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弥三郎 (会話 | 投稿記録)
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'''金属工学'''、'''冶金学'''(きんぞくこうがく、やきんがく、英語:metallurgy)とは、[[材料工学]]の一分野であり、[[金属]]の[[物理]]的・[[化学]]的な性質についての評価や新しい金属の研究開発を行う学問である。
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'''金属工学'''(きんぞくこうがく、英語:metallurgy)とは、[[材料工学]]の一分野であり、[[金属]]の[[物理]]的・[[化学]]的な性質についての評価や新しい金属の研究開発を行う学問である。[[冶金学]]ともいう。
 
 
== 概要 ==
金属は、その化学成分や不純物原子といった原子レベルから、結晶粒度や偏析といったマイクロ・ミリメートルオーダーの変化が、物理的・化学的な性質を大きく変えることが知られている。金属工学の目的はこれらの諸性質の変化の原因を追求するとともに、その制御を行うことで必要とする性質を与えることにある。
金属に対する主な研究方針は、金属・[[合金]]の[[微視的|ミクロ的]]なメカニズムすなわち[[原子]]レベルの変化が[[巨視的|マクロ的]]な性質にどう影響するかが挙げられる。
 
金属工学・冶金学の抱える分野は、鉱石から金属を抽出する[[精錬]]とそのバックグラウンドである[[物理化学]]や[[電気化学]]、金属の性質を支配する結晶粒や組織を制御する[[金属組織学]]、金属の溶解や凝固挙動を研究・制御する[[鋳造工学]]、材料の接合を研究する[[溶接工学]]などがある。また、広義には[[選鉱学]]や金属の加工を含む。
[[精錬工学]]は、[[鉱物]]など金属の[[酸化物]]から純粋な金属に[[抽出]]する方法を研究する。抽出するためには、金属酸化物から金属にするために、化学的または[[電気化学]]的な方法で[[還元]]する。現在の[[チタン]]の抽出方法は高価なため、より安価な抽出方法を追求する研究がなされている。
 
各分野の概要を以下に示す。
純金属は軟らかいため、大部分の金属は[[鋼]]・[[黄銅]]・[[ジュラルミン]]のように[[合金]]の形で使用されている。特に、鋼として知られる重要なFe-C二元系合金についてはよく研究されてきた。現在では、様々な合金の[[平衡状態図]]という合金設計のための地図が整備されてきている。
 
=== 精錬工学 ===
金属は[[合成樹脂|プラスチック]]より耐熱性に優れ、大部分は[[硬さ|硬く]]、[[セラミックス]]より[[強靭]]であるため、[[構造材|構造材料]]として多く使われている。この際、材料の信頼性を構築するために重要な事は、材料が[[破壊]]してしまわないことである。更には、化石燃料を大気に開放するといった地球温暖化の弊害側面をリサイクルによって補える工業材料である。一定加重が負荷されている場合、短期的に見ると変形しない材料も、十年・二十年と長時間に渡る加重負荷の環境下では、次第に変形し[[破壊]]に至ることもある。この様な金属の変形に関する現象の解明を金属工学では、[[微視的|ミクロ的]]に[[転位]]の移動による[[塑性変形]]に対象を当てて研究を行う。なお、[[機械工学]]の一分野の[[材料力学]]では、より[[巨視的|マクロ的]]に研究を行い、一般的には転位の運動については取り扱わない。
[[精錬工学]]は、[[鉱物]]など金属の[[酸化物]]から純粋な金属に[[抽出]]する方法を研究する。抽出するためには、金属酸化物から金属にするために、[[物理化学]]的または[[電気化学]]的な方法で[[還元]]する。現在の[[チタン]]の抽出方法は高価なため、より安価な抽出方法を追求する研究がなされている。
 
金属精錬は水系溶媒の使用の有無や電気化学的に抽出するかどうかで以下のようにわけることができる。
金属は[[金]]・[[プラチナ|白金]]などの[[貴金属]]を除き、大抵は酸化物の状態が安定である。そのため、精錬(還元)された状態で使用される金属は酸化して酸化物に戻ろうとする。このようなプロセスを[[腐食]]という。しかし、金属が腐食してしまうと、その金属に備わった機能が失われてしまう。腐食に関する工学が[[腐食・防食工学]]であり、腐食を防ぐ方法、腐食速度を出来る限り遅くさせる方法、腐食して使用できなくなるまでの時間(寿命)を見積もる方法、腐食がどのような条件で起こるかなどを研究している。
 
*乾式精錬(pyrometallurgy): 金属を加熱処理などにより金属を得る精錬。水系の溶液を使わない精錬一般を指す。鉄のコークスによる還元が代表例である。
金属と金属をつなぐ技術である、[[溶接]]・[[接合法|接合]]や[[はんだ]]なども取り扱う。また、効率の良い加工法を追求するために、[[凝固]]・[[鋳造]]・[[鍛造]]・[[粉体加工]]の新たなる加工プロセスが研究されている。
*湿式精錬(hydrometallurgy): 金属を水系溶液に浸漬するなどして抽出する精錬。
*電気精錬(electrometallurgy): 金属を電気化学的な方法で抽出する精錬。銅の電解精錬やアルミニウムの溶融塩電解が代表例である。
 
=== 結晶学・材料組織学 ===
金属工学の[[物理]]的[[評価]]・応用としては[[導電性]]や[[磁性]]がある。[[超伝導]]も扱っている。例えば、[[送電線]]、[[電線]]、[[集積回路]]の接合に使われる[[アルミニウム]]や[[銅]]、[[銀]]などの電子材料に応用されている。この技術は、金属の導電性を活用している。[[半導体材料]]ではほぼ100%に近い成分に添加する不純物の量を制御することによって性能を発揮させている。また、実用的な超伝導性物質を探索するために、日々新しい合金が作られている。
前述したように、金属材料の性質はその原子レベルの格子欠陥や不純物から、結晶粒や組織が支配する。材料のミクロな原子格子レベルの研究を行う分野が結晶学、比較的マクロな結晶粒や組成、組織を研究する分野が材料組織学である。
 
一例を挙げると、純金属は軟らかいため大部分の金属は[[鋼]]・[[黄銅]]・[[ジュラルミン]]のように[[合金]]の形で使用されるが、結晶学では合金元素の侵入に伴う格子のゆがみや転位を研究するのに対し、材料組織学では顕微鏡で観察できるような組織を研究する。
金属の評価のために、様々な測定法や測定機具が開発されている。代表的な測定法・測定機具には、[[引張試験]]、[[硬さ試験]]、[[X線回折]]、[[走査型電子顕微鏡]]、[[透過型電子顕微鏡]]、[[原子間力顕微鏡]]などがある。そして、原子レベルの挙動を[[シミュレーション]]するために、[[コンピュータ]]を使用することもある。
 
特に、鋼として知られる重要なFe-C二元系合金についてはよく研究されてきた。現在では、様々な合金の[[平衡状態図]]という合金設計のための地図が整備されてきている。
鉄鋼材料は、現在でも全金属の消費量トン数割合で約95%を占めるほど重要な金属である。そのような鉄鋼材料の更なる強化、高耐食性、環境負担の少ない生産方法などを追求する研究がなされている。また、電気接点材料として銅、[[軽金属]]としてアルミニウム、チタン、[[マグネシウム]]が実用上重要な金属であり、研究も進められている。[[レアメタル]]に関する研究も進められている。
 
=== 破壊力学・塑性力学 ===
新なる金属材料として、[[アモルファス]]や[[金属ガラス]]がある。
金属は[[合成樹脂|プラスチック]]より耐熱性に優れ、大部分は[[硬さ|硬く]]、[[セラミックス]]より[[強靭]]であるため、[[構造材|構造材料]]として多く使われている。この際、材料の信頼性を構築するために重要な事は、材料が[[破壊]]してしまわないことである。
 
更には、化石燃料を大気に開放するといった地球温暖化の弊害側面をリサイクルによって補える工業材料である。一定加重が負荷されている場合、短期的に見ると変形しない材料も、十年・二十年と長時間に渡る加重負荷の環境下では、次第に変形し[[破壊]]に至ることもある。
== 名称 ==
'''金属工学'''と似た学問分野の名称に'''金属学(金属物理学)'''があり、2つの学問の対象とする領域は一致する。異なるのは金属に対する姿勢であり、より[[工学]]的な発想に立ち目標の達成を目指す場合には金属工学を、より[[物理学]]的な発想に立ち、理論の構築などと言った自然の法則を追究する際には金属学を使う。しかし言葉の使用者の好みや、対置する他の[[学問分野]]の名称等にも左右されることが多く、明確な言葉の使い分けはなされていないと考えてよい。
 
この様な金属の変形に関する現象の解明を金属工学では、[[微視的|ミクロ的]]に[[転位]]の移動による[[塑性変形]]に対象を当てて研究を行う(転位論)。なお、[[機械工学]]の一分野の[[材料力学]]では、より[[巨視的|マクロ的]]に研究を行い、一般的には転位の運動については取り扱わない。
大学の金属工学科は、初めは金属のみについて研究していたが、次第に[[セラミックス]]や[[半導体]]材料など[[非金属]]も扱うようになり、対象領域が拡大していった。そのため、近年では大学の学科名が金属工学科から[[材料工学]]科と改称されることが多くなった。
 
=== 腐食防食学 ===
金属は[[金]]・[[プラチナ|白金]]などの[[貴金属]]を除き、大抵は酸化物の状態が安定である。そのため、精錬(還元)された状態で使用される金属は酸化して酸化物に戻ろうとする。このようなプロセスを[[腐食]]という。
 
このような腐食が起こると、その金属に備わった機能が失われてしまう。腐食に関する工学が[[腐食・防食工学]]であり、物理化学的あるいは電気化学的な手法を用いて、腐食を防ぐ方法や腐食速度を出来る限り遅くさせる方法、腐食して使用できなくなるまでの時間(寿命)を見積もる方法、腐食がどのような条件で起こるかなどを研究している。
 
=== 材料加工学 ===
金属と金属をつなぐ技術である、[[溶接]]・[[接合法|接合]]や[[はんだ]]なども取り扱う。また、効率の良い加工法を追求するために、[[凝固]]・[[鋳造]]・[[鍛造]]・[[粉体加工]](粉末冶金)の新たなる加工プロセスが研究されている。
 
=== 鉄鋼材料分野 ===
なお、金属を制御することを意味する冶金という言葉は、日本においては『冶』の字が[[当用漢字]]外となったことから、制限漢字表である当用漢字の制定以降は金属学への言い換えの他、『や金』のような交ぜ書きがなされるようになった。現在でも『冶』は[[教育漢字]]はおろか、[[常用漢字]]にも含まれないために初等・中等教育では忌避される。しかしながら、中国などではこの用法は圧倒的に多く、日本でも日本冶金や粉末冶金協会、冶金研究所などが見受けられ考古学系での記述など多く使われており、漢字文化圏の用法としてはこちらが主流である。
鉄鋼材料は、現在でも全金属の消費量トン数割合で約95%を占めるほど重要な金属である。そのような鉄鋼材料の更なる強化、高耐食性、環境負担の少ない生産方法などを追求する研究がなされている。金属工学(冶金学)のうち、鉄鋼に関する分野を鉄冶金と呼ぶことがある。
 
=== 機能性金属材料の開発 ===
金属工学の[[物理]]的[[評価]]・応用としては[[導電性]]や[[磁性]]がある。[[超伝導]]も扱っている。例えば、[[送電線]]、[[電線]]、[[集積回路]]の接合に使われる[[アルミニウム]]や[[銅]]、[[銀]]などの電子材料に応用されている。この技術は、金属の導電性を活用している。[[半導体材料]]ではほぼ100%に近い成分に添加する不純物の量を制御することによって性能を発揮させている。また、実用的な超伝導性物質を探索するために、日々新しい合金が作られている。
 
また、電気接点材料として銅、[[軽金属]]としてアルミニウム、チタン、[[マグネシウム]]が実用上重要な金属であり、研究も進められている。[[レアメタル]]に関する研究も進められている。新なる金属材料として、[[アモルファス]]や[[金属ガラス]]がある。
 
=== 金属材料の評価手法 ===
金属の評価のために、様々な測定法や測定機具が開発されている。代表的な測定法・測定機具には、[[引張試験]]、[[硬さ試験]]、[[X線回折]]、[[走査型電子顕微鏡]]、[[透過型電子顕微鏡]]、[[原子間力顕微鏡]]などがある。そして、原子レベルの挙動を[[シミュレーション]]するために、[[コンピュータ]]を使用することもある。
 
== 金属工学の分野 ==
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**[[粉体加工]]
**[[溶接]]・[[接合法|接合]]
 
== 名称 ==
'''金属工学'''と似た学問分野の名称に'''金属学(金属物理学)'''があり、2つの学問の対象とする領域は一致する。異なるのは金属に対する姿勢であり、より[[工学]]的な発想に立ち目標の達成を目指す場合には金属工学を、より[[物理学]]的な発想に立ち、理論の構築などと言った自然の法則を追究する際には金属学を使う。しかし言葉の使用者の好みや、対置する他の[[学問分野]]の名称等にも左右されることが多く、明確な言葉の使い分けはなされていないと考えてよい。
 
大学の金属工学科は、初めは金属のみについて研究していたが、次第に[[セラミックス]]や[[半導体]]材料など[[非金属]]も扱うようになり、対象領域が拡大していった。そのため、近年では大学の学科名が金属工学科から[[材料工学]]科と改称されることが多くなった。
 
なお、金属を制御することを意味する冶金という言葉は、日本においては『冶』の字が[[当用漢字]]外となったことから、制限漢字表である当用漢字の制定以降は金属学への言い換えの他、『や金』のような交ぜ書きがなされるようになった。現在でも『冶』は[[教育漢字]]はおろか、[[常用漢字]]にも含まれないために初等・中等教育では忌避される。しかしながら、中国などではこの用法は圧倒的に多く、日本でも日本冶金や粉末冶金協会、冶金研究所などが見受けられ、考古学系での記述など多く使われており、漢字文化圏の用法としてはこちらが主流である。
 
== 関連項目 ==
*[[冶金学]]
*[[日本金属学会]]
 
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[[zh:冶金学]]
[[zh-yue:冶金學]]
 
{{Mergeto|金属工学|冶金学|date=2009年10月}}
'''冶金学'''(やきんがく、英語:metallurgy)とは、主として[[鉱石]]から[[金属]]を抽出させる方法を研究し、さらに抽出した金属の[[精錬]]、[[合金]]の製造、金属の物理的・化学的性質をも研究する[[学問]]のことである。'''冶金'''とは、鉱石からの金属の[[抽出]]([[精錬]]および[[製錬]])と金属の[[加工]]に関する[[技術]]のことである。
 
日本で初めて「冶金学」という名前が付いたのは、[[東京大学]]理学部採鉱学科が東京大学理学部採鉱冶金学科となった[[1880年]]である。民間研究機関としては、[[日立金属]]の冶金研究所の設立が[[1934年]]と現存する研究機関では最古である。私立大学における冶金学を専門に扱う学科を設置したのは[[興亜工業大学]](現・千葉工業大学)の冶金学科(現・機械サイエンス学科)が最初である。
 
最近では、冶金学は[[金属工学]]([[材料工学]])と呼ばれる。ちなみに、英語では冶金学・[[金属工学]]どちらとも''[[:en:metallurgy]]''と呼ぶ。冶金学は、[[金属工学]]となったものの、根強く使われており、漢字大国中国でもこの用法が主流なため改変は早計であったとの見方も出ている。
 
==冶金学の分野==
冶金学を分類すると以下のようになる。
*'''金属精錬'''(extractive metallurgy)…'''冶金'''という意味合いが強い。[[鉱石]]から金属を[[精錬]]し、純度の高い金属を得ることに関する分野。
**乾式冶金(pyrometallurgy)…加熱して金属を得る分野。[[鉄鉱石]]から[[鉄]]を得るのもこの分野。
**湿式冶金(hydrometallurgy)…鉱石を塩類水溶液などに浸して、金属を得る分野。
**電気冶金(electrometallurgy)…[[水溶液電解]]と[[溶融塩電解]]についての分野。前者は、[[銅]]の電解精錬法など。後者は、[[アルミニウム]]の抽出など。
*'''金属加工'''(mechanical metallurgy)…金属の機械的[[加工]]に関する分野。[[鋳造]]・[[圧延]]・[[線引き]]など。
**[[粉末冶金]](Powder metallurgy)…金属粉末に関する分野。
*'''金属材料'''(alloy metallurgy)…[[合金]]、物性測定、相変態、金属組織などに関する分野。
 
金属精錬を'''化学冶金'''、金属加工や金属材料を'''物理冶金'''とも言う。
 
== 関連項目 ==
*[[本多光太郎]]
 
[[Category:材料|やきんかく]]
[[Category:金属|やきんかく]]
[[Category:鉄|やきんかく]]
[[Category:冶金学者|* やきんかく]]
 
[[bs:Metalurgija]]
[[bg:Металургия]]
[[ca:Metal·lúrgia]]
[[cs:Metalurgie]]
[[da:Metallurgi]]
[[de:Metallurgie]]
[[en:Metallurgy]]
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