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'''アデノシン三リン酸'''('''アデノシンさんリンさん''')とは生物体で用いられる[[エネルギー]]保存および利用に関与する[[ヌクレオチド]]であり、すべての[[真核生物]]がこれを直接利用する。化学式 C<sub>10</sub>H<sub>16</sub>N<sub>5</sub>O<sub>13</sub>P<sub>3</sub>、[[分子量]] 507.181。
生物体内の存在量や物質代謝における重要性から
== 構造とエネルギー ==
[[プリン塩基]]である[[アデニン]]に[[糖]]の[[リボース]]が[[N-グリコシド結合]]により結合した[[アデノシン]]を基本構造として、リボースの 5'-ヒドロキシ基にリン酸エステル結合によりリン酸基が結合し、さらにリン酸がもう2分子連続してリン酸[[酸無水物|無水結合]]により結合した構造を取る。この、リン酸基同士の結合(リン酸無水結合)は、エネルギー的に不安定であり、このリン酸基の加水分解による切断反応や、他の分子にリン酸基が転移する反応は(切断した両リン酸基の端に、反応により新たに生成する、より安定な化学結合の生成に伴って)エネルギーを放出する。ATPのリン酸基の[[加水分解]]や[[転位反応]]は、ネットでの自由エネルギーの減少を伴うエネルギー放出反応となり、あたかもATPのリン酸基同士の結合の切断が生体内の化学反応の実質的な推進力となっているように見えるため、この意味において、この結合は
エネルギーの収支式を以下に示す。
* ATP+[[水|H<sub>2</sub>O]]
* ATP+[[水|H<sub>2</sub>O]]
この標準自由エネルギー変化は、一般的なリン酸エステル化合物の[[リン酸エステル結合]]の[[加水分解]]の[[標準自由エネルギー変化]](''ΔG°’'' =
さらに細胞内では、ATP濃度はADPの10倍程高く、リン酸濃度も標準状態
== ATPの生合成 ==
ATPは主に[[ATP合成酵素]]において'''[[酸化的リン酸化]]'''、'''[[光リン酸化]]'''によって生じる。
* ADP + Pi
また、[[解糖系]]や[[クエン酸回路]]などでもATPは生じる。好気呼吸によるATPの収支式については
[[グアノシン三リン酸|GTP]](グアノシン三リン酸)については、以下の反応式でATPと相互変換する。
* GTP + ADP ⇔ GDP + ATP (''ΔG°’''
また、細胞内では、酵素([[アデニル酸キナーゼ]])の働きにより、ATP, ADP, AMPが次の反応による平衡混合物となっており、ATPはADPからも一部再生される。
* 2ADP ⇔ ATP + AMP (''ΔG°’''
== ATPの役割 ==
ATPはエネルギーを要する生物体の反応素過程には必ず使用されている。ATPは[[哺乳類]]の[[骨格筋]]100gあたり 0.4 g 程度存在する。反応・役割については以下のものがある。
* [[解糖系]]
* [[筋肉#
* [[能動輸送]]
* [[生合成]]
* 発光タンパク質
* [[発電]]
* 発熱
リン酸基の付加はリン酸基転移酵素([[キナーゼ]])によって行われる。また、ATP そのものも [[リボ核酸|RNA]]合成の前駆体として利用されている。
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== 歴史 ==
* [[1929年]]
* [[1939年]]
これらのハンガリー学派の筋収縮に関する一連の研究が
▲[[1931年]] Loehmann、Meyerhofによって[[解糖系]]にATPが用いられることが明らかになった。
▲[[1939年]] Engelhardtらによって、[[筋肉#.E7.AD.8B.E5.8F.8E.E7.B8.AE.E3.82.84.E5.BC.9B.E7.B7.A9.E3.81.AE.E3.83.A1.E3.82.AB.E3.83.8B.E3.82.BA.E3.83.A0|筋収縮]]のタンパク質である[[ミオシン]]がATPを[[加水分解]]することが明らかになった。同年、LipmannによってATPは代謝に中心的な役割を果たしていることが提唱された。
▲[[1941年]] SzentgyörgyiによってミオシンがATPによって収縮することが明らかになった。
▲[[1942年]] Szentgyörgyiによって[[アクチン]]、ミオシン、ATPが筋収縮の基本的な構成単位であることが明らかになった。
▲これらのハンガリー学派の筋収縮に関する一連の研究が『ATPは生体のエネルギー通貨』であると言う認識を構築していった。また、ATPが能動輸送に関係することが1957年、Skouらによって明らかになり(Na<sup>+</sup>,K<sup>+</sup>-ATPaseの発見)、ATP利用系のフォーマットが現在に至るまで構築されている。
ATP合成系の歴史については、以下の通りである。
* [[1951年]]
* [[1961年]] - [[ピーター・ミッチェル|Mitchell]]によって[[水素イオン|プロトン]]の[[電気化学ポテンシャル]]がATPの合成に寄与していると言う「'''[[化学浸透圧説|化学浸透圧仮説]]'''」が提唱された。
* [[
* [[1966年]] - Jagendorfらによって葉緑体での[[水素イオン指数|pH]]ジャンプによるATP合成系のモデルが提唱された。
* [[1975年]]
* [[
* [[1994年]]
▲[[1975年]] RackerとStoeckeniusによって、[[脂質二重層]]を用いた[[ATP合成酵素]]および[[バクテリオロドプシン]]の実験によってATP合成が電気化学的ポテンシャルによって行われることを明らかにした。
* [[2008年]]
▲[[1978年]] 化学浸透圧説を唱えたMitchellが[[ノーベル化学賞]]を受賞した。
▲[[1994年]] [[ジョン・E・ウォーカー|Walker]]らによってウシATP合成酵素のF<sub>1</sub>[[サブユニット]]の[[X線結晶構造解析]]が行われ、その立体構造が明らかになった。
▲[[1997年]] Boyer、WalkerらがATP合成酵素の反応素過程を解明したことによりノーベル化学賞を受賞した。
▲[[2008年]] [[岡山大学]]森山芳則教授らの研究グループがATPのトランスポーターを特定し、3月25日『[[米国科学アカデミー紀要]](PNAS)』電子版に掲載・発表された論文において、これを「小胞型ヌクレオチド・トランスポーター(vesicular nucleotide transporter, '''VNUT''')」と命名した<ref>Sawada, K.; Echigo, N.; Juge, N.; Miyaji, T.; Otsuka, M.; Omote, H.; Yamamoto, A.; and Yoshinori Moriyama(April 15, 2008) “Identification of a vesicular nucleotide transporter” ''Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America'', 2008 105: 5683-5686; {{doi|10.1073/pnas.0800141105}}</ref><ref>VNUTによって神経末端のシナプス小胞に運ばれたATPは貯蔵された後、外部に放出されて[[疼痛|痛み]]を発生させたり血管を収縮したりするため、VNUTが抑制できれば痛み・血管収縮を管理することが可能になる。</ref>。
== 関連項目 ==
* [[呼吸]]
* [[解糖系]]
* [[電子伝達系]]
* [[ATP合成酵素]](ATPシンターゼ)
* [[アデノシン三リン酸フォスファターゼ]](ATPアーゼ)
* [[環状アデノシン一リン酸]] (cAMP)
* [[ATP測定法]]([[ATP拭き取り検査]])
== 脚注・参考文献 ==
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