「有機電子論」の版間の差分

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m 誘起効果について加筆
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一方、量子化学的には水素のs軌道×2分子と酸素のs軌道×1、p軌道×1との計4本の原子軌道が混成により分子軌道を形成すると考えられる。すなわちσとσ*とが二づつ、計4本の分子軌道が生成する。そこに水素と酸素との原子軌道からからパウリの禁止律を満たしつつエネルギー準位が最も低くなる組み合わせで4つの電子が遷移して共有結合が形成している。言い換えると、量子化学では生成する電子軌道の準位を定量的に扱うことが可能であり、実際共有結合が生成するのは、原子軌道と分子軌道とを比べるとエネルギー準位的に分子軌道の方が低いのでエネルギー的に結合生成が優位になるためである。
 
しかし、単に反応前後の分子の構造に着目するだけであれば、量子化学的な分子軌道のエネルギー準位よりはルイスの構造式の方が、反応形式のシンボルとして直感的に判りやすくモデルして使やすいとも言える。
 
== 誘起効果 ==
ルイスは分子の双極子モーメント測定結果から、ある原子の静電効果が結合を介して隣接する他の原子の静電効果に影響を及ぼすことを指摘している。例えば塩素原子が結合したα位、β位の炭素は、連結数を経るにつれて作用は減弱するものの、塩素原子に電子が引き付けられ、塩素原子が存在しない場合よりも価電子の作用が減弱した性質を示す。この様に電子親和性(言い換えるならば電気陰性度)が化学結合を介して他の原子の静電的環境に影響を及ぼす作用を[[ロバート・ロビンソン|R.ロビンソン]]は'''誘起効果'''('''I効果'''、Inductive effect)と呼称した。
 
誘起効果が物理現象として明確に現れる例として、置換基と酸または塩基性の強度との相関が挙げられる。例えば、カルボン酸誘導体に対して電子吸引基である塩素基が置換したケースについて説明する。酢酸に対して、モノクロロ酢酸、ジクロロ酢酸そしてトリクロロ酢酸のpKaを次に示す。
* CH<sub>3</sub>COOH - pKa = 4.74
* ClCH<sub>2</sub>COOH - pKa = 2.87
* Cl<sub>2</sub>CHCOOH - pKa = 1.25
* Cl<sub>3</sub>CCOOH - pKa = 0.77
この様に、塩素の置換数が増大するにつれて強酸性となる。言い換えるとカルボン酸のOH基の酸素上の電子密度が低いほど解離が進行しやすく、この例では塩素のI効果(I<sup>-</sup>効果)により、酸素上の電子が塩素側に引き付けられ、置換した塩素基の数が多いほどI<sup>-</sup>効果が強く現れ、pKaが減少傾向を示したと説明することができる。
 
逆の例としてアニリンとp-トルイジンの塩基性の例が挙げられる。p-位に置換したメチル基からの電子供与性を示し、それがI効果(I<sup>+</sup>効果)により、窒素原子上の電子密度を増やし塩基性が増大したと説明することができる。
 
この様に、電子吸引性の誘起効果を'''I<sup>-</sup>効果'''、電子供与性の誘起効果を'''I<sup>+</sup>効果'''と呼称することがある。また、配位結合を正負のイオン対が接合した状態とみなすことができ、配位結合を→で示すことの比喩で、I効果が存在する共有結合を
:[[画像:解説_I効果記号.PNG]]
の記号で表示する場合がある。
 
==関連項目==
*[[分子軌道法]]
*[[誘起]]
*[[共鳴]]