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'''対象関係論'''(たいしょうかんけいろん)は[[精神分析]]的精神医学の一方法論である。[[ジークムント・フロイト|フロイト]]の理論を基に、[[メラニー・クライン]]らが児童や精神病性疾患の精神分析に取り組む中で、新しいやり方として発展した。
 
== 概要 ==
概ね「ヒト」を意味することの多い'''[[対象]]'''、つまり自分以外の存在との関係性の持ち方に焦点が当てられる。この関係性の持ち方には外的なもの(現実的なもの)と内的なもの(個人の心の中のもの)とのずれがあり、このずれを本人がどのように体験しているかを実際の治療場面では扱う。
 
[[フロイト]][[精神分析]]においては治療は[[無意識]][[リビドー]](性欲)の抑圧などに主眼をおき、治療者がそれに解釈を与えることによって治療が成り立つとしていた。対象関係論では対象関係が問題の中枢であり、治療者と被治療者の間に何が起こっているのかについて詳しくとらえる事が治療上重要とされている。
 
== 注釈 ==
「対象関係」と呼ばれているが、これは「[[対人関係]]」と同意ではない。対象関係論における「対象」という言葉は、幼児期における外的対象、主に母親の事を指している。それも対象関係論においては、幼児の目の前にいる実際の母親の反応も考慮するが、基本的に重要視されるのは幼児と母親との内的・心的関係である。
 
そのため対象と言っても、[[精神分析学]]の祖[[フロイト]]と同じく、心の中に存在している対象イメージをしているのであり、対象関係論ではその心の中の対象イメージと自我もしくは自己の関係を研究していく事が中心となっている。
 
現実生活における精神的異常や行動異常はこの対象イメージの歪みや、それが悪くなっていたり、それへの執着の結果として生じると考えられているのであって、現在の対人関係が悪いから精神病理が生じるという考え方ではない、という点には注意する必要がある。
 
特に[[メラニー・クライン]]においては生まれたばかりの赤ん坊が体験した子供と母親との早期関係を探求するのであり、子供が大きくなった後の母親との関係も、飽くまで子供の心の中に存在している内的対象関係を探求するものである。
無意識、特に内的対象に目を向けるという事で、対象関係論はアンナ・フロイトの創設した自我心理学や、サリヴァンの創設した対人関係論とは正反対の装いをしている。
 
無意識、特に内的対象に目を向けるという事で、対象関係論は[[アンナ・フロイトの創設した]]が率いる[[自我心理学]]や、[[ハリー・スタック・サリヴァン]]の創設した対人関係論とは正反対の装いをしている。これらの学派は無意識ではなく、自我や現実適応や実際の対人関係に注目しているためである。
ちなみに対象関係論はメラニー・クラインから始まったと言われているが、「対象関係論」という言葉を使い始めたのは英国学派のロナルド・フェアベーンだと言われている。そのため対象関係的な精神分析研究を始めた当時におけるメラニー・クラインの理論は「クライン派」というのが正しい。
 
ちなみに対象関係論はメラニー・クラインから始まったと言われているが、「対象関係論」という言葉を使い始めたのは英国学派の[[ロナルド・フェアベーン]]だと言われている。そのため対象関係的な精神分析研究を始めた当時におけるメラニー・クラインの理論は「クライン派」というのが正しい。
 
== 理論 ==
対象関係論においては0歳から2、3歳までの非常に早い幼児期の母子関係を研究するのが中心となっている。子供は母親を最初は「良い乳房」と「悪い乳房」に分離して認識しており、それは部分対象と呼ばれる。その後に発達するに従って子供は母親を「良い乳房と悪い乳房の統合されたもの」として認識出来るようになり、それは全体対象と呼ばれる。この部分対象から全体対象への移行が子供の心的発達であり、また子供が母親からの依存を脱却して、自立するプロセスとなっている。
 
この部分対象から全体対象への移行が子供の心的発達であり、また子供が母親からの依存を脱却して、自立するプロセスとなっている。
 
子供が母親を部分対象として認知する時期の子供の心的構造は分裂・妄想ポジションと呼ばれている。また子供が母親を全体対象として認知する自己の子供の心的構造は抑うつポジションと呼ばれている。
 
対象関係論的な精神分析を始めた[[メラニー・クライン]]この最も早期の子供時代における母親と子供の関係を重視して、[[精神分析]]の祖である[[フロイト]][[エディプスコンプレックス]]の生じる時期や超自我の発生する時期を改訂したりした。
 
== 貢献 ==
この理対象関係論の貢献としては、言語を介した関係が持てるようになる前の段階や、理路整然さを失い非言語的な体験が優勢になった精神/心理状態の理解が可能になったことが上げられる。それまで治療の対象外とされていた疾患単位を扱えるようになったということであり、[[境界例]][[境界性パーソナリティ障害]])の治療においての心理療法/精神療法の復権が可能になった礎とも言える。
 
== 批判 ==
日本では境界例治療の典型例としてオットー・カーンバーグのボーダーライン・パーソナリティ構造の鑑別理論や、ジェームズ・マスターソンの発達論的対象関係論に基づく境界例治療の方法が頻繁に紹介されている。
他の精神分析の学派と同様に、対象関係論は様々な批判を浴びることがある。例えば、根拠とされている部分が後の研究で次々に間違いだと分かったこと(ただしこれは内科学など他の分野でもしばしば起こりうる)、治療の有効性に関する根拠が不十分であること、治療者は訓練の数年目に「教育分析」を受けるが、これを一種の宗教的な「イニシエーション」であるとみなし、精神分析(対象関係論)を宗教になぞらえるものなどである。詳しくは[[精神分析]]を参照
 
== 批判 ==
他の精神分析の学派と同様に、対象関係論は様々な批判を浴びることがある。例えば、根拠とされている部分が後の研究で次々に間違いだと分かったこと(ただしこれは内科学など他の分野でもしばしば起こりうる)、治療の有効性に関する根拠が不十分であること、治療者は訓練の数年目に「教育分析」を受けるが、これを一種の宗教的な「イニシエーション」であるとみなし、精神分析(対象関係論)を宗教になぞらえるものなどである。詳しくは[[精神分析]]を参照。
<!--↓以下は非常に興味があるので、よろしければ典拠を教えてください。-Mexicanhat
教育分析の有無は治療の効果とまったく相関が無い-->
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== 英国学派 ==
* [[ロナルド・フェアベーン]]
* [[ドナルド・ウィニコット]]
* [[ロナルド・フェアベーン]]
 
== 境界例治療 ==
* [[オットー・カーンバーグ]]
* [[ジェームズ・マスターソン]]
 
== 参考文献 ==