「旋光」の版間の差分

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'''旋光'''(せんこう,optical rotation)とは、[[直線偏光]]がある物質中を通過した際に回転する現象である。この性質を示す物質や化合物は'''旋光性'''あるいは'''光学活性'''を持つ、と言われる。[[不斉]]な分子([[糖]]など)の溶液や、偏極面を持つ結晶([[水晶]])などの固体、偏極したスピンをもつ気体原子・分子で起こる。糖化学ではシロップの濃度を求めるのに、光学では[[偏光]]<ref>光は、進行方向に対し互いに直行する2つの面内を電場と磁場が同位相で正弦曲線を描いて進行している。今電場のみを考えると、自然光線では電場の進行波が進行方向を含むあらゆる方向の面に対称的に分布している。もし分布が対称的でない場合には、その光は偏光しているという</ref>の操作に、化学では溶液中の基質の性質を検討するのに、医学においては[[糖尿病]]患者の血中糖濃度を測定するのに用いられる。
 
==原理==
<center>''円偏光''</center>
</div>
光学活性は[[複屈折]]の一種である。直線偏光<ref>進行方向を時間に依存しない偏光</ref>は右円偏光 (right-hand circularly, RHC、このページでは右円偏光に属する物理量に、下付文字あるいは上付文字として_<math>\,+</math>_をおく) と左円偏光(left-hand circularly, LHC、このページでは左円偏光に属する物理量に下付文字あるいは上付文字として_<math>\,-</math>_をおく) の和<ref>平面偏光は電場の振幅が右回りの螺旋状に変化しながら進行する光(右円偏光)と、それと同じ振幅を有する左回りの螺旋状に進行する光(左円偏光)で構成されていると見て扱うことができる</ref>によって表される
 
:<math>\vec{E}_{\theta_0} = \vec{E}_+ + e^{i2\theta_0}\vec{E}_-</math>
 
ここで<math>\vec{E}</math> は光の[[電場]]ベクトル<ref>光のベクトルは電場ベクトルと磁場ベクトルの外積であるが、偏光の方向は電場の方向で表現される。このページでは光の進行方向と磁場ベクトルを含む面を偏光面、電場ベクトルを含む面を振動面と呼ぶ</ref>、<math>\,\theta_0</math>は、xy平面内に電場ベクトルが存在するように互いに直行するx軸、y,y、z,z軸をおいたとき、x軸を始線としての電場ベクトルのなす角である。このとき、左右の円偏光の左右の屈折率を<math>n_-,\,n_+</math>として、左右の光の電場のx成分<math>E_x^-,\,E_y^+</math>、y成分<math>E_y^-,\,E_y^+</math>は
:<math>\,E_x^-=E_0\cos{(\omega t-k_0n_\mathrm{z}^-)}</math>
:<math>\,E_x^+=E_0\cos{(\omega t-k_0n_\mathrm{z}^+)}</math>
:<math>E_y^-=E_0\cos{(\omega t-k_0n_\mathrm{z}^--\tfrac{\mathbf{\pi}}{2})}</math>
:<math>E_y^+=E_0\cos{(\omega t-k_0n_\mathrm{z}^+-\tfrac{\mathbf{\pi}}{2})}</math>
あらわせるから、合成電場のx成分<math>\,E_x</math>、y成分<math>\,E_y</math>は
:<math>E_x=2E_0\cos{\left( \frac{k_0(n_--n_+)}{2}z \right)}\cos{\omega t-\left( \frac{k_0(n_++n_-)}{2}z \right)}</math>
:<math>E_y=2E_0\sin{\left( \frac{k_0(n_--n_+)}{2}z \right)}\cos{\omega t-\left( \frac{k_0(n_++n_-)}{2}z \right)}</math>
2つの円偏光の位相差<math>\,2\theta_0</math><ref>位相に差があるとき、偏光面は[[入射面|入射]]前に比べて左右いずれかに傾く。2つの円偏光の位相が異になるとは、それぞれの進行速度に差があるということである。左右の円偏光が媒質中を等しい速度で進行するときは、2つの円偏光は(入射前の進行方向と重なる直線、円変更の図での上に向かって伸びる矢印上の任意の点から)等しい距離を進行する。その結果、媒質を通過後の2つの円偏光は位相が同じで、それらを合成して得られる平面偏光は媒質に入射する前の面と一致している</ref><ref>入射前の偏光において、測定媒質通過後に偏光が左または右に傾いたなら、その測定媒質をそれぞれ左旋光性、右旋光性と呼ぶ。左旋光性と右旋光性の化合物を区別するときは、右旋光性化合物名の前に_(+)_あるいは_d_、左旋光製化合物の前に_(-)_あるいは_l_をおく</ref>から、直線偏光の向きは<math>\,\theta_0</math>となる。光学活性な物質中では2つの円偏光の[[屈折率]]が異なり、この差が光学活性の強さとなって現れる
 
:<math>\,\Delta n = n_+ - n_-</math>
 
屈折率の差はその物質固有のものであり、溶液の場合は'''比旋光度''' (specific rotation) として定義される。距離 ''L'' の物質を通過したあと、2つの偏光の位相差は次のようになる
 
:<math>2\Delta \theta = \frac{\Delta n L2\pi}{\lambda}</math>
一般的に、屈折率は波長に依存する([[分散 (光学)|分散]]を参照)。光の波長変化に伴う偏光の回転量変化は旋光分散 (optical rotatory dispersion, ORD) と呼ばれる。ORD スペクトルと[[円二色性]] (CD) スペクトルは[[クラマース・クローニッヒの関係式]] (Kramers-Kronig relation) によって関連付けられる。片方のスペクトルについて完全な情報が得られれば、もう一方は計算によって求めることができる。
 
まとめると、旋光度は光の色(ナトリウム D 線の波長 589 nm 付近の黄色い光が一般的な測定に用いられる)、経路長 ''L''、および物質の性質(比旋光度 &Delta;''n'' および濃度)に依存する。
 
==旋光計==
旋光度を測る際、光源と偏光子、計測対象である物質を容れる資料セルに検光子そして'''旋光計'''(polarimeter)が用いられる。波でもある光はあらゆる方向に振動しているのでそのまま旋光計に通してもどのくらい傾いたのか、いやそもそも旋光が起こったのかどうかもはっきりしない。光を偏光子(フィルター)に当てると特定の面内に振動している光のみが通り、他は遮断される。この光を平面偏光と呼ぶが、光学活性体の入った資料セルに辿り着くと平面偏光はまるで横から力を加えられたように回転する。まるで風に当てられてくるくる回る風車の刃のように回転する平面偏光は資料セルを通過したのち検光子にぶつかる。偏光子を通った後も光はあらゆる方向に分散してしまっているが、検光子を通過する光の強度を測定することで旋光度を測量できる。検光子は実はフィルターであり回転している。分光したといっても偏光子の指定する面とつながる面の強度が最も強いので、回転しているフィルターを通過した光が最も強度の高かった時の、検光子のどれぐらい傾いていたかを測る<ref>実際には旋光計が測っているのは透過光の強度が最小の時の暗位置である。それに90度加えることで実測旋光度を明らかにする</ref>ことで光がどの程度回転させられたか解明できる。
==比旋光度==
旋光の由来は[[原子核|核]]や結合に存在する電子の[[電場]]への干渉である。そのため物質の構造に旋光度は影響を受け、事実旋光度は試料セル<ref>実験対象である光学活性物質を溶媒に混ぜて、その混合物に平面偏光を照射して旋光度の測定を行う(もちろん純物質で扱うこともある)。試料セルはその混合物の入れ物であり、偏光子を通った平面偏光以外の光を遮断している</ref>の長さ_<math>\,l</math>_<ref>要するに、試料セル内での光の進行経路の距離</ref>と溶媒とその濃度_<math>\,c</math>、入射光<ref>旋光度の測定実験において、光源の発した光は偏光子を通ってから試料セルに入射するので試料セルを通ろうとする平面偏光を入射光とも言える</ref>の波長_<math>\,\lambda </math>_および温度_<math>\,t</math>_を一定にして物質ごとに測定すると、そのときの''実測旋光度''(observed optical rotation)_<math>\,\alpha </math>_は各物質ごとに定められていることがかる。とはいえ実測旋光度は上で述べ連ねた種種の要素たちに依存するため、混乱を避けるために標準の旋光度['''比旋光度'''(specific rotation)]_<math>[\,\alpha]</math>_は下のように定義されている。
:<math>\,[\alpha]_\lambda^t=\frac{\alpha}{l \cdot c}</math>
比旋光度の次元は<math>\,deg\,cm^2/g</math>で、単位は(_<math>\,l=1\,\,m=10\,\,cm</math>_なので)<math>\,10^{-1}\,deg\,cm^2/g</math>_である。実測旋光度は度単位で表すのに対し、比旋光度の単位は長ったらしいので、通常_<math>[\,\alpha ]</math>_を無単位で表すことが多い。また、溶解度に関する実際的な理由により_<math>\,c</math>_を_<math>100\,mL</math>_中の溶質のグラム数で記載している文献もある。その場合、実測旋光度は100倍されている。
 
なお、比旋光度を記述する際には、溶媒の種類と濃度を明記する必要がある。例えば
:<math>\,[\,\alpha]_D^{20}+8.00(c\,1.00,</math>エタノール<math>\,)</math><ref>Dとは、[[ナトリウムランプ|ナトリウム蒸気灯]]の橙色のD発光線(通常、単にD線と呼ばれる)であり、一般に旋光度の測定に用いられる。波長589nm</ref>
のように記述する。ところが上に書いたように、試料濃度を表す_<math>\,c</math>_に<math>\,g/mL</math>ではなく<math>\,g/dL</math>を用いる習慣もあるので、比旋光度の式は
:<math>\,[\alpha]_\lambda^t=\frac{100\alpha}{l \cdot c'}</math>
'''光学純度'''とは、符号はともかく純粋なエナンチオマーに比べてその光学活性体はどのくらいの比旋光度を示すかをパーセンテージで表した数値である。
 
エナンチオマーの等量混合物は光学不活性であることはすぐ上のラセミ体の項で述べた。エナンチオマーの混合物でも互いの量が異なる場合に限り光学活性は観測される。ゆえに、比旋光度が判っていれば、実測旋光度から混合物の組成を求めることができる。例えば、ある化石から取り出した<math>\,(+)</math>-[[アラニン]]の溶液が+4.255+4.255(すなわち純粋なエナンチオマーの半分の比旋光度)のしか示さなかったとすると、その資料の50%50%は純粋な右旋性エナンチオマーであり、残りの50%50%はラセミ体であると判る。ラセミ体であるということは、その部分にはエナンチオマーが同量ずつ混じっているということであるから、下の図で示すように(+)異性体が75%75%、(-)異性体が25%25%の比率であることが判明する。
:<math>\boxplus \boxplus </math>  50%50% (+)
:<math>\boxplus \boxminus </math>  50%50% ラセミ体
::<math>\,\Box </math>はそれぞれ試料全体の50%を表している。測定される旋光度は純粋な(+)エナンチオマーの50%50%
このとき、光学活性を示すエナンチオマーの比率を'''エナンチオマー過剰率'''(enantiomer excess)という。この場合、エナンチオマー過剰率は50%50%である。
 
25%25%の(-)体は同じ量の(+)体による旋光を打ち消すので、この混合物は50%50%(すなわち75%-25%75%-25%)の''光学純度''と表現される。
 
==利用される分野==
[[磁場]]中では全ての分子は光学活性を持つ。ある物質中を伝播する光の向きに配向した磁場は、直線偏光の偏光面を回転させる。これは[[ファラデー効果]]と呼ばれ、光と電磁場の影響を関連付ける最初の発見の1つである。
 
光学活性や旋光現象を円偏光と混同してはならない。しばしば、円偏光は直線偏光が伝播に伴って回転するものだと表される。しかし、この考え方では、偏光は波長に等しい長さ(およそ 1 マイクロメートル)だけ進んだ時にちょうど1周することになり、これは真空中でも起こり得る。これに対し、旋光は物質中でのみ現れるものであり、物質によって異なるが大体数ミリメートルから数メートルの長さを進んだ時に1周する。
 
==歴史==
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