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『'''夜想曲'''』(やそうきょく、''Nocturnes'')は、[[クロード・ドビュッシー]]の管弦楽曲。[[フランス語]]のまま『'''ノクチュルヌ'''』と呼ばれることもある。が、[[1897年]]から[[1899年]]にかけて作した[[管弦楽され、]]。「'''雲'''」・「'''祭'''」・「'''シレーヌ'''」の3曲からなる一種の[[組曲]]となっている。[[フランス語]]のまま『'''ノクチュルヌ'''』と呼ばれることもある。
 
== タイトルについて ==
== 構成 ==
「[[夜想曲]]」(ノクチュルヌ、ノクターン)は[[ジョン・フィールド|フィールド]]に始まり[[フレデリック・ショパン|ショパン]]が発展された[[器楽曲]]の1ジャンルであるが、ドビュッシーの『夜想曲』のタイトルは、[[耽美主義]]のアメリカの画家[[ジェームズ・マクニール・ホイッスラー|ホイッスラー]]の、「ノクターン」と題された絵画のシリーズのうちの『青と銀色のノクターン』([[1871年]]、[[1872年]])、もしくは『黒と金色のノクターン - 落下する花火』([[1875年]])から着想を得たと考えられている。他に、同じく耽美主義のイギリスの詩人[[アルジャーノン・チャールズ・スウィンバーン|スウィンバーン]]の詩『ノクチュルヌ』([[1876年]])からの着想であるという説もある。
# 雲 (''Nuages'')
ドビュッシー自身はタイトルについて、「''印象と特別な光をめぐってこの言葉("夜想曲")が呼び起こす全てが含まれる''。」と述べており、少なくとも従来の「夜想曲」との関連性は否定している。
# 祭 (''Fêtes'')
# シレーヌ (''Sirènes'')
 
== 作曲の経緯 ==
最初の「雲」は、空の雲のゆっくり流れて消えていく様を描写したもの。続く「祭」では、祭の盛り上がりと祭の後の静けさが描かれている。終曲のタイトル「シレーヌ」とは、ギリシャ神話などに出てくる生き物である([[セイレーン]]を参照)。この曲のみ、歌詞のない[[女声合唱]]([[ヴォカリーズ]])を加えている。
『夜想曲』の前身と考えられている楽曲は2曲存在している。
 
1.『'''黄昏の三つの情景'''』(''Trois scènes au crépuscule'' ) 
: ドビュッシーが[[1892年]]9月9日にポニアトフスキ公にあてた手紙に登場する。スケッチのみに終わったが、音楽学者フランシス・ルジュール(François Lesure)によって作品番号「'''L.83'''」が与えられている。
 
2. '''独奏ヴァイオリンと管弦楽のための『夜想曲』'''
: 本項目で扱う『夜想曲』の初稿版と考えられている。[[1894年]]9月22日にヴァイオリン奏者・作曲家の[[ウジェーヌ・イザイ|イザイ]]に当てた手紙に登場する。3つの楽章から成り、第1楽章は弦楽器のみ、第2楽章は管楽器(フルート、ホルン4、トランペット3)とハープ2、第3楽章は全合奏によって演奏される、というものであった。[[1896年]]に完成したが、初演も行われず、スコアも所在不明となった。ドビュッシーはこの作品について「絵画における、灰色で描く習作のようなもの」と説明している。
 
なお、この間にドビュッシーは[[ペレアスとメリザンド (ドビュッシー)|ペレアスとメリザンド]]に着手し([[1893年]])、『[[牧神の午後への前奏曲]]』を完成させている([[1894年]])。
 
== 初演 ==
「雲」「祭」のみ、[[1900年]][[12月9日]]に[[カミーユ・シュヴィヤール]]の指揮で[[コンセール・ラムルー|ラムルー管弦楽団]]によって行われた。全曲初演も彼らが翌1901年[[10月27日]]に行った。日本初演は[[1927年]][[12月17日]]に[[奏楽堂]]にて、[[チャールズ・ラウトルップ]]指揮、[[東京音楽学校]]の管弦楽団によりなされた。
 
== 成 ==
#;1. 雲 (''Nuages'')
:空の雲のゆっくり流れて消えていく様を描写したもの。冒頭に「セーヌ河の上に垂れこめた雲」を表す<ref name = PP>ドビュッシーが友人パウル・プジョーに語った言葉。音楽之友社スコアのあとがき</ref>クラリネットとバスーンの動機が現れる。この動きは[[モデスト・ムソルグスキー|ムソルグスキー]]の歌曲『日の光もなく』からの借用であるという指摘がある<ref name = GP>グラウト/パリスカ『新西洋音楽史(下)』音楽之友社、2001年</ref>。6/4拍子のリズムに「汽船のサイレン」を表すコーラングレ<ref name = PP>ドビュッシーが友人パウル・プジョーに語った言葉。音楽之友社スコアのあとがき</ref>の旋律が4/4拍子の[[ポリリズム]]で絡み、拍節感がぼやけさせられている。ソロを除き常に[[弱音器]]がつけられた弦楽器はディヴィジによって細分化され(ヴァイオリンは1st、2ndがそれぞれ6分割、合計12分割)、[[弱音器]]をつけたホルン、低音域のフルートなどと共にこの曲独特の「灰色」のテクスチュアを作る。中間部でハープを伴ったフルートが東洋的な[[五音音階]]の旋律を奏でるが、これは[[1889年]]の[[パリ万国博覧会 (1889年)|パリ万国博覧会]]でドビュッシーが聴いた、[[ジャワ]]の[[ガムラン]]の影響であると考えられる<ref name = GP>グラウト/パリスカ『新西洋音楽史(下)』音楽之友社、2001年</ref>。
 
#;2. 祭 (''Fêtes'')
:祭の盛り上がりと祭の後の静けさが描かれている。'''''ff''''' の[[空虚五度]]によるリズムが弦楽器によって刻まれ、木管楽器がスケルツォ風の主題を奏でる。活発な3連符のリズムに乗って進行する祭りの音楽が唐突に中断すると、遠くから幻影のような行列が近づいてくる。やがて祭りの主題と行列の主題が同時進行し溶け合うクライマックスを迎え、その後、諸主題を回想しながら消えるように曲を終わる。なお、終始部分ではトランペットにより次の「シレーヌ」の序奏がさりげなく予告されている。
 
#;3. シレーヌ (''Sirènes'')
:「シレーヌ」とは、ギリシャ神話などに出てくる生き物である([[セイレーン]]を参照)。この曲ではトロンボーン、チューバ、ティンパニと打楽器は使われていないが、歌詞のない[[女声合唱]]([[ヴォカリーズ]])が加わられており、月の光を映してきらめく波とシレーヌの神秘的な歌声が、精緻なオーケストレーションによって表現される。なお、ドビュッシーが『[[海 (ドビュッシー)|海]]』の作曲を開始するのはこれより後、[[1903年]]のことである。
 
== 楽器編成 ==
曲ごとに使用楽器と[[管弦楽法|オーケストレーション]]が異なる。
 
;雲
[[フルート]]2、[[オーボエ]]2、[[コーラングレ]]、[[クラリネット]](B♭管)2、[[ファゴット|バスーン]]3、[[ホルン]](F管)4、[[ティンパニ]]、[[ハープ]]、[[弦五部]]
;祭
フルート3(3番奏者は[[ピッコロ]]、フルート2に持ち替え)、オーボエ2、コーラングレ、クラリネット(B♭管とA管)2、バスーン3、ホルン(F管)4、[[トランペット]](F管)3、[[トロンボーン]]3、[[チューバ]]、ティンパニ、吊り[[シンバル]]、[[シンバル]]、[[スネアドラム|小太鼓]]、ハープ2、弦五部
;シレーヌ
フルート3、オーボエ2、コーラングレ、クラリネット(A管とB♭管)2、バスーン3、ホルン(F管)4、トランペット(F管)3、ハープ2、女声合唱([[ソプラノ]]8、[[メゾソプラノ]]8)、弦五部
 
== 脚注 ==
<references/>
 
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