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== 数式で見る乗数効果 ==
=== 投資乗数 ===
ある国の単年度における国民経済フローを簡単なモデルで考える
 
今各家計の可処分所得が一単位(たとえば一万円)増加したとき、平均してそのβ割を消費し、1-β割を貯蓄に回すとする。(0≦β≦1)。β、1-βはそれぞれ'''限界消費性向'''、'''限界貯蓄性向'''と呼ばれる。
* 限界消費性向(可処分所得が1単位増加したとき、消費が増加する量)=0.9
* 限界貯蓄性向(可処分所得が1単位増加したとき、貯蓄が増加する量)=0.1
* 限界消費性向+限界貯蓄性向=1
* 国民所得:Y=C+I
* 総消費:C=0.9Y
* 総投資:I=10
 
さて、企業や国家の投資により、全家計の可処分所得の合計値がX円増加したとすると、家計はそのうちβX円だけ消費に回す。このβX円は企業の収入となり、それは給料として再び各家計に入る。すると家計はこのβX円のβ割にあたるβ<sup>2</sup>X円を消費に回す。このβ<sup>2</sup>X円は企業経由で再び家計に入り、家計はそのβ割にあたるβ<sup>3</sup>X円を消費に回す。以下、これが繰り返されるので、最終的に総消費は
この式を解くと、Y=100となる。(I=0.1Y)
 
<math>X + \beta X + \beta^2X + \beta^3X + \cdots = \frac{X}{1-\beta} </math>
ここで、企業が先行きへの期待を基にこの年の投資量を2増やし、総投資が12になったとしよう。このはじめの段階では国民所得は同量の2しか増えない。
 
増加する。
しかし、この2はやがて家計の所得となり、消費は所得の関数であるため、その所得の90%(C=0.9Y より)の1.8が消費される。その消費1.8は同量の国民所得1.8を増加させ、さらにその90%の消費1.62を拡大させる。
すなわち、最初に行われた投資Xの1/(1-β)倍分だけ消費が拡大する事になる。
 
例えばβ=0.9であれば、1/(1-β)=10倍も消費が拡大する。
こうして、貯蓄と消費への振り分けが十分に早いペースで最終段階まで進むと仮定した場合、この年における消費量が18増える。はじめの投資の増加2と合算して国民所得は20の増加(所得のうち消費されなかった分である貯蓄は2)。実に、総投資の増加の10倍である。この10倍が'''乗数'''(この場合は投資乗数)である。10という数字はどこから出てくるかというと、数式の C=0.9Y から計算される。
この1/(1-β)の事を'''乗数'''といい、1/(1-β)倍消費が拡大する現象の'''乗数効果'''と呼ぶ。
 
* 乗数=1/(1-0.9)
* 乗数=10
 
である。この場合の「0.9」のことを[[消費性向]]と呼ぶ。またこの乗数10は、限界貯蓄性向0.1の逆数でもある。
 
投資に使われた資金は、企業や家計の手元を周回して、その手を渡るたびに、労働力や生産物の取引を媒介し国民所得を増大させるが、そのうちの一部は周回のたびに少しずつ貯め込まれて、回らなくなる。そのため、投資の乗数効果には限界があるのである。
 
このことは、当初の投資によって増加した所得のうち、貯蓄されずに消費された分だけが、それと同量の新たな所得を実現することを示している。つまり、限界貯蓄性向を高めれば高めるほど、それだけ乗数効果が弱まるということになる。たとえば限界貯蓄性向が1であったとする。これは増加した所得を全く消費せず、全額を貯蓄に回すことを意味している。このとき、新たな所得はまったく生まれないことになる。
 
=== 貯蓄のパラドックス ===