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|種 = '''トドマツ''' {{Snamei|A. sachalinensis}}
|学名 = {{Snamei||Abies sachalinensis}} ({{Taxonomist|Fr.Schmidt}}) {{Taxonomist|Masters}}
|和名 = '''トドマツ'''(椴松)、オニハダトドマツ、ネムロトドマツ
|シノニム = {{Snamei|Abies sachalinensis}} var. {{Snamei|corticosa}}, {{Snamei|Abies sachalinensis}} f. {{Snamei|corticosa}}<ref name = "Ylist">[http://bean.bio.chiba-u.jp/bgplants/ylist_srch_easy.php?any_field=Abies+sachalinensis&family=&species=&capital=0&family_order=0&family_disp_type=1&spec_order=0&list_type=0&search=%E6%A4%9C%E7%B4%A2 米倉浩司・梶田忠 (2003-) 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList)]</ref>
|下位分類名 = 変種
|下位分類 = 本文参照
}}
'''トドマツ'''(椴松、''Abies sachalinensis'')は、[[マツ科]][[モミ属]]の常緑[[針葉]]木である
 
== 名前と分類 ==
マツと付くものの、いわゆるマツ(松、[[英語]]:pine)が属する[[マツ属]] (''Pinus'')ではなく、モミ属 (''Abies'') に分類される。[[学名]] ''Abies sachalinensis'' の[[種小名]] ''sachalinensis'' は[[サハリン]] (樺太) に由来し産地を表す。漢字表記では'''椴松'''と記す。
[[本州]]の山岳地帯に分布する[[シラビソ]] (''Abies veitchii''、アオモリトドマツともいう)にごく近縁とされる。最終氷期あるいはそれ以前の氷期に本州まで南下したトドマツが、氷期の終わりとともに隔離されて分化した集団がシラビソと考えられる。現在の[[東北地方]]には、南部を除いてトドマツもシラビソも分布しないが、[[最終氷期]]には本種が東北地方にも広範囲に分布していたことが、化石資料から知られている。
=== 変種 ===
本種は以下の2つの変種に分類できる<ref name = "Ylist"/>。
 
本種は以下の2つの変種に分類できが知られている<ref name = "Ylist"/>。
; ''Abies sachalinensis'' var. ''sachalinensis''
アカトドマツと呼ばれる。種鱗は球果から余り突き出ない。種鱗がまったく突きでないものを更にエゾシラビソと称する場合もある。基変種。
 
;* アカトドマツ ''Abies sachalinensis'' var. ''mayrianasachalinensis'' (基変種)
* アオトドマツと呼ばれる。球果から種鱗が長く突き出る。 ''Abies sachalinensis'' var. ''mayriana''
 
[[本州]]の山岳地帯に分布する[[シラビソ]] (''Abies veitchii''、アオモリトドマツともいう)にごく近縁とされる。最終氷期あるいはそれ以前の氷期に本州まで南下したトドマツが、氷期の終わりとともに隔離されて分化した集団がシラビソと考えられる。現在の[[東北地方]]には、南部を除いてトドマツもシラビソも分布しないが、[[最終氷期]]には本種が東北地方にも広範囲に分布していたことが、化石資料から知られている。
 
== 分布 ==
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[[北海道]]のほぼ全土と[[千島]]列島南部、[[樺太|サハリン]]、[[カムチャツカ半島]]の針広混交林から亜寒帯林にかけて分布する。
 
変種アカトドマツ(''Abies sachalinensis'' var. ''sachalinensis'')はアオトドマツ (''Abies sachalinensis'' var. ''mayriana'') よりも寒冷な場所で見られる。北海道においては前者は石狩・日高以北に分布している<ref name="ForestyTechniqueHandbook609林業技術ハンドブック">林野庁監修. 2001. 林業技術ハンドブック. p全国林業改良普及協会. 609東京</ref>。
 
適度に水分のある肥沃な土地を好む<ref name="ForestyTechniqueHandbook609林業技術ハンドブック"/>
 
== 形態 ==
<!--- 外見的な特徴 --->
樹高は通常20-25 m程度だが、大きいものでは35 mに達する場合もある。樹形は[[トウヒ属]]の[[エゾマツ]] (''Picea jezoensis'') や[[アカエゾマツ]] (''P. glehnii'') と似る。葉は長さ15-20 mm程度で先端は2裂する。球果は黒褐色で5-8.5 cm程度で枝上に直立し、他のモミ属同様鱗片をばらばらに散らしながら種子を散布する。前述のトウヒ属の2種とは、葉の先端が裂けているか否か、および球果の構造(トウヒ属の球果は枝から垂れ下がり、[[松かさ]]のように鱗片を開閉させるだけで種子を散布し、モミのようにバラバラに分解しない)。
 
基変種アカトドマツと変種アオトドマツの分かりやすい違いは種鱗が球果から出る程度である。前者が余り飛び出ないのに対し、後者は長く飛び出る。
 
== 生活環 ==
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== 生態 ==
<!--- 環境、および他の生物との関係など --->
=== 他の植物との関係 ===
本種は耐陰性が高く、北方林における[[極相]]種の一つである{{要出典|date=2012年1月|}}。
本種は耐陰性が高い。明るすぎるところは好まないといい、陽光度50 -80%の場所が最適だという<ref name="林業百科事典">日本林業技術協会 (編). 1993. 林業百科事典. [[丸善]]. 東京.</ref>。
 
本種はいくつかの菌類と北方林における[[菌根極相]]を形成することが知られている。その中の一つに[[マツタケ]] (''Tricholoma matsutake'') が知られていである{{要出典|date=2012年1月|}}。
 
=== 動物との関係 ===
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何種類もの昆虫がトドマツを餌として利用している。
file:C.n.yesoensis--modified.jpg|エゾシカ ''Cervus nippon yesoensis''
file:W matutake4111.jpg|マツタケ
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若い苗木には[[トドマツオオアブラムシ]] (''Cinara todocola'') は若い苗木に群がり汁を吸う。付着数が甚だ多い場合は枯死する場合もある<ref name="RingyoHandBookPestInsect">林業技術ハンドブック p. 1015 - 1017<"/ref>。
=== 病虫害 ===
[[トドマツオオアブラムシ]] (''Cinara todocola'') は若い苗木に群がり汁を吸う。付着数が甚だ多い場合は枯死する場合もある<ref name="RingyoHandBookPestInsect">林業技術ハンドブック p. 1015 - 1017</ref>。
 
木材を食べるものに[[シラフヨツボシヒゲナガカミキリ]] (''Monochamus urssovi'') は本種死んだものや弱って幼虫がいる。こに産卵して、幼虫カミキリムシ材を食べて育つ。数が少ないうちは健全木に害を与え圧木いもの弱った木を利用して細々と暮らしているが、伐採跡地に残された丸太や切株などで大量に増殖すると周囲の健全木を加害にも積極的に産卵する(mass attack)ので造林上の害虫なる時がある。本種の他にアカエゾマツ (''Picea glehnii'')、エゾマツ (''P. jezoensis''), [[グイマツ]] (''Larix gmelinii'' var. ''japonica'')、[[カラマツ]] (''L. kaempferi'') などにも産卵する<ref name="RingyoHandBookPestInsect林業技術ハンドブック"/>。成虫は羽化後、性成熟を行うために「後食」といい枝を食害する。
 
=== 微生物との関係 ===
若い苗木はトドマツ枝枯病が問題になりやすい。この病気は ''Gremmeniella abientina'' によって引き起こされる病気で、雪に埋もれた1年生の枝が侵されやすく、発症した場合葉が落葉し、枝や幹に病変部が形成、病変部が枝や幹を一巡するとそれより上部が枯死するという流れをたどる<ref>林業技術ハンドブック p. 989</ref>。枝枯病と付くものの、梢の部分などの幹を侵すこともあり、若い苗木では枯死につながることもある特に重要な病害である。この菌は他の針葉樹にも広く病害を引き起こし、英語では[[:en:Scleroderris canker]]という。
いくつかの菌と共生し、[[菌根]]を形成する。
 
''Gremmeniella abientina'' が感染すると、春先の雪解けとともに落葉してしまう病気を引き起こす、この病気はトドマツ枝枯病と呼ばれ、トドマツの特に重大な病気の一つである。<ref name="林業技術ハンドブック"/>。この菌は他の針葉樹にも広く病害を引き起こし、英語では[[:en:Scleroderris canker]]という。
木材腐朽を起こす菌がいくつかいる。根株の心材腐朽を起こすものとして[[マツノネクチタケ]] (''Heterobasidion annosum'') が知られている。この菌は様々な針葉樹を腐らせてしまうが、本種に対してはかなり強い腐朽能力を示すという報告がある<ref>徳田佐和子 (2004) トドマツ人工林で発生したマツノネクチタケによる根株心腐病 北海道林業試験場</ref>。他にも[[ナラタケ]] (''Armillaria mellea'') なども腐朽を引き起こす。
 
木材腐朽を起こす菌がいくつかいる。根株の心材腐朽を起こすものとして[[マツノネクチタケ]] (''Heterobasidion annosum'') が知られている。この菌はマツやトウヒなど様々な生きている針葉樹を腐らせてまう、欧米ではかなり問題になった菌であるが、本種に対してはかなり強い腐朽能力を示すという報告がある<ref>徳田佐和子 (.2004). トドマツ人工林で発生したマツノネクチタケによる根株心腐病. 北海道林業試験場</ref>。他にも[[ナラタケ]]<ref>小野馨, (''Armillaria横田俊一. mellea'')1959. なども腐朽を引き起こマツノネクチタケのトドマツに対る接種試験.
日本林學會誌 41(12), 495-497</ref>。他にも[[ナラタケ]] (''Armillaria mellea'') なども腐朽を引き起こす。
 
トドマツは後述のように'''水食い'''と呼ばれる木材内部の水分過多状態となっていることが多く、これが冬の寒さで凍結し裂けてしまう凍裂を起こしやすい<ref name="林業百科事典"/>。これが腐朽菌侵入の門戸の一つとなる。
 
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== 利用人間との関係 ==
有用な林業用樹種。[[パルプ]]や[[チップ]]の原料としての比較的低級な使い方だけではなく、[[木材]]としての利用も多い。
 
材はほぼ白色から淡黄白。本種の心材<ref>材の中心部分にあり、死んだ細胞から構成されている</ref>と辺材<ref>材の辺縁部にあり、生きた細胞から構成される</ref>の色には違いがほとんどなく、両者を見た目で区別することは難しい<ref name="木材工学事典">日本材料学会 木質材料専門委員会 (編). 1982. 木材工学事典. 工業出版. 東京.</ref>。このような心材を'''無色心材'''、もしくは'''熟材'''と呼び、モミ属やトウヒ属の木材では普通に見られる<ref name="木材工学事典"/>。
== 参考文献 ==
* 林業技術ハンドブック (2001) 全国林業改良普及協会
 
この様な樹種では辺材部と心材部の違いを含水率の差から判断することが出来る。一般に針葉樹では辺材部が高く心材部が低くなる<ref name="木材工学事典"/>。ところが、トドマツの材ではこの関係が逆転して心材部が異常なほど高い含水率を示すことがしばしばおこり、'''水食い材'''(wetwood) と呼ばれる<ref name="木材工学事典"/><ref name="林業百科事典"/>。トドマツの水食いはかなりの確率で起こり、北海道各地で15000本余りの個体を調査した結果平均すると約4割、場所によっては9割5分の個体が水食いを示していたという<ref>松崎智徳. 2007. トドマツの水食い材. 森林総合研究所北海道支所 研究レポート No.96</ref>。
=== 脚注 ===
 
前述の通り、色では見分けがつかないと言ったが、これは心材と辺材の含水率が同じ状態での話である。水を含んだ状態では含水率の多さに比例して色が濃くなる。水食いのトドマツの心材部は辺材部以上に濃い色を示す。
 
水食い材は業者が製材用としては引き取りたがらず、より安いパルプ・チップ用として買いたたくので、林家や生産事業体にとって経済的な打撃となる。なぜ心材部が異常なほどの水を蓄え、「水食い」状態になるのかはよくわかっていない<ref name="木材工学事典"/><ref>古野毅, 澤辺功 (編). 1996. 木材科学講座2 組織と材質. 海青社. 滋賀</ref>。水食い材の強度について、乾燥・湿潤という2種類の含水率で曲げ試験などを行った結果、どちらの条件でも両者に差はなかったという報告がある<ref>吉本昌朗, 信田聡. 2001. トドマツ水食い材の観察と強度. 東京大学農学部演習林報告 第百六号 91-139</ref>。
 
材の気乾比重は0.32 - 0.48、乾燥と加工は容易だという<ref name="木材工学事典"/>。
 
他のモミ属同様、腐朽に対する耐性は低く腐りやすい。
 
=== 変種脚注 ===
{{Reflist}}
 
== 関連項目 ==
* [[モミ属]]
 
== 外部リンク ==
{{commons&cat|Abies sachalinensis|Abies sachalinensis}}