「適応度」の版間の差分

削除された内容 追加された内容
AlleborgoBot (会話 | 投稿記録)
m ロボットによる 変更: it:Fitness (genetica)
Mo-rin (会話 | 投稿記録)
編集の要約なし
1行目:
'''適応度'''(てきおうど、英語''fitness'')は[[生物学]]、とくに[[集団遺伝学]]など[[数理生物学]]分野で用いられる語である。
 
===古典的適応度===
字義通りに理解すれば、その生物個体がどれほどその生活する環境に[[適応]]しているかを示す値である。しかし、これには出産数や出産間隔など直接的に繁殖に関わる特性だけでなく筋力や視力、体の大きさといった多くの特性も間接的に関わってくる。このことから、適応度はその個体が生物として繁栄していく能力を総体として捉えるための概念として捉えることができる。[[チャールズ・ダーウィン]]の時代に用いられた適応度(Fitness)はこの意味であり、現在でも「適応的(生き延びるのに適した性質だろう)」と同様の意味とし「適応度が高い」と用ることがある。
 
===個体適応度と遺伝的適応度===
より理論的な現在一般に用いられている定義としては、一般的には[[自然選択説]]の考えに立ち、より多く子供を残すものが進化に勝ち残選択されるのだから、「'''ある生物個体がその生涯で生んだ次世代の子のうち、繁殖年齢まで成長できた子の数'''」となる。通常動物学などのフィールドワークや実験で遺伝的適応度を計測することは困難であるため、この定義を一次近似として用いる。このようにれを個体適応度と呼ぶ。また子の実数で表す適応度のことを絶対適応度と呼ぶ。個体数が安定した環境では、平均的な絶対適応度は1である。しかし[[繁殖戦略]]によっては、次世代の子供の数が同じでも孫の数に差が出ることもある([[フィッシャーの原理]]も参照せよ)。そのためより正確な(厳密ではないが)表現としては「十分遠い将来のある世代に残った子孫の数」と言うことができる。
 
数学一方、遺伝な定義で適応度は「ある形質をもたらす対立遺伝子(進化ゲーム理論のばあいは戦略)が集団中に広まる速度」と言うことができる。たとえば二組のカップルペアがおり、一方が遺伝子Xの影響で生涯に6匹の子をもうけたとする。もう一方は対立遺伝子Yの影響によって生涯に4匹の子をもうけたとする。この群れの平均産子数は(4+6)/2=5であり、Xの適応度は6/5=1.2となる。Yの適応度は4/5=0.8となる。この値を相対適応度と呼び、集団遺伝学、[[数理生態学]]などで通常用いられるのは相対適応度である。遺伝的適応度は個体適応度と一致しない場合がある。集団全体の相対適応度は常に1である。そのため相対適応度が1であればその遺伝子は広まりも減りもしないが、1より小さければ集団内で次第に数を減らし、1より大きければ次第に数を増す。値が大きければ大きいほど急速に広まる。この例ではXが増してゆく。
 
===包括適応度===
適応度をある個体の子孫だけでなくその親族、あるいは同じ対立遺伝子を持つ可能性のある他個体にまで広げたものを[[包括適応度]]と言う。社会性行動の進化を扱うさいには包括適応度を用いなければならない。この場合は通常、子にも包括適応度における血縁度の計算が適用される([[有性生殖]]では子の遺伝的価値は親の半分であり、[[親子の対立|親子の進化的対立]]の原因である)。包括適応度は遺伝的適応度の概念の一つであり、包括適応度を個体の数で計算すると混乱の原因となる。包括適応度の上昇はある社会行動の効果に対して用いられる。例えば自分が親族を助けたことでその親族が多くの子を残した場合、「自分の利他行動に関する対立遺伝子」の包括適応度が上昇する。全く別の地域に移住し相互作用できなくなった親族が子を産んでも自分の包括適応度が上昇したことにはならない
 
適応度の概念を提唱し、数学的なモデルとして構築したのは集団遺伝学者[[ロナルド・フィッシャー]]、[[J・B・S・ホールデン]]、[[シュワール・ライト]]らであった。[[W.D.ハミルトン]]はこれを拡張して包括適応度を提唱した。さらに後年、[[ジョージ・プライス (科学者)|G.プライス]]の共分散則を取り入れて、包括適応度を親族以外にも適用できる概念へと拡張した。
 
 
15 ⟶ 18行目:
* Haldane, J.B.S. (1924) "A mathematical theory of natural and artificial selection" Part 1 ''Transactions of the Camrbidge philosophical society'': 23: 19-41 [http://www.blackwellpublishing.com/ridley/classictexts/haldane1.pdf link (pdf file)]
* Hamilton, W.D. (1964) "The evolution of social behavior" ''Journal of Theoretical Biology'' 1:...
*[[リチャード・ドーキンス]] 『延長された表現型』--「適応度狩り」の章で異なる五種の適応度について概説している。
 
==関連記事==