「経頭蓋磁気刺激法」の版間の差分

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</ref>により、オフライン rTMS はプラセボ効果の影響を非常に受けやすいという欠点がある。加えて、オフライン rTMS の効果は被験者間や同一被験者内でも一定ではない。この方法の派生として、反復刺激法により課題成績を上げる‘強化’法があるが、‘ノックアウト’法よりさらに困難である。
 
==注意に関する研究==
“The Psychologist”に発表された最近の論文において、[[カーディフ大学]]心理学部および[[ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン]]認知神経科学研究所のクリス・チェインバース (Chris Chambers) は TMS を用いることによる、注意 (attention) の認知神経科学の最近の発達に関して注目している<ref>Chambers, C., (2008), A stimulating take on attention, The Psychologist, Vol 21, Part 6, June 2008, 502� 505</ref>。
認知神経科学に TMS を用いることで以下の点が明らかになっている。
*1. [[頭頂葉]]における注意のコントロールに関して少なくとも2つの段階が存在する。
*2. 両大脳半球間の相互的な抑制が、空間における均等な注意の配分の維持に重要である。
*3. 心理学的な概念としての注意は単一なものとされているが、神経科学的には、異なる神経処理の連続によるものである。
 
===注意のメカニズム===
[[脳波]]研究による証拠から、注意における特定の刺激の選択には、皮質による処理が少なくとも2段階必要とされている。その処理とは、前半の感覚活動による‘フィードフォワード’処理による波と、後半の頭頂葉と[[前頭葉]]にある注意の門番 (gatekeeper) による‘フィードバック’処理による掃引 (sweep) から成る<ref>Martinez, A., 1999. Involvement of striate and extrastriate visual cortical areas in spatial attention. Nature Neuroscience, 2, 364� 369</ref> <ref>Noesselt, T., Hillyard, S.A., Woldorff, M.G. et al, 2002. Delayed striate cortical activation during spatial attention. Neuron, 35, 575� 587</ref>。
 
単発の TMS パルスは脳活動に対して非常に短い時間だけ効果を与えるので、異なる刺激開始時間の TMS 実験の結果を比較することによって、皮質による課題への関与の時間経過を知ることが出来る<ref> Amassian, V.E., Cracco, R.Q., Maccabee, P.J. et al., 1989. Suppression of visual perception by magnetic coil stimulation of human occipital cortex. Electroencephalography & Clinical Neurophysiology/Evoked Potentials Section, 74, 458� 462</ref>。
 
チェインバースらによる TMS 研究の初期のもので、単発 TMS パルス刺激により[[角回]] (下頭頂葉の下位領域) を被験者が注意を空間内で動かす際の様々な時間帯で刺激したものがある。その結果、TMS により角回を刺激することによって注意の移動の阻害はターゲットが現れてから90から120ms 後と210から240ms 後の2ヶ所で発生した<ref> Chambers, C.D., Payne, J.M., Stokes, M.G. & Mattingley, J.B., 2004, Fast and slow parietal pathways mediate spatial attention. Nature Neuroscience, 7, 217� 218</ref>。このことから注意の移動には2種類の時間変化が存在することが分かる。
 
===TMS による注意の促進===
脳卒中によって頭頂葉に障害を負った患者は注意の障害を示すことは既に知られていた<ref> Driver, J. & Mattingley, J.B., 1998, Parietal neglect and visual awareness. Nature Neuroscience, 1, 17� 22</ref>。また、右大脳半球の損傷を負った人の多くは右視野への病的な注意の偏りを示す。この症状は“[[半側無視]]”と呼ばれ、一次知覚の欠如を経て起き、左右頭頂葉間の相互的な抑制に障害が起きることによって生じると信じられている<ref>Kinsbourne, M., 1977, Hemi-neglect and hemisphere rivalry. Advances in Neurology, 18, 41� 49</ref>。先に述べた右頭頂葉の損傷は、左大脳半球の抑制の欠如を生み、右側への注意の偏りと、左側の無視を引き起こしたと考えられる。
 
左右大脳半球による注意の制御のバランスを変化させることで、多くの研究者が健常者への TMS が注意の促進を引き起こすことがあることを示している<ref> Chambers, C.D., Stokes, M.G., Janko, N.E. & Mattingley, J.B., 2006, Enhancement of visual selection during transient disruption of parietal cortex. Brain Research, 1097, 149� 155 </ref> <ref>Hilgetag, C.C., Theoret H. & Pascual-Leone, A., 2001, Enhanced visual spatial attention ipsilateral to rTMS-induced ‘virtual lesions’ of human parietal cortex. Nature Neuroscience, 4, 953� 957</ref> <ref>Seyal, M., Ro, T. & Rafal, R. (1995). Increased sensitivity to ipsilateral cutaneous stimuli following transcranial magnetic stimulation of the parietal lobe. Annals of Neurology, 38, 264� 267</ref>。このような実験では、TMS による右頭頂葉の刺激により右半側の刺激の選択の促進を起こしている。加えて、この効果は刺激の呈示から130ms 後という早い時間に起きる。半側無視の症状と併せて考えると、このような現象から頭頂葉への干渉は両半球の微妙なバランスを乱し、空間の右側への無意識的な‘過度の注意’を引き起こしていると考えれれる。
 
===“ふとっちょのきょくちょう”仮説===
チェインバースにより研究された別の疑問として、 "どれくらい共通の神経メカニズムによって場所や色や形といった異なる刺激の特性の選択が決定されるのか?"言い換えれば、頭頂葉か前頭葉には注意の制御の全ての側面を見通す‘ふとっちょのきょくちょう’ (Fat Controller) は存在するのか?という疑問がある。
 
ヒトの[[脳機能イメージング]]の結果から、“ふとっちょのきょくちょう“メカニズムを指示するいくつかの根拠が見つかっている。場所や色などの異なる刺激の次元に注意を向ける際でも、非常によく似た活動パターンが前頭葉と頭頂葉で観察された<ref>Giesbrecht, B., Woldorff, M.G., Song, A.W. & Mangun, G.R., 2003, Neural mechanisms of top-down control during spatial and feature attention. NeuroImage, 19, 496� 512</ref> <ref> Slagter, H.A., Giesbrecht, B., Kok, A. et al., 2007, fMRI evidence for both generalized and specialized components of attentional control. Brain Research, 1177, 90� 102</ref>。
 
[[FMRI|fMRI]]と脳波計による研究から、視覚、聴覚、触覚における空間的な注意の定位について、非常によく似た頭頂葉と前頭葉の活動パターンが見られることが示されている。しかし、脳機能イメージングでは、例えばその活動が実際に視覚や触覚の注意に必要なのかといった疑問に答えることが出来ない。一方で、TMS を用いれば、より直接的な実験が可能になる。チェインバースらによる実験によって、現在では、少なくとも頭頂葉の一部の領域が視覚刺激に対する注意の定位に特化していることが示されている<ref>Chambers, C.D., Payne, J.M. & Mattingley, J.B., 2007. Parietal disruption impairs reflexive spatial attention within and between sensory modalities. Neuropsychologia, 45, 1715� 1724</ref> <ref>Chambers, C.D., Stokes, M.G. & Mattingley, J.B.,2004, Modality-specific control of strategic spatial attention in parietal cortex. Neuron, 44, 925� 930</ref>。
 
このことから空間的な注意は一人の“ふとっちょのきょくちょう“によるものというよりは複数のモダリティー特異的な“門番“による連続的な処理であることは明らかである。
 
===将来的な研究===
チェインバースらは研究の発達の鍵として、TMS と[[FMRI|fMRI]]<ref>Ruff, C.C., Blankenburg, F., Bjoertomt, O. et al., 2006, Concurrent TMS-fMRI and psychophysics reveal frontal influences on human retinotopic visual cortex, Current Biology, 16, 1479� 1488</ref>や[[脳波計]]<ref> Fugetta, G., Pavone, E.F., Walsh V. et al., 2006, Cortico-cortical interactions in spatial attention: A combined ERP/TMS study. Journal of Neurophysiology, 95, 3277� 3280</ref>などの他のイメージング技術との連携を挙げている。これらの方法の連携により、頭頂葉から[[視覚野]]への経路や左右の大脳半球の高次領域を結ぶ経路を通る‘トップダウン’の信号に関する新しい知見が得られる可能性がある。
 
==TMS と rTMS の危険性==