「檀王法林寺」の版間の差分

[[ファイル:Dannouhourin-ji Kawabatamon.JPG|thumb|right|250px|川端門<br />明和3年（1766年）有栖川音仁親王の寄進により建立された。このため瓦には菊の御紋が入っている。京都市指定有形文化財。]]

[[ファイル:Dannouhourin-ji Sanjoumon.JPG|thumb|right|250px|三条門<br />明治21年（1888年）奥に見える二層楼門と共に建立された。この門前は[[京都市営バス]]の「三条京阪前」バス停である。]]

当寺の前身は、浄土宗三条派祖の道光了恵<ref group="注">文献によっては「了慧」。いずれも「りょうえ」と読む。</ref>上人が開創した悟真寺にあるとされる。

了恵は[[文永]]5年（[[1268年]]）[[亀山天皇]]より帰依を受け、文永9年（[[1272年]]）勅額を賜って洛東三条に悟真寺を開き、さらに[[建治]]2年（[[1276年]]）に「'''朝陽山'''（ちょうようざん）」の山号勅額を賜ったとされるが、その所在地が何処であったのかは明確ではない<ref name="dannou_rekishi1">『檀王法林寺 袋中上人 - 琉球と京都の架け橋 -』2011年11月。「檀王法林寺の歴史　一　檀王法林寺前史 - 望西楼と悟真寺 - 」より。</ref>。

良山上人の『黒衣相伝』に「五条大宮蓮華堂道光了恵上人」とあることや、浄蓮華院が所蔵する了恵自筆の『円頓戒譜』の奥書に、弟子の隆恵が[[文保]]元年（[[1317年]]）2月18日初更に洛陽五条坊門大宮悟真寺方丈の仏前で了恵より『円頓戒譜』を相承したとあり、『檀王法林寺 袋中上人 - 琉球と京都の架け橋 -』では、これを信ずるなら悟真寺は洛中五条坊門大宮にあったことになり、洛東三条と洛中五条の悟真寺が同一であるなら14世紀初頭に寺地の移動があったのではないかと推測している<ref name="dannou_rekishi1" />。

『檀王法林寺 袋中上人 - 琉球と京都の架け橋 -』によれば、[[鴨川 (淀川水系)|鴨川]]の氾濫や[[応仁の乱]]などの戦乱を原因として、洛東三条から洛中五条に移転したとも、一時洛東三条東洞院に移転したとも言われ、移転を繰り返した後、[[永禄|永禄年間]]（[[1558年]] - [[1570年]]）に焼失したと伝えられるが、具体的な史実に乏しいため所在地・創建移転時期・移転の理由は正確に分かっていないのだという<ref name="dannou_rekishi1" />。

この悟真寺の故地である洛東三条に袋中良定が新しく草創した浄土寺院が'''栴檀王院 無上法林寺'''（せんだんのういん　むじょうほうりんじ）である。この寺名は「[[センダン|栴檀]]香木の法の林に入る者は、悉く芳香に薫じられて道信者となり、[[菩提]]の種を成就する」と言う願いを込め付けられた<ref name="dannou2">『檀王法林寺 袋中上人 - 琉球と京都の架け橋 -』2011年11月。「檀王法林寺　二、「だん王」に今も流れる袋中上人のお心」より。</ref>。

『袋中上人絵詞伝』によれば、袋中は未渡の仏法を求めて[[明]]に渡るため琉球に滞在していたが、大陸にわたる便船が見つからず[[慶長]]11年（[[1606年]]）に帰国し、[[西国]]を経廻して伏見（現在の京都府京都市[[伏見区]]）の信者の家に身を寄せていた。また、この頃[[伏見城]]代の[[松平定勝]]に拝謁して浄土宗の[[安心#浄土宗|安心起行]]について聞かせたところ、松平定勝は袋中に深く帰依して師檀の契りを約している。慶長16年（[[1611年]]）袋中60歳の春、京都三条大橋あたりに住む伏見次郞兵衞が深く帰依し、この地に長く留まって欲しいと自宅裏の藪を拓いて草庵を結び袋中を迎えた<ref name="ekotoba">『袋中上人絵詞伝』より。</ref>。これが当寺の創始である。

この場所は中に小溝の流れがあって道俗を分へだてる清閑な所で、松平定綱より勧められた[[京都所司代]][[板倉勝重]]もここを訪れ、袋中の道容に触れて深く渴仰している。やがて、道俗貴賎の別なく訪ねて来る人が日毎に多くなり、堀を埋めて整地するなどして堂宇を造営し、遂に寺としての威容を具えるに至った<ref name="ekotoba">『袋中上人絵詞伝』より。</ref>。当寺伝来の『古記録写』には、袋中が慶長16年2月8日に三条通へ面した間口1間半の土地を銀子200[[目 (曖昧さ回避)|目]]で、同年2月13日には三条大橋道より北側の河原畠1[[反]]分を銀子300目で買得したと記録があり、信者から得た寄付などで寺地を少しずつ広げていった様子が窺われる<ref name="dannou_rekishi3-1">『檀王法林寺 袋中上人 - 琉球と京都の架け橋 -』2011年11月。「檀王法林寺の歴史　三 その後の檀王法林寺　1 法林寺の寺地」より。</ref>。

当寺が諸堂建立や寺地拡張をおこなえた背景には、「道信者衆」と呼ばれる檀王法林寺を精神的な結節点と考える篤信者集団があったことがあげられる。檀信徒の中核となった道信者衆は、縁故を頼って法会の参加者を募るとともに、新しい信者の獲得に奔走した。また、日牌・月牌と呼ばれる位牌を本堂に祀って死者の[[法要#追善法要|追善]]をおこなう祀堂回向を執りおこない、これを取り次ぐ際の「祀堂銀」が当寺の重要な収入源となっていた<ref name="dannou_rekishi3-2">『檀王法林寺 袋中上人 - 琉球と京都の架け橋 -』2011年11月。「檀王法林寺の歴史　三 その後の檀王法林寺　2 二世團王上人と法林寺本堂」より。</ref>。

『法林寺什物帳』の記載によれば、この時、堂舎として仏前<ref group="注">『檀王法林寺 袋中上人 - 琉球と京都の架け橋 -』2011年 では[[阿弥陀堂]]であろうと推測している。</ref>・[[方丈]]・[[庫裏]]があったことが確認できる。翌元和6年（[[1620年]]）に入院した團王良仙は人徳厚く、袋中以上に町衆信者との交流を深めたことから、親しみを込めて「'''だんのうさん'''」と呼ばれた。これが檀王法林寺の名の由来となっている<ref name="dannou_rekishi3-2" />。

袋中は退院するにあたり、日供・月供の祠堂供養を怠らないことと、その供養料は必ず蓄えることを最も大切なこととして團王に引き継いだとされる。團王は袋中の教えと寺院発展の意志を受け継ぎ、信者を獲得し、さらに当寺を整備拡張していった<ref name="dannou_rekishi3-2" />。

元和9年（[[1623年]]）町屋4軒の敷地を宛て、[[こけら葺|柿葺き]]で南向き7[[間]]半（約13.63[[メートル|m]]）四方の本堂が建立されると共に鉄灯籠が献納された。建立された本堂には悟真寺伝来の阿弥陀如来坐像ではなく、檜物屋善左衛門が寄進した[[源信 (僧侶)|恵心僧都]]作と伝わる阿弥陀如来立像<ref group="注">寺伝では恵心僧都作と伝わるが、『檀王法林寺 袋中上人 - 琉球と京都の架け橋 -』2011年では鎌倉時代の制作と推測している。</ref>が本尊として安置された。この阿弥陀如来立像が現在も本尊として祀られている。また本尊脇壇には、道信者の受教より寄進された開山の袋中坐像が祀られた。さらに受教からは、寮舎一軒の寄進があった。この寮舎は、間も無く利見院と名を改め、当寺第一の[[塔頭]]として檀信徒の宿坊となった<ref name="dannou_rekishi3-2" />。

[[寛永]]13年（[[1636年]]）團王は、若き日の袋中も修行した[[下野国]]大澤の関東名越派本山[[円通寺 (益子町)|円通寺]]に住持として招聘された。團王は当寺を去るにあたり、『法林寺什物帳』を住持第3世の貞龍良聖に引き継いでいる。この時、『法林寺什物帳』に「第二之什物」として追記された内容により、堂舎として仏殿（本堂）・客殿（方丈）・[[土蔵]]・庫裏があったことが確認でき、團王時代の拡張の様子が窺える<ref name="dannou_rekishi3-2" />。

寛永14年（[[1637年]]）に円通寺で團王が、寛永16年（[[1639年]]）に[[西方寺 (京田辺市)|西方寺]]で袋中が相次いで入滅すると、道信者の受教により袋中・團王の墓碑銘を刻んだ石塔と、それを安置する御廟が境内北東に建立された。寛永20年（[[1643年]]）[[布施|檀越]]の笹屋久甫により本堂西隣に[[開山堂|御影堂]]が建立され、本尊脇壇にあった袋中坐像が安置された<ref name="dannou_rekishi3-3">『檀王法林寺 袋中上人 - 琉球と京都の架け橋 -』2011年11月。「檀王法林寺の歴史　三 その後の檀王法林寺　3 三世から八世まで」より。</ref>。

[[寛文]]6年（[[1666年]]）住持第6世の團空良什が没すると、その隠居所である良什院は弟子の心哲に引き継がれ塔頭となった。さらに同年、袋中の弟子である良覚林西により寺内塔頭として清光院が創建され、先の利見院と併せ当寺は3塔頭を有する一山寺院としての寺格を持つに至った。また、この年、[[霊元天皇]]の勅令により加茂川龍神が当寺に勧請されている。[[延宝]]5年（[[1677年]]）には本堂と御影堂の間に大仏殿が建立された<ref name="dannou_rekishi3-3" />。

[[天和]]2年（[[1682年]]）幼少より袋中に近仕し、後に『飯岡西方寺開山記』を著した住持第8世の東暉良閑が没し、開山依頼続いて来た袋中とその直弟子による時代は終わりを告げ、新たな師嗣関係による歴代相承が始まった<ref name="dannou_rekishi3-3" />。

[[享保]]15年（[[1730年]]）に住持第12世となった貞雅良妙は、[[元文]]3年（[[1738年]]）本堂再建願を奉行所に届け出て当寺の大規模な修復に着手する。しかしながら、この工事は本堂のみならず、諸堂全般に渡る大工事で、完了まで12年の歳月を要した。まず本堂は面積および高さを拡張し、北西に位置をずらして移築され、屋根も瓦葺となった。その内陣は須弥檀が拡張され、来迎柱を建てると共に極彩色の彫刻が施されている。この改築後の姿が、現在見ることができる本堂である。また庫裏も大規模な増改築がおこなわれて単層切妻造瓦葺となり、本堂の北には主夜神堂が建立された。貞雅は創建依頼の有力檀越である井筒屋河井家の出身であったことから、この大規模修復にも一族の尽力があったのではないかと『檀王法林寺 袋中上人 - 琉球と京都の架け橋 -』では考察している<ref name="dannou_rekishi3-4">『檀王法林寺 袋中上人 - 琉球と京都の架け橋 -』2011年11月。「檀王法林寺の歴史　三 その後の檀王法林寺　4 九世から十二世まで」より。</ref>。

[[明和]]3年（[[1766年]]）には主夜神尊に信仰の厚かった有栖川音仁親王の寄進により薬医門（現在の川端門）が建立された<ref group="注">『檀王法林寺 袋中上人 - 琉球と京都の架け橋 -』2011年11月 P13 川端門の写真解説によれば、獅子口（棟の屋根頂上部両端を隠すために用いる箱形の瓦）に[[寛延]]4年（[[1751年]]）の銘があることから貞雅良妙の大修築の際に建立したことも考えられる、と述べている。</ref>。

こうして團王上人以後も発展してきた当寺であったが、[[安政]]2年（[[1855年]]）住持第19世の貫誉趙雲は相続すべき弟子に恵まれず没し、開山袋中より続いてきた師資相承の伝統は潰えてしまった。おりしも時代は幕末を迎え、当寺もその激流に呑まれていくこととなる<ref name="dannou_rekishi4">『檀王法林寺 袋中上人 - 琉球と京都の架け橋 -』2011年11月。「檀王法林寺の歴史　四 近代の檀王法林寺」より。</ref>。

[[慶応]]4年（[[1868年]]）に出された[[神仏分離|神仏判然令]]は、やがて[[廃仏毀釈]]という大きな運動となり各地で寺院・仏像・仏具・経典などの破壊がおこなわれたが、当寺においても住持第21世の笑誉弁順がこの風潮の中で[[還俗]]し、百姓となってしまった<ref name="dannou_rekishi4" />。

[[明治]]4年（[[1871年]]）には免税特権を破棄することを目的とした[[上知令|社寺上地令]]が出され、境内・墓地の一部を残し山林となっているような寺地の大半が国有化された。[[#開山袋中と2世團王|前述したように]]当寺は檀信徒の寄進により寺地を拡大してきたため、[[朱印地・黒印地|御朱印地]]のような免税特権のある寺領はなかったが、笑誉弁順の跡を継いだ幽誉玄了は京都府の牧畜勧業政策に乗り、庭園の木石を売却した跡地で豚の飼育事業をおこなって失敗し、決して広くない寺地の一部と袋中時代の梵鐘を売り払う結果となってしまった。幽誉玄了は檀家の指弾を浴び、明治6年（[[1873年]]）に逐電してしまった。このため当寺では、幽誉玄了を歴世には数えていない。幽誉玄了の逐電により無住となった当寺は、鎮西派大本山の1つ黒谷[[金戒光明寺]]が兼帯することとなった<ref name="dannou_rekishi4" />。

明治維新の混乱により寺勢の衰えてしまった当寺を再興するため、明治10年（[[1877年]]）飛騨高山の大雄寺より住持第22世として信ヶ原譲誉（譲誉玄亮）が招聘された。譲誉は檀信徒に協力を呼びかけると共に出身の大雄寺の法類にまで助力を願い出て、当寺が抱えていた借財を返済することに成功する。また長年の間に廃れていた儀式の復興に尽力し、明治13年（[[1880年]]）に了恵上人の550回忌を厳修して上人の木造を新造すると共に「派祖望西楼」の石碑（<ref group="注">三条門の前にあったが、現在は楼門脇にある）立つ。</ref>を建立した。明治21年（[[1888年]]）には袋中上人の250回忌を修している。さらに散逸した寺宝の回収保護と境内伽藍の復興にも力を入れ、[[質屋|質入]]されていた「日吉山王祭礼図」と「枇杷に麝香猫図」を取り戻し、明治19年（[[1886年]]）に鐘楼堂<ref group="注">現在は昭和37年（1962年）に[[草津市]]の西方寺にへ移築された。元は[[建仁寺]]塔頭の常光院に建立されているた由緒を持つ。</ref>を新築、明治21年（1888年）三条門と二層楼門を新築して楼門には大阪和泉堺の興善寺から購入した[[四天王]]像を安置した<ref name="dannou_rekishi4" />。

譲誉は当寺の経済的基盤を確立するため檀信徒と協力して維持基金を設けたが、さらに備蓄を増やすため五千人講を組織した。また後継となる人材育成や檀信徒の結集を図るため、明治26年（[[1893年]]）の鴨川運河完成を機に川端通に面した境内地に10戸の借家を建築して、本坊周辺に弟子や檀家を集中させた<ref name="dannou_rekishi4" />。このように明治維新で衰微した当寺を復興した譲誉は、現在、後中興とされている<ref name="rekidai">『檀王法林寺 袋中上人 - 琉球と京都の架け橋 -』2011年11月。「歴代住職一覧」より。</ref>。

[[昭和]]6年（[[1931年]]）境内に子供達のための「だん王日曜教園」が開設された<ref name="dannou_rekishi5">『檀王法林寺 袋中上人 - 琉球と京都の架け橋 -』2011年11月。「檀王法林寺の歴史　五 これからの檀王法林寺 - 児童福祉とともに - 」より。</ref>。昭和12年（[[1937年]]）学僧として袋中の研究をおこなっていた住持第25世の信ヶ原良哉（瑞誉良哉）は沖縄での浄土宗復興を願って「だん王別院袋中寺」を建立した。しかしながら、この袋中寺は後の[[沖縄戦]]で焼失してしまう<ref name="dannou_rekishi4" />。昭和24年（[[1949年]]）信ヶ原良文（源誉良文）が住持第26世に就任すると境内に「だん王保育園」が開設された<ref name="dannou_rekishi5" />。昭和50年（[[1975年]]）焼失した袋中寺に代わり、沖縄の浄土宗教化のため[[那覇市]]小禄に「浄土宗沖縄別院袋中寺」が再建されている<ref name="dannou_rekishi4" />。

* 七知経 （[[天平]]6年（734（[[734年]]）[[聖武天皇]]勅願[[一切経]]）

* 西門 （川端門）