「巡洋戦艦」の版間の差分

'''巡洋戦艦'''（じゅんようせんかん、{{lang-en-short|Battlecruiser}},{{Efn2|{{lang|en|Battle - cruiser}}，{{Sfn|英和海軍術語辞彙|1911|p=16|ps=原本21頁}}　主戰巡洋艦（我[[筑波 (巡洋戦艦)|筑波]]、英ノ“[[インヴィンシブル (巡洋戦艦)|Invincible]]”ノ類）．}}、{{lang-de-short|Schlachtkreuzer}}）は、強力な攻撃力と高速性能を持つ大型の[[戦闘艦]]を指す{{Efn2|'''巡洋戰艦附装甲巡洋艦'''　過去二十五年間の期間に於て我海軍にて建造されました巡洋戰艦と名のつく艦は四隻一一〇,〇〇〇噸馬力二五六,〇〇〇 装甲巡洋艦と云はれて居りますのが十二隻一二九,二四一噸馬力二二七,七五〇(此中に[[日進 (装甲巡洋艦)|日進]]、[[春日 (装甲巡洋艦)|春日]]を含んで居ります)であります。<br/>一體巡洋戰艦と云ふ語は合の子の語でありまして英國海軍に於て「[[ドレッドノート_(戦艦)|ドレッドノート]]」に次で「[[インヴィンシブル級巡洋戦艦|インフレッキシブル]]」級と申して艦種は[[弩級戦艦|弩級]]に属し同時に速力二十五節と云ふ快速の装甲巡洋艦を造りました頃から用いられた語でありまして戰艦の攻撃力と巡洋艦の速力とを併有する艦と云ふたのであります 其の意味から申しますると我海軍の[[筑波 (巡洋戦艦)|筑波]]、[[生駒 (巡洋戦艦)|生駒]]は蓋し巡洋戰艦の元祖であります 唯其時代には左様云ふ語が使はれなかったと云ふ丈であります 此巡洋戰艦と云ふものも元々装甲巡洋艦の一種でありますから茲には便宜上装甲巡洋艦と一緒に御話致します。(以下略){{Sfn|帝国軍艦発達|1924|p=5}}。}}。

[[巡洋艦]]の特徴である高速性能と運動性能、[[戦艦]]に匹敵する[[主砲|大口径砲]]による攻撃力を合わせもつ{{Sfn|壮烈!ドイツ艦隊|1985|pp=41-42|ps=(巡洋戦艦とは)}}{{Efn2|name="戦艦話p16a"|(中略)茲で話を巡洋戰艦に移さねばなりません{{Sfn|戦艦の話|1938|pp=16-18|ps=原本23-26頁}}。日露戰爭に三笠等の主力艦隊と協同して活躍した我が一等巡洋艦は、淺間・常磐・八雲・吾妻・出雲・磐手の六隻でした。そして之等巡洋艦を戰爭に使つた結果に基いて建造されたのが[[筑波 (巡洋戦艦)|筑波]]・[[生駒 (巡洋戦艦)|生駒]]であつて、之はそれ迄の巡洋艦主砲二十糎の代りに戰艦と同じ三十糎砲を主砲としたもの、後の巡洋戰艦の先驅となつたものであります。此の巡洋艦種の發達の經路は戰艦と同様であつて、例を我が國に取れば主砲四門だけの[[筑波型巡洋戦艦|筑波型]]の次に三十糎主砲四門と副砲の間に二十糎砲八門を装備した[[鞍馬 (巡洋戦艦)|鞍馬]]・[[伊吹 (巡洋戦艦)|伊吹]]が造られました。然し弩級竝に超弩級戰艦の出現は巡洋艦種にも甚大な影響を齎し、遂に巡洋艦でもあり戰艦でもある我が[[金剛型戦艦|金剛級]]英國の[[ライオン (巡洋戦艦)|ライオン]]等が出現して巡洋戰艦と呼ばれるやうになりました。<br/>　戰艦と巡洋戰艦は何處が違ふかと云へば速力が違ひます。巡戰は高速を必要とする爲め攻撃力と防禦力が戰艦より劣るのを我慢して、専ら高速を得るに努めました。即ち歐洲大戰前に於ては戰艦は大凡二十一節位であつたのに巡戰は二十六節位も出し得たが、其の代り主砲は八門、装甲も大分薄いのが普通でありました。(以下略)}}。

英名を直訳すると「戦闘巡洋艦」となる<ref>[[#英巡洋艦進水配置]] p.2〔 大正二年十月廿一日 英国駐在河合造船大技士 駐在員監督男爵安保海軍大佐殿／一　英国戰闘巡洋艦「ライオン」進水配置詳細 一部 右提出仕候也 〕</ref>{{Efn2|name="英海軍件"|一、戰艦及戰闘巡洋艦<ref>[[#英海軍に関する件]] pp.29-31</ref>　此ノ両艦種建造ニ関シ著大ナル変化ヲ来セルハ戰闘巡洋艦ハ一九一一年計画ノ「タイガー」ヲ最終艦トシ以后ハ之ガ建造ヲ中止セルヘ(戰巡ハ合計八隻ニシテ「インビンシブル」級四隻「ライオン」級四隻外ニ[[:en:Crown_colony|属領]]ノモノ二隻)一九一二年計画ノ戰艦四隻(外ニ[[イギリス領マラヤ|マレー]]ノ一隻)ヲ戰巡ト戰艦トヲ合併シタル[[クイーン・エリザベス級戦艦|特種ノ戰艦]](海相ノ云フ軽速戰艦　油専用)トナセルヲ次テ本年計画ノ[[リヴェンジ級戦艦|五戰艦ヲ再ビ純然タル戰艦]]ニ復旧セルモノ之レナリ(以下略)}}。

この艦種を初めて1908年に建造した[[イギリス海軍]]の定義においては、広義では[[巡洋艦]]と位置付けられており{{Sfn|福井、世界戦艦物語|2009|pp=330-333|ps=主力艦建造の歩み}}、高速・運動性能と攻撃力を合わせもつことで、反撃を受けることなく[[アウトレンジ戦法|敵の射程外から一方的に攻撃]]しようというコンセプトであった{{Efn2|'''4,速力'''{{Sfn|藤本喜久雄|1922|p=18|ps=(4.速力)}}　速力の重要な事は今更申すまでもなく何れの海戰について見ましても優良な速力を持つて居る艦隊が常に作戰上有利な位置を占め從て勝利を得て居ります、然し之れを極端に應用して{{lang|en[[ジョン・アーバスノット・フィッシャー|Lord fisher}}]]の所謂『速力即ち防禦なり』主義で無防禦な大口徑砲を持つた高速艦で自己の速力を使用して敵の彈着外に常に居る様に行動し自己の大口徑砲で敵を撃破しようと云ふ蟲のよい計畫は今度の海戰で机上の空論となりました。<br/>　即ち、戰闘距離を支配するものは速力にあらずして天候なる事が證明されたからであります、{{lang|en[[ユトランド沖海戦|Jutland}}の海戰]]でも英艦の巨砲に適する大なる距離では海上霧の爲めに敵を見る事能はず實際戰はれた戰闘距離はむしろ獨の比較的小口徑な砲に適する様な距離でありました、此れを以て見ても速力即ち防禦主義は單に天候が晴れた時はかりで一般には適應出來ぬ事となりました。<br/>　又對潜水艦戰の關係から潜水艦に襲撃の機會を與へぬ爲めに常にある程度即ち潜水艦の水中全力より大なる高速を持續する事が必要となりましたし、又速い艦程潜水艦の攻撃が困難でありますから此の點からも一般に高速が必要な事となりました。(拍手)}}。

巡洋戦艦は、[[装甲巡洋艦]]（{{lang|en|Armored cruiser}}）を発展させた艦種であった{{Sfn|福井、世界戦艦物語|2009|pp=338a-340|ps=巡洋戦艦について}}{{Efn2|'''(12)日露戰役の影響'''{{Sfn|石川島技報、軍艦の変遷|1941|p=7b|ps=(原本9頁)(12)日露戰役の影響}}　日本は[[清国海軍|清國海軍]]を殲滅したる以後は、俄に[[ヨーロッパ|歐洲]]の[[三国干渉|三大國を敵とするに至り]]、上記の如き[[六六艦隊計画|戰艦六隻、装甲巡洋艦六隻の建造を急ぎ]]、何れもその性能に於て歐洲各國のものに比し、船體兵器機關の何れかに於て優秀なるものを建造し、日清戰爭後十年にして終に[[ロシア帝国|露國]]と干戈相見ゆるに至つた。即ち我が國は再度最新鋭軍艦の實戰成果を示すことゝなりたる次第である。その日露海戰の教訓は十年前の日清海戰と同様に砲力の増大と同時に防禦力を大にし速力を増加することを必要と認めた。その結果として主力艦はその主砲の威力を増し、中間砲の口徑を大にし6吋砲を10吋砲と代へ、更に進んで主砲と同一ならしめ所謂備砲單一式に進み、英國に於てこの型の第一艦[[ドレッドノート (戦艦)|ドレッドノート號]]が建造され、こゝに弩級戰艦なるもの出現したり。この艦型に至る過程には、我が國の戰艦[[薩摩型戦艦|薩摩級]]が中間砲を10吋砲としたるにヒントを得たり、とは當時英國軍令部長の話である。<br/>　巡洋艦も同一要望により、装甲巡洋艦はその防禦を強化すると同時に、主砲を戰艦と同口徑とし、唯その數を減じ速力は元通り戰艦より優速とし、所謂巡洋戰艦なるもの出現したり。我が國にて日露戰役中建造に着手したる筑波生駒の[[筑波型巡洋戦艦|姉妹艦二隻]]は即ちこの巡洋戰艦の嚆矢である。のみならずこの二艦は艦首の[[衝角|衝角ラム]]を廢止し水線上を水切り型となす。この艦首の形は夫れ以降我が國は勿論諸外國も總てこれに倣ふことゝとなつた。(以下略)}}。

運用面では多様な任務に従事すると共に{{Sfn|帝国及列国海軍|1909|pp=106-108|ps=原本167-170頁}}、[[:en:Kantai_Kessen|艦隊決戦]]において戦艦戦隊と行動を共にすることを前提としていた{{Sfn|軍港と名勝|1933|p=22|ps=(二)巡洋戰艦}}{{Efn2|○巡洋戰艦　戰艦とは戰艦同様の砲を備へるけれどもその數は稍々少く、装甲は稍々薄いが、速力は二十五節以上の優速を有たせてある快速力戰艦の謂で、之を單位として[[:en:Battlecruiser_Squadron|巡洋戰艦戰隊]]（[[:en:Squadron_(naval)|<ruby><rb>戰隊</rb><rt>ｽｸｵｰﾄﾞﾛﾝ</rt></ruby>]]とは<ruby><rb>艦隊</rb><rt>ﾌﾘｰﾄ</rt></ruby>中の一部隊といふ）を編成し、その優速を利用して強敵に對し、壓迫若くは偵察を行ひ、或は主力の根幹たる戰艦戰隊の快速力翼面配備として、是と協同作戰をなさしむるを目的として居る。<br/>列國海軍中巡洋戰艦を有つて居るのは我國と英國丈けで、曾て獨逸が有つてゐたけれども戰敗と共に亡失し、米國では[[レキシントン級巡洋戦艦|未だ成るに及ばずして]]華府條約により廢棄することとなつた。<br/>方今戰後の巡洋戰艦として目せらるゝものは英艦[[フッド (巡洋戦艦)|フード]]であるが同艦は排水量四萬九百噸、速力三十二節である{{Sfn|大日本軍艦写真帖|1924|p=13|ps=巡洋戰艦}}。}}。しかし1931年（昭和6年）には、日本海軍からは巡洋戦艦という艦種がなくなり戦艦に併合された{{Efn2|じゅんよう - せんかん<small>・・ヤウ・・</small>{{Sfn|標準海語辞典|1944|p=159|ps=原本300頁}}[ 巡洋戰艦 ］主力艦の一であつたが昭和6年艦船令の改正に伴なひ、巡洋戰艦は全部戰艦と改稱せられた。}}{{Efn2|'''(14)巡洋戰艦'''{{Sfn|石川島技報、軍艦の変遷|1941|p=8a|ps=(原本10頁)(14)巡洋戰艦}}　巡洋戰艦は砲力と速力と何れも相當に大なるを要望され出現したるものにして、各國海軍に於て採用せられ、我が國にても大正二年（1913）に竣工したる金剛は當時の精鋭關にして英國の[[タイガー (巡洋戦艦)|タイガー級]]に匹敵す、その姉妹艦比叡・榛名・霧島亦同型である。英國にては1910年竣工の[[ライオン級巡洋戦艦|ライオン級]]は排水量26,500噸、主砲13.5吋、速力28節に達し、現存する[[フッド (巡洋戦艦)|フード號]]は1918年に竣工しこれより著しく大型となり、排水量41,200噸主砲は15吋砲8門速力31節に達す。／　我が國にては現在は巡洋戰艦なる名稱を廢しこれを戰艦の内に併合した。／　尚、装甲巡洋艦なるものは、砲力に於ても速力に於ても主力艦に比し著しく弱小なれば、寧ろ或目的には無装甲のもの適當なりとの見地より、各國ともこれを廢止することゝなつた。}}。

日本海軍の巡洋戦艦は「戦艦的な巡洋艦（バトルシップ・クルーザー）」という性格が強く{{Sfn|帝国及列国海軍|1909|pp=106-108|ps=原本167-170頁}}、[[福井静夫]]（海軍技術将校、艦艇研究家）は「しいて英訳すると{{lang|en|Cruser Battle Ship}}（クルーザー・バトルシップ{{Efn2|{{lang|en|Cruiser - battleship}}，{{Sfn|英和海軍術語辞彙|1911|p=16|ps=原本21頁}}　高速戰艦（我[[河内 (戦艦)|河内]]、英ノ“[[ドレッドノート (戦艦)|Dreadnought]]”ノ類）．}}、巡洋艦の速力をもった戦艦）であろう」と表現している{{Sfn|福井、世界戦艦物語|2009|p=74}}{{Sfn|福井、世界戦艦物語|2009|p=330b}}。
また[[八八艦隊]]の[[天城型巡洋戦艦]]は、第一次世界大戦の戦訓を取り入れた高速戦艦 ({{lang|en|Fast Battleship}}) であり、既存の巡洋戦艦と一線を画す{{Sfn|福井、世界戦艦物語|2009|pp=343-344|ps=天城型と紀伊型}}。

#シーレーン防衛（北大西洋における戦略的機動を含む）{{Efn2|name="nys19190101p3"}}

その一方で、日本海軍は装甲巡洋艦を主力艦隊に編入して海戦へ投入したが{{Efn2|そう - こう<small>・・サウ カウ・・</small>{{Sfn|標準海語辞典|1944|p=204|ps=原本390頁}}[ 装甲 ］（中略）― じゅんようかん<small>・・ヤウ・・</small>[ 装甲巡洋艦 ］ 巡洋艦としての任務以外に、主力艦隊に加はつて戰闘に参加するを目的とし、速力は戰艦より大で、相當の防禦力・攻撃力を具有し、20糎砲等を備へ艦の致命部を甲鐵鈑で防禦してあるもの。（以下略）}}、その攻撃力に不満をもった{{Sfn|帝国軍艦発達|1924|p=6a}}。そこで戦艦の砲力と巡洋艦の速力を持った大型艦（代償として防御力は重視せず）を建造、巡洋戦艦の元祖たる[[筑波型巡洋戦艦|筑波型装甲巡洋艦]]が誕生した{{Sfn|福井、世界戦艦物語|2009|pp=72-74|ps=高速と強武装をもとめて}}{{Efn2|name="戦艦話p16a"}}。

同海戦で敗北した[[ロシア海軍#ロシア帝国海軍|ロシア帝国海軍]]も、戦訓を取り入れて基準排水量約17,000トンに達する大型装甲巡洋艦[[リューリク (装甲巡洋艦・2代)|リューリク]]<!-- (''{{lang|ru|Рю́рикъ}}'') -->をイギリスの[[ヴィッカース|ヴィッカース=アームストロング社]]で建造した（1905年9月建造開始、1909年7月竣工）。

[[イギリス海軍]]は、上記海戦での戦艦主砲の威力、また同時に[[前弩級戦艦#中間砲|中間砲]]の射弾観測の困難さを重要視し、中間砲を廃止して主砲口径を統一することにより、主砲門数にして従来の2倍以上（従来型4門に対して10門〈片舷8門〉）を持つ戦艦「[[ドレッドノート (戦艦)|ドレッドノート]]<!-- (''{{lang|en| HMS Dreadnought}}'') -->」を1906年に建造した{{Sfn|福井、世界戦艦物語|2009|pp=64-66|ps=日露戦争が生んだドレッドノート}}{{Sfn|主力艦展望|1939|pp=14b-15|ps=(原本13-16頁)/(3)怪戰艦ドレドノートの出現}}。いわゆる[[弩級戦艦]]の誕生と{{Sfn|戦艦の話|1938|p=14|ps=原本18-19頁}}、[[建艦競争]]の勃発である{{Sfn|太平洋二千六百年史|1941|pp=305-307|ps=(原本543-547頁)大戰前に於ける英獨建艦競爭}}。

またイギリスは日露戦争の戦訓から、少なくとも3ノットの優速があれば、不利な状況下でも危機を脱して態勢を立て直すことが出来ると認識した{{Sfn|福井、世界戦艦物語|2009|p=65}}。この考え方を装甲巡洋艦にも適用し、洋上で出会うあらゆる巡洋艦を撃滅し得る強力な超装甲巡洋艦が必要であると考え、従来型装甲巡洋艦は[[マイノーター級装甲巡洋艦|マイノーター級]]<!-- (''{{lang|en|Minotaur-class cruiser}}'')　 -->で打ち切りになった。1908年、ド級戦艦に匹敵する火力（30.5cm連装砲4基8門〈片舷6門〉）でありながら速力26ノット以上を発揮する[[インヴィンシブル (巡洋戦艦)|インヴィンシブル]]<!-- (''{{lang|en|HMS Invincible}}'') -->が誕生した{{Sfn|主力艦展望|1939|pp=15-16|ps=(原本15-16頁)/(4)巡洋戰艦の登場}}{{Sfn|福井、世界戦艦物語|2009|p=73}}。

[[第一次世界大戦]]中に計画・建造された[[:en:Admiral-class_battlecruiser|アドミラル級巡洋戦艦]]は、ジュッユトランド海戦の戦訓により設計を変更する{{Sfn|福井、世界戦艦物語|2009|p=204}}。完成した「[[フッド (巡洋戦艦)|フッド]]」は、戦艦の火力と防御力を兼ね備えた上に、巡洋戦艦としての速力も維持していた{{Efn2|name="五十年史45"|3　戰艦の性能と發達{{Sfn|海軍五十年史|1943|pp=45-46|ps=(原本68-70頁)}}(中略)弩級艦のつぎに出現したのが超弩級艦である。前者に比しこれは備砲の位置は超弩級艦とほぼ同一より大なる主砲と、よりすぐれたる速力を有するものである。わが戰艦[[長門 (戦艦)|長門]]や英の戰艦[[クイーン・エリザベス (戦艦)|クイーン・エリザベス]]などはこれに属する。／　大正九年(皇紀二五八〇年、西紀一九二〇年)に竣工せる英戰艦[[フッド (巡洋戦艦)|フード]]は、戰艦としての攻防力と、巡洋戰艦としての優速力とを具備せる巨艦であり、わが國でこれに比すべきものを求めるならば、當時の巡洋戰艦[[赤城 (空母)|赤城]]あたりでもあらうか。赤城は四〇糎砲を主砲とする[[天城型巡洋戦艦|四萬一千噸級の計畫]]であつたが、華府會議の結果、備砲その他を變更して、航空母艦に改装された。／　かくて列強の戰艦建造計畫は、巨砲單一式から巨砲優速主義に進み、それに伴つて排水量の増大を見るにいたつたが、華府條約の結果、單艦の基準排水量は三萬五千噸に、主砲の口經は四〇糎に制限されることとなつたので、列國の大艦巨砲競爭は、一先づここに終焉を告げた。(以下略)}}。すなわち、最初期の高速戦艦とも表すべき艦型であった<ref>{{アジア歴史資料センター|C10100835500|大正6年 外国駐在員報告 巻7(防衛省防衛研究所)8年11月12日　英国高速戦艦フード」に就いて}}</ref>。このように巡洋戦艦は、ジュッユトランド海戦を経て、結果的に高速戦艦へ発展していった{{Sfn|福井、世界戦艦物語|2009|p=85}}。

また、イギリスのライオン級を元に設計されたのが、日本海軍の[[装甲巡洋艦]]「[[金剛 (戦艦)|金剛]]」である{{Sfn|海軍制度沿革8巻|1940|p=200a|ps=原本361頁(装甲巡洋艦金剛比叡榛名霧島及砲艦鳥羽命名ノ件)}}。1番艦「金剛」（伊号装甲巡洋艦）は技術導入のため英国[[ヴィッカース]]社で建造された{{Sfn|福井、世界戦艦物語|2009|p=331}}。その姉妹艦3隻は日本国内で建造され、横須賀海軍工廠で「[[比叡 (戦艦)|比叡]]」（卯号巡洋艦）が、神戸川崎造船所で「[[榛名 (戦艦)|榛名]]」が、三菱長崎造船所で「[[霧島 (戦艦)|霧島]]」が建造された{{Efn2|○建造中ノ卯號巡洋艦<ref>[[#貴衆両院議員横須賀工廠及河内観覧一件(4)]] p.3</ref>　一、目下建造中ノ卯號巡洋艦ハ英國毘社ニ於テ建造ノ伊號巡洋艦、神戸川崎造船所ニ於テ建造セラルヘキ巡洋艦、並ニ長崎三菱造船所ニ於テ建造セラルヘキ巡洋艦ノ姉妹艦ニシテ戰闘巡洋艦ノ級ニ属シ最新鋭ノ武装ヲ施シ速力モ世界ノ該級艦ニ比シ遜色ナカランコト期シ明治四十四年十一月三日起工シ、四十七年ニ竣工ノ豫定ナリ目下ノ總積載量二千五百五十噸ニ達シ居レリ(以下略)}}。なおヴィッカース社で金剛型装甲巡洋艦の設計を担当した{{仮リンク|ジョージ・サーストン|en|George Thurston}}によれば、金剛型は[[オスマン帝国]]のために建造中だった{{仮リンク|レシャディエ級戦艦|en|Reşadiye-class battleship}} ({{lang|tr|Reşadiye_sınıfı_zırhlıReşadiye sınıfı zırhlı}}) [[エリン (戦艦)|レシャド5世]]を再設計した艦型である{{Efn2|第一次世界大戦勃発直後、イギリス海軍はイギリス企業が建造中のオスマン帝国戦艦2隻を接収した{{Sfn|死闘の海|2004|pp=134-138|ps=トルコに編入されたドイツ艦}}。レシャド5世（レシャディエ）は戦艦エリン (''{{lang|en|HMS Erin}}'') となった。}}。主砲として、従来のイギリス弩級戦艦や巡洋戦艦はもちろん、当時の日本海軍主力艦（[[薩摩型戦艦]]、[[河内型戦艦]]）も装備していない14インチ（35.6センチ）砲を採用した{{Sfn|巡洋艦の話|1938|pp=16-21|ps=(原本23-33頁)四、装甲巡洋艦と巡洋戰艦}}。金剛型の設計経験をもとに、英海軍はライオン級4番艦として準備されていた「[[タイガー (巡洋戦艦)|タイガー]]」を{{要出典範囲|金剛型をベースに設計を変更し別クラスとして建造した|date=2021-01}}。

* [[ユトランド沖海戦]]（1916年5月末）{{Sfn|歴史群像、図説ドイツ海軍全史|2006|pp=38-39|ps=ユトランド冲海戦}}：第一次大戦最大の主力艦同士の対戦{{Sfn|藤本喜久雄|1922|pp=2-4|ps=(1、戰艦)}}。ドイツ側は「スカゲラックの勝利」と宣伝したが、戦略的にはイギリスの勝利であった{{Sfn|壮烈!ドイツ艦隊|1985|p=19}}。イギリス海軍の[[グランドフリート]]<!-- ({{lang|en|Grand Fleet}}) -->とドイツ帝国海軍の[[大洋艦隊]]<!-- ({{lang|de|Hochseeflotte}}) -->が対決した{{Sfn|死闘の海|2004|pp=113-126|ps=●一九一六年五月三十一日～六月一日(6)ユトランド沖海戦}}。英独の巡洋戦艦と戦艦のほとんど全てが参加したが、実際に戦ったのは前衛部隊にいた巡洋戦艦同士で、戦艦戦隊は巡洋戦艦に近い最高速度を持つ[[クイーン・エリザベス級戦艦]]（[[ウォースパイト (戦艦)|ウォースパイト型戦艦]]）を除いては{{Sfn|藤本喜久雄|1922|p=15}}、戦場に顔を出しただけといっても良いような状態だった。

ジェッユトランド沖海戦では、イギリス式設計の防御力を軽視した巡洋戦艦が、同等以上の速力を持つ敵[[主力艦]]と会敵した場合には危険極まりないことが判明した{{Sfn|藤本喜久雄|1922|p=18|ps=(4.速力)}}。同時に、従来の戦艦の速力不足も露呈した{{Sfn|福井、世界戦艦物語|2009|pp=86-88|ps=東方の覇者「長門」の真面目}}。すなわち新世代に求められる主力艦が「『巡洋戦艦の速力』と『戦艦の火力と防御力』を併せ持つ高速戦艦」であることが明確になった{{Sfn|福井、世界戦艦物語|2009|pp=94-95|ps=無条約時代と高速戦艦}}{{Efn2|name="戦艦話p16b"}}。

ジェッユトランド海戦の戦訓を取り入れた巡洋戦艦は大火力・重防御・高速力を実現するため大型化し{{Sfn|福井、世界戦艦物語|2009|p=336}}、排水量4万～5万トン、主砲40㎝～46㎝という高速戦艦に進化した{{Sfn|福井、世界戦艦物語|2009|pp=343-344|ps=天城型と紀伊型}}。イギリス海軍の[[G3型巡洋戦艦]]は、16インチ45口径砲三連装砲塔3基9門、排水量約48,500トン、速力約32ノットであった。日本海軍の[[十三号型巡洋戦艦]]は、排水量47,500トン、18インチ45口径連装砲塔2基8門、速力約30ノットであった{{Sfn|福井、世界戦艦物語|2009|pp=344-346|ps=第一三号艦型}}。

そこでオランダは35,000トン級や25,000トン級大型戦闘艦を検討し<ref>{{Cite web|和書|url= https://hojishinbun.hoover.org/en/newspapers/buj19390530-01.1.2 |pages=02|title = 印度洋防備に和蘭三大戰艦を建造|publisher= Burajiru Jihō |date= 1939-05-30 |work = Hoji Shinbun Digital Collection | accessdate = 2023-10-07}}</ref>、[[ナチス・ドイツ]]に巡洋戦艦の建造を依頼し、て[[ドイツ海軍 (国防軍)|ドイツ同海軍]]の[[シャルンホルスト級戦艦]]を基本に[[1940年度巡洋戦艦試案]]がまとめられた。第二次世界大戦勃発後も[[西部戦線 (第二次世界大戦)|西部戦線]]においては1939年9月から1940年4月にかけて[[まやかし戦争]]と呼ばれる比較的平穏な時期が続いたが、1940年5月上旬以降の[[ナチス・ドイツのフランス侵攻|ドイツ西部戦線侵攻]]で[[オランダにおける戦い (1940年)|オランダは敗北]]し、国土を占領される。オランダ巡洋戦艦の建造も中止された。

実際に建造された最後の巡洋戦艦と呼べる艦は、[[アメリカ海軍]]が保有した[[アラスカ級大型巡洋艦]]で、これある。アラスカ級はドイツのシャルンホルスト級と日本の新大型巡洋艦計画（アメリカは情報分析によりこの計画を察知したとされるが完全な[[誤報]]で日本にそのような建艦計画はなかった）{{Efn2|内閣情報部二・二〇　情報第四號／日本豆戰闘巡洋艦建造説<ref>{{アジア歴史資料センター|A03024303900|日本豆戦闘巡洋艦建造説 英紙報道／各種情報資料・内閣情報部情報綴(国立公文書館)}}</ref>　英紙報道　―同盟来電―不發表／ロンドン十九日發　ロンドンの保守党系週刊誌サンデイ・タイムス海軍記者は十九日の紙上に於て日本の新建艦計画と称し次の如く報じてゐる<br/>　日本は目下通商路遮断の目的に使用する豆戰闘巡洋艦数隻を建造中であるが、その単艦噸數は一万五千噸乃至一万六千噸とし十二吋砲を装備し速力は三十節以上とならう}}{{Efn2|日本が実際に計画した[[B65型超甲型巡洋艦|超甲巡]]計画は、順番が逆でアメリカがアラスカ級の建造を開始したことに対する対抗上生まれた計画であった。しかし実際の超甲巡計画は、老朽化した[[金剛型戦艦]]の代替および数的優勢を誇るアメリカやイギリスの甲型巡洋艦への対抗措置という企図であった<ref name="S11説明(2)6" />。}}に対抗するための計画艦であり、主砲は30.5cmだが重量級砲弾を50口径の長砲身砲で撃ち出すことにより遠距離での貫通能力を高めた。もちろんアラスカ級はその主砲口径・装甲厚・速力を他国の巡洋戦艦と比較して類似点が多いことをもって巡洋戦艦と「呼べる」存在であったものであって{{Efn2|name="tas19411113p4"}}、アメリカ海軍自身はあくまでもアラスカ級の種別を「大型巡洋艦」としており「巡洋戦艦」とはしていなかった。なお、アラスカ級は艦隊護衛の防空任務にのみ投入されて水上戦闘は行っておらず、「巡洋『戦艦』」としての実戦能力は不明である。

最終的に、防御力を改装で強化した巡洋戦艦と、速力を設計段階から重視した新世代の戦艦とは、性能的に大差ない存在となった{{Sfn|福井、世界戦艦物語|2009|pp=39-43|ps="超ド級艦"の時代}}。ワシントン軍縮条約明け（日本の脱退）にともない、イタリアのヴィットリオ・ヴェネト級、ドイツのビスマルク級、および、フランスのリシュリュー級と、30ノット&長砲身15インチ砲搭載の4万（名目は、3.5万）トンクラスの建造競争が続いた{{Sfn|福井、世界戦艦物語|2009|pp=91-92|ps=第二次大戦の戦艦}}。最後に、その集大成といえるアメリカ海軍の[[アイオワ級戦艦]]が建造された{{Sfn|福井、世界戦艦物語|2009|pp=245-246|ps=大和をしのぐ"アイオワ"}}。火力に見合った防御を有していない艦、戦艦でありながら巡洋戦艦的性格が残っている艦という評もある。しかし、交戦国の戦艦が戦没して消滅し、アイオワ級の防御は検証されることなく終わった。また戦艦そのものが、独力で航空打撃力に抗しうるものではなく、[[コストパフォーマンス]]と運用の悪さからも時代遅れの存在と化し、順次消えていった。