体にも免疫反応が起きず、感染が成立した可能性が指摘されている。
[[1996年]]にタスマニア北東部で初めて報告された後、DFTDの感染地域は拡大の一途をたどっている。[[2006年]]12月までにタスマニア東部〜中部（島面積の約2/3）で感染例が報告され、個体数は過去10年間に33-50%程度減少したという野外調査もある<ref name="bostanci2005">{{cite journal| author= Bostanci A |title=A Devil of a Disease| journal= Science |year= 2005| volume=307| pages=1035 | id=PMID 15718445}}</ref>。[[1992年|1992]]〜[[1995年]]と[[2002年|2002]]〜[[2005年]]の個体目撃数を比較すると、タスマニア州平均で約60%、北東部では約10%までに減少している<ref name="newsletter_2006Dec">[http://www.dpiw.tas.gov.au/inter.nsf/Attachments/LBUN-6W933Q/$FILE/devilNews_Nov2006.pdf デビル顔面腫瘍性疾患ニュースレター（2006年12月）]{{出典無効|date=2021年7月}}{{リンク切れ|date=2021年7月}}</ref>。2009年時点で個体数は70%減少し生息域の60%に疾患の発生が見られるなど、何らかの策を講じない限り今後50年間で野生のタスマニアデビルは絶滅する恐れがあると専門家らは警告している<ref name=scihigh010101 /><ref name=scipod100101 />。北西部での発生は比較的少なく、この地域の個体群は他地域の群と比べ遺伝的相違が多い<ref>{{cite journal|author= Jones ME, Paetkau D, Geffen E, Moritz C |title= Genetic diversity and population structure of Tasmanian devils, the largest marsupial carnivore |journal= Mol Ecol |year= 2004 |volume= 13 |issue= 8 |pages= 2197-2209 |id = PMID 15245394}}</ref>ことと関連している可能性がある。
生態調査で捕獲されるDFTD罹患個体のうち83%までが成獣である<ref name="newsletter_2006Dec" />。成獣の発症が多いのは、主に餌を巡る争いや求愛行動の際の咬傷を介して感染するためと考えられている。[[1964年|1964]]〜1995年に捕獲されたタスマニアデビルの総数は2,000匹を超えるが、DFTD様の症状に関する報告は皆無だった。これは発生以降の感染規模拡大がいかに早かったかを示しており、epidemic / [[パンデミック|pandemic]]（爆発的に広がる強い伝染病）あるいはzoodemic（その動物版）と称される理由となっている。
== 分類 ==
属名''Sarcophilus''は古代ギリシャ語で「肉」の意があるsarxと、「愛する・好む」の意があるphilusに由来する<ref name="rose_et_al" />。
タスマニアデビルが自然学者[[:en:George_Prideaux_Robert_Harris|ジョージ・ハリス]]によって初めて学問的に紹介されたのは、[[1807年]]のことである。その論文中では[[:en:Didelphis|オポッサム属]]に分類され、''Didelphis ursina''と名付けられた<ref name="GeorgeHariss">Harris, G. P.1807. Description of two species of Didelphis for Van Diemen's Land. ''Transactions of the Linnean Society of London'', Volume IX </ref>。[[1838年]]、[[リチャード・オーウェン]]によって[[フクロネコ]]属に分類し直され、''Dasyurus laniarius''と改名された。次いで[[1841年]]には [[:en:Pierre_Boitard|ピエール・ボアタール]]がタスマニアデビル属に分類し、''Sarcophilus harrisii'' と名付けた。属名はともかく、最初の学名の種小名''ursina''まで先取権で用いることができなかったのは、''Didelphis ursina''が先に[[ウォンバット]]に与えられていたことが判明したためである（今もウォンバットの種小名として男性形''ursinus''が用いられている）。種小名はジョージ・ハリスにちなみ「ハリスの」という意味である。
[[1987年]]、同種を ''Sarcophilus laniarius'' へと更に分類・改名しなおす試みがなされた。しかし、その根拠となったのは[[オーストラリア|オーストラリア本土]]で発見された数体の化石に過ぎず、分類学上ひろく受け入れられるには至らなかった。[[系統学]]上、タスマニアデビルともっとも近い肉食有袋類は[[フクロネコ]]で、より遠いのが[[フクロオオカミ]]とされている<ref name="Krajewski1992">Krajewski, C. et al. 1992. Phylogenetic relationships of the thylacine (Mammalia:Thylacinidae) among dasyuroid marsupials: evidence from cytochrome ''b'' DNA sequences. ''Proceedings of the Royal Society B-Biological Sciences'' 250:19-27 PMID 1361058</ref>。
タスマニアデビル属の生物は3種が知られており、うち2種（''S. laniarius''と''S. moornaensis''）は[[更新世]]の[[古生物|化石種]]である。''S. laniarius''は現存する本種よりも10kgは大きかった。3種の系統上の関係はよくわかっておらず、本種は''S. laniarius''が矮化したものとする説と、本種と''S. laniarius''は別種で、更新世には併存していたとする説がある。
== 生態 ==
[[夜行性]]で、昼間は穴ぐらや藪の中に潜んでいるが、夜になると餌を求めて1晩に16kmほど移動することがある。[[食性]]は[[肉食動物|肉食]]で、主には[[腐肉食|死肉]]を食すが、およそ肉食に分類される獲物ならば何でも食べ、[[ポッサム]]・小型の[[ワラビー]]などの[[哺乳類]]、[[鳥類]]、[[昆虫類]]等を捕食する。[[ウォンバット]]は[[脂肪]]を多く含むため好むようで、タスマニアデビルよりも2 - 3倍以上も体の大きなウォンバットの成体を襲った記録もある<ref name="DPIW_eat">タスマニア州政府農水省（DPIW：the Department of Primary Industries and Water） [http://www.dpiw.tas.gov.au/inter.nsf/WebPages/BHAN-5372WP?open Tasmanian Devils - FAQs]</ref>。野生のデビルの胃から[[ホヤ]]が見つかったこともある<ref name="DPIW_about">タスマニア州政府農水省（DPIW：the Department of Primary Industries and Water） [http://www.dpiw.tas.gov.au/inter.nsf/WebPages/BHAN-5358KH?open About Tasmanian Devils] Diet</ref>。
体の割に大きな頭が骨をも噛み砕く[[顎]]の強さを生み出しており、骨・皮・毛・羽等、何でもバリバリと噛み砕いて食べてしまう。顎の力については、体の大きさと咬む力の強さの比率で言えば現生の哺乳類では最強<ref name="Wroe2005">Wroe, S, McHenry, C, and Thomason, J. 2005. Bite club: comparative bite force in big biting mammals and the prediction of predatory behaviour in fossil taxa. ''Proceedings of the Royal Society B-Biological Sciences'' 272:619-625 PMID 15817436</ref>、あるいは、タスマニアデビルの6倍以上大きい体格の[[ハイイロオオカミ]]とほぼ同じ<ref name="national_ggeographic_200706110930">National Geographic Channel Aus/NZ Premiere, [http://www.nationalgeographic.com.au/press/ngc_dangerous.aspx ''Dangerous Encounters: Monster Bite''], Monday June 11, 2007 at 9:30pmAEST/11:30pmNZ {{出典無効|date=2021年7月}}{{リンク切れ|date=2021年7月}}</ref>という説もある。標準的には1日に自身の体重の15%ほどの食餌を要するが、体重の実に40%近い獲物を30分でたいらげてしまうことが可能である<ref name="Owen_Pemberton_TasmanianDevil_2005" />。動物の死体を処理することで、[[公衆衛生]]やスムーズな[[食物連鎖]]の回転に寄与している。
気性が荒く、個体同士が餌の奪い合いで激しい争いになることもある。鳴き声が非常に特徴的で、「背筋の凍るような」「数km先まで響き渡る」と形容されるうなり声・叫び声を上げる。争いなのかコミュニケーションの一環なのか、恐ろしげな[[威嚇]]の鳴き声・ジャブの応酬・果ては本格的な喧嘩や多少の怪我はタスマニアデビルにはつきものである。顔や腰周辺の[[#howtohelp_age|傷跡の多寡で年齢や性別を推測]]できたりもする。自分より上位の個体との対決は避ける傾向にあるため、顔周辺の傷が少ない方が若く、背中や腰に傷があると繁殖行動を経た雌の成体であることが多い。
78 ⟶ 84行目:
タスマニアデビルは現存する中で最大の肉食性有袋類であり、[[ノラネコ]]のような外来性の[[中間捕食者]]の増加を抑える役割がある<ref>A native apex predator limits an invasive mesopredator and protects native prey: Tasmanian devils protecting bandicoots from cats(Calum X. Cunningham:2020)</ref>。
[[ファイル:Tasmanina Devil development ja.png|right|480px|thumb|生まれたばかりのタスマニアデビルの発育段階。斜め線は変化の開始から終了までの期間を示す。例えば、体表が毛で覆われるのには41日間かかる。]]
繁殖期は通常3月（タスマニアでは初秋）。雌は妊娠しなければ3週間の発情期内に3回ほど排卵する<ref name="Owen_Pemberton_TasmanianDevil_2005" />。繁殖期を迎えた雌は首周りに脂肪がたまり、巣作りをはじめる<ref name="devil's_playground">製作：Natural History New Zealand、協力：Discovery Channel、[http://www.naturalhistory.co.nz/cat_nature.html The Devil's Playground]、2000年</ref>。雄同士は雌を巡って激しく争い、勝者の雄は雌を3〜5日ほど巣に監禁して生殖行動を行う<ref name="Owen_Pemberton_TasmanianDevil_2005" />。選択権は主に雌にあり、複数の雄と交渉を持とうとするため、他の雄が近付かないよう、雄は相手の雌を巣穴に閉じ込めて監視する。雌が巣穴を出ようとすると、雄は雌を攻撃して連れ戻す。野生のつがいが8日間も巣穴から出てこなかったという記録もある<ref name="Owen_Pemberton_TasmanianDevil_2005" />。飼育下では、雄が雌に餌を運ぶ様子<ref name="Roberts_1915">Roberts, Mary G., 'The Keeping and Breeding of Tasmanian Devils (sarcophilus harrisii)', Proceedings of the Zoological Society of London, 1915, pp.1-7</ref>や、雄が水を飲みに行く時に雌を一緒に引きずって行く様子<ref name="abc_scribblygum_april2001">http://www.abc.net.au/science/scribblygum/April2001/default.htm</ref>などが観察されたことがある。雌はしばらくは雄に従っているが、3〜5日ほどでホルモンバランスが変化し雄に反撃するようになり、雄を巣穴から追い出してしまう。<ref name="devil's_playground" />。
90 ⟶ 95行目:
3年目には大人の大きさまで成長する。
タスマニアデビルの寿命は野生で5-6年、飼育下では6-7年である。DFTDの感染地域では2-3年しか生きられない個体が多く、繁殖期を生き延びて無事に子育てを終えることは皆無ではないがまれである<ref name="newsletter_2007Dec">[http://www.tassiedevil.com.au/docs/DevilNews_Nov07.pdf デビル顔面腫瘍性疾患ニュースレター（2007年12月）]{{出典無効|date=2021年7月}}{{リンク切れ|date=2021年7月}}</ref>。
== 人間との関係 ==
現在は[[タスマニア州|タスマニア島]]のみに生息するが、古くは[[オーストラリア大陸]]にも生息していたことが[[化石]]により判明しており、同大陸ではヨーロッパ人到達以前の[[14世紀]]終わり頃に絶滅した。オーストラリア大陸での絶滅は[[フクロオオカミ]]と同様に、[[人類]]がもたらした[[イヌ]]が野生化した[[ディンゴ]]の影響があると思われる。
1800年頃から入植を始めた[[白人|ヨーロッパ系住民]]は、[[家禽]]や[[家畜]]を襲う[[害獣]]として、また鳴き声や死体を漁る姿を悪魔に例えて忌避した。[[1830年]]には羊毛・畜産の民間企業による奨励金（雌35セント、雄25セント）が、また[[1888年]]には政府によって同様の奨励金が設けられ、[[フクロオオカミ]]と共に駆除が奨励された。しかし、[[1936年]]に[[フクロオオカミ]]が[[絶滅]]するとタスマニアデビルを保護する気運が高まり、[[1941年]]に[[法律|保護法]]が成立し現在に至っている。
[[1996年]]に初めて公式に報告された「[[タスマニアデビル#デビル顔面腫瘍性疾患 (DFTD)|デビル顔面腫瘍性疾患]](DFTD)」と呼ばれる病気によって、この10年間で30〜40%まで個体数が減少している。自然発生的な伝染病のみを原因として生物が絶滅することはまれだが、環境的な要因が加わると、加速度的に個体数が減少する可能性がある。2000年前後にハンティング目的で不正にもたらされた[[キツネ]]が野生化して個体数を増やしつつあり、仮にDFTDが収束したとしても、いちど食物連鎖の頂点を追われた動物が元の地位・生息数・生息地域に戻ることは困難である。[[2006年]]、オーストラリア政府は本種を[[絶滅危惧種]]（危急 - Vulnerable）に指定した。
* オーストラリアでも現在「絶滅危惧」（Endangered）にランクされている<ref name="EPBC">{{SPRAT|299}}</ref>。
* 2007年11月、[[タスマニア大学]]のロイ・スウェイン（Roy Swain）博士が委員長を務める絶滅危惧種顧問委員会（Threatened Species Scientific Advisory Committee）は「絶滅危惧」（Endangered）への変更を勧告した<ref name="DPIW_EN">タスマニア州政府農水省（DPIW：the Department of Primary Industries and Water） [http://www.dpiw.tas.gov.au/inter.nsf/WebPages/LBUN-796W2S?open Intended Changes to Threatened Species Schedules]</ref>。近い将来、野生のデビルはほぼ間違いなく絶滅すると見られている（絶滅までの期間は5年から20〜30年まで諸説ある<ref>[http://www.theage.com.au/news/climate-watch/extinction-warning-for-tassie-devils/2007/10/03/1191091193858.html Extinction warning for Tassie devils]</ref><ref>[http://www.tassiedevil.com.au/docs/InsurancePolicyStrategy.pdf Insurance Population Strategy]</ref>）。
* 2008年5月、[[タスマニア州]]から絶滅危惧種に指定されると発表された<ref>[http://afp.google.com/article/ALeqM5hA1BsycUvPxKGSC8sxkgNOqCNIFA Tasmanian devil to get endangered species listing]</ref><ref>[http://jp.reuters.com/article/oddlyEnoughNews/idJPJAPAN-31889120080521 オーストラリアのタスマニアデビル、絶滅危惧種に指定]</ref>。
タスマニア州政府農水省（DPIW：the Department of Primary Industries and Water）・大学・自然公園・動物園などによる共同保護プログラムが実施されている。主には以下のように分類されている：
* 生息数調査
124 ⟶ 116行目:
なお、DFTDプログラムでは、随時ボランティアを募集している。
野生のデビルを捕獲・観察し、また捕獲後は動物医による診断を行っている。リリース前に[[マイクロチップ]]を装着しており、訓練を受けたボランティアがマイクロチップ読取機で個体数や移動範囲の特定に貢献している<ref name="newsletter_2007Dec" />。罠による捕獲では毎日チェックし中の個体をケアする必要があるため、日次チェックに適さない地域では遠隔操作カメラも導入され効果をあげている。
捕獲に使用される罠は特製で、日中穴倉にもぐりこむタスマニアデビルの習性にあった形状をしている。ストレスを感じさせないのは勿論のことだが、よほど居心地が良いのか、中にはしょっちゅう罠に入り込んでは仰向けで熟睡している個体もいるそうである<ref name="newsletter_2006Dec"
島南東部に位置する[[タスマン半島]]と本島とを繋ぐ唯一の橋を封鎖し、健康なデビルを隔離・生息させようという試み。半島と本島をつなぐ橋に、タスマニアデビル避けの網や、タスマニアデビルサイズの生物に反応するセンサー式のウォータージェット・ライト・録音した犬の鳴声を仕掛けるなどのアイディアがある。
2004年にプログラムがスタートしてから3年の間に、DFTDに罹患したタスマニアデビル60匹が保護・退去となっている。2006年前半6か月の監視カメラによる記録では、外部から半島へ入ってきたタスマニアデビルはわずか2匹に留まっている<ref name="newsletter_2006Dec"
「[[ノアの箱舟|箱舟]]」プロジェクトでは、2006年12月と2007年1月の2度にわたって、総勢48匹のタスマニアデビルをオーストラリア本土の4つの自然動物公園へ送り込んだ。同プロジェクトの舞台としてタスマニア州外の動物公園が選ばれたのは、DFTDの脅威と無縁だからだ。タスマニア州でもDFTDの発症例がない地域から集められた48匹が、箱舟に乗せられた。
144 ⟶ 133行目:
=== 民間の保護活動 ===
{{出典の明記|date=2021年7月|section=1}}
; 旅行者の目撃情報 :
タスマニアデビルの目撃情報は、生息地域や感染地域に関する重要な情報源となり得る。旅行中にデビルを目撃した場合（生死問わず。路肩の野生動物の轢死体を漁りに来て二次被害にあった事故死体も含む）、DFTDプログラムは次の事柄に関する情報を求めている：
166 ⟶ 156行目:
; マックスバリュ東海 :
[[マックスバリュ東海]]は、DFTDプログラムにタスマニアデビル支援金を贈呈する活動<ref
; カンタス航空 :
[[カンタス航空]]はオーストラリア国内の空港にタスマニアデビルの彫像を冠した募金箱を設置している。
173 ⟶ 163行目:
2012年、タスマニアデビルの絶滅のおそれの要因となっていた顔のがんから保護するため数頭のタスマニアデビルが[[マリア島]]に移された<ref name="BBC20210622">[https://www.bbc.com/japanese/57563110 タスマニアデビルを移住させ、島内のペンギン全滅 豪自然保護団体が指摘] BBC、2021年6月22日閲覧。</ref>。しかし、地元の自然保護団体「バードライフ・タスマニア」によると、タスマニアデビルの移動により島には2012年に3000組いたペンギンのつがいが全く見られなくなったとしている<ref name="BBC20210622" />。また学術誌「Biological Conservation」の2020年の論文はタスマニアデビルがミズナギドリのコロニーを絶滅させたと指摘している<ref name="BBC20210622" />。
==
{{脚注ヘルプ}}
{{Reflist}}
==
{{Commons|Sarcophilus harrisii}}
{{Species|Sarcophilus_harrisii}}
{{Animal-stub}}
{{DEFAULTSORT:たすまにあてひる}}
[[Category:フクロネコ形目]]
| |||