「垂井式アクセント」の版間の差分

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名称について加筆。北海道の垂井式地区については出典先(岩波講座151、175頁)と矛盾しており削除。
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'''垂井式アクセント'''(たるいしきアクセント)は、[[近畿地方]]周縁部や[[福井県]]の一部、[[富山県]]などに分布する[[日本語]]の[[アクセント]]の総称。[[服部四郎]]が[[岐阜県]][[垂井町]]で[[京阪式アクセント]]と[[東京式アクセント]]の中間的性質を持つアクセントを発見し、このように命名した。
 
ただ、「垂井式」という名称は完全十分に定着したものではなく学者によって異なる呼称がつか使われることがある。[[金田一春彦]]は「京阪式アクセント(ちがう方向に変化している)」<ref>金田一春彦監修、秋永一枝編『新明解日本語アクセント辞典』三省堂、第4刷、2002年、巻頭の図</ref>や「型の区別の少い京阪式アクセント」<ref>大野・柴田編『岩波講座 日本語11 方言』(1977)、176-177頁。</ref>と呼んでおり、京阪式アクセントの変種として扱っている。
 
== 概説 ==
東京式アクセントは音の下がり目の位置を弁別する体系を持っている。例えば「命が」は「'''い'''のちが」、「言葉が」は「こ'''とば'''が」、「形が」は「か'''たちが'''」である(高い拍を'''太字'''で示す)が、これらは下がり目のみが固定されており、語頭の高低は固定されていない。例えば、これらの語の前に「この」を付けると、「こ'''のい'''のちが」「こ'''のことば'''が」「こ'''のかたちが'''」のようになる。下がり目を{{下げ核|○}}で表すと、「{{下げ核|い}}のちが」「こと{{下げ核|ば}}が」と解釈され、「かたちが」は下がり目がない。一方、京阪式アクセントでは音の下がり目の位置に加え、語頭の高低も弁別する。たとえば、「形が」は「'''かたちが'''」、「兎が」は「うさぎ'''が'''」で、語頭の高低が固定されている。
 
近畿地方周縁部などには、東京式と同じように下がり目の位置のみを弁別する体系でありながら、各語彙の下がり目の位置そのものは京阪式と似たようになる体系のアクセントがある。これを垂井式アクセントと呼び、京阪式の領域と東京式の領域の接する地域に分布している。例えば、垂井式である[[兵庫県]][[赤穂市]]のアクセントでは、「歌が」は「'''う'''たが」、「雨が」は「'''あめ'''が」または「あ'''め'''が」、「枝が」は「'''えだが'''」または「え'''だが'''」で、京阪式の「'''う'''たが」「あ'''め'''が」「'''えだが'''」と下がり目の位置が一致する<ref>[[大野晋]][[柴田武]]編『岩波講座日本語5音韻』岩波書店、1977年、292頁。</ref>。しかし語頭は高でも低でもよく、語頭の高低は弁別されない。赤穂市のこれらの語のアクセントは、「{{下げ核|う}}たが」、「あ{{下げ核|め}}が」、「えだが」(下がり目なし)と解釈される。
 
垂井式アクセントの成立をめぐっては、元々京阪式アクセントだったものが、語頭が高いもの(高起式)と低いもの(低起式)の区別を失ってできたとする説が有力である。例えば京阪式で「高高高」と発音する「枝が」「飴が」などと、京阪式で「低低高」と発音する「何が」「松が」などが、垂井式ではどちらも「高高高」(一部で「低高高」)になっていることがその根拠である。一方、元々東京式だったものが、京阪式と接触して垂井式アクセントを生んだとする説([[山口幸洋]])もある。