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|種 = '''トコジラミ''' ''C. lectularius''
|学名 = ''Cimex lectularius''<br>L., [[1758年|1758]]
|英名 = [[:en:Bedbug|bedbug]], true bed bug, wall louse, common bedbugなど{{Sfn|川上|2007|p=56}}{{Sfn|平尾|2010|p=211}}
}}
'''トコジラミ'''('''床虱'''、[[学名]]:{{Snamei|Cimex lectularius}})とは、[[半翅目]][[トコジラミ科]]に属する[[吸血動物|吸血性の[[寄生]][[昆虫]]の1種。広義にはトコジラミ科そのものを指す<ref name="コトバンク" />。'''南京虫'''(なんきんむし)や'''床虫'''(とこむし)という別名も知られ<ref>[https://kotobank.jp/word/床虫-583203 床虫]コトバンク(デジタル大辞泉)、2023年12月2日閲覧。</ref>
 
== 名称 ==
別名、'''南京虫'''(なんきんむし)、'''床虫'''(とこむし)。
「南京虫」の「南京」とは、[[江戸時代]]には海外から伝わってきた小さいもの、珍しいものに付けられる名だった(他の用例として[[南京錠]]、[[ラッカセイ|南京豆]]などが挙げられる)<ref>[https://crd.ndl.go.jp/reference/detail?page=ref_view&id=1000052220 「南京錠」の語源を知りたい。]レファレンス協同データベース、2009年3月10日。2024年2月5日閲覧。</ref>。この昆虫は海外からの荷物に付着して伝わってきたと考えられている。「トコジラミ」や「トコムシ」という名称は布団やベッドに潜み、そこで被害を受けることが多いことに由来する。中国・南京との関係がないことから南京虫の名称が不適切として、代わってトコジラミと呼ばれるようになったという話もある<ref name=":1" />。
 
中国語では臭腺から出される刺激臭にちなんで「臭虫」と呼ばれ<ref name="コトバンク2" />、本種を「温帯臭虫」、ネッタイトコジラミを「熱帯臭虫」と称して区別する。ネッタイトコジラミとの混称と思われるが、[[地方名]]に、「あーぬん」([[沖縄県]][[石垣島]])、「あやぬん」(沖縄県[[小浜島]])、「ひーらー」、「っちゅくぇびーら(人食いひら)」([[首里方言]])、「あかめ」([[東京都]][[八丈島]])などがある<ref>尚学図書編、『日本方言大辞典』、[[1989年]]、小学館、ISBN 4-09-508201-1</ref>。[[英語]]ではトコジラミ、ネッタイトコジラミともに「bedbug」の名称が使われるが、トコジラミを特に指す場合は「common bedbug」と言う。学名は[[ラテン語]]で、''Cimex''は虫 (bug)、''lecturarius''はベッド (bed)や長椅子 (couch)という意味である{{Sfn|Potter|2011|p=15}}{{Sfn|Doggett et al.|2012|p=165}}。
== 分類 ==
「[[シラミ]]」と命名されているが、[[シラミ目]]ではなく、[[カメムシ目]][[トコジラミ科]]の昆虫で捕食性のカメムシである[[マキバサシガメ科]]などに近縁である。トコジラミ科の昆虫は全て吸血性であるが、そのほとんどは主に[[鳥類]]や[[コウモリ]]類を宿主とする<ref name="MichaelLehance">{{Cite book|first=Michael |last=Lehane |title=The biology of Blood-Sucking in Insects |isbn=0521543959 |page={{要ページ番号|date=2020-08-13}}}}</ref>。一方で本種および近縁種の[[タイワントコジラミ]]('''台湾床虱'''。学名:{{Snamei|Cimex hemipterus}}。別名、ネッタイトコジラミ、ネッタイナンキンムシ、熱帯南京虫)のみが、[[ヒト]]を主な吸血源とする。
 
== 分布 ==
同じカメムシ目の昆虫には[[シャーガス病]]を媒介するオオサシガメ類が存在する。しかし、現在のところトコジラミが媒介する[[伝染病]]は確認されていない<ref name=":0">{{Cite web|和書|title=トコジラミに増加の兆し… 原因は?症状や対策も 駆除できる殺虫剤は {{!}} NHK {{!}} WEB特集 |url=https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230511/k10014063891000.html |website=NHKニュース |date=2023-05-11 |access-date=2023-05-20 |last=日本放送協会}}</ref>。トコジラミの体から[[B型肝炎ウイルス]]など幾つかの人間の病原体を検出した例があるが<ref>{{Cite journal|first1=Pascal |last1=Delaunay |first2=Véronique |last2=Blanc |first3=Pascal |last3=Del Giudice |first4=Anna |last4=Levy-Bencheton |first5=Olivier |last5=Chosidow |first6=Pierre |last6=Marty |first7=Philippe |last7=Brouqui |title=Bedbugs and Infectious Diseases |journal=Clinical Infectious Diseases |year=2011 |month=1 |volume=52 |issue=2 |pages=200-210 |doi=10.1093/cid/ciq102}}</ref>、いずれも実際にこれらの病原体を媒介しているという証拠は見つかっていない。
特に温暖な地域に多いが、[[汎存種|世界各地に分布する種]]である<ref name="Koganemaru&Miller 2013" /><ref>{{Cite journal |author=Jan Štefka, Jan Votýpka, Julius Lukeš, Ondřej Balvín |title=Cimex lectularius and Cimex hemipterus (bed bugs) |journal=Trends in Parasitology |publisher=Cell Press |volume=38 |issue=10 |pages=919-920 |date=2022-05-18 |doi=10.1016/j.pt.2022.04.006 }}</ref>。飛翔能力がなく、自力では長距離を移動することはできないが、人間の荷物または輸送される家具に取り付くことで、その分布を拡大する<ref name=":0" />。
 
== 分類 ==
「[[シラミ]]」と命名されているが、[[シラミ目]]ではなく[[カメムシ目]][[トコジラミ科]]の昆虫で、捕食性のカメムシである[[マキバサシガメ科]]や[[ハナカメムシ科]]に近縁である<ref>{{Cite journal |和書 |author=榊原充隆 |title=〔特別講演〕カメムシ学入門 |journal=北日本病害虫研究会報 |volume=2016 |issue=67 |publisher=北日本病害虫研究会 |year=2016 |pages=1-23 |doi=10.11455/kitanihon.2016.67_1 }}</ref>。トコジラミ科の昆虫は全て吸血性であるが、そのほとんどは主に[[鳥類]]や[[コウモリ]]類を宿主とする<ref name="MichaelLehance" /><ref name="コトバンク2" />。一方で本種や[[ネッタイトコジラミ]](学名:{{Snamei||Cimex hemipterus}}。別名:タイワントコジラミ、ネッタイナンキンムシ)のような[[ヒト]]を宿主とする種類も知られる<ref name="コトバンク" />。
 
== 形態 ==
卵は長径1.2 [[ミリメートル|mm]]程度の長円形で乳白色<ref name="武藤2015" />、幼虫は1齢時点で体長1 mmから1.3 mm程度、透明または淡黄色{{Sfn|渡辺|2010|p=188}}<ref name="武藤2015" />。体色は脱皮を重ねるにつれて褐色味が強くなる<ref name="三共リメイク" />。[[成虫]]は[[ゴキブリ]]の幼虫や摂食前の[[ダニ]]を思わせる見た目をしており<ref name="Koganemaru&Miller 2013" />、卵形もしくは円盤状で扁平<ref name="コトバンク" />{{Sfn|川上|2007|p=56}}、体長は5 mmから8 mm程度{{Sfn|川上|2007|p=56}}。体色は吸血前は茶褐色<ref name="武藤2015" />もしくは赤褐色を呈し、吸血後は腹部の色が濃化して見え<ref name="コトバンク" />、腹部の体節も伸びることで体長は最大1.5倍、体重も4倍程度に増える{{Sfn|渡辺|2010|p=188}}。卵、幼虫、成虫と段階を踏んで成長する[[不完全変態]]の昆虫で、幼虫と成虫はほぼ同じ形をしている<ref name="武藤2015" /><ref name="hiiaj" />。
[[成虫]]は5 - 7 mm程度に成長する<ref name="MikeService">{{Cite book|first=Mike |last4=Service |title=Medical Entomolgy for Students |edition=4th |isbn=0521709288 |page={{要ページ番号|date=2020-08-13}}}}</ref>。[[不完全変態]]で、幼虫と成虫はほぼ同じ形をしている。また成虫も[[翅]]を持たない。体色は吸血前は薄黄色からやや赤褐色を呈すが、吸血後は吸血した血液が透けて見えるためより濃い茶色となる。成虫は卵形で、背腹軸に扁平である。タイワントコジラミとは形態的によく似ているが、トコジラミは前胸の縦横比が2.5倍程度であるのに対しタイワントコジラミは2倍程度と少し細長くなっている<ref name="MikeService"/>。雄成虫は腹部の末端が雌成虫よりも尖っており、末端に良く発達した[[ペニス]]を持つ。メス成虫には腹部第4節の腹側の中央より左に特徴的な切れ込みがある。交尾の際に雄はこの切れ込みにペニスを挿入し雌に精子を提供する(ギャラリー参照)。
 
頭部には側縁に突出した[[複眼]]、腹面に接してストロー状に発達した口器がある{{Sfn|川上|2007|p=56}}。[[翅]]は前翅に相当する半翅鞘があるが機能せず<ref name="コトバンク" />、飛翔能力はない<ref name="夏秋2020" /><ref name="武藤2015" />。腹部は雌成虫は丸みを帯び、雄成虫は雌よりも先が尖った形状をしている{{Sfn|Doggett et al.|2012|p=165}}。脚は素早く移動できるほど発達しているほか<ref name="コトバンク2" />、後脚基部に臭いを発する臭腺があり、防御のためにここから刺激臭を出すことがある<ref name="hiiaj" />。刺激臭は油っぽいとされ<ref>[https://www.britannica.com/animal/bedbug bedbug]Britannica, The Editors of Encyclopedia. 2023年10月5日。2023年12月18日閲覧。</ref><ref>[http://tokojirami.net/a_bedbug/02.html ダニ・ノミ・シラミとの違い]三共消毒、2023年12月18日閲覧。</ref>、カメムシほど強くはないにせよ独特である<ref name=":1" />。
 
ネッタイトコジラミとは形態的によく似ているが、胸部で区別することができる{{Sfn|夏秋|2023|p=33}}。ネッタイトコジラミは前胸背板の側縁部がそれほど張り出しておらず、辺縁部には直角方向に毛が生えているのに対し、本種はネッタイトコジラミよりも側縁部が張り出しており、毛の生える方向も斜め後ろ向きである<ref name="pestcontrol-tokyo" />。<!--トコジラミは前胸の縦横比が2.5倍程度であるのに対しネッタイトコジラミは2倍程度と少し細長くなっている<ref name="MikeService">{{Cite book|first=Mike |last4=Service |title=Medical Entomolgy for Students |edition=4th |isbn=0521709288 |page={{要ページ番号|date=2020-08-13}}}}</ref>。-->腹部の形態にも差異を認めることができ、本種は円形なのに対してネッタイトコジラミは後縁部が凹んでいる<ref name="pestcontrol-tokyo" />。
 
雄成虫は腹部の末端が雌成虫よりも尖っており、末端に良く発達した[[ペニス]]を持つ。雌成虫には腹部第4節の腹側の中央より左に特徴的な切れ込みがある。交尾の際に雄はこの切れ込みにペニスを挿入し雌に精子を提供する(ギャラリー参照)。
 
== 生活環 ==
[[摂氏]]25度の条件下で孵化した幼虫は吸血から3日程度で2齢幼虫となり、以降5齢幼虫まで脱皮と吸血を繰り返し、成虫に羽化するまでに少なくとも5回吸血する{{Sfn|渡辺|2010|p=188}}。孵化から羽化までの期間は35日から45日程度であることが多く、羽化後1日から2日で交尾を、2日から3日で吸血をするようになる{{Sfn|渡辺|2010|p=188}}。雌成虫は吸血後5日程度で潜伏場所に数個産卵し、以降吸血と産卵のサイクルを生涯に20回から30回ほど繰り返す{{Sfn|渡辺|2010|p=188}}。累計産卵数は100個から200個で{{Sfn|渡辺|2010|p=188}}、500個に上ることもあるというが<ref name="コトバンク" />{{Sfn|Delaunay et al.|2011|p=201}}、これほどの多産は普通ではない{{Sfn|Doggett et al.|2012|p=166}}。
 
卵期間や幼虫期間、成虫の寿命など、生活環は温度条件に左右されるところが大きい。永廣 (2014)によると、平均産卵数は15度の条件下で8.8個、30度で14.4個と、温度条件による差は大きくないが、吸血から産卵までの期間は15度で平均11.8日、30度で平均3.3日、卵期間は15度で平均37.4日、30度で平均5日と倍以上の差が見られる<ref>{{Cite report |和書 |language=ja |author=永廣香菜 |title=温度条件の違いによるトコジラミの産卵数ならびに孵化数の変動 |date=2014-03 |url=https://mhlw-grants.niph.go.jp/project/22246 |pages=56-60 }}</ref>。また、卵は37度以上または7度以下の条件下では孵化しない{{Sfn|木村ほか|2011|p=130}}。成虫の寿命は22度前後においては4か月程度だが、10度においては1年以上に及ぶ{{Sfn|Doggett et al.|2012|pp=166-167}}。
 
== 生態 ==
トコジラミは雄雌ともに吸血し、幼虫・成虫にかかわらず、その全生存期間を通じて栄養分を血液に頼る<ref name="夏秋2020" />成虫夜間、特いたるまで5齢までの幼虫期を経るが深夜に行動し幼虫呼気中各齢期二酸化炭素や体温を頼り1回以上の吸血必要と探して吸血する<ref name="MichaelLehance武藤2015" />{{Sfn|Doggett et al.|2012|p=166}}、無吸血状態が2週間以上続くと昼間でも活発に吸血する{{Sfn|渡辺|2010|p=189}}孵化から成虫た、暗所約2あれば昼間でも活動し<ref -name="三共リメイク" 7週/>、光を嫌うため夜かかるでも[[照明]]、こある場合は基本的に隙間に隠ている<ref name=":1" />。潜伏時吸血原の有無や温数十匹程に大きの集団でいることが多依存す、100匹を超え規模になることもある{{Sfn|渡辺|2010|p=188}}
 
吸血時は口器を皮膚に突き刺し、この1回で吸血行動を済ませることが多いが、満腹になるまで何回か刺し変えることもある{{Sfn|夏秋|2023|p=34}}。吸血時間は幼虫で5分程度{{Sfn|渡辺|2010|p=189}}、成虫で平均15分程度{{Sfn|夏秋|2023|p=34}}。ヒトに限らず[[イヌ]]や[[ネコ]]、[[ネズミ]]や[[鳥類]]も吸血源とする<ref name="武藤2015" />。飢餓耐性は強く、実験室内での実験ではあるが18ヶ月間も無吸血で生存したという記録がある<ref name="MichaelLehance"/>。
飢餓に強く、実験室内での実験ではあるが18ヶ月間も無吸血で生存したという記録がある<ref name="MichaelLehance"/>。トコジラミはふつう夜間に吸血するが、厳密には夜行性ではなく、暗ければ昼間でも吸血することがある<ref name="MichaelLehance"/>。光を嫌うため[[太陽光]]が出ている日中は壁の割れ目など隙間に潜んでいる<ref name=":1">{{Cite web|和書|title=特技はかくれんぼ?トコジラミの見つけ方と刺されないための4つの対策。|その他|害虫なるほど知恵袋 |url=https://www.earth.jp/gaichu/wisdom/sonota/article_011.html |website=アース害虫駆除なんでも事典 |access-date=2023-05-20 |language=ja}}</ref>。夜間でも[[照明]]がある場合は隠れている<ref name=":1" />。
 
[[ボルバキア]]という[[共生|共生細菌]]がいないと、正常な成長や繁殖が困難であることが、研究で明らかにされた<ref>{{Cite journal|doi=10.1073/pnas.0911476107 |title=Wolbachia as a bacteriocyte-associated nutritional mutualist |journal=PNAS |volume=107 |issue=2 |format=PDF |first1=Takahiro |last1=Hosokawa |first2=Ryuichi |last2=Koga |first3=Yoshitomo |last3=Kikuchi |first4=Xian-Ying |last4=Meng |first5=Takema |last5=Fukatsu}}</ref><ref>{{Cite press release|和書|url=https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2009/pr20091222/pr20091222.html |title=トコジラミに必須栄養素を供給する細胞内共生細菌ボルバキアの発見 |publisher=産総研 |accessdate=2009-12-30}}</ref>。[[近親交配]]が不利にならず日常的に行っており、一匹の妊娠した[[雌|メス]]がいれば、その子供達同士で[[交尾]]し、大規模に繁殖をすることができる<ref>{{Cite news |和書|url=https://www.afpbb.com/articles/-/2845329|title=トコジラミ大繁殖の秘密は「近親交配」、米研究 |newspaper=AFPBB News |publisher=[[フランス通信社|AFP]] |date=2011-12-12|accessdate=2017-02-26}}</ref>。その交尾は{{仮リンク|外傷性受精|en|Traumatic insemination}}と呼ばれる特殊な様式で、雄は把握器で雌の腹部を刺し、把握器に付く[[エデアグス|生殖器]]を挿入して体腔内に精子を放出する<ref>[https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-25840150/ トコジラミ上科半翅類に見られる特異的な交尾様式の進化パターンと機能の解明][[国立情報学研究所|KAKEN]]、2016年10月21日。2023年12月19日閲覧。</ref>。
トコジラミは翅を持たないため、自力では長距離を移動することはできない。しかし、人間の荷物または輸送される家具に取り付くことで、その分布を拡大する<ref name=":0" />。
 
== トコジラミ刺症 ==
[[ボルバキア]]という[[共生|共生細菌]]がいないと、正常な成長や繁殖が困難であることが、研究で明らかにされた<ref>{{Cite journal|doi=10.1073/pnas.0911476107 |title=Wolbachia as a bacteriocyte-associated nutritional mutualist |journal=PNAS |volume=107 |issue=2 |format=PDF |first1=Takahiro |last1=Hosokawa |first2=Ryuichi |last2=Koga |first3=Yoshitomo |last3=Kikuchi |first4=Xian-Ying |last4=Meng |first5=Takema |last5=Fukatsu}}</ref><ref>{{Cite press release|和書|url=https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2009/pr20091222/pr20091222.html |title=トコジラミに必須栄養素を供給する細胞内共生細菌ボルバキアの発見 |publisher=産総研 |accessdate=2009-12-30}}</ref>。[[近親交配]]が不利にならず日常的に行っており、一匹の妊娠した[[雌|メス]]がいれば、その子供達同士で[[交尾]]し、大規模に繁殖をすることができる<ref>{{Cite news |和書|url=https://www.afpbb.com/articles/-/2845329|title=トコジラミ大繁殖の秘密は「近親交配」、米研究 |newspaper=AFPBB News |publisher=[[フランス通信社|AFP]] |date=2011-12-12|accessdate=2017-02-26}}</ref>。
[[File:Bedbugb1.JPG|thumb|トコジラミに刺咬された痕]]
トコジラミは刺咬する際、血液が凝固しないように[[唾液]]を宿主の体内に注入するが<ref>[https://www.city.osaka.lg.jp/kenko/page/0000200245.html トコジラミについて]大阪市、2023年12月4日。2023年12月15日閲覧。</ref>、唾液に含まれる物質が引き起こす[[アレルギー]]反応で'''トコジラミ刺症'''と呼ばれる[[痒み]]を伴う[[皮膚炎]]([[虫刺症]])が生じることがある{{Sfn|夏秋|2023|p=34}}。症状の程度は以前の刺咬経験の有無や個々人の免疫反応によるところが大きく、強い痒みや[[腫れ|腫脹]]がしばらく続く人もいれば無症状の人もいる<ref name="Koganemaru&Miller 2013" />。
 
初めて刺咬された場合は症状は表れないが{{Efn|初めて刺咬を受けたときであっても、集団で吸血された場合は1週間から2週間で皮疹が遅発することがある{{Sfn|夏秋|2023|p=34}}。}}、2回目以降は吸血後1日から2日で痒みを伴う[[皮疹]]や[[紅斑]]が表れ、この症状は吸血が繰り返されるにつれて次第に吸血直後に表れるようになり、最終的に吸血されても皮疹が生じることがなくなる{{Sfn|夏秋|2023|p=34}}。
独特の匂いをもつが僅かであるため<ref name=":1" />、潰さない限り人間には感知できない<ref name=":0" />。
 
トコジラミ刺症の臨床像は[[ネコノミ]]や[[イエダニ]]による虫刺症に似るが、これらは被覆部によく見られるのに対し、トコジラミ刺症は露出部に多く、したがって皮疹分布は診断の判断材料となる{{Sfn|夏秋|2023|p=34}}。加えて大きさも腫脹の程度も他の虫刺症と比べて大きいことが多い<ref name="MSDマニュアル" />。
== 症状 ==
 
刺咬する際に[[唾液]]を宿主の体内に注入するが、この中に含まれる物質が引き起こす[[アレルギー]]反応で激しい[[かゆみ]]が生じる。俗に、刺されると肌に2つの赤い痕跡(刺し口)が残ると言われるが、実際には刺し口は1つであることの方が多い。かゆみは刺された当日よりも2日目以降の方が強い。刺咬の痕跡は1〜2週間以上消えない。
腫れやかゆみ以外にも発熱や[[水ぶくれ]]などの症状が出ることがあり<ref name=":1" /><ref name="MSDマニュアル" />、不眠といった精神的な不調の原因にもなりうる<ref>{{Cite journal |first1=Rachelle |last1=Ashcroft |first2=Yukari |last2=Seko |first3=Lai Fong |last3=Chan |first4=Jessica |last4=Dere |first5=Jaemin |last5=Kim |first6=Kwame |last6=McKenzie |title=The mental health impact of bed bug infestations: a scoping review |journal=International Journal of Public Health |publisher=Springer |volume=60 |pages=827-837 |date=2015-11 |doi=10.1007/s00038-015-0713-8 }}</ref>。抗体発現後に吸血された場合はまれながら全身性[[蕁麻疹]]などの重症に繋がることがあり{{Sfn|渡辺|2010|p=187}}、[[貧血]]や[[アナフィラキシー|アナフィラキシー反応]]の報告例もある{{Sfn|Delaunay et al.|2011|p=203}}。俗に、刺されると肌に2つの赤い痕跡(刺し口)が残ると言われるが、1つのことも複数のこともある{{Sfn|渡辺|2010|p=188}}<ref name="武藤2015" /><ref name=":1" />。必要に応じて[[コルチコステロイド]]や[[抗ヒスタミン薬]]の塗布・投与などの[[対症療法]]が講じられ<ref name="MSDマニュアル" />、刺咬の痕跡やかゆみは個人差あるが1週間から2週間程度で消える<ref name="三共リメイク" />{{Sfn|Doggett et al.|2012|p=171}}。
 
同じカメムシ目の昆虫には[[シャーガス病]]を媒介するオオサシガメ類が存在する。しかし、[[ペスト]]や[[発疹チフス]]を媒介すると言われる一方で<ref name="hiiaj" />、2023年時点でトコジラミが媒介する[[伝染病]]は確認されていない<ref name=":0" />。トコジラミの体から[[B型肝炎ウイルス]]など幾つかの人間の病原体を検出した例があるが{{Sfn|Delaunay et al.|2011|pp=205-206}}、吸血行動により感染症が媒介されるとするエビデンスは認められていない{{Sfn|夏秋|2023|p=33}}{{Efn|実験室の環境下ではシャーガス病を引き起こす原虫{{Snamei||Trypanosoma cruzi}}を保有したトコジラミがネズミにシャーガス病を伝染させる能力を有することが確かめられている<ref>{{Cite journal |author=Renzo Salazar, Ricardo Castillo-Neyra, Aaron W. Tustin, Katty Borrini-Mayorí, César Náquira, Michael Z. Levy |title=Bed Bugs (Cimex lectularius) as Vectors of Trypanosoma cruzi |journal=Am J Trop Med Hyg. |volume=92 |issue=2 |publisher=American Society of Tropical Medicine and Hygiene |year=2015 |pages=331-335 |doi=10.4269/ajtmh.14-0483 }}</ref>。また、{{仮リンク|塹壕熱|en|Trench fever}}などを引き起こす細菌{{Snamei||Bartonella quintana}}の媒介者となりうることを示唆する研究結果もある<ref>{{Cite journal |author=Hamza Leulmi, Idir Bitam, Jean Michel Berenger, Hubert Lepidi, Jean Marc Rolain, Lionel Almeras, Didier Raoult, Philippe Parora |title=Competence of Cimex lectularius Bed Bugs for the Transmission of Bartonella quintana, the Agent of Trench Fever |journal=PLOS Neglected Tropical Diseases |volume=9 |issue=5 |publisher=[[PLOS]] |date=2015-05-22 |doi=10.1371/journal.pntd.0003789 }}</ref>。}}。
 
== 防除方法 ==
=== 予防・早期発見 ===
[[ファイル:トコジラミ 雑誌.JPG|thumb|260px|長期間放置された[[ペーパーバック|見開き雑誌]]の綴じ部分にも潜んでいる場合がある。]]
*旅行先、宿泊先では荷物は床に直接置かず、袋に入れたり<ref name=":0" />、平滑面を苦手とすることから平滑な脚の付いた台の上や浴室内に置くなどして<ref name="武藤2015" /><ref name="読売新聞20231211" />、ベッド周辺や隙間などにトコジラミや血糞由来のシミがないか確認する<ref name="読売新聞20231211" />。予防策としては他にも、[[防虫剤]]を荷物や旅行カバンの中に入れたり<ref>[https://www.shinagawaseasideclinic.com/skin/atoz/ta/cimex_lectularius_linnaeus.html 品川シーサイド皮膚・形成外科クリニック「トコジラミ刺症」]</ref><ref name="読売新聞20231211" />、肌の露出部に塗布したり<ref name="読売新聞20231211" />、就寝時に照明をつけたままにしておくなどがある<ref name=":1" />。また移動先からトコジラミを持ち帰らないよう帰宅後の荷物点検も重要である<ref name=":1" />。
*完璧な予防策はないが、隙間を塞ぐなどして潜伏しうる場所を減らすことは有用である{{Sfn|Doggett et al.|2012|pp=179-180}}。住居では、カーペットや[[絨毯]]の裏、[[畳]]の隙間や[[コンセント]]の隙間、壁の隙間、[[ベッド]]の裏、[[家具]]などの引き出しの裏や継ぎ目、[[カーテン]]の折り目、[[衣類]]の縫い目、本の中などに隠れていることが多いので重点的に点検する<ref name=":1" /><ref>[https://www.pref.osaka.lg.jp/kankyoeisei/kininarumusi/bedbugs2.html トコジラミについて]大阪府、2024年2月5日。2024年2月5日閲覧。</ref>。生息調査の手がかりになるものとして、吸血後排泄される血糞に由来する茶褐色のシミ{{Sfn|夏秋|2023|p=34}}、臭腺から出る刺激臭などがあり{{Sfn|渡辺|2010|p=187}}、嗅覚に優れる[[イヌ|犬]]を訓練し臭いを頼りに発見する試みもある<ref name=":0" />{{Sfn|Delaunay et al.|2011|p=202}}。探知犬は個体差があることや管理費用がかかることといった問題点が指摘されているものの、訓練次第で良好な結果が出たとする試験結果があり、定期的に探知犬の認定試験を行う団体もある{{Sfn|平尾|2010|p=215}}。
=== 駆除 ===
潜伏場所を的確に把握しなければならないこと、卵や幼虫の発見が難しいこと、殺虫剤の効かない卵の孵化を待つ必要があることなどから駆除の難易度が高い<ref>[https://www.shinmai.co.jp/news/article/CNTS2024020200283 殺虫剤が効かない「スーパートコジラミ」も 一度繁殖したら駆除は困難 最も効果的な予防法は?]信濃毎日新聞デジタル、2024年2月4日。2024年2月7日閲覧。</ref>。駆除方法としては以下のものがあり、[[総合的病害虫管理|総合的有害生物管理]]の観点から事前調査に基づく防除方法の組み合わせが重要視される{{Sfn|木村ほか|2011|p=128}}。
; 殺虫剤・薬剤
: 殺虫剤で駆除する場合、潜伏場所へ散布し、予測される行動範囲内にも散布しておくことが一般的である<ref name="武藤2015" />。成虫が生息している可能性のある個所に半透明で楕円形の[[卵]]を産むので、卵を全て発見し除去しないと再発生を繰り返してしまう。卵には薬剤が効きにくいため、薬剤の散布は成虫になるタイミングを見計らって繰り返し散布する必要がある。
: 2022年以降は従来の[[ピレスロイド]]系殺虫剤に[[薬剤抵抗性]]をもった耐性種が[[韓国]]などで大発生し<ref>[https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/859885 TBS NewsDIG 2023.11/27「韓国で大発生 トコジラミ 日本でも拡大のおそれ、専門家警鐘 殺虫剤成分に耐性 強力トコジラミも 対策は?」]</ref>、それらが旅行客の荷物や通販のダンボール箱を介して日本国内に持ち込まれる事例が相次いで報道され、トコジラミによる被害相談件数も過去最多を更新している<ref>[https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/879178?display=1 TBS NewsDIG 2023.12/07 「トコジラミはダンボール箱にも…通販や海外からの荷物が届いたら すぐには部屋に入れない などの対策も」]</ref><ref name=":0" /><ref>[https://www.sankei.com/article/20230620-Y3N3QQAKORE6DGULOHYPY7JXMM/ 産経新聞 2023.06/20 「駆除が厄介なトコジラミの相談増加 旧来の1,000倍の耐性持つスーパー個体も出現」]</ref><ref>[https://news.tv-asahi.co.jp/news_society/articles/900000833.html?page1 テレ朝News 報道ステーション 2023.11/25「専門家 日本でも広がる 韓国などでトコジラミ急増」]</ref>。これらの薬剤耐性トコジラミに対しては、[[リン酸エステル|有機リン]]系([[フェニトロチオン]]など)や[[カーバメイト]]系([[プロポクスル]]など)、[[オキサジアゾール]]系([[メトキサジアゾン]]など)が有効であることが明らかになっている<ref>[https://www.ki-phs.or.jp/mushi01/gaichuu/gaichuu00/tokojirami/tokojirami.html 公益社団法人 京都保健衛生協会 「トコジラミ」]</ref><ref>[https://www.city.edogawa.tokyo.jp/e055/kenko/eisei/kankyo/sumaieisei/eiseigaichu/tokojirami.html 東京都江戸川区 「相談事例 トコジラミの発生」]</ref>。市販殺虫剤の製造元ではオキサジアゾール系を配合することで対応している<ref>{{Cite web|和書|url=http://www.earth-chem.co.jp/top01/tokojirami/tokojirami/aerosol.html |title=医薬品 トコジラミ ゴキブリ アース|家庭用殺虫剤|アース製薬株式会社 |accessdate=2017-07-23 |deadlinkdate=2020-08-13 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20170627082443/https://www.earth-chem.co.jp/top01/tokojirami/tokojirami/aerosol.html |archivedate=2017-06-27}}</ref>。一方で、カーバメイト系や有機リン系、[[ネオニコチノイド]]系に対する抵抗性の報告例がある<ref name="Dang et al. 2017" />。
: [[アメリカ合衆国]]などでは[[フッ化スルフリル]]を用いて家具や建物全体を[[燻蒸]]するという防除方法がある{{Sfn|平尾|2010|p=218}}。手間やコストを要することから建物全体の燻蒸はそう多くないが{{Sfn|Doggett et al.|2012|p=183}}、私物の防除策としては有効である{{Sfn|Doggett & Lee|2023|p=180}}。
[[File:加熱乾燥車・寝具.jpg|thumb|250px|寝具の加熱乾燥処理車]]
; 加熱処理
: 加熱処理の方法としては熱風や高温スチームを当てる、直射日光にさらすなどがある{{Sfn|渡辺|2010|p=192}}{{Sfn|平尾|2010|p=218}}。専用加熱装置で建物や部屋全体を加熱するやり方もあり、その場合は44℃から45℃以上の高温を長時間維持し、隙間などの潜伏場所にも熱が行き渡るような調整が重要とされる{{Sfn|平尾|2010|p=218}}。スチー厶アイロン等を使用する場合、潜伏場所となる寝具やマットレス周囲に90-100℃の高温スチームを1か所につき3-5秒ずつ、念入りに当てる<ref>[https://mymc.jp/clinicblog/209076/ MymedicalClinic 「トコジラミとは?生息場所や刺された際の症状、治療法」]</ref>。宿泊施設では、寝具を業務用の[[加熱乾燥車]]などを使用して高温熱風駆除を導入している所もある<ref>[https://tokojirami.net/method/method02.html 三共消毒「加熱乾燥処理」]</ref>。[[枕]]や掛け布団など[[寝具]]に殺虫剤などの化学薬剤を使用せずに済むため人体や環境への負担がないこと、また薬剤抵抗性のトコジラミや、薬剤が効かない虫卵に対しても非常に有効で、ランニングコストも安いことなどから、メリットの多い駆除法として宿泊業界では第一選択の駆除法となっている<ref>[https://total-clean.co.jp/pc/topics/tokoshirami/15139/ 害虫駆除コラム「トコジラミ駆除にスチームクリーナーは有効?メリット・デメリットを解説」]</ref>。
; 掃除機による吸引
: 針金などで潜伏中のトコジラミを掻き出しながら、細いノズルで吸い取る{{Sfn|渡辺|2010|p=192}}。卵、幼虫、成虫ともに接着力が高いため、擦り付けるようにして除去する{{Sfn|平尾|2010|p=218}}。
; 冷却処理
: 冷却処理の方法としては冷凍庫の使用や粉末状[[ドライアイス]]の噴入などがある{{Sfn|木村ほか|2011|p=128}}<ref name="田中&田中2017" />。
; 洗濯
: 衣類に付着した個体を駆除する方法で、60℃の湯で90分の洗浄、40℃以上で30分以上の回転乾燥、[[テトラクロロエチレン|パークロロエチレン]]による[[ドライクリーニング]]などで死滅したとする報告がある<ref>{{Cite journal |author=R. A. Naylor |author2=C. J. Boase |title=Practical Solutions for Treating Laundry Infested With Cimex lectularius (Hemiptera: Cimicidae) |journal=Journal of Economic Entomology |publisher=Entomological Society of America |volume=103 |issue=1 |pages=136-139 |date=2010-02-01 |doi=10.1603/EC09288 }}</ref>。
; 寝具の包み込み
: トコジラミの出入りが防止できるよう縫製されたカバーで寝具を隙間なく包む方法{{Sfn|平尾|2010|p=219}}。寝具の廃棄を抑えられること、白いカバーであればトコジラミが発見しやすくなるといった利点がある{{Sfn|Doggett et al.|2012|p=180}}。
; 廃棄
: トコジラミで汚染された物品をビニール袋に密閉して廃棄する{{Sfn|Doggett et al.|2012|p=180}}。
 
== 歴史 ==
トコジラミ科のDNAを分析した研究では、本種とネッタイトコジラミは約4700万年前、トコジラミ科は約1億1500万年前に出現したとする結果が出ている<ref>{{Cite journal |author=Steffen Roth, Ondřej Balvín, Michael T. Siva-Jothy, Osvaldo Di lorio, Petr Benda, Omar Calva, Eduardo I. Faundez, Faisal Ali Anwarali Khan, Mary McFadzen, Margie P. Lehnert, Richard Naylor, Nikolay Simov, Edward H. Morrow, Endre Willassen, Klaus Reinhardt |title=Bedbugs Evolved before Their Bat Hosts and Did Not Co-speciate with Ancient Humans |journal=[[カレントバイオロジー|Current Biology]] |publisher=Cell Press |volume=29 |issue=11 |pages=1847-1853 |date=2019-06-03 |doi=10.1016/j.cub.2019.04.048 }}</ref>。2017年に米国昆虫学会「Journal of Medical Entomology」に掲載された研究論文によると、アメリカ合衆国オレゴン州南部のペイズリー洞窟で見つかった5100年から1万1000年前の化石が世界最古のトコジラミ(厳密には近縁種)の化石とされている<ref name="AFP2017" />。また、エジプトからは、トコジラミが少なくとも3500年前から人間の寄生虫として知られていたことを示唆する化石が発見されている<ref>{{Cite journal |author=Panagiotakopulu, Eva; Buckland, Paul C |title=Cimex lectularius L., the common bed bug from Pharaonic Egypt |journal=Antiquity |Volume=73 |Issue=282 |date=1999-12 |publisher=Cambridge University Press |pages=908-911 |doi=10.1017/S0003598X00065674 }}</ref>。数千年前にヨーロッパ、アジア、アフリカでヒトがコウモリと同じ洞穴に住むようになり、トコジラミやネッタイトコジラミもヒトを宿主にするようになったとされている<ref name="AFP2017" />。
=== ヒトへの適応 ===
トコジラミは紀元前 400 年頃に古代ギリシャで初めて言及され、その後アリストテレスによっても言及された。''西暦 77年頃に''ローマで初めて出版されたプリニウスの''博物誌''では、トコジラミにはヘビの咬傷や耳の感染症などの病気の治療に薬効があると主張された。<ref>{{Cite book|洋書 |author=Smith, William |title=A dictionary of Greek and Roman antiquities |publisher=Harper & brothers |date=1847 |page= |isbn=}}</ref>
 
初期の言及例としては紀元前400年ごろ、古代ギリシャの哲学者[[デモクリトス]]がトコジラミの予防策を伝えたものがある{{Sfn|Potter|2011|p=14}}。その後はアリストテレスの『[[動物誌 (アリストテレス)|動物誌]]』内で言及され<ref name="荒俣2021" />、西暦77年頃にローマで初めて出版されたプリニウスの『博物誌』では、トコジラミにはヘビの咬傷や耳の感染症などの病気の治療に薬効があると主張された<ref>{{Cite book|洋書 |author=Smith, William |title=A dictionary of Greek and Roman antiquities |publisher=Harper & brothers |date=1847 |pages= |isbn= }}</ref>。他の地域、[[中国]]では600年ごろ、[[イングランド]]では1583年ごろ{{Sfn|Potter|2011|p=14}}、[[北アメリカ]]では1600年代に最初期の記録がある<ref name="Koganemaru&Miller 2013" />。
2017年に米国昆虫学会「Journal of Medical Entomology」に掲載された研究論文によると、アメリカ合衆国オレゴン州南部のペイズリー洞窟で見つかった5100年から1万1000年前の化石が世界最古のトコジラミ(厳密には近縁種)の化石とされている<ref name="AFP2017">{{Cite news|和書|date=2017-04-05 |url=https://www.afpbb.com/articles/-/3123985 |title=世界最古のトコジラミ、米オレゴンの洞窟で半化石発見 |newspaper=AFPBB News |publisher=AFP |accessdate=2017-04-05}}</ref>。
 
20世紀になってからは暖房の普及といった生活環境の変化の影響で、北米やヨーロッパなどの世界各地で屋内で時期を問わず発生するようになった{{Sfn|木村ほか|2011|p=127}}。1940年代以降は[[DDT]]をはじめとする殺虫剤の普及や生活環境の改善とともに被害報告は珍しくなったが、1990年代半ば以降被害報告が再び増え始めており社会問題化している{{Sfn|木村ほか|2011|pp=127-128}}。再燃の原因については、カーバメイト系やピレスロイド系、有機リン系の殺虫剤に対する発達した薬剤抵抗性が報告されるなど<ref>{{Cite journal |author=Alvaro Romero |author2=Michael F. Potter |author3=Daniel A. Potter |author4=Kenneth F. Haynes |title=Insecticide Resistance in the Bed Bug: A Factor in the Pest’s Sudden Resurgence? |journal=Journal of Medical Entomology |volume=44 |issue=2 |publisher=Oxford University Press |year=2007 |pages=175-178 |doi=10.1603/0022-2585(2007)44[175:iritbb]2.0.co;2 }}</ref><ref>{{Cite journal |和書 |author=渡辺護 |title=トコジラミの殺虫剤感受性と熱殺法の検討 |journal=衛生動物 |volume=61 |issue=3 |publisher=日本衛生動物学会 |year=2010 |pages=239-244 |doi=10.7601/mez.61.239 }}</ref><ref name="Dang et al. 2017" />、防除上の要因が考えられている{{Sfn|木村ほか|2011|pp=127-128}}。また、人々のトコジラミに対する知識低下や防除に有効だった殺虫剤の屋内使用に対する法規制{{Sfn|平尾|2010|pp=214-215}}、人間の往来の急増や家具類の流通量増加も一因として指摘されている{{Sfn|夏秋|2023|p=33}}。
エジプトで発見された化石は、トコジラミが少なくとも 3,500 年前から人間の寄生虫として知られていたことを示している。<ref>{{Cite book|洋書 |author=Panagiotakopulu, Eva; Buckland, Paul C |title=Cimex lectularius L., the common bed bug from Pharaonic Egypt |publisher=Cambridge University Press |date=2015 |page= |isbn=}}</ref>
 
[[オーストラリア]]や[[アメリカ合衆国]]でも、21世紀に入って再びトコジラミによる被害が拡大し、社会的影響を与えた<ref>[https://www.hohto.co.jp/pmpnews/305-3/ トコジラミに関する海外動向]PMPニュース305号(鵬図商事株式会社)、2010年3月。2023年12月12日閲覧。</ref>。例えばアメリカ合衆国[[サンフランシスコ]]では2006年にトコジラミの大量発生が2年前と比べて<!--300件近く。これはサンフランシスコのデータなので、全米のデータがあれば上書きがのぞましい-->倍以上の300件近くが衛生局に報告された<ref name="SFGate" />。トコジラミによる被害額は世界で年間数十億ドルと推定されている{{Sfn|Doggett & Lee|2023|p=172}}。
数千年前にヨーロッパ、アジア、アフリカでヒトがコウモリと同じ洞穴に住むようになり、トコジラミやネッタイトコジラミもヒトを宿主にするようになったとされている<ref name="AFP2017" />。
 
=== 日本への伝播 ===
江戸時代には既に[[日本]]に侵入していたことが窺われる<ref name=":0" />。一般的には[[文久]]年間(1861年から1864年)にオランダから購入した古船で発見されたのが日本における初見とされるものの、13世紀成立の[[古今著聞集]]や18世紀後半の[[菅江真澄]]『かたゐ袋』にトコジラミを想起させる記述がある<ref>{{Cite journal |和書 |author=上村清 |author2=大久保雅彦 |title=B22 トコジラミの古今:鎌倉時代すでに侵入していて,昨今は暖房普及で冬にも刺される |journal=衛生動物 |volume=56 |issue=Supplement |publisher=日本衛生動物学会 |year=2005 |page=66 |doi=10.7601/mez.56.66_1 }}</ref><ref name="荒俣2021" />。
江戸時代には既に[[日本]]に侵入していたことが窺われる<ref name=":0" />。
 
[[1595年]]刊行の、[[イエズス会|イエズス会員]][[アンブロジオ・カレピノ]]の[[ラテン語]]辞書をもとにした『羅葡日対訳辞書』に「トコムシ:cimex」の項目があるが、「cimex」とはトコジラミである。また[[1603年]]に刊行された『[[日葡辞書]]』では、トコムシ(Tocomuxi)の項に[[カメムシ目|カメムシ]]を意味する「Porsouejo」の訳語が記されている。
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一方、トコジラミ研究に先鞭をつけた人物といわれている博物学者の[[田中芳男]]は『南京虫又床虱』と題した報告を残し、繁殖状況、性質、駆除の方法などを述べている。同報告によると、南京虫は[[明治維新]]前に、[[江戸幕府]]が外国から古船を購入した際、その古船に潜んで日本に上陸したものであるといい、[[神戸港]]界隈に多くいたということである。このことは、トコジラミが[[江戸時代]]の日本では、一般に僅少だったことを意味する<ref>東京大学附属図書館所蔵資料 [[1897年]][[10月28日]]発行{{Full|date=2020-08-13}}</ref>。
 
明確な記録は明治初期から知られ、1877年の[[西南戦争]]時に[[小倉市|小倉]]の兵舎で発見されたのを皮切りに、軍隊の移動に伴い分布を広げ、[[鎮台]]虫とも呼ばれていた<ref name="荒俣2021" />。明治期に日本を訪れた旅行家、[[イザベラ・バード]]は著書『日本奥地紀行』(Unbeaten Tracks in Japan)で、宿泊先の宿で南京虫による被害に遭ったことを記述している。一方、[[第二次世界大戦]]終戦後も不衛生な地域や古い木造の建物、特に公衆の出入りする安バジル・や[[警察署・チェンバレン]]の留置場などには、極めて普遍的に見られた害虫である。谷崎潤一郎は「[[細雪]](下巻)」(1948年)においてホテルで宿泊時の際、南京虫の被害にあったことを描写している。また[[江戸川乱歩]]は回想記わが青春記日本事物誌([[1957年]]11月)中で、上京後住み込みで働いた印刷工場の[[寮]]で、ように南京虫に悩まされたこを皆無を記してい文献もある<ref name="荒俣2021" />
 
[[第二次世界大戦]]終戦後も不衛生な地域や古い木造の建物、特に公衆の出入りする安ホテルや[[警察署]]の留置場などには、極めて普遍的に見られた害虫である。谷崎潤一郎は『[[細雪]](下巻)』(1948年)においてホテルで宿泊時の際、南京虫の被害にあったことを描写している。また[[江戸川乱歩]]は回想記『わが青春記』([[1957年]]11月)の中で、上京後住み込みで働いた印刷工場の[[寮]]で、南京虫に悩まされたことを記している。
[[1965年]]頃より使用されだした[[有機リン]]系の[[殺虫剤]]の普及や生活環境の改善により、[[1975年]]頃には殆ど目にすることはなくなった<ref name=":0" />。
 
[[1965年]]頃より使用されだした[[有機リン]]系の[[殺虫剤]]の普及や生活環境の改善により、[[1975年]]頃には殆ど目にすることはなくなった<ref name=":0" />。しかし、21世紀(2005年ころ<ref name="夏秋2020" />)に入って宿泊施設、次いで住宅から被害が報告されるようになった<ref name="田中&田中2017" />。要因としては殺虫剤に対する抵抗性発達の他にも、海外からの旅行者や帰国者によって持ち込まれた可能性が考えられている{{Sfn|渡辺|2010|p=188}}。2010年代以降も海外からの観光客や海外への渡航者の増大により、トコジラミが国内へ持ち込まれる機会が多くなった<ref>{{cite news|和書
=== 現況 ===
日本では普通は目にすることのなくなったトコジラミだが、2010年代以降は海外からの観光客の増大や海外への渡航者も増え、トコジラミが国内へ持ち込まれる機会が多くなった。<ref name=":0" />。
 
[[兵庫県]][[神戸市]]にある寺院の[[住職]]が、[[鳥取県]]の[[三朝温泉]]にある旅館に宿泊した際、ダニに刺され、かゆみで[[葬式]]などの仕事ができなかったとして、旅館を相手に休業損害など計157万円の損害賠償を求めた[[民事訴訟]]の判決が[[2004年]][[6月29日]]に[[神戸地方裁判所]]であった。裁判長はシラミ(保健所の鑑定により正しくはトコジラミと判明した)がいたことを認め、旅館に慰謝料10万円の支払いを命じた。訴えによると住職は三朝町内の旅館に宿泊した際、全身にかゆみを感じ、その治療に約2か月かかり、1か月以上休業したという<ref>{{Cite news|和書|date=2004年6月29日 |newspaper=[[読売新聞]]}}</ref>。
 
近年、円安などによって[[訪日外国人旅行]]客が増加したことにより、彼らの体や荷物に付着して持ち込まれたトコジラミが宿泊した宿に入り込み、東京都や大阪府の宿泊施設を中心に発生例が相次ぐなど、旅館経営者は頭を悩ませている<ref>{{cite news|和書
| url = http://mainichi.jp/life/housing/news/20110907ddm013100204000c.html
| archiveurl = https://web.archive.org/web/20110907225503/http://mainichi.jp/life/housing/news/20110907ddm013100204000c.html
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}}</ref><ref name=":0" />。
 
[[兵庫県]][[神戸市]]にある寺院の[[住職]]が、[[鳥取県]]の[[三朝温泉]]にある旅館に宿泊した際、ダニに刺され、かゆみで[[葬式]]などの仕事ができなかったとして、旅館を相手に休業損害など計157万円の損害賠償を求めた[[民事訴訟]]の判決が[[2004年]][[6月29日]]に[[神戸地方裁判所]]であった。裁判長はシラミ(保健所の鑑定により正しくはトコジラミと判明した)がいたことを認め、旅館に慰謝料10万円の支払いを命じた。訴えによると住職は三朝町内の旅館に宿泊した際、全身にかゆみを感じ、その治療に約2か月かかり、1か月以上休業したという<ref>{{Cite news|和書|date=2004年6月29日 |newspaper=[[読売新聞]]}}</ref>。
[[オーストラリア]]や[[アメリカ合衆国]]でも、近年になって再びトコジラミが大発生し、観光業界に大打撃を与えている。アメリカでは[[21世紀]]に入り、トコジラミの大発生が問題となっている。例えば[[サンフランシスコ]]の衛生局では、[[2006年]]にトコジラミの感染について、2年前の倍以上の回数の報告<!--300件近く。これはサンフランシスコのデータなので、全米のデータがあれば上書きがのぞましい-->を受けた。約50年前に[[DDT]]の使用によりほぼ根絶やしにされたトコジラミが、新たに殺虫剤への[[薬剤抵抗性]]を身につけた「'''[https://total-clean.co.jp/pc/topics/tokoshirami/779/ スーパートコジラミ]'''」に進化したこと<ref name=":1" />、害虫の防除に使われる[[殺虫剤]]が、毒性の弱いものへと移行したことが再来の原因ではないかと報道されている<ref>{{Cite web|url=https://www.sfgate.com/cgi-bin/article.cgi?f=/c/a/2007/04/08/MNGIDP4V7K1.DTL |title=Bedbugs bounce back: Outbreaks in all 50 states |website=SFGate.com |date=2007年4月8日 |accessdate=2007-05-29}}</ref>。
 
アメリカ合衆国で採取されたトコジラミについて、薬剤感受性が調べられたが、[[ピレスロイド]]系殺虫剤に対し非常に強い薬剤抵抗性を示した<ref>Insecticide Resistance in the Bed Bug: A Factor in the Pest’s Sudden Resurgence? Alvaro Romero, Michael F. Potter, Daniel A. Potter, Kenneth F. Haynes Journal of Medical Entomology 2007 44(2), 175-178</ref>。
 
== 駆除方法 ==
*旅行先、宿泊先では荷物は床に直接置かず、ビニール袋に入れる。トコジラミが[[パラジクロロベンゼン]]の臭いを嫌う習性を利用して、旅行カバンの中には[[防虫剤]]を入れる<ref>[https://www.shinagawaseasideclinic.com/skin/atoz/ta/cimex_lectularius_linnaeus.html 品川シーサイド皮膚・形成外科クリニック「トコジラミ刺症」]</ref>。
*住居では、カーペットや[[絨毯]]の裏、[[畳]]の隙間や[[コンセント]]の隙間、壁の隙間、[[ベッド]]の裏、[[家具]]などの引き出しの裏、[[カーテン]]の折り目、[[衣類]]の縫い目、読まないで長期間放置している見開き[[雑誌]]などに隠れていることが多いので重点的に点検する<ref name=":1" />。人間には感知できない匂いがあることから、嗅覚に優れる[[イヌ|犬]]を訓練し発見する試みもある<ref name=":0" />。
*成虫が生息している可能性のある個所に半透明で楕円形の[[卵]]を産むので、卵を全て発見し除去しないと再発生を繰り返す。卵には薬剤が効きにくいため、薬剤の散布は成虫になるタイミングを見計らって複数回おこなう必要がある。素人では根絶するのが困難であることから、業者による駆除が推奨されている<ref name=":0" />。
*卵や成虫は加熱によって殺虫が可能であり、衣類スチーマー等を使用して 寝具やベッド周囲に80-100℃の高温スチームを念入りに当てることにより、寝具に潜むトコジラミの駆除ができる場合もある<ref>[https://mymc.jp/clinicblog/209076/ MymedicalClinic 「トコジラミとは?生息場所や刺された際の症状、治療法」]</ref>。宿泊施設では、寝具を業務用の[[加熱乾燥車]]などを使用して高温熱風駆除をしている所もある<ref>[https://tokojirami.net/method/method02.html 三共消毒「加熱乾燥処理」]</ref>。
*腹をこすりつけるように歩くため、[[絨毯]]や[[畳]]の裏などには[[ピレスロイド]]系の[[フェノトリン]](粉末状の薬剤)を散布することが これまでは有効であった<ref name=":1" />。
*最近では、従来の[[ピレスロイド]]系殺虫剤に[[薬剤抵抗性]]をもった耐性種が2022年以降 [[韓国]]などで大発生し<ref>[https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/859885 TBS NewsDIG 2023.11/27「韓国で大発生 トコジラミ 日本でも拡大のおそれ、専門家警鐘 殺虫剤成分に耐性 強力トコジラミも 対策は?」]</ref>、それらが旅行客や通販のダンボール箱を介して日本国内に持ち込まれる事例が相次いで報道され、トコジラミによる被害相談件数も過去最多を更新している<ref>[https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/879178?display=1 TBS NewsDIG 2023.12/07 「トコジラミはダンボール箱にも…通販や海外からの荷物が届いたら すぐには部屋に入れない などの対策も」]</ref> <ref>[https://www3.nhk.or.jp/news/html/20231212/amp/k10014285021000.html NHK NewsWEB 2023.12/12「痒くて痒くて… トコジラミ被害相談過去最多 対策は?」]</ref> <ref>[https://www.sankei.com/article/20230620-Y3N3QQAKORE6DGULOHYPY7JXMM/ 産経新聞 2023.06/20 「駆除が厄介なトコジラミの相談増加 旧来の1,000倍の耐性持つスーパー個体も出現」]</ref> <ref>[https://news.tv-asahi.co.jp/news_society/articles/900000833.html?page1 テレ朝News 報道ステーション 2023.11/25「専門家 日本でも広がる 韓国などでトコジラミ急増」]</ref>。<br/>これらの薬剤耐性トコジラミに対しては、[[フェニトロチオン]] (商品名:スミチオン) や [[プロポクスル]]、[[メトキサジアゾン]]が有効であることが明らかになっている<ref>[https://www.ki-phs.or.jp/mushi01/gaichuu/gaichuu00/tokojirami/tokojirami.html 公益社団法人 京都保健衛生協会 「トコジラミ」]</ref> <ref>[https://www.city.edogawa.tokyo.jp/e055/kenko/eisei/kankyo/sumaieisei/eiseigaichu/tokojirami.html 東京都江戸川区 「相談事例 トコジラミの発生」]</ref>。市販殺虫剤の製造元では[[オキサジアゾール]]系(メトキサジアゾンなど)を配合することで対応している<ref>{{Cite web|和書|url=http://www.earth-chem.co.jp/top01/tokojirami/tokojirami/aerosol.html |title=医薬品 トコジラミ ゴキブリ アース|家庭用殺虫剤|アース製薬株式会社 |accessdate=2017-07-23 |deadlinkdate=2020-08-13 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20170627082443/https://www.earth-chem.co.jp/top01/tokojirami/tokojirami/aerosol.html |archivedate=2017-06-27}}</ref>。
*[[アメリカ合衆国]]などでは[[フッ化スルフリル]]が使用されるが、強い毒性や[[温室効果]]などの問題がある。
 
== 名称 ==
「南京虫」の「南京」とは、[[江戸時代]]には海外から伝わってきた小さいもの、珍しいものに付けられる名だった(他の用例として[[南京錠]]、[[ラッカセイ|南京豆]]などが挙げられる)。この昆虫は海外からの荷物に付着して伝わってきたと考えられている。中国語では「臭虫」と呼ばれ、本種を「温帯臭虫」、タイワントコジラミを「熱帯臭虫」と称して区別する。タイワントコジラミとの混称と思われるが、[[地方名]]に、「あーぬん」([[沖縄県]][[石垣島]])、「あやぬん」(沖縄県[[小浜島]])、「ひーらー」、「っちゅくぇびーら(人食いひら)」([[首里方言]])、「あかめ」([[東京都]][[八丈島]])などがある<ref>尚学図書編、『日本方言大辞典』、[[1989年]]、小学館、ISBN 4-09-508201-1</ref>。布団やベッドに潜み、そこで被害を受けることが多いので「トコジラミ」や「トコムシ」の名称が付いた。[[英語]]ではトコジラミ、タイワントコジラミともに「bedbug」の名称が使われるが、トコジラミを特に指す場合は「common bedbug」と言う。
 
== ギャラリー ==
<gallery>
ファイル:Traumatic insemination 1 edit1.jpg|トコジラミの交尾
ファイル:トコジラミ 雑誌.JPG|長期間放置された[[ペーパーバック|見開き雑誌]]の綴じ部分にも、潜んでいる場合がある。
ファイル:トコジラミ 抜け殻.JPG|[[家具]]の裏など、掃除していると抜け殻が見つかる場合もある。
</gallery>
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== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
=== 注釈 ===
<references />
{{Notelist}}
=== 出典 ===
{{Reflist|refs=
<ref name="MichaelLehance">{{Cite book|first=Michael |last=Lehane |title=The biology of Blood-Sucking in Insects |isbn=0521543959 |page={{要ページ番号|date=2020-08-13}}}}</ref>
 
<ref name=":0">{{Cite web|和書|title=トコジラミに増加の兆し… 原因は?症状や対策も 駆除できる殺虫剤は {{!}} NHK {{!}} WEB特集 |url=https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230511/k10014063891000.html |website=NHKニュース |date=2023-05-11 |access-date=2023-12-02 |last=日本放送協会}}</ref>
 
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}}
 
=== 参考文献 ===
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* {{Cite journal| |author=Michael F. Potter |title=The History of Bed Bug Management一With Lessons from the Past |journal=American Entomologist |volume=57 |issue=1 |publisher=Entomological Society of America |year=2011 |pages=14-25 |doi=10.1093/ae/57.1.14 |ref={{SfnRef|Potter|2011}} }}
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* {{Cite journal |author=Stephen L. Doggett, Dominic E. Dwyer, Pablo F. Peñas, Richard C. Russell |title=Bed Bugs: Clinical Relevance and Control Options |journal=Clinical Microbiology Reviews |publisher=American Society For Microbiology |volume=25 |issue=1 |pages=164-192 |date=2012-01 |doi=10.1128/CMR.05015-11 |ref={{SfnRef|Doggett et al.|2012}} }}
* {{Cite journal |author=Stephen L. Doggett, Chow-Yang Lee |title=Historical and Contemporary Control Options Against Bed Bugs, Cimex spp. |journal=Annual Review of Entomology |volume=68 |publisher=Annual Reviews |year=2023 |pages=169-190 |doi=10.1146/annurev-ento-120220-015010 |ref={{SfnRef|Doggett & Lee|2023}} }}
* {{Cite journal |和書 |author=夏秋優 |title=有害節足動物による皮膚疾患の病態および実態の解明 |journal=衛生動物 |volume=74 |issue=2 |publisher=日本衛生動物学会 |year=2023 |pages=31-39 |doi=10.7601/mez.74.31 |ref={{SfnRef|夏秋|2023}} }}
 
== 関連項目 ==
* [[吸血動物]]
* [[害虫]]
* [[シラミ]]
* [[ノミ]]
* [[虫刺症]]
* [[四害駆除運動]] - 中国では[[大躍進政策]]が行われていた時代に[[ネズミ]]・[[ハエ目|ハエ]]・[[カ|蚊]]・[[スズメ]]を駆除の対象としていたが、後にスズメからトコジラミへと変更された。
 
== 外部リンク ==
{{Sisterlinks
| wikt = noトコジラミ
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