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{{物理学}}
 
'''偏光'''(へんこう、polarization)とは[[電場]]および[[磁場]]が特定の(振動方向が規則的な)方向にのみ[[振動]]する[[光]]のことである。[[電磁波]]の場合は'''[[偏波]]'''(へんぱ)と呼ぶ。光波の偏光に規則性がなく、直交している電界成分の位相関係がでたらめな場合を非偏光あるいは[[自然光]]と呼ぶ。
光電界の振幅は直交する2方向の振動成分に分解できることが分かっている。普通の[[光]]は、あらゆる方向に振動している光が混合しており、偏光と自然光の中間の状態(部分偏光)にある。このような光は一部の[[結晶]]や[[光学]]フィルターを通すことによって偏光を得ることができる。
 
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== 偏光を作り出す光学素子 ==
=== 偏光子 ===
[[画像ファイル:Wire-grid-polarizer.svg|thumb|right|300px|'''偏光子''' <br />'''左側''' : 偏光していない自然光。<br />'''中央''' : 偏光子が電場の水平方向成分を吸収する。<br />'''右側''' / 垂直方向成分のみを持った直線偏光が得られる。]]
 
[[自然光]](非偏光)や円偏光から直線偏光を作り出すものを、'''偏光子'''(へんこうし)と呼ぶ。例:
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=== 波長板 ===
直交する偏光成分の間に位相差を生じさせる複屈折素子のことである。位相板とも呼ばれる。位相差π(180°)π(180度)を生じるものを'''λ/2 板'''(にぶんのラムダばん)または'''半波長板'''と呼び、直線偏光の偏光方向を変えるために用いる。位相差π/2(90°)2(90度)を生じるものを'''λ/4 板'''(よんぶんのラムダばん、しぶんのラムダばん)または'''四分の一波長板'''と呼び、直線偏光を円偏光(楕円偏光)に変換、また逆に円偏光(楕円偏光)を直線偏光に変換するために用いる。これらは光を吸収せず、位相のみを変える。
 
; プラスチックフィルム
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== 偏光の工学的応用 ==
[[画像ファイル:Animation polariseur 2.gif|thumb|right|偏光フィルター]]
 
[[カメラ]]に[[レンズフィルター#偏光フィルター|偏光フィルター]]を装着すると、方向により反射光の光量をコントロールできる。このため、水辺などの撮影において反射光を抑制したい際に有用である。
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[[立体映画]]の手法としても用いられる。左右の映像にそれぞれ縦横の偏光をかけて重ねて映写し、観客は偏光フィルターの付いたメガネを装着することで、左右の映像を分離して知覚できるため、立体像を鑑賞することが可能となる。比較的低コストでカラー映像を映写できる利点があるが、非平面スクリーンでは偏光がズレてしまうため映写できない。また直偏光では顔やメガネが傾くと正常に立体視できない事があり、近年は円偏光が用いられる方式が多い。
 
[[刑務所]]などの扉の窓には、偏光板が貼られたものがある。これは、通路の両側にある部屋の窓の偏光を、片方は垂直、片方は水平に偏光させることにより、看守は両側の部屋の内部を見ることができるが、向かいの部屋の囚人同士は互いを見られなくすることができる。
これは、通路の両側にある部屋の窓の偏光を、片方は垂直、片方は水平に偏光させることにより、看守は両側の部屋の内部を見ることができるが、向かいの部屋の囚人同士は互いを見られなくすることができる。
 
== 生物の眼と偏光の認識 ==
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一方、[[昆虫]]は偏光を識別できる。昆虫の[[複眼]]の中には、特定の偏光方向に敏感な[[視細胞]]が色々な方位に規則正しく集合しているからである。昆虫は自然界の偏光をうまく利用している。例えば、[[ハチ]]は天空の光の偏極を元にして太陽の見えない曇空であっても方向を間違えずに長距離を飛ぶことができる。また、ある種の[[カゲロウ]]は生殖期になると水溜まりの反射光の偏光を頼りに集合する。[[カメムシ]]や[[タマムシ]]などの一部の昆虫の体は[[液晶]]のような[[構造色]]を持っており、片方の円偏光のみを選択的に反射する。さらに[[シャコ]]にいたっては、円偏光の回転方向を識別できる<ref>Tsyr-Huei Chiou et. al., Curr. Biol., '''18''', 429-434 (2008)</ref>。
 
== ポアンカレ球 ==
任意の偏極状態は球上の点で表現できる。左円偏光は +''z'' 極、右円偏光は &minus;''z'' 極である。水平偏極を +''x'' とすると鉛直偏極は &minus;''x'' であり、+''y'' と &minus;''y'' は対角方位の偏極となる。赤道上の他の全ての点は他の方位の直線偏光である。[[二色性]]の[[波長板]]を通ることは球を回転することに等しい。偏極子の ''y'' 軸を横切る偏極 ''x'' の振幅の大きさは ''x'' 軸と ''y'' 軸の鏡面との距離の 1/2 となり、すなわち強度は (''xy'' + 1)/2 となる。<!--The amount of amplitude of polarization x that passes through a polarizer that passes y is 1/2 the distance between x and the antipode of y; the intensity is (x·y+1)/2.-->
 
球による表現は[[アンリ・ポアンカレ]]によって考えられたものであり、ウィリアム・シュルクリフ (William A. Shurcliff) によって英語で拡張されて論じられた。
 
== 反射と偏光 ==
偏光に関係する概念として、以上のような「光それ自体」に関するものとは別に、異なる物質間の境界面で光が反射するときの「入射面」と「電場または磁場の振動方向」によって定義される概念がある。光学では、s波(s偏光)とp波(p偏光)とに区別される。定義や他の呼称については下記の「偏光の呼称」の表を参照のこと。光が境界面に入射するときには、その光をs波成分とp波成分とに分けることができ、全体としての反射率は(s波成分の割合×s波の反射率)+(p波成分の割合×p波の反射率)で表される。円偏光の場合には常に、s波成分の割合が50%、p波成分の割合が50%となる。p波の反射率はどの入射角でもs波よりも以下である。ブリュースター角において反射率が0になるのはp波のみである。
 
注意が必要なのは、s波p波の概念は、入射面が存在するときしたがって光が異なる物質間の境界に入射するときにのみ定義される概念だということである。空気中を進む直線偏光を、その電場の振動方向(重力に対して水平か垂直か)によってs波あるいはp波と呼ぶことがあるが、誤りである。また、境界面に対して光が垂直に入射するときには、s偏光とp偏光との区別はない。
 
== 偏光の呼称 ==
[[電波]]を扱う[[電気工学]]と[[光]]を扱う[[光学]]が歴史的に別の学問として発展してきたため、偏光には以下のようにさまざまな名称がある。なお、[[導波管]]や[[FDTD|FDTD法]]での偏光の名称は電気工学と同様であるが、その定義は逆である。
 
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| 電気工学
|<ul><li>TE波(Transverse Electric Wave, 電界成分が[[入射面]]に対し横向き)</li><li>H波([[磁界]] H が[[入射面]]に平行な電磁波)</li><li>水平偏波([[電界]]成分が[[反射面]]に水平)</li><li>直交偏波([[電界]]成分が[[入射面]]と直交)</li></ul>
|<ul><li>TM波 (Transverse(Transverse Magnetic Wave, 磁界成分が[[入射面]]に対し横向き)</li><li>E波([[電界]] E が[[入射面]]に平行な電磁波)</li><li>垂直偏波([[電界]]成分が[[反射面]]に垂直)</li><li>平行偏波([[電界]]成分が[[入射面]]に平行)</li></ul>
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| 光学