「トロンボテスト」の版間の差分

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== トロンボテストの意義 ==
上記の概略とも重複するが、トロンボテスト試薬(TT)やプロトロンビン時間測定試薬(PT)はワルファリンという抗凝固薬の出血リスクをモニタリングするためにノルウェイ(北欧)のオーレン(Owren)先生が開発されてきた凝固検査薬である。
一方、北米のクイック(Quick)による一段法のプロトロンビン測定(PT)では組織因子(トロンボプラスチン)の動物種特異性の違いにより、抗凝固療法のコントロールで混乱を生じた時代が続いてきた。こうした事情より1960年代に国際血栓止血学会(ISTH:International Society on Thrombosis and Haemostasis)が中心となって検査の標準化というどこでも統一された検査結果が得られるような取り組みが進められ、1982年に第一次国際参照物質IRP(International Reference Preparation)のヒト大脳由来のPT Human Combined Thromboplastin 試薬という現在のトロンボテスト試薬のヒト大脳TFによる国際標準試薬が製造され、以後、Human plain (BCT/253)と呼ばれるヒト大脳PT試薬も製造されており、今日では凝固検査値をINR(International Normalized Ratio)として報告できるようになった。なお、PT測定検査では、トロンボテスト(TT)検査のように、凝固活性(%)では全く統一した活性(%)を得ることができないスクリーニング検査であるので、やむを得ず、標準化という対策により、凝固時間を比で算出して算術的に対数処理されたINRが導入されたという経緯がある。トロンボテスト(TT)試薬は、国際感度指標(ISI)という検査試薬の測定感度が一定に高感度であり、検査値(INRや活性%)に高い精度が得られる測定系から成り立っている。
 
このように、国際的な標準化の流れが早くからPT測定試薬を中心に日本へも導入されてきたにも関わらず、INR表記法に至っては未だにPT試薬の特性の違いや凝固分析装置の特性差に依存して検査データが異なる実態が続いている。なお、トロンボテスト(TT)では日本での臨床経験値やエビデンスが豊富であり、活性(%)での検査値が得られる。近年、PT測定と同じように、INRキャリブレータという検量物質により、欧州ではトロンボテスト(TT)によるINR検査値が得られるシステムも普及してきている。なお、PT-INRとTT試薬のINRの相関性は相関係数r>0.90 という互換性で高いことも検証されており、WHOの国際標準は ISI と INR であり、検査で用いられる凝固検査装置や試薬を規定していない。なお、臨床エビデンスの多い北米では、PT-INRがもっぱら普及しており、欧州ではトロンボテスト(TT)による臨床エビデンスの蓄積により、PTおよびTTによる「INR」でも普及しているのが実態である。
 
== 反応原理 ==
分析科学的に凝固検査という生物学的製剤試薬のアッセイ原理を概説する。
PTは上述にも説明したように北米のQuick一段法に準じており、大過剰の組織因子(TF)を外因系の引き金として血漿に存在する第Ⅶ因子と複合体を形成させて、第V因子、第X因子、そして第Ⅱ因子が順次に活性化されていき、その検体中に存在している患者由来のフィブリノゲン(凝固第I因子)がフィブリンとなって凝固するまでの時間を測定するという原理である。日本だけではなく世界中で最も多く、かつ安価で外因系凝固異常や出血傾向のスクリーニングとして利用されている凝固検査の1つである。PT試薬の測定対象は、凝固第Ⅱ因子、凝固第Ⅶ因子、凝固第X因子だけではなく、凝固第I因子であるフィブリノゲンと凝固第V因子の凝固活性(%)も含めたPT-INR値として測定される事になる。したがって、ワルファリンという抗凝固薬によって測定されるはずの凝固第Ⅱ因子、凝固第Ⅶ因子、凝固第X因子だけではなく、かつ、PT試薬に用いる組織因子の由来差(ヒト胎盤、ウサギ大脳など)のヒト凝固因子への感受性の違いで、第X因子と第Ⅶ因子に感度が高くなってしまうという特性面の欠点が大きく、ワルファリンにより低下するプロトロンビン(第Ⅱ因子)を実施的に検出できているとは言えない欠点もある。
 
一方、トロンボテスト(TT)試薬は、1943年にOwren(オスロ大学;ノルウェイ)によってQuick一段法の変法として第V因子の発見と同じ時代に開発された凝固検査試薬である。トロンボテスト試薬中にはウシ大脳由来TF以外に予め第V因子とフィブリノゲンが含有されている。患者検体から持ち込まれる第Ⅱ因子、第Ⅶ因子、第X因子がトロンボテスト試薬に添加されると、微量適量なTFを引き金にしてて薬そのものが凝固するという反応メカニズムであり、検体中の第V因子とフィブリノゲン濃度に依存しないで実質的に患者検体中のプロトロンビン(第Ⅱ因子)に最も高い感受性を有する試薬特性を持っており、第Ⅶ因子そして第X因子の低下も反映させた複合因子活性を正確に測定できるというアッセイである。凝固時間が延長するとINRが大きくなるが、幅広い凝固時間の測定レンジが得られる試薬特性であることから、実質的に高い測定精度の検査値が得られている。また、ISI値という試薬感度が”1.0”という非常に高い感度を示す試薬であり、PT測定よりも感度の高いアッセイに基づく。なお、国際的に論文等で用いられてきているのはPT-INRであるが、これはやむを得ずロット間差や組織因子(ヒト胎盤やウサギ大脳など)の試薬特性が大きいために標準化せざるを得ないのが実状があったためである。それでも市販PT試薬によっては、検査結果であるINRに乖離や差異が生じることが、しばしば議論されている。