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乾式製錬で融剤が反応して生成するスラグは融解を促進する作用以外に、表面に浮かぶことで大気を遮蔽したり、不純物を取り込むなど精錬度を向上させる作用も併せ持つ。
 
== 鉱石の製錬時や窯業に用いる融剤 ==
各種鉱石中の母岩由来の岩石成分は製錬に際しては無用のものであり、できるだけ事前に取り除いておくこと([[選鉱]])が必要であるが、多くの場合高温での精錬過程に入る前に完全に除去するのは困難であり、工業的にも非現実的である。除き切れなかったものは、精錬過程の段階で生成した金属から除去するのが現実的であり、その際ある程度の高温で融けて流動することが分離が容易となり望ましい。そうすれば鉱石だけが比重が大きいので沈み、浮き上がった[[スラグ|鉱サイ]]は流出させることができる。
 
岩石中の主たる成分は[[ケイ酸]]の結晶である[[石英]]、およびその金属塩である[[ケイ酸塩鉱物]]である。ケイ酸は 2,000 ℃ の高温で融解して、なお流動しにくい。それはケイ素原子の4本の結合手がすべて二本の結合手を持つ酸素原子と結合し、[[共有結合]]による三次元網目状になっているからである。すなわちであるから、そのケイ素原子と結びつく酸素原子の一部でも1本の結合手しかない[[フッ素]]に置き換える、あるいは酸素原子と結びつくケイ素原子の一部でも金属イオンと結びつけることができれば、それだけで網目構造はかなり不完全なものとなる。
 
古来融剤として[[蛍石]]([[フッ化カルシウム]])が用いられてきた。鉱石を還元剤とともに加熱し、還元する過程で同時に蛍石を投入すると不要部分が融けて流れ出すことからフッ素には fluorine と言う名前が与えられた。この言葉は英語では flow (流れる)という語と同語源である。そのとき蛍石は赤紫色の光を発した。これは[[蛍光]] fluorescence という語になった。
 
その後、多くの鉱物が融剤としての効果を認められ、現在に至っている。製鉄では石灰石がケイ酸と結合してケイ酸カルシウムになり、銅の製錬では鉄分の除去に、ケイ酸と石灰石を加えて生じるケイ酸カルシウムを用いる。ケイ酸鉄がケイ酸カルシウムに融け込みやすいことを利用している。これは、ケイ酸は酸性酸化物であり、石灰石が分解して生じる酸化カルシウムは塩基性酸化物であるから、塩を作りやすいことに起因する。生じたケイ酸イオンは2次元高分子のイオンであり、ある程度の高温 (700 ℃) で流動しやすい。
 
また、岩石成分の除去のためではないが、[[アルミニウム]][[電解製錬]]は、[[酸化アルミニウム]]の融点が非常おいて高く、単独で融解しがたいのを、[[氷晶石]]に酸化アルミニウムが融けこみやすいことを利用し、800 ℃ 前後まで融解点を下げることきる可能となった。これも酸化アルミニウムの共有結合性の高い3次元網目構造に、1本の結合手しかないフッ素原子が入り込むことによる。
 
こうした融剤がケイ酸の溶融性を増し、粘性を下げる現象は[[窯業]]においても不可欠なものとなっている。[[ガラス]]は、多くの場合不純物の少ない石英の堆積物である[[ケイ砂]]にこうした融剤を加えて溶融し、さらに望みの性質を実現するための添加剤を付加して製造するし、[[陶磁器]]の[[焼結]]に際しても、[[陶器]]や[[磁器]]のような高温で一部が溶融する過程を経る製品は、原材料として融剤の性質を有する成分を必須とする。[[釉]](うわぐすり)も、原始的な製法では、陶磁器に融剤である[[灰|草木灰]]や[[食塩]]をそのままかけて表面を溶融、ガラス化させているし、進歩したものではケイ酸やケイ酸塩と融剤の混合物を主成分として配合されたものが用いられている。
 
== 化学分析で用いる融剤 ==