「ポルノグラフィ」の版間の差分

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性は本来人間の根源にかかわる問題であり、哲学的探求や文学、芸術などの対象になり得るものであり、その表現形態には性的興奮を起こさせることを目的としたポルノもある。一方、性的興奮を起こさせる表現のうち、更に、通常人の羞恥心を害し、かつ、善良な性的道義観念に反するものは、[[わいせつ]]表現として、法的規制がかけられている。しかしながら、[[わいせつ]]な表現であっても、思想性や芸術性の高い文書については規制の対象から除外されるという議論が沸き起こることが少なくない([[わいせつ#刑法]]参照)。[[日本]]では、[[わいせつ]]な小説として[[伊藤整]]翻訳の[[D・H・ローレンス|D・H・ロレンス]]『[[チャタレイ夫人の恋人]]』や[[澁澤龍彦]]翻訳の[[マルキ・ド・サド]]『[[ジュリエット物語あるいは悪徳の栄え|悪徳の栄え]]』が、映画として[[大島渚]]『[[愛のコリーダ]]』が猥褻性をめぐり裁判にまで発展した。
 
== ポルノの歴史 ==
=== 政治的観点 ===
[[リン・ハント]]によれば、前近代のヨーロッパ社会では、ポルノは政治的・社会的な批判を頻繁に含んでいた。代表的な形態は大きく分けて二つあり、ひとつには特定の個人や党派・集団への直接的な中傷である。国王やその愛人、有力政治家など国家の要人を批判する目的で、彼らの痴態を描いた[[風刺]]詩、[[版画]]などを流通させてその権威や評判を貶める内容である。[[マザラン]](いわゆる[[マザリナード]])や[[チャールズ2世]]に対する風刺は、政治的動向にポルノが一定の役割を果たした例として有名である。もうひとつは、18世紀に[[啓蒙主義]]が思想界を覆い始めるのを背景に流行した、従来の価値観を相対化ないし否定する内容を含むタイプである。自由思想を根拠に既存の体制を問題視し、教会・国家の腐敗を猥雑な表現方法で貶めるもので、[[聖職者]]の性的堕落の様なテーマが好んで描かれた。サドの一連の作品もこの文脈の中に置くことが出来よう。こうした反体制的要素を危険視した教会・国家は早い時期から[[検閲]]を適用したが大きな効果は得られなかった。特にフランスではポルノの流通を通して、啓蒙主義の[[エートス]]が普及した可能性が示唆されている。18世紀末の[[フランス革命]]では革命派を中心にポルノによる中傷攻撃が氾濫し、国王夫妻を始め旧支配層の権威を著しく低下させて革命劇の成功に大きく貢献した。しかし19世紀に入り、[[ジャーナリズム]]が市民的な[[公共性]]を重んじる傾向を強め、個人の私的領域への露骨な攻撃を控え始めるにつれ、ポルノと政治的・社会的批判との直接的な関係は弱まっていった。
 
== ポルノとフェミニズム ==
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[[リベラル・フェミニズム]]は、[[表現の自由]]や自己決定権を重視する立場から、ポルノの排除に反対する。リベラル・フェミニストの中には、男性中心主義的なものも含めて、既存の性秩序への破壊力をポルノに認め、ポルノ一般に寛容な立場もある<ref>例えばA. SnitowとP. Califiaの『ポルノと検閲』やN. Strossenの『ポルノグラフィ防衛論』。</ref>。
 
== ポルノの歴史 ==
=== 政治的観点 ===
[[リン・ハント]]によれば、前近代のヨーロッパ社会では、ポルノは政治的・社会的な批判を頻繁に含んでいた。代表的な形態は大きく分けて二つあり、ひとつには特定の個人や党派・集団への直接的な中傷である。国王やその愛人、有力政治家など国家の要人を批判する目的で、彼らの痴態を描いた[[風刺]]詩、[[版画]]などを流通させてその権威や評判を貶める内容である。[[マザラン]](いわゆる[[マザリナード]])や[[チャールズ2世]]に対する風刺は、政治的動向にポルノが一定の役割を果たした例として有名である。もうひとつは、18世紀に[[啓蒙主義]]が思想界を覆い始めるのを背景に流行した、従来の価値観を相対化ないし否定する内容を含むタイプである。自由思想を根拠に既存の体制を問題視し、教会・国家の腐敗を猥雑な表現方法で貶めるもので、[[聖職者]]の性的堕落の様なテーマが好んで描かれた。サドの一連の作品もこの文脈の中に置くことが出来よう。こうした反体制的要素を危険視した教会・国家は早い時期から[[検閲]]を適用したが大きな効果は得られなかった。特にフランスではポルノの流通を通して、啓蒙主義の[[エートス]]が普及した可能性が示唆されている。18世紀末の[[フランス革命]]では革命派を中心にポルノによる中傷攻撃が氾濫し、国王夫妻を始め旧支配層の権威を著しく低下させて革命劇の成功に大きく貢献した。しかし19世紀に入り、[[ジャーナリズム]]が市民的な[[公共性]]を重んじる傾向を強め、個人の私的領域への露骨な攻撃を控え始めるにつれ、ポルノと政治的・社会的批判との直接的な関係は弱まっていった。
 
== ポルノのジャンル ==