「アダルトゲーム」の版間の差分

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アダルトゲームに限らず、販売に用いる記録媒体の主流がFDDや[[Read Only Memory|ROM]]であった頃のゲームソフトの音楽・BGMは、[[FM音源]]などパソコン・ゲーム機本体に内蔵されたハードウェアのサウンド[[集積回路|チップ]]の性能に大きく依存しており、同時にこれが制作にあたっての大きな技術的制約ともなっていた。また、当時のフロッピーディスクやROMの容量的な上限は厳しく、定められた容量にゲームのデータ全てを収めるべく、BGMデータを圧縮したり当初のデータから大幅なアレンジを行う必要が発生することや、サウンド性能の全く異なる多プラットフォーム間での移植も多く、音楽データの作成・移植の作業は制作進行担当やプログラマーと随時調整しながら進めてゆく必要があった<ref>サウンドチップから音色を発生させていた時代のゲームソフトにあっては、パソコンゲーム・コンシューマ機向けゲーム・アーケードゲームの多くで[[ゲームミュージック]]CDが関連商品として発売されたが、これらはゲーム制作にまつわる様々な事情からカット・変更した部分を改変前の原データのまま収録したり、多機種移植展開を前提にDTM用[[音源モジュール]]で制作された大元の原曲を収録するなど、いわば“完全版”であるということも珍しくなかった。</ref>。その為、ゲームソフト用楽曲データを作成するにあたっては、純粋な作曲能力や電子楽器・[[デスクトップミュージック|DTM]]の知識以外にも、ハードウェア・プログラム・[[Music Macro Language|MML]]などパソコンにまつわる広汎な専門的知識が必要であったことから、専任か兼任かは別としても大半のゲーム開発チームにおいて[[ゲームクリエイター#サウンドコンポーザー|サウンドコンポーザー]]を置き内製することが基本で、作曲自体は作曲家や専門業者に外注する場合でも曲データのプログラミングや機種性能に応じたアレンジは自前で行うというスタイルが一般的であった。1990年代前半までにゲームミュージックの世界から台頭した作曲家に、以降の世代よりもMMLやサウンドチップの仕様、電子楽器のハードウェア全般など技術面に精通している人物が多いのはこの為でもある。
 
状況が変わるきっかけの1つとなったのは1980年代末以降の機種から導入が始まった[[CD-ROM]]ドライブで、音源モジュールや生演奏で制作したBGMをそのままCDトラックに収録し[[CD-DA]]で再生してゲーム中で使用することが可能になったことによる。その後もハードウェア・ソフトウェア両面の進展と歩を合わせてBGMの技術的進化は続き、動画データの圧縮技術の進展と共に、動画ファイルとも組み合わせるスタイルが主流となった。また、従来のフロッピーディスクからは比較にならない大容量を誇ったCD-ROM・バードディスクの本格的普及やデータ圧縮技術の進化によって余裕が生まれ、音楽データはPCMの形に大きな劣化も無く変換してストリーミング形式で使用することが可能となり、かつての様なハードウェア内蔵のサウンドチップからそれぞれ欲しい音色を発生させるプログラム技術に関する知識やハードウェア情報を音楽担当者が習得する必要も事実上無くなったため、作曲担当者は自身が使用する[[電子楽器]]やサウンドモジュールの操作に関する知識さえあれば楽曲完成までの大半の作業を独自にできる環境が整った。このことで、1990年代後半以降、ゲーム業界には音楽制作のみに特化した外注専門のプロダクションが数多く成立し、同様にアダルトゲーム業界の界隈でも[[プロフェッショナル|プロ]]やセミプロ(音楽[[同人]]系)のプロダクションが数多く活動する様になった。その後、パソコンの表現性能の向上と共にアダルトゲームにはテレビアニメ業界からも人材が流入し、様々なテレビアニメ的な演出技法が導入される様になり、作品のメインテーマ曲はボーカルが付けられ[[アニメソング]]とほぼの主題歌へと変化し、この様な主題歌やデモムービーが付けられることは、現在ではごく一般的になっている。
 
現在のアダルトゲーム業界では数人規模の小さな開発チームが大半を占めていることもあり、音楽面については専門スタッフや音楽制作の機器・設備を組織内に置かないのが一般的で、全面的に外注を利用するスタイルが広く定着している。また、効果音も含めて全面的に外注に委託したり、外部の専門業者から必要に応じて効果音の音声データを購入してくる事はごく普通に見られる。つまり、関与する企業やプロダクションの規模の違いこそあるものの、現在のサウンド面の制作システムは従来のテレビアニメのそれを概ね踏襲したものになっている。
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アダルトゲーム業界に関わる音楽制作のプロダクションは数多く競合も激しいが、その中でも知名度で頭一つ抜けた存在となっているのは1990年代末期に台頭した[[I've]]で、主題歌の編曲を手がけた『[[Kanon (ゲーム)|Kanon]]』([[Key]]、1999)の大ヒットで注目を集めた。I'veが音楽あるいは主題歌を手がけたアダルトゲームのパッケージには、I'veが音楽を担当したことを表すロゴマークが付けられ、[[KOTOKO]]をはじめとする“歌姫”と称される女性ボーカリストの存在を前面に打ち出す形で2000年代前半に全盛期を作り出し、その後には[[テレビアニメ]]の[[劇伴]]([[BGM]])や主題歌にも進出している。また、{{和暦|2001}}にはkeyのサウンドトラック等を専門に扱う[[Key Sounds Label]]が発足した。他方でも、『[[吸血殲鬼ヴェドゴニア]]』([[ニトロプラス]]、2001)では主題歌のボーカルに[[紅白歌合戦]]に出場したこともある<ref>{{Cite web|url=http://www.onomasatoshi.com/html/profile.html|title=PROFILE|work=小野正利公式サイト|language=日本語|accessdate=2010-03-03}}</ref>[[小野正利]]を起用するなど<ref>{{Cite web|url=http://www.nitroplus.co.jp/pc/lineup/mus_02.html|title=music|work=ニトロプラス公式サイト|pages=「吸血殲鬼ヴェドゴニア」関連音楽商品|publisher=ニトロプラス|language=日本語|accessdate=2010-03-03}}</ref>、音楽や主題歌に力を入れる動きが顕著になった。また、インディーズで活動している者を中心に、アダルトゲームの主題歌の歌唱・作詞・作曲を担当する女性歌手・女性シンガーソングライターも少なくない。
 
また、[[1990年代]]の音楽シーンには『メタル氷河期』と呼ばれる、[[ジャパニーズメタル]]<ref>ジャパメタ・和製ヘヴィメタルなどとも呼ばれる。</ref>音楽の著しい市場低迷が起き、数多くのヘヴィメタル系ミュージシャンが、生活と音楽活動の維持の為に[[テレビアニメ|アニメ]]・[[テレビゲーム]]なども含む多ジャンルの商業音楽に進出し、若手もメジャーシーンにほとんど登場できなくなった時期があったが、その軽音業界の歴史的な経緯や影響によるものか、1990年代から2000年代にかけてのアダルトゲーム業界のサウンド面を支えた音楽集団や音楽担当スタッフには、メタル音楽の経験者や[[フォロワー]]が少なからず見られる。その状況下において、ロックよりもかなりハードな[[ドラムセット|ドラム]]や[[ギター]]、間奏部のメロディカルなギターソロ、重低音重視の[[ミキシング]]といったヘヴィメタル的な要素がふんだんに盛り込まれた楽曲が珍しくない事も、アダルトゲームの主題歌・BGMの特徴・様式として挙げられる。その中でも特筆すべきはメーカーであるが[[ニトロプラス]]で、作品によっては歌詞と曲だけ聞かされてもアダルトゲームの主題歌とは到底信じ難い様なハードなメタルテイストの曲を主題歌や挿入歌に据えた作品が少なからず見られる。他方、アダルトゲームの主題歌であるため、メーカーによってはハードでハイテンポな曲に、本項ではさすがに掲載がはばかられる様な性的表現を含んだ歌詞を組み合わせたケースもあり、たとえメタル調のハードな曲であっても歌詞のバラエティという意味では、ラブソグやいわゆる「[[萌え]]」に属する歌詞がほとんど見られない本家ジャパメタとは比較にならない幅の広さを持っている。また、先述のニトロプラスのものを例外とすれば、メタルテイストの曲であってもほとんど全ての曲についてボーカル担当が女性である事は大きな特徴で、特に男性ボーカルを起用したもの主題歌は皆無では無いが珍しい<ref>なお、アダルトゲームの楽曲を制作する音楽制作プロダクションには、業務の一環としてボーイズラブゲームの楽曲の制作も請け負うものが少なくないが、ボーイズラブゲームでは主題歌がある場合には男性ボーカルを起用する、あるいはプロダクションにあってアダルトゲームでは主に作曲や演奏を担当している男性メンバー自身がボーカルを担当しているものが一般的である。</ref>。
 
I'veが人気を得た{{和暦|2000}}頃以降は、主題歌CDの初回特典としての添付がこの業界では販売促進策としてごく当たり前の手法となっている。だが、これについては、多くのゲームに存在する初回特典の有無による価格差や、アダルトゲームでは初回限定版の発売後に初回特典を除いた「通常版」が最終的に発売されないケースが珍しくない事などを鑑みた場合、ゲームと主題歌CDの事実上の抱き合わせ販売の商法であるとして指摘する批判も少なくない。また、この様な事情から、1本1万円前後する事も多い初回特典付きゲームソフトの購入以外には正規・合法的に入手する方法が事実上無い、ある意味で「入手困難」と言える楽曲を多数持つ歌手もいる。この状況を補うべく、ブランド・メーカーによっては主題歌やイメージソング・サウンドトラック類をまとめて収録したCDを別に制作しファンに向けて販売したり、あるいは主題歌を担当した歌手や音楽制作プロダクションの単位でゲーム主題歌をまとめた[[コンピレーション・アルバム]]が制作されることがあるものの、これらは結局のところ自主制作盤の範疇を出ずに[[コミックマーケット]]などの[[イベント]]の企業スペースや自社ホームページなど数量・期間を限定して発売されるものが多く<ref>商業流通のルートに乗るものも一部に存在するが、この場合でも本来の音楽CDの流通ルートに乗ることができるものはレコード会社が関連したメディアミックス展開企画の構想が絡んでいるものを例外とすれば少なく、大半はパソコンソフトの関連製品として流通し[[ソフマップ]]などのパソコンショップのアニメ・ゲーム関連CDの売場や[[アニメショップ]]での限定的な取り扱いになっている。</ref>、一度完売したら以降は事実上入手不可能ということもまた多い。
 
アダルトゲームで使用・作成されたBGMは一般向けゲームソフトの[[ゲームミュージック]]同様、広く地上波テレビ放送各局でも音楽素材として幅広く使用されているほか、主題歌が[[カラオケ]]入りすることも珍しくない。[[ドワンゴ]]が、{{和暦|2005}}[[7月]]から放送した[[着メロ]]配信サイト「[[いろメロミックス]]」の[[テレビ]][[コマーシャルメッセージ|コマーシャル]]の[[バックグラウンドミュージック|BGM]]に、『[[巫女みこナース]]』({{和暦|2003}}、[[PSYCHO]])主題歌の『巫女みこナース・愛のテーマ』が採用された。更に、同曲は{{和暦|2005}}[[12月27日]]に[[第一興商]]の[[通信カラオケ]]「[[DAM (カラオケ)|cyber DAM]]」で配信されている<ref>{{Cite web|url=http://www.clubdam.com/app/leaf/songKaraokeLeaf.do?contentsId=3769327|title=巫女みこナース・愛のテーマ/ロングバージョン|work=カラオケDAM|publisher=第一興商|accessdate=2010-03-13}}</ref>。
 
他方、アダルトゲームを原作として[[メディアミックス]]企画が立てられ、とりわけ性的要素を排除した[[テレビアニメ]]作品が制作される場合には、こちらではアニメ音楽を専門範囲とする作曲家が起用される事が多く、同様に主題歌担当の歌手も原作から変更される事が多い。アダルトゲーム作品を担当したスタッフ・外注・歌手がそのまテレビアニメ作品でも続けて劇伴・主題歌を全面的に手掛けケースは、存在こそするものの少数派である。ただし、上述したI'veは後にテレビアニメの劇伴・主題歌の制作にも進出しており、むしろ現在ではこちらが主業という状況も垣間見られ、アダルトゲームのアニメ化に際して主題歌などで新規にI'veのスタッフ・歌手が起用されるケースが見られている<ref>例としては『[[ななついろ★ドロップス]]』のオープニング主題歌など。</ref>。
 
== 業界 ==