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{{Law}}
'''扶養'''(ふよう)とは、老幼、心身の障害、疾病、貧困、失業などの理由により自己の労働が困難でかつ資産が十分でないために独立して生計を営めない者(要扶助者)の生活を他者が援助すること<ref>中川高男著 『親族・相続法講義』 ミネルヴァ書房、1995年6月、294頁</ref><ref>於保不二雄・中川淳編著 『新版 注釈民法〈25〉親族 5』 有斐閣〈有斐閣コンメンタール〉、1994年4月、723頁</ref>。扶養関係において、扶養を受ける権利のある者([[b:民法第878条|民法第878条]])を'''扶養権利者'''、扶養をする義務のある者([[b:民法第878条|民法第878条]])を'''扶養義務者'''、実際に何らかの援助を受けて扶養されている者を「'''被扶養者'''」([[健康保険法]]第1条、[[介護保険法]]第7条第8項第6号)と呼ぶ。
 
== 扶養一般 ==
=== 扶養制度の沿革 ===
; 私的扶養
家父長制の下で、家長は家産を排他的に管理するとともに親族は家業の労働に就き、それと同時に親族の生活保障は家長の責任とされていたが、時代が下って、人々が家の外で収入を獲得するようになると個々の生活保障は自立保障を建前とするようになっていった<ref>泉久雄著 『親族法』 有斐閣〈有斐閣法学叢書〉、1997年5月、296頁</ref>。
家父長制の下で、家長は家の経済的基礎となる家産を排他的に管理するとともに親族は家業の労働に就き、それと同時に親族の生活保障は家長の責任とされていたが、時代が下って親族的集団の分化が進み、人々が家の外で収入を獲得するようになると個々の生活保障は夫婦関係・親子関係を中核とする自立保障を建前とするようになっていった<ref>我妻栄著 『親族法』 有斐閣〈法律学全集23〉、1961年1月、401頁</ref><ref>泉久雄著 『親族法』 有斐閣〈有斐閣法学叢書〉、1997年5月、296頁</ref>。そして、その他の親族の扶養関係については主として習俗的・道徳的な規範に基づいて規律されるようになった<ref>我妻栄著 『親族法』 有斐閣〈法律学全集23〉、1961年1月、401頁</ref>。しかしながら、扶養義務は親族関係が密な社会においては法的義務としなくとも自然債務的に履行されるものであるが、それが希薄となって扶養義務の履行が期待できなくなる場合には一定の範囲の親族に対して法的な扶養を義務付けねばならなくなるとされる<ref>於保不二雄・中川淳編著 『新版 注釈民法〈25〉親族 5』 有斐閣〈有斐閣コンメンタール〉、1994年4月、724頁</ref>。なお、扶養法における扶養は理想ではなく扶養義務の最小限度を定めたものにすぎないとされる<ref>於保不二雄・中川淳編著 『新版 注釈民法〈25〉親族 5』 有斐閣〈有斐閣コンメンタール〉、1994年4月、724-725頁</ref>。
 
; 公的扶養
本来、公的扶助は貧民の救済を目的としたものであり<ref>泉久雄著 『親族法』 有斐閣〈有斐閣法学叢書〉、1997年5月、298頁</ref>、日本では明治7年に恤救規則、昭和7年に救護法、昭和12年に母子保護法、昭和20年に軍事扶助法が制定された。
近代資本主義社会においては、労働力再生産の観点から企業が使用人と家族の生活の維持について一定の役割を果たすようになり、家族扶養手当制度、健康保険制度、労働災害保険制度、社会保険制度などの扶養制度(社会的扶養)が設けられるようになった<ref>於保不二雄・中川淳編著 『新版 注釈民法〈25〉親族 5』 有斐閣〈有斐閣コンメンタール〉、1994年4月、472頁</ref>。
 
また、生活困窮者の増大は社会不安をもたらすことから、生活保護制度などの国家扶養制度も設けられるようになった<ref>於保不二雄・中川淳編著 『新版 注釈民法〈25〉親族 5』 有斐閣〈有斐閣コンメンタール〉、1994年4月、472頁</ref>。本来、公的扶養は貧民の救済を目的としたものであり<ref>泉久雄著 『親族法』 有斐閣〈有斐閣法学叢書〉、1997年5月、298頁</ref>、日本では明治7年に恤救規則、昭和7年に救護法、昭和12年に母子保護法、昭和20年に軍事扶助法が制定された。そして、戦後、[[日本国憲法第25条]]の「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」(第1項)と「国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。」(第2項)の理念のもとに[[生活保護法]]が制定された。この日本国憲法第25条は[[生存権]]について明規したもので画期的なものであった。国家扶養に対する考え方によっては究極的にはすべての資源を国家が統合して国民に分配すべきということになりそうだが、日本国憲法は私有財産制を保障していること([[日本国憲法第29条]])、[[日本国憲法第27条]]1項が勤労権について定めていること、個々の労働・財産の取得には幸福追求としての側面があること([[日本国憲法第13条]])などから、あくまでも個人の自由な資産形成と自立自助が基本原則とされる<ref>於保不二雄・中川淳編著 『新版 注釈民法〈25〉親族 5』 有斐閣〈有斐閣コンメンタール〉、1994年4月、724頁</ref>。
 
=== 親族扶養優先の原則 ===
扶養には'''私的扶養'''([[民法]]による扶養)と'''公的扶養'''([[生活保護法]]等による社会的・国家的な扶養)の二種類があるが、私的扶養が困難な場合のみ公的扶養が開始されるというのが法の原則である(親族扶養優先の原則、私的扶養優先の原則、公的扶助の補充性)。[[児童福祉法]]第56条、[[老人福祉法]]第28条、[[身体障害者福祉法]]第38条は、この考え方に基づいて[[国庫]]等が費用を支弁した場合の扶養義務者からの負担について定めている。
 
しかし、現実に協同関係が存在しない者の間の私的扶養では、扶養本来の目的を実効的に期すことが難しい場合もある<ref>泉久雄著 『親族法』 有斐閣〈有斐閣法学叢書〉、1997年5月、299頁</ref>。そのため、近年の行政実務ではこの原則を見直す動きがあり、公的扶養の比重が高まりつつある<ref>[http://wp.cao.go.jp/zenbun/seikatsu/wp-pl96/wp-pl96-01503.html 経済企画庁編『平成8年度国民生活白書』第5章第3節]</ref>。
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なお、現代では[[労働基準法]]や[[船員法]]などに基づく企業負担による社会的扶養制度があり、また、[[健康保険法]]や[[国民年金法]]による各種社会保険制度が整備されるに至っており、その限度において親族扶養や国の扶養は実質的に免責されている<ref>於保不二雄・中川淳編著 『新版 注釈民法〈25〉親族 5』 有斐閣〈有斐閣コンメンタール〉、1994年4月、472頁</ref>。
 
== 日本の国内私法(民法)による扶養制度 ==
=== 国内私法(民法)による扶養 ===
以下、[[民法]]については、その条数のみ記載する。
 
==== 親族扶養の本質 ====
親族間の扶助精神は民法等の法制度が整備される以前から存在したものであり、親族扶養の本質は「親族共同生活態における共生義務の一形態」とされる<ref>中川善之助編著 『註釈親族法(下)』 新書館〈註釈民法全書第2〉、1952年、237-238頁</ref>。扶養義務を一定の範囲の親族に課す根拠は、一定範囲の親族の中に生活に困窮するものがあれば相互に助け合うべきとする国民感情に由来すると説かれる<ref>利谷信義著 『現代家族法学』 法律文化社〈NJ叢書〉、1999年7月、105頁</ref>。
 
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このように生活保持義務と生活扶助義務を分ける考え方に対しては、生活保持義務の強調が公的扶助制度の欠陥を隠蔽し社会保障制度の発展を阻害しており、これらの区別は扶養義務の質的な違いではなく量的な違いに過ぎないのではないかとの批判がある<ref>泉久雄著 『親族法』 有斐閣〈有斐閣法学叢書〉、1997年5月、302頁</ref>。しかし、両者の違いをあくまで理念型として捉えた上で、双方の間には連続的な幅があるとみるべきとする理論も唱えられている<ref>利谷信義著 『現代家族法学』 法律文化社〈NJ叢書〉、1999年7月、106-107頁</ref>。
 
==== 扶養請求権の性質 ====
扶養請求権は一身専属的権利として処分が禁じられており譲渡・質入・放棄は許されない([[b:民法第881条|881条]])債権者代位権([[b:民法第423条|423条]])を行使すること、受働債権として相殺することもできない。債権者は扶養請求権を差し押さえることはできず(民事執行法152条1項1号)、破産者の扶養請求権は破産財団に属さない(破産法34条3項2号)。扶養請求権は相続の対象にもならない([[b:民法第896条|896条]]ただし書き)。また、絶対的定期請求権であるから消滅時効にかからない<ref>於保不二雄・中川淳編著 『新版 注釈民法〈25〉親族 5』 有斐閣〈有斐閣コンメンタール〉、1994年4月、477-478頁</ref>。
 
なお、第三者によって扶養義務者の生命や身体に対する加害行為があり、それによって扶養権利者が扶養を受けられなくなったような場合には扶養相当分についても損害賠償請求が可能である<ref>泉久雄著 『親族法』 有斐閣〈有斐閣法学叢書〉、1997年5月、332頁</ref>。
 
==== 夫婦間扶養義務 ====
夫婦間扶養義務(夫婦の同居義務および夫婦の協力扶助義務)については、「[[親族]]編(第四編)第2章 婚姻」の[[b:民法第752条|752条]]において「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。」と定められている。
 
752条に規定される夫婦間扶養義務のうち、「'''夫婦とその「子」が各々の生活を保持し続けられるようにする義務がある'''」という、最低限の文化的生活維持を上回る生活の保持を必要とする扶養義務を「'''生活保持義務'''」と呼ぶ<ref name="kame1" /><ref name="yokohama1">[http://koguchi-jimusho.com/knowledge/souzoku/8.html 横浜市の相談手続き・遺言書作成・離婚問題解決]( [http://megalodon.jp/2011-0525-0431-33/koguchi-jimusho.com/knowledge/souzoku/8.html] )(1)生活保持義務<br />
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※未成熟子とは経済的に自立していない子を意味します。したがって成年前でも成熟子であることもありますし、成年に達していても未成熟子と認められる場合もあります。また、婚姻関係にない男女から生まれた子とその父親の扶養義務について、父親の認知がある場合は扶養義務が発生します。母親の扶養義務については分娩の事実があれば足ります。 </ref>。
 
なお、夫婦間扶養義務の中に含まれている「同居義務」は、病院などへの入院などやむを得ない事由がある場合には免れるものと解されているが、同居義務に合理的な理由なくして違反し続けている場合は[[b:民法第770条|770条1項]]の「悪意の遺棄」として離婚事由原因となりうる。
 
==== 親子間扶養義務 ====
===== 未成熟子扶養義務 =====
[[未成熟子]]とは経済的にまだ自立していない子すべてを指す。既に成人年齢に達している子供てあっても、経済的にまだ自立していない子はすべて未成熟子とされる。
 
752条に定める夫婦間扶養義務は、[[b:民法第877条|877条]]・[[b:民法第730条|730条]]と連結して、血族たる子供が生まれた場合、法定血族たる養子を迎えた場合、および何分の一か血族である連れ子を迎えた場合には、その子が経済的に独立した一人前の社会人に育つまでその子を育て上げる義務を当然に発生させる。この未成熟子に対する扶養義務を'''[[未成熟子]]扶養義務'''<ref name="kame1">[http://s02.megalodon.jp/2009-1205-2323-20/www.trkm.co.jp/souzoku/06032501.htm 扶養義務の基礎の基礎-未成熟子扶養の程度特に終期]</ref><ref name="yokohama1" />という。『'''[[婚姻]]そのものに本源的に必要不可欠なものとして、夫婦同士の扶養義務および夫婦の「子」に対する未成熟子扶養義務が含まれている'''』と解されているためである
 
; 法的根拠
民法の字義的観点からは「親の未成熟子に対する扶養義務の根拠規定」は直系血族・兄弟姉妹および3親等内の親族間の扶養義務を定める[[b:民法第877条|877条]]「'''直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養する義務がある'''」であるとする見解が「現在の通説・審判例となっている」<ref name="fukaya">[[深谷松男]]著『現代家族法』第4版170頁</ref><ref name="nishihara">[[西原道雄]]著「真剣と親の扶養義務」家裁月報第8巻11号25頁</ref><ref name="nomi">[[能美善久]]・[[加藤新太郎]]編集『論点体系 判例民法 9 親族』平成21年3月30日初版534頁</ref>。ところが、核家族化の進行や介護制度の整備などにより家族内における扶養事情は戦後民法の施行時とは大きく様変わりしており、「最近は扶養の内容はしだいに縮められ、夫婦とその間の一人前でない子供を中心とするように変わりつつある」<ref>高梨公之監修『口語六法全書 口語民法』(自由国民社)補訂3版440頁</ref>。
未成熟子扶養義務の具体的な法的根拠については、(1)877条説、(2)親子関係の本質から生じるもので法文上の根拠を必要としないとの説、(3)父母が婚姻中の未成熟子については760条、父母が婚姻関係にない未成熟子については877条によるべきとする説、(4)820条説-親権説、(5)766条説-監護権説など多岐にわたる見解が存在する<ref>於保不二雄・中川淳編著 『新版 注釈民法〈25〉親族 5』 有斐閣〈有斐閣コンメンタール〉、1994年4月、738頁</ref>。
 
民法の字義的観点からは「親の未成熟子に対する扶養義務の根拠規定」は直系血族・兄弟姉妹および3親等内の親族間の扶養義務を定める[[b:民法第877条|877条]]「'''直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養する義務がある'''」であるとする見解が「現在の通説・審判例となっている」<ref name="fukaya">[[深谷松男]]著『現代家族法』第4版170頁</ref><ref name="nishihara">[[西原道雄]]著「真剣と親の扶養義務」家裁月報第8巻11号25頁</ref><ref name="nomi">[[能美善久]]・[[加藤新太郎]]編集『論点体系 判例民法 9 親族』平成21年3月30日初版534頁</ref>。ところが、核家族化の進行や介護制度の整備などにより家族内における扶養事情は戦後民法の施行時とは大きく様変わりしており、「最近は扶養の内容はしだいに縮められ、夫婦とその間の一人前でない子供を中心とするように変わりつつある」<ref>高梨公之監修『口語六法全書 口語民法』(自由国民社)補訂3版440頁</ref>。
[[経済大国]]になったはずの日本でも、特に[[1990年]]代以降、[[不景気]]や崩壊家庭の増加や[[離婚]]率上昇の影響もあって理想と現実との甚だしい乖離がしばしば見られる。また、[[1994年]][[4月22日]]、日本は[[子供の権利条約]]に批准したにもかかわらず、「子供の権利」や「親権者(保護者)の子育てについての義務」や「子供に対する虐待防止」に主眼を置いた民法の条文も法律もいまだに存在していないままである。後述する[[b:民法第820条|820条]]において「[[親権]]を行う者」の権利義務という極めて片手落ちな形でのみ規定が存在しているに過ぎない。これらは、日本国の「[[立法の不作為]]」問題の一つとされている。
 
; 離婚の場合の扶養義務
この: 未成熟子扶養義務は877条の規定により夫婦が離婚した場合も親権とは別に各々の配偶者にそのまま維持される<ref>於保不二雄・中川淳編著 『新版 注釈民法〈25〉親族 5』 有斐閣〈有斐閣コンメンタール〉、1994年4月、733頁</ref>。このため、遺産分割協議や離婚協議などにおいて、未成熟子扶養義務まで承継させられることを不服とする相続人や、親権を奪われても扶養義務だけは果たせと要求されて納得できない様子の配偶者がしばしば見られる。
 
=====; 成熟子の親に対する扶養義務 =====
: 継子の扶養義務については、877条の「直系血族」にはあたらないが、[[b:民法第770条|770条1項]]の「夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する。」などの規定により認められている<ref>於保不二雄・中川淳編著 『新版 注釈民法〈25〉親族 5』 有斐閣〈有斐閣コンメンタール〉、1994年4月、733頁</ref>。
 
==== 成熟子の親に対する扶養義務 ====
生活保持義務、生活扶助義務、どちらも当然に含まれる。治療代・介護代・病院代・[[特養ホーム]]代などの支払いも当然に含まれる。
 
==== 親族間一般の扶養義務 ====
民法は[[b:民法第877条|877条]]第1項において「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。」と定め、同条第2項で「家庭裁判所は、特別の事情があるときは、前項に規定する場合のほか、三親等内の親族間においても扶養の義務を負わせることができる。」と定める。
 
===== 扶養当事者 =====
; 要扶養者
親族間の扶養を受けるには自らの財力・労力では生活することが困難である者(要扶養者)でなければならない(この点で常に扶養義務を負うとされる夫婦間の扶養義務などとは異なる)<ref>我妻栄・有泉亨・遠藤浩・川井健著 『民法 第二版 3 親族法・相続法』 勁草書房、1999年7月、225頁</ref>。
 
; 扶養義務者
要扶養状態となった者がある場合、その者の直系血族(両親、祖父母、子、孫など)及び兄弟姉妹は扶養義務者(絶対的扶養義務者)として扶養義務を負う([[b:民法第877条|877条]]第1項)。また、[[家庭裁判所]]は特別の事情があるときは、三親等内の親族も扶養義務者(相対的扶養義務者)として扶養義務を負う([[b:民法第877条|877条]]第2項)。これらの者の扶養義務は相互的なものである<ref>利谷信義著 『現代家族法学』 法律文化社〈NJ叢書〉、1999年7月、107頁</ref>。
 
ただし、これらの扶養義務者が実際に扶養義務を果たすためには、その扶養義務者が自身の生活を維持し不可能にしてしまわない範囲において、なお、扶養権利者を扶養することが可能なだけの資力(扶養能力)がなければならないとされている<ref>鈴木禄弥著 『親族法講義』 創文社、1988年4月、236頁</ref><ref>我妻栄・有泉亨・遠藤浩・川井健著 『民法 第二版 3 親族法・相続法』 勁草書房、1999年7月、225頁</ref>。親族間の中に親族間扶養義務を果たすことができる資力のある者が誰もいない場合に生活保護など社会保障を受ける対象者になる。
 
なお、現行の日本民法のように三親等内の''親族''にまで扶養義務を認めうることとし、扶養義務において兄弟姉妹を直系血族と同順位としている例は稀有である<ref>泉久雄著 『親族法』 有斐閣〈有斐閣法学叢書〉、1997年5月、295頁、308-309頁</ref>。明治民法においても親族間扶養の範囲は三親等内の''血族''までとされていた(民法旧954条)。
 
===== 扶養の発生・変更・消滅 =====
; 扶養義務の発生
扶養の発生時期について民法上に明文はない。(1)扶養権利者の扶養必要状態と扶養義務者の扶養可能状態が同時に発生し、かつ、扶養権利者が請求したときであるとする説、(2)扶養権利者の扶養必要状態と扶養義務者の扶養可能状態が同時に発生したときに当然に生じるとする説、(3)扶養の協議・審判が成立したときであるとする説などがある<ref>泉久雄著 『親族法』 有斐閣〈有斐閣法学叢書〉、1997年5月、311頁</ref>。
 
それぞれ(1)説に対しては扶養義務者の存否や所在が不明なために第三者が扶養を行った場合にも扶養義務を肯定しえないことになり、[[事務管理]]の要件である「他人の事務」を認めることができず、本来の扶養義務者に対して費用償還請求権を行使しえないことになり不都合である、(2)説に対しては扶養義務者が扶養義務の発生を知らないままに扶養料が蓄積して扶養権利者からまとまって多額の請求が行われるおそれがある、(3)説に対しては扶養の協議・審判まで扶養義務が存在しないことになってしまうといった難点があり見解に対立がある<ref>我妻栄・有泉亨・遠藤浩・川井健著 『民法 第二版 3 親族法・相続法』 勁草書房、1999年7月、225頁</ref>。
扶養義務の内容については、扶養権利者の扶養必要状態の増減に伴って絶対的に増減(全扶養義務者との関係で扶養義務が全体的に増減)し、扶養義務者の扶養可能状態の増減に伴って相対的に増減(一扶養義務者との関係で扶養義務が増減すると、それに伴って反射的に他の扶養義務者の扶養義務あるいは公的扶養が増減する)する<ref>泉久雄著 『親族法』 有斐閣〈有斐閣法学叢書〉、1997年5月、317頁</ref>。また、扶養義務は、扶養権利者の扶養必要状態の消滅に伴って絶対的に消滅(全扶養義務者との関係で消滅)し、扶養義務者の扶養可能状態の消滅に伴って相対的に消滅(一扶養義務者との関係で扶養関係は消滅し、それに伴って反射的に他の扶養義務者の扶養義務あるいは公的扶養が増減あるいは新たに発生する)する<ref>泉久雄著 『親族法』 有斐閣〈有斐閣法学叢書〉、1997年5月、317頁</ref>。
 
; 扶養義務の変更
扶養義務の内容については、扶養権利者の扶養必要状態の増減に伴って絶対的に増減(全扶養義務者との関係で扶養義務が全体的に増減)し、扶養義務者の扶養可能状態の増減に伴って相対的に増減(一扶養義務者との関係で扶養義務が増減すると、それに伴って反射的に他の扶養義務者の扶養義務あるいは公的扶養が増減する)する<ref>泉久雄著 『親族法』 有斐閣〈有斐閣法学叢書〉、1997年5月、317頁</ref>。また、扶養義務は、扶養権利者の扶養必要状態の消滅に伴って絶対的に消滅(全扶養義務者との関係で消滅)し、扶養義務者の扶養可能状態の消滅に伴って相対的に消滅(一扶養義務者との関係で扶養関係は消滅し、それに伴って反射的に他の扶養義務者の扶養義務あるいは公的扶養が増減あるいは新たに発生する)する<ref>泉久雄著 『親族法』 有斐閣〈有斐閣法学叢書〉、1997年5月、317頁</ref>。
 
; 扶養義務の消滅
扶養義務は、扶養権利者の扶養必要状態の消滅に伴って絶対的に消滅(全扶養義務者との関係で消滅)し、扶養義務者の扶養可能状態の消滅に伴って相対的に消滅(一扶養義務者との関係で扶養関係は消滅し、それに伴って反射的に他の扶養義務者の扶養義務あるいは公的扶養が増加あるいは新たに発生する)する<ref>泉久雄著 『親族法』 有斐閣〈有斐閣法学叢書〉、1997年5月、317頁</ref>。
 
===== 扶養の順位・程度・方法 =====
扶養の順位・程度・方法について明治民法は詳細にわたり定めていた(民法旧955条以下)。しかし、現行民法は扶養の順位や方法が硬直的に決定することを避けるため、まずは当事者間の協議(扶養契約)に委ね、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、扶養権利者の需要、扶養義務者の資力その他一切の事情を考慮して、家庭裁判所が、これを定めることとされている([[b:民法第878条|878条]]・[[b:民法第879条|879条]]・[[b:民法第880条|880条]])
 
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扶養の方法には引取扶養と給付扶養があり、給付扶養には金銭給付と現物給付がある。このうち引取扶養は経済面以外で独立した生活が困難な場合にとられるもので、一般的に金銭的負担が少なくてすむという長所がある反面、扶養義務者がこれを欲しない場合には扶養の実効性を担保できず扶養権利者にとっても苛酷な状況になってしまうといった短所もある<ref>鈴木禄弥著 『親族法講義』 創文社、1988年4月、236頁</ref>。
 
===== 未成熟子扶養義務の位置づけ =====
既に[[#未成熟子扶養義務]]の項で述べたように、条文の字義という観点から、親族間扶養義務の中に未成熟子扶養義務が含まれているとする見解が大勢である<ref name="fukaya" /><ref name="nishihara" /><ref name="nomi" />。そして、この未成熟子扶養義務が、[[日本国憲法第25条]]で保障されている扶養権利者の「'''健康で文化的な最低限度の生活を営む権利'''」は勿論、[[日本国憲法第26条]]で保障されている扶養権利者の「'''法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利'''」(同条第1項)、および、これらに対応した扶養義務者の「'''法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務'''」(同条第2項)に立脚し、かつ、含んでいることが以下のような判例により確立されている。
 
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「抗告人は、親が財産がないのに、子が大学に入学して、親に扶養料を払えというのは不当であると主張するが、子が大学に入学することの可否は、子を本位とし、その才能や福祉を中心として定めるべく、また、その場合、子の教育費を親が支払うべきか否かは、親の扶養能力の有無によつて決すべきことであつて、親の扶養の能否によつて子の進学の可否を決すべきものではない。」との判例([[1960年]](昭和35年)9月15日 東京高裁決定。家裁月報13巻9号53頁。「扶養請求事件の審判に対する即時抗告事件」)<ref name="kame1" />。
 
なお、未成熟子の高等教育の学費については、生活保持義務の範囲を超えるもので、生活援助ではなく生計の資本の贈与とみるべきであるとする説もある<ref>於保不二雄・中川淳編著 『新版 注釈民法〈25〉親族 5』 有斐閣〈有斐閣コンメンタール〉、1994年4月、741頁</ref>。
親族間扶養義務の中に含まれるとされる未成熟子扶養義務は単なる生活保持義務ではあり得ないので、実態としては、親族間扶養義務にも夫婦観扶養義務と同様に、未成熟子扶養義務および生活保持義務が含まれているということにならざるを得ない。
 
=== 国私法(民法)による扶養 ===
すると、親族間扶養義務を特色づけているものは突発的な'''生活扶助義務'''ということにならざるを得ない。
[[扶養義務の準拠法に関する法律]]による。この法律は[[扶養義務の準拠法に関する条約]]を国内法として整備したものである。
 
=== 公的扶養制度 ===
[[生活保護]]を申請する場合と[[精神保健福祉法]]で[[保護者]]を選任する場合などに、上記の民法上の扶養義務の存否が問題となり、原則としては扶養義務者が存在しないと認定された場合にのみ公的扶養が開始されることになる。
 
==== 生活保護法 ====
生活保護の申請があると、[[福祉事務所]]は、申請者の扶養義務者に、扶養の可否を照会することとされている。照会に際して、[[親族]]への生活保護の適用を嫌気して扶養する旨の回答をしながら、実際には扶養しない者もあり、問題となることがある。
 
==== 精神保健福祉法 ====
[[精神保健福祉法]]では、[[医療保護入院]]で、[[保護者]]が[[家庭裁判所]]から選任の[[家事審判|審判]]がなされていない場合に、扶養義務者の同意により入院することがある。この場合の入院は4週間以内とされており、この期間内に保護者の選任審判ならびに保護者による入院同意手続きがとられなければ、入院が違法となる場合がある。