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[[File:Naruto-togane_kinbou1.jpg|200px|thumb|成東・東金食虫植物群落近傍。]]
'''成東・東金食虫植物群落'''（なるとうとうがねしょくちゅうしょくぶつぐんらく、[[英語]]表記：Naruto / Togane Area Carnivorous Plant Field<ref name="Eigo-guideline">{{Cite web|和書 |url=https://www.pref.chiba.lg.jp/kankou/tagengoannaiban/documents/bessatsu.pdf|title=千葉県多言語観光案内板の表記等に関するガイドライン 参考資料集 別冊|format=pdf|publisher=千葉県商工労働部観光企画課|date=2015-03|access-date=2024-02-06}}</ref>）は、[[千葉県]][[山武市]]島から同県[[東金市]]上武射田にまたがる国の[[天然記念物]]に指定された湿原である<ref name="database">{{国指定文化財等データベース|401|631|成東・東金食虫植物群落}}</ref><ref name="ChibaPref">{{Cite web|和書 |url=https://www.pref.chiba.lg.jp/kyouiku/bunkazai/bunkazai/n431-002.html|title=成東・東金食虫植物群落／千葉県|publisher=千葉県|date=2020-08-26|access-date=2024-01-31}}</ref><ref name="SammuCity">{{Cite web|和書 |url=https://www.city.sammu.lg.jp/page/page001465.html|title=成東・東金食虫植物群落|publisher=山武市|access-date=2024-01-31}}</ref><ref name="Mamorukai">{{Cite web|和書 |url=https://plants.sammu.info/|title=成東・東金食虫植物群落|publisher=成東・東金食虫植物群落を守る会|access-date=2024-01-31}}</ref><ref name="ToganeCity">{{Cite web|和書 |url=https://www.city.togane.chiba.jp/0000000437.html|title=成東・東金食虫植物群落|publisher=東金市|date=2021-12-14|access-date=2024-01-31}}</ref>{{Sfn|千葉県教育委員会|1990|p=532}}{{Sfn|千葉県史料研究財団|1996|pp=634 - 635}}{{Sfn|千葉県教育庁|2004|p=229}}。
湿原内の群落には[[モウセンゴケ]]や[[ミミカキグサ]]などの[[食虫植物]]を中心として、多種多様の植物が自生している。1920年（大正9年）7月に、前年の1919年（大正8年）に制定された[[史蹟名勝天然紀念物保存法]]に基づいて、[[太東海浜植物群落]]（現千葉県[[いすみ市]]）などを始めとする9件と共に、日本最初の国の天然記念物に指定された。指定基準は「珍奇又は絶滅に瀕した植物の自生地」および「代表的な原野植物群落」として{{R|database}}<ref name="Mamorukai-gunraku">{{Cite web|和書 |url=https://plants.sammu.info/gunraku|title=成東・東金食虫植物群落とは|publisher=成東・東金食虫植物群落を守る会|access-date=2024-01-31}}</ref>{{Sfn|百年記念誌|2021|p=24}}。
== 歴史・沿革 ==
=== 天然記念物への指定 ===
同群落に関しては、1904年（明治37年）時点で、植物学雑誌第202号収録の「上總成東附近の植物」の中で言及がある。著者の[[田口勝]]はその中で
{{Quote|……成東駅に下りて行くこと数十丁なれば成東中学分校の下に……コモウセングサ、ナガバノイシモチソウ、ヒナノカンザシ、……サギソウ等一面に茂生し……是より道を南方に取りて進むこと七八丁なれば武射田の原に到るべし植物は殆ど前者と同一なれど……前に見ざりしモウセングサ、イシモチソウ、ハルリンドウ等を加え、四辺の水田にはタヌキモ、サンカンイ、ミクリ、…… {{Efn2|原文を新字・現代仮名遣いに改めた。}}}}
と述べており{{Sfn|田口|1904|pp=206-207}}、食虫植物を含む植物の種類の多さについて記している{{Sfn|百年記念誌|2021|pp=25-27}}。
[[File:Miyoshi Manabu 02.jpg|thumb|170px|現地調査をたびたび実施した植物学者[[三好学]]。]]
その後植物学者の[[三好学]]などによる現地調査を経て{{Sfn|百年記念誌|2021|pp=25-27}}、1920年7月17日に、「成東町肉食植物産地」という名称{{R|SammuCity}}<ref name="Nippo2023">{{Cite web|和書 |url=https://www.chibanippo.co.jp/news/local/1126798|title=貴重な「平野の原風景」 保護活動実り、植物４５０種以上 成東・東金食虫植物群落 【ふさの国探宝】|publisher=千葉日報|date=2023-11-06|access-date=2024-01-31}}</ref>で、日本最初の国の[[天然記念物]]の内の一つに指定された{{R|ChibaPref}}{{Sfn|千葉県教育庁|2004|p=229}}{{Sfn|百年記念誌|2021|loc=はじめに}}。指定時の面積は3万8743平方メートル{{Sfn|百年記念誌|2021|pp=25-27}}。この指定は当初、盗掘など、心無い者に指定地を荒らされることを恐れて[[告示]]を行わないという変則的な形式で行われたが{{Sfn|百年記念誌|2021|pp=25-27}}、群落の存在が知れ渡り、不法採集などが相次ぐようになると、天然記念物としての意義を明らかにするためとして、1932年（昭和7年）に官報に告示が為され、保護管理の措置も執られるようになった{{R|ChibaPref}}{{Sfn|千葉県史料研究財団|2001|pp=375-383}}{{Sfn|千葉県教育庁|2004|p=229}}。また、指定の前の1919年11月4日付で内務省の官僚により作成された復命書には、指定予定地は、所在する2町村（[[成東町]]・現[[山武市]]と[[豊城村]]・現[[東金市]]）の間で利害関係地となっており、住民への啓発が却って指定への反発をもたらす恐れがあるため考慮が必要だと記されていた{{Sfn|千葉県史料研究財団|2001|pp=375-383}}。
1928年（昭和3年）に三好学により行われた調査報告では、6種類の食虫植物が認められた{{Sfn|三好|1928}}。また、同様に[[内務省]]の嘱託を受けて調査をした園芸学者の[[石井勇義]]は、7種の食虫植物の他、[[ウメバチソウ]]、[[トキソウ]]などの生育も認めている{{Sfn|百年記念誌|2021|pp=25-27}}。
一方、1926年（大正15年／昭和元年）に群落を訪れた[[牧野富太郎]]は、天然記念物に指定される前までは現地の人々が肥料に供するためとして草取りを行い、食虫植物の群落が保存されてきていたが、指定後群落を柵で囲むなどして群落に触れさせないことにより、大型植物が繁って、却って食虫植物が数年のうちに滅尽してしまうとしてこれを警告し、管理方法の見直しを提唱した{{Sfn|牧野|1926|pp=123 - 124}}{{Sfn|百年記念誌|2021|pp=25-27}}。
=== 縮小と保護活動 ===
{| class="wikitable floatright" style="font-size:small;"
|+ 天然記念物指定面積の変遷{{Sfn|百年記念誌|2021|pp=25-27}}
! 日付 !! 変更 !! 面積（m<sup>2</sup>）
|-
| 1920年7月17日
| 天然記念物指定 || 38743
|-
| 1932年5月18日
| 一部指定解除 || 30353
|-
| 1956年6月29日
| 一部指定解除 || 15097
|-
| 1982年12月7日
| 追加指定 || 16494
|-
| 1986年1月9日
| 追加指定 || 17191
|-
| 2006年1月26日
| 追加指定 || 31891
|}
1932年（昭和7年）5月18日に群落の一部の天然記念物指定が解除され、指定面積は3万353平方メートルに縮小した。それに際して三好学が行った調査・記録では、作田川の改修による乾燥化の結果、食虫植物が多く数を減らしたことが示唆されている{{Sfn|百年記念誌|2021|pp=25-27}}。[[第二次大戦]]後の1956年（昭和31年）6月29日には、更に一部の指定が解除され、群落の面積はこれまでの半分ほどの1万5097平方メートルほどに縮小した。後の報告で、指定地域内の耕地化による群落の喪失が示唆されている{{Sfn|沼田|1970}}{{Sfn|百年記念誌|2021|pp=27-28}}。
一方、保護へ向けた動きも見られるようになった。第二次大戦後に復員した現地の青年らを含む若者たちにより結成された農業連合「愛土会」は、1950年代以降、町役場と協力して、野焼き、草刈り、柵の設置などの群落の保全活動に参加するようになった{{Sfn|百年記念誌|2021|pp=27-28}}。
そして1970年（昭和45年）に、同群落に対する第1期「保護増殖事業」が開始され、1976年（昭和51年）まで行われた。第1期保護増殖事業のきっかけに一つとなったのは地元の高校生による[[朝日新聞]]への投書であった{{Sfn|百年記念誌|2021|p=28}}。初年の1970年8月13日{{Sfn|百年記念誌|2021|pp=43-44}}には、[[千葉大学]]の理学博士[[沼田眞]]と[[東京教育大学]]の[[市川正巳]]とにより学術調査が行われ、その中で、[[第二次大戦]]中に群落の中央に流路を掘削したり、一部を食糧増産のために耕地化したりしたこと、更に中央流路に下水が流入したことなどが要因となり、群落の生態系の維持に危機的な状況をもたらしたことも報告された{{Sfn|沼田|1970}}。翌年の1971年（昭和46年）からは本格的に群落の実態把握調査、大型植物の除去、群落内の表層土の除去、食虫植物の外部移植、播種試験が始まり、その中で1975年（昭和50年）にはコンクリート製の観察路の設置や、愛土会による[[ススキ]]株の除去が開始された{{Sfn|百年記念誌|2021|p=28}}。
1978年（昭和53年）12月21日に、天然記念物としての名称が現在の「成東・東金食虫植物群落」に変更された{{R|SammuCity}}{{Sfn|千葉県史料研究財団|2001|pp=375 - 383}}。
1985年（昭和60年）5月1日{{Sfn|百年記念誌|2021|pp=43-44}}からは、第2期「保護増殖（植生回復）事業」が、[[沼田眞]]を団長として、[[千葉市都市緑化植物園]]の[[小滝一夫]]、[[日本大学]]の[[河野栄一]]らによって開始された{{Sfn|百年記念誌|2021|pp=28-29}}。群落内の食虫植物の保護・増殖、植生回復などに関する調査が1987年度にかけてまで実施され、この結果を受けて1988年度から1990年度までにかけて、植物の生育環境の整備事業が営まれると同時に{{Sfn|千葉県史料研究財団|1996|pp=634 - 635}}、5年間植生の変動監視事業も小滝によって行われた{{Sfn|百年記念誌|2021|pp=28-29}}。一連の調査では水環境の改善に焦点が置かれ{{Sfn|千葉県史料研究財団|2001|pp=375-383}}、整備事業には、地下水位の管理のためのポンプ施設、排給水施設、灌漑施設の設置などが含まれた{{Sfn|千葉県史料研究財団|1996|pp=634 - 635}}。
また、同時期の1987年（昭和62年）7月{{Sfn|百年記念誌|2021|pp=43-44}}には、有志らにより、成東町教育委員会の協力の下、群落内を案内するボランティア団体が結成された。その後団体は1993年（平成5年）3月14日{{Sfn|百年記念誌|2021|pp=43-44}}に名称・規約を制定して、同町教育委員会の管理の下、植物の保護や管理の業務に関して必要な活動を行う「成東・東金食虫植物群落を守る会」に再編された<ref name="Mamorukai-about">{{Cite web|和書 |url=https://plants.sammu.info/mamorukai|title=守る会のご案内|publisher=成東・東金食虫植物群落を守る会|access-date=2024-01-31}}</ref>{{Sfn|百年記念誌|2021|pp=28-29}}。
2000年（平成12年）5月{{Sfn|百年記念誌|2021|pp=43-44}}には、第3期の事業となる「国指定天然記念物「成東・東金食虫植物群落保護増殖調査」」が開始され、2002年まで続けられた。この事業では、植物目録と分布の調査、[[イヌタヌキモ]]を含む貴重種の増殖試験などが試みられた{{Sfn|百年記念誌|2021|pp=29-32}}。
2006年（平成18年）1月26日、隣接する国有地1万4700平方メートルが再指定された{{Sfn|百年記念誌|2021|pp=9 - 10}}{{Sfn|百年記念誌|2021|pp=29 - 32}}。再指定された地区は、戦中から戦後にかけての食糧難時代に耕地化され、その後復元への努力が試みられてきた部分であった{{Sfn|百年記念誌|2021|pp=27 - 28}}。
=== 現在 ===
現在指定地は柵で防護柵や管理小屋が設置されており、中は敷かれている観察路を通って自由に見学することが出来る{{R|ToganeCity}}。2021年現在、群落を維持するための保護活動が、[[ヨシ]]、[[ススキ]]、[[ハンノキ]]、[[カモノハシ (植物)|カモノハシ]]、そして[[セイタカアワダチソウ]]を始めとする競争種の排除、[[湿性遷移]]の進行の抑制および栄養塩類の土壌からの除去を目的とした火入れ{{Sfn|千葉県史料研究財団|1996|pp=634 - 635}}{{Sfn|百年記念誌|2021|pp=20 - 22}}、表土の剥ぎ取り、河川水の汲み上げによる生育地の水位の維持などを主として、毎年継続されて行われている{{Sfn|百年記念誌|2021|pp=38 - 40}}。
== 特色 ==
[[File:Narutou tougane 1983-01.jpg|thumb|right|200px|[[1983年]]（[[昭和]]58年）に群落上空付近から撮影された[[航空写真]]。画面右に流れる川は[[作田川]]。水路を挟んで北区と南区に分けられている。{{国土航空写真}}。]]
{{Location map+|Japan Chiba Prefecture|relief=1|width=220|float=right|caption=成東・東金食虫植物群落の位置|places=
{{Location map~|Japan Chiba Prefecture|lat=35.592917|long=140.418917|position=top|label='''成東・東金食虫植物群落'''|mark=Red pog.svg}}
{{Location map~|Japan Chiba Prefecture|lat=35.607444|long=140.104010|position=left|label=<small>[[千葉市]]</small>|mark=Green pog.svg}}
}}
=== 地理・地質学的特徴 ===
同群落は、成東駅の南東約2キロメートル、[[九十九里平野]]の中央部を流れて太平洋に注ぐ[[作田川]]沿いに位置する{{R|SammuCity}}{{Sfn|千葉県教育委員会|1990|p=532}}{{Sfn|千葉県史料研究財団|1996|pp=634 - 635}}{{Sfn|千葉県教育庁|2004|p=229}}。2021年（令和3年）時点で指定面積は3万1891.13平方メートル{{R|ToganeCity}}（約3.2ヘクタール{{R|ChibaPref}}）。群落内は標高約4 - 5メートルの低地となっていて、土壌は砂質である{{Sfn|千葉県史料研究財団|1996|pp=634 - 635}}{{Sfn|百年記念誌|2021|pp=5 - 6}}。指定地の中央部には水路があり、これを挟んで北側の成東側の方が、南の東金側の方よりも土地が低く、地下水位は高く、湿潤な地域となっており、この特徴は群落内の植生分布などに影響している{{Sfn|千葉県史料研究財団|1996|pp=634 - 635}}。
群落が位置する[[九十九里平野]]は、海水が退いて形成された砂地の[[海岸平野]]であり、泥炭が少なくて栄養にも乏しく、鉱質土壌湿原に分類される。そのため、一般的な植物にとってまだ十分な肥料成分が土壌に含まれていない環境であり、この類の食虫植物の群落が形成されやすくなっている{{Sfn|百年記念誌|2021|pp=1 - 2}}{{Sfn|百年記念誌|2021|pp=3 - 4}}。加えて、人々が作田川の堤防の修復のため砂取場として利用する過程で、表面の栄養ある土を削ぎ剥がしたり、生えている草木の枝葉が、人の手により農地の肥料に供するために日常的に刈り取られて、大きな植物が生育を抑制されたりしたことも、食虫植物を始めとする丈の低い植物の分布の発達・維持に繋がったと考えられている{{Sfn|百年記念誌|2021|pp=1 - 2}}{{R|Mamorukai-gunraku}}。
春から秋の温暖な季節では、海陸の表面温度の差により、群落内には、日中は南側から海風が、夜間は北側から陸風が吹くようになっている。夏の日中においては、海風が気温上昇を抑制している傾向がある。また、群落内は水位が高く湿潤としている環境にあるため、太陽からの放射エネルギーが水の蒸発や植物の蒸散に使われたり、比熱の大きい水が地表面を温めることを抑制したりするなどして、群落内とその周辺の気温の日較差を小さく保つ役割を担っている{{Sfn|百年記念誌|2021|pp=5 - 6}}。
=== 植生 ===
群落内には、[[モウセンゴケ科]]の[[イシモチソウ]]、[[ナガバノイシモチソウ]]、[[コモウセンゴケ]]、[[モウセンゴケ]]、[[タヌキモ科]]の[[ミミカキグサ]]、[[ホザキノミミカキグサ]]、[[ムラサキミミカキグサ]]、[[イヌタヌキモ]]の計8種の食虫植物が現存・生育している{{R|ChibaPref}}{{Sfn|千葉県教育委員会|1990|p=532}}{{Sfn|千葉県史料研究財団|1996|pp=634 - 635}}。食虫植物以外では、[[トキソウ]]、[[シラン]]、[[ノハナショウブ]]、[[ミズキボウシ]]、[[サギソウ]]、[[ヒメハッカ]]などの植物が生育している他{{Sfn|千葉県史料研究財団|1996|pp=634 - 635}}、[[コケ植物]]の生育地としても貴重で、同群落の全体は2007年に日本蘚苔類学会によって「日本の貴重なコケの森」に認定されている<ref name="koke">{{Cite web|和書 |url=https://www.bryosoc.org/活動/日本の貴重なコケの森/コケの森01|title=日本の貴重なコケの森 No. 1|publisher=日本蘚苔類学会|access-date=2024-01-31}}</ref>。群落全体での植物種数は、[[環境省]]が作成したレッドデータリストに掲載されている貴重な32種を含み{{R|Mamorukai-gunraku}}、合計300{{R|ChibaPref}}～450種{{R|SammuCity}}{{R|Mamorukai}}を数える。
生育している食虫植物はいずれも[[陽性植物]]で、生育に十分な光を要し、他の植物によりできる日陰に弱い{{Sfn|千葉県史料研究財団|1996|pp=634 - 635}}。植物の観察には、夏の7月から8月ごろまでが概ね適している{{R|ChibaPref}}{{Sfn|千葉県教育委員会|1990|p=532}}{{Sfn|千葉県教育庁|2004|p=229}}。
[[File:Naruto-togane_d_spatulata001.jpg|170px|thumb|群生する[[コモウセンゴケ]]。]]
;[[モウセンゴケ科]]の食虫植物
:モウセンゴケ科の植物は、捕虫葉が[[傾性]]運動をすることで、虫を捕らえる。本群落に生育する4種はいずれも[[モウセンゴケ属]]に分類される。これらのなかまは葉に[[マッチ棒]]のような形をした[[腺毛]]を持ち、成熟した葉は常時先端から粘液を分泌しているが、そこに小動物が付着すると、さらに粘液を補充させると同時に、細胞の伸長と縮小により腺毛と葉を湾曲させ、獲物を包み込み、吸収するという仕組みになっている{{Sfn|近藤ら|2006|pp=202-206}}。
:*'''[[イシモチソウ]]'''（[[学名]]：{{Snamei|Drosera peltata}}）
::草丈は10～20センチメートルほど{{Sfn|山武市教育委員会|2011|p=11}}。環境省RDB<ref>[https://www.env.go.jp/nature/kisho/hozen/redlist/index.html レッドリスト・レッドデータブック｜自然環境・生物多様性｜環境省]を参照。</ref>準絶滅危惧（NT）、千葉県RDB<ref>[https://www.pref.chiba.lg.jp/shizen/seibutsu/kishoushu/rdb.html レッドデータブック・リスト／千葉県]を参照。</ref>最重要保護生物（A）指定{{Sfn|百年記念誌|2021|p=16}}。葉に生えている多数の腺毛から出る粘液で小さな虫を捕らえる。また、地下に球状の[[塊根]]を持つ{{Sfn|山武市教育委員会|2011|p=11}}。本群落においては、南側の乾燥した区域に見られる{{Sfn|千葉県史料研究財団|1996|pp=634 - 635}}。観察に最も適した時期は他よりも早く、5月から6月までにかけて{{R|ChibaPref}}{{Sfn|千葉県教育庁|2004|p=229}}。開花時間帯は午前中{{Sfn|山武市教育委員会|2011|p=11}}。
:*'''[[ナガバノイシモチソウ|シロバナナガバノイシモチソウ]]'''（学名：{{Snamei|Drosera indica}}）
::草丈は10～20センチメートルほど{{Sfn|山武市教育委員会|2011|p=12}}。環境省RDB絶滅危惧II類（VU）、千葉県RDB最重要保護生物（A）指定{{Sfn|百年記念誌|2021|p=16}}。7月から9月までの間に、直径1センチメートルほどの白い花を咲かせる。イシモチソウと同様に葉の腺毛から出る粘液で捕虫を行うが、葉の長さは同種の方が長い{{Sfn|山武市教育委員会|2011|p=12}}。地下水位が高い湿潤な場所でしか生息できないため、本群落では北側の区域に多く分布している{{Sfn|千葉県史料研究財団|1996|pp=634 - 635}}。
:*'''[[コモウセンゴケ]]'''（学名：{{Snamei|Drosera spatulata}}）
::草丈は10～15センチメートルほど{{Sfn|山武市教育委員会|2011|p=13}}。千葉県RDB要保護生物（C）指定{{Sfn|百年記念誌|2021|p=16}}。へら形の葉を持ち、そこから生えている紫紅色の腺毛から粘液を分泌して捕虫を行う。[[ロゼット]]状に根生しており、本群落においては、南側の乾燥した区域に見られる。夏の6月から9月までの時期に、大きさ8ミリメートルほどの淡紅色の花を咲かせる{{Sfn|千葉県史料研究財団|1996|pp=634 - 635}}{{Sfn|山武市教育委員会|2011|p=13}}。
:*'''[[モウセンゴケ]]'''（学名：{{Snamei|Drosera rotundifolia}}）
::草丈は5～20センチメートルほどで、コモウセンゴケより全体的に大きい{{Sfn|山武市教育委員会|2011|p=14}}。千葉県RDB要保護生物（C）指定{{Sfn|百年記念誌|2021|p=16}}。スプーン状の葉を持ち、そこから生えている腺毛から粘液を分泌して捕虫を行う。6月から7月までにかけての季節の日中昼頃までに、白い5弁の花を咲かせる{{Sfn|山武市教育委員会|2011|p=14}}。
;[[タヌキモ科]]の食虫植物
:タヌキモ科の植物のうち、[[タヌキモ属]]の食虫植物は、戸の付いた捕虫嚢に水圧で小動物を吸い込むことによって獲物を捕らえる。捕虫嚢の入り口にある弁の下部に付いている長い感覚毛に小動物が触れると、不意に弁が開き、獲物が水と共に嚢内に吸い込まれるという仕組みになっている{{Sfn|近藤ら|2006|p=210}}。
:*'''[[ミミカキグサ]]'''（学名：{{Snamei|Utricularia bifida}}）
::草丈は5～15センチメートルほど{{Sfn|山武市教育委員会|2011|p=17}}。千葉県RDB最重要保護生物（A）指定{{Sfn|百年記念誌|2021|p=17}}。細い地下茎を地表近くに巡らせ、小さな[[捕虫嚢]]を地中に持つ。地表には長さ数ミリメートルほどの葉を有し、7月から10月にかけて黄色の花を咲かせる{{Sfn|山武市教育委員会|2011|p=17}}。本種を始めとするミミカキグサの仲間は、ナガバノイシモチソウと同じく、地下水位が高い湿潤な場所でしか生息できないため、群落内では北側の区域に分布している{{Sfn|千葉県史料研究財団|1996|pp=634 - 635}}。
:*'''[[ホザキノミミカキグサ]]'''（学名：{{Snamei|Utricularia caerulea}}）
::草丈は5～20センチメートルほど{{Sfn|山武市教育委員会|2011|p=15}}。千葉県RDB重要保護生物（B）指定{{Sfn|百年記念誌|2021|p=17}}。ミミカキグサよりは乾燥に強い。淡紫色の花を、8月から10月までにかけて咲かせる{{Sfn|山武市教育委員会|2011|p=15}}。
:*'''[[ムラサキミミカキグサ]]'''（学名：{{Snamei|Utricularia uliginosa}}）
::草丈は5～20センチメートルほど{{Sfn|山武市教育委員会|2011|p=16}}。環境省RDB準絶滅危惧（NT）、千葉県RDB重要保護生物（B）指定{{Sfn|百年記念誌|2021|p=17}}。ミミカキグサのなかまの中では大きい3～5ミリメートルほどのへら形の葉を持つ。7月から9月までにかけて、淡紫色の5ミリメートルほどの大きさの花を咲かせる。群落内では標高の低い水たまりに見られ、個体数は非常に少ない。白花種の[[シロバナミミカキグサ]]も生息している{{Sfn|百年記念誌|2021|p=17}}{{Sfn|山武市教育委員会|2011|p=16}}。
:*'''[[イヌタヌキモ]]'''（学名：{{Snamei|Utricularia australis}}）
::復元種。水面下に浮遊して生育する{{Sfn|山武市教育委員会|2011|p=18}}。環境省RDB準絶滅危惧（NT）、千葉県RDB重要保護生物（B）指定{{Sfn|百年記念誌|2021|p=17}}。細かく分かれた葉の軸に2～5ミリメートルほどの捕虫嚢を有し、そこへ水中を泳ぐ[[ミジンコ]]などの小動物を吸い込んで捕らえる。7月から9月までの時期にかけて、水面上に黄色の大きさ約1.5センチメートルほどの花を咲かせる{{Sfn|山武市教育委員会|2011|p=18}}。
::かつて[[ノタヌキモ]]、[[ヒメタヌキモ]]などと共にこの群落に自生していたが、1958年（昭和33年）頃に一時絶滅となった{{Sfn|千葉県史料研究財団|1996|pp=634 - 635}}。千葉大学の[[大賀宣彦]]の調査報告によれば、絶滅の原因は周辺農地に撒かれた農薬や肥料である可能性が高いとされた{{Sfn|大賀|1977|p=12}}。その後、1980年代から90年代にかけて行われた保護事業で復元が試みられ、ついに2000年（平成12年）から2002年（平成14年）にかけて行われた保護増殖事業の間に、人工的に再生することに成功した{{R|SammuCity}}{{Sfn|百年記念誌|2021|pp=29-32}}。
;その他の維管束植物
:*'''[[クロタマガヤツリ]]'''（学名：{{Snamei|Fuirena ciliaris}}）
::[[カヤツリグサ科]]の一年生植物。千葉県RDB絶滅・消息不明生物（X）指定{{Sfn|百年記念誌|2021|p=13}}。1950年代以降千葉県内で観察の記録は無かったが、再指定地区で2016年9月に行われた蒔きだし実験にて4株が確認され、翌年の2017年には161株が確認された。その後はまた減少傾向にある{{Sfn|百年記念誌|2021|p=35-37}}。
;[[コケ類]]
:同群落内においては、2000年から2003年（平成15年）にかけて行われた調査により、[[セン類]]26種、[[タイ類]]10種、[[ツノゴケ類]]2種、併せて38種のコケ植物の生育が報告されている{{Sfn|古木ほか|2003}}。特筆すべき主な種を以下に記す。
:*'''[[オオカギイトゴケ]]'''（学名：{{Snamei|Gollania splendens}}）
::[[ハイゴケ科]]。環境省RDB絶滅危惧I類（CR+EN）指定。卵形で、葉先が尖ってカギ状に曲がった葉を持っている。1935年以降長らく本群落固有種とされてきたが、2019年に茨城県[[稲敷市]]妙岐ノ鼻で生育が確認された{{Sfn|山武市教育委員会|2011|p=46}}{{Sfn|鵜沢ら|2019|pp=14-16}}。
:*'''[[モグリゴケ]]'''（学名：{{Snamei|Lethocolea naruto-toganensis}}）
::[[チチブイチョウゴケ科]]。環境省RDB絶滅危惧I類（CR+EN）指定。ハート形で、長さ約1～1.5ミリメートルほどの非常に小さい葉を持っている。'''本群落固有種'''であり、群落南側の砂地に埋もれるようなかたちで生えている{{Sfn|山武市教育委員会|2011|p=46}}{{Sfn|百年記念誌|2021|p=19}}。
2016年（平成28年）以降、群落周辺部において[[ノヂシャ]]、[[ユウゲショウ]]、[[ノハラムラサキ]]、[[アレチヌスビトハギ]]などの[[帰化植物]]が認められている{{Sfn|百年記念誌|2021|pp=9 - 10}}。
=== 動物など ===
群落内で行われた動物関連の本格的な調査は、近年では1985年（昭和60年）夏の伊藤敏仁による湿原の昆虫相の調査のみで、これ以降は2021年（令和3年）現在行われていない。この調査はスィーピング法による採集で行われ、57科125種が記録された{{Sfn|百年記念誌|2021|pp=20-23}}。
春には[[ヒバリ]]が飛んでいるところを見られる。初夏には草地に[[セッカ]]、[[ヨシ]]原に[[オオヨシキリ]]が繁殖しているところをそれぞれ観察できる他、[[サギ]]の仲間も見ることが出来る{{Sfn|千葉県史料研究財団|1996|pp=634 - 635}}。「成東・東金植物群落を守る会」によれば、意識的に記録を開始した2013年（平成25年）頃から2019年（平成31年）1月までに観察された鳥類は、28科59種までに及ぶという{{Sfn|守る会|2021|p=2}}。
2021年に発行された指定百年記念誌の中で、守る会の川邉侃と岩瀬政広は保護管理事業の中で2000年以降に記録された動物の写真をまとめ、157科355種の動物を認めた。内訳は、[[哺乳類]]7種、[[鳥類]]64種、[[爬虫類]]9種、[[両生類]]4種、[[魚類]]14種、[[貝類]]7種、[[昆虫類]]231種、[[クモ類]]19種である{{Sfn|百年記念誌|2021|pp=20-23}}。
== 交通アクセス ==
;所在地
*[[千葉県]][[山武市]]島、同県[[東金市]]上武射田{{R|ChibaPref}}{{R|SammuCity}}1874-5他{{R|ToganeCity}}
;交通
*[[首都圏中央連絡自動車道]][[山武成東インターチェンジ]]から15分{{R|SammuCity}}
*JR東日本[[総武本線]][[成東駅]]から徒歩30分{{Sfn|千葉県史料研究財団|1996|pp=634 - 635}}
== ギャラリー ==
<gallery widths="140" heights="100">
File:Gentiana thunbergii.jpg|[[ハルリンドウ]]（4月 - 5月）
File:Droseraceae peltata.jpg|ハエを捕らえた[[イシモチソウ]]
File:Drosera pelata flower.jpg|[[イシモチソウ]]の花（5月）
File:Drosera indica narutou.jpg|[[ナガバノイシモチソウ]]
File:Lilium leichtlinii AP.jpg|コオニユリ（7月 - 9月）
File:Sanguisorba officinalis flower.jpg|[[ワレモコウ]]（8月 - 10月）
File:Gentiana scabra buergeri stenophylla.jpg|[[リンドウ|ホソバリンドウ]]（10月 - 11月）
File:Allium thunbergii.jpg|[[ヤマラッキョウ]]（9月 - 11月）
File:Euphorbia lasiocaula.jpg|紅葉したタカトウダイ
</gallery>
== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
=== 注釈 ===
{{Reflist|group=注}}
=== 出典 ===
{{Reflist|2}}
== 参考文献 ==
*{{Cite journal |和書 |author= 田口勝 |title=上總成東附近の植物|journal=植物学雑誌|issue=202|year=1904|ref={{SfnRef|田口|1904}}}}
*{{Cite journal |和書 |author= 牧野富太郎|title=下總無射田ノ食蟲草數年ヲ出ズシテ滅盡セン乎|journal=植物研究雑誌|volume=3|issue=6|year=1926|ref={{SfnRef|牧野|1926}}}}
*{{Cite journal |和書 |author= 三好学|title=成東町肉食植物産地報告書|journal=天然記念物調査報告|publusher=内務省|year=1928|ref={{SfnRef|三好|1928}}}}
*{{Cite journal|和書 |author=沼田眞|title=成東町肉食植物群落についての所見|journal=成東町肉食植物産地保護のための調査報告|publisher=千葉県教育委員会|year=1970|ref={{SfnRef|沼田|1970}}}}
*{{Cite journal |和書 |author= 大賀宣彦 |title=成東町肉食植物産地の現状 ―とくに食虫植物について― |journal= 天然記念物成東町肉食植物産地における食虫植物保護増殖事業報告書|issue=Ⅶ|year=1977|ref={{SfnRef|大賀|1977}}}}
*{{Cite book |和書 |editor= 千葉県教育委員会|title= 千葉県の文化財|publisher= 千葉県教育委員会|year= 1990|ref={{SfnRef|千葉県教育委員会|1990}}}}
*{{Cite book |和書 |editor= 財団法人 千葉県史料研究財団|title= 千葉県の自然誌 本編1 千葉県の自然|publisher= 千葉県|series= 県史シリーズ40|year= 1996|ref={{SfnRef|千葉県史料研究財団|1996}}}}
*{{Cite book |和書 |editor= 財団法人 千葉県史料研究財団|title= 千葉県の自然誌 本編5 千葉県の植物2|publisher= 千葉県|series= 県史シリーズ44|year= 2001|ref={{SfnRef|千葉県史料研究財団|2001}}}}
*{{Cite journal |和書 |author=古木達郎|author2=能勢正代|author3=川邉侃|author4=土屋みきお|year=2003|editor=中村俊彦|title=国指定天然記念物「成東・東金食虫植物群落」保護増殖調査 (2000 - 2003) 報告書|pages=55-69|publisher=成東町・東金市教育委員会|ref={{SfnRef|古木ほか|2003}}}}
*{{Cite book |和書 |editor= 千葉県教育庁|title= ふさの国の文化財総覧 第三巻|publisher= 千葉県教育庁|year= 2004|ref={{SfnRef|千葉県教育庁|2004}}}}
*{{Cite book |和書 |author=近藤勝彦|author2=近藤誠宏|title=カラー版 食虫植物図鑑|publisher=家の光協会|date=2006-07-01|isbn=4259561553|ref={{SfnRef|近藤ら|2006}}}}
*{{Cite book |和書 |editor= 中村俊彦|title= 「成東・東金食虫植物群落」ガイド|publisher= 山武市教育委員会|year= 2011|ref={{SfnRef|山武市教育委員会|2011}}}}
*{{Cite journal |和書 |author=鵜沢美穂子|author2=杉村康司|author3=樋口正信|title=茨城県妙岐ノ鼻におけるオオカギイトゴケの発見|journal=蘚苔類研究|volume=12|issue=1|year=2019|ref={{SfnRef|鵜沢ら|2019}}}}
*{{Cite book |和書 |editor= 成東・東金植物群落を守る会|title= 国指定天然記念物「成東・東金食虫植物群落」の野鳥|publisher= 山武市歴史民俗資料館|year= 2019|ref={{SfnRef|守る会|2019}}}}
*{{Cite book |和書 |editor= 山武市歴史民俗資料館|title= 国指定天然記念物「成東・東金食虫植物群落」指定百年記念誌|publisher= 山武市教育委員会|year= 2021|ref={{SfnRef|百年記念誌|2021}}}}
== 外部リンク ==
{{Commonscat|Naruto-Togane Area Carnivorous Plant Field}}
* {{国指定文化財等データベース|401|631|成東・東金食虫植物群落}}
* [https://www.pref.chiba.lg.jp/kyouiku/bunkazai/bunkazai/n431-002.html 成東・東金食虫植物群落／千葉県] - 県公式サイト
* [https://www.city.sammu.lg.jp/page/page001465.html 成東・東金食虫植物群落｜山武市公式ホームページ]
* [
* [https://plants.sammu.info/ 成東・東金食虫植物群落を守る会]
* [https://www.city.togane.chiba.jp/0000000437.html 国指定文化財 成東・東金食虫植物群落（なるとう・とうがねしょくちゅうしょくぶつぐんらく）] - 東金市公式サイト
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[[Category:食虫植物]]
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