「ニュースピーク」の版間の差分

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{{Quotation|2050年までには - たぶんもっと早めに - 旧語法に関する実際的な知識はことごとく消滅してしまっているだろうね。過去の全文学も抹殺されているだろう。チョーサー、シェイクスピア、ミルトン、バイロン - 彼らだって新語法の版でしか存在すまい。全く異質のものに変わっているばかりではない、実際にはもとの姿とは正反対のものにさえ変わっているのだ。党の文学だって変わるよ。スローガンも変わるね。自由の概念が廃棄されたら、「自由は屈従である」というスローガンの存在価値はあるだろうか。思想の全潮流は一変してしまうだろう。現実にいまわれわれの理解しているような思想は存在しなくなる。正統とは何も考えないこと - 考える必要がなくなるということだ。正統とは意識を持たないということになるわけさ|新語法の専門家サイムの、主人公に対する言葉(オーウェル『1984年』)<ref>新庄哲夫訳、ハヤカワ文庫版、69ページより引用</ref>}}
 
ニュースピークの基本的な原理は、表す言葉が存在しないもののことは考えることができない、ということにある。これに対する疑問として、われわれ自身はわれわれの言語によってどのように定義されているか、またはわれわれ自身をどのように定義しているかということが挙げられる。たとえば、自由の必要性を訴えたいとき、蜂起を組織するとき、これを言い表す単語がなければ自由を訴えたり組織をつくったりすることは可能かどうかである。「われわれの言語の限界は、われわれの世界の限界でもある」ともいえる<ref>[[サピア=ウォーフの仮説]]を参照。ただし、この観点については異論や反駁がある。たとえば、「自由」という言葉がなくなっても概念はなくならず、何らかの形で「自由」という概念を表すための言葉が登場するはずという意見である。[[ジーン・ウルフ]]はその著作([[新しい太陽の書]]シリーズの中の架空言語 Ascian language を通じてニュースピークのような観点に異論を唱えている。</ref>。
 
ニュースピークの最終版が完成し、普及した暁にはもはや党や政府に対し反抗を行うことはできなくなるであろうと考えられている。オーウェルは[[アメリカ独立宣言]]の有名な一節に対し、これを原文の意味を失わずニュースピークに変えるのは困難であり、せいぜい全文を「思想犯罪」の一語に置き換えるか、絶対権力の賞賛という正反対の意味へ全訳するしかないだろうと述べている。