「ソボレフ空間」の版間の差分

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[[数学]]において'''ソボレフ空間'''(ソボレフくうかん、{{lang-en|''Sobolev space''}})は、数からなる[[ベクトル空間]]で、数それ自身とその与えられた階数までの導数の[[Lpノルム| ''L<sup>p</sup>''-ノルム]]を組み合わせて得られるノルムを備えたものである。ここでいう微分を適当な[[弱微分|弱い意味での微分]]と解釈することにより、ソボレフ空間は[[完備距離空間]]、したがって[[バナッハ空間]]を成す。直観的には、ソボレフ空間は(偏微分方程式のような応用範囲に対して)十分多くの導数を持つ数からなる[[バナッハ空間]]あるいは[[ヒルベルト空間]]であって、数の大きさと滑らかさの両方を測るようなノルムを備えたものということである。
 
ソボレフ空間の名称は[[ロシア人]][[数学者]]の[[セルゲイ・ソボレフ]]に因む。ソボレフ空間の重要性は、[[偏微分方程式]]の解というものは古典的な意味での導数を備える[[連続 (数学)|連続関数]]からなる古典的な空間の中ではなく、むしろソボレフ空間の中にあるとして捉えたほうが自然であるという事実にある。
 
== 導入 ==
 
[[関数 (数学)|関数]]の滑らかさの基準にはいくつかの種類があり、最も基本的な基準はその[[連続 (学)|連続性]]である。より強い判定基準は[[微分函数|可微分性]]であり(実際、可微分数は常に連続となる)、さらに導数の連続性をも込めれば(そのような数は [[滑らかな数| ''C''<sup>1</sup>-級]]であるといわれる)より強い滑らかさの概念が与えられる。 可微分数は多くの分野、特に[[微分方程式]]の理論において重要である。しかしながら[[20世紀]]に入ると、そのような ''C''<sup>1</sup>-級(あるいは同様な ''C''<sup>2</sup>, ... といった滑らかさのクラスに属する)数の空間というものは、微分方程式の研究するための空間として本当に適切なものとは言えないということが理解されるようになる。
 
ソボレフ空間はそのような偏微分方程式の解を求めるための空間の現代的な代替物である。
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== 単位円上のソボレフ空間 ==
 
まずは[[単位円]] '''T''' 上で定義される 1-次元(1-変数数)の場合という最も単純な設定でソボレフ空間を導入することから始める。この場合のソボレフ空間 ''W''<sup>''k'',''p''</sup> は[[Lp空間| ''L''<sup>''p''</sup>-空間]]の部分集合であって、''p'' &ge; 1 が与えられたとき数 ''f'' とその[[弱微分]]が階数 ''k'' まで有限な[[Lpノルム| ''L''<sup>''p''</sup>-ノルム]]を持つような数 ''f'' の全体からなるものとして定義される。場合によっては微分を通常の強い意味での微分として扱うこともある。1-次元の問題においては''f'' の (''k''&minus;1)-階導数 ''f''<sup>(''k''-1)</sup> が殆ど至る所微分可能で、その導数の[[ルベーグ積分]]と殆ど至る所一致することを仮定すれば十分である(これによってソボレフ空間の定義が目的とすることとは無関係な[[ゲオルク・カントール|カントール関数]]のような例を除くことができる)。
 
この定義とともに、ソボレフ空間には自然な[[ノルム]]
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:<math>\|f\|_{k,p}=\left(\sum_{i=0}^k \|f^{(i)}\|_p^p\right)^{\!\!1/p} = \left(\sum_{i=0}^k \int |f^{(i)}(t)|^p\,dt \right)^{\!\!1/p}</math>
 
を入れることができて、空間 ''W''<sup>''k'',''p''</sup> はこのノルム &#x2016;&bull;&#x2016;<sub>''k'',''p''</sub> に関して[[バナッハ空間]]となる。このノルムは、数列の最初と最後だけ見れば十分である。つまり、ノルムを
 
:<math>\|f^{(k)}\|_p + \|f\|_p</math>
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=== 他の例 ===
 
簡単な記述を持つほかのソボレフ空間としては、たとえば開区間 (0, 1) 上で[[絶対連続]]な数全体の成す空間 ''W''<sup>1,1</sup>(0, 1) や任意の区間 ''I'' 上で[[リプシッツ連続]]な数全体の成す空間 ''W''<sup>1,&infin;</sup>(''I'') などが挙げられる。
空間 ''W''<sup>''k'',&infin;</sup> はすべて(ノルム付き)[[多元環]]となる。つまりこのソボレフ空間のふたつの数の積はふたたびこの空間の元となる。このことは ''p'' が有限の場合には正しくない(たとえば原点において |''x''|<sup>&minus;1/3</sup> のように振舞う数は ''L''<sup>2</sup> に属するが、そのような数の積は ''L''<sup>2</sup> に属さない)。
 
=== ''k'' が非整数値であるようなソボレフ空間 ===
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:<math>\|f\|^2_{s,2}=\sum (1+n^2)^s|\hat{f}(n)|^2</math>
 
で定義され、ソボレフ空間 ''H''<sup>''s''</sup> はノルムが有限な数全体の空間として定まる。
 
==== 分数階微分 ====
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:<math>\|f\|_{s,p}=\|f\|_p+\|F^s(f)\|_p</math>
 
によって定義され、通常の場合と同様にソボレフ空間がソボレフノルム有限な数全体の成す空間として定義される。
 
==== 複素補間 ====
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== 多次元領域上のソボレフ空間 ==
 
ここでは '''R'''<sup>''n''</sup> と '''R'''<sup>''n''</sup> の部分集合 ''D'' 上のソボレフ空間を考える。単位円上での話を実数直線上のものに変えるには、フーリエの公式の技術的な変更のみ行えばよい(基本的には[[フーリエ級数]]を[[フーリエ変換]]に取り替えて、和を積分にする)。多次元への移行は、まさにその定義からしてもっと複雑なものになる。1-次元の場合の、 ''f''<sup>(''k''&minus;1)</sup> が ''f''<sup>(''k'')</sup> の積分になっているという仮定は一般化できない。このことの最も単純な解決法は微分を[[超数]]の意味での微分と考えることである。
 
形式的な定義を以下に与える。''D'' を '''R'''<sup>''n''</sup> の開集合、''k'' を[[自然数]]とし、1 &le; ''p'' &le; +&infin; とする。ソボレフ空間 ''W''<sup>''k'',''p''</sup>(''D'') は ''D'' 上で定義される数 ''f'' で任意の[[多重指数]] &alpha; (|&alpha;| &le; ''k'') に対して混合[[偏微分]]
 
:<math>f^{(\alpha)} = \frac{\partial^{| \alpha |} f}{\partial x_{1}^{\alpha_{1}} \dots \partial x_{n}^{\alpha_{n}}}</math>
117行目:
\| f \|_{H^s}^2 = \int_{\mathbf{R}^n}(1 + |\xi|^2)^s|\hat{f}(\xi)|^2\,d\xi < +\infty \right\}</math>
 
として定義することができる(フーリエ変換がユニタリ変換であるという事実を用いる)。しかし、 ''D'' が '''R'''<sup>''n''</sup> あるいはトーラス '''T'''<sup>''n''</sup> のように周期的領域でない場合、非周期敵領域上の数のフーリエ変換を定めるのは無理であるから、この定義は十全ではない。しかし幸いにして、本質的に[[ヘルダー連続数|ヘルダー連続性]]の ''L''<sup>2</sup>-類似を用いた分数階ソボレフ空間の内在的な特徴づけが存在する。''H''<sup>''s''</sup>(''D'') における同値な内積が
 
:<math>(f, g)_{H^{s} (D)} = (f, g)_{H^{k} (D)} + \sum_{|\alpha|=k}\,\iint\limits_{D\times D}\frac{(f^{(\alpha)}(x) - f^{(\alpha)}(y))(g^{(\alpha)}(x)-g^{(\alpha)}(y))}{| x - y |^{n + 2 t}} \,dxdy</math>
125行目:
=== 例 ===
 
たとえば ''W''<sup>1,1</sup> が連続数のみを含むというようなことは、高次元ではもはや正しくない。例えば、1/|''x''| は ''W''<sup>1,1</sup>('''B'''<sup>3</sup>) に属す('''B'''<sup>3</sup> は三次元単位球体)。''k'' &gt; ''n''/''p'' に対する空間 ''W''<sup>''k'',''p''</sup>(''D'') は連続数のみを含むが、このような ''k'' はこの時点で既に ''p'' と次元 ''n'' の両方に依存する。例えば[[球面極座標]]を用いて簡単に確認できることだが、''n''-次元球体上定義される数 ''f'': '''B'''<sup>''n''</sup> &rarr; '''R''' &cup; {+&infin;}
 
:<math>f(x) = \frac1{| x |^{\alpha}}</math>
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となることは[[同値]]である。直観的にはより高次元における単位球体は「より小さい」ため、''f'' の 0 における爆発は ''n'' が大きいとき「無視できる」ということである。
 
=== ソボレフ数の直線上絶対連続性による特徴づけ ===
&Omega; を '''R'''<sup>''n''</sup> の開集合とし、1 &le; ''p'' &le; &infin; とする。数が ''W''<sup>1,''p''</sup>(&Omega;) に属すならば、場合によっては測度 0 の集合上での値を変更して、その数の '''R'''<sup>''n''</sup> の座標方向に平行な[[殆ど全て]]の直線への制限が[[絶対連続]]であるようにすることができる。逆に、座標方向に平行な殆ど全ての直線への ''f'' の制限が絶対連続ならば、各点ごとの傾き &nabla;''f'' が[[ほとんど (数学)|殆ど至る所]]存在し、''f'' と |&nabla;''f''| の両方が ''L''<sup>''p''</sup>(&Omega;) に属すとき ''f'' は ''W''<sup>1,''p''</sup>(&Omega;) に属す。特に、このときの ''f'' の弱偏微分と各点ごとの傾きは殆ど至る所一致する。
 
より強い結果として、これは ''p'' = &infin; においても正しい。''W''<sup>1,∞</sup>(&Omega;) に属する数は測度 0 の集合上値を変更することにより局所リプシッツにできる。
 
=== 境界上での値が消える数 ===
&Omega; を '''R'''<sup>''n''</sup> の開集合とする。ソボレフ空間 ''W''<sup>1,2</sup>(&Omega;) = ''H''<sup>1</sup>(&Omega;) はヒルベルト空間で、重要な部分空間として &Omega; 上のコンパクト台付き無限回微分可能な数全体の成す集合の ''H''<sup>1</sup>(''&Omega;'') における閉包である ''H''<sup>1</sup><sub>0</sub>(&Omega;) を含む。ソボレフノルムは上述のものを簡約して
 
:<math>\|f\|_{H^1} = \left(\int_\Omega (|f|^2 + |\nabla f|^2) \right)^{\!\!1/2}</math>
 
によって与えられる。&Omega; が正則な境界を持つとき、''H''<sup>1</sup><sub>0</sub>(&Omega;) は ''H''<sup>1</sup>(&Omega;) に属する数で境界上トレースの意味で消えているようなもの全体として記述することができる([[#ゼロによる拡張|後述]])。''n'' = 1 のとき、&Omega; = (''a'', ''b'') を有界区間とすると、''H''<sup>1</sup><sub>0</sub>(''a'', ''b'') は閉区間 [''a'', ''b''] 上で定義される
 
:<math>f(x) = \int_a^x f'(t) dt \quad (x \in [a, b])</math>
 
の形の連続数全体から成る。ここで、一般化された微分 ''f''&prime; は ''L''<sup>2</sup>(''a'', ''b'') に属し、''f''(''b'') = ''f''(''a'') = 0 となるように積分値が 0 となるものである。&Omega; が有界であるとき、[[ポワンカレ不等式]]によれば定数 ''C'' = ''C''(&Omega;) が存在して、常に
 
:<math>\int_\Omega | f|^2 \le C^2 \, \int_\Omega |\nabla f|^2, \quad f \in H^1_0(\Omega)</math>
161行目:
:<math>W^{k,p}\subseteq W^{m,q}</math>
 
であり、この埋め込みは連続であるというものである。さらに ''k'' &gt; ''m'' かつ ''k'' &minus; ''n''/''p'' &gt; ''m'' &minus; ''n''/''q'' ならばこの埋め込みは完全連続となる(このことはしばしば'''コンドラコフの定理'''と呼ばれる)。''W''<sup>''m'',&infin;</sup> に属する数は ''m'' より小さい階数において連続な導数をもつから、定理は特にいくつかの導数が連続となるようなソボレフ空間に関する条件を与えている。くだけた言い方をすれば、この埋め込みで次元ごとの導数の ''L''<sup>''p''</sup> に関する評価は、1/''p'' を重みとする有界性の評価に転換されるということを言っている。
 
'''R'''<sup>''n''</sup> のように非コンパクト多様体に対しても埋蔵定理に類似の結果が存在する{{harv|Stein|1970}}。
175行目:
: ここでいうトレースは「縁取り」の意味であって、行列の[[跡 (線型代数学)|トレース]]とは関係が無い。
 
このトレース写像 ''P'' は ''H''<sup>''s''</sup>(''X'') を定義域に持つものとして定義され、その像は丁度 ''H''<sup>''s''&minus;1/2</sup>(&part;''X'') となる。厳密に言えば、''P'' ははじめに[[無限回微分可能な数]]に対して定義され、それを連続性によって ''H''<sup>''s''</sup>(''X'') まで拡張するのである。このトレースを取ることによって「微分が 1/2 だけ減っている」ということに注意。
 
''W''<sup>''s'',''p''</sup> のトレース写像による像を同定することは相当に困難で、[[実補間]]の道具を必要とする。結果として得られる空間は[[ベソフ空間]]<sup>[[:en:Besov space|(en)]]</sup>である。''W''<sup>''s'',''p''</sup>-空間の場合には、微分の 1/2 が減少するのではなく、1/''p'' が減少するということがわかる。
181行目:
== 作用素の拡張 ==
 
''X'' をその境界が行儀悪すぎないような(たとえば境界が多様体になっているとか、あるいはより自由だがより曖昧な「錐体条件」を満足するなど)開領域とすると、''X'' 上の数を '''R'''<sup>''n''</sup> 上の数に写す作用素 ''A'' で
 
# ''Au''(''x'') = ''u''(''x'') が殆ど全ての ''x'' &isin; ''X'' で成立し、
194行目:
=== ゼロ拡張 ===
 
コンパクト台無限回微分可能数全体の成す空間 ''C''<sup>&infin;</sup><sub>''c''</sub>(''X'') の ''H''<sup>''s''</sup>(''X'') における閉包として空間 ''H''<sup>''s''</sup><sub>0</sub>(''X'') を定義する。上述のトレースを用いれば、定義を次のように述べることができる。
 
; 定理: ''X'' は ''m'' &ge; ''s'' について一様 ''C''<sup>''m''</sup>-正則で、''P'' は''H''<sup>''s''</sup>(''X'') の元 ''u'' を<div style="margin: 1ex auto 1ex 2em;"><math>\left.\left(u,\frac{du}{dn}, \dots, \frac{d^k u}{dn^k}\right)\right|_G</math></div>へ写す線型写像とする。ここで ''d''/''dn'' は ''G'' の法線方向への微分で、''k'' は ''s'' より小さい最大の整数である。このとき ''H''<sup>''s''</sup><sub>0</sub> はちょうど ''P'' の核に等しい。