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{{日本の刑法}}
{{ウィキプロジェクトリンク|刑法 (犯罪)}}
'''殺人罪'''(さつじんざい)とは、人を殺すことを内容とする[[犯罪]]であり、広義には[[刑法 (日本)|刑法]]第2編第26章に定める殺人の罪([[b:刑法199条|刑法199条]][[b:刑法203条|刑法203条]])を指し、狭義には刑法199条に規定されている殺人罪を指す。[[日本]]の刑法における殺人罪は[[故意]]による殺人をいい(刑法38条参照)、[[過失]]により人を死に至らしめた場合は過失致死罪([[b:刑法210条|刑法210条]])の問題となる。
 
== 概要 ==
旧刑法では謀殺罪と故殺罪に分けられており、予め謀って殺害した場合や、毒物を用いて殺害した場合は謀殺罪、それ以外の場合は故殺罪とされていた。また故殺罪の中でも、その態様によって細かく区分され、それぞれ法定刑が異なっていた。しかし、現行法ではこのような区別は存在せず、いかなる態様であっても、故意に他人を殺害した場合は殺人罪が成立しうる。そのため、諸外国と比べても包括的な犯罪類型であり、法定刑もかなり広くとられている。
 
=== 保護法益 ===
本罪の保護[[法益]]は人の生命であり、客体(対象)は「人」である。
 
=== 本罪の客体 ===
本罪の性質上、この「人」には[[法人]]は含まれず[[自然人]]のみを指す。また、行為者以外の他人であることが必要で、自分自身を殺す([[自殺]]、[[自傷行為]])場合には殺人罪とはならない(ただし、他人の自殺への関与は[[自殺関与・同意殺人罪|自殺関与罪]]となる)。
本罪の客体(対象)は「人」である。人の始期(胎児の区別)と終期(死者の区別)については問題となる。
; [[人の始期]]
: 人を殺害した場合には「殺人罪」になるが、[[胎児]]を殺害した場合には殺人罪よりは軽い「[[堕胎罪]]」となる(その胎児を殺したことにより、自然の分娩時期を早めた場合)。殺人罪と堕胎罪わが国区別刑法上の通説・判例は一部露出説をとる(民法上は全部露出説がとられている)<ref>林幹人 『刑法各論 第二版 』 東京大学出版会(1999年)11-13頁</ref>。詳細については「[[人の始期]]」を参照。
; [[人の終期]]
: 生きている人の体を損壊して殺害した場合には「殺人罪」になるが、[[死体]]を損壊したにとどまる場合には殺人罪よりは軽い[[死体損壊罪]]となる。現代では三兆候説と脳死説が対立しており、[[脳死]]者からの臓器摘出など際に法的な位置づけが問題となってい。殺<ref>林幹罪と死体損壊罪の区別 『刑法各論 第二版 』 東京大学出版会(1999年)23-27頁</ref>。詳細については「[[人の終期]]」を参照。
 
=== 適用範囲 ===
; 人と胎児の区別([[人の始期]])
一般に、日本法は[[属地主義]](犯罪が行われた場所が日本国内・日本船籍船内・日本籍航空機内である場合に適用される)を原則としている。しかし、人命はきわめて貴重なものであるがゆえに、殺人罪については属地主義に限定せず広い範囲で適用されることが規定されている。
: 人を殺害した場合には「殺人罪」になるが、[[胎児]]を殺害した場合には殺人罪よりは軽い「[[堕胎罪]]」となる(その胎児を殺したことにより、自然の分娩時期を早めた場合)。殺人罪と堕胎罪の区別については「[[人の始期]]」を参照。
; 人と死者の区別([[人の終期]])
: 生きている人の体を損壊して殺害した場合には「殺人罪」になるが、[[死体]]を損壊したにとどまる場合には殺人罪よりは軽い[[死体損壊罪]]となる。[[脳死]]者からの臓器摘出などの際に問題となる。殺人罪と死体損壊罪の区別については「[[人の終期]]」を参照。
 
したがって、国内犯([[b:刑法第1条|刑法1条]])はもちろん、国民の国外犯([[b:刑法第3条|刑法3条]])、国民以外の者の日本国民に対する国外犯([[b:刑法第3条の2|刑法3条の
=== 故意犯 ===
2]])にも適用がある。
殺人罪は[[故意犯]]である(刑法38条1項)。
 
=== 殺人罪(刑法199条狭義===
殺人の故意はなかったが、[[暴行]]・[[傷害]]によって他人を死に至らしめた場合には、殺人罪ではなく[[傷害致死罪]]となる。殺人の故意も暴行・傷害の故意もないが[[過失]]によって人を死に至らしめた場合には[[過失致死罪]](または、その特別類型である[[業務上過失致死罪]]や[[重過失致死罪]]等)となる。
=== 故意犯客体 ===
{{see also|結果的加重犯}}
本罪の客体は「人」である。
 
本罪の性質上、この「人」には[[法人]]は含まれず[[自然人]]のみを指す。また、行為者以外の他人であることが必要で、自分自身を殺す([[自殺]]、[[自傷行為]])場合には殺人罪とはならない(ただし、他人の自殺への関与は[[自殺関与・同意殺人罪|自殺関与罪]]となる)
== 類型 ==
=== 殺人罪(刑法199条) ===
==== 行為 ====
旧刑法では謀殺罪と故殺罪に分けられており、予め謀って殺害した場合や、毒物を用いて殺害した場合は謀殺罪、それ以外の場合は故殺罪とされていた。また故殺罪の中でも、その態様によって細かく区分され、それぞれ法定刑が異なっていた。しかし、現行法ではこのような区別は存在せず、いかなる態様であっても、故意に他人を殺害した場合は殺人罪が成立しうる。そのため、諸外国と比べても包括的な犯罪類型であり、法定刑もかなり広くとられている。
 
==== 法定刑故意 ====
殺人罪は[[故意犯]]である(刑法38条1項)。殺人の故意はなかったが、[[暴行]]・[[傷害]]によって他人を死に至らしめた場合には、殺人罪ではなく[[傷害致死罪]]となる。殺人の故意も暴行・傷害の故意もないが[[過失]]によって人を死に至らしめた場合には[[過失致死罪]](または、その特別類型である[[業務上過失致死罪]]や[[重過失致死罪]]等)となる。
 
=== 法定刑 ===
殺人罪の法定刑は、[[死刑]]又は無期若しくは5年以上の懲役である。[[2004年]]の刑法改正により、従来の「3年以上」から刑の下限が引き上げられた。もちろん、[[法律上の減軽]]や[[酌量減軽]]により5年未満の刑を宣告することは可能である。
 
ただし、団体の活動として殺人を犯した場合、組織犯罪処罰法の適用があるため、死刑又は無期若しくは6年以上の懲役に加重される(組織犯罪処罰法3条1項3号)。
 
==== 心神喪失者に対する措置 ====
[[心神喪失]]の状態で人を殺しても責任が阻却され、殺人罪は成立しない。ただし、殺人罪は重大な法益侵害行為であることから、[[心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律]]における「対象行為」に該当し、[[裁判所]]は、心神喪失の状態で殺人を行った者に医療を受けさせるために入院させる決定等をすることができる。
 
==== 行為未遂 ====
=== 尊属殺人罪の削除(旧・刑法200条) ===
刑法200条には自己または[[配偶者]]の直系[[尊属]]を殺害した場合には死刑又は無期懲役に処する旨という[[尊属殺人]]の規定があったが、刑罰が過酷で尊属の尊重という刑罰目的を達するに必要な合理的限度を越えるとして[[1973年]]([[昭和]]48年)に違憲判決が出た([[尊属殺法定刑違憲事件]])。以後、同条は[[検察]]の方針により適用されず、[[1995年]]([[平成]]7年)の刑法改正に伴い削除された。
{{Main|尊属殺}}
 
=== 殺人予備罪(刑法201条) ===
[[予備]]も罰せられる(刑法201条、'''殺人予備罪''')。[[法定刑]]は1月以上2年以下の[[懲役]]である。殺人の実行の着手以前の準備行為をいい、殺人を犯す目的で凶器や毒物を用意して現場の下見を行う場合などがこれにあたる。殺人を犯す目的を必要とする[[目的犯]]である。
 
政治目的のために殺人予備をした場合は[[破壊活動防止法]]が適用されるため、5年以下の懲役または禁錮に処される(破壊活動防止法39条)。
 
=== 自殺関与・同意殺人罪(刑法202条) ===
{{See|自殺関与・同意殺人罪}}
 
=== 殺人未遂罪(刑法203条) ===
[[未遂]]も罰せられる(刑法203条、'''殺人未遂罪''')。未遂とは殺害行為に着手したが相手が死ななかった場合である。相手が怪我をしたにとどまる場合は[[法条競合]]として[[傷害罪]]ではなく殺人未遂罪のみが成立する。被害者が無傷の場合でも殺人未遂罪は成立する(たとえば、殺害を意図して拳銃を撃ったが弾がはずれた場合)。
 
=== 罪数 ===
===; 殺人罪との法条競合 ===
以下の犯罪は、殺人罪が成立する場合は同時に成立することはない。
* [[嘱託殺人罪]]・[[同意殺人罪]](刑法202条) - 6ヶ月以上7年以下の懲役・禁錮
71 ⟶ 65行目:
* 人質殺害罪([[人質による強要行為等の処罰に関する法律]]4条) - 死刑又は無期懲役。条文に「殺したときは」とされており、致死の結果だけではなく殺人の故意が必要。
 
===; 包括一罪又は観念的競合として殺人罪を包含するもの ===
以下の犯罪の実行により殺人が行われた場合には包括一罪又は[[観念的競合]]として、殺人罪より重い罪である以下の犯罪の刑罰のみによって処罰され、さらに殺人罪として独立に処罰されることはない。
* [[内乱罪]](刑法77条) - 死刑又は無期禁固
78 ⟶ 72行目:
* [[現住建造物等放火罪]](刑法108条) - 死刑又は無期もしくは5年以上の懲役
 
===; 他の罪の結果的加重犯等のうち殺人罪に準ずるもの ===
致死の結果について、必ずしも加害者に故意がなくても、すなわち、相手方の死に対する認容がない乃至立証できない場合においても、殺人罪同等の罪が問われるもの。
* [[汽車転覆等致死罪]](刑法126条) - 死刑又は無期懲役
89 ⟶ 83行目:
* 航空機破壊等致死罪(同上) - 死刑又は無期もしくは3年以上の懲役
 
===; 他の罪の結果的加重犯のうち殺人罪を構成していないもの ===
殺人罪同等の責任を問うには加害者の故意があることを要し、独立に殺人罪を構成する。この場合、元の罪は包括一罪として殺人罪に含め評価される。
* ガス漏出等致死罪(刑法118条) - [[ガス漏出等罪]]と傷害罪を比較し重い方の刑
101 ⟶ 95行目:
* 逮捕等致死罪(刑法221条) - [[逮捕監禁罪]]等と傷害罪を比較し重い方の刑
 
===; 殺人罪と相容れない致死罪 ===
致死に結果について加害者の故意がある場合、殺人罪のみが成立し当該犯罪を構成しないもの。
* [[傷害致死罪]](刑法205条) - 3年以上の有期懲役
109 ⟶ 103行目:
* 重過失致死罪(刑法211条) - 同上
 
== 適用範囲殺人予備罪 ==
[[予備]]も罰せられる(刑法201条、'''殺人予備罪''')。[[法定刑]]は1月以上2年以下の[[懲役]]である。殺人の実行の着手以前の準備行為をいい、殺人を犯す目的で凶器や毒物を用意して現場の下見を行う場合などがこれにあたる。殺人を犯す目的を必要とする[[目的犯]]である。
一般に、日本法は[[属地主義]](犯罪が行われた場所が日本国内・日本船籍船内・日本籍航空機内である場合に適用される)を原則としている。しかし、人命はきわめて貴重なものであるがゆえに、殺人罪については属地主義に限定せず広い範囲で適用されることが規定されている。
 
政治目的のために殺人予備をした場合は[[破壊活動防止法]]が適用されるため、5年以下の懲役または禁錮に処される(破壊活動防止法39条)。
 
=== 自殺関与・同意殺人罪(刑法202条) ===
{{See|自殺関与・同意殺人罪}}
 
=== 尊属殺人罪の削除(旧・刑法200条) ===
刑法200条には自己または[[配偶者]]の直系[[尊属]]を殺害した場合には死刑又は無期懲役に処する旨という[[尊属殺人]]の規定があったが、刑罰が過酷で尊属の尊重という刑罰目的を達するに必要な合理的限度を越えるとして[[1973年]]([[昭和]]48年)に違憲判決が出た([[尊属殺法定刑違憲事件]])。以後、同条は[[検察]]の方針により適用されず、[[1995年]]([[平成]]7年)の刑法改正に伴い削除された。
{{Main|尊属殺}}
 
== 類型脚注 ==
日本国民が国外で人(日本人だけでなく外国人も含む)を殺した場合のほか、日本国民が国外で殺害された場合にも殺人罪は成立する(刑法3条、刑法3条の2)。
<small><references/></small>
 
== 関連項目 ==
*[[殺人]]
*[[殺人罪]] - 人を死に至らしめる行為(殺人)に関する法制度
 
== 外部リンク ==
{{Wikibooks|刑法各論}}