「急性放射線症候群」の版間の差分

削除された内容 追加された内容
→‎参考文献: commonsの追加。
→‎病態: {{main|放射線障害#病態}}の追加など。
17行目:
 
== 病態 ==
{{main|放射線障害#病態}}
主に細胞死によって生体器官の機能が損なわれて生じる急性の障害である。ごく少量の被曝では影響が現れず、一定の[[しきい値|しきい]]線量を超えて被曝すると障害が現れる。多量の放射線を浴びるとほぼ確実に障害が現れるため、確定的影響と呼ぶ場合もある。
急性放射性症候群(ARS)は、[[体細胞]]が電離放射線を被曝することによる確定的影響によって生じる放射線障害である。その発症機序は、電離放射線の[[電離]]作用が直接・間接的に体細胞の[[デオキシリボ核酸]](DNA)を傷害することにより、[[遺伝情報]]が損傷することによるものである。DNAが回復不能なほど重度な傷害を受けると、細胞は[[プログラム細胞死]]を来すか、遺伝情報を損傷したまま固定化してしまうことになるが、前者の場合は、大量の細胞が失われることによって組織は急性の機能不全に陥り、ARSを発症することになる。また、プログラム細胞死を来した細胞が比較的少数であった場合も、生存した細胞の遺伝情報に損傷が残っていると、正常細胞を産生することができず、機能不全からの回復が阻害されることになる。
 
ある程度多量な放射線を浴びたときには[[皮膚]]・[[粘膜]]障害や[[骨髄]]抑制(造血細胞が減少し[[白血球]]や[[赤血球]]が減少すること)、[[脊髄]]障害は必発であり、また莫大な放射線を浴びた場合には死に至る。これらの障害は、それぞれどの程度の被曝量から生じるかの[[閾値]]がだいたい決まっており、その値よりかなり低いならば、まず起きる可能性を考えなくてよい類のものである。そのため、急性放射線障害のことを確定的影響と呼ぶ場合もある。
 
[[アルファ線]]や[[ガンマ線]]のような[[電離放射線]]を水に照射すると、[[電離]]作用により[[ラジカル (化学)|ラジカル]]、[[過酸化水素]]や[[イオン対]]等が発生する。ラジカルはきわめて急速な化学反応を起こす性質を持つ。人体の細胞中の水にラジカルが生じると、細胞中の[[デオキシリボ核酸|DNA]]分子と化学反応を起こし、[[遺伝情報]]を損傷する。
DNAは2重のポリ核酸の鎖からなっているが、その片方だけが書き換えられたのであれば、酵素のはたらきにより、もう一方のタンパク質の鎖を雛型として数時間のうちに修復される。しかし、2本の鎖の同じ箇所が書き換えられた場合は修復はきわめて難しくなる<ref>「放射線 その利用とリスク」地人書館、エドワード・ポーチン著、中村尚司訳、昭和62年4月10日初版第1刷</ref>。損傷が修復できる限度を越えると、細胞分裂不全となり自死してしまう。こうして細胞が必要なときに補充されず、臓器の機能を維持する数の細胞が確保されないと、[[放射線障害]]としての症状が現れるのである。
 
また細胞分裂の周期が短い細胞ほど、放射線の影響を受けやすい([[骨髄]]にある[[造血細胞]]、[[小腸]]内壁の[[上皮細胞]]、眼の[[水晶体]]前面の[[上皮細胞]]などがこれに当たる)。逆に細胞分裂が起こりにくい骨、筋肉、神経細胞は放射線の影響を受けにくい。これを[[ベルゴニー・トリボンドーの法則]]と呼ぶ。
 
== 症候 ==