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『'''人口論'''』とは[[マルサス]]による[[人口統計学|人口学]]の古典的著作である。
この著作の正確な題名は『人口の原理に関する一論 ゴドウィン氏、コンドルセー氏、その他の諸氏の研究に触れて社会の将来の改善に対する影響を論ず(An Essay on the Principle of Population, as it affects the future improvement of society, with remarks on the speculations of Mr. Godwin,
== 沿革 ==
著者の[[トマス・ロバート・マルサス]]は古典経済学の発展に寄与した経済学者であった。1766年2月14日に牧師の家庭に生まれ、[[ケンブリッジ大学]]で学んだ。1798年にマルサスは『人口論』を執筆した当時、イギリスではフランスとの戦争や物価の高騰などの経済問題が出現しており、対策として[[救貧法]]改正の是非が議論されていた時期であった。また[[フランス革命]]の影響で、[[ウィリアム・ゴドウィン]]らの啓蒙思想家により、社会改良による貧困や道徳的退廃の改善の実現が主張されていた。このような情勢の中でマルサスは[[人口]]の原理を示すことで理想的な革新派を批判しようとした。
初版は匿名で出版され大きな反響を呼んだ。1803年には大幅な訂正や増補を加えて、著者名を付けて第二版を出版した。以後、版を重ねるごとに増補を加えて1826年に出した最後の第六版では初版の約五倍の語数に達している。
== 内容 ==
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この二つの前提から導き出される考察として、マルサスは[[人口]]の増加が生活資源を生産する土地の能力よりも不等に大きいと主張し、'''人口は制限されなければ幾何級数的に増加するが生活資源は算術級数的にしか増加しない'''、という命題を示す。
人口は制限されなければ幾何級数的に増加するという原理は理論上における原理である。風俗が純潔であり、生活資源が豊富であり、社会の各階層における家族の生活能力などによって人口の増殖力が完全に無制限であることが前提になっている。この理論的仮定において繁殖の強い動機づけが社会制度や食料資源によって一切抑制されないならば、人口増は現実の人口状況より大きいものになると考えられる。ここでマルサスは米国において、より生活資源や風俗が純潔であり、早婚も多かったために、人口が25年間で倍加した事例を示し、この増加率は決して理論上における限界ではないが、これを歴史的な経験に基づいた基準とする。そこで人口が制約されなければ25年毎に倍加するものであり、これは幾何級数的に増加することと同義である。
生活資源は算術級数的にしか増加しないという原理は次のような具体的な事例で容易に考察できる。ある島国において生活資源がどのような増加率で増加するのかを考察すると、まず現在の耕作状況について研究する必要がある。もし最善の農業政策によって開拓を進め、[[農業]]を振興し、生産物が25年で2倍に増加したという状況を想定する。このような状況で次の25年の間に生産物を倍加させることは、土地の生産性から考えて技術的に困難であると考えられる。つまりこのような倍加率を指して算術級数的な増加と述べることができる。この算術級数的な生活資源の増加は人口の増加と不均衡なものであると考えられる。<ref>マルサスは人口と生活資源の増加が不均衡であることについて、次のような具体的な状況を想定している。ある島国の人口は約700万名であり、生活資源となる生産物はこの人口を充足させる分量だけ存在すると仮定する。最初の25年間で人口は幾何級数的に増加して1400万名となり、食物も算術級数的に増加するためにこの人口の所要量に達する。問題は次の25年間で出現する。なぜなら人口は2800万名に増加するものの、生活資源は2100万名分の所要量を満たすだけである。さらに次の25年間になると人口は5600万名になるが、生活資源は2300万名分を確保できるに過ぎず、1世紀の終わりには人口が1億1200万名で生活資源は3500万名分の不均衡が発生することになる。この議論は本質的に一地域だけに限定されるものではなく、地球全体にも適用できる議論である。仮に全世界の人口が10億名であり、生活資源は充足しているという状況を想定すると225年後の人口と生活資源の比率は512対10となり、3世紀後には
=== 貧困の出現 ===
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