「トヨタ・G16E-GTS」の版間の差分

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== 開発・製造 ==
 
このエンジンは[[GR (トヨタ自動車)|TOYOTA GAZOO Racing company]]のパワートレイン部門にて[[開発]]が行われた<ref>{{Cite web|url=https://www.autocar.jp/post/692312|title=【開発の重要人物へ聞く】トヨタGRヤリス お手頃ドライバーズカーのベスト AUTOCARアワード2021 後編|publisher=AUTO CAR JAPAN|year=2021-06-22|accessdate=2021-12-15}}</ref>。ベースとなったエンジンはダイナミックフォースエンジンの[[トヨタ・ダイナミックフォースエンジン#M15A型|M15A型]]であり、GRヤリス専用設計、ゼロベース開発としつつも<ref name="book ref"/>、そのベースエンジンに[[ボアアップ|排気量の拡大]]を施したり、[[ボールベアリング]][[ターボ]]を装着したりするなどして開発された<ref name="Prototype"/>。
 
=== 開発経緯 ===
[[製造]][[生産]]はトヨタ自動車の下山工場で行われており<ref name="Simoyama factory"/>
 
当機はWRCのRC2クラスで勝てることをコンセプトにしたGRヤリス専用エンジン(登場当時)として開発が開始された<ref name="book ref"/>。トヨタのエンジン開発チームは開発初期の段階で競技用エンジンの規定や使われ方を調べるべく[[ヨーロッパ]]にわたり徹底的な調査を行なった<ref name="book ref"/>。すると競技用エンジンは4500rpm - 6200rpmの回転域を多用することが判明、加えてヤリスの競合車種を打ち負かすためには1クラス上にも優る動力性能が要求されることも判った<ref name="book ref"/>。また多品種少産を行う下山工場で生産を行うことなども踏まえて、TNGAエンジンからある程度切り離しゼロベース開発を前提としたGRヤリス専用エンジン『'''G16E-GTS型'''』の開発が開始された<ref name="book ref"/>。
 
開発理念には豊田章男社長が求めた『モータースポーツから量産へ』『競技に耐えられる、ラリーで勝てるエンジン』を目標に掲げた<ref name="book ref"/>。
 
まず、エンジンレイアウトは開発初期のうちから3気筒エンジンとすることが決定した<ref name="book ref"/>。これは排気干渉を起こさず、4気筒では必須の[[ツインスクロールターボ]]が不要であるレイアウトであったり、排気カムに[[可変バルブ機構|可変動弁機構]]がなくとも中低速のトルクが出しやすいという特性があったり、4気筒と比較しエンジン重量を抑えられるなどの要素からターボエンジンの最適解とエンジン開発チームが判断したためである<ref name="book ref"/>。
 
エンジンスペックは[[CAE]]を駆使しゼロベースから諸元設定を行った<ref name="book ref"/>。ボアストロークの設定は、出力の最大化を追求しある固定した排気量から6000 rpm時に最適なボア径を算出したところから始まった<ref name="book ref"/>。このときの最適なボア径は87 - 88 mmであったが、車両搭載を考慮しボア径87.5 mmに設定した<ref name="book ref"/>{{Efn|このボア径はA25A型と同じではあるが、結果的なものでありA25A型との関係性はない<ref name="book ref"/>。}}。また、ストローク量は1,600 ccの排気量から逆算を行う形で算出されたが、途中から1,620ccまでが許容範囲であることに気付いた開発陣は許容排気量全てを使い切る方向に舵を切り、最終的に89.7 mmのストローク量に設定した<ref name="book ref"/>。以上のボアストロークから求めた総排気量は許容範囲ギリギリの1,618ccとなった<ref name="book ref"/>。
 
バルブ径もボアストロークと同じくCAEを用いた開発が行われたが、通常、充填効率を求めると吸気バルブ径が排気バルブ径よりも大きくなるところ、吸気バルブ径と排気バルブ径がかなり近い大きさになっている<ref name="book ref"/>。
{{Main|[[#ヘッド・カムバルブ・インジェクター|#ヘッド・カムバルブ・インジェクターのバルブ径]]}}
 
ピストンの軽量化は開発陣を最も苦労させた<ref name="book ref"/>。それは3気筒という気筒数が少ないエンジンレイアウトだと重量のアンバランスに繋がり、振動抑制が厳しくなるにもかかわらず、高出力にも耐えられる軽量なピストンを作らなければならないためである<ref name="book ref"/>。これはトヨタ自動車が持つ技術の全てを注ぎ込み、トヨタ自動車の2Lクラスのエンジン(8AR-FTS)と同様の重量に抑えることで解消した<ref name="book ref"/>。具体例を挙げると、トップリングの溝にニレジスト鋼を挿入したり、ピストンピンに[[ダイヤモンドライクカーボン|DLC]]を塗布したり、ピストン表面に強度増強のための[[ショット・ブラスト|ショットブラスト]]を掛ける、スカート部に樹脂コーティングを施しフリクション軽減を行うなどの加工をしている<ref name="book ref"/>。
 
ターボチャージャーは2Lエンジンサイズの大型でボールベアリング支持のものを採用した<ref name="book ref"/>。ボールベアリング支持にした理由は[[モリゾウ]](豊田章男社長)がテストドライバーとして開発に携わっていた際に「野性味が足りない」というフィードバックを送り、フィードバックを受け取った開発陣がダイレクト感を要すと判断して採用した<ref name="book ref"/>。これにより、無駄な渦の抑制、コンプレッサーホイールのチップクリアランスの最適化、吸気の高効率昇圧が達成された<ref name="book ref"/>。
 
また、エンジン製造時にも工夫を凝らしており、異物管理を徹底するためにライン内には関係者以外の立入を禁止する、手組みで組立てを行いピストン、ピストンピン、コンロッド重量のずれの許容範囲をトヨタ自動車従来基準の2分の1に設定するなど厳しい品質管理を行っている<ref name="book ref"/>。
 
=== 製造・生産 ===
 
[[製造]][[生産]]はトヨタ自動車の下山工場で、シリンダーブロックを始め[[鋳物]]部品の[[鋳造]]はトヨタ自動車の上郷工場で行われており<ref name="book ref"/><ref name="Simoyama factory"/>
、下山工場で「匠」と呼ばれる熟練工が製造した証に「'''''{{Colors|#fff|#000000|&nbsp;G&nbsp;}}{{Colors|#fff|#e60000|&nbsp;R&nbsp;}}''''' '''SIMOYAMA''' '''{{Colors|#fff|#000000|&nbsp;匠&nbsp;}}'''」と書かれた品質証明のエンブレムが貼られている<ref name="Simoyama factory"/>。また、エンジン生産は専用[[ライン]]を使用せず通常の混流生産ラインを用いて行われており、[[不純物]]混入を防止する対策や、高精度に組み上げる[[技術]]などさまざまな工夫をして、レーシングエンジンに近い高精度さながらも通常ラインでの[[量産]]を実現している<ref name="Simoyama factory"/>。
 
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=== ヘッド・カムバルブ・インジェクター ===
 
[[シリンダーヘッド]]は軽量化のためにアルミブロックであり<ref name="TOYOTA"/>、冷却水の流れを加速させるためウォータージャケットを2つに分割<ref name="Engine mechanism"/>。吸排気動弁機構は[[DOHC]]を採用し、タイミングチェーンにより駆動する<ref name="Engine mechanism"/><ref name="book ref"/>。また、DOHCながら油圧式[[ラッシュアジャスター]]が採用されている<ref name="Engine mechanism"/><ref>{{Cite web |url=https://www.youtube.com/watch?v=llD0B2Xc9Vg |title=Destruction?! Inside the Brown Toyota GR Yaris engine |publisher=YouTube |date=2021-03-17 |accessdate=2022-02-03}}</ref>
{{Efn|DOHCに油圧式ラッシュアジャスターが採用された例として、トヨタが初めて独自開発したDOHCエンジン[[トヨタ・M型エンジン#5M-GEU - 2800cc|5M-GEU]]が挙げられる<ref>{{Cite web|url=https://web.motormagazine.co.jp/_ct/17358908|title=5M-GEU型エンジンに見る、トヨタのDOHC戦略(中編)|publisher=motor magazine|year=2020-04-27|accessdate=2021-12-15}}</ref><ref>{{Cite web|url=https://gazoo.com/car/keyperson/16/07/01/|title=元トヨタソアラ開発主査、岡田稔弘氏に聞く|publisher=GAZOO|year=2016-07-01|accessdate=2021-12-15}}</ref>。}}。
 
[[カムシャフト]]はトヨタ自動車が独自に開発した鋼製の中空組立カムシャフトを採用し<ref name="book ref"/>、軽量、高レスポンス化を行っている<ref name="book ref"/><ref name="TOYOTA"/>。両方のカムシャフトに可変バルブタイミング機構の[[VVT-i]]を装着し、吸気側が70°まで、排気側が41°までの可動範囲でバルブタイミングを制御する<ref name="Engine mechanism"/>。
 
[[タペット|カムキャップ]]は2階建て構造を採用しており、M15A型に比べ2kgの軽量化を達成<ref name="book ref"/>。タイミングチェーンカバーの構造変更{{Efn|M15A型は1枚で構成されているのに対し当機はチェーンカバーを上下2枚に分割した構成である<ref name="book ref"/>。}}も行い同じくM15A型に比べ1kgの軽量化を更に達成している<ref name="book ref"/>。
[[バルブ#レシプロ内燃機関におけるバルブ|バルブ]]関連ではダイナミックフォースエンジンの特徴であるレーザークラッドバルブシートを使用せずバルブシートを工夫して打ち込んでいる<ref name="report"/>。これはダイナミックフォースエンジンと同様に高ダンブルでの高速燃焼を実現しつつも、シートの打ち換え等[[メンテナンス]]や[[カスタマイズ]]、[[チューニング]]での扱いにくさを解消するためである<ref name="report"/>。
 
[[バルブ#レシプロ内燃機関におけるバルブ|バルブ]]関連ではダイナミックフォースエンジンの特徴であるレーザークラッドバルブシートを使用せずバルブシートを工夫して打ち込んでいる<ref name="report"/>。これはダイナミックフォースエンジンと同様に高ダンブルでの高速燃焼を実現しつつも、シートの打ち換え等[[メンテナンス]]や[[カスタマイズ]]、[[チューニング]]での扱いにくさを解消するためである<ref name="report"/>。バルブ径は[[インテークマニホールド|吸気]]側が32.8 mm、[[エキゾーストマニホールド|排気]]側が32.0 mmと通常では空気を多く取り入れるため吸気側を大きくするのに対し、吸気バルブと排気バルブの大きさが近いものとなっている<ref name="book ref"/>。これは当機がターボエンジンで排気を再利用できるため、排気流量を増やすことを念頭に置いて[[CAE]]設計をした結果である<ref name="book ref"/>{{Efn|ただし、吸気側のバルブにもバルブ径を極力大きくするなどの追求を行ったり、レーザークラッドバルブシートを採用せずともダイナミックフォースエンジンさながらの効率及びダンブル流を実現することを求めたりして偏心バルブシートを圧入する、吸気ポートに機械加工を施し複雑かつストレートな形状を作り出すなどの工夫がされている<ref name="book ref"/>。}}。
 
[[燃料噴射装置|インジェクター]]は[[燃料噴射装置#マルチポイントインジェクション|ポート噴射]]・[[ガソリン直噴エンジン|直噴]]を併用する「D-4S」のターボ版、「[[トヨタ・D-4|D-4ST]]」を採用している<ref name="Engine mechanism"/>。このインジェクターは、低中回転域に複合噴射を行い、高回転域は直噴のみの噴射になる<ref name="Engine mechanism"/>。また、運転状況に応じて2.4 - 20 [[パスカル (単位)|MPa]]の範囲で噴射圧が制御される<ref name="Engine mechanism"/>。この制御の働きで低中回転域での安定的な運転や高負荷運転時の[[ノッキング]]抑制が可能になる<ref name="Engine mechanism"/>。
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ブロック本体の材質は軽量化の為に[[アルミニウム]]が用いられ<ref name="TOYOTA"/><ref name="Explanation"/>、製造法に[[ダイカスト|アルミダイカスト]]を採用することでエンジン全体での乾燥重量を109 kgに抑えるなどかなりの軽量化を達成している<ref name="Engine mechanism"/><ref name="TOYOTA"/>。ブロックがアルミ製であるため[[シリンダーライナー|鋳鉄ライナー]]が挿入されており、ブロック内側の特殊な粗面と噛合して強く固定されている<ref name="Engine mechanism"/>。この挿入されている[[鋳鉄]]ライナーは高出力を発揮する高負荷回転時の耐久性や[[剛性]]を高める為に肉厚なものを採用している<ref name="Explanation">{{Cite web|url=https://www.webcartop.jp/2020/11/617333/|title=4WDマイスターのレーシングドライバーが乗って触って徹底解説! GRヤリスの「メカ」を斬る|publisher=WEB CARTOP|year=2020-11-21|accessdate=2021-12-15}}</ref>。
 
[[冷却]]は[[水冷エンジン|水冷式]]でウォータージャケットが浅底化、オープンデッキ状になっている{{Efn|シリンダーブロック上端部の水路孔が1つに繋がっている形<ref>{{Cite web|url=https://car.motor-fan.jp/tech/10015121|title=内燃機関超基礎講座 オープンデッキ/クローズドデッキ。シリンダーブロックで何が開いている/閉じている?|publisher=motor-fun|year=2020-06-14|accessdate=2021-12-15}}</ref>。}}。この浅底構造をしたウォータージャケットはトヨタ自動車では初採用であり、同じくトヨタ製3気筒エンジンのM15A型ブロックなどと比較して、ジャケット横の肉を抜けるなど軽量化に大きく影響を与え、それに加えてスポーツ使用下の高燃焼荷重にも耐えられるブロック構造の支持にも貢献している<ref name="book ref">{{Cite book|和書|title=[https://car.motor-fan.jp/tech/10018556 Motor Fan illustrated Volume174 図解特集 直3 vs 直4] |publisher=Motor-Fan |year=2021-03-15 |page=pp46 - 51 |isbn=978-4-7796-4352-1 }}</ref>{{Efn|なお、この浅底ウォータージャケットはウォータージャケット底部に肉厚な部分ができるため鋳巣が出来易くなるという課題があったが、G16E型ブロックを鋳造しているトヨタ自動車の上郷工場でシミュレーションや試行を繰り返し行い鋳造条件の最適化をすることによって解決した<ref name="book ref"/>。}}。また、[[オイルレベルゲージ]]がブロック内部に作られており[[ブローバイガス]]通路としても機能している<ref name="Engine mechanism"/>。
 
=== ピストン・コンロッド・クランク ===
 
[[コネクティングロッド]]は[[鍛造]]品が用いられ、[[クランクシャフト]]は4つの[[回転軸]]と[[錘|バランスウェイト]]から構成される<ref name="Engine mechanism"/>。ピストンとクランクシャフトには高精度な加工が施され徹底的な軽量化、レスポンスの追求がなされている<ref name="book ref"/><ref name="TOYOTA"/>。また、ピストンがシリンダー壁に押し付けられないようにクランク軸とピストン軸を10 mmほどずらして横方向の力を軽減している<ref name="Engine mechanism"/>。
 
[[ピストン]]はアルミ製のT字の形状をとる<ref name="Engine mechanism"/>。ピストン上部の溝山はニレジスト鋳鉄製で、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)が塗布されている<ref name="Engine mechanism"/><ref name="book ref"/>。ピストンスカート部分にはポリマーコーティングが施されている<ref name="Engine mechanism"/><ref name="book ref"/>。
 
また[[クランクシャフト]]の直下に[[トヨタ・A25A-FKS|A25A-FKS]]型エンジンや[[トヨタ・M20A-FKS|M20A-FKS]]型エンジン、M15A-FKS型エンジンと同様にアイドリング時の振動対策として[[バランスシャフト]]が組み込まれている<ref name="Engine mechanism"/><ref name="book ref"/>。このバランスシャフトはM15A型とは異なる締結構造を用いており高剛性化を行っている<ref name="book ref"/>。
 
=== ターボ・点火・補機 ===
 
フリクション軽減やレスポンスの向上のためターボの[[タービン]]に[[セラミック]][[ボールベアリング]]を採用している<ref name="book ref"/><ref name="TOYOTA"/>。
[[インタークーラー]]はラリーでのメンテナンス性を考慮して[[空冷]]式である<ref name="Engine mechanism"/>。なお、『RZ“High-performance』には冷却スプレー機能が追加装着されている<ref name="Turbo">{{Cite web|url=https://car.motor-fan.jp/article/10013233|title=ここまでわかったトヨタGRヤリス、新開発の直3DOHCターボG16E-GTS型はなぜ空冷インタークーラーなのか?|publisher=motor-fun|year=2020-01-13|accessdate=2021-12-15}}</ref><ref name="Engine mechanism"/>。また、純正状態でBMEP(正味平均有効圧力)が28.7barも掛かっていて、近年{{Efn|2021年現在から数えた近年}}の国産エンジンとしては異例である<ref name="Turbo"/>。
 
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=== 注釈 ===
{{Notelist}}
 
== 参考文献 ==
 
*[[モーターファン]]『Motor Fan illustrated Volume174 図解特集 直3 vs 直4』[[三栄 (出版社)|三栄]] ISBN 978-4-7796-4352-1
 
== 関連項目 ==