「維管束植物レッドリスト (環境省)」の版間の差分

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'''植物I(維管束植物レッドリスト'''(しょくぶついち(いかんそくしょくぶつレッドリスト)は、[[日本]]の[[環境省]]が公表した[[維管束植物]]の[[レッドリスト]]であり、日本国内における維管束植物の[[絶滅危惧種|絶滅危惧]]の評価である。日本国内の個体群に対しての評価であるので、世界的にみれば普通種に該当する場合がある。なお、環境省では、維管束植物を「植物I」、維管束植物以外(蘚苔類、藻類、地衣類、菌類)を「植物II」に分類して作成している。
{{改名提案|維管束植物レッドリスト (環境省)|date=2009年5月|t=ノート:植物I(維管束植物)レッドリスト (環境省)/変遷#改名提案}}
 
維管束植物のレッドリストの作成に当たっては、他の分類群とは異なり、大規模な現地調査とその調査結果に基づく定量的なカテゴリー評価を行っている。特に定量的なカテゴリー評価の一手法である「'''絶滅確率の推定'''」は植物I(維管束植物の特色となっている。この定量的な絶滅確率の推定(絶滅リスク評価)は、[[1997年]]公表のレッドリストにおいて世界で初めて採用されたものである<ref>矢原徹一 「植物レッドデータブックにおける絶滅リスク評価とその応用」 『保全と復元の生物学 野生生物を救う科学的思考』 種生物学会編、文一総合出版、2002年12月10日、60頁、ISBN 4-8299-2170-6。</ref>。
'''植物I(維管束植物)レッドリスト'''(しょくぶついち(いかんそくしょくぶつ)レッドリスト)は、[[日本]]の[[環境省]]が公表した[[維管束植物]]の[[レッドリスト]]であり、日本国内における維管束植物の[[絶滅危惧種|絶滅危惧]]の評価である。日本国内の個体群に対しての評価であるので、世界的にみれば普通種に該当する場合がある。
 
維管束植物のレッドリストの作成に当たっては、他の分類群とは異なり、大規模な現地調査とその調査結果に基づく定量的なカテゴリー評価を行っている。特に定量的なカテゴリー評価の一手法である「'''絶滅確率の推定'''」は植物I(維管束植物)の特色となっている。この定量的な絶滅確率の推定(絶滅リスク評価)は、[[1997年]]公表のレッドリストにおいて世界で初めて採用されたものである<ref>矢原徹一 「植物レッドデータブックにおける絶滅リスク評価とその応用」 『保全と復元の生物学 野生生物を救う科学的思考』 種生物学会編、文一総合出版、2002年12月10日、60頁、ISBN 4-8299-2170-6。</ref>。
 
== 概要 ==
環境省版の植物I(維管束植物レッドリストは、[[1997年]](平成9年)[[8月28日]]に作成されたもの(1997年版RL)が初めてである<ref name="kan1">環境省報道発表資料 『[http://www.env.go.jp/press/press.php?serial=982 植物版レッドリストの作成について]』、1997年8月28日。</ref><ref>ただし、日本産の維管束植物を対象としたレッドデータブックとしては、[[1989年]]に財団法人[[日本自然保護協会]]及び財団法人[[世界自然保護基金]]日本委員会が発行した「我が国における保護上重要な植物種の現状」がある。当資料では895種が掲載されている。</ref>。この1997年版レッドリストを基に、2000年(平成12年)7月に『改訂・日本の絶滅のおそれのある野生生物8 植物I(維管束植物)』が作成された(2000年版RDB)。さらに、[[2007年]](平成19年)[[8月3日]]に最新のレッドリスト(2007年版RL)が公表された<ref name="kan2">環境省報道発表資料 『[http://www.env.go.jp/press/press.php?serial=8648 哺乳類、汽水・淡水魚類、昆虫類、貝類、植物I及び植物IIのレッドリストの見直しについて]』、2007年8月3日。</ref>。
 
なお、1997年版RLから2000年版RDBの作成にかけて大幅に内容が変更されている。先行して種名やカテゴリーを発表するレッドリストと、時間をかけて詳細な情報を組み込むレッドデータブックでは、分類の変更や新たな生育場所の確認などの新知見により若干の変動があるが、維管束植物の場合はその程度が大きいため、2000年版RDBのリストについても掲載した(なお、2000年版RDB単体のリストは[[植物I(維管束植物レッドデータブック (環境省)]]を参照のこと)。
 
1997年版RLでは1,901種(亜種及び変種を含む、以下同じ)、2000年版RDBでは1,887種、2007年版RLでは2,018種で、掲載種数は若干の増加傾向にある。ただしこれは、最新の研究の結果により[[生物の分類|分類]]が変更されたこと(それまでは別(亜・変)種と考えられていたものが、同(亜・変)種であると改められる等)や、評価単位が変更されたこと(種単位で評価していた分類群を亜種単位での評価に変える等)などによる部分があるので、掲載種数の増加が単純に[[絶滅危惧種]]の増加を示すとは言えないことに注意する必要がある。
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== 作成体制・方法 ==
=== 作成体制 ===
植物I(維管束植物レッドリストの作成に当たっては、環境省が委嘱した「絶滅のおそれのある野生生物種の選定・評価検討会」(座長:[[阿部永]]北海道大学教授)にてレッドリスト(及びレッドデータブック)全体の見直し・作成の検討を行い、検討会に設置された「植物I分科会」(座長:[[岩槻邦男]][[兵庫県立人と自然の博物館|兵庫県立人と自然の博物館長]])にて維管束植物に関する調査方法や評価方法・結果の検討を実施した<ref name="kan2"/>。この検討体制は他の分類群と同様であるが、維管束植物においては[[1993年]](平成5年)より、現地調査や情報収集・評価を、[[日本植物分類学会]]が[[環境省]]の事業委託を受けて実施している。日本植物分類学会では「絶滅危惧植物問題検討第一専門委員会」(委員長:[[矢原徹一]]九州大学教授)を設置して作業を行い、2000年版RDBでは約400人の、2007年版RLでは527名の調査員による調査が行われた<ref>環境庁自然環境局野生生物課編 『改訂・日本の絶滅のおそれのある野生生物8 植物I(維管束植物)』 財団法人自然環境研究センター、2000年、10頁、ISBN 4-915959-71-6。</ref><ref name = "6kai">藤田卓ら 「日本の絶滅危惧植物のリスク評価-環境省版レッドリスト見直し調査報告-」『日本植物分類学会第6回大会研究発表要旨集』 日本植物分類学会、74頁、2007年3月。</ref><ref name = "yahara">[http://d.hatena.ne.jp/yahara/20070804/1186189258 空飛ぶ教授のエコロジー日記]</ref>。
 
=== 調査方法 ===
植物I(維管束植物レッドリストの現地調査の対象種は以下のとおりである<ref name="kan2"/>。
#2000年版RDBにて絶滅危惧IA類に評価されたもの。
#下記の条件に当てはまる種で、絶滅のおそれのある野生生物種の選定・評価検討会植物I分科会で検討されたもの。
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##2000年版RDBにて絶滅危惧IB類または絶滅危惧II類で評価されたもの。
 
植物I(維管束植物レッドリストの現地調査の方法は、2000年版RDBの調査方法と同様に定量的な情報を収集するために実施された<ref name = "6kai"/>。2000年版RDBの調査方法<ref>環境庁自然環境局野生生物課編 『改訂・日本の絶滅のおそれのある野生生物8 植物I(維管束植物)』 財団法人自然環境研究センター、2000年、10-11頁、ISBN 4-915959-71-6。</ref>は、[[国土地理院]]発行の1/25,000地形図を基本に日本全国を4457メッシュに分割し<ref>島嶼部などについては微修正が加えられている。</ref>、各調査対象種のメッシュ毎の「現存[[個体数]]」及び「減少率」等を調査票に記録する方法である。調査は上記の調査員が実施し、各都道府県ごとに設置された主任調査員が各調査員の提出した調査結果を基に調査票を作成している。調査に当たっては既存データも使用している。なお、総メッシュ数は延べ10,226メッシュである<ref name = "yahara"/>。
 
現存個体数は開花個体数とし、下記の5段階に区分して記録した。
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=== 評価方法 ===
植物I(維管束植物レッドリストでは、定量的な数値基準に基づくカテゴリー評価を実施している。この数値基準はA~Eの5つの基準があり、その概要は以下のとおりである<ref>環境庁自然環境局野生生物課編 『改訂・日本の絶滅のおそれのある野生生物8 植物I(維管束植物)』 財団法人自然環境研究センター、2000年、12-15頁、ISBN 4-915959-71-6。</ref>(なお、詳細は[http://www.env.go.jp/press/file_view.php?serial=9953&hou_id=8648 レッドリストカテゴリー(環境省、2007)]を参照の事)。
 
#A基準 - 減少率のみを使用する基準
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絶滅確率の推定は絶滅リスク評価とも呼ばれ、この理論的研究は1980年代に大きく発展しており、[[IUCN]]版[[レッドリスト]]においてもMaceとLande(1991)により提案がなされている。しかしながら、絶滅確率の推定には、その種の個体数の変動や現存する個体数、齢構成、繁殖率などの情報が必要であり、それらの情報は野外に生育・生息する生物に対してはほとんど判明していない。そのためIUCN版レッドリストではほとんど採用されていない基準(E基準)であるが、環境省版の維管束植物レッドリストでは以下の手法に基づき、E基準を適用している<ref>矢原徹一 「植物レッドデータブックにおける絶滅リスク評価とその応用」 『保全と復元の生物学 野生生物を救う科学的思考』 種生物学会編、文一総合出版、2002年12月10日、59-61頁、ISBN 4-8299-2170-6。</ref>。
 
植物I(維管束植物レッドリストでの絶滅確率の推定(E基準)では、将来の絶滅確率が何パーセントであるかにより判定する<ref>環境庁自然環境局野生生物課編 『改訂・日本の絶滅のおそれのある野生生物8 植物I(維管束植物)』 財団法人自然環境研究センター、2000年、12-13頁、ISBN 4-915959-71-6。</ref>。
#絶滅危惧IA類 - 10年後(または3世代)の絶滅確率が50%以上
#絶滅危惧IB類 - 20年後(または5世代)の絶滅確率が20%以上
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絶滅確率を推定する上で、個体数が10,000個体以上存在するメッシュがある場合、個体数が不明のメッシュがある場合、メッシュ数が少なく個体数が安定している場合などにおいては、過大評価されている可能性がある。この場合にはE基準の採用せずに他の基準を採用している<ref>環境庁自然環境局野生生物課編 『改訂・日本の絶滅のおそれのある野生生物8 植物I(維管束植物)』 財団法人自然環境研究センター、2000年、13頁、ISBN 4-915959-71-6。</ref>。
 
このように植物I(維管束植物レッドリストにおける絶滅確率の推定には、多くの数学的・生物学的仮説が含まれており課題が残されているものの、主観に左右される定性的な評価よりも適切である。レッドリスト及びレッドデータブックの編集に携わった矢原徹一(2002)は絶滅確率の推定を「将来を正確に予測するよりもむしろ、仮定を明確にした上で、将来のリスクを評価している」、「このように一連の過程に基づく絶滅リスクの評価は、正確とは言い難い」としている<ref>矢原徹一 「植物レッドデータブックにおける絶滅リスク評価とその応用」 『保全と復元の生物学 野生生物を救う科学的思考』 種生物学会編、文一総合出版、2002年12月10日、61、73頁、ISBN 4-8299-2170-6。</ref>。
 
== 植物I(維管束植物レッドリストの変遷 ==
維管束植物の絶滅危惧(絶滅のおそれのある種)の数は、1,997年版RLでは1399種、2000年版RDBでは1,665種、2007年版RLでは1,690種で増加傾向にある。
 
ただし、1997年版RLから2000年版RDBでの絶滅危惧の数の増加(256種の増加)は、1997年版RL時の情報不足に評価された種を、2000年版RDBでは可能な限りカテゴリー評価を行った結果である(情報不足の数は1997版RLでは365種で、2000年版RDBでは52種である)。またそれ以外にも当時の最新の知見に基づきカテゴリーや分類群の変更が行われている。
 
植物I(維管束植物の実質的なリストの見直しは2007年版RLが初めてである。絶滅危惧の数は2000年版RDBから2007年版RLでは25種の増加でほぼ同数であるが、内訳をみると174種が準絶滅危惧や情報不足、ランク外とされ、211種が準絶滅危惧や情報不足、ランク外から絶滅危惧とされた。絶滅と判断された[[リュウキュウヒメハギ]]と[[オオユリワサビ]]については新たな個体群が確認された。また、[[アサザ]]や[[サクラソウ]]、[[シバナ]]、[[サギソウ]]などは適切な保全対策により絶滅危惧から準絶滅危惧へカテゴリーが低下した。[[ヤクシマタニイヌワラビ]]、[[キレンゲショウマ]]等は[[シカ]]の食害による影響が示唆された<ref name="kan2"/>。
 
詳細な各種のカテゴリーの変遷については[[植物I(維管束植物レッドリストの変遷 (環境省)/変遷|維管束植物レッドリストの変遷]]の表を参照のこと。
 
=== 総計 ===
{|class="wikitable"
|+植物I(維管束植物レッドリストの総計
!カテゴリー!!1997年版RL!!(2000年版RDB)!!2007年版RL!!備考
|-
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など。その一方で、主観的であったレッドリストの作成に、論理的一貫性をもたらした意義について評価している。
 
[[#絶滅確率の推定]]でも述べたように、植物I(維管束植物レッドリストにおけるカテゴリー評価は、いくつかの仮定に基づく正確性に疑問が残るものである。一方、この仮定に明確にした上で、すべての種について一定の基準を当てはめたことは評価できる。環境省の維管束植物レッドリストよりも前の[[1989年]]に作成された『我が国における保護上重要な植物種の現状』(1989年版RDB)では、895種の維管束植物が掲載されているが、その評価は定性的であり、ある程度研究者の主観に基づいている。[[ミゾコウジュ]]と[[カワジシャ]]が1989年版RDBでは絶滅危惧(絶滅寸前)で掲載されているが、環境省版レッドリストでは絶滅確率の推定に基づき、絶滅危惧よりもランクが低い準絶滅危惧と判定された。逆に1989年版RDBでは掲載されていない[[キキョウ]]については絶滅危惧II類に評価されている。これらは定性的な評価を排除し、客観的な情報に基づいたカテゴリー評価の結果であり、レッドリスト・レッドデータブックの透明性・客観性を高めた一例である<ref>矢原徹一 「植物レッドデータブックにおける絶滅リスク評価とその応用」 『保全と復元の生物学 野生生物を救う科学的思考』 種生物学会編、文一総合出版、2002年12月10日、80-81頁、ISBN 4-8299-2170-6。</ref>。
 
== 脚注 ==
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== 関連項目 ==
* [[レッドデータブック (環境省)|レッドデータブック]]
** [[植物I(維管束植物レッドデータブック (環境省)]]
* [[レッドリスト]]
** [[哺乳類レッドリスト (環境省)|哺乳類レッドリスト]]